第拾弐話
アスカの進路


「葛城一尉、なぜ通常回線でA-17の申請を行ったのかね」
ゲンドウと冬月しか居ない司令室で、ミサトはゲンドウの前に直立していた。

「・・・・・」
ミサトは何も言えない。
ただ、何も考えていなかっただけであったからだ。

自分で振返って見ても、興奮していたのは確かだ。
しかし、守秘回線に切り替える事など頭に無かった。
ここ第三新東京市では、暗黙の了解が多く、ミサト自身守秘義務に対し無頓着になっているのである。

「多分、傍受されたのだろう。その御陰で日本経済は大打撃だよ」
「そ、それは私の責任では・・・」

「君は守秘義務を何だと思っているのかね?公共の電波にそれを乗せては行けない意味を分かっているのかね?」
「そ、それは、機密を漏洩しないため・・・」

「その機密を漏洩したと言う意識が君にはないのかね?」
「いえ、それは重々承知しております。しかしそれと日本経済とは・・・」

「関係が無いと言いたいのかね?何故機密を漏洩しては行けないのか、それはその事による色々な問題を回避するためだ。そして今回漏洩した事により起こった問題が日本経済の大打撃だ!」
「わ、私の責任なのでしょうか?」

「君にその権利を与えていた我々の責任でもある」
「・・・・・」

「・・・葛城一尉、作戦課長の任を解く。暫く諜報部で守秘義務のなんたるかを勉強してきたまえ」
「そ、それは・・・」

「・・・以上だ。下がりたまえ」



「僕は馬鹿だ・・・」
そう思える人間は、その後悔している現象を、自分が思う馬鹿でない行動を取ることが出来たと思えると言う事であろう。

つまり、それだけの思慮が本来存在するのだ。
世の中には往々にして、その事にすら気付かない人間が居る。
そう言う輩に限って、権力を持っていたりするものだ。
つまり自分が馬鹿だと気付く事すらできないのが馬鹿な輩なのである。

そして、そう言う輩は人を簡単に傷付けるし、傷付けた事すら気付かないでいたりする。

シンジは通信により大学を卒業したのだが、日本の通信制にはスクーリングと言う物が付き纏う。
つまり、何週間は通学しなければならないのである。
シンジも多分に漏れず、スクーリングを行った。

幸運であったのは、通信で学業を営もうとする人間には結構な年配も居ると言う事であった。
その為、その奇異な容姿のため虐められると言う様な事もなかった。
周りは大人と呼べる人間の方が多かったからだ。

しかし、それ故に馬鹿も多かったのである。
セカンドインパクトと言う地獄を経験し、それでも今現在更に学業を営む程の余裕がある大人。
彼らには少なからず自分が成功者であると言う認識があった。
そして自分の経験に自信があったのだ。

そんな中でシンジは久しぶりの一般人との触れ合いを堪能していたのだが、世の中良い人も居れば悪意はないが迷惑な人も居る。


「ここ良いかい?」
「・・・どうぞ」
不意に掛けられた声にシンジは、特に頓着なく応対した。

今は昼休み。
ここは、大学の食堂である。
混雑している学食で一人で席を占領していると相席を求められるのも仕方が無い事である。

夏休みを利用して行われる通信制学生のためのスクーリング。
その為、今は大学生と呼べる様な若い人間は少ない。
その中にシンジの存在は浮いていた。

所謂、アルビノと呼ばれる容姿。
加えて、中性的であるために中学生と言われても信じられる。

(・・・ここの食事はあんまり美味しくないわ)
(そう?僕は別に不味いって程でもないと思うけど?)

(・・・最近は自分で作ってないから腕が落ちたのね)
(僕は元々、そんなに大した者じゃないよ)

向かいに座った男性の事など気にもせずシンジは自分の中のレイと、学食の味について語り合っていた。

「君は随分と若いんだね?ここのアルバイトかい?」
「へ?」
突然話し掛けられて、シンジは素っ頓狂な声を上げる。

レイと話していた内容との落差がありすぎて、何を言われたのか咄嗟に判断出来なかったのだ。

「あ、えと、僕はスクーリングで来てます」
「ほぉ、どうして全日制じゃなくって通信制なんだい?」

「え?あぁ、僕、見ての通りアルビノ体質で身体が弱いんで・・・」
それは、前もって考えられていた言訳。
答えに困った時に使う結構万能タイプの言訳であった。
特に、学校に行ってない理由には絶大な威力を持った言訳である。

「良い若いもんが、それぐらいで登校拒否か。そんなこっちゃ彼女も出来ないぞ」
悪意は無いのであろうが、その内実も知らないで自らの価値観だけで言葉を紡ぐ。

本来、眼が紅い程のアルビノであれば視力すら危うい。
紫外線に当る事など以ての外。
それ故に世間の人の眼に触れる事も少なく、認知度も低いと言える。

シンジ自身は別な理由で外に出られなかったのだが、この一般人はそんな事は思いもつかないのだろう。
こう言う輩は、仮にその真の理由を聞いても「知らなかったから仕方ない」と言う。
自分の非を認めない、自分の行動は悪く無いと正当化する、ごくごく世間一般の多数派であった。

ならば余計なお節介などせずに、関わらなければ良いのだが、往々にしてこういう輩は自分の興味本位で近付いて来るのだ。
そう、ケンスケやミサトや加持の様な者である。

(ふぅ・・・またか・・・)

シンジとしては、これから始める自分本位の説教話に付合わされる気は無い。
自分の事を話せない現状では、相手の話を受け流すしかないのだ。
それも全く的外れな説教じみた話を。

「それじゃ、僕はこれで。お先に」
シンジは早々に退散を決め込んだ。


NERVに居る人間達は比較的、友好的であった。
シンジの境遇をそれなりに理解している職員達は、シンジに対しあまり積極的に話し掛ける様な事はなかったのだ。

そこには、チルドレンの機密と言う物が存在し、NERV職員と言うからにはそれを理解しないまでも、下手に介入すると懲罰が待っている事は解っていたからである。

当然、話し掛けて来る人間は、それなりに事情を知っており、更に、その境遇に配慮して話し掛ける。
そんな環境を数年に渡り過ごしてきたシンジに取って、外に出たならこの手の輩が思いの外多い事に少々辟易としていた。

(なんとなく綾波が他人との接触に積極的で無かった理由が解ったよ)
(・・・そう?)

シンジが急いで学業を進めた理由。
それは使徒殲滅後の自分のためであった。

少なくとも使徒戦が終了すればエヴァパイロットは必要無くなるとシンジは考えていたのである。
そして、その時、自分は24歳。
世間一般では就職して働いている年齢である。
しかし、その時NERVがどうなっているか解らない。
サードインパクトは阻止するつもりである。

つまりその後の生計を立てるためにも大学ぐらいは出ておく必要があると思ったのだ。
NERVを存続させ、そのまま残るとしても学歴と言うか知識は必要だろうと考えたのである。

幸か不幸か、シンジの元は良かった。
東方の三賢者である碇ユイとNERV総司令としてゼーレすら一目置いていた碇ゲンドウの息子である。
そして、何より知識だけは豊富なレイが一体化していたのである。

この時代、日本でも飛び級制度は一定の条件さえ満たせば可能であった。
そこにNERVの強権が加われば、シンジの学力に沿った学位を取るのは大して難しくない。
かくしてシンジは18歳で大学を卒業となってしまったのである。


そんな昔の事を回想しながらシンジは愛車を飛ばしていた。

(さて、アスカはどんな未来を選択するだろうね)

第壱中学校の校庭へ、第三新東京市では珍しいガソリン車の音が響き渡る。
その音に興味のある生徒達は窓から、その音の元を確認するために顔を出した。

「きゃ〜っ恰好良いぃ〜!」
「おぉ〜なんだ?あの単車は?!」

「あれってシンジの兄さんとちゃうか?」
「へ?」
「何?綾波先輩?!」

2−Aも例外なく、更にトウジの発言からアスカやヒカリなどの女子生徒達まで顔を覗かせていた。

「よぉっ!アスカ!急いで帰り仕度してくれ!」

「えっ?アタシですかっ?!」
その思いがけないシンジの言葉に自分を指さし、呆けるアスカ。

その一瞬後には、クラス中の女子生徒に囲まれ、赤くなりながら鞄に荷物を詰め込み教室を逃げる様に飛び出した。

シンジの単車の後部シートにスカートである事を気にせず跨るアスカ。
シンジは、窓から顔を出している碇シンジに向け手を振ったつもりだが、その行動は多くの生徒に誤解を与えた。

湧き上がる歓声の中、走り去るシンジ。

「兄さん・・・勘弁してよぉ」
その後、碇シンジの元に怒濤の問い合わせメールが届くのであった。



病院の一室。
柔らかい光が窓から差し込み、僅かに流れる風がレースのカーテンを揺らしている。

ベッドに上半身だけを起こし、穏やかに会話する金髪に碧眼の女性。
傍らに居るのは、白衣姿のユイとナオコとリツコ。

穏やかな談笑の中、けたたましい足音が近付いて来る。

「御姫様のお出ましね」
「あぁ・・・私、大丈夫かしら」
ナオコの言葉に、その女性は少々不安そうな顔色を浮かべた。

「大丈夫よ、キョウコ。アスカちゃんは賢い娘よ。きっと理解してくれるわ」

その時バンッと言う音と共に、扉が開かれる。

静寂がその場を包んだ。

眼を見開いているアスカ。
微笑んでいるユイとナオコとリツコ。

眼を潤ませているベッドの上の女性。

フーッフーッフーッと肩で息をしているアスカは、警戒している猫の様である。
そこに後からアスカを追って来たシンジが到着した。

アスカの肩にそっと手を掛け、アスカの耳元で囁くシンジ。

「ほら、アスカ。間違いなくキョウコさんだよ」
「そんな・・・本当に・・・本当に・・・マ、ママ・・・な・・・の?」

コクリと頷く白衣姿の三人。
アスカは、その三人を縋る様に見ると、シンジの方に顔を向けた。

「本当・・・なの?」
その眼には涙が今にも零れそうだ。

「ア、アスカちゃん・・・」
その声にアスカがベッドの上の女性に顔を向ける。

それは自分の記憶に違わない母親の姿。
あまりにも記憶と違わない姿にアスカは戸惑っているのだ。
あれから十年である。
更には、その死んだ姿も見ているし、葬式にも参列した。

「容姿が若い理由とか、後でちゃんと説明してくれるよ。僕が保証する。間違いなくアスカのママだよ」
シンジのその言葉に堰が切れた様にアスカの眼から涙が溢れ出す。

自ら歩いている感覚が無いのか一歩一歩ベッドに近付くアスカ。
そんなアスカを受け入れる様に両手を開く女性。

「ママ」
「アスカちゃん」

キョウコの胸に飛びつくアスカ。

「ママ!ママ!本当にママなのねっ!!」
「そうよ、アスカちゃん。今までごめんなさい」

「ママッ!」
しっかりと抱き合うアスカとキョウコに周りの人間達も涙腺を緩ませていた。



その日の午前中。
シンジが学校へ向かっている頃。

「お〜い!ちょい、待ってくれぇ!」

男がそう叫びながら駆けつけてくるのに、エレベーターは無情にもそのドアを閉じようとしていた。
ドアとドアの隙間にわずか手を差し込み、エレベーターのドアの安全機構を利用して、男は、なんとかミサトの乗るエレベーターに間に合う事に成功させた。

「こんちこれまた、御機嫌斜めだね〜」
ドアに手をかけたまま、加持は涼しい顔でミサトに話し掛ける。

「来た早々、あんたの顔、見たからよ」
「つれないねぇ」

「それより、あんた一体いつまでここにいるつもり?」
顔をムッとしかめて、ほとんど言いがかり的な内容と口調で食って掛かるミサト。

「辞令がまた出るまで、だな」
そんなミサトの剣呑な雰囲気もさらりと加持は受け流している。

「そうツンケンするなよ、お互い疲れるだけだろ?」
「ふん・・・勝手でしょ」

ミサトは、ぷいっとそっぽを向く。
そして思い出したように、加持に向かって振り返った。

「いつまでもドア押さえてないで、さっさと乗ってよ」
「へいへい、お許しを得ましたからね」
そう言って加持が手を離すと、エレベータの扉は静かに閉まっていく。

「私、作戦課はずされちゃった・・・」
「あぁ・・・そうらしいな」
動き出すエレベータの中、重い空気が支配した。



「・・・いい?それじゃカウントよろしく、マヤ」
第二実験場では、リツコがとある実験の指揮を行っていた。

「ハイ、5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・」
淡々とカウントダウンを行うマヤ。

ちょうどゼロのタイミングで、ブシュウゥゥーッと言う気の抜ける音と共に、パイロットランプが全て消えていく。

突然暗闇に包まれ、吃驚して目をぱちくりさせるマヤ。

「主電源ストップ。電圧0です」
それでも律儀に報告を行う。

リツコが起動ボタンに手をかけた瞬間、全ての電源が落ちたため、マヤを除く全ての職員が責めるような視線でリツコを見た。

「わ、私じゃ、ないわよ・・・多分・・・まだ・・・押してないし・・・」
押して無くても「多分」と言うリツコ。

「そうです!私は先輩を信じます!」 そのマヤの発言は、更にリツコへの疑惑を深める以外の何物でもなかった。



発令所は非常灯のみで作業が行われていた。

「駄目です!予備回線、繋がりません」

冬月に報告しながらも、シゲルはこの状況で必要になるであろう、使用可能な回線を早くもチェックし始めていた。

「生き残っている回線は全部で1.2%。2567番からの旧回線だけです。残った電源をマギに優先的に回しますか?」

「セントラル・ドグマの維持にもだ!」
「そうすると、全館の生命維持に支障が生じますが!」

「かまわん!」

受け答えする冬月の横では、ゲンドウの色眼鏡がキラリと、非常灯に照らされて不気味に光る。

「やはり、ブレーカーは落ちたと言うよりは落とされたと考えるべきだな」

「原因はどうであれ、こんな時に使徒が現われたら大変だぞ」

「所詮、人間の敵は人間、ということか」
何の言葉も返さないゲンドウに一人芝居をしている様な気になり大きな溜息を吐く冬月だった。

「・・・何を慌てている?冬月」
「これが慌てずに居られるか?」

「・・・ふっ自家発電装置を起動させろ」
「何?!あれは設置が中止になったのでは無いのか?」

「・・・呆けたか?冬月」
ニヤリと笑うゲンドウ。

その数時間後、発令所に電源が灯った。

その時、シゲルの報告が響き渡る。

「府中総括総隊司令部より入電!対地レーダーに正体不明の反応、旧熱海に上陸したそうです!」

「・・・総員第一種戦闘配置」

いつもと変わらぬゲンドウの低い声が流れた。



病院のランプが非常灯になり警報が発せられた事を知らせる。
病院内では大きな音のアナウンスは流れないのだ。

「何?使徒?こんな時にっ!」
穏やかにキョウコと談笑していたアスカが憤った声をあげた。

「アスカちゃん。ここに居て頂戴」
「でもママ。アタシはエヴァのパイロットなの。行かなきゃ」

「アスカ。後でちゃんと説明するつもりだったけど、貴女はもうエヴァには乗れないのよ」
「どう言う事よ!リツコ!」

「ごめんなさいね、本当はもっと時間を掛けてちゃんと説明したかったのだけれど・・・」
「エヴァのシンクロについて詳しく説明しないと解らないのよ」
ユイとナオコがリツコに続きアスカの説得に乗り出した。

シンジは既にケイジへと向かっている。

「どう言う事なんですか?」
上目遣いにユイに設問するアスカ。
流石にユイにまで食って掛かる事は出来なかった様だ。

「ごめんなさいねアスカちゃん。キョウコは功を焦ったドイツ支部のためにシンクロテストの被験者に成るしかなかったの。その為にキョウコはエヴァに取り込まれたのよ」
「取り込まれた?」

「そう、ある特定の因子を持ってない者がエヴァにシンクロしようとすると取り込まれてしまうのよ」
「そんな・・・」

「それで、取り込まれた者は、その親近者を護ろうとする傾向がある事が解ったの。それでパイロットに選ばれたのがアスカちゃんだったのよ」
「それじゃぁ、アタシにはその因子ってのが無いって言うの?!」

「えぇ、残念だけどその因子が見つかっているのは今のところ世界中で二人しか居ないわ」
「綾波先輩とレイ・・・」

「その通りよ」

これはユイやナオコに取って詭弁であった。
二人がどういった存在であるのかを、本当の意味で知っている二人。
朧気ながらリツコも理解している。

がっくりと項垂れるアスカ。
しかしそんなアスカを優しく包み込む腕があった。

キョウコに抱締められ放心するアスカ。
キョウコが頷くとユイ、ナオコ、リツコの3人は静かに病室を後にした。



地上での使徒迎撃は、シンジとレイが行っていた。

ミサトは未だ発令所に現れていない。
ミサトと加持の乗ったエレベータの電源は、当初落とされたブレーカに直結されていたらしい。

「レイにレイちゃん、葛城さんは未だロスト中だ。戦闘はレイの判断に任せる」

『了解』

マコトの通信にシンジは短く答えた。

『行くよレイ』
『・・・了解』

シンジの合図と共に初号機と零号機は、カーボンロッドを構え、蜘蛛の様な使徒に向かって行った。

あっけなく倒されるマトリエル。
そこにはカーボンロッドを無数に刺され海栗の様になっている使徒の姿があった。



あまりにあっけなく使徒殲滅となったため、シンジとレイはシャワーを浴びた後も執務室に居た。

シンジの場合、一応士官のため書類仕事もあるのだが、レイにはそんな物は無い。
もっぱらレイは、この部屋で本を読んでいる事が多い。

そして今も本を読んでいる所にアスカがやって来た。

「綾波先輩!アタシ・・・エヴァに乗れなくなったんですっ!」
扉が開くなりアスカはそう叫ぶとシンジに抱付いた。

どうやら泣いているらしい。

レイの厳しい視線に晒され困った物の、シンジはアスカの頭を撫でながら言った。

「それは良かったんじゃないかな」
「良くないですっ!」

アスカはシンジの胸に顔を擦りつけながら答える。

(アスカァ〜僕の服で鼻水拭かないでよぉ〜)

と心の言葉とは裏腹にシンジはアスカに言った。

「アスカみたいに優秀な頭脳を持った美人の女の子を戦闘に出すなんて、本来、人類の損失なんだよ」
自分で言っていて歯が浮くと思いながらシンジはアスカを褒める。

「でも・・・」
否定はしないアスカ。

そんな二人をレイはじっと見詰めている。
シンジはその視線に冷や汗が背中を流れる事を感じていた。

シンジと出会い、エヴァへの拘りも以前よりは感じられなくなったとは言え、やはりアスカに取ってエヴァはかなりなウェイトを占めているのは変わらない。

「これからアタシ、何をすれば良いのか解らないんです」
「これからは、お母さんとゆっくり話し合って将来を考えればいいんだよ」

「・・・・・」
アスカはシンジの言葉になんとか頷きだけを返した。



「短い間でしたけど、お世話になりました」
ペコリとお辞儀するアスカ。

碇家を出てキョウコと暮らす事になったのだ。

「何時でも遊びに来ていいのよ」
「はい、有り難うございます」

「荷物は、ちゃんと届けさせるから」
何故か今生の別れの様にユイは涙ぐんでいる。

「もぅユイったら何も涙ぐむ程の事でもないでしょ?」
「そうだけど・・・ほらシンちゃんも挨拶しなさい」

「ア、アスカ、また明日学校でね」
「ええ」

「そんなのじゃなくって、君と過せて楽しかったよとか、君と離れて暮らすのは寂しいよとか、もっとないの?」
「か、母さん、何を言ってるのさ!」

「ふふ、シンジ君、これからもアスカを宜しくね」
「な、何言ってんのよママ!」

「じゃぁキョウコ、落ち着いたら、御飯でも食べに来て頂戴」
「えぇ是非に寄らせて貰うわ」

ユイとシンジはアスカとキョウコが仲睦まじく歩いていく後ろ姿を見えなくなるまで見送っていた。

「寂しくなるわね」
「静かになるの間違いだと思うよ」

「もぅシンちゃんたら照れちゃって」
「はぁ〜」
ユイの言葉に溜息しか出ない碇シンジであった。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。