第拾伍話
温泉、憩いの場
加持は事の顛末を聞き、走っていた。
（なんてこったい・・・）
ただ侵入し精々ハッキング止まり。
それがミサトだと解れば、そこで終りになるようにわざわざ申請までしていたのだ。
しかし、その結果はとんでも無い事になっていた。
それを予測できなかったからと言って加持を責めるのは酷であろう。
しかし、加持は後悔していた。
自分があんな事を指示しなければ・・・
その思いに囚われ病院へと向かう足が、我知らず駆け出す。
「葛城！」
病室の扉を開けた加持の目の前には、数々の機器を取り付けられ眠っているミサト。
使徒に侵食された事は、極秘とされている。
保安部にも単独で使徒に向かった結果だと言ってある。
従って加持にも、その事実は知らされていない。
ただ、生身で使徒の近くにおり、その影響で昏睡状態とされていた。
そっとミサトの傍に近寄り手を握る加持。
「すまなかった葛城」
加持の声を聞く者は、この場には居なかった。
暗闇にスライドが映される様に使徒戦の一場面が映し出されている。
第参使徒、サキエル戦。
ファーストチルドレン綾波レイにより殲滅。
その危なげない戦闘は、期待通りと言える。
第四使徒、シャムシェル戦。
ファーストチルドレン綾波レイにより初号機で出陣するも、民間人がシェルターから抜け出し、苦戦を強いられる。
特筆すべきは、通称釣り竿と呼ばれる安価なカーボンロッドによる戦闘の有効性を見出せた事。
第五使徒、ラミエル戦。
一度目の強行威力偵察により、撃退される初号機。
次いで、使徒の盲点とも言える下方からの一点突破攻撃によって使徒に致命傷とも言うべき成果を上げる。
この際、ダミーシステムによるエヴァの起動が確認される。
その後、初号機のカーボンロッドにより殲滅。
第六使徒、ガギエル戦。
太平洋艦隊に運搬されてきた弐号機と、太平洋艦隊の援護射撃により殲滅。
第七使徒、イスラフェル戦。
弐号機単独で水際迎撃を行うも、使徒分裂後、弐号機は敗退。
Ｎ２爆雷により、使徒の構成物質の２１％の焼却に成功。
その後、初号機と零号機のユニゾン攻撃により殲滅。
この際、綾波レイの妹、綾波レイカがサードチルドレンとなる。
第八使徒、サンダルフォン戦。
幼体である使徒に対し、改造した観測機により冷却液を射出する事により圧壊。
第九使徒、マトリエル戦。
ＮＥＲＶ内停電となるも、迅速な復旧。
初号機と零号機の波状攻撃により使徒殲滅。
この少し前、弐号機から惣流＝キョウコ＝ツェッペリン博士がサルベージされる。
第十使徒、サハクィエル戦。
衛星軌道上から落下してくる使徒を、空中で接触したエヴァと共に日本海に激突。
使徒は消滅し、その爆発の余波で初号機は第三新東京市まで戻される。
第十一使徒、イロウル戦。
NERV本部への進入は誤報と報告される。
『いかんなあ、これは』
『さよう、早すぎる！』
暗い部屋の中央でゲンドウがひとりスポットライトを浴びながら座っていた。
それを取り囲むように委員会の老人達が責め立てる。
『使徒がネルフ本部へ侵入するなど予定外だよ』
『まして、セントラルドグマへの侵入を許すとはな』
『もし、アダムとの接触が起こればすべての計画が水泡と化したところだ』
口々にゲンドウを詰るがゲンドウはいつものポーズで平然としていた。
「本部にアダムは存在致しませんが？」
『何を今更、３年前にドイツを襲ったのは君じゃないのかね？』
これは実はシンジが行った事であった。
従ってゲンドウに取っては正に寝耳に水である。
最も、そうであろうと言う確信は持っていたが、敢えて問い質すつもりもなかった。
「言い掛かりも程ほどにして頂きたいですな。何を証拠にその様な戯れ言を仰っているのでしょうか？」
『笑わせるな碇！事実の隠蔽はキミの十八番ではないか』
『それに、独断での惣流博士のサルベージ。この修正容易ではない』
「惣流博士のサルベージは、計画して実行した訳ではありません。それは報告した通りで御座います」
『ならば、何故すぐに再度シンクロさせエヴァに取り込ませなかったのだ』
「ひとつには、意識がなかったためシンクロが不可能であった事。ひとつには偶然起こった事象のため下級職員まで見ておりセカンドチルドレンにその情報が渡る恐れがあったこと。そしてセカンドチルドレンにその事が噂により告げられた際の弊害を避けるため逢わせるしかなかった為です」
『所詮子供、脅すなり洗脳するなりすれば良い事だろ』
「タイムスケジュールは死海文書の記述どおりに進んでおります」
下らない話はさっさと終えろとばかりにゲンドウが言い放った。
裏死海文書については、ユイが居る現在、使徒の襲来やその他の事象についてはかなり正確に解読されている。
いや、新たな解読事実としてユイが報告書をあげているだけで、実際は自分達に都合良く進めようとしているだけであった。
この事によりゼーレは、ゲンドウ達が裏死海文書通りに勧めているのに対し、自分達の思い通りになっていない事にストレスを感じていた。
いろいろとＮＥＲＶに都合良くなっているのでは無いかと言う疑問もあるのだが、使徒に対しての解読があまりに正確なため、表だって反論できなくなっているのだ。
この場はそう言うゼーレメンバーの鬱憤晴らしの場として設けられている。
従ってキールもゲンドウを糾弾しようとは考えていない。
『まあ良い。今回のキミの罪と責任は問わない。だが、キミが新たなシナリオを創る必要はない』
「わかっております。すべてはゼーレのシナリオどおりに」
ゲンドウの返答と同時にホログラフの老人達は消えて照明がついた。
「・・・下らん」
誰も居なくなった部屋でゲンドウは独り吐き捨てる様に呟いていた。
「何を調べているの？キョウコ」
「えぇアスカがプールのある温泉に行きたいから近場にないかって言う物だから・・・」
端末を操作して検索していたキョウコの後ろからユイが声を掛け、キョウコは気まずそうに答えた。
「あら？じゃぁうちのシンちゃんと皆で行きましょうよ」
「何か聞き捨てならない話をしてるわね」
ユイが眼を輝かせ出した時にナオコが割り込んでくる。
「じゃぁいっその事リっちゃんも誘って３家族合同旅行にしちゃいましょうよ」
「それは良いわね、偶には全員でＮＥＲＶを離れるのも一興だわ」
着々と伝説の地場は固まっていく。
一方、エヴァの損害も少なく、最近暇が出来ているマヤは休憩とばかりにシンジの執務室に訪れる事が多くなっていた。
プシュッと言う音と共にマヤが入って来ると、アスカとレイが温泉ガイドを眺めている。
シンジの執務室と言ってもパイロット控え室と兼用のため、ノックをする事も無いのだ。
「あら、アスカちゃん達、温泉に行くの？」
まずいっ！と言う顔をするアスカ。
しかし、レイには関係なかった。
「・・・アスカとシンジ君、兄様と私で行く予定です」
なにげにアスカと碇シンジ、シンジと自分のペアを強調して説明するレイ。
（余計な事言うんじゃないわよ、バカレイ！）
マヤも恋敵と判断しているアスカは、脳内で詰っている。
「わぁ、何時ですかぁ？私も一緒に行きたいなぁ」
「休みが合えば、一緒に行きましょうか」
（あぁ・・・綾波先輩ぃ・・・このバカレイがぁ！！）
盛大にアスカの脳内でレイは百叩きにあっていた。
「本当！じゃぁ日程が決まったら教えて下さいね！絶対ですよ！」
ＭＡＧＩを駆使してでも休暇を獲得する事を画策するマヤ。
そして、肝心な時に仕事が残っていてはいけないと一心不乱に今ある仕事を終らせるマヤに、同僚のオペレータ達は不審な物を感じ取った。
「マヤちゃん、そんなに根を詰めなくても良いんじゃないかな？」
「駄目です！温泉に行けなくなっちゃいます！」
仕事に集中していたためシゲルの言葉に不用意な発言をしてしまうマヤ。
「温泉？何時行くんだい？」
しまったと思った物の時既に遅しであった。
パチッと言う音と共に冬月が広大な司令室で将棋の駒を置く。
何故か今は、ゲンドウと二人きりであった。
「予定外の使徒侵入。その事実を知った人類補完委員会の突き上げか」
「・・・切り札は全て破壊している。彼らは何もできんよ」
「だからと言って焦らすこともあるまい。今、ゼーレが乗り出すと面倒だぞ？色々とな」
「・・・全ては我々のシナリオどおりだ。問題ない」
「アダム計画はどうなんだ？」
「・・・順調だ。２％も進んではおるまい」
ゼーレは自ら自分達の元にアダムが無い事を露見した。
その事によりゲンドウはゼーレの焦りが強い事を確信していたのだ。
「そう言えば、レイ君達から休暇届けが出ているぞ？許可して構わないか？」
「・・・問題ない」
「同じ日付でオペレータの３人も出ているが構わんか？」
「・・・次ぎの使徒までは余裕がある。偶には良いだろう」
「ユイ君達からも出ているが？」
「・・・問題な・・・３人共か？」
「あぁそれにリツコ君もだ」
「・・・何を企んでいる？」
「何でも温泉に行くらしいぞ」
「・・・冬月、俺に力を貸せ」
「悪いが俺も同日に休暇を取るぞ」
「・・・冬月、俺を裏切るのか？」
誰も居ない発令所。
いや、ただ一人日向マコトだけが端末に向かいマンガ本を読んでいた。
「そりゃ葛城さんが行けないんだから構わないって言ったさ。だけど・・・だけど・・・何で俺一人なんだあぁっ！」
メインスクリーンさえ消えている暗い発令所ではマコトの叫びも寂しく響くだけであった。
山林の道を数台のバスが連なって走る。
バスの正面に書かれている文字。
【ＮＥＲＶ御一行様】
「はぁ・・・なんでこんな大事になっちゃったのかなぁ」
バスの最後尾の席でシンジは盛大な溜息を吐き嘆いている。
「山、重い山、時間をかけて変わるもの
空、青い空、目に見えないもの、目に見えるもの
太陽、一つしかないもの・・・」
レイは虚ろな眼で景色を眺め現実逃避していた。
結局、自分も行きたいためゲンドウは司令部企画温泉旅行と言う事にしたのだ。
ゲンドウは最初ＮＥＲＶ全職員旅行とするつもりだったが、それは冬月に却下された。
「馬鹿かお前は、５０００人もの職員を全員連れて行ける訳がないだろ！」
観光バス１００台の団体旅行と言う物も見てみたい気もするが、実質的に不可能であろう。
第一、そんな人数を収容できる温泉旅館があるとは思えない。
そして、司令部企画と言う事にしたのだ。
司令部企画のため、全ての手配をしたのはシゲルである。
事の発端を知っているシゲルとしては、マヤを置いていくわけにはいかない。
司令部だけならゲンドウ、冬月、ユイ、ナオコ、キョウコ、シゲルの６人で済むのだが、事はそれでは済まなかった。
何しろよくよく聞いてみると、始まりはアスカが言い出した事でシンジやレイを連れて行かないのなら本末転倒な話なのだ。
当然だが、司令部だけとなった日にはまず、アスカとマヤを敵に回す事になるだろう。
マヤに淡い恋慕を抱いているシゲルとしては、それだけは避けなければならない。
恋敵の片棒を担ぐような行為ではあるが、マヤに嫌われれば本末転倒である。
すると司令部にマヤだけを参加させる訳に行かない。
リツコはナオコの家族と言う事でなんとかなるが、シンジとレイも一緒に行ける要因がない。
そこで、考えた苦肉の策が発令所勤務者全員と言う案であった。
無理があるかと思ったシゲルであったが、この案は簡単に了承された。
そこで冬月が出した条件が、初勝利の宴会の時と同じく最上段のオペレータ一人を残す事だったのである。
シゲルはマコトと交渉し（発令所全員が居なくなるとは言わなかった）マコトが残る事になったのである。
パイロットであるシンジとレイをそれに同行させるのは変だと思われるかも知れないが、これは誰も文句を言わなかった。
しかし、保安部、諜報部にしては堪った物では無かった。
ＮＥＲＶ本部の要人が全員一緒に行動するのだ。
結局、先頭と最後尾は護衛とか保安部とかが乗ったバスとなり、大所帯になっているのである。
バスの中ではビールが振る舞われ、皆、結構出来上がっている。
「はぁあっ！折角綾波先輩とプライベートで一緒に温泉旅行って思ってたのに、ママったら！」
ちゃっかりとシンジの隣の席を確保しているアスカがむくれていた。
「これはキョウコさんの策略だったの？」
「シンジのパパらしいです」
シンジの問い掛けに顔を少し赤くして答えるアスカ。
「・・・仕切っていたのはロン毛」
「あんたがマヤに喋っちゃうからでしょ！」
「・・・それでも発令所全員とはならないわ」
「レイ君飲んでるぅ〜？」
マヤがビールを抱えてやって来た。
つくづくミサトが入院中で良かったと思うシンジであった。
シゲルは幹事と言う事で忙しそうである。
旅館前に従業員一同が並び頭を下げて迎える中、ＮＥＲＶ御一行様を乗せたバスが入っていく。
本日は、ＮＥＲＶの貸し切りとなってしまった温泉旅館であった。
勿論、アスカの要望通り温泉プールがある。
抑える所は抑えているシゲルであった。
「綾波先輩っ！プールで待ってますからね！」
アスカは強引に告げるとキョウコと共に部屋へ荷物を置きに行く。
「シンジも一緒に行こうな」
「え？あっ、は、はい」
にっこり笑い碇シンジに声を掛けると、シンジも荷物を持って与えられた部屋へと移動した。
「ふぅ・・・なんか騒がしい旅行になっちゃったね」
「・・・そう？解らない」
「そっか旅行なんてしたこと無かったもんね」
「・・・そうね」
「使徒戦が終ったら、二人でゆっくり旅行でもしようか？」
「・・・えぇ」
物言いは端的で素っ気ないが、レイはシンジの方を向いて微笑んで話をしている。
「さぁ、早く行かないとアスカがまた騒ぎ出すから行こうか」
「・・・解ったわ」
シンジとレイは水着を持ってプールへと向かう。
途中、碇シンジを誘うため、ゲンドウ達の部屋へ寄ったが、ユイが一緒に連れて行くので問題ないと言われ二人で向かった。
何時もは家族連れで賑わっている温泉プールも今日はＮＥＲＶの貸し切りのため、人も疎らであった。
シンジはプール脇にあるビーチチェアに腰掛け、飲み物を飲んでいる。
レイは、プールに浮かんでいた。
白い水着は、レイの白い肌を際だたせ、まるで水の妖精が漂っている様に見える。
暫くするとわさわさとＮＥＲＶ職員達がやってきて、そこそこ芋洗い状態になった頃、レイはプールから上がり、シンジの隣に腰掛けた。
「きゃぁ〜レイくぅん。こっち向いてぇ〜」
何故か黄色い声を掛けられるシンジ。
律儀にそちらを向き手を振る。
そうこうしているうちに、ナオコとリツコがやって来た。
「ちょっと母さん、それ露出し過ぎじゃない？」
「何言ってるのよ、こんな良いからだ見せて上げないと可哀想でしょ？」
「歳を考えてよね」
「実年齢より見た目よ」
それは親子とは思えない、二人組。
リツコも結構際どいハイレグなのだが、ナオコの大胆な水着からすると可愛い物であった。
ナオコとリツコのプロポーションに見蕩れる男達も多数であった。
そして続くは惣流親子。
こちらも親子と言うより少し歳の離れた姉妹と言う感じがする。
金髪に碧眼。
外人ならではの腰の高さと足の長さに男共は感嘆の溜息を吐き、女性陣は落胆の溜息を吐く。
続いて現れたのは、当然、碇親子。
しかし、ユイだけであった。
更衣室が男女別であることから、それはそうであろう。
そして、普段白衣に隠れている、その姿態は、やはり溜息を誘う物であった。
大取を務めるゲンドウとシンジ。
男の水着など誰も興味は無いのだが、ゲンドウのその、アマレスのユニフォームの様なフォルムと趣味の悪い横縞に、その場に居た全員精神汚染を受けたのは言うまでもない。
相変わらずの髭面にサングラスの極悪顔。
一部の女子職員は溺死体の如くプールに浮かんでいた。
「なんでアタシがこんな事しなくちゃ行けないのよ！」
アスカは碇シンジの手を取って泳ぎを教えていた。
「ぜ、絶対離さないでよ！」
いつになく、相手の不機嫌な顔を伺う余裕も無くなっている碇シンジ。
「はいはい、解ってるわよ」
本人達は兎も角、端からみれば仲の良い中学生のカップルであった。
一通りプールで泳ぎ、その後、温泉に浸かった後、お待ちかねの宴会である。
それは、夕食を兼ねて、大宴会場で行われた。
「えぇ〜本日は、碇司令のご厚意によりこの様な旅行が実現いたしました」
全員が揃ったところでシゲルのスピーチが始まる。
この手の物は大概、誰も聞いていない物だ。
しかし、いざ行う側としては念入りに準備を行う。
多分、普段聞いていないから、それで良いのかどうか悩むのかもしれない。
「それでは、乾杯の音頭を副司令に取って頂きます」
「えぇ〜只今ご紹介に預かりました冬月です。本日は・・・」
これも恒例であろう。
「それでは、今後の使徒戦の勝利を祈念して、乾杯！」
「「「「「かんぱぁ〜い」」」」」
漸く長い話も終り、皆、思い思いに箸を渡らす。
何故か女性陣は皆、浴衣姿である。
こう言う時、若い女性は浴衣を嫌い、スェット等を履く物だが・・・
その疑問はすぐに晴れる事となる。
次々とシンジの席にお酒を注ぎに来る女性陣。
態とかなり着崩れさせて来る者も居る。
一方、シンジはそんな事には気付かず愛想笑いを振りまきそれに応えていた。
しかし、参加者がどう見ても女性陣の方が圧倒的に多い。
強面の保安部や諜報部は、今は警備と言う事で宴会に参加していないのもその要因であろう。
交代で温泉には入っているらしい。
ゲンドウと冬月は、上座で徳利からお酒を注ぎ合っていた。
どうも、どちらも相手を先に酔い潰そうとしているとしか思えないピッチである。
「・・・冬月先生、まだまだだな」
「何を言う六分儀、お前こそまだまだだ」
どうやら相当出来上がっているらしい。
お互いの呼び方が昔に戻っている。
しかもゲンドウは呼び方こそ戻っているが、物言いは横柄なままである。
「１番、青葉シゲル行きます！」
いきなりマイクを持ちだし、シゲルがギターのソロ演奏を始めた。
どうやら宴会の余興のつもりのようだ。
少数の拍手を受け下がるシゲル。
その背中が寂しそうなのは気のせいであろう。
「２番！伊吹マヤとその一味行きます」
シンジは盛大にずっこけた。
何故なら、そこには着ぐるみを着た５人の熊さんが踊りを始めたのだ。
しかし、驚いているのはどうやらシンジだけの様子だ。
「ま、マヤさんってああ言う性格だったんだ・・・いやそれより何時のまにあんな物を準備していたんだ？」
呆然と見ているシンジを横目で見ていたアスカの眼がキラリと輝いた事に気が付いたのはレイだけであった。
終了と同時に我知らず拍手をするシンジ。
レイはキョトンと箸をくわえ、首を傾げていた。
「３番、カスパー専属オペレータきゃぁっ！何するの！」
「３番、惣流アスカとその下僕行きます！」
どやらアスカが割り込んだ様だ。
そして、その下僕とは当然の如く碇シンジ君。
既に諦めた顔でアスカに従っている。
二人が披露したのはユニゾン訓練で使われたユニゾンダンス。
何時のまに練習したのか、しっかりユニゾンしている。
何故か、大盛況で、我も我もと壇上に上がり踊り出した。
気が付くとユイ、キョウコ、ナオコにリツコまで踊っている。
因みに皆、浴衣姿である。
碇シンジは、速攻で鼻血を出して倒れている。
因みにアスカは浴衣の下に短パンとＴシャツをしっかりと着ていた。
「ね、ＮＥＲＶってこんな組織だっけ？」
「・・・知らないわ、多分私は３人目だから」
「ギャグのつもり？」
シンジの言葉に顔を紅くしてそっぽを向くレイ。
宴会は盛大なダンスパーティ？で幕を閉じた。
と言うか酔って踊った物だから、その場で寝てしまう人続出だったのである。
当然、これが後世で伝説となったＮＥＲＶ使徒戦中なのに大宴会その１である。
暗い病室に定期的な機械音だけが響いている。
そこに横たわる、ロングヘヤーの黙っていればかなり綺麗な女性、葛城ミサト。
月明かりしかない、その部屋でその女性の手を握る男、加持が居た。
「葛城、ＮＥＲＶは俺が思ってたより健全な組織みたいだ」
加持が話し掛けるが返事は無い。
「今は、発令所の殆どが温泉に慰安旅行だ」
男の女性を見る眼は、優しげである。
話し掛ける言葉も普段とは違って優しさを含んでいる。
「どうやら心の闇に囚われて生きているのは、俺と葛城だけのようだな」
加持はミサトの心の闇、使徒に対する復讐と言う怨念の様な物を知っていた。
そして、加持自身も大学時代に付合っていたミサトが、そこまで固執しているのは何かと言うのを調べる為に、真実を知りたいと言う行動に出ているのだ。
「葛城は何処まで真実を見た？」
加持はセカンドインパクトの事実をほぼ掴んでいた。
それ故に使徒に対する復讐に燃えるミサトを放っておけないで居たのだ。
「葛城・・・眼を醒ましてくれたら８年前に言えなかった言葉を言うよ」
ミサトの手を握り締め耳に唇を近付け囁く加持。
暫くして顔を上げた加持の眼には涙が浮かんでいた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。