第弐拾話
トリニティ
「こんにちわ〜」
「やぁ」
「あんた誰よ!」
「僕はカヲル」
「そんな事は聞いてないわよ!なんでここにアンタみたいなのが居るのよ!」
「そんな事言われても僕は、チルドレンだからねぇ」
シンジ達の執務室に入ってくるなり、カヲルを見つけて叫きたてるアスカ。
アスカの後ろでは、碇シンジがやれやれと言う顔で立っている。
「・・・アスカ煩い」
「レイ!こいつがチルドレンってどう言う事?!」
「・・・知らないわ。多分私は3人目だから」
「何、訳の解らない事を言ってるのよ!」
「・・・私はサードチルドレンだもの。3人目」
「じゃぁこいつは4人目だって言うの?!」
「・・・そして貴女は2番目」
「2人目って言いなさい!・・・悪かったわね。えっと・・・渚だっけ?あたしはアスカ。惣流=アスカ=ツェッペリン。元セカンドチルドレンよ。シンジ!アイス足りる?」
アスカはドイツに帰らずキョウコと居るため、ツェッペリンに姓を変えていたのだ。
アスカの父ラングレーは既に再婚している。
つまりキョウコの前夫もゲンドウも入婿だったと言う事である。
「えっ?う、うん多い目に持ってきたから足りると思うよ」
そう言って碇シンジは、手に持っていた袋を目の前まで持ち上げる。
「で、綾波先輩は何処?」
「・・・会議よ」
「長引くの?」
「・・・解らないわ。でもそろそろ戻ると思う」
「どうして解るのよ?」
「・・・愛」
「なっ!・・・そ、そうね兄弟愛と言う奴ね」
「君が碇シンジ君だね」
「僕の名前を?」
アスカとレイがギャーギャーと言っている間、カヲルは碇シンジに接触していた。
「君の事を知らない者は居ないよ。失礼だが君は自分の立場をもう少し知った方が良いと思うよ」
「そ、そうかな?君は?」
「僕はカヲル。渚カヲル。君と同じ綾波二尉を慕う者さ」
「兄さんを?渚君?」
「カヲルでいいよ、碇君」
「ぼ、僕もシンジでいいよ」
そう言いながら頬を赤らめる碇シンジ。
カヲルは、そんな碇シンジを優しく見詰め微笑んでいた。
「あんた!なに男に顔を赤くして照れてるのよ!も、もしかしてホモ?!」
「そ、そんな訳ないだろ!」
「いや〜っ!不潔よぉ〜っ!」
「何、委員長みたいな事言ってるのさ」
「一度言ってみたかったのよねぇ」
「おや、アスカにシンジ。来てたんだ。いらっしゃい」
ワイワイガヤガヤとしている中にシンジが戻ってきた。
「綾波せんぱぁ〜い!」
シンジを見付けると、いきなり抱付くアスカ。
レイも既に諦めているのか、しかたないわねと言う顔で見詰めるのみだ。
「あれがセカンドチルドレンかい?想像以上に姦しいねぇ」
結局アスカと碇シンジは、持参したアイスクリームを食べ、散々騒いで帰って行ったのだ。
勿論、騒いでいたのはアスカだけである。
「今は、精神的にも安定しているからね。ちょっと童返りしているところは有るけど、元気なのは確かだね」
「・・・弐号機パイロットの精神は元々幼いわ」
「あっそうか、じゃぁ漸く成長が始まった所と言う事かな?」
「シンジ君は相変わらずのようだったけどねぇ」
「シンジは僕なんかよりずっと大人だよ」
「そうなのかい?」
「うん、かなり安定しているからアスカとも上手く付合っていけるんだろうね」
そう言って遠い目をするシンジ。
レイが透かさずシンジを抱締める。
はっきり言って、何もかも上手く行っている。
上手く行っているが故に、シンジの心には影が差すのだ。
自分と同じ存在であるはずの碇シンジ。
彼が普通であればあるほど、シンジは遣り切れない気持ちに苛まれる。
確かにユイが存在しているためにゲンドウの行動は違うだろう。
それにしても、自分自身の気の持ちようで、今の碇シンジと成り得る事は出来たはずだと思えるのだ。
そうすると、世間に背を向けていた自分が情けない。
勝手に、どうせ裏切られると他人を信用しなかったのは自分自身だ。
逃げちゃ駄目だなどと呟くものの、進む事さえせず止まっていた。
何もしないくせに、僕に優しくしてよなどと思っていた。
そんな人間に優しくしてくれる人間など居ないだろうと今なら思える。
それでもレイだけは、自分を見て自分に優しくしてくれた。
カヲルはそんな自分を好きだと言ってくれた。
「ありがとうレイ。僕は大丈夫だよ」
そんな気持ちが解り過ぎるほど、解ってるレイは、そっとシンジを抱締めるのだ。
不安定な14歳の精神を操作していたのはゲンドウでありゼーレであった。
子供を自らの部下であり兵士として扱いながら、都合の良い時だけ家族と言い平時は家政婦のように使っていたのはミサトだ。
しかし、元の内罰的思考が、それさえも自分のせいだと考える。
端からみれば傲慢な思い上がりかもしれない。
しかし、それがシンジの優しさだった。
10年以上シンジと一つとなっていたレイには、その思考が手に取るように解るのだ。
「・・・ぃぃ」
だからレイはシンジを抱締める。
優しく包み込むように。
碇シンジとアスカは、ジオフロントを歩いていた。
「あぁ〜んやっぱり綾波先輩よねぇ〜っ!シンジもそう思うでしょ?!」
「確かに兄さんは恰好良いし、僕から見ても非の打ち所がないからね」
「でしょ?!でしょ?!」
「でもライバル多過ぎるような気がするけどなぁ」
「天才少女アスカ様には、そんな物屁でもないわ!」
「屁でもないって・・・アスカ・・・一応女の子なんだから」
「一応ってなによ!一応って!あぁ最強の綾波せんぱぁぃっ!」
アスカはどこかにトリップしているようだ。
ふと眼を向けた先に、畑らしき物が見えた。
ジオフロントに畑?っと碇シンジはそちらの方に興味を示す。
「ちょちょっと馬鹿シンジ!何処行くのよ!」
そこには、無精髭を生やしたぼさぼさの髪を後ろで括った、尻尾頭の男が畑に水を撒いていた。
「やぁシンジ君。こんな所で会うとは奇遇だね」
「あっこんにちわ」
「何ほのぼのと挨拶してるのよ!それよりこんな所で何してるのかしら?加持一尉」
「いや、これはアスカ手厳しいね」
アスカは腰に手をやり指を突き刺し加持を責めている。
そんなに攻撃的に言わなくてもいいのにと碇シンジは、唇を尖らせていたが、敢えて口にはしない。
そんな事をすれば、その矛先が自分に向かう事をよく知っているからだ。
「西瓜ですか?」
「ああ、可愛いだろ?俺の趣味さ。みんなには内緒だけどな。何かを作る、何かを育てるのは良いぞ、色んな事が見えるし判ってくる。楽しい事とかな」
そう言って片目を瞑る加持。
はっきり言って男にウィンクされても不気味だ。
「それよりアスカとは上手くやってるようだな」
「別に上手くもなにも連れ回されてるだけですよ」
こっそりと耳打ちする加持に碇シンジもヒソヒソ声で答える。
「アスカもシンジ君のような同年代の友達が出来たのは始めてだからな」
「そうだったんですか」
「アスカの事を宜しく頼むよ。あれでも可愛い妹のように思っているんだ」
「僕なんか何の役にも立ちませんよ」
「君にしかできない、君なら出来る事があるはずだ。自分で考え自分で決めてるんだな。自分が今何をすべきか、後悔のないようにな」
「は、はぁ・・・」
「なぁに二人でコソコソ話してるのよ!厭らしいわね。ほら!シンジ!帰るわよ!」
「う、うん。それじゃまた加持さん」
「あぁまたな」
小突き合いながら帰る碇シンジとアスカを加持は微笑ましく見送ると、再び西瓜に水を撒く続けていた。
「おぉ〜い。こっちこっち」
シゲルがいつもの居酒屋で、マヤと席に着いていた。
参号機はそのまま運用と言う事になり、初号機と零号機も損傷は軽微であったため、マヤも久しぶりに早く上がれたのだ。
そこをシゲルが誘ったのだが、シンジも一緒ならと言われ、シンジを無理矢理誘ったのである。
当然だが、シンジを誘うとレイが付いてくるのだが、今日はカヲルも一緒だった。
「おっカヲル君も一緒か。これは美男美女揃いになっちゃったな」
「何言ってるんですか青葉さん!」
シゲルの言葉に顔を真っ赤にするマヤ。
自分でも意識していると言う事であろう。
シゲルとしては、マヤと二人っきりが望みなのだが、まず誘い出さねば話にならない。
シンジを誘ってもレイが付いてくるからと、自らを納得させるが、マヤに取ってはシンジを誘う都合の良い男と成り果ててしまっているシゲル。
解っていても、他に選択肢がないのである。
「レイ君、お疲れ様」
「お疲れ様。今日はマコトさんは?」
「マコトはシフト当直」
「そうですか、カヲル君、こちらがメインオペレータの青葉二尉と伊吹二尉だよ」
「よろしくお願いするよ」
「こちらこそ宜しく」
「宜しくな」
軽く紹介と挨拶を交わし、席に着くシンジ一行。
レイは既にメニューと睨めっこ状態である。
カヲルに取って日本の居酒屋のメニューは、とても珍しいらしい。
来る物来る物に興味を示した。
流石に欧州で育っただけあり、日本食の生臭い物には、何とも言えない顔をする。
普段のアルカイックスマイルとのギャップが可笑しく、その場に居たオペレータ達はかなり親近感を覚えた。
「オクトパスがこんな味だとは知らなかったよ」
そう言いながら蛸の刺身(茹で蛸)を咀嚼しているカヲル。
「しかし、これは何時飲み込めば良いんだい?」
あまり食べた事のない食感に飲み込むタイミングが解らないらしい。
「この生臭さは僕にはちょっと無理なようだね」
烏賊の塩辛を鼻を摘みながら舐めて味を確かめるカヲル。
「この焼き鳥と言うのは、なかなか美味だねぇ。美味しいって事さ」
「しかし魚を生で食べるとは信じられなかったけど、この山葵と言うのがなかなか良いスパイスになっていて美味しい物だねぇ」
そう言いながらマグロの刺身をバクバクと食べる。
「カヲル君、日本では肉の刺身もあるんだよ」
「それは少し遠慮したいねぇ」
「当然、新鮮でないと食べられないから、こういう居酒屋ではあんまり置いてないんだけどね」
「それは助かったと言う事かい?」
「どちらにしても僕やレイは、血の臭いがするものは食べたくないから頼まないけどね」
「おや?どうしてなんだ?」
シゲルがカヲルとシンジの会話に割り込んできた。
「LCLって血の臭いがするんですよ。それで肉類は僕達あんまり得意じゃないんです」
「そうだったんだ。てっきりベジタリアンかと思ってたわ」
マヤも初耳だとばかりに会話に入ってくる。
実はシンジの嗜好は結構NERV内の女子職員達の間では話題に上がっていたのだ。
そこは食堂で食べているメニューから割り出され、ベジタリアン疑惑が上がっていたのだった。
「濃い味付けにしたものとかは食べますよ。豚の角煮だとか」
「それは何だい?食べてみたいねぇ」
すっかり居酒屋メニューが気にいった様子のカヲルである。
この日以来、カヲルは居酒屋が大のお気に入りになったらしい。
翌日、使徒が現れた。
「第壱拾四使徒を光学で捕らえました」
シゲルの声と共に発令所のメインモニターに使徒が映し出される。
マコトは徹夜明けらしく眼の下に隈を作っている。
「1撃で第17装甲板まで貫通!!」
その威力に驚愕したマコトが悲鳴のような報告を行う。
徹夜明けでそろそろ帰ろうと、シゲルと無駄話をしている時に使徒は現れたのだ。
テンションを高くしていなければ、睡魔に耐えられないのかも知れない。
勿論、この状態で帰宅する事は不可能である。
「17枚もの装甲を一瞬にして・・・第伍使徒の加粒子砲並の破壊力ね」
リツコが呟きながら雛壇の三人を仰ぎ見た。
雛壇の三人も、その威力に眼を見開いている。
「エヴァの地上迎撃は間に合わないわ、全機を本部の防御に回して!」
ミサトがジオフロント内での決戦を決断した指示を出す。
実際ジオフロント内には、充分な支援設備がない。
出来れば迎撃設備がそれなりにある地上で戦闘を行わせたいのだが、使徒は出撃より早くジオフロントに侵入する事が予測された。
「エヴァ全機をジオフロントに射出!」
「ジオフロント天井部破壊されました!!」
ジオフロントの天井が爆発して、そこから使徒が悠々と降り立ち姿を現した。
ジオフロントに射出されたエヴァ3機は、使徒を囲むように陣形を取る。
少し距離があるレイは使徒の背後からポジトロンライフルで威嚇した。
それに反応するように振返る使徒。
紙テープのような腕を零号機に向け、伸ばそうとする所を初号機が背後から蹴り上げる。
つんのめった使徒を参号機が蹴り上げ上を向かせた所で、顔らしき仮面のような所を踏みつぶす。
零号機は、正確な射撃で使徒の両肩を撃ち抜いた。
初号機が、その隙にカーボンロッドで使徒のコアを滅多突きにするが、堅い硬質の殻でコアを覆う使徒。
それでもカーボンロッドにATフィールドを纏わせ滅多突きにするうちに、殻に罅が入った。
使徒もこれは堪らないと思ったのか、転げ回って攻撃から逃れようとする。
立ち上がった使徒の顔らしき仮面に零号機のポジトロンライフルから陽電子が降り注ぐ。
レイは、17枚もの装甲を一瞬にして貫通させた脅威を、まず封じる事にしたのだ。
しかし、使徒は急速に両腕を復元させていた。
凄まじい速さで襲い掛かる使徒の紙テープのような腕。
一直線に伸びてきた、使徒の腕を初号機と参号機は辛くも避けるのに精一杯であった。
充電されたポジトロンライフルは、使徒の片腕を射抜く。
射抜かれた腕の方に居た参号機が、使徒に掴み掛った。
初号機が反対側から、カーボンロッドで使徒の残った腕を力任せに叩き潰す。
『レイ!コアを狙うんだ!』
『・・・了解』
参号機と初号機に羽交い締めにされた使徒のコアを、零号機の正確な射撃でポジトロンライフルの陽電子が撃ち抜く。
しかし、それは表の殻を粉砕したのみであった。
『くっ!なんて頑丈な奴』
シンジはそのままプログナイフを装備し、使徒のコアに突き刺した。
使徒は逃れようとするが、参号機が必死で押さえ込んでいる。
前からは初号機が両手でプログナイフでコアを突き刺し、後ろからは、参号機が羽交い締めにして押している恰好だ。
流石の使徒も、この攻防中に壊れた部位を復元させる事は不可能だったらしい。
長い押し合いの末、漸く使徒のコアから光沢が消えた。
「パターン青消滅。使徒沈黙しました」
あまりにもスムーズな連携攻撃に発令所は、何の命令も出せずに使徒戦は終了した。
『ふぅ、レイ、カヲル君、ご苦労様』
『結構きつかったねぇ』
『・・・問題ないわ』
発令所のメインモニターは、和気藹々と帰路につく3機のエヴァを映しだしていた。
「よしっ!これで終りっと」
戦闘後、休む間もなく報告書を書き上げたシンジは、漸く一息吐いた。
「終ったのかい?」
「うん、なんとかね。後はこれを提出っと」
言葉に吐きながら報告書の送信ボタンを押すシンジ。
この手の書類は、紙では回らない。
決済が必要ないためだ。
「じゃぁそろそろ帰るかい?」
「夕食はどうする?」
「僕は、また居酒屋へ行ってみたい気がするね。気に入ったって事さ」
「それは構わないけど、レイは?」
「・・・問題ないわ」
斯くして、第三新東京市では、銀髪紅眼の3人連れが一部の居酒屋では有名になって行くのである。
その奇異な容姿もさることながら、頼み方が半端ではないのだ。
しかも居酒屋なのに、お酒を飲むのは一人である。
それも、ビールを1〜2杯程度で、殆ど食べる方に注力しているのだ。
この後は、シンジ達に会いたければ居酒屋を探せとまで言われる程になるのだが、それはまた後日の話である。
「あれ?あれは日向さん?」
居酒屋に入ったシンジは、カウンター席で潰れてしまったのか突っ伏している眼鏡のオペレータを発見した。
実は、徹夜明けであったマコトは、使徒戦終了後、冬月から今日は帰って休めと言われたのだが、何故か帰る途中でミサトに捕まったのである。
ミサトはマコトが帰るなら、書類仕事が自分に回ってくると本能的に感知し、逃げ出したのだ。
そして、帰り掛けのマコトを奢ると言って誘い出した。
当然、明日やらなければならない仕事を押付けるためである。
こんなところで作戦課長の能力を遺憾なく発揮するミサトであった。
そして、そんなミサトに逆らう術など持たないマコト。
最近、暴走しないミサトに対し、やっぱり葛城さんは只の猪突猛進じゃなかったんだ、などと見直していたりするのである。
哀れな生け贄は、愚痴を聞かされていたのだが、徹夜明けに酒が入り、あっと言う間に撃沈したのであった。
そんな事とは知らないシンジ達。
自分達が帰る時にでも一緒に連れて帰ろうと、マコトの見えるように近くのボックス席に陣取った。
これが後世にまで語り継がれるであろう、大失敗であったのは言うまでもない。
「あっらぁ〜ん、これは優秀なパイロット様達勢揃いじゃなぁい」
かなり出来上がっているミサトの猫撫で声に、後悔先に立たず。
かなり嫌みに聞こえる言い回しだが、ミサトに悪気はない。
はっきり言って酔っぱらいなのである。
「そりゃぁね。私だって解ってるわよ!格闘戦の最中に指示したって身体が動かないって事ぐらい・・・」
「でもね?!見てるとどうしても言いたくなっちゃうのよ!いや、言ってしまうのよ!」
絡み上戸なのか、しきりに愚痴っているか、ビールを飲んでいるミサト。
その口が休まる事は無い。
レイはあからさまに嫌そうな顔で、黙々と食べていた。
(・・・いつもと同じ物なのに、いつもより美味しくない・・・そう彼女のせいね)
因みにレイはシンジの隣で一番奥に座っている。
レイの向かいにカヲルが座り、カヲルの隣にミサトが乱入してきている形である。
カヲルは珍獣でも見るように、ミサトを面白そうに観察していた。
因みに食べ物を口に運ぶ速度は衰えていない。
「・・・ミサトさんの声援は、いつも有難く聞いてますよ」
「声援じゃない!指揮だっつぅの!」
唐変木なシンジの言葉は藪を突く能力しかなかった。
「これが飲みュニケーションと言うやつかい?ここまで本音しか出ないと収拾がつかないんじゃないのかい?」
「・・・これは只の酔っぱらい」
カヲルとレイは、正常な会話なのか電波なのか解らない会話を行っている。
(誰か僕に優しくしてよ!)
シンジは心の中で十数年前の心の叫びが蘇っていた。
「ほら!日向君!次ぎ行くわよ!次ぎ!」
「ミ、ミサトさん?今日はそれぐらいにして置いた方が良いんじゃ・・・」
「だぁ〜ぃじょぶよ、これぐらい!うっぷ」
「いや、ミサトさんは大丈夫かも知れませんけど、日向さんは徹夜明けですよ」
「二日や三日寝なくても人間死なないって」
「いや、そう言う問題じゃ・・・」
シンジがなおも止めようとするが、何故か起き上がったマコトがミサトに連れられて行く。
ミサトはとっとと店を出ており、マコトが会計を払っているようだ。
奢ると言って連れてきたのでは無かったのか?
しかし、そんな事はシンジ達も知らない。
(ありがとう日向さん。貴方のご恩は一生忘れません)
心の中でお礼を述べる事しかできないシンジであった。
「・・・やっと静かになったわ」
「かなり面白いリリンだねぇ」
「どちらかと言うと特別じゃないかな?」
「どうやらそのようだね」
「・・・問題ないわ」
「大丈夫かな」
「どうだろうねぇ。でも、なるようにしかならないさ。全てはリリンの流れのままに」
「母さんみたいな事言わないでよ」
「・・・割り切りなさい」
「そうなんだけどね」
「何か引っ掛かるのかい?」
「そりゃ勿論、引っ掛かるよ」
「・・・彼女は彼女だわ」
「兎に角、今は時じゃないのは確かだね」
「そうだね。今は何も出来ない」
「後2つだねぇ」
「爺さん達からすれば3つ?」
「・・・そろそろ計画を立てる必要があるわ」
「帰って考えようか」
「僕は構わないよ。もうお腹も一杯だしね」
「・・・私も」
そこには4人で食べたとは思えない程の空き皿が重なっていた。
まるで回転寿司の皿の如く。
「食事はリリンの産み出した娯楽の極みだねぇ。そうは思わないかい?」
「娯楽なの?」
「欲求として存在する食欲。それは栄養摂取で構わないのさ。だけどリリンだけは味付けを行う。つまり食い道楽と言う言葉があるぐらいだからねぇ」
「美味しい物を食べるのは娯楽って事?」
「余裕があるから出来る事さ」
にっこりとシンジに笑顔を向けるカヲル。
カヲルやレイの発言から。実は使徒って哲学者ではないだろうかと常々思うシンジであった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。