第拾話
アスカとレイカ


騒がしい第一中学校2−Aの教室で始業のチャイムが鳴る。
教室のドアから担任教師がやってきて、開口一番に述べた。

「今日は転校生を紹介します。入ってきて下さい」

その言葉に促され入って来たのは赤みが掛った金髪に青い眼の少女と蒼銀の髪に紅い眼の少女であった。
その日本人離れした二人の容姿にクラスの男子生徒は、感嘆の声を上げ、女子生徒は溜息を吐いた。

金髪の少女は周囲のざわめきを余所に澄ました顔で黒板の前へ行くと、白チョークで流麗な筆記体の名前を書いた。
そして振り返り、人当たりのよい笑顔で一言。

「惣流=アスカ=ラングレーです」

「・・・綾波レイカ」
アスカとは対照的に端的に無表情で名前だけを述べるレイカ(レイ)。

「では、お二人は、空いている席に座って下さい」
教師の言葉に、アスカはお下げに雀斑の人の良さそうな少女の隣に腰掛けた。

「あっ、私、洞木ヒカリ。宜しくね」
「アタシの事はアスカで良いわ。宜しく」
そう言って微笑むアスカに見惚れてしまい、頬を赤くするヒカリ。

「あっ、わ、私もヒカリで・・・」
何故かしどろもどろとなっていた。

レイカ(レイ)は、周りを見渡し、窓際の一番後ろが空いている事を確認すると、そこに向かった。
右斜め向かいに碇シンジが座っている。
通り過ぎる時、シンジが軽く会釈したので、レイカ(レイ)も会釈を返した。

机に座ると溜息を吐くレイカ(レイ)。

(・・・失敗したわ)
本心からそう思っていた。

以前はチルドレンとしてNERVに居る事が多く、殆ど学校にも行っていなかった。
その印象が強かったので、身体を得てもレイ(シンジ)といつも一緒だと思っていたのだ。

しかし、今はチルドレンではない。
従って学校にはちゃんと行かなければならず、IDカードは持っていたがNERVに行く事すら理由が必要であった。

結果、以前の様にいつも窓から外を見ている神秘的な少女となってしまった。

レイカ(レイ)自身、この世界に居る碇シンジには、何の感慨もなかった。
両親が忙しかったり、母親が変な実験で若返ったりしているが、セカンドインパクト後の世代としては、かなり裕福で恵まれた生活をしている方である。
従ってシンジとしては、レイカ(レイ)に対しても、少し日本人離れした綺麗な少女ぐらいの感覚しかない。
心が欠け、その中でも優しさを失わず、レイカ(レイ)が欠けた心の中に染み渡ったレイ(シンジ)と、その他大勢の中に居る、少し綺麗なレイカと言う認識のシンジではレイカ(レイ)が感じる印象が違うのも仕方がない。
ましてやレイカ(レイ)は、ここ十年以上レイ(シンジ)と一体化していたのだ。



昼休み、屋上でケンスケとトウジは店を開いていた。

「あ〜あ、猫も杓子も、アスカ、レイカ・・・か・・・」
「みな、平和なもんや・・・」

「写真に、あの性格は写らないからね・・・」
「どう言うこっちゃ?」

ケンスケは趣味と実益を兼ねて校内で人気の生徒の写真を撮っては、それを欲しがる生徒に裏で売り捌いているのだが、アスカとレイカが転校してきて以来、その売上の9割近くはアスカとレイカの写真になっていた。

容姿端麗、才色兼備のアイドルのように振舞うアスカが人気になるのは当然の事とも言える。
深窓の令嬢の様な神秘的な雰囲気を醸しだしているレイカ(レイ)の人気も当然であろう。
「それが写真の良いところさ」
ケンスケは写真の売上が伸びて、思わぬ収入になっているのだから文句はない。



レイ(シンジ)は新横須賀港にやってきていた。
前回の使徒戦時に発生した被害報告でミサトは【太平洋艦隊は指揮権を委譲しなかったためNERVでは一切保証しない】と文書で出したのだ。

しかし、弐号機が実際の戦闘を行い、そのために潰れた戦闘機等もある。
結局UN軍から国連にクレームが上がり、レイ(シンジ)がその尻拭いに来ている訳だ。

「申し訳ありませんでした提督」
「いやいや、署名を見てあの女である事は解ったが、如何せんうちの財政も火の車でな」

「理解しております」
「しかし、なんであんなのが作戦課長と言う要職にあるのだ?全くNERVと言うのは理解に苦しむよ」

「はは、それは、任命した方に聞いて頂かないと・・・」
「それもそうだな。ガッハッハ」

レイ(シンジ)と提督であれば、全く和気藹々と話が進む。

『警戒中の巡洋艦【はるな】より入電。我、紀伊半島沖にて巨大な潜航物体を発見』

その時、艦内放送が響き渡った。
しまったと言う顔をするレイ(シンジ)。

「それでは提督、私はこれで」
「あぁ気をつけてな。今度、呑もう」

「是非に」
レイ(シンジ)は提督に敬礼すると、書類を鞄に入れ、急いで艦から降り、自らの愛車に跨りNERVへと急いだ。



「受信データーを照合。波長パターン青!使徒と確認!」
「総員第一種戦闘配置!」
ゲンドウの居ない今、冬月が号令を掛ける。

「レイ君は?」
「現在、横須賀港からこちらに向かっています」
発令所でミサトの質問に答えたのはマヤであった。

「なんで、この肝心な時に居ないのよ!」

(((お前の尻拭いだよ!)))
ミサトの言葉にオペレータ達と雛壇の科学者達はユニゾンしていた。

「アスカは?!」
「ケイジに居ます。現在、搭乗準備中です」

「うっし、ウィングキャリアーを用意して!」
「葛城君、何をするつもりかね?」
ミサトの行動を制止したのは冬月の言葉であった。

「先の戦闘によって第三新東京市の迎撃システムは大きなダメージを受け、現在までの復旧率は36%。実戦における稼働率はゼロと言えます。よって今回は、上陸直後の目標を水際で一気に叩くのが良策と言えます」
「解った。慎重にやりたまえ」

「はっ!」

冬月はこの時、重大な過ちを犯した。
冬月としてはレイ(シンジ)が戻って来てから出発すると思っていたのだ。
しかし、ミサトは準備でき次第に出発してしまった。
ゲンドウが居ない現在、冬月が許可した事に誰も異論を唱えられなかったのである。



海岸線に設置された仮説発令所で、ミサトはアスカに通信で説明している。
海岸線上には未だ使徒は現れて居ない。

『今回は上陸直後の目標をこの水際で一気に叩く!弐号機は目標に対し着地と同時に攻撃、接近戦でいくわよ』

「了解!」
レイ(シンジ)が居ない事に不安を感じつつも、一応作戦課長であるミサトが陣頭指揮を執っているため、アスカは了解する以外にない。

STOL機からエヴァがテイクオフし、地響きをたてて着陸した。
即座にNERVの補給部隊により専用電源にケーブルが接続される。

海上に浮かぶ水柱。

『来たわよ。アスカいいわね?』

「了解!」
アスカが元気よく返事をすると弐号機は使徒に向かって走り出す。

弐号機はそのまま一気に跳躍して、ビルを踏み台に使徒の所まで一息で移動した。

「んぬあぁぁぁっ!」
ズブァッと言う音と共に弐号機はそのままスマッシュホークで使徒を両断した。

『ナイス、アスカ!』

「どう?戦いは常に無駄無く美しくよ」
使徒殲滅も確認せず諸手を挙げて賞賛するミサトにアスカも使徒に背中を見せて誇らしげに言ってしまった。

『なんて、インチキ!!』
使徒が2つに分離して再度動き始めた時、ミサトはアスカに指示もせず、喚いて通信機を握り締め、壊していた。



ブリーフィングルームでは、スライド式に映像を表示し、戦況の報告が為されていた。

『本日午前十時五十九分三十七秒、二体に分離した目標甲・乙の攻撃を受けた弐号機は、初号機の援護を受けるも駿河湾沖合二キロの海上に水没、活動を停止。この状況に対する、E計画責任者のコメント』

『・・・無様ね』

肩にタオルをかけながら、目の前で上映された戦闘経過を見せつけられ、言葉もないアスカ。

『十一時五分をもってNERVは作戦遂行を断念、国連第二方面軍に指揮権を譲渡。同零七分四十三秒、国連空軍のN2爆雷投下による使徒の構成物質の21%の焼却に成功』

マヤの淡々としたナレーションが響く。

「やったの?」
「足止めに過ぎん、再度侵攻は時間の問題だ」
「ま、立て直しの時間が稼げただけでも儲けものっすよ」
冬月の言葉に加持がアスカをフォローする。

「また地図を書き直さなきゃならんな」
冬月の声は不機嫌そのものだった。

「弐号機パイロット」
「は、はいっ」
冬月の言葉にアスカがびくつきながら返事をする。

「君の仕事は何かわかるか?」
「・・・EVAの操縦?」

「違う使徒に勝つ事だ!このような醜態を晒す為にNERVは存在しているのではない!」

「副司令?」
「何かね?」
レイ(シンジ)が腕を組んで不機嫌そうに冬月を呼び止めた。

「何故、僕を待たなかったのですか?」
「そ、それはだな、葛城君が先走って・・・」
レイ(シンジ)の言葉に冬月がしどろもどろになる。

「副司令が許可したと聞きましたが?」
「うむ、私も君を待って出撃すると思っていたのだよ」

「今回の敗因は、最大戦力で行かなかった事、及び、敵生体の特性を把握しないまま弐号機を単独で出撃させた事に他なりません」
「確かにそうだが・・・」

「それで弐号機パイロットを責めるのは筋違いでしょう。確かに弐号機パイロットは残心を忘れ、使徒殲滅確認前に敵に背中を見せました。が、その前に作戦課長があたかも使徒殲滅したかの様に賞賛しています」
「今回の責任は全て葛城君にあると言いたいのかね?」

「それを止めずに承認した副司令にもです」
「・・・わかった、今回の事は不問にしよう」
そういって席を立ち、タラップに乗って下へと去っていく冬月。

「どうしてみんなすぐ怒るの!」
「大人は恥をかかされるのが嫌いなのさ」
膨れているアスカを取りなす加持。

「しかし、二体か・・・厄介だな」
レイ(シンジ)は弐号機の破損状況が思いの外酷い事を危惧していた。



そして、文字通り山のような書類の束を相手に睨付けているだけのミサト。
口にペンまで銜えている。
後ろにはリツコが、腕組みをしてそれを見下ろしていた。

「これが関係各省からの抗議文と被害報告書。で、これが国連からの請求書、広報部からの苦情もあるわよ。全部目、通しておいてね」

ぎぃぃ、と椅子をきしませながら伸びをすると、ミサトは大きく息を吐いた。

「読まなくても解ってるわよ。喧嘩をするならここでやれってんでしょ」
「ご明察」

「言われなくったって、上が片づけばここでやるわよ」
「副司令はカンカンよ。今度恥かかせたら、左遷ね、間違いなく」

「碇司令が留守だったのは不幸中の幸いだったけどさ」
「いたら即刻クビよ、これ見る暇も無くね」

「で?私のクビがつながるアイディア、持ってきてくれたんでしょう?」
「ひとつだけね」
ポケットからディスクを取り出すリツコ。

「さっすが赤木リツコ博士、持つべきものは心優しき旧友ね」
「残念ながら旧友のピンチを救うのは私じゃないわ、このアイディアは加持君よ」

「加持が?」
ふと優しい顔になるミサト。
リツコは、その表情を見て微笑んでいた。



「成る程、ユニゾンによるコアへの二点同時荷重攻撃ですか・・・」
レイ(シンジ)は、ミサトの持ってきた作戦企画書をソファーに腰掛け読んでいた。

ミサトは加持からの贈り物から企画書を作成し、それを冬月に提出。
冬月はレイ(シンジ)が承認するなら許可すると言ったのだ。

そして、ミサトはアスカを連れレイ(シンジ)の家に来ていた。
つまり、レイ(シンジ)の承認を得る前に既に行動していると言う事である。

「で、アスカとユニゾン訓練をやれと?」
「ご明察」

「それで、なんで家なんですか?しかも何故シンジまで?」
「だって幾ら何でも司令の家でやる訳には行かないから・・・」

「僕はアスカの荷物持ちです」
シンジが両手一杯に荷物を提げて言った。

シンジも大変だなとレイ(シンジ)は眼で合図し、シンジもそれに眼で答えていた。

「別にNERV内でも構わないでしょ?」
「完璧なユニゾンの為には体内時計も合わしておく必要があるわ。だから今日から一緒に共同生活して貰います。時間がないから命令拒否は認めません」

「時間が無いって、使徒の再度侵攻まで5日、弐号機の修理に6日って聞いてますけど?」
「弐号機の修理はリツコに頼んできたわ。だから5日しかないと思って」

「・・・拒否します」
「え?えっとレイカちゃん?」
突然、横からレイカ(レイ)の拒否に戸惑うミサト。

「これは使徒殲滅の作戦なの。だから貴女は口を出せないのよ」
「・・・この家は私と兄様の家です。無断で他人を入れる事は拒否します」

「あんたねぇ人類存亡を賭けた戦闘に何言ってるのよ!」
例によってミサトは自分の中の大義名分を持ち出す。

「・・・私が零号機に乗ります」
「「「「へ?」」」」
その場に居たレイカ(レイ)以外の全員が呆然とした声をあげた。

「あのね、レイカちゃん、エヴァに乗るには特別な資質が必要なの。貴女じゃ無理なのよ」
「・・・兄様が乗れるなら私も乗れます」

レイカ(レイ)の言葉にミサトの中で打算が働く。
確かに、レイ(シンジ)の妹であれば乗れるかもしれない。
しかも、乗れたなら稼働できるエヴァが3台になる。

「レ、レイ?」
「・・・何?」

「い、いや、乗るの?」
「・・・えぇ」
レイカ(レイ)の射る様な目線にレイ(シンジ)は反論出来なかった。

既にミサトはリツコに連絡し、起動実験を取り付けている様子だ。

アスカとシンジが、取り残されてボーッとしていた。

「レイはアスカが嫌いな訳じゃないんだよ。ミサトさんの強引な遣り方が気に入らないだけだから」
レイ(シンジ)はアスカにフォローする。

「折角、綾波先輩と一緒に暮らせると思って喜んでたのに、やっぱりミサトは何も話してなかったのね。でもレイって乗れるのかしら?」
と、アスカもミサトの行き当たりばったりに溜息を吐いた。



翌日、零号機が実験場内に配置されレイが乗り込んだ。
プラグスーツはアスカの物を借りているため、赤である。
インターフェースヘッドセットはレイ(シンジ)の物で青であった。

「これより、零号機再起動実験を行います」
リツコの緊張した声がオペレーションルームに響き渡る。

今まで起動実験で成功した例は、本部ではファーストチルドレンたるレイ(シンジ)のみ。
それも10年程前の話だ。
その後、多くの作業員は起動実験が行われていないと思っている。
しかし、ナオコとユイがそれぞれ思惑は違うが行っており、零号機に取り込まれているのだ。
その事を知っているリツコが緊張するのは当然であろう。

そして10年前の起動実験の際、この場に居た技術者は既に居ない。
ナオコとユイ以外は、各支部に管理職として派遣されたのだ。

ミサトはこれで駒が増えるとでも思っているのか、眼を爛々と輝かせ期待一杯と言うのが誰の目にも明らかであった。

「レイちゃん、本当に良いのね?」
尋ねたのはユイである。

ユイはレイ(シンジ)の事を【レイ君】と呼び、レイカ(レイ)の事を【レイちゃん】と呼ぶ。

NERV内では、レイカ(レイ)は【レイちゃん】と呼ばれるのが通例であった。
レイ(シンジ)は【レイ】又は【レイ君】、事務的だと【綾波二尉】となる。
流石にゲンドウから【レイちゃん】と呼ばれた時は、レイカ(レイ)も眼を見開いて驚いていた。
呼んだゲンドウの方も少し顔を紅潮させて居たらしい。

ユイとナオコは、この起動実験は失敗しないと確信していた。
しかし、ユイとしては新たにレイカ(レイ)をチルドレンとはしたくなかった。
しかし、本人の強い希望であり、レイ(シンジ)も反対しないため押し切られてしまったのだ。

『・・・はい』

抑揚のない返事を返すレイカ(レイ)。

「・・・実験開始」
ゲンドウの言葉で実験が始まる。

ゲンドウと冬月も、この起動実験を見学に来ていたのだ。

「第1次接続開始、主電源接続」
「稼動電圧臨界点を突破」
「フェイズ2に移行」
「パイロット零号機と接続開始、パルス及びハーモニクス正常、シンクロ問題無し」
「オールナーブリンク終了」
「絶対境界線まで後2.5」
「1.7」
「1.2」
「1.0」
「0.7」
「0.4」
「0.2」

「絶対境界線突破します」
「零号機起動しました」

どよめきがオペレーションルーム内に起こる。
ナオコ、リツコ、ユイは顔を見合わせ「成功ね」と安堵の息を漏らした。

『・・・引き続き連動試験に入ります』

ここにサードチルドレン綾波レイカが誕生した。



嬉々としたミサトがレイ(シンジ)とレイカ(レイ)にユニゾン訓練を命令したが、二人はあっさりと90点台をマークし、試しにと行ったアスカも80点台後半であった。

そして、翌日、使徒の回復を待たずに作戦が決行される。

未だ回復率50%と言う所の使徒は、ユニゾン攻撃の必要もなく、零号機と初号機に簡単にコアを同時に貫かれ、殲滅された。

因みに零号機は未だオレンジの装甲のままである。

これを見たミサトは、歓喜するが、レイ(シンジ)から、「初心者のレイと二人で、こんなに簡単に倒せるんだから、最初に待っていてくれれば苦戦したとしても倒せましたよね」と言われ、臍を噛む事になった。



「おめでとう、レイ」
「・・・何?」

「サードチルドレン就任と初勝利についてよ」
そう言って手を差し出すアスカの手を、訝しげに見ながらもレイカ(レイ)は、握手に応じた。



「そう、アスカと握手したんだ」
レイカ(レイ)はレイ(シンジ)の胸に顔を乗せ、レイ(シンジ)は、レイカ(レイ)の頭を撫でている。

ダブルベッドで二人は横たわっていた。

コクンと頷くレイカ(レイ)

「・・・あの人は、全然違うわ」
「そうだね、でも同じなのはミサトさんぐらいだよ」

「・・・何故?」
「僕が殆ど介入できなかったからだと思う。僕達が辿った世界と同じ様に14歳で失語症になってそれから誘導されているんだよ。多分ゼーレに」

「・・・弐号機パイロットは?」
「アスカはチルドレンになったときには既に僕は存在していた。だから抜かれると言う意識が無いんだよ。追われる側って言うのは神経を使うんだ」

「・・・碇君は?」
レイカ(レイ)は未だ二人っきりの時はレイ(シンジ)の事をこう呼ぶ。

「何が?」
「・・・今は追われる側?」

「僕は、そんな事、考えた事も無いなぁ」
「・・・私は追う側?」

「あっそう言えばアスカにとってはそうなるのかなぁ?」
「・・・碇君にとっては?」

「大事な人だよ。それより何でエヴァに乗る事にしたの?」
「・・・学校」
レイ(シンジ)の身体をギュッと抱締めて答えるレイカ(レイ)。

「へ?」
「・・・つまらないから」

「まぁね。レイなら学校の勉強なんて必要ないからね。でも友達は作れるんじゃない?」
「・・・つまらない」

全ての母たるリリス。
その感性としては、わざわざ稚拙で思慮浅い中学二年生の友達を作ろうとは考えられないのであった。
価値観も経験も違う。
友達と言うのは何かを共有する仲間である。
趣味であるとか、遊びであるとか、時間であるとかである。

しかし、今のレイカ(レイ)には中学二年生の子供と共感出来る物は無い。
だから話す事も無いし、一緒に何かしたいとも思えないのだ。

「アスカは?」
「・・・学校では煩いだけだわ」

それは大学を出たとは言え、感情の幼いアスカに対しても同様であった。

「そっか・・・そうだよね」
コクンと頷くレイカ(レイ)。

その辺りの感情はレイ(シンジ)にもよく解る。
レイ(シンジ)が今更、中学校に通えと言われても同様であろう。
例え身体が14歳となっても彼らと友達になれるとは思えなかった。

「どうしようか?」
「・・・試験だけ受けに行くわ」

「それはそれでアスカが喚きそうだなぁ・・・」
「・・・誤魔化すわ」

「どうやって?」
「・・・私、身体が弱いの」

「ぷっ、そうだったんだ」
「・・・きっとユイ博士も協力してくれるわ」
吹き出したレイ(シンジ)に対し、少し頬を膨らませ答えるレイカ(レイ)。

レイ(シンジ)に取っては、多分、この世界で最強であろうレイカ(レイ)が身体が弱いと言うのはかなり可笑しかったのだ。
しかし、レイカ(レイ)に取っては切実な問題である。

「そうだね、つい最近プラントから出たアルビノ体質とすれば身体が弱いと言うのは妥当か」
「・・・アルビノ体質だけで充分」

こうしてレイカ(レイ)は、アルビノ体質による治療の為と言う事で、殆ど学校に行かないで良い生活を手に入れた。

驚いた事にアスカは、あまり学校に出てこないレイカ(レイ)を当初心配していた。
最近チルドレンとして選ばれたばかりだから訓練漬けにされているのかと思っていたらしい。

「あんた、訓練が忙しいの?」
NERVで久しぶりにレイカ(レイ)を見つけたアスカが声を掛ける。

「・・・体質の治療」
レイカ(レイ)の端的且つ素っ気ない答えにアスカも納得した。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。