第拾九話
使える物の選択を
エヴァ参号機を吊り下げた巨大な全翼機は低空飛行を強いられていた。
十字架に張付けられた格好で吊された黒いエヴァ参号機。
「エクタ64よりネオパン400へ」
「ネオパン400了解」
「前方に積乱雲を確認した。指示を請う」
「ネオパン400より、積乱雲の気圧状態は問題なし。航路変更せずに到着時間を遵守せよ」
「エクタ64了解」
全翼機は雷鳴の轟く積乱雲の中に吸い込まれるように入って行った。
コンフォート17の一室。
知る人ぞ知る、人外魔境の腐海の中に蠢く布団。
そこに鳴り響く大音量の電話のコール音。
布団から顔も出さずに、ミサトは手探りで電話のコール音の元を掴む。
そのまま布団の中に持っていくと、漸く電話に出るミサト。
「はい、もしもし・・・・何だ、リツコか」
『なんだじゃないでしょ!今何時だと思ってるの!』
いきなりの怒声に、思わず受話器を耳から遠ざけるミサト。
そして、時計を見て眼が点になる。
慌てて布団をはね除けたミサトは、珍しく白い下着姿だった。
急いで制服を身につけるミサト。
幸いにも前日に用意していたのだ。
ドレッサーの前に座り、急いで身支度を整えている間も受話器からはリツコの怒声が響いていた。
「今出るから!」
それだけを言い、電話を切るミサト。
起きてから、ここまで5分と掛っていない。
それでも、その間ずっと怒鳴り続けていたリツコも大した者である。
「おはよう御座います!」
ミサトが玄関の扉を出ると深々と頭を下げる少年が居た。
シンジの保護者となっていないミサトは、この眼鏡の少年の事をあまり覚えていなかった。
「えっ?あっあぁおはよう。誰だったかしら?」
「本日は、葛城一尉に御願いに上がりました!自分を!自分をエヴァンゲリオン参号機のパイロットにしてください!」
ケンスケはミサトを真っ直ぐに見、その様な言葉を発すると頭を直角に下げる。
「へ?あっごめんね、今急いでるからまた今度ね」
ミサトは訳も解らず、未だリツコの怒声の恐怖が残っていたため、相手にせず走り去っていく。
その場には、直角に頭を下げたままのケンスケが残された。
愛車を酷使してNERVにやって来たミサトは、駆け込んだリツコの執務室に入った途端固まってしまった。
そこには、金髪の鬼女と3対の紅い瞳が、自分を睨付けていたからだ。
「ゴ、ゴミン・・・なさい」
流石のミサトも、これは不味いと感じたのか、透かさず謝罪を入れる。
「時間がないからすぐに出るわよ」
すっくと立ち上がり、白衣を翻したリツコがミサトの横をすり抜け部屋を出る。
その後を銀髪に紅い瞳の少年が付き添い、固まっていたミサトは2対の紅い瞳にさっさと行けと促されていた。
「早く行かないと置いて行かれますよ」
シンジの言葉にやっと我に返ると、ミサトは慌ててリツコの後を追う。
その様子を見てシンジはヤレヤレと肩を竦め、レイは、そんなシンジに微笑みを返していた。
松代にある滑走路でミサトは青筋を浮かべている。
「遅れる事2時間・・・漸くの御到着ね」
エヴァを吊した輸送機が漸く視界に入ったのだ。
「私をこんなにも待たせた男は始めてねぇ」
「デートの時は怒って帰ってたんでしょ」
苛ついているミサトに対してリツコは呆れたような声で返した。
「僕には迎えすら来なかったけどねぇ。これを自分の事は棚に上げると言うのかい?」
「別にあんたと待ち合わせなんかしてないでしょ!」
「成る程、これを逆切れと言うんだね。なかなか興味深いリリンだねぇ」
「誰が逆切れよ!」
「止めなさいミサト。大人げないわよ」
リツコはミサトを諫めながらもカヲルのリリンと言う言葉に眉を顰めていた。
そんな喧噪の中、輸送機は空挺投下よろしく、黒い参号機を滑走路に落としていく。
それは、十字架の足を少し吊上げる形で、滑走路に接触させると、そのまま十字架を輸送機から切り離し、エヴァが仰向けになる形で滑走路を走らせる物だった。
十字架自体に車輪が付いており、遠隔操作でブレーキや方向変換もできるらしい。
その一連の動作は見事と言える物であった。
屋外のエヴァ固定台に参号機を固定させ終り、リツコ達は安全な位置で起動実験の開始を行う。
この辺りはユイからの命令として、出来るだけ離れた位置、出来れば地下施設からの操作を指示されていたのである。
本部から持ってきたダミーシステムでまず起動実験が行われた。
「シンクロ率8%?!」
ミサトは、表示されているシンクロ率に驚愕の声を上げた。
「動いただけでも大した物よ。ダミーシステムだからこれから参号機用に調整すれば運用に耐えられる物は近いうちに出来るわ」
「フォースでの起動実験は行わないの?」
「起動したから、パイロットでの起動実験は本部に帰ってからで構わないわ。今は出来るだけデータを取りたいわね」
「えぇ?ここで起動するかだけでも確認しないの?」
「意味がないわ。それに参号機の調整も杜撰よ。本部に帰ってからね」
無下に否定するリツコにミサトは口を尖らせて、あからさまに詰らなさそうにする。
データを見てもチンプンカンプンなミサトとしては、起動の瞬間だけが起動実験の華なのである。
データ取りの間は暇を持て余すのだ。
それに、新しいパイロットが戦力としてどの程度なのかを早く知りたいと言うのもあった。
ミサトにとってシンクロ率は、戦力評価上、非常に高いファクターであるのだ。
「じゃぁATフィールドを発生させてみましょう」
そう言ってリツコがコマンドを入れ終った時、けたたましい爆発音と、大きな揺れがその場を襲った。
参号機を映しだしていたモニターは、眩い光で白く発光しているのみである。
「何?!何が起こったの?!」
「エヴァが拘束具を破壊して、動き出しています!」
慌てて叫ぶだけのミサト。
オペレータ達は、状況の把握に尽力していた。
「本部に連絡!パターンの照合を依頼して!」
リツコは、オペレータに指示を出しながら内心ホッと胸を撫で下ろしていた。
その可能性があるとユイ達に指摘されて来ており、カヲルを乗せずに済んだ事に少し安堵したのである。
「使徒だと言うの?!」
ミサトの叫びにリツコはコクリと頷いた。
『松代で爆発事故発生、被害不明』
「救援部隊を派遣、戦自が介入する前に全て処理しろ」
冬月が現場が離れている事に焦っているのか、いつもより慌てて指示を出す。
「了解」
「事故現場に正体不明の移動物体を確認」
「パターンオレンジ、使徒とは識別できません」
「第1種戦闘配置」
ゲンドウの静かな命令が下る。
『総員第1種戦闘配置』
『地対地戦用意』
リツコとミサトが居ないものの、本部にはシンジもレイも待機している。
オペレータ達は、普段通りに迅速に迎撃体勢を整えていった。
「野辺山にて目標の移動物体を光学で確認」
メインモニターに参号機が映し出され、発令所内にざわめきが起こる。
その姿は普段のエヴァよりも獣じみており、異様な戦慄を発令所にもたらした。
「やはりこれか・・」
予測してたとは言え、落胆の声で冬月が呟く。
「活動停止信号を発進、エントリープラグを強制射出」
相手がエヴァであれば、こちらからの信号により停止する可能性がある。
ゲンドウは指示を出した。
「駄目です。停止信号、及びプラグ排出コード認識しません」
マヤがコマンドを投入しながら報告する。
「パイロットは?」
「呼吸、心拍の反応はありません。恐らくダミーシステムです」
「不幸中の幸いだな・・」
「エヴァンゲリオン参号機は現時刻を以て破棄、目標を第拾参使徒と識別する」
「予定通り、野辺山で戦線を展開、目標を撃破せよ」
ゲンドウが高圧的に命令を発する。
パイロットが乗っていないと言う報告にある種の安堵を感じ、オペレータ達は迅速に命令に従った。
「目標を確認」
『リツコさん達は無事ですか?』
『無事よ!』
シンジの通信にリツコからの通信が割り込んで来た。
『よかった。カヲル君は?』
『ここに居るよ』
カヲル本人の声が聞こえシンジは安堵の息を吐く。
『じゃぁエントリープラグはダミーシステムで間違いないんですね?』
『そうよ!遠慮しないでガンガンいっちゃって!』
『ミサトさんも無事だったんだ』
『お陰様でね』
『じゃぁ行くよレイ』
『・・・了解』
リツコ達はヘリで本部に向かっており、野辺山付近で参号機が見えた為、通信を開くと当然だが緊急回線しか繋がらなかったのだ。
そこに、シンジの声が聞こえたため、リツコが返事をしたと言う訳である。
その遣り取りは当然発令所にも聞こえていた。
リツコの無事に安堵するマヤ。
ミサトの無事に安堵するマコト。
上層部も声には出さないが、張詰めていた空気が幾分和らいだ。
『・・・乗っていないわ彼(ちっ)』
レイは照準が合った瞬間、躊躇なくトリガーを引く。
それと共に参号機が跳躍したが、レイの射撃の方が速かった。
足を撃ち抜かれ跳躍しかけで崩れ落ちる参号機。
シンジはその機を逃さず、参号機に飛びかかる。
初号機は参号機をねじ伏せると共に参号機の頸椎にある粘菌状の物と一緒にエントリープラグを引き抜いた。
ぐったりと弛緩する参号機。
握り潰されるエントリープラグ。
それは、機械の詰ったカプセルであった。
聞いていたとは言え、シンジはこれで本当に安心出来た。
こうして第拾参使徒は、あっけなく殲滅された。
「参号機は、中破って所だけど、使徒に乗っ取られた機体を使う訳には行かないわね」
元々弐号機が格納されていたケイジに参号機は格納されている。
「他の機体が壊れた時の予備パーツとして保管するぐらいかしらね」
「ダミーシステムの試験機とするのも憚れるわ」
参号機を見上げ、ナオコ、キョウコ、リツコが溜息を吐きながら話していた。
「あら?何を言ってるの?エヴァは元々使徒のコピーよ。今更乗っ取られたぐらいで危険視する必要はないわ」
ユイの発言に眼を見開く3人。
「それじゃ運用するって言うの?!」
「えぇそのつもりよ」
「でも本当に危険じゃないの?」
「危険どころか、もしかしたら良い物が入ってるかもしれないわ」
「「「良い物?」」」
3人の反応に満足気なユイ。
しかし、ユイ以外の美女達も明晰な頭脳を持っている。
「そう言う事・・・」
「これもレイ君の差し金?」
「さぁ?証拠はないわね」
「策士よね。やっぱりうちのアスカを貰ってもらおうかしら」
「あの超絶ブラコンの妹が付いている限り無理じゃない?」
「じゃぁリっちゃんが落としてみる?」
「止めてよ母さん。私にも弟としか思えないわよ」
「血は繋がってないから問題ないじゃない。じゃぁ私が立候補しようかしら」
「何考えてるの?!母さん!」
「この見た目なら問題ないんじゃない?」
「それなら私も参戦しようかしら?」
「キョウコさんまで巫山戯ないで下さい!」
「あら巫山戯てないわよ」
世界的頭脳の4人であったが、やはり女性であったようだ。
姦しくケイジを後にする白衣を纏った4人の美女達であった。
「ここが待機室かい?」
「そうとも言えるかな?一応執務室なんだけどね」
シンジはカヲルとレイを伴いパイロット執務室にやって来ていた。
「まぁ書類仕事があるのは僕だけだから、待機室として使ってくれて構わないんだけどね」
「そうか、綾波二尉は一応士官だから仕事があるんだね」
アルカイックスマイルを浮かべて言われるとなんとなく気分が悪い。
そんな二人の遣り取りを気にする事なく、レイは既に読書の体勢に入っていた。
「ところで参号機はどうなるんだい?」
「それは技術部の結果待ちだね」
「もし封印とかになると勿体ないねぇ」
「その時はその時だよ」
たわいもない話をしているところにシンジの机の上にある電話が鳴った。
ここに電話が掛ってくる事は滅多にない。
とは言え、一応執務室であるので、シンジは徐に仕事口調で電話に出た。
「はい、綾波です」
「えっ?これからですか?」
「えぇ、ここに居ます。ちょっと待って下さい」
そして受話器の口を手で押さえながら、シンジはカヲルに向かって戸惑ったような顔をして尋ねた。
「これから起動実験をやりたいらしいんだけど大丈夫?」
「これは随分剛胆なリリンが居るようだね。僕は全く問題ないよ」
相も変わらずアルカイックスマイルを浮かべながら答えるカヲルに、引き攣った笑いを返しながらシンジは電話に応対した。
「はい、構わないそうです」
「30分後の第二試験場ですね。解りました伝えます」
電話を切ったシンジは、ふぅっと一つ息を吐き出し、カヲルに振り向く。
「ここで仕事の電話を受けたのは始めてだよ。なんか緊張しちゃった」
「それで僕は何処に行けば良いんだい?」
「案内するよ。レイも一緒に行こう」
「・・・了解」
パタンと読んでいた本を閉じると、すっとシンジの隣に並ぶレイ。
その動作はあまりに自然であった。
「後、0.3下げてみて」
オペレートルームの画面には、エントリープラグ内のカヲルが映し出されている。
リツコは色々とマヤに指示を出し、データ取りに忙しそうだ。
「はい」
そんなリツコの要求にもマヤは素直に返事をし、コンソールの操作を行っている。
「このデータに間違いはないわね」
「全ての計測システムは正常に作動しています」
ユイの質問に答えたのはマコトであった。
現在、発令所のメインオペレータ達も総動員で、起動実験が行われていたのだ。
難なく起動した後は、リツコ達の要請でそのままシンクロ実験となり、色々なデータが取られている。
「MAGIによるデータ誤差、認められません」
「よもや、これ程とはな、この少年は」
マヤの回答に、冬月が驚愕の声を上げた。
「しかし信じられません、いえシステム上有り得ないです」
データの内容は、マヤにはよく解っている。
それ故の発言であった。
「でも事実なのよ、事実をまず受け止めてから原因を探ってみて」
ミサトが参号機を見据えて呟いた。
(((貴女にだけは言われたくないわ)))
この場に居る白衣を着た女性の何人かと、マヤの思考は見事にユニゾンしていた。
「でも、これで運用に何の問題も無い事は立証されたわね」
「例の物は?」
「起動は確認出来ていないわ。まっ初号機や零号機もだけどね」
「レイ君に直接聞いてみたら?」
「そうね」
こそこそと話をしていた白衣陣からユイがシンジの元へ近寄って来た。
それをキョトンとした顔で見ているシンジとレイ。
「ちょっと聞きたい事があるの」
「僕にですか?」
小声で話すユイに何故か小声で返してしまうシンジ。
「参号機にSS機関は取り込まれて居ないの?」
「それは僕には解りませんよ。乗っていた訳じゃないので」
尚もヒソヒソと話をするシンジとユイ。
レイはシンジの腕にぶら下がり、しっかりと聞いていたが、眼は実験の状況を追っていた。
「じゃぁ乗っていれば解るのね?」
「言葉尻を責めないで下さい。乗っていても経験の無い事は解りませんよ」
それもそうねとユイは、追求を止め、白衣陣へと返って行く。
(全く、鋭いんだから)
シンジは、あっさりと解放され、腑に落ちない物があったが、責められるよりはましかと気にしない事にした。
「駄目ね、簡単には口を割らないわ」
「それって『取り込まれている』以外の回答を信じていないって事じゃない」
「そうじゃないわよ。でも何か知ってるのは間違いないと思うのよね」
「彼はなんて言ったの?」
「乗っていた訳じゃないので解らないって」
「当たり前の回答じゃない」
ナオコがユイに呆れたように言う。
こちらもユイが戻ってからヒソヒソ話だ。
(エヴァとのシンクロ率を自由に変えられる?それも自分の意志で・・・レイ君達よりシンクロに精通しているって事かしら?)
ユイ達がSS機関の有無に意識を取られている頃、リツコはカヲルのシンクロ技術とでも呼ぶべき物に眼を見開いていた。
エントリープラグ内には、いつものアルカイックスマイルを浮かべ眼を瞑っているカヲルが映っている。
「いやぁシンクロテストと言うのは何時もあんな物なのかい?」
カヲルが頭をバスタオルで拭きながらバスルームから出てきた。
今日は一人で入っていたようだ。
結局、起動実験の後のシンクロテストにリツコが燃え上がり、漸く帰ってこれたのだ。
今は、夜中の12時になろうとしている。
起動実験を始めたのが3時頃だったので、帰宅のために1時間掛ったとしても8時間を費やした事になる。
因みに、リツコ達はこれからデータの解析を行うとかできっと今日は徹夜であろう。
カヲルは、住居がNERV内に用意されていたのだが、結局シンジの家に一緒に住む事になった。
何故かマヤが積極的に協力し、手続きをMAGIを使って迅速に行ってくれたのだ。
カヲルは「良い人だねぇ」と言っていたが、レイは(余計な事を)と思っていたようだ。
別にカヲルが居ても構わないのだが、やっぱりシンジと二人っきりの方が嬉しいらしい。
「カヲル君が無茶するからだよ」
「そうなのかい?僕は普通にシンクロしたつもりなんだけどねぇ」
自分のしでかした事を知らないカヲル。
これが、ユイ達が何も知らなければ、今日は帰して貰えなかっただろう。
「まぁ有り合わせだけど御飯を食べようよ」
「これが和食と言う奴かい?」
テーブルに並んだ料理を見てカヲルが質問する。
そこにあるのは、野菜炒めと炒飯である。
「いや、和食と言うより中華かな?」
流石にシンジの料理が達人並みと言う事は無かった。
有り合わせでさっと作るならこんな物であろう。
因みにレイは、料理は出来なくは無いのだが、あまりやりたがらない。
「これは、どうやって使うんだい?」
カヲルは箸を持って?マークを頭に一杯浮かべている。
「あっごめんごめん、今スプーンとフォークを出すよ」
流石のカヲルも箸の使い方までは習っていなかったようだ。
それでも、普通に生活していれば、欧米には中華のファーストフード店も多々ある。
結局、外に出た生活をしてこなかったと言う事だろう。
「なかなか美味しいけど、なんとなくボリュームに欠けるねぇ」
「カヲル君は肉も食べられるの?」
「問題ないよ?」
「そっか、僕とレイはちょっと苦手なんだよ。僕は味を濃く付けてるような物なら大丈夫なんだけど、レイは全く駄目なんだ」
「それはまた、どうしてだい?」
「なんか血の臭いがね」
「成る程ねぇ。やっぱりシンジ君は繊細だね」
「いや、そう言うのとは少し違う気がするんだけど・・・」
「・・・貴方は鈍感なのね」
レイの一言に乾いた笑いがシンジとカヲルに張り付いていた。
「全く、少しは掃除したらどうだ?と、今更か」
「そうよ」
シンジもアスカも同居していないミサトの部屋には、加持が転がり込んでいた。
掃除云々を言っているが、かと言って加持が行う訳でもない。
「こうしているとなんか大学の頃を思い出すわ」
「あの時も煎餅布団だったな」
万年床で仰向けに煙草の煙を燻らせながら、加持はミサトの言葉に返事をする。
ミサトは加持の胸に頭を乗せて話をしていた。
「加持君、最近危ない事から足を洗ったの?」
「あぁ、知りたい事は殆どレイから教えて貰ったからな。今は普通の諜報員さ」
「私にもそれ教えて」
「知ってるんじゃないのか?」
「加持君の持ってる情報と照らし合わせたいの」
「俺の知ってる事は殆ど話したはずだが?」
「そうね、私は答えを出したいのかも知れない」
「何に?」
「自分が何なのか、これからどうすれば良いのか」
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。