呼称について:
本話から綾波レイ(シンジ)について本文中では【シンジ】と呼称します。
本話から綾波レイカ(レイ)について本文中では【レイ】と呼称します。
本話から碇シンジについて本文中では【碇シンジ】と呼称します。
各登場人物が会話上で相手を呼ぶ際は、この限りではありません。

呼称変更に伴う登場人物の再紹介:
綾波レイ(シンジ):逆行した碇シンジ。ファーストチルドレンとしてエヴァンゲリオン初号機専属パイロット。外観24歳程度。階級二尉。エヴァンゲリオン隊隊長。

綾波レイカ(レイ):逆行した碇シンジと一つになっていた綾波レイ。サードチルドレンとしてエヴァンゲリオン零号機専属パイロット。外観14歳程度。

碇シンジ:逆行した世界での碇シンジ。正真正銘14歳。


これまでの粗筋:
サードインパクトの後、依り代となった碇シンジは、絶望の果て消滅する寸前であった。
それに慌てた綾波レイは、魂だけでも留めようと自らと融合。
その際、聖痕により溜め込まれていた碇シンジの力とアダムと融合したリリスの力が、綾波レイの慌てた行動の為、制御不能に陥り時空を飛ばされる事となる。
飛ばされた先は、碇ユイが冬月コウゾウとエヴァ搭乗について会話している最中であった。
この際、この時代には既に碇シンジが居る事から、シンジは自らを【綾波レイ】と名乗ってしまう。
時空の狭間でシンジの魂を護る事に尽力したレイの魂は殆ど消滅しかかっていたが、この時代のリリスと遭遇する事によりシンジの中で存在出来る程に回復。
シンジはユイの代りにエヴァに搭乗しファーストチルドレンとなる。
その後、シンジは綾波レイとしてNERVに所属、軍属として教練を受ける。
碇ユイは、綾波レイの元となる身体を既に造って居た事が発覚。
その身体にシンジの中のレイの魂を、十字架に張付けられているリリスで補填し綾波レイカとして魂を与える。
第七使徒の殲滅に対し葛城ミサトの暴走により弐号機が単独大破。
ユニゾン攻撃のため綾波レイカは零号機専属パイロットとしてサードチルドレンに就任した。


第拾壱話
ダイバー


「おはようございます」
「あら相変わらず早いわね。アスカちゃん」
碇家でのアスカの朝は早い。

この年頃として一人暮らしは非常に危険である。
第二次性徴期として精神的にも不安定であり、その際に的確な保護者が居ない事は、致命的に道を踏み外す事も屡々しばしばである。

しかし、本来エリート意識が高く、自らに対して厳しいアスカに取って、それは杞憂と言えた。
逆に、他人との同居、それも気を遣わなければいけない相手との同居と言うのは違う意味で多大なストレスを与えていた。
それは、職場での上司との同居による気の抜け無さである。
ミサトと同居と言う意味では、アスカ自身ミサトを見下している所があり、気を遣う必要を感じていなかった。
しかし、流石に司令の目の前で奔放に振る舞う程、アスカは職場とプライベートを切り分ける事など出来なかったのである。

食事はユイかシンジが作ってくれるので美味しいため、文句は無いのだが、忙しいとは言え偶にはゲンドウも一緒に食卓に着くのである。
その時は、流石のアスカも食事の味どころでは無いのだ。

従って、ユイの本来の目的である家庭的な環境と言う物は、アスカは感じられなかった。
それよりも、アスカは逆に仲の良い碇家の中で疎外感を感じる様になる。

そして、もう一つの問題が碇シンジである。
アスカに取って、確かに中性的で優しい碇シンジは、それなりに同年代の男と言う意味では、まぁまし、と言うレベルではある。
しかし、碇シンジ元来の優柔不断性がアスカには我慢ならない。
だが、司令の目の前でその息子を【馬鹿シンジ】呼ばわりする事は、流石のアスカも憚られた。
故に、家の中ではあまり係わらない様にする以外、アスカに方策はなかったのである。

碇シンジとアスカが仲良くなって欲しいと考えるユイに取って、これは芳しくない傾向であった。
そのためユイは二人を取り持つ策略を何かと張り巡らす。
そのユイの策略も、アスカに取ってはかなりなストレスだったのである。



「見て見てシンジ!バックロールエントリー!」
バシャンと言う音を立ててアスカが海に飛び込んだ。

今回アスカは修学旅行に来ている。
実はミサトが修学旅行の参加不可を言い出したのは、シンジ達と一緒に住んでいたため気付いた事であり、保護者でも無いミサトには当然そんな通知が行く訳もなく、ミサトの知らない間に修学旅行となったのである。

これも当然だが、ユイがそんな事を咎める訳もなく、ゲンドウと一緒に住んでいるアスカが修学旅行に行く事を、ミサトは責める事は出来なかった。

レイは、アルビノ体質の為、紫外線の強い沖縄に学校行事で観光に連れ回されるのは無理として不参加を自ら通知していた。
レイに取ってシンジの居ない修学旅行などに興味が無かっただけであるが・・・

そして碇シンジは強引にアスカに連れられて一緒にスキューバダイビングを体験しているのである。
泳げない碇シンジも、酸素ボンベを背負うスキューバなら大丈夫とアスカが強引に登録したのだ。

碇シンジに取って、そこは別世界であった。
スキューバダイビングとスカイダイビングは、人生観を変えると言われている。

スカイダイビングは、パラシュートを開くまで、実際は自由落下しているのだが、それは鳥になった様な気分になる。
掌のちょっとした動きで自らの進む方向が変えられるそれは、正に自らの身体のみで空を飛んでいると実感出来る物なのである。
そして初めて飛び降りる時、これは、飛降り自殺の心境である。
まさに時間がゆっくり流れ、死を間近に感じられる。
この恐怖に打ち勝った後、空を飛ぶ素晴らしい快感が待ち受けているのだ。

そして、もう一つのスキューバダイビング。
これは、あまり深く潜ると白黒の世界になるのだが、その水中の美しさは正に自然の美しさと生態系の神秘を実感する事となる。
特に、沖縄の海は美しい。
セカンドインパクトの後も、海中の美しさは損なわれていなかった。

どちらも人生の中で数える程しか味わえない感動を与えてくれる。

そして碇シンジは、今正にその感動を味わっていた。

敷き詰められた絨毯の様に見える美しい珊瑚礁。
その中を人を恐れず優雅に泳ぐ、南国ならではのビビッドな色合いの魚達。
海中で見るそれは、あまりビビッドな色合いには見えないのだが、その容姿だけでも南国の魚は滑稽で美しい。
人の文化が入り込んでいない、自然が造り出した神秘的な造形がそこに有った。

「どうだった?」
海上に用意された船の上に上がった所で先に上がっているアスカから声を掛けられた。

エアボンベを外し、ウェットスーツを上だけはだけたアスカは、正に水も滴るいい女であり、碇シンジは返事も忘れ呆然と見蕩れていた。
南国の太陽に照らし出される赤みがかった金髪は、キラキラと煌めいており、その瞳は海の様に青い。
まだ14歳のアスカは、シミも目立たず、白人特有の肌の白さが際だっており、はだけたウェットスーツから覗いているビキニの胸は年頃の日本人とは比べ物にならないぐらい豊満であった。

「ん?」
「あっいや綺麗だなって思って・・・」
そう言うと碇シンジは真っ赤になる。

「そう?感動した?」
そう言って微笑むアスカは、ビーナス像の様に碇シンジの眼には映った。

しかし、アスカはそれが、先の自分の質問に対する答えで海中の話だと思い頓着せずにウェットスーツの下も脱ぎ出す。

ピタッとしたウェットスーツをずり下ろす仕種に、ビキニのパンツも一緒に少しずり下がる。
碇シンジに背を向け脱いでいたため、碇シンジには、ほんの少しではあるがアスカのお尻の割れ目が眼に入る。
碇シンジは、目の前に展開されたアスカの姿態に鼻血を吹き出し倒れる事となった。



浅間山でミサトは調査作業を行っている。
作戦課の仕事はエヴァを使って使徒を殲滅するだけではない。
従ってミサトはこの様な仕事にも従事するのだ。

『限界深度、オーバー』

「続けて」
研究所内の研究員達の間でざわめきが起る。
民間の研究所に於いて、このマグマの中に入れる観測機はとても高価でおいそれと潰す訳には行かないのだ。

「もう限界です!」
「いえ、後500、お願いします」

『深度1200、耐圧隔壁に亀裂発生』

「葛城さん!」
「壊れたらウチで弁償します。後200」
だが、ミサトに弁償する気は無い。
使徒が発見されたなら徴収してしまえば良いと考えているのだ。

「モニターに反応」
「解析開始」
「はい」

『観測機、圧壊』

その報告に研究員達は落胆の表情を浮かべる。
いくら弁償すると行っても、大量販売されている機材ではない。
それが届くまでは研究は滞るのである。

「観測結果は」
「ぎりぎりで間に合いましたね。パターン青、使徒です」
ミサトに対し嬉しそうに報告するマコト。

「これより当研究所は、完全閉鎖。NERVの管轄下に入ります。今後別命あるまで、研究所における一切の入退室を禁止。現在より、過去6時間での全ての情報を部外秘とします」
研究員達の心情など歯牙にも掛けずミサトは通告した。

研究員達は肩を落とした。
使徒が発見されたと言う事は、観測機も徴収と言う形を取られる事が研究員達には解っていたのである。
それがNERVを知る一般人のNERVに対する認識であった。

「碇司令宛にA-17を要請。大至急」
携帯電話で発令所に連絡するミサト。

『気をつけてください。これは通常回線です』

「解ってるわよ、さっさと守秘回線に切り替えて!」
全く解っていない。

シゲルの忠告もあっさり叱責へと代わった。
小声で言っていたシゲルの行動も意味の無い物であったのだが、この事で日本の株価は一時凄まじい下落を見せる事になる。



「葛城君がA-17を要請して来たぞ!」
司令室に入るなり冬月は、ゲンドウに詰め寄った。

「・・・使徒の捕獲か」

「危険だわね」
「マグマの中に居る使徒。その高温高圧から出しただけで羽化の可能性がありますわ」
ナオコの言葉にユイが補足する。

「りっちゃんに計算して貰いましょ」
ナオコはそう言うと手元の電話を取り、リツコに連絡する。

「・・・生きた使徒のサンプル、ゼーレが欲しがる可能性はあるな」
「そうでしょうか?それを理由にA-17の発令の方がお爺様方には有用な気がしますわ」

「・・・株価の下落か」
「あら?もう下落が始まっているわね。偶然?」
ナオコがインターネット上の株価を見て言った。

「葛城君が通常回線で要請してきたらしい、傍受されていた可能性があるな」
冬月は、全く困ったもんだと言う顔で言う。

「・・・ならば、その為に今更A-17を発令する必要もないな」
「後は現有資産の凍結による徴収か」

「・・・NERVの名を借りてゼーレが行うか」
「A-17を発令しないなら、委員会に承認を得る必要は有りませんわ。そのまま殲滅としましょう」

その時ナオコの脇にある電話が鳴る。

「そう、有り難う」
それだけを述べると電話を切るナオコ。

「羽化の予想時間は算出不能。データ不足らしいわ。つまり、捕獲は無謀」
「・・・綾波二尉に連絡、殲滅作戦とする」

「アスカちゃんは呼び戻しますか?」
「・・・作戦を聞いてからだ」



ブリーフィングルームでは、浅間山で発見された使徒について説明が為されていた。
説明を行っているのは、リツコ、聞いているのはシンジとレイである。

「これが使徒ですか?」

映像に映る胎児のように丸まって見える使徒。

「そうよ、まだ完成体になっていないサナギの状態みたいなものよ」
「マグマの高温高圧に耐えている未完成体ですか、完成体を見たいとも思いませんね」

「あら、私は見てみたいわよ」
「はぁ・・・で、殲滅方法は?」

「一応、観測機を改良して、捕鯨槍の様な物を撃てる様にしているわ。それに冷却パイプを接続、使徒に撃込み急速冷却により、使徒自らの圧壊を促します」
「それミサトさんが立案したんですか?」

「いいえ、ミサトはA-17、使徒捕獲を要請してきたわ。でも司令部で却下。これは技術部が使徒の現状を解析して立てた作戦よ。ミサトもまだ知らないわ」
「成る程、どうりで理に適った作戦な訳ですね。でエヴァは?」

「それで使徒が殲滅できずに、地上に出てきた時の保険」
「地上に出てきたら肉弾戦と言う訳ですか。了解」

「・・・私は?」
「勿論、一緒に行って貰うわ」
レイの問い掛けに、ニッコリと微笑んで答えるリツコ。



浅間山にウィングキャリアーで運ばれて来た二機のエヴァと二機の観測機。
観測機の一機は、なにやら捕鯨槍の様な物が数本見受けられる。

ヘリから降りたリツコにミサトが駆寄ってくる。

「遅かったじゃないリツコ、でこの観測機は何?」
「一台は使徒殲滅用に技術部で改造した物、一台は、貴女、壊したらNERVで弁償するって言ったのでしょ?」

「え?使徒発見したんだから、そんなの徴発って事にしちゃえば良いじゃない?」
「だから、NERVの評判が悪くなるのよ」
リツコはミサトの浅はかな考えに溜息を吐く。

「何言ってんのよ、こっちは人類存亡を賭けているのよ!命あっての物種でしょ!」
「貴女が【弁償する】って言ったんでしょ?自分の発言ぐらい責任を持ちなさい!」

リツコは馬鹿には付き合い切れないとばかりに研究員達の方へと歩いていき、これからの事と観測機の事の説明を始めた。
諦めていた観測機が、本当に弁償して貰えて歓喜の声を上げる研究員達。
それは自分達が使用していた物より高性能の物であったからだ。

「何よ、自分だけ良い子ちゃんぶっちゃって」
その様子を見ていたミサトは膨れていた。

リツコは、結局、観測機の製造元に連絡し、既に完成間近の観測機二機を買い取ったのである。
エヴァの装甲修理に比べ、それは安い出費であった。
そして、一機を急遽改造し、持ってきたのである。

リツコが説明を行っている間に、他の整備員達は使徒殲滅の為の準備を着々と進める。



「アスカは?」
「呼び戻してないわ」

「何で?」
「レイ君が必要ないって」

「そんなの解らないでしょ!」
「じゃぁ貴女の作戦を聞かせてくれるかしら?」

「えっだって使徒捕獲だから作戦なんて・・・」
「A-17は発令されないわ。使徒が完成体になる前に使徒殲滅よ」

「なっ!どうして!?」
「マグマの高温高圧に耐えている未完成体の使徒。完成体になったら押さえられるとは思えないわ」

「羽化を始めたら殲滅すれば良いじゃない!」
「何時?何処で?」

「へ?」
「何処で殲滅するのかしら?ジオフロント?輸送中?何時羽化するか解らない物のためにエヴァを24時間体勢で監視に付けるつもり?」

「・・・・・」
「そうそう、今、株価が急激に下落しているそうよ」

「それがどうしたのよ!」
「貴女、通常回線でA-17の要請したでしょ?傍受されたと考えるのが自然ね」

「だからって私のせいじゃ無いわよ!そんなの」
「そうかしら?」
リツコは、それだけ言うと準備状況を確認する。

ミサトはブツブツと言いながら、腕を組んでその様子を眺めているだけであった。



そして、技術部の作戦通り、使徒は冷却液を体内に入れられ、その身体は周りの圧力で圧壊されていく。

エヴァによる戦闘指揮しか眼中にないミサトは技術部が立てた作戦とやらを見てあげましょうとばかりに後ろから眺めていて、その結果に眼を見開く。

「なんで?!使徒はエヴァでしか倒せないんじゃないの?!」
「まだ完成体では無いからATフィールドすら張っていなかっただけよ」
リツコの言葉にミサトは沈黙する。

どうせ、失敗して地上で肉弾戦になるとミサトは踏んでいたのである。
研究員達は、使徒殲滅に使った観測機も貰えるとなって大喜びであった。

温泉に浸かる事もなく引き上げるNERV。
今回の費用は、エヴァをD型装備でマグマに潜らせるよりも安く済んでいる。
つまり、それでエヴァに破損でも出れば遙かに高額になっていたと言う事である。



運営が停止されているはずの浅間山が見えるロープウェイに加持と壮年の女性が話をしていた。

「A-17、発令はされなかったけど株価は大幅な下落よ?」
「それは先走った愚者の行動のせいでしょ?そこまでは責任持てませんよ」

「それを通常回線で示唆した愚者さんは?」
「その場に居なかったので、それはどうしようもなかったかと・・・」
加持も冷や汗を流す。

「何故、NERVは、未だ彼女を要職に置いているのかしら?」
「それはNERVの七不思議の一つです」

そう言うと加持はじっと浅間山の火口を見ていた。
そこで戦闘指揮を執っているであろう人物に想いを乗せて。



「「ただいまぁ〜!」」
アスカと碇シンジが修学旅行から帰ってきた。

「おかえりなさぁい」
ユイの優しい声で迎えられる二人。


「えぇ〜っ!!!使徒が出たんですかぁ!」
居間でお土産を拡げながらアスカが叫んだ。

「出たと言うより発見されたと言う感じだったわね」
「それで綾波先輩が殲滅しちゃったんですか?」

「今回は技術部開発の兵器のみで殲滅。エヴァはもしものための待機しかしていなかったわよ。だからアスカちゃんも呼び戻されなかったの」
「えぇ〜っ!使徒はエヴァでないと倒せないんじゃ?」

「発見されたって言ったでしょ?まだ完成体になってないサナギの様な物だったのよ」
「そうだったんですか・・・」
テンションの高かったアスカだが、ユイのおっとりとした説明にそのテンションは沈められていく。

「それより二人とも良い色に焼けて来たわね?」
「二人でスキューバダイビングをしたんです。ほら、見て下さい」
アスカはそう言うとペロッと腰の辺りを捲り水着の跡をユイに見せる。

日焼けした肌にはっきりとした区切りの付いた真っ白な肌を見たシンジは、ウェットスーツを脱いでる時のアスカがオーバーラップし、またも鼻血を出して倒れる事となってしまった。

「あらあら、シンちゃんには刺激が強かったようね」
息子が鼻血を出してぶっ倒れているのに余裕の笑みを浮かべているユイであった。



第三新東京市に有る居酒屋でマコトとシゲルとマヤは呑んで居た。
今回の使徒戦ではエヴァも無傷であり、使徒戦後の処理が比較的楽に終ったのだ。

「はぁ〜葛城さん・・・」
呑みながら色々な想いが巡り、つい呟いてしまったマコト。

「日向君もそろそろ眼が醒めても良い頃だと思うけど?」
「なっ!どう言う意味だよ」

「加持さんが居るから諦めろって事さ」
「それならシゲルだってレイが居るんだから諦めろよ」

実際、マヤとしては、あんなのの何処がいいのかと言う意味で言ったのだが、シゲルは別な現実的な方向で示唆したので、敢えて突っ込まなかった。

「レイにはレイちゃんもアスカちゃんも居るから良いの」
「青葉君!何言ってるのよ。二人ともまだ子供でしょ?」
突っ込みどころが少しずれているマヤ。

「いや、俺はマヤちゃん一筋だって言ってるんだよ」
「私もレイ君一筋よ」
「俺も葛城さん一筋」

「「「はぁ〜っ」」」
溜息を同時に吐く3人。

「俺達って報われないよな?」
「そうだな・・・」

変な連帯感を共有する3人であった。

「よしっ!」
シゲルがおもむろに携帯を取り出し電話をかけ始めた。

「何してるの?」
「勿論、レイを呼び出して愚痴る!」

「「賛成!!」」



そして何故か3人はシンジの家で呑んでいる。
電話が掛って来た所で、シンジがお土産の泡盛があると言ったら全員来る事になってしまったのだ。

因みにこの泡盛はアスカと碇シンジのお土産である。
後、星の砂に始まり、ラフティーやら海ブドウやらゴーヤやら色々な沖縄土産があった。

実は、アスカが多量に土産を買いすぎて全部郵送にしたのだ。
確かにお酒とかは重いのでアスカらしいと言えばアスカらしい。

「なぁレイ、葛城さんって今、NERVで孤立してないかな?」
「マコトさんが居るから孤立って事は無いと思いますけど?」

チビチビと泡盛を呑みながら話をする4人+1。
レイはトコトコと摘みを作っては出していた。

テーブルの上は結構な量の沖縄料理が並んでいる。
ゴーヤチャンプルは勿論の事、ラフティーやソーキ等々である。
殆どアスカが送ってきたレトルト物だが、結構いける。

「でも、葛城さんって仕事してるんですかぁ?書類関係は殆ど日向君がやってるんじゃないの?」
「いや、そんな事は無いと思うんだけど・・・」
マヤの突っ込みにマコトも返す言葉が無い。

「A-17の発令要請がまずかったよな。通常回線だって言ったら怒られちゃったよ」
「えぇ〜っ!それって逆切れってやつですかぁ?」

「不思議に思ってたんだけど。マコトが居たのに何で通常回線で連絡して来たんだ?」
「いや、連絡してくるって部屋を出て、自分の携帯でかけたらしいんだよ」

3人が話す中、一応シンジは話に入っているのだが、レイは黙々とゴーヤチャンプルに侵攻していた。
結構気に入ったらしい。

「レイってドイツで葛城さんと一緒だったんだろ?その時からあんな感じだったの?」
「う〜んプライベートな話になるから言っていいものかどうか悩むんですけど・・・」

「他言しないから教えてくれ!」
マコトが真剣な眼で訴える。
多少酔っているため、その白目は血走っており、少々恐い。

「ミサトさんが葛城調査隊の生き残りだって事は知っていますよね?」
「葛城調査隊って、あの南極の?!」
シンジの言葉に反応したのはマヤであった。

コクリと頷くシンジ。
隣ではレイがゴクンと何かを飲んでいた。

「だから彼女、14歳の時に失語症だったんですよ。だけど、その後現役で日本の最高学府を卒業、戦略自衛隊を経てNERVに。それは唯一つの目的のために突き進んできた結果らしいです」
「「「唯一つの目的?」」」

「聞こえ良く言えば、父親の仇、有り体に言えば自分の幸せを奪った種族に対する復讐」
「使徒に復讐・・・」

「良くも悪くもそれがミサトさんの原動力で有ることは、変わりありません」

そこでシンジは一泊置いた。

「結局、元が優秀だったんでしょうね。だから自分の目的の為の最短コースを進める事が出来た。でもそれが還って自信過剰と、本来の未発達な精神による情緒不安定が重なって感情爆発型となっている節がありますね」
「未発達な精神って?」

「他の物を捨てて目的に向かったんです。その努力は生半可な物じゃなかったでしょう。だから一般的な成長期における成長が成されていないんじゃないかな?ミサトさんの人付き合いってあのフランクな砕けた態度を鎧にしているじゃないですか」
「そうね、NERV内で仲の良いのは加持さんと先輩だけ。それって大学時代からの付き合いらしいし」

「やっぱり俺、葛城さんを助けて行きたいな」
ボソッと呟くマコト。

シンジはその言葉を聞いて微笑んでいた。

「皆で助けて行ってあげましょう」

コクンと頷くマコト、シゲルとマヤ。

「でも具体的にどうすれば良いのかしら?」

「暴走を止めるストッパー。後はより良い提言かな?」
「加持さんとの仲を進展させるってのは?」

「えぇ〜っシゲルゥ〜?」
「私もレイ君との仲を進展させましょぅ」
「ま、マヤちゃ〜ん」

「・・・貴女は赤木博士が相手ではなかったの?」
今まで黙っていたレイの一言に4人は暫く固まってしまった。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。