第弐拾伍話
別れの時
『約束の時が来た、唯一リリスの分身たるエヴァ初号機による遂行を願うぞ』
「ゼーレのシナリオとは違いますね。人類補完計画は中止したのでは無かったのですかな」
暗い会議室。
モノリスが立ち並ぶ中、ゲンドウと冬月はいつものポーズで対応していた。
「人はエヴァを生み出すためにその存在があったのです」
「人は新たな世界へと進むべきなのです。そのためのエヴァシリーズです」
『我らは人の形を捨ててまでエヴァと言う名の箱船に乗る事はない』
『これは通過儀式なのだ、永続した人類が再生するための』
『滅びの宿命は新生の喜びでもある』
『神も人も全ての生命が死を以て、やがて一つになるために』
「・・・死は何も産みませんよ」
『死は君達に与えよう』
ブンと言う音と共に、モノリスは消えていく。
会議でも何でもない。
一方的な通告であったのだ。
「人は生きてゆこうとするところにその存在がある。老人達には解らなかったようだな」
「・・・老人達は既に延命措置なくしては生きていられない」
「それ故の集団自殺か、馬鹿馬鹿しい」
「・・・老人の若い者への嫉妬だ」
「確かに若い肉体は眩しいからな」
「・・・先生は、まだまだお若いですよ」
「お前がお世辞を言うと気持ち悪い」
冬月は心底嫌そうな顔をしていた。
「何?!」
けたたましい警報でミサトが飛び起きる。
第一種警戒態勢が解かれていない今、ミサトは本部の仮眠室で仮眠を取っていたのだ。
飛び起きて発令所に向かうミサト。
『第六ネット音信不通』
「左は青の非常通信に切り替えろ、衛星を開いても構わん、そうだ、敵の状況は?」
いち早く発令所で指揮を執る冬月。
『外部との全ネット、情報回線が一方的に遮断されています』
「目的はMAGIか・・・」
「全ての外部端末からデータ進入、MAGIへのハッキングを目指しています」
冬月の懸念通りの報告がシゲルから上がった。
「やはりな、侵入者は松代のMAGI二号か?」
「いえ、少なくともMAGIタイプ5、ドイツと中国、アメリカからの進入が確認できます」
「ゼーレは総力をあげているな。兵力差は1:5・・・分が悪いぞ」
『第四防壁、突破されました』
「主データベース閉鎖、駄目です!進行をカットできません!」
「更に外殻部進行、予備回路も阻止不能です」
必死で抵抗しているマコトとマヤの報告に顔を顰める冬月。
「まずいな、MAGIの占拠は本部のそれと同義だからな」
「マヤ!この前作ったファイルを相手に流し込んで!」
「えっ!それじゃ防壁が崩れます!」
発令所に駆け込んできたリツコの指示にマヤが戸惑う。
少しでも気を抜くと一気に攻め込まれそうなのだ。
「これで大丈夫よ。ポチッとなっ」
ナオコの巫山戯た言葉と共に、今まで押されていた防御が一気に押し返している。
「MAGIの自律防御を改良しておいたのよ。Bダナン防壁と同等で外部進行も可能よ」
「ありがとう母さん。さぁマヤ!攻めるわよ!」
「はいっ!先輩!」
嬉しそうに返事をするマヤ。
リツコはニッコリと微笑み、マヤのコンソールを覗いていた。
「MAGIは前哨戦に過ぎん、奴らの狙いは本部施設及び、エヴァの直接占拠だな」
「・・・あぁ老人達の元には何もない」
「老人達が焦るわけだ。碇、どう見る?」
「・・・日本政府は抑えた。A−801は見合わされる。戦自の侵攻も報告されていない」
「それは幸いだな。ではゼーレの工作員自らが攻めてくるか」
「・・・いきなり、量産機の投入も考えられる」
「それは厄介だな」
「ふっ・・・問題ない」
「葛城一尉!」
「はっ!」
突然ゲンドウから名前を呼ばれ居住まいを正すミサト。
「エヴァ3機を発進準備。何時でも発進出来るようにしておきたまえ」
「3機?零号機もですか?」
「そうだ」
「しかし、零号機は委員会の別命あるまで凍結中では?」
「発進だ」
有無を言わせぬゲンドウの言葉に、ミサトも詰ってしまう。
「その委員会が黒幕だよ、葛城君」
ゲンドウの言葉を遮りミサトの疑問に答えたのは冬月である。
そのまま進めてもゲンドウは「問題ない」と言うだけだろうと感じたのだ。
「委員会が?」
「急ぎたまえ、葛城君」
「はっ!エヴァ全機発進準備」
「エヴァ全機発進準備」
困惑しているミサトとは裏腹にマコトは復唱すると、素早く発進準備を開始した。
どことも知れぬ空間に黒いナンバーリングだけのモノリスが浮かんでいる。
『碇はMAGIに対し第666プロテクトを掛けた、この突破は容易ではない』
『いや、666プロテクトでは無いらしい。支部のMAGIが逆に攻撃を受けている』
『碇、元より裏切るつもりで用意していたか』
『MAGIの接収は中止せざるを得ないな』
『出来うるだけ穏便に進めたかったのだが致し方あるまい、本部施設の直接占拠を行う』
『しかし、日本政府はA−801の発令を見合わせた』
『黄色い猿共が結託したか』
『向こうにはエヴァが3体』
『忌むべき存在のエヴァ。又もも我らを妨げるか』
『毒は毒を以て制する。エヴァシリーズを投入する』
「レーダーサイトが国籍不明機を捕捉。その数12!」
「エヴァシリーズ。やはり完成していたか」
「・・・総員第一種戦闘配置」
まるでシナリオ通りとばかりにゲンドウが命令を下す。
「レイ君!量産機はSS機関を積んでいると思われるわ!」
「飛行能力もあるようね」
ユイとキョウコの助言が飛ぶ。
キョウコの傍らには、アスカと碇シンジも居た。
はっきり言って碇シンジはトバッチリを受けたのだ。
第三新東京市が全疎開状態となっている今、碇シンジもアスカの見舞いに来るぐらいしかする事が無かったのも事実である。
ユイとゲンドウは、碇シンジだけを疎開させると言う選択は行わなかった。
それは、子供だけを安全な場所に避難させる事によって自分達が安心するだけの自己満足だと解っていたからだ。
置き去りにされた子供、そして自分達が居なくなれば、その子供に多大な悲しみを与える事になる。
自分達は負けるつもりは、ない。
仮に何が在ろうと最後まで子供とは一緒に居る。
それが全てを知るユイの覚悟であり、ゲンドウもそれに同意していた。
キョウコもその影響を受けている。
アスカは、病室に居るぐらいなら発令所に行くと言い張り、病上がりだから無理だと諭したのだが、それならここに居る碇シンジを同伴させるから大丈夫だと、訳の解らない論法で捲し立てたのだ。
一刻を争う状況の中、キョウコは仕方なく折れたのである。
どのような工作をされるか解らない現状では、二人が傍に居る事は安心なのも確かであった。
『了解、こちらも全開で行きます』
「エヴァ、アンビリカブルケーブルパージ、内部電源に切り替わりました!活動限界まで、あと?無限大ぃ〜?!」
マヤの叫びと共に、十字の爆発が3つ起こる。
「これがSS機関の実験を拒んでいた理由ね。確かに危険過ぎるわ」
ユイの独り言は3機のエヴァの咆吼に掻き消される。
『3対12。一人4機だね」
『まぁ妥当な所だね』
『・・・問題ないわ』
上空で円を描くように飛んでいる使徒を見て3人は呟く。
オレンジ色の光の羽が生える3機のエヴァ。
青、黒、紫の鬼神が両手に深紅のカーボンロッドを携え、爬虫類を思わせる白いエヴァに向かって飛び立った。
「マヤ!データを取り零さないで!」
「はいっ!」
目の前に映る映像にリツコは嬉々としてデータを取っている。
量産機は紛いなりにも、その体型に合った巨大な羽を持っている。
それに引き替え3機のエヴァは、ATフィールドで作られたような、骨組みに見える光の羽だけだ。
航空力学を無視した、その飛行能力。
しかし、エヴァならMAGIと繋がっているためデータが計測出来る。
科学者の性から、リツコはそのデータを見過ごす事が出来なかったのだ。
その他の職員は、メインモニターに映る戦闘に眼を奪われている。
まるでそこに地面があるかのように軽快に敵を翻弄するエヴァ3機。
量産機は為す術もなく地面に叩き落とされていく。
ゆっくりと地面に降り立つエヴァ零号機、初号機、参号機。
持っていた武器をロンギヌスの槍に変え突進してくる量産機。
しかし、3機のエヴァが持つ深紅の棒に受け止められる。
これもロンギヌスの槍のコピーであったのだ。
しかもこちらはオリジナルを解析しコピーしたもの。
あちらはゼーレに渡した資料で作られたもの。
自ずとその性能にも差が出ていた。
シンジ達の持つ深紅のロッドにコアを貫かれた量産機は、その姿を維持出来ずにLCLへと還っていく。
「碇、あれはアンチATフィールドでは無いのか?」
「・・・槍の持つ能力でしょう」
そう言うゲンドウが何故か寂しそうに見えた冬月だが、気のせいだろうと自らの直感を否定した。
前方の巨大なスクリーンでは、危なげなくNERVのエヴァが量産機を殲滅して行く。
幸いな事に、ゼーレは工作員による本部占拠は実施していないらしい。
MAGIも何の警告も発しては居なかった。
「静か過ぎはせんか?」
「・・・量産機を出した時点でゼーレは儀式を行うつもりだ」
「成る程、最早我々やNERV本部など眼中に無いと言う事か」
「・・・老人達の悲願が達成されれば、皆原初の海に還るだけだからな」
「隠し球が無ければ良いがな」
「・・・量産機以上の物を造っていたなら我々の負けだ」
ゲンドウの言葉に冬月も同意するしかなかった。
量産機の建造でさえ、極秘裏に行われていたのだ。
それ以上の物を、更に極秘に建造していたなどと考えたくもない。
「終ったの?」
余りに呆気なく量産機を殲滅してしまったために、ミサトは呆けた声を出してしまった。
「レーダに機影!ミサイルです!」
「こ、これは大陸間弾道弾です!その数さ、300を超えています!」
「弾頭は多分NNだな」
「・・・あぁ最後の足掻きだ」
「エヴァ3機からATフィールド発生!光波、電磁波、粒子も遮断しています。何もモニタできません!」
「まさに結界か・・・」
シンジ達の駆るエヴァ3機の発生させるATフィールドは、第三新東京市を包み込み、昼間なのに闇夜へと変えてしまった。
発令所のメインモニターも真っ暗で何も映していない。
「レイ君、聞こえる?」
『えぇ、取り敢ず向こうが弾切れになるまでは、こうしています。それ程持たないでしょう』
結界と言えど、内側からであったので通信は繋がっていた。
「あ、有り難う助かるわ」
何か次元の違う会話のような気がして、ミサトは落ち着かない。
「全世界が保有する1/3のNNを以てしても無傷となれば、各国が煩いな」
「・・・それ以前にそれを行った所を糾弾する」
「この為に人による侵攻を行わなかったのか」
「・・・全てを無に還す、それが老人達の帰結なのでしょう」
300機超えの大陸間弾道弾が迫っている拠点とは思えない程、発令所は落ち着いている。
結界とも言えるATフィールドに護られ、そのATフィールドの力を知っている発令所の面々は自分達の安全を疑う事もない。
静かにメインモニターに光が戻ってくる。
それをATフィールドが破られているとも誰も感じては居ない。
危機が去ったのであろうと受取っている。
それ程までにシンジ達は信頼されているのだ。
空は雲一つ無く晴れ渡っている。
300機以上のNN爆雷が爆発したのである。
晴天の青空の下、殺伐とした兵装ビル街に佇む3機のエヴァ。
これで本当に終ったのかと言う静寂が発令所を包んでいた。
今一つ違和感があるのは、ここで叫び出すであろう指揮官の姿が見あたらない事であった。
しかし、エヴァの中に居るシンジはその事を知らなかった。
『司令』
「・・・青葉二尉、国連事務総長に回線を繋いでくれ」
シンジの言葉に頷き、シゲルに命令を下すゲンドウ。
国連への直通回線も結局は衛星回線を使っているため、ATフィールドで覆ったままでは繋がらなかったのだ。
「繋がりました」
シゲルの言葉と共にメインモニターには国連事務総長が映し出される。
その姿は、まさに国連会議中と言う出立であった。
「・・・これにてNERVの使命は全う致しました。現時刻を以て特務権限の返還並びにエヴァンゲリオンの破棄を行い、以後は現NERV本部のみ国連配下の研究機関へと組織変更致します」
『ご苦労であった。NERVの特務権限返還を受け入れ、研究機関への組織変更を承認する』
何の秘匿も行われず交わされた言葉に発令所の職員のみならず、冬月やユイまでも驚愕の眼を向けた。
その言葉の中に含まれたエヴァンゲリオンの破棄。
それは何時決まったのか?
ユイが、ナオコやキョウコに顔を向けても首を横に振る。
冬月も同じだ。
そう、誰も聞いていないと言う事である。
今すぐにでも、ゲンドウに問い質したい所だが、流石に国連事務総長との会話中に割り込む程、ユイは非常識では無かった。
「・・・後の始末は?」
『心配無用だ。既に大陸間弾道弾を発射した施設並びに組織、そしてMAGIにハッキングを掛けたNERV支部は国連軍により制圧済みだよ』
全て仕組まれていた事。
全く喰えない男だと言う思いで冬月はゲンドウを睨んでいる。
ユイなどは下唇を咬み上目遣いでゲンドウを睨付けている。
どこかレイが拗ねている時を彷彿とさせる仕種である。
流石のゲンドウもこれには少し怯んだが、今はそんな事は表面に出さず事務総長との交渉を続けていた。
内心では、勿論シンジを恨んでいる。
しかし、この話をシンジから受けた時に、問題ないと啖呵を切ったのは他ならぬゲンドウ自身なのである。
『それでは最後の仕上げを待っている』
その言葉を最後に、メインモニターに映る事務総長の映像が消え、変わりに第三新東京市に佇む3機のエヴァが映し出された。
発令所の職員は固唾を飲む。
最後の仕上げとは、エヴァの破棄に他ならないだろう。
自分達の知っている手段としては、自爆しか思い浮かばない。
しかし、まだパイロットが搭乗したままである。
静まりかえる発令所は、ゲンドウの次の言葉を待っていた。
「ゲンドウさん!一体どう言う事ですか?!」
その静寂を破ったのはユイであった。
ゲンドウは、静かにメインモニターを見ろと態度で示す。
ユイが振返ったそこには、3人のエントリー姿が映し出されていた。
『発令所の皆さん。長らくお世話になりました。僕達は今から旅立ちます』
シンジの言葉を聞く職員達。
まさか、そのまま自爆する気かと言う思いが頭を過ぎる。
『エヴァは使徒のコピーです。本来存在してはならない物。そして、それとシンクロ出来る僕達がどういう存在か、皆さんもなんとなく想像が付いているのでは無いでしょうか?』
それは封印されていた思考。
あまりにも平然と付合うシンジに対し、NERVの人間達は、その思考を拒絶していたに過ぎない。
単純に考えれば、人とは違った容姿、余りに少ない適格者。
そして、上層部は知っている。
ヒトと99.89%相似、エヴァと100%同じ配列である遺伝子配列。
『司令、冬月先生、ユイさん、ナオコさん、そしてリツコ姉さん。本当に長い間有り難う御座いました。シンジ、アスカを宜しく頼む。アスカ、お母さんと仲良くね。日向さん、青葉さん、マヤさん、今まで色々とお世話になりました』
「レイ君!何をするつもりなの?!」
シンジの言葉に割って入ったのはマヤである。
既に眼には涙を一杯に溜めている。
『エヴァは本来存在してはいけない、そして僕達は本来存在するはずの無い人間なんです。マヤさん、ごめんなさい。僕達は人間としての生殖機能を持っていないんです』
「そんな・・・だからと言って・・・」
『ミサトさん?あれ?』
その時、発令所の人間達も初めてその場に本来居るべき人間、ミサトが存在しない事に気がついた。
(そう言えば一番に叫き出しそうなのに静かだったものね・・・)
リツコは、そんな失礼な感想を抱いている。
その時、シンジ達の足下に青いアルピーヌルノーが滑り込んできた。
『ミ、ミサトさん?』
「ちょっとアンタ達、私を置いてどっかに行こうなんて考えてるんじゃないわよね?!」
車から降りたミサトはニヤリとした笑いを以て叫んでいる。
『いや、でも・・・』
「いいから私も連れて行きなさい!私もアンタ達と一緒なんでしょ?アンタ達が居なくなったら独りぼっちになっちゃうじゃない!」
ミサトの顔は笑っているが、涙を浮かべている。
『ミサトさん・・・』
『仕方ないね、僕が一緒に乗せるよ』
『カヲル君?』
言うが早いかカヲルはエントリープラグを半射出させミサトを迎え入れる。
『司令?』
「・・・構わん、好きにさせて遣ってくれ」
「司令!そんな葛城さんが居なくなったら作戦課は、どうするんですか?!」
『あぁっらぁ〜ん、エヴァを使わない戦闘なら私より日向君の方がよっぽど優秀よん。後は任せた!』
「そ、そんな!葛城さん!」
エヴァを使ってもマコトの方が優秀だと思うが、今は皆そんなことに突っ込んでも居られない。
『えぇっと、それでこれからエヴァの力を放出してエヴァを消滅させます。自爆させると、SS機関が搭載されているので洒落にならない事になると思いますので。その際、そのエネルギーの放出で、僕達は別な次元に飛ばされます。多分、本来の場所に』
「本来の場所って何処なの?」
『ゼーレによるサードインパクトが起こされた世界です。僕は、その世界から来ました』
「『なんですって?!』」
見事にハモッたのは、ミサトとリツコである。
カヲルは、真後ろで叫かれ耳を押さえている。
『シンジ、僕はサードインパクトが起こされた世界の、碇シンジなんだよ』
息を飲む発令所内の職員達。
誰も掛ける言葉を持ち合わせていない。
「碇、知っていたのか?」
「・・・あぁ」
「何時からだ?」
「・・・ほんの数日前だ」
「そうか・・・」
物憂げなゲンドウに掛ける言葉が、この時の冬月にも思い浮かばなかった。
「・・・ユイは、もっと前から気付いていたようだ」
「流石だな」
「・・・あぁ」
『綾波レイと言うのは、レイの本当の名前です。今日まで黙っていてゴメンなさい』
何故か解らない。
しかし、壮絶な運命を背負ってきたのだろうと皆感じていた。
だから、シンジの謝罪など大した事では無いと皆首を横に振る。
『僕の世界では、僕が情けなかったばっかりにサードインパクトが起こってしまいました。でもこの世界では、碇司令や皆さんのお陰で未然に防ぐ事が出来たんです』
「レイ君、このまま一緒に暮らす事は出来ないの?」
ユイは全てを知っていた。
しかし、シンジがこんな事を考えているとは知らなかった。
エヴァさえ破棄すれば、一緒に暮らせるじゃないか?
それが今のユイの思いであった。
『エヴァを消滅させる方法が、どうやらこれしか無いようなんです』
「そんな・・・」
その言葉でユイは理解してしまった。
解ってしまう自分が恨めしい。
シンジは痕跡を残せないと言っているのだ、シンジ自身を含めて。
『ユイさん』
「何かしら?」
『子供達に明るい未来を』
ハッと眼を見開くユイ。
「そうね、それは私の仕事ね」
ニッコリと微笑むユイ。
しかし、その瞳からは涙が止め処なく流れ出している。
『アスカ』
「は、はいっ!」
『シンジは10年したら僕みたいになるんだ。僕みたいに情けない男にならないように宜しく頼むよ』
「は、はいっ」
それはシンジが情けない男と言うのをも肯定してしまっているのだが、パニクっているアスカは返事をするのがやっとであった。
笑顔を浮かべるシンジ。
『それじゃ、皆さんお元気で』
紫のエヴァ初号機が頷くと手を繋いで輪を作るエヴァ3機。
徐々に光り輝いていくエヴァを呆然と見守る発令所。
3機がエヴァの形も解らないくらい光り輝く。
発令所は何も言えず、ただその光景だけがメインモニターに映し出されている。
一際、激しく光り輝き、徐々に光が薄れていく。
光が全くなくなったそこには、エヴァの装甲が瓦礫のように積み重なっているだけであった。
ハッと気が付いたようにリツコは顔を上げるとマヤに指示を出した。
「マヤ!エントリープラグ内の状況は?」
「は、はい!」
マヤが、涙を袖で拭い、キーボードを叩く。
発令所内の全員がマヤの報告を待っていた。
「エントリープラグ内・・・生命反応・・・あ・り・ません」
その言葉を最後に泣き崩れるマヤ。
発令所には、何時までもマヤの泣声が響いていた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。