第弐拾弐話
久しぶりに、ゲンドウらしく
『総員第一種戦闘配置、対空迎撃戦用意』
「使徒を映像で確認、最大望遠です」
メインモニターには衛星上に見える光りの羽の様な使徒の映像が映し出されていた。
けたたましく鳴り響く警報。
慌ただしく動く、発令所の職員。
一月程空いた久しぶりの使徒襲来に、誰もが緊張していた。
「衛星軌道から動きませんねぇ」
緊張を解そうと言う意識からかマコトが状況を呟く。
「ここからは一定距離を保っています」
それに乗ったかのようなシゲルの報告。
何か報告していると落ち着くのだろう。
その報告を聞いてミサトの頭の中では、色々な戦闘形態が浮かび上がっている。
「って事は、降下接近の機会を伺っているのか、その必要もなくここを破壊できるのか」
「こりゃ迂闊に動けませんね」
ミサトの独り言にもマコトは答えた。
「どの道、目標がこちらの射程距離内に近付いてくれないとどうにもならないわ、エヴァには衛星軌道の敵は迎撃できないもの。パイロット達は?」
独り言に答えが返ってきた為、会話を続けながらミサトはパイロット達の状況を尋ねた。
「初号機、参号機、零号機全て順調、行けます」
それに答えたのはマヤであった。
「了解、初号機に通信を繋いで頂戴」
『綾波です。どうしました?』
「取り敢ず、こちらに打つ手は無いわ。ポジトロンライフルも射程外。どうする?」
ミサトがシンジに相談した事に、場にいた人間は驚きの表情を浮かべたが、シンジは少し違う行動を取った。
『司令』
「・・・なんだ」
『槍を使いましょう』
「・・・・・」
回答が無い。
流れる沈黙。
数十秒の沈黙が、とても長く感じられた。
職員達も作業を続けながらゲンドウの回答に神経を集中している。
ミサトとリツコなどは、憚りもせずゲンドウの方を向いて、ゲンドウの言葉を待っていた。
ユイが声を掛けようとした時、ゲンドウの口が開いた。
「・・・許可する。レイ、ドグマに降りて槍を使え」
『了解』
「ロンギヌスの槍をか?碇、早すぎるのではないか?」
「・・・老人達が量産機の建造に着手した、チャンスだ冬月」
「しかし、ゼーレが黙っていないぞ」
老人達に取ってロンギヌスの槍は、欠かせない鍵なのである。
衛星軌道上の使徒にそれを使うと言う事は、槍を投げると言う事であり、それは回収不能となる可能性が高い。
老人達が激怒する事は、目に見えていた。
「ゼーレが動き出す前に全てを終わらさなければならん、衛星軌道上の使徒を倒す方法が他にあるのか?」
「かといって、老人達に無断で槍を使うのはまずいぞ」
「・・・理由は存在すれば良い」
「理由?お前が欲しいのは口実だろう?」
ゲンドウはニヤリと笑うだけであった。
「葛城さん、他のエヴァは待機ですか?」
「相手の攻撃手段は解らない、こちらに攻撃できる手段は無い、これでエヴァを射出したら狙って下さいと言うようなものだわ」
ミサトの回答にマコトは満足した笑みを浮かべる。
その頃、シンジはロンギヌスの槍を取るためにターミナルドグマへと下降していた。
(へぇ〜)
シンジは、通信越しに聞こえてくるミサトとマコトの遣り取りに単純に感動している。
「三機を三角形に配置、出来るだけ距離を離して!」
「そうすると、射出位置は、こんな感じですか?」
「それで良いわ。レイ君が準備でき次第、一斉に射出。カヲル君とレイちゃんはポジトロンライフルで威嚇。レイ君の投槍時間を稼いで頂戴。いいわね?」
「「「了解」」」
エヴァパイロット3人の声が揃った。
それ程、今回のミサトの指示は、すんなり受け入れられるものだったと言う事だろう。
使徒は、初号機の投げた槍により殲滅された。
サポートに廻った零号機と参号機のポジトロンライフルによる陽電子を使徒は物ともせず、可視光線を放ってきたのだが、シンジはそれを浴びる事もなく槍を投げ放ったのだ。
ぐっと親指を突き出すミサト。
シンジもそれに笑顔で応える。
「ぷっは〜〜〜っ!やぁっぱ人生、この為に生きてるのよねぇ〜〜」
「・・・貴女だけ」
「それだけだと寂しくないかい?」
「もぅ〜っ二人共、もっと軽くなった方が良いわよん」
「ミサトさんが軽すぎるんですよ」
「いやぁ〜ん。レイ君が苛めるぅ〜」
「か、葛城さん!抱付かないで・・・いや・・・あの・・・あは」
「・・・不潔」
「マヤちゃんも、俺に抱付いてくれても良いんだよ」
今日は、居酒屋のドタバタにミサトが参加していた。
勿論ミサトに抱付かれて悶えているのはマコトである。
シゲルは余計な事を口走りマヤから白い目を向けられている。
シンジ達は、いつもの通りマイペースで、所々突っ込みながら食事を取っていた。
「それにしても、あの槍は凄かったなぁ。あの槍があれば使徒なんて楽勝じゃないのか?」
「そうそう、凄く勿体なかったんじゃないのか?」
シゲルとマコトは、その存在や威力についてあまり知らなかったため、ロンギヌスの槍の威力に驚愕しているのだ。
なにより、ATフィールドを貫いて使徒を消滅させたのである。
ロンギヌスの槍さえあれば、使徒殲滅に充分だと思うのも無理は無かった。
「あれは、諸刃の剣なんですよ」
「そりゃぁ確かに、エヴァにも脅威的な武器だとは思うけど、使徒が使う事は無いだろ?」
「使徒は自己進化しますよね?」
「槍の特性を取り込むかも知れないって事かい?」
まさか?と言う顔をする面々。
ミサトは何故か、ビールの入ったジョッキを口に当てている物の、その眼は真剣であった。
薄暗い部屋。
黒い石版のような物にナンバリングだけが煌々と照らし出されている。
それらに囲まれるように中央の机にゲンドウは、肘を付き顔の前で手を組んでふてぶてしく対峙していた。
『碇君、何故槍を使ったのかね?』
「使徒殲滅を優先させました。止むを得ない事情です」
『止むを得ないか、言い訳にはもっと説得力を持たせたまえ』
『最近の君の行動には眼に余る物がある』
「使徒殲滅がNERVの存在意義。最も最優先される事情です」
『ロンギヌスの槍の研究価値が解らんわけではあるまい』
「研究の前に人類が滅んでしまっては意味がありません」
ゼーレは未だ人類補完計画を諦めていない。
その為にもロンギヌスの槍は、重要な物であったのだ。
しかし、表向き人類補完計画を中止しているゼーレとしては、それは研究用として重要だと言う名目を掲げていたのである。
ゲンドウもそんな事は解り切っているのだが、白を切り通す。
その時、電話の呼び出し音が鳴り、ゲンドウは、机の引き出しから電話を取り出した。
「ユイ・・・審議中だぞ・・・解った」
電話を切り、元のポーズに戻るゲンドウ。
その口元にはニヤリとした笑いが浮かんでいる。
「ユイに呼び出されました、続きはまた後ほど」
『そ、それは致し方あるまい。ユイ博士に宜しくな』
『うむ、奥方は大事にせんとな』
ゼーレの面々も奥様方には頭が上がらないらしい。
『碇、嫁を裏切ると後が恐いぞ』
「それは重々存じております」
何故かゲンドウの笑いが引き攣ったものとなっていた。
「総員、第一種戦闘配置!」
発令所に戻ったゲンドウは、信じられない指示を下した。
「戦闘配置?使徒も現れていないのに?」
安穏とした雰囲気が漂っていた、発令所で、使徒の発見報告も成されずに発令された戦闘配置にマヤが驚愕の声を漏らす。
「先程、アスカ君が家出をした」
「「「「「は?」」」」」
マヤの声が聞こえたのか、理由を述べたゲンドウの言葉を発令所の全員が呆ける。
何かの聞き間違いかと思われた。
たかが中学生の家出が、何故、第一種戦闘配置に繋がるのか、皆目、見当が付かなかった。
「家出は偽装の可能性がある。現にキョウコ君は、その理由が解らないと言っている」
尚も説明を続けるゲンドウの言葉を聞く以外に職員達に選択肢は無かった。
「彼女は、元エヴァンゲリオン弐号機専属パイロットだ」
「「「「「はっ!」」」」」
その言葉に漸く、発令所の職員も、戦闘配置の意味を知った。
いや、事の重大性を知っただけで、その意味はやはり未だ解っては、いなかった。
「しかし、何故、戦闘配置なのだ?」
ここで漸く冬月が、疑問を口にする。
少なくともゲンドウに対し、こう言う事を聞けるのは冬月ぐらいであろう。
実は、冬月も理由は解っている。
敢えて質問する事により、職員達に聞かせようと言うのだ。
この辺りが長くゲンドウの副官を担ってきた所以であろう。
ユイ達は、既にその意図を知り、しきりに端末を操作していた。
「ふっ・・・第一種戦闘配置になれば街には避難警報が流れ、シェルターに避難する事になる」
「成る程、シェルターはMAGIの監視下。単なる家出なら、それで見つけられると言う事だな」
「それ以前に彼女ならNERVに向かうはずだ」
「成る程、それで見つからなければ?」
「どこかの組織の仕業と言う事になる」
「まずいな・・・」
「ふっ・・・問題ない」
手は既に打ってある。
ゲンドウの口元は、そう物語っていた。
「狙いは何だと思う?」
「・・・解らない」
「僕達が取る行動じゃないかな?」
「僕達が取る行動?」
「・・・三手に別れる事」
レイの言葉にカヲルが頷いた。
「誰が狙い?」
「勿論、シンジ君さ」
「何故?」
「シンジ君を亡き者にして、レイ君を依り代にするために」
「・・・無知ね」
「じゃぁ、ゼーレの仕業ってこと?」
「アスカ君も彼らに取っては、良い実験材料なのじゃないかい」
「一石二鳥か・・・」
「・・・槍の報復かも知れない」
「あぁ、彼らは執念深いからねぇ」
クッと舌打ちをしてステアリングを切るシンジ。
シンジの駆るNERV公用車は、凄まじい勢いで第三新東京市を疾走していた。
「これは、ヤバイな・・・」
加持は、緊急警報の流れる街の中、シェルターに向かわない集団を見付け、後を追っていた。
日本に来てからと言うもの、アスカの護衛は引き継いだとは言え、そこは長年ドイツで護衛してきた身から、少しは情も湧いていた。
そのアスカが危険な目に遭う事は、やはり看過出来るものでは無かったのである。
「政府も何を考えているのやら、それより・・・後でレイに怒られる方が恐いな」
加持は、携帯を取り出すと連絡を取った。
「加持一尉から連絡です!シェルターに避難しない怪しい集団を追跡中。現在、強羅方面へ移動中との事です!」
「綾波二尉。聞こえたか?」
『はい!陽動かも知れません。増援は葛城一尉にお願い出来ますか?』
「解った。至急葛城一尉に連絡!加持一尉の増援に向かうように通達!」
『葛城です!了解しました!』
「皆、優秀だな」
「ふっ・・・問題ない」
第一種戦闘態勢に移行したのに作戦課長もパイロットも全員出払っていると言う異常な事態。
それは、有る意味ゲンドウの意図をいち早く感知して動いていると言う事でもあった。
「やはりシェルターにアスカちゃんの姿は無いわ」
「アスカ・・・」
「大丈夫。レイ君達がきっと助け出してくれるわ」
雛壇では、母親達が違いに励まし合っている。
「微弱なATフィールドを感知!パターン・・・ヒト?」
「エヴァ3機を発進!」
「碇、パイロットが乗っていないぞ」
「フッ・・・問題ない。パイロットは今市街に居る。ならばエヴァも市街に射出した方が搭乗に手間が掛らん」
「詭弁だな」
「・・・理由は存在すれば良い」
「だからお前のは理由では無く口実だと言っておろう」
「・・・冬月先生、血圧が上がりますよ」
「上げさせているのはお前だろう・・・」
上層部の漫才を余所に、メインオペレータ達は着実にエヴァを発進させていた。
「どう?レイ」
「・・・こっち」
レイは、ATフィールドを蜘蛛の糸のように細く、微弱な電波のように広げて気配を探っていたのだ。
第一種戦闘態勢の本当の理由は、ここに有った。
流石に人が溢れているところでは、雑音が多く感知しづらいのである。
いや、出来なくはないのだが、非常に疲れるし、時間も掛るのだ。
しかし、街全体の人間がシェルターに避難している状態であれば、簡単にアスカを特定出来る。
レイのナビゲートでシンジが車を走らせる。
当然だが、シンジやカヲルにも同様の事が出来る。
現にカヲルはその能力を以てシンジを待ち伏せしていたのだ。
しかし、今は、緊急を要する。
やはり、精密な動きと言うものはレイが得意なのである。
シンジが運転をし、レイがその能力を駆使して探索するのは理に適っていた。
「うぉっ!」
「これはこれは、エヴァまで射出させるとはゲンドウ氏も芸が細かいねぇ」
「多分ATフィールドが検知されてそれを誤魔化すためじゃないかな」
「成る程、噂通り抜け目が無いようだねぇ」
「・・・居た」
3人の眼には、避難警報が出ているにも拘わらず、猛スピードで疾走していく何の変哲もないワゴン車が捉えられていた。
「なんてこったい、こんな立て続けに使徒襲来となるとはついてねぇ」
「兎に角急いで本隊に合流しないと巻き込まれるぞ」
「小娘一人かっ攫う楽な仕事だと思ったのにな」
「あっちの部隊で惹き付ける必要なんてないと思ってたけど、正しく必要無くなったな」
「向こうも離脱に忙しいだろ。とんだ草臥れ儲けだ」
「げっ!エヴァまで出てきたぜ。こいつは暢気にしてられないな」
「しかし、俺達の任務としては楽になったな。NERVも使徒戦に忙しくてこっちには気が付いていないかも知れん」
「使徒戦が無くてもNERVのボンクラ共は暫くは気が付かないさ」
後部座席に拘束したアスカを積んだワゴンの中で男達は、勝手な事を言っていた。
「おいっ!なんか変な車が追ってくるぞ」
「何?!ん、あれはNERV保安部の車だな。ちっ避難状況の確認部隊にでも出くわしたか。ついてねぇな。吹っ切れ!」
哀れな黒ずくめの男達。
程度が低い事から、ゼーレの息の掛った者の更に使い捨ての手駒なのであろう。
ゼーレの人間は、それなりに狡猾だ。
多分、捕まっても尻尾を出さないようにするために切り捨てられる尻尾達である。
一方、路地を選ぶようにして移動する黒ずくめの集団。
加持は、その行き先に見当を付け、先回りしていた。
加持の位置からは、上から眺めるように集団の行動が見て取れていた。
「こっちは陽動っぽいな。あまりにも徒歩での移動が長すぎる」
何か工作するにしても、人を攫うにしても徒歩での移動が長いのは準備が悪いとしか言いようがない。
突発的に逃げなければならなくなったとしても、移動手段は確保するものだ。
「おぉおぉ、相変わらず派手だなぁ」
加持の眼には、疾走する青いアルピーヌルノーが映っている。
普段の方向音痴は、何処へやら、それは、正確に黒ずくめ集団の行く手を遮る進路を取っていた。
派手なドリフトを決め集団の前に滑り込む青いアルピーヌルノー。
停まった車からは、赤いジャケットを羽織ったミサトが銃を構えて飛び出してきた。
黒ずくめの集団から銃弾が飛んでくる。
それを確認したミサトは、躊躇無く引き金を引いた。
後方に下がろうとした集団は、そこに居る人影に足を止める。
「大人しく投降する気は・・・無いようだな」
話し掛けると共に銃を向けてくる集団に加持は、一瞬で横に飛び退き、遮蔽物に身を隠した。
「有無を言わせずか・・・」
次に加持が顔を出した時には、全ての黒ずくめ達が、倒れていた。
「葛城ぃ〜容赦ないなぁ〜」
「なぁに言ってんのよ!こいつら、平気で自爆するんだから、余裕なんてカマシテらんないわよ」
「ごもっとも」
「ほら!次行くわよ!」
「へいへい」
ミサトに急かされ、加持は銃弾でボコボコになった助手席の扉を開け、乗り込む。
ミサトは、スピンターンを決めると、車を急発進させた。
「さて、そろそろ僕の出番のようだねぇ」
カヲルは、そう呟くと車から身を乗り出し、屋根の上に上がる。
既に、銃撃戦となり、相手はこちらに向かって発砲しているのに、カヲルは暢気に風を楽しんでいた。
「な、なんなんだよ彼奴ら!なんで弾が当らないんだ?!」
降り注ぐ銃弾を物ともせず突っ込んで来るNERV保安部の車両に、ワゴン車の一味は狐に抓まれた気分に陥っていた。
自らの弾倉を確認する人間。
しかし、そこにはしっかりと実弾が入っている。
「くそっ!」
自棄になり、後方の車に向かって発砲するが、そこには悠々と車の上に立つ銀髪の少年。
シンジはアクセルを踏み込むと一気にワゴン車との距離を詰めた。
時速100Km以上で疾走する車を乗り移るカヲル。
ワゴン車の中から天井に向い発砲するが、何の成果もなく天井が蹴破られ車内に銀髪の少年が現れた。
一斉に打ち込まれる銃弾。
それを遮るオレンジ色の壁。
「君達は、全く好意に値しないねぇ。嫌いってことさ」
気絶しているアスカをお姫様抱っこすると、カヲルはワゴン車の後部を蹴破る。
そこに見えるのはNERVの公用車。
カヲルは何の躊躇も無く、ワゴン車を飛び出した。
ボンネットにカヲルが飛び乗った事を確認するとシンジは車を停車させる。
カヲルはアスカを後部座席に寝かせると、シンジに向かってニッコリと微笑んだ。
「いいのかい?このまま逃がしてしまって」
カヲルの言葉にシンジはワゴン車の方に指さした。
そこには激突寸前でワゴン車の前に滑り込んできた青いスポーツカー。
中から飛び出して来たミサトにシンジは、親指を立てる。
ミサトはニヤリと笑うと自動小銃の銃口をワゴン車に向けると躊躇なく引き金を引いた。
数分に及ぶ銃弾の雨。
遅れて車から出てきた加持も、シンジ達の方に向かってヤレヤレと肩を竦ましている。
持って来た弾倉を全て撃ち尽くしたのでは無いかと思われる程の煙が晴れた後には、ボロボロになったワゴン車が佇んでいた。
それでも防弾仕様であったのだろう、ガコンと開いた扉から両手を挙げた黒ずくめの男達がゾロゾロと出てくる。
「う、撃つな〜!降伏する!」
リーダらしき男が叫んでいる。
ミサトは銃口を下ろしはしない。
その膠着状態は、NERV保安部の黒服達がやって来るまで続いた。
病室のベッドに横たわるアスカ。
「睡眠薬、多分クロロフォルムね。命に別状は無いわ。洗脳や変な物を植え込む時間も無かっただろうし、取り敢ず一安心てところかしら」
カルテを眺めながらリツコが評する。
心配そうにそれを聞いているのはキョウコである。
「・・・戦自の高官が一人自殺したらしい」
「蜥蜴の尻尾切りですか、掴まえた彼らは?」
「戦自に引取らせた。アスカ君には気の毒だったが、これで政府も強引な事は出来なくなった」
アスカを見守る女性陣の後ろでゲンドウとシンジが小声で話している。
ベッドの傍らには碇シンジも居た。
碇シンジの話では、最近では同級生の委員長、洞木ヒカリと仲良くなったアスカは碇シンジと帰る事が少なくなったらしい。
そこで護衛が手薄となったところを狙われたようだ。
「黒幕は?」
「知らぬ存ぜぬだ。しかし、それを見過ごした政府側には、徹底的に責任を取って貰う事は合意した」
「戦自が攻めてくる事は無くなったと?」
「表だってはな」
ゲンドウは既に終局が近付いていることを感じ取っている。
その事をシンジは感じていた。
「・・・人間の敵は所詮、人間だ」
ゲンドウの言葉は、シンジに違う意味で重くのし掛っていった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。