第拾七話
生に至る笑い
「使徒の本体は、影のように見える地面の黒いシミです」
ブリーフィングルームでは、リツコがプロジェクタの映像を背に分析結果を説明していた。
暗い部屋にはかなりの数の人間が居る。
ゲンドウや冬月、シンジとレイも参加していた。
「では、上空の球体は?」
「あれこそが使徒の影のようなものです」
「どうしてそんな常識では考えられない現象が起こるのですか?」
「まだ仮説の域を出ませんが、地面のシミのように見える直径680メートル、厚さ3ナノメートルの影、その極薄の空間を内向きのATフィールドで支えている。結果として内部はディラックの海と呼ばれる虚数空間が形成されていると思われます」
「それはどういうことなんですか?」
「つまり異次元か別の宇宙かわからないけど、こちらとは別の法則の世界とつながっている可能性が高いわ」
「そんなばかな!」
叫声を上げる研究員にリツコは溜息を吐いた。
質問しているのは、普段発令所に居ない技術部の研究員である。
今まで以上に異常な使徒の形態に、科学者と名のつく人間が集められているのだ。
少なくともリツコの説明通り3ナノメートルの隙間に地上の兵装ビル達が吸い込まれたか、溶け込んだとしか説明がつかない為だ。
そして溶け込んだと言うのも非常識である。
映像上、どう見ても沈んでいく兵装ビル。
その速度で兵装ビルを溶かす事など、マトリエルの溶解液でも不可能だからだ。
ディラックの海など実物を見たことが有る者は、居ない。
その為に頭で理解できるであろう研究員を集めたのだが、彼らに取っても理解の範疇を超えていた様子だ。
「992個、現存するすべてのNN爆雷を使徒に投下、タイミングを合わせてEVAのATフィールドで使徒の虚数回路に千分の1秒だけ干渉するわ。その瞬間に爆発を集中させて、使徒をディラックの海ごと破壊します」
そこまで一気に話すとリツコは周りを見回した。
リツコにしても苦肉の策であり、成功する確率など導き出されてはいない。
しかし、何か案を出さないと話が進まないのも事実なのだ。
リツコとしては、この案に反対意見としてでも論議を進め光明を見出す事に期待していた。
しかし、集めた人間達から意見が出るような事はないようであった。
皆、俯いてしまっている。
溜息を吐きながら三賢者の方に視線を向けたが、三人共、首を横に振る。
藁にも縋る思いで作戦課の席に視線を向けた。
ミサトなら何か突拍子も無い案を出してくれるかも知れないと言う期待を持って。
しかし、ミサトはそれ以前に話が理解できなかった様子だ。
しきりに頭を捻っている。
リツコの眼にはミサトの頭上に幾つものハテナマークが浮かんで見えていた。
溜息を吐きながら視線を横にずらすとシンジが何か真剣な顔をして映像に見入っている。
「何か意見は無いかしら?レイ君?」
「あっ、意見と言うか、内向きのATフィールドで支えているんですよね?」
「えぇ推論でしかないけれど」
「だったら、ATフィールドを中和してやれば自滅するんじゃないかと思ったんですが・・・」
その言葉に皆、眼を丸く見開く。
そして歓喜の声を上げようとした処にシンジの言葉が続いた。
「でも内向きだから中に入らないといけないのかなって思ったんですけど、中に入って生きていられますかね?」
今正に、見えたと思った光明が見事に掻き消されて、再びブリーフィングルームは重い雰囲気に包まれた。
その雰囲気を壊したのはミサトであった。
「じゃぁさ弐号機にやらせてみれば?」
「どうやって?」
「弐号機を使徒に取り込ませて、中でATフィールド展開。これはダミーシステムに予め時限プログラムを入れておけばいいんじゃない?保険の為に自爆も入れておけば尚可ね」
「それは妙案かも知れないわ」
そこに同意を示したのは、今まで沈黙を守っていたキョウコであった。
「ダミーシステムの組み替えで3時間と言う所かしら」
ナオコも反対ではなさそうである。
「弐号機を捨てると言うのかね?!」
「NN爆雷992個よりは現実的ですわ」
冬月の言葉にユイが答える。
その内容に冬月は唸り声しか出せない。
「・・・その線で作戦を纏めたまえ、葛城一尉」
「はっ!」
ゲンドウの締めで会議は終了した。
「それで?実際どうやるつもり?」
ネルフ名物の長いエスカレータを降りながらリツコはミサトに声を掛けた。
「集められるだけNN爆雷は集めるわ。992個とは言わないまでも弐号機の自爆と合わせればリツコの計画と大差ないでしょ?それに内側からのATフィールドの干渉。念のためレイ’ズにも出て貰うわ」
「レイ’ズ?」
「レイ君とレイちゃんよ」
「あぁ成る程ねぇ」
ふと、とある前世紀に一世を風靡した某ゲームの魔法を思い浮かべたリツコだが、それを苦笑で誤魔化した。
「でもよく弐号機の自爆に誰も文句を言わなかったわね」
「言いたいのは山々よ。折角ダミーシステムも安定してきたのに、また零号機で遣り直しだわ」
「一緒じゃないの?」
「元々、専用機なのよ?貴女、アスカとレイちゃんが同じに見える?」
「有り得ないわね」
「パーソナルパターンも一致している所を探すのが大変なくらいよ」
「じゃぁ初号機は?」
「元々零号機で開発していたから零号機のデータは幾らかあるけど、初号機は皆無なのよ。ただ兄妹だけあってあの二人のパーソナルパターンは似かよっているけどね」
「じゃぁ弐号機じゃなくて零号機にした方が良かったの?」
「零号機はダミーシステムでATフィールドの発生に成功してないわよ」
「あっそれもそうか」
「・・・本当に思いつきだったのね」
リツコの白い眼にタハハと引き攣った笑いを浮かべるミサトであった。
弐号機のケイジにはアスカが居た。
シンジがアスカを呼び出したのである。
「そっか、これで本当にお別れになっちゃうのね。今までありがとう」
アスカが弐号機に向かって話し掛けている。
弐号機を見上げるアスカの眼は潤んでいた。
「人形だと思ってたけど、よくよく考えるとアンタはママを護ってくれていたんだものね。それに私も」
「アンタに乗れなくなったアタシだけどアンタと過ごした時間は、それなりに充実してたわ」
弐号機を見上げるアスカの瞳から涙が流れ落ちる。
「最後の仕事になるけど、これでアンタも戦いから解放されるのよ。頑張ってきなさい」
そう言ったアスカは、泣きながら無理に微笑みを作っているように見える。
暫しの沈黙がケイジを包んでいた。
グシッと鼻をアスカが啜った所でシンジが声を掛けた。
「・・・もういいかい?」
コクンと頷くアスカ。
随伴してきていた碇シンジがハンカチを差し出す。
アスカはそれを手に取るとビーッと鼻をかんだ。
碇シンジに手を引かれてケイジを後にするアスカ。
そんな二人をシンジとレイは微笑ましく見詰めていた。
二人の仲はそれなりらしい事は聞いていた。
勿論、二人ともそんな事は否定する。
しかし、アスカにとっても碇シンジは近しい存在である事は間違いない。
それは碇シンジに取っても同じである。
何より両方の母親が画策して何かにつけて引っ付けようとしているのだ。
今後、どう発展するかは解らないが、中二からの腐れ縁となる事は間違いないだろう。
「・・・でも、あの作戦では多分倒せないわ」
二人がケイジを去った後、レイがポツリと呟く。
「そうだね。どうやって倒したのか覚えてないしなぁ」
「・・・暴走」
「いや、確かにそうなんだけどね・・・」
無下もないレイの言葉に冷や汗を流すシンジ。
「最悪、僕が入るしかないかな」
「・・・一人で行っては駄目」
上目遣いで見詰める紅い瞳にシンジは、罪悪感を感じ後ずさる。
「でも、そのためにSS機関取り・・込ん・・だんだしぃ・・・」
「・・・駄目」
更に上目遣いで睨みつけるレイに、ただコクコクと頷くシンジ。
世間ではこれを恐妻とか尻に敷かれていると言う。
整理された作戦は、まず弐号機を射出。
弐号機に使徒の影を攻撃させる。
それで、使徒が弐号機を取り込もうとしたら、その影の円周外に初号機と零号機を射出。
弐号機のATフィールドを展開。
そこで徴発できたNN爆雷を投下。
NN爆雷の爆発と弐号機の自爆を合わせ、同時に零号機と初号機によるATフィールド展開。
と言う筋書きである。
各々の爆発タイミングはMAGIにより合わせられる。
「では、両パイロットはエントリー。作戦を開始します」
「「了解」」
ミサトの締めで作戦の確認は終了し、シンジとレイはケイジへと向かった。
戦闘配置が進むなか沈黙を護る使徒。
「あの使徒は一体何を目的にしているのかしら?」
「何か機会を伺っているのか、それとも何かを待っているのか・・・」
リツコとミサトが行動を起こさない使徒の思惑を推測している。
それは推測と言うよりも、無駄話に近い物であった。
コンタクトの取れていない使徒が知性があるとは思い難い。
ミサトにしても、本能のような物で攻めてきていると感じている。
リツコにしても、論理的な思考を持っているとは、考えていない。
しかし、果たしてそうであろうか?
少なくとも第壱拾七使徒、タブリスこと渚カヲルは言葉を話し、シンジに他の人類よりも心を開かせたのである。
マヤが弐号機をMAGIに操作させているのを、リツコはマヤの背後から真剣に見ている。
「弐号機、予定の配置に着きました」
コクリと頷き、エントリープラグ内が映し出されているモニタを覗き込むミサト。
『初号機、配置完了』
『・・・零号機、同じく』
時差なくシンジとレイから報告が上がる。
「NN爆雷は?」
「何時でもOKよ」
雛壇の3人はいつものように、慌ただしく端末を操作し、情報を収集している。
ゲンドウと冬月もいつものように静かにモニターを見詰めていた。
「では、作戦開始」
ミサトの号令が静かに響く。
マヤのオペレートにより弐号機がゼブラ模様の使徒にカーボンロッドを投げつけた。
「パターン青!弐号機の直下です!」
「よしっ!弐号機のATフィールドは?」
「弐号機、ATフィールド展開!」
「NN爆雷投下!」
マヤとマコトが各々の役割をこなし報告が続く。
モニターに映る弐号機はズブズブと使徒の影に飲み込まれ、既に胸まで埋まっていた。
「初号機と零号機はATフィールドの準備!」
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「今よ!ATフィールド展開!」
ミサトの号令と共にシンジとレイはATフィールドを全開する。
静まり返る発令所。
NN爆雷の振動すらやってこない。
「どういう事?」
「つまり・・・失敗」
ミサトの問いにリツコが答えた。
「レイ君、レイちゃん、一旦引き上げて。作戦を練り直すわ」
「駄目です!使徒、その範囲を広げ零号機と初号機の直下に!」
「何ですって!」
『くっ!レイ!』
シンジとレイは弐号機を挟んで対角線上に配置していた。
その距離は使徒の直径680メートル。
シンジは近くのビルに捕まると初号機を這い上がらせる。
そして、零号機目掛けて飛んだ。
「レイ君!」
『5分でケリを付けてきます』
シンジの通信を最後に零号機を抱締めた初号機は、零号機と共に使徒に飲み込まれていった。
誰一人、声を発する事も出来ず、発令所内は静まりかえる。
打つ手はない。
シンジの発した5分と言う時間をどのように対応すれば良いのか発令所の人間には判断できなかった。
オペレータと雛壇の女神達は、ただ一心不乱に情報の収集に努める。
呼吸さえ止めているのでは無いかと思われた静けさの中、シゲルの絶叫が響いた。
「使徒に変化!!」
「何っ!?何が起こってるの!?」
モニターに眼が釘付けであったリツコが叫ぶ。
「すべてのメーターは振り切られています!」
マヤは、慌ただしく使徒の計測状況を画面に出し報告した。
「まさか、レイ君達なの?」
何も打つ手がなかったミサトが呆然と呟いた。
使徒の影に亀裂が走り、血のように赤い液体が飛び散る。
地割れの様に罅割れる地面にある使徒の影。
それと同時に空中に浮かぶ球体も震えだし、亀裂が入ったかと思うと、そこから飛び散る血飛沫。
バカッと空中に浮かぶ球体が割れ、辺り一面に夥しい血をまき散らす。
その割れた所から零号機を抱えた初号機が出てきた。
「二人とも無事なの!?」
『5分過ぎちゃいましたか?』
「馬鹿・・・」
シンジの言葉をミサトは泪を浮かべた笑顔で迎えた。
「いやぁ、今日は本当、マジでヤバイかと思ったよ」
ビールを注ぎながらシゲルがシンジの隣に陣取った。
久しぶりの使徒戦後のお疲れ様会である。
アルコールも入り、使徒殲滅直後とあり、場は笑い声に包まれていた。
(この笑顔が生きているって事かな)
シンジも、緊張から解き放たれ一息ついた所であった。
シンジの反対側ではレイが陣取りクピクピと烏龍茶を飲んでいた。
度重なる温泉旅行で、NERVの人間としては見慣れた構図である。
飲み会と言えど、レイを一人で帰す訳にも行かず、最近ではシンジとレイは1セットとして扱われていた。
「レイちゃんもご苦労様」
「・・・問題ないわ」
社交辞令として声を掛けたシゲルだったが、相変わらずのレイの態度に苦笑する。
芳しくはないが、既に慣れた事である。
「しっかし、よく戻ってこれたよな」
「そうですぅ!危険すぎますぅ!無鉄砲ですぅ!」
シゲルがシンジと話をしようとしている所にマヤが割り込んできた。
少々アルコールが入っているようで顔が赤い上に言葉が子供っぽくなっている。
本来であれば、鬱陶しいと追い払う所、そこはマヤに気があるシゲルと、元々ミサトに教育され酒乱に免疫があるシンジである。
「マヤさん、顔赤いですよ?」
「そんな事はどうでも良いのっ!いい?レイ君!」
「は、はい」
「・・・(バタン)くぅ〜すぅ〜」
マヤの剣幕に驚いていた所だったが、当のマヤは急にシンジの膝に倒れ込んで寝息を立て始めてしまった。
「マヤちゃん、この飲み会に出るためかなり頑張って事後処理終らせてたからなぁ。きっと疲れが出たんだよ」
シゲルは、(どうして俺の膝に倒れ込んでくれないんだよぉ)とサメザメと泪を流しながらも、マヤの釈明を行う。
「本当、皆のおかげで僕達は安心して戦えるんですよ」
「そんな事より、で?虚数空間の中って実際どうだったんだ?」
「え?何にもない所でしたよ?」
「それで、どうやって出てきたんだよ?」
「目一杯ATフィールドを展開しただけですよ。そしたら亀裂が見えたのでそこから出てきただけ」
クピッとビールを飲み干すシンジ。
実際、その通りなのでこれ以上言いようがないのだ。
SS機関を取り込んだ初号機で目一杯展開したATフィールドと言うのが如何ほどの物なのかは不明だが、シンジとしてはこれ以上の事は知らない。
こっそり零号機にSS機関を取り込んだ事は、内緒だ。
このような席で言える事でもない。
レイは元々そのつもりだったらしい。
弐号機の消失に頭を抱えていた首脳陣だったが、この事を聞き幾分収まっていた。
公になってはいないが、これでSS機関搭載のエヴァが2機となったのである。
弐号機と引き替えになった戦力は増加したと言っても良かった。
(へぇ?これがゼーレの面々か)
ホログラフによる薄暗い会議室に、シンジは直立不動で立っていた。
人類補完委員会による事情聴取と言う事だが、実質はゼーレのメンバーである。
シンジも顔を見るのは初めてであったのだ。
「先の事件の使徒が我々にコンタクトを求めたのではないのかね?」
「そのような事象は感知できませんでした」
内心ではほくそ笑みながらもシンジは淡々と質問に答える。
「使徒は人間の精神、心に興味を持ったのかね?」
「その返答はできかねます。はたして使徒に心の概念があるのか人間の思考が理解できるのか全く不明です」
「これが予測されうる第十三使徒以降とリンクされうる可能性は?」
「これまでのパターンから使徒同士の組織的な繋がりは否定されます」
「これまではな」
「今後の作戦立案に考慮するべき事項と言う事でしょうか?」
「君に質問は許されない」
「はい」
全く馬鹿げた話である。
聞いて来た事に対し、今後の対応についての具申であり質問と言えるような物では無い。
傲慢な輩が自らの不安を払拭したいがためだけの聴聞であり、事情聴取などと言うのも烏滸がましい。
(やれやれ、こんな御達者倶楽部の戯れ言でサードインパクトが起こされようとしているのか)
シンジはほとほと落胆していた。
もっと威厳のある、崇高な信者達かと思っていたのだ。
それが正しいかは別として、ある種世界を牛耳っている面々である。
しかし、予想に反し、妄想に膨らみ理解出来ない物を自分達の論理だけで理解した気になり安心する、単なる小心者の集団。
それがシンジが感じた印象であった。
「御苦労だった下がりたまえ」
「はい、では失礼します」
気が晴れたのか、シンジは呆気なく解放された。
(貴方達の目論見は僕が潰しますよ)
シンジの下がった後に、ゲンドウがライトアップされ姿を現わした。
「使徒は知能をつけはじめています。残された時間は・・・」
「後僅かか」
ゲンドウの言葉に議長であるキールが続ける。
「はい」
ゲンドウの返事と共に消え去るホログラフ。
あまりにも尊大な態度の面々であった。
「消滅!?確かに第2支部が消滅したんだな!?」
発令所に普段温厚な冬月の怒声が響いている。
「はい、すべて確認しました。消滅です」
報告したマヤの画面には「VANISHING」の文字がめまぐるしくスクロールしていた。
「まいったわね〜!」
ブリーフィングルームにミサトのぼやき声が響き渡る。
「上の管理部や調査部は大騒ぎ、総務部はパニクッてましたよ」
マコトも本部の動きを伝えるのだが、どこか他人事である。
「で、原因は?」
「未だ分からず。手がかりはこの静止衛星からの画像のみよ」
リツコは眼でマヤに画像操作を促した。
ブリーフィングルームの巨大床面ディスプレイに衛星軌道上からの北アメリカ大陸が表示される。
ネバダ州が拡大されていく中、荒れ果てた砂漠のような地形の中央にいくつかの建造物が見えている。
「10秒前から再生します」
「8」
「7」
「6」
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「コンタクト!」
マヤのカウントダウンの後、画面では音もなく建造物の中央から赤い光が広がっていく。
半球状に陥没していく地面。
半径35キロまで広がったところで衛星のカメラが破壊され、画像はノイズのみとなった。
ディスプレイには”VANISHING NERV−02”の文字だけが点滅している。
「エヴァンゲリオン四号機ならびに半径89キロ以内の関連施設はすべて消滅しました」
淡々と報告を続けるマヤ。
事務的にこなさなければ、その衝撃に押し潰されそうなためである。
「数千の人間も道連れにね」
技術指導をしたネバダ支部の同僚のことを思いだして呟いたリツコの言葉にマヤは苦痛の表情を示す。
その技術指導の際にはマヤも同伴していた。
普通の女性の優しさを持ったマヤに耐えられる事実では無いのだ。
それでも、気丈にオペレートを続けていた。
そんなマヤの心情を察し、リツコも失言だったと気付いたようで眉間に皺を寄せる。
「タイムスケジュールから推測して、ドイツで製造されたSS機関の搭載実験中の事故だと思われます」
シゲルが取り寄せた資料をめくりながら推測された結論を述べた。
「予想される原因は材質の強度不足から設計初期段階のミスまで3万2千768通りです」
「妨害工作の線も考えられるわね」
ミサトは電源喪失事件の事が忘れられなかった。
「でも爆発ではなく、消滅なんでしょ?・・・つまり消えたと」
マコトはSS機関の事故なら爆発するのではないかと思ったのだ。
「たぶんディラックの海に飲み込まれたんでしょう。先のエヴァのように」
「じゃあ、せっかく製造したS2機関は?」
「パーよ。夢は潰えたわ」
「よく解らない物を無理して使うからよ」
ミサトとしては、ここNERV本部にその知識は結集されている。
東方の三賢者を持ち、リツコやマヤまでいる本部は、実際NERV内でその技術力は特出していた。
しかし、それを認めない主にアングロサクソン民族が独自にイニシアティブを取ろうとして起こした事故に間違いはない。
使徒と言う人類全体の敵が攻めてきているのに、縄張争いに固執する輩にミサトは憤慨していた。
リツコはポケットに手を突っ込んだまま表向きは冷静にミサトの言葉を聞いていた。
そっと顔を背けた後、心の中で呟く。
(そのよく解らない物を無理して使って私達は生き延びているのよミサト)
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。