第弐拾四話
最後の使徒


『遂に第壱拾六までの使徒は倒された』
『これでゼーレの死海文書に記述されている使徒は後一つ』

黒いモノリスが居並ぶ空間。
そこに老人達の声だけが響き渡る。

『約束の時は近い、その道のりは長く犠牲も大きかった』

『さよう、エヴァ弐号機の損失に続きネバダ第二支部の消滅』
『碇の解任には充分な理由だな』

『冬月を無事に返した意味の解らぬ男でもあるまい』
『何れにせよ、鈴は放たれている』

『エヴァンゲリオン、既に八体まで用意されつつある』
『残るは後四体か』

『完成を急がせろ、約束の時はその日となる』

キールの言葉と共に消えるモノリス。

つまり、裏死海文書に記されていると言いつつ自分達の都合の良いように当て嵌めているだけ。
全ては老人達のシナリオであり、妄想であったのだ。
既にユイ達の言う事など聞く耳を持っていない。
取憑かれた妄想に執着し、強引に進めるのみ。



実は裏死海文書は予言書でも聖書でもなかった。
純然たる科学者のレポートだったのである。

古の科学者達。
白き月は当時、南極ではなかったのであろう。
黒き月も然り。
それが、何故現在、南極と極東の地に存在するのかは不明だ。

しかし、白き月とアダムを発見した科学者達は、それをアダムと名付けたように、神聖な物と位置付けていた。
当時の科学者達は、その想像力に於いて優秀であったのだろう。
人柱や生贄が平然と行われていた時代である。
今で言う非人道的な実験が宗教の名の下に平然と行われた。

そして導き出したレポートが裏死海文書であったのだ。
当時の科学者は、宗教家でもあった。
宗教家が哲学者であり、医者であった時代の事である。

当然、その結末は宗教家として納得のする所でなければならない。
そうしないと、認められない社会性が存在したのだ。
故に最後は浄化や解脱、または階梯を登るなど、宗教家として望ましい結末になっているのだ。

簡単な論理である。
神に手を掛けた者には神の使者による捌きが下る。
その内容をセカンドインパクトと使徒の襲来と翻訳した。

神の使者でさえ退けたなら、最後の審判が下り浄化された世界となる。
それを、使徒との戦いを生存競争と受け取り、その後にサードインパクトが起きると翻訳する。

そして一度滅亡した人類は再生し新たな階梯を登る。
それを、人類補完計画に位置付けた。

全く滑稽な解釈である。
しかし、純然たる科学者のレポートである裏死海文書は、聖書などと違い、その過程が克明に書かれていた。
それをゼーレは見誤ったのである。
これは人類が新たな進化を行うマニュアルと受取ってしまったのだ。
そしてゼーレは自作自演のセカンドインパクトと使徒襲来を起こすに至る。

そう、使徒の襲来はゼーレの仕組んだ事だったのである。
でなければ、NERVに搬入されるタンパク壁に使徒を植え付けられただろうか?
今までドイツにあったアダムと弐号機では無く、輸送中のアダムと弐号機に使徒が襲来するであろうか?
何よりも渚カヲルを送り込んだのはゼーレである。

ゲンドウさえ知らされていないゼーレの自作自演。
それが、ゼーレのシナリオであり、全てのカラクリであったのだ。

ゼーレに取っての誤算。
それはエヴァンゲリオンとチルドレン。

神の使者に打ち勝つには、神その物のホムンクルスを造り出すしかない。
これも裏死海文書に書かれていた事である。
ここで神その物とはアダムであり、リリスだと受取った。
いや、ユイがそう解釈したのだ。
そして建造されたエヴァンゲリオン。



カヲルはかなりご機嫌斜めな顔をしている。
いつものアルカイックスマイルすら浮かべていない。
湖面の中程に位置する場所で、ポケットに両手を突っ込みカヲルは憮然としていた。

ともすれば、前回のようにまた、レイとシンジがリリン式結合をしているかも知れない。
その事自体に不満は無いのだが、胡散臭い老人達に呼び出され、その場に居られない事が悔やまれる。

「節操が無さ過ぎるんじゃないかい?」

第三新東京市に付いたら連絡はしないし、連絡を取る事も禁ずる。
それがゼーレの言葉であったのに、これで2度目の反故である。
流石のカヲルも、その身勝手さに呆れていた。

『何故、使徒として行動しない』
『綾波レイの抹殺も未だ果たしておらん』

「それは、貴方達がそう望んでいる事を知っていれば良かったんじゃないのかい?それに使徒として行動と言われてもね?何を期待しているんだい?」

『勿論アダムへの回帰』
『何故アダムを目指さん』

「ここにアダムは無いからさ」

『なんと!』
『では、使徒は何を目指していたと言うのだ?!』

「さぁ?エヴァかな」

『成る程、エヴァとの融合を目指していたと言うのか。ならば何故貴様はそれを行わない?』

「必要がないからさ」

『それは、どういう事だ?』

「彼らは、エヴァと融合して生き続けようとしたのかも知れないねぇ。でも僕はこのままで生きていけるからね。何も好きこのんで不格好なエヴァと融合する必要は無いんだよ」

『我々を裏切るのか?!』

「裏切るもなにも最初から信頼関係なんかないのじゃないかい?」

『タブリスよ。自惚れるな』
『後悔するが良い』
『我らの崇高な志の礎となるのが、貴様の役目。その役目果たして貰うぞ』

ヴォンと言う音と共にモノリスは消え去る。

「さてさて、何を企んで居られるのやら」

漸く、カヲルの顔に元のアルカイックスマイルが戻って来ていた。



「あんまり早く帰るのも野暮と言うものだね」
カヲルは、シンジのマンションの屋上に佇み時間を潰していた。

朝靄がまだ山の裾野付近では晴れていない。
年中常夏となってしまった日本の第三新東京市で、唯一清々しい時間帯だ。
小鳥の囀りぐらいしかBGMが無い中、カヲルは鼻歌を口ずさむ。

空は、薄い青。
白い雲がゆっくりと流れていて、時間が穏やかに流れているように感じられる。
その中で、何やら不穏な感覚を受けカヲルが視線を向けた先には、黒ずくめの男達が辺りを確認しながらこのマンションに入ろうとしていた。

「野暮な輩も居るもんだねぇ。あれが老人達の企みとしたら放っておくわけには行かないね」
トンと足下を蹴るとカヲルは、男達の入って行った方に向かった。


「セット完了」
「こちらもOK」
「よし、引き上げるぞ」

「何のセットが完了したのかな?」

引き上げようとしていた男達の前にカヲルが立ちはだかる。
何の躊躇も無く銃声が響き渡った。

「これは、また手荒い歓迎だねぇ」
全ての銃弾をATフィールドで防いだカヲルは、普段のアルカイックスマイルの唇を吊上げ、嫌な笑いに変えた。

ほんの中学生ぐらいの子供に、次々と倒されて行く黒ずくめの男達。
明らかにプロの戦闘員達が、為す術無く倒されていく様は、かなりシュールであるが、男達に取っては最悪である。

「かまわん!今、爆破スイッチを押せ」
「はっ!」
「まずい!」

シンジ達は兎も角、ここには一般人も住んでいる。
どの程度の爆弾か解らないが、こんな所で爆破させるくらいなのだから無事では済まないだろう。

カヲルは咄嗟に結界とも呼べる自らのATフィールドを最大限に張り、シンジ達のマンションを護った。
凄まじい轟音と爆発の光が辺りを包む。

「なんて事を・・・」

それは、第三使徒サキエルを足留めしたNN地雷。
カヲルが護ったマンションは無事であったが、その周辺は跡形もない。
ここが、ジオフロントの上で無くて良かったと心底思う。
ジオフロントの上であれば、マンションは無事でも、そのままジオフロントまで落ちてしまったであろう。

「・・・何が起こったの?」
「カヲル君!」

異常を感じ飛び出して来たシンジとレイが、見た物は、信じられない光景であった。



「パターン青!使徒です!」

発令所ではパターン青が検出され警報が鳴り響いていた。
当然であろう、使徒中、最強と謳われるATフィールドをカヲルが全力で張ったのだ。

「状況は?!」
発令所に飛び込んで来たミサトが、いつものように確認する。

「これまでにない、強力なATフィールドです」
「光波、電磁波、粒子も遮断しています。何もモニタできません」

「まさに結界か・・・レイ君達は?」

「それが・・・爆心地は綾波二尉のマンションです」
「なんですって!」

ミサトは親指の爪を噛む。
エヴァのパイロットが固まっているシンジのマンション。
この爆発がNN爆雷並だと言う事は感じていた。

(お願い、生きていて・・・)

最善策を思考する傍ら、ミサトは確かにシンジ達の無事を祈っていた。

「綾波二尉から、緊急連絡です!」
その報告に、発令所内に安堵の息が漏れるのが感じられた。

「生きていたのね!繋いで!」
ミサトの顔も顔色を取り戻している。
先程までは、蒼白であったのだ。

『綾波です』

シンジの声が発令所に流れると、どよめきが起こった。
その声は大怪我をしているような悲痛な物では無かったからだ。

「無事たっだのね?皆は?」

『僕のマンションは無事です。でもその周りは焼け野原。まるでNN爆雷に晒されたような感じです』

「リツコがNN爆雷にも耐えられるようにマンションを改造していたのかしら?」
そんな訳ないだろとは思うものの発令所職員は、リツコなら有り得るかもと考えていた。

「ヘリを向かわせるわ。パターン青が検出されたの、使徒が近くに居る?」

『巨大な生命体は見あたりませんね』

「兎に角、すぐに来て頂戴。エヴァを準備しておくわ」

『了解』



「これが老人達の狙いだったのかも知れないねぇ」
「カヲル君を使徒とNERVに認識させ殲滅させると言う事?」

移動中のヘリが来る前にカヲルとシンジは、ヒソヒソと話をしていた。
コクリと頷くカヲル。

取り敢ずマンションが無事だったのだが、電気やガスは流石に使えない。
シンジ達は、冷蔵庫に残っていた冷たいお茶などを運び出し、屋上でヘリを待っていたのだ。
周りが焼け野原と化しているので、ヘリが降りるには、ここが一番良いと判断したのである。
元からヘリポートも存在していたのだ。

「・・・世界の修正力?」
「どう言う事?」

屋上から周りを眺めていたレイの呟きにシンジもレイの隣に立ち、周りを見回した。
そこには、嘗て零号機が自爆した時のように第三新東京市が破壊されている姿が広がっている。

バタバタバタとヘリが近付く音が聞こえて来た。



シンジ達がNERVに到着すると、ミサトはエヴァの発進を命じた。

「零号機は封印中のため、初号機、参号機を射出。爆心地付近の調査に当らせて!」

『・・・私は?』

「レイちゃんは、待機よ。暇なら発令所に来ても構わないわ?」

『・・・了解』

零号機は、未だ国連にその決議権がある人類補完委員会から零号機の凍結が言い渡されている。
当然、NERVとして、この程度の事でそれを覆す事は出来ない。


「老人達も形振り構っていられないようだな」
「・・・老人達は予定を一つ繰り上げるつもりだ、我々の手で」

「何?どういう事だ?」
「・・・フォースチルドレンを使徒として認識させて殲滅させるつもりだったのでしょう。我々の手で」

「あのATフィールドはフォースの仕業だと言うのか」
「・・・特定は出来なかった。それこそが老人達の誤算ですよ」

「では何故エヴァを?」
「・・・勿論、使徒殲滅のためだ」

唇をニヤリと歪めるゲンドウ。
この男は・・・と殴ってやりたい衝動を冬月は必死で押さえ込んで居た。


「レイ君?状況はどう?」

『いえ、特に何も』

NERVに到着してから、シンジ達は、何の状況報告も求められないままエヴァに搭乗となった。
パターン青が計測されてもその実体を捉えていないためかとも思われたが、シンジ達にもミサトの行動は不審に感じられた。
しかし、ゲンドウ達も特に何も言わない。
ここで藪蛇を突いても仕方ないとシンジは、ミサトの指示のまま行動していたのだ。

「では、そのマンションその物が使徒に乗っ取られたものと判断。目標を第拾七使徒と識別します!」

壇上のゲンドウも頷く。

『み、ミサトさん?』

「何?」
言葉は端的で冷たいものだが、にへらぁ〜と笑いを浮かべているミサト。

『い、いえ、それは発令所の判断なんですね』

「レイ君、住居はNERVで保証するわ」
リツコの言葉に、何か違うと盛大にずっこけるシンジの内心。

『了解、目標を殲滅します。カヲル君やっちゃって』

画面上では、参号機が鬱憤を晴らすかのようにシンジ達のマンションを破壊していた。
荒れ地にただ一つだけ無傷で存在するマンションを破壊する参号機。

『これが八つ当たりと言うものなのかい?』
『えぇっと。使徒殲滅完了?』

「了解。現時刻を以て作戦を終了します。第一種警戒態勢へ移行」
「了解、状況イエローへ速やかに移行」

何故かスムーズに進められる発令所の指示。

「碇、こんな事で老人達が誤魔化されると思うのか?」
「・・・問題ない」

この男と話をしていても埒が開かないと、ユイ達の方に救いを求める冬月。
しかし、ユイもニッコリと微笑んで頷くだけであった。



薄暗い発令所。
現在は、第一種警戒態勢と言う事で、シゲル、マコト、マヤの3人が詰めているだけである。
尤もマヤは、差し入れの御菓子を盛って来ただけで、実際はマコトとシゲルが当直であった。

床に座り込んで、マヤの差し入れを摘みながら、ジュースを紙コップに入れるシゲル。
マヤも自分が差し入れしたのに、袋を開けて食べ始めていた。

「本部施設の出入りは全面禁止?」

マヤがひそひそ声で尋ねる。
実は、この出入り禁止のために、マヤも暇を持て余して差し入れに来たのだが、全面禁止とは知らなかったのである。

マヤはリツコの直属の助手であるため、よく理不尽な缶詰状態にされていたのだ。
今回もそれに近い物だろうと思っていたのだが、いつもと違い暇になったため、ここに来たのである。

「第一種警戒態勢のままか」

「何故?使徒は殲滅した事になっているんでしょ?」
「ああ、確かにパターン青は消滅していた」

「マンションが本体と言うのは、どうかと感じるものはあるな?」
「でも、この前の使徒殲滅と言う意味では・・・それに第壱拾壱使徒、第壱拾参使徒も本体は不明でしたしぃ」

「それは確かにそうだな」
「殲滅と言ってもパターン青の消滅した確認していないわけだしな」

「しかし、公式見解ではあれが最後の使徒なんだろ?」
「ああ、全ての使徒は消えたはずだ」
「今より平和になったって事じゃないのか?」

「じゃぁここは?エヴァはどうなるの?」
「俺達がどうなるのかは、見当も付かないな」

その時マヤが勢いよく立ち上がった。

「どうしたの?マヤちゃん」
「私達より何でも知っていそうで、私達の頼もしい味方。こんな時は彼に聞くに限る」

「レイか?確かにあいつなら何か知ってそうだな」
「って事で行ってきまぁす」

さっさと発令所を後にするマヤを肩を落として見送るシゲル。
マコトがポンポンとシゲルの肩を叩いた。



その頃、シンジ達パイロットは、執務室で待機していた。

「まさかマンションを使徒と識別するとはね」
「リリン達のユーモアには敬服するよ」

「司令達の話では、ゼーレがきな臭い動きをしているらしい。何か動きがあるなら数日のうちだと言っていたよ」
「それで、この警戒態勢かい?確かに老人達は何かするつもりだろうねぇ」

「レイ君居る!?」

唐突に入ってきたのは、マヤである。

「何かあったんですか?」
「ううん、でも本部施設の出入りは全面禁止らしくて」

「成る程、暇になったんですね?」
ニヤリと笑うシンジ。
この辺りは、気の置ける人間としてマヤ達と接する事が出来るようになったシンジの成長なのであろう。

「まぁね。それで、レイ君は何か聞いている?」
「何かって?」

「出入りは全面禁止の理由よ」
「あぁ、この前の爆発を理由にNERV権限で第三新東京市の避難勧告が出されたんです」

「それって?!」
「だから、外に出てもゴーストタウンなんですよ。後は警備の自動化ですね。出入りを全面禁止にする事で出入りする人間が居ればMAGIが見付けてくれる」

「何か起こるの?」
「えぇ、多分全面戦争。その回避のために今、副司令が日本政府に交渉に行っています」

「全面戦争ってNERVは軍隊じゃないじゃない」
「でも最強の兵器を保有している」

「それは使徒を迎撃するためでしょ?」
「じゃぁ使徒が来なくなれば?使徒戦だって、ここ以外じゃ実感ないですよ。そんな所の利権者達は使徒が来なくなったならってね」

「そんな、じゃぁNERVはどうなるの?」
「少なくとも、本部だけでも現状維持を望んでいるのですが、国連とかその上位組織は違う事を考えているようですね。そちらの方は司令が当っていますが、難色を示しているようです」

「難色を示しているって・・・」
「強すぎる兵器はパワーバランスを崩すと言うような理由で、エヴァの譲渡を求める国とか、そのテクノロジーの公開を求める国とか、封印を求める国とか、色々らしいです。そして上位組織はもっと違う事を考えている」

「違う事って?」
「人類補完計画です」
すっとマヤの顔に顔を近付けて呟いたシンジにマヤは、顔を紅くした。

「マヤ!こんな所に居たのね?ちょっと手伝って欲しい事があるの来て頂戴」
「は、はいっ先輩」

「ごめんねレイ君。忙しくて・・・後で貴方達にも手伝って貰うかも知れないわ」
「その時は喜んで」

「有り難う。じゃそれまでゆっくり休んでいて頂戴」
リツコはマヤを探してたようで、マヤを見付けるとそれだけっを述べてマヤを連れ去って行ってしまった。

「おやおや彼女も忙しいねぇ」
「ゼーレはこの状態に、まずMAGIから攻めてくるからね」

「しかし、この状態は哀しいねぇ。こんなに暇なのに居酒屋にも行けない」
「・・・貴方のせい」

「いや、でもあの状態では、どうしようもなかったと思うのだけれど・・・」
「・・・マンションをATフィールドで包むのでは無く、NN爆雷を包めば良かっただけ」

ガーンと言う音が聞こえてくるかと思える程カヲルが衝撃を受けていた。
確かに、それだとNN爆雷を設置していた場所だけの被害で済んだであろう。
実際、被害や死者の数はかなりな数に上っていた。

「済んだ事を言ってもしかたないよ、レイ。カヲル君もそんなに落ち込まないで」
「否定しないって事は、そう言う事なんだね」

「いや、その時の状況も解らないし、何より、そっちにATフィールドを展開したら、カヲル君自身が危険だったと思うよ」
「ありがとう、でもこのやるせなさは、どこに向ければ良いんだろうねぇ」

「それは量産機かな?」
「やはり来るのかい?」

「老人達の切り札だろうからね」
「ふふふ、そもそもは老人達のせいじゃないか。僕のこの憤りをぶつけてやる。早く来い量産機達」

一気に眼を燃え上がらせるカヲルに危険なものを感じるシンジ。

「い、いや、カヲル君、一応、来ない可能性もあるからね?お、落ち着いてね?ね?」



その頃、司令室では張詰めた空気が支配していた。
ゲンドウ、冬月、ナオコ、キョウコ、そしてユイと全員が揃っている。
冬月は既に日本政府との交渉を終えていたのだ。

「・・・国連は、審議中だ」
「人類補完委員会は?」
「・・・こちらから連絡は取れない」

「既に自分達の計画に入っていると見るべきか」
「MAGIのプロテクトの準備は、リッちゃんに頼んでおいたわ」
「零号機も封印は形だけ、何時でも出撃出来るようにしてあります」

「やはり穏便には済まないのですね」
「・・・結局日本政府は傍観か」

「あぁA−801は国連から要請が来れば発令せざるを得ないらしい」
「・・・抵抗すれば武力行使か」

「それについては釘を刺しておいたよ。国民を無駄死にさせる気かとね」
「・・・何と言っていた?」

「膿を出す良い機会だと」
「・・・ふん、喰えない奴だ」

お前ほどではないと冬月は言いたかったが、その言葉は呑み込んだ。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。