第拾参話
奇跡より現実


「いやぁ聞きしに勝る美人ですなぁ・・・痛っ」
ミサトの横で加持がビールを飲みながら、キョウコに向かってリップサービスを行っていた。
そこにミサトが肘鉄を食らわしたのである。

今日は、キョウコの全快祝いとアスカ宅入居祝い?と言う事でアスカの家でささやかなパーティが行われていたのだ。
そこは根本的に欧米人の二人である。
パーティのために掛ける力を惜しまない。

アダルトチームからはユイ、ナオコ、リツコ、マヤ、マコト、シゲルにミサトと加持。
チャイルドチームから、ヒカリに碇シンジ、トウジ、ケンスケとかなりな人数である。
そして、我らがシンジとレイは少し遅れて来る事になっている。

庭でバーベキューを焼きながら、テーブルの上には数々の料理。
フルーツポンチやレモネードもあり、七面鳥の丸焼きや、ローストビーフなど豪華絢爛と言うところだ。

かくして、全くささやかでない本格的なパーティと相成った訳である。

「そんなに恰好いいの?綾波さんのお兄さんって」
「そりゃもうっ!ここにいる芋の固まりとは月とスッポン!比べるだけ綾波先輩に申しわけないわ」

「確かにシンジの兄さんには敵わんわな」
「あれは反則的に恰好良すぎるよ」
「そうだね」
3馬鹿トリオもこの意見には反論出来ない様子だ。

「しかし、NERVって美人じゃないと入れないのか?」
「そんな事、僕に解るわけないじゃないか」
ケンスケのカメラを覗きながら発した言葉に碇シンジも苦笑を隠せなかった。

そこに玄関のチャイムが鳴る。

「あっ綾波先輩だぁっ!」
アスカがはしゃいだ声を上げて玄関を開ると、シンジとレイが揃って中に入ってきた。

「おめでとう・・・でいいのかな?」
シンジはそう言いながら照れくさそうに花束をアスカに渡す。

「あ、ありがとう御座います」
アスカは顔を真っ赤にして花束を受け取り、キョウコの元へ走って行った。

因みに今日のアスカは白いレースで縁取りされた赤いワンピースでかなりおめかししている。

レイはTシャツにGパンと言うラフな服装だった。

「今日はお招きに預かり、ありがとう御座います」
キョウコの傍に行き、シンジは社交辞令の挨拶を述べている。

レイはシンジの後ろに付いて歩いてると言う感じだ。

「よく来てくれたわ。お花ありがとう。ゆっくりして行って頂戴ね」
アスカを大人にした様なキョウコの笑顔は眩しかった。

和気藹々と談笑するアダルトチーム。
シンジはアスカに腕を掴まれチャイルドチームの所へ引き連れられて行く。

そんなシンジの後ろをレイは、ちゃっかりと野菜サンド等を持って付いて歩いていた。

アスカの紹介になぜかポッと頬を赤らめるヒカリ。
シンジは暫く子供達から解放されなかった。

「よっ!人気者だな」
「エヴァのパイロットが珍しいんでしょ」
差し出されたドリンクを飲みながらシンジはシゲルの言葉に答えた。

「でもアスカちゃんがエヴァに乗れなくなったって聞いて私、少しホッとしました」
「それって僕なら良いって事?」

「勿論!本当ならレイちゃんも乗って欲しくないくらいですよ」
「そうだなレイが一人で引き受ければ良いんだよ」
マヤとマコトの言葉にシンジもその通りだと笑っていた。

「しかし司令と副司令が揃って日本を離れるなんて前例の無かった事だ。一体何があったんだろうな」
「司令と副司令、出掛けてるんですか?」
加持の言葉にアスカが不思議そうに口を挟んだ。

再びシンジを連れ去ろうとアダルトチームに近寄っていたのだ。

「司令達は南極よ」
それに答えたのはリツコだった。

「どうりで、ここに居ないのは変だなぁって思っていたんですよ」
「そうね、ゲンドウさんと冬月先生ならすっ飛んで来そうですものね」

シンジに答えたユイの言葉にナオコとキョウコを除く人間は引き攣った笑いを浮かべるしかなかった。



紅い海。
白い巨大な結晶体の柱。
無数に天に躍るでたらめな形のオーロラ群。

「いかなる生命の存在も許さない死の世界、南極。いや、地獄と呼ぶべきかな」
数隻の艦隊の、扇状の陣形の中心に位置する大型巡洋艦、その甲板に設置されているガラス張りの観測室。
冬月はそこから目の前に広がる巨大な「死」を見つめ、後ろにいるゲンドウへと振り返らずに言った。

「だが、我々人類はこうしてここに立っている。生物として、生きたままな」
後ろ手に手を組んで、やはり窓外の光景を見つめているゲンドウ。

「科学の力で守られているからな」
「・・・科学は人の力だよ」

「その傲慢が、15年前の悲劇を生み出したと言う事を忘れたのか?その結果がこれだ、与えられた罰にしては余りにも大き過ぎる」
「・・・ここは、世界で最も浄化された世界だよ。唯一人間の原罪から解放された世界なのだ」

「俺は、罪に塗れていたとしても、人が生きている世界を望むよ」
そうして初めて後ろを振り返る。

ただし、後ろにいるゲンドウではなく、その遙か後方に位置する空母の甲板上にあるロンギヌスの槍と呼ばれたものを透かし見るかのように。

「ドイツがどう動く事か・・・」
「・・・ラングレーは既に再婚している」

「アスカ君はラングレー姓のままだぞ?」
「・・・その件は既に書類処理済みだ。キョウコ君の日本国籍も取った」

「二人の護衛は厳重にしなければならんな」
「・・・問題ない」

「キョウコ君の家でのパーティ・・・参加したかったな」
「・・・あぁ」

静寂が観測室の二人に、再び訪れる。
こんな所に来たく無かったと言う、二人の恨みがみっしりとつめられた沈黙が。

『報告します。ネルフ本部より入電。インド洋上空衛星軌道上に使徒、発見』

スピーカから流れる報告に二人は顔を見合わせた。



「インド洋上空、衛星軌道上に使徒発見!」
「2分前に突然現われました」

「目標を映像で捕捉」
画面に映し出された使徒の姿に発令所内に驚きの声が上がる。

「こりゃ凄い・・・」
「常識を疑うわね」
作戦課を外されても未練があるのか、ミサトが発令所に居た。

突然使徒の映像を送っていた衛星が破壊され、画面はノイズだけになる。

「ATフィールド?」
「新しい使い方ね」

雛壇にはユイ、ナオコ、そしてキョウコの嘗て東方の三賢者と呼ばれた人達が座っていた。
従ってリツコは、マヤの横でモニターを見ている。

ミサトは大学時代の友人と言う事で、リツコに馴れ馴れしく話し掛けているのだ。

「MAGIの判断は?」
「MAGI・Systemは全会一致で撤退を推奨しています」
ナオコの質問に答えたのはマヤであった。

そう報告するマヤの表情も、心なしか曇っている。

「日本政府各省に通達、ネルフ権限における特別宣言D17、半径50Km以内の全市民はただちに避難。松代にMAGIのバックアップを頼んで」

「ここを放棄するんですか?」
「いいえ、ただ皆で危ない橋を渡る事はないわ」
ミサトとマコトはミサトが作戦課長の時と同じ様に会話していた。

「葛城一尉、貴女は作戦課ではありません。今の貴女の職務を全うして下さい」
穏やかだが、凛とした口調で述べられたユイの言葉にミサトは唇を噛み締め渋々発令所を後にする。

ミサトの言動は全くの越権行為であったのだ。
そんなミサトの後ろ姿をマコトは沈痛な思いで見詰めていた。

「それで、どうする?レイ君」
ミサトが発令所を出たのを確認すると、ユイは今まで一言も漏らさずデータを漁っているシンジに尋ねた。

「使徒は間違いなくここを目掛けて落下してくるでしょう。初号機に大容量バッテリーを積み迎え撃ちます。零号機で、落ちてくる使徒からATフィールドで街を護って貰います」
「迎え撃つって?」

「ウィングキャリアーで行ける最大高度で使徒と接触。一緒に落下しながら使徒を削ります」
「そんな!危険だわ」

「自由落下の速度くらいならエヴァで耐えられます。レイにATフィールドで使徒を受け止めて貰えれば、被害も無いでしょう」
「MAGIも成功率62%を叩きだしているわね」



発令所の面々は、ただ事の成り行きを見守っていた。
ミサトを外した今、戦闘における指揮権はシンジが持っている。
発令所は、情報を渡す事しかできないのだ。

ミサトが居たら、その情報すら押しのけて喚き声が追加されるだけではあるが。

『そろそろジャミングで通信ができなくなると思います。後は頼んだよレイ』
『・・・了解』

シンジとレイの通信が発令所内に響く。

「使徒接近、距離およそ2万」

「レイちゃん。MAGIで落下予測地点に誘導するわ」

『・・・了解』

緊迫した雰囲気だけが発令所を支配していた。

「距離1万2千!」

レイはMAGIが表示する落下予測地点で上空を見上げていた。
その映像は発令所にも流れる。

大きな隕石が迫ってくる様に赤い光が迫ってくる。

「距離1万!」

突然、零号機から送られてくる映像が暗くなった。
今まで見えていた落下してくる使徒が突然消えたのだ。

「使徒の反応が消えました!」
「何?どう言う事?初号機は?」

慌てふためく発令所。

零号機から送られてくる映像は、空ではなく遠く西の方を見詰めていたが、発令所内の人間はその事に気が付かなかった。

「使徒と一緒に爆発したと言うの?!」
「いえ、爆発の痕跡はありません」

「じゃぁ突然消えたとでも言うの?!」

リツコの怒声にメインオペレータ達が必死で使徒と初号機の反応を探す。

「これは・・・」
ナオコの不穏な声とともにメインスクリーンの映像が切り替わった。

ナオコは衛星からの映像で初号機と使徒の位置を調べていたのだ。
そこに映し出されたのは、日本海が大きくクレータの様にへこむ映像。

「日本海沿岸に津波警報を発令!」
ユイの管轄外の様な指示が飛ぶ。

雛壇の三賢者は、概ね状況を理解していた。

「VTOLにより付近の探索を指示して頂戴」
「えっ?」

「多分、初号機が付近に居るはずよ」

『・・・いえ、来る』
その時、発令所にレイの通信が入った。

「どう言う事?レイちゃん」

その時、零号機から送られてくる映像、即ち零号機の見詰めている西方からオレンジの光が近付いてきた。

「あれは・・・」
「初号機?」

ATフィールドを全身に纏った初号機が飛んで来ているのだ。

「常識を疑うわね」

『すみません、思いの外飛ばされてしまいました』

「無事だったのねレイ君。状況を教えて貰える?」

『・・・おかえりなさい』
『ただいまレイ』

平然と挨拶を交わすシンジとレイに発令所の面々も毒気を抜かれてしまった。
実はシンジの思惑を知っていた為レイは平然としていたのだが、発令所の面々は何が起こったのか見当も付かなかった。

『簡単には言えば、ATフィールドで重力を遮断してしまったんです。そのせいで地球の自転の影響を受けて飛ばされたんだと思います』

その言葉に発令所の面々は溜息を付く。
重力を遮断など、とんでもない話である。

「本当ATフィールドって何でもありね」
リツコの言葉が皆の意見を代表していた。

使徒が空中に浮かぶ原理は解らない。
しかし、重力を遮断したなら、当然地球の自転や公転の影響を受けるのは当たり前である。
重力があるから、皆その場に留まっていられるのだ。

使徒はATフィールドを纏いNERV本部に向かって落下していた。
それが突然重力を遮られたなら、その直線運動は慣性の法則により残るが地球自体は自転して動いて居る。

つまり地球自らが使徒の目標からずれていく形になったのである。
結果、使徒は日本海に激突したのだ。

『いやぁ重力を遮断すればレイが楽になるかなって思ったんですが自然の力の方が凄かったって事ですね』

「じゃぁどうやって戻ってきたの?」

『使徒の爆発で飛ばされるままに』

悪びれないシンジの言葉に発令所の面々は苦笑と溜息しか出てこなかった。



司令室では、ユイ、ナオコ、キョウコ、そしてリツコが神妙な顔をしている。

シンジはエヴァを回収させると、話があると4人を司令室に集めたのだ。
そして着替えをしたシンジとレイが司令室に入り、開口一番告げた言葉。

「初号機にSS機関を取り込みました」

既に着替えを済ませたシンジとレイは、ラフな恰好である。
それに対し、4人は白衣のままであった。

「備え?」
「えぇそんな所です」
ユイの質問に曖昧な返事を返すシンジ。

リツコ以外はエヴァの中で来るべき未来、レイやシンジが辿った未来を知っていた。
それは、朧気な記憶。
しかし、夢ではなく確かな記憶であった。

ゼーレに気付かれる事なくSS機関を取り込むためのシンジの策であった。
ゼーレに知れると封印される可能性が高かったためである。

「これでロンギヌスの槍が来れば、正しく向かう所敵無しの神にも等しい存在になるわね」
「所詮、使徒のコピーであるエヴァは神には成り得ませんよ」

「でも、勝てる者も居ないわ」
「そうでも無いですよ」

そう、所詮リリスもアダムも神に造られし者達であり神になれる事はない。
しかし、シンジだけは違った。

聖痕が刻まれたシンジ。
それは、キリストにも匹敵する神の代弁者。
その業を背負わせてしまった事にユイは罪悪感を覚える。

「まぁいざと言う時の保険ぐらいに思って居て下さい」
「でも、整備すれば解るんじゃないの?」

「SS機関。それは使徒と人との遺伝子の違いにその秘密があります。エヴァはコピーのため、SS機関を作動させるに至らなかった。そう言う事です」
「はぁ・・・溜息しかでないわね」

東方の三賢者を以てしても、このテクノロジーは理解不能だったらしい。
テクノロジーと言うより生命の神秘と言うべきなのだろう。

「じゃぁ爆発で飛ばされて戻って来たと言うのは詭弁だったのね?」
「エヴァは使徒のコピー。使徒が飛べるならエヴァも飛べても当然ではないです?」

シンジの言葉に三賢者プラスリツコは諸手を挙げて降参の意を示した。



レイとシンジはマヤ達が待つ居酒屋に向かっている。
今回は街の被害は無く、初号機もその装甲以外、被害が無かったためいつものオペレータ3人衆は打ち上げを行っていたのだ。

そして例によって、シゲルから連絡が入り、今向かっていると言う訳である。

(きっと家にまで来るんだろうなぁ)

「・・・そうね」
「あれ?僕、言葉に出していた?」

「・・・いいえ、でも聞こえたわ」
「あは、流石だね・・・」
冷や汗を流しながすシンジと、いつもの様に無表情で何を考えているのか解らないレイは居酒屋の門を潜った。


「おっそぉ〜ぃぞぉ〜」
既に真っ赤になって出来上がっているマヤの洗礼を受けるシンジ。
レイはそんなマヤに臆せず柳の様に受け流すと、ちゃっかりとシンジの隣を確保する。

シンジは、そこに居る面子に少し引いてしまっていた。
何故か加持とミサトも居たのである。

「いつも仲が良いですね」
「レイ君達には言われたくないわよ。それにこのヴァ〜カはマヤちゃんを口説いていたのよ」
シンジの言葉に不機嫌さを隠そうともせずミサトが言い放ちながら加持の頭を小突いていた。

「・・・ニンニクラーメンがないわ」
「いや、ここは居酒屋だからね」

「・・・ラーメンサラダで我慢するわ」
「はは・・・」

マイペースなレイに対し、シンジは苦笑以外の手段を持ち合わせていなかった。

「ところでレイ。今回の使徒戦って一体どうなったんだ?」
加持がミサトの代わりにシンジに問い掛けた。

詳細な戦況などは未だ整理されておらず、報告書の類もシンジが書いた物が未決済で滞っているため、諜報部と言えど情報を得ていなかったのだ。

ミサトがその情報を知りたくて、他の仕事を蔑ろにするため、加持がメインオペレータ達が飲みに行くと言うのを聞きつけミサトと共に入り込んだのだ。
そこにシンジが来るとは思って居なかったが、メインオペレータ達からなら、ある程度納得できる情報を聞き出せるだろうとの目論見であった。

「ここじゃちょっと・・・」
ここは一般人が利用している単なる居酒屋である。
流石にシンジは、ここで詳細を話す事は憚られた。

「そりゃ、まぁそうだな」
加持は簡単に矛先を収める。

これはミサトを敬遠した加持の思いやりであったのだ。
ミサトが切り出す前に自分が切り出し、ここで話せない事を納得する。
ミサトであれば、聞き始めたらそんな事に耳を貸さず、大声で追求を始める事が予測されたからである。

案の定、あっさりと引き下がった加持に不満そうにミサトは何やら呟いていた。

「じゃぁ僕の家で飲み直しますか?」
「それは有難いな」
「私もぉ〜っ!」
「じゃぁ俺もっ」
「勿論、俺も」
簡単に全員が場所を変える事に賛成する。

唯一人、レイだけはラーメンサラダを食べ損ねて不満そうであった。



「「「「えぇ〜〜〜〜っ!!」」」」
シンジの家に場所を変え、落ち着いたところで話し出したシンジの言葉に、皆絶叫した。

「こいつは参ったな、ATフィールドってそんな事まで出来るのかい?」
加持は頭を掻きながらシンジの話に相槌を打っていた。

ATフィールドで重力を遮った事。
それは科学者的な検知から納得できないマヤ。
そもそも、非常識過ぎる事に全員が呆れた顔をしている。

「いやぁ僕は少しでもレイの負担を軽くしようと思っただけなんですけどね。まさかあんな事になるなんて思いませんでしたよ」
あくまで白を切るシンジ。

全ては兼ねてより計画していた事であったのだ。
イロウルは、何とかなると思っている。
しかし、ユイの居ない初号機でレリエルは難しいと思っていたのだ。

勿論、今のシンジがその気になればなんとかなるであろうが、初号機を使ってと言う事であれば、ユイが居ない初号機に暴走は望めない。
SS機関は最低でも欲しかったのである。

周りが呆れている中、ミサトだけはギュッと手を握り締め唇を噛み締めていた。
自分であれば、どの様な作戦を立てていたか。
あの時点で、ミサトはエヴァで受け止めるしか無いと思っていた。
しかし、当初の作戦ですらシンジはそれを上回っていたのである。

上空で接触し、使徒を削る。
そんな事はミサトに思いつきもしなかった。

結果論であるが、使徒をそのままエヴァで受け止める様な被害は第三新東京市は受けて居ない。
エヴァで受け止めた場合、そのATフィールドから漏れた範囲は間違いなく爆発に晒されていた事は明白である。

ミサトは今まで信じて疑わなかった自分の作戦立案能力に疑問を持ち始めていたのだ。

「ところで、レイ?葛城が作戦課に戻れる見込みはあるのかな?」
加持はミサトの心境を知っているため、シンジにその可能性があるのか尋ねた。
引導を渡すなら早い方が良いと言う考えも加持にはあったのだ。

現時点でゲンドウが何を考えているかはシンジにも解らなかった。
しかし、シンジの記憶ではミサトは号令を発するだけで指揮らしい事をしたことは無かった。
加持が死んでからは、使徒殲滅作戦とは関係ない情報収集に暗躍していただけである。

「えっ?どうなんでしょう。ミサトさんは機密保持について再認識するために諜報部に行ったって聞かされてますけど?」
「確かに、表向きはそうなんだが、このままだと葛城が作戦課に戻る必要も無いと思われているんじゃないかと思ってね」

加持自身もミサトは、もう作戦課に戻らない方が良いと思っている。
だから、そんな事に希望を見出さない様に話を持っていっているのだ。

「それは、僕には解りませんよ」
「そりゃまぁそうだな」

シンジは睨付けるミサトの視線を感じながら(勘弁してよぉ〜加持さん)とか思って冷や汗を流している。

「確かに葛城さんが居なくても誰も困ってませんね」
「あんですってぇ〜っ」

「葛城!」
「「「マヤさん(ちゃん)」」」

「だって葛城さんってまともに指揮したりちゃんとした作戦立てた事ないじゃないですか」
「マヤさん、酔ってます?」

マヤの言葉に唇を噛み締めるミサト。

「酔ってなんか無い!私知ってますよ!レイ君が第四使徒戦の後、葛城さんとミーティングして、その後、会議まで開いたのに、葛城さん自身がそれを無駄にしていた!」

マヤの怒声にミサトは耐えきれなくなり、その場を飛び出した。
それを追い掛ける加持。

「マヤちゃん、そこまで言わなくても」
殺伐とした場でマコトがマヤの言葉を責めた。

「今のまま、葛城さんが戻ってきても同じだもの」
「それは、そうだけど・・・」

「発令所内で葛城さんの事を良く思ってるオペレータは居ないからな」
「シゲルまで・・・」
未だマコトは、ミサトへの憧れを捨てきれないのだろう。
二人の非難する言葉が辛かった。

「マヤさんは嫌われ者になってでもミサトさんに気付いて貰おうとしたんですね」
「えへっレイ君にはお見通しね。そんな私に惚れ直した?」
シンジのフォローにペロッと舌を出しシンジの腕にしがみつくマヤ。

「・・・惚れ直すためには惚れて居なければならないわ」
「あぁ〜んレイちゃんが苛めるぅ〜」

クピクピとマイペースでウーロン茶を飲んでいるレイであった。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。