第九話
アスカ来日


「ミル輸送ヘリ!こんなことでもなきゃ、一生乗る機会なんてなかったよ〜ほんと持つべきものは友達って感じだよシンジ!」
海上を渡るヘリの中、シンジの友人である相田ケンスケは、カメラを片手に騒いでいる。

「毎日同じ山の中じゃ、息苦しいと思ってね。たまの日曜だからデートに誘ったんじゃないのよん♪」
「ええっ!ほんなら、ホンマにデートっすかぁ!?この帽子、今日のこの日のために買うたんですっミサトさん!」
こちらは関西弁混じりの、やはりシンジの友人、鈴原トウジはミサトの美貌の方がお目当てらしい。

レイ(シンジ)は、ミサトがシンジを連れて行くと言ったので、司令が許可するなら別に構わないと言ったところ、シンジに連絡しておらず、当日になって連れに行ったところ、この二人と遊ぶ約束をしていたのだ。
レイ(シンジ)としては、シンジをアスカに逢わすのは構わないだろうと考えていたのだが使徒が来る事が解っているのに民間人を二人も巻き込むのは躊躇われた。
しかし、使徒が来るとは言えないため、適当な理由が付けられず、ミサトに押し切られてしまったのだ。

そして何故かレイ(シンジ)の隣にはちゃっかりとレイカ(レイ)も座っている。
退院したばかりのレイカ(レイ)は、朝、レイ(シンジ)が出掛ける時に、

「・・・弐号機パイロットを迎えに行くのね」
と言い

「うん、そうだけど?」
とレイ(シンジ)が普通に返事をすると、

「・・・私も行くわ」
と言ったのだ。

「えっでも、まだ退院したばかりだし、無理しない方が良いんじゃ」
「・・・行くわ」

「・・・は、はい」
とじっと見詰める紅い眼に押し切られてしまった。

それ故に、トウジとケンスケだけ連れて行かないと言う訳にも行かなかったのだ。

トウジとケンスケは、初めて見るレイカ(レイ)の容姿にレイ(シンジ)の妹とすぐ思い込み、シンジに「別嬪さんやのぉ」とか「羨ましすぎるぅ」とか宣っていた。



「ああ、見えたわよ。ほら、太平洋艦隊だわ」

「おおう、空母が五、戦艦四、大艦隊だ。正にゴージャス!流石国連軍が誇る正規空母、オーバー・ザ・レインボー!」
ケンスケは更にテンションを上げている。

「あんな老朽艦が良く浮いていられるものねー」
「いやいや、セカンドインパクト前のヴィンテージ物じゃないっすかあ」

「おお、空母が5、戦艦が4・・・太平洋艦隊の揃い踏みだ〜っ!」

その光景をケンスケが必死に写真に収める中、ヘリはオーバーザレインボーに着艦し、6人は空母に乗り移った。

サッと飛び降りるミサト。
それに続き怖ず怖ずと飛び降りるシンジとトウジ、ケンスケ。
レイ(シンジ)は飛び降りると、下でレイカ(レイ)を受け止める様に待ちかまえているとレイカ(レイ)は、レイ(シンジ)の胸に飛び込む様に飛び降りた。

その様子を唖然と見ていたトウジの帽子が風に飛ばされる。

「あっこら、待て!待たんかい!」
帽子を追い掛けるトウジ。

トウジの帽子は、スラッとした脚の元で踏みつけられた。

「ヘロゥ、ミサト!元気してた?」

突然、前方の甲板から声が掛かり声のする方に目をやると、黄色いワンピースを着た赤っぽい金色の髪に青い瞳をした少女が、腰に手を当ててこちらを見ている。

「まあね、あなたも背、伸びたんじゃない?」
「そ、他の所もちゃあんと女らしくなってるわよ?」

「紹介するわ、エヴァンゲリオン弐号機のパイロット、惣流=アスカ=ラングレーよ」
ミサトが言い終わるか否やと言う時に、アスカは走り出す。

アスカの足に踏まれて居た帽子を取ろうとしていたトウジは、そのまま後方に倒れ込んだ。

「綾波せんぱぁい!」
ドンと言う音がしたと思う程、強烈にレイ(シンジ)に抱き付く少女。

その時、甲板に突風が吹いて少女のワンピースの裾が捲れ上がる。

少女をそれを手で押さえて捲れ上がり切るのを阻止した。
因みにレイカ(レイ)は、ジーパンである。

基本的に露出度の少ないと言うか全くない服装を好んでいる。
その代わりと言うか、家の中でレイ(シンジ)と二人の時は、レイ(シンジ)のシャツだけとか、タオルだけとか、寝る時は裸でレイ(シンジ)のベッドに潜り込むとか・・・

張り手が飛んで来るかと身構えていたレイ(シンジ)の顔を上目遣いで覗き込むアスカ。

「み、見えちゃいました?」
ブルンブルンと首を横に振るレイ(シンジ)。

「よかった。で、アンタ誰よ?」
レイ(シンジ)の開いてる方の腕にしがみつき、もう片方の腕を占有している蒼銀の髪に紅い眼の少女に敵対心剥き出しでアスカが言った。

「・・・綾波レイカ。レイでいいわ」
「綾波?レイカ?」

「僕の妹だよ、アスカ。行方不明だったんだけど最近見つかってね」
「そ、そう、あたし、惣流=アスカ=ラングレー。あたしの事はアスカで良いわ」
妹と言う言葉に幾分安心したのかアスカは矛先を収める。
それどころか、妹なら仲良くしておかなくてはと言う打算まで働いていた。

「紹介するよ、アスカ。司令の息子の碇シンジ君。その友達の鈴原トウジ君と相田ケンスケ君だよ。多分同じ学校に通う事になるから宜しくね」
レイ(シンジ)の紹介に自分の名前を呼ばれた時にペコリと頭を下げる少年達。

「へぇ〜なんか冴えないわねぇ。学校ってあたし大学出ましたよ?」

「うん、日本は義務教育って言ってね。中学校までは学校に行かせなければ行けない義務があるんだよ。NERVも公務員としてそれを無視できなくてね。まぁ同年代の友達を作りに行くと思って行けばいいんじゃないかな?」
「ふ〜ん。あたしはそれより本部で、綾波先輩と訓練してる方がいいなぁ」


「はぁ〜っ、なんか気の強そうなおなごやなぁ」
「でも、あの二人が転校してくるって事は・・・売れる!売れるぞぉ〜っ!」
そんな二人に冷や汗を流しながら、二人共綺麗だよなぁとシンジも思っていた。



「おやおや、ボーイスカウト引率のお姉さんかと思っていたが、それはどうやらこっちの勘違いだったようだな」
差し出された写真入り金地のNERV製ネームカードを眺めながら、皮肉な言い方で提督は言った。

「ご理解いただけて、幸いですわ」
ミサトは平然とした顔で受けて流す。

「いやいや、私の方こそ、久しぶりに子供達のお守りが出来て幸せだよ」
丁々発止と提督とミサトがやり合っている中、ケンスケはお構いなしに歓声を上げながら二台目のカメラでブリッジ内をひたすら撮影し続けている。

「この度はエヴァ弐号機の輸送援助、ありがとうございます。こちらが非常用電源ソケットの仕様書です」
そういってミサトは提督に、手に持っていたクリップでまとめられている紙の束を渡した。
その言葉を聞いた途端、制帽の影の下で顔をしかめる提督。

「はっ!だいたいこの海の上で、あの人形を動かす要請なぞ聞いちゃおらん!」
「万一の事態に対する備え、と理解していただけますか」

「その万一に備えて、我々太平洋艦隊が護衛しておる!いつから我々国連軍は宅配屋に転業したのかな」
副長に意見を求める艦長。

「某組織が結成された後だと記憶しておりますが」
「玩具一つ運ぶのに、大層な護衛だよ。太平洋艦隊勢揃いだからな」

「エヴァの重要度を考えると足りないぐらいですが。では、この書類にサインを」
「まだだ」
ファイルを差し出したミサトは、その提督の言葉にぴくぴくと眉を引きつらせた。

「エヴァ弐号機および同操縦者は、ドイツのネルフ第三支部より本艦隊が預かっている。君らの勝手は許さん」
「では、いつ引き渡しを?」

「新横須賀に陸揚げしてからになります」
副長も慇懃な物腰で、取り澄ました言い方をする。

「海の上は我々の管轄だ。黙って従ってもらおう」
「解りました。但し有事の際は、我々ネルフの指揮権が最優先であることをお忘れなく」

「相変わらず凛々しいなぁ」
その声にギギギっと言う音がするように首を振り向かせるミサト。

「よっ」
「うがっ!?」
ミサトが嫌な予感をさせながら振り向いたドアの所には、彼女のよく見知った顔があった。
素っ頓狂な声を挙げ、あからさまに「ゲッ」という顔をするミサト。

「加持君!君をブリッジに招待した覚えはないぞ」
「それは失礼」
提督の言葉を飄々とした態度ですり抜ける加持。

「では、これで失礼します。新横須賀までの輸送をよろしく」
敬礼をしながらミサトは提督へと告げると、はしゃぐケンスケを押しやりながら下へ向かうエレベーターへと向かった。

後には、嫌そうな顔をした提督と副長が残された。

「提督、お久しぶりです」
「ん?おぉ君は」
その声に怪訝な顔をしていた提督の顔が綻んだ。

「その節はお世話になりました」
「いやいや、助けて貰ったのはこちらだよ。そちらは?」

「僕の妹で、綾波レイカと言います」
レイ(シンジ)の言葉に軽く会釈をするレイカ(レイ)。

「美しい妹さんですな」
副長も、先程とは打って変わって親しげな顔で話し掛けてくる。

実は、使徒襲来前にレイ(シンジ)が参加していた作戦とは、このオーバーザレインボーとの合同作戦だったのである。
テロの発生した地域での、大規模な救出作戦であった。
シンジは最後の研修を終え、NERVに戻る予定であったが、たまたま研修終了時に事件が勃発し、人手不足から急遽国連軍として参加させられたのである。
その時、危ういところで敵のゲリラに旗艦が乗っ取られるところをレイ(シンジ)の活躍で救ったのだ。
半ば人質の様になっていた提督と副長はレイ(シンジ)に心から感謝していたのである。

「NERVは気に入らないと思いますが、有事の際にはご協力をお願い致します」
「勿論、協力は惜しまんよ。しかし、あぁ何の説明もなく要請だけ突き付けられると、わしも遂、血が上ってしまっての」

「彼女の非礼については謝罪の言葉も御座いません」
そう言ってレイ(シンジ)は頭を下げる。

「いやいや、わしも大人気なかったよ」
「それでは、私もこれで、あちらに合流致します」

「あぁすまんかったな」



艦内の狭いエレベータに5人乗っている。
元々、4人乗りであり、内3人が中学生のため、重量オーバーとは成らなかった様だ。
加持はミサトの前をちゃっかりと確保している。

「何でアンタがここにいるのよ!」
「彼女の随伴でね。ドイツから出張さ」

5人しか乗っていないエレベーターの中、ミサトと加持はギリギリのポジションで向かい合っていた。

「迂闊だったわ。充分考えられる事態だったのに・・・ちょっと、触らないでよ!」
「仕方ないだろ?」

「あら?そう言えばアスカは?」
エレベータを降り、漸くアスカが居ない事に気が付くミサト。

「アスカなら、エレベータが満員だからレイ君を待って一緒に来るって残ったじゃないか」
「あっ!そ、そうだったわね。あはは」
加持との遭遇で状況判断が混乱しているらしい。


アスカは、レイ(シンジ)が居ない事に気付き、鮨詰めのエレベータを見て「ちゃ〜んす」とばかりに、エレベータに乗らずレイ(シンジ)を待ったのだ。

レイ(シンジ)とレイカ(レイ)がエレベータに辿り着くとアスカが、既にエレベータを呼び出した状態で待機していた。

「やぁアスカ、わざわざ待っていてくれたの?」
「もっちろんですよぉ」
そう言ってアスカは作戦成功とばかりにレイ(シンジ)をエレベータガール宜しく招き入れる。

(こいつが邪魔だけど、妹なら印象は良くしておかないとね)
打算を働かせるアスカ。

そして、レイ(シンジ)のレイカ(レイ)が掴んでいない方の腕をしっかりと確保した。



「今、つきあってるやつ、いるの?」
「そんな事あんたに関係ないでしょ!」
「つれないねえ」

レイ(シンジ)達が士官食堂に入ると、ミサトと加持が並んで座り、その向かいにシンジ、トウジ、ケンスケが座って遣り取りをしている。

横から見ればテーブルの下で加持の足がミサトの足へと伸び、攻防を繰り広げられているのが丸見えであった。

(全く、どうしようも無い男ねぇ)
アスカはその状況を見て、またも加持の評価を下げる。

レイ(シンジ)達は加持の後ろの席に座った。
レイカ(レイ)が奥に入り、レイ(シンジ)が続いて席に座るとアスカは更にその横に座る。

位置的に、シンジ達、ミサト達、一列空き、レイ(シンジ)達と言う奇妙な配列である。

「あ、アスカ?向かいが空いてるんだけど」
「あたしはここで良いんです!」
「そ、そう?」
アスカニズムの片鱗を見せられ、たじろぐレイ(シンジ)。

「やぁレイ、両手に華だなぁ」
「羨ましいですか?」
振り返り声を掛けた加持に対し、レイ(シンジ)も難なく切り返す。

「いや、俺は葛城で精一杯さ」
「あんた!何言ってんのよ!」
加持はミサトに強烈な肘鉄を食らった。

「それより、シンジ君達、こっちに来ないか?」

「えっ?」
「はいはい行かせて頂きます!」
シンジとトウジはケンスケに引きずられ、レイ(シンジ)達の前へと席を移った。

「・・・じゃ、また後でな」
加持は、そう言うと席を立つ。

「じょ、冗談じゃないわ、これは悪夢よ」
ミサトはその後ブツブツと独り言を言い、自分の世界に落ち込んでいた。

その背後ではケンスケがはしゃぎ、シンジは照れており、トウジは外を眺め黄昏れている。

「シンジ、僕は学校まで面倒見られないから学校では二人の事を宜しくお願いするよ」
「任せて下さい!不詳この相田ケンスケが責任を持ってお二人を預からせて頂きます!」

「あんたなんかに預かられる訳ないでしょ!」
「・・・頼まれたのは碇君」
ケンスケの言葉にアスカとレイカ(レイ)の突っ込みが入る。

アスカもわざわざ弐号機を民間人に自慢する必要もなく、こちらは暫く子供らしい賑やかな会話を楽しんでいた。



「・・・来たわ」
レイカ(レイ)はレイ(シンジ)にだけ聞こえる様にそっと呟いた。

士官食堂の窓から、遙か彼方に水飛沫が見える。

「アスカ、弐号機搭乗準備」
「へ?」
脈略のないレイ(シンジ)の言葉に素っ頓狂な返事をするアスカ。

レイ(シンジ)の指さす方向には、確かに眼を凝らせばこちらに向かってくる様な水飛沫が見える。

「使徒?」
アスカの問い掛けに真剣に頷くレイ(シンジ)。

「了解」
アスカは、レイ(シンジ)のその真剣な眼に冗談では無いと知り、軍人モードに入る。

「ミサトさん、使徒です」
駈け出したアスカを確認すると、未だブツブツと言っているミサトに声を掛ける。

「何ですって?」
流石に使徒と言う言葉には敏感に反応するミサト。

「取り敢ず、ブリッジに行きましょう」

状況を理解出来ないシンジ達を伴いミサトとレイ(シンジ)はブリッジへと移動した。



弐号機の横に到着すると、その横に備え付けてあるボックスからプラグスーツを出すアスカ。
ワンピースを脱がず、靴と靴下を脱ぐと下着を脱ぐ。
その状態でプラグスーツを下から履くアスカ。

ワンピースを脱ぐとブラジャーも外し、プラグスーツを一気に着込む。
手首のスイッチを押すとプシュッと言う音と共に引き締まり、14歳とは思えないプロポーションが露わになる。

「アスカ、いくわよ!」
気合いを入れ、エントリープラグに乗り込んだ。



「ちわ〜っ、ネルフですが。見えない敵の情報と、的確な対処はいかがっすか〜?」

全く、何でこの人はこう人を食った物の言い方しか出来ないのだろうとレイ(シンジ)は、 こめかみを押さえた。

案の定、喧噪としたブリッジでは嫌そうな顔をする提督と副官が居る。

「今忙しい!見学者の立ち入りは許可できない!」
提督はミサトを一瞥すると、そう言い放った。

ブリッジでは、レーダに捉えられた巨大な接近してくる未確認の映像に対する対応で、慌ただしかったのである。

「提督、その様な巨大な生物は使徒以外に考えられません、指揮権の委譲とエヴァの外部電源の準備をお願いします」

「むっ指揮権の委譲はまだだ!だが外部電源の準備は行わせよう」
「ご協力感謝します」

『オセローより入電。エヴァ弐号機、起動中』

「構わん、外部電源を準備させろ!」

「さっさと指揮権も寄越せばいいのよ」
ミサトは不服そうに腕を組み呟いている。

「アスカ!外部電源は準備して貰った。できるだけ、他の船に被害を及ぼさない様に、この船まで来るんだ」

『了解!』

「ちょ、ちょっとレイ君!勝手に指示しないで!」
「えっ?僕はエヴァンゲリオン隊隊長ですよ?部下に指示するのは当然じゃないですか」

「そ、それはそうだけど・・・」
「そんな事よりミサトさんは、この状況で使徒を倒す作戦を早く考えて下さい!作戦が出来上がるまで僕が凌いでおきますから」

「わ、解ったわ」
直接、指揮できない事に不満を覚えつつも、確かに隊長が現場の指揮をするのは当然である。
しかも自分は作戦課長であるのだから作戦を考えるのが仕事であるのだ。

そうこうしている間に、エヴァ弐号機はそうっと途中の護衛艦を足場にしてオーバーザレインボーまでやって来ていた。

『外部電源接続完了』

「了解!、そのまま姿勢を低くして別命あるまで待機」

『了解』

「状況報告はどうした!?」
「シンメリン、沈黙!タイタスランド、リカス、目標確認できません!」

「くそっ、何が起こっているんだ!?」

「提督、目標とこの艦の間を空けて下さい!敵が突っ込んできます」
「解った!聞いた通りだ!各艦、艦隊距離に注意の上、回避運動」 レイ(シンジ)の言葉に提督の命令が飛ぶ。

「提督、向かってくる敵に砲撃を!あるならNN魚雷も」
「ATフィールドとかがあるのでは無いのかね」

「弐号機に中和させます。聞いたねアスカ?プログレッシブナイフも装備して、突っ込んでくる敵に備えて!」

『バッチシよ!任せておいて!』

カッターナイフ型のプログレッシブナイフを装備し膝を付いた安定した姿勢で目の前に水平に構える弐号機。

「・・・来る!」
レイ(シンジ)の横にピッタリと張り付いていたレイカ(レイ)が呟いた。

「全艦任意に砲撃!」

『ATフィールド中和!!』

水飛沫を上げ迫ってくる使徒。
弐号機によるATフィールド中和により、各艦からの砲撃が命中する。

ボロボロになりながらも使徒は弐号機に向かって跳ねて来た。

大きく口を開け弐号機に向かう使徒。

『くちぃいぃ!?』

「アスカ!その口の中の赤い玉を狙うんだ!」

『了解!』

飛び掛ってくる使徒を受け止め、そのボロボロになった口から覗くコアにプログナイフを突き立てる弐号機。
強烈な突撃の影響で船体が大きく傾ぐ。
『くぅうぅぅ...こんのぉぉぉぉ!!!!』

レイ(シンジ)に言われ膝を付いた低い姿勢で構えていた弐号機は、その使徒の突撃にも耐えた。

「アスカ!無理しなくていい!使徒を投げるんだ!」

『りょうかぃいいぃ!どうりゃぁあぁ〜っ』

レイ(シンジ)の指示通り、使徒を後方に投げる弐号機。

「魚雷で追撃!」
タイミングよく提督の命令が飛ぶ。

その魚雷到着と共に盛大に上がる水柱。
アスカの攻撃で既に活動を停止していた使徒は、太平洋艦隊の魚雷により跡形もなく粉砕された。

「目標、消失しました!」
レーダで敵影を見ていたオペレータの報告に湧き上がるブリッジ。

「ご協力、有り難う御座いました」
「いやいや、流石だったよ。綾波隊長殿」
提督はそう言ってレイ(シンジ)に握手を求める。

レイ(シンジ)も笑顔でそれに応える。
ブリッジ内では拍手が起こっていた。

ミサトは・・・

「エヴァはB型装備のまま・・・水中戦は無理・・・」
まだ後ろでブツブツと作戦を考えている様子だ。



「お疲れ様、良くやったねアスカ」
弐号機のエントリープラグを射出して出てくるアスカに労いの言葉を掛けるレイ(シンジ)。

「私に掛ればこんな物ですよ」
言葉遣いこそ丁寧だが、自慢気に胸を張るアスカ。

「凄いんだね惣流さんて」
「まぁね、あんたシンジだっけ?あたしの事はアスカって呼んで良いわよ」
気分が良いアスカは、賞賛しタオルを渡してくれるシンジにも気を良くしていた。

タオルはアスカに渡すようにと、レイ(シンジ)がシンジに持たせたのだ。

「じゃぁあたしシャワー浴びてきますね」
「あぁ、アスカ、この艦隊の皆さんにもお礼を言っておくんだよ。アスカが戦えたのは皆の協力の御陰だったんだから」

「はぁ〜い」
アスカは上機嫌でシャワーへと向かった。

本当は、初出撃が恐かった。
だから逐次指示をしてくれるレイ(シンジ)の言葉に安心した。
そして、初勝利の上褒めてもらえたのだ。
本当はレイ(シンジ)に抱付きたかったのだが、流石にLCLに浸っていた身体で抱付くのは憚られたのである。



「えぇぇぇ〜なんでさぁ?!」
シンジが家に帰ると、多量のダンボールが有り、何事かとユイに尋ねた所、アスカが同居すると言う事であったのだ。

「あら、シンちゃんは反対なの?年頃の女の子に一人暮らしさせろって言うの?」
「い、いや、そんな事は言ってないけどさ・・・」

「・・・弐号機パイロットは、家で預かる事になった。お前に拒否権はない」
「うぐっ・・・」
シンジは未だゲンドウの圧力には抗えない。

「もぅゲンドウさんたら・・・」
そこに玄関のチャイムが鳴る。

「はぁ〜い」

玄関にはレイ(シンジ)に連れられてやって来たアスカ。
流石に総司令宅と聞いて畏まっている。

「アスカちゃん。いらっしゃい」
「よ、宜しくお願いします」
ニッコリと微笑むユイに引き攣りながら微笑みペコリと頭を下げるアスカ。

奇妙な共同生活が始まった。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。