第七話
第三次直上会戦


澄み渡る青い空。
NERV発令所のメインモニターには、その晴天の第三新東京市にある巨大な幾何学的な物体を映しだしていた。

正八面体のその物体は大凡生物とは思えない。
しかも、その表面は鏡のように周りを映しだしている。

第三新東京市に備えられた巨大なオブジェの様なその物体をミサトは、どう攻略すべきか考えていた。

「見るからに、近接戦闘向けとは思えませんね」
「そうね、攻撃方法は未だ不明だわ」

侵攻する使徒に対しなんらその速度を遅める役にも立っていない山間部から打ち出されるロケット弾。
レイ(シンジ)の言葉にミサトも同意する。

悠々と侵攻して来る使徒をミサトとレイ(シンジ)はそれぞれの思いを持って見詰めていた。

「初号機を出撃させるわ。レイ君、準備して」
「・・・了解」
ミサトの言葉にレイ(シンジ)は頷くと発令所を後にした。

布石は打った。

今までの使徒戦から、射出と同時に使徒が攻撃を仕掛けて来た事はない。
いくら想定出来ると言っても、その実績がない以上、その可能性があるだけで出撃を拒否するのは不可能だった。

レイ(シンジ)に取って、ここでミサトがそう判断するなら仕方ない。
少々の落ち込みと最後の手段に一抹の期待を持ってレイ(シンジ)はケイジへと向かう。

(結構、頑張ったんだけどなぁ・・・)
(・・・大丈夫、碇君は死なないわ。私が護るもの)

(ありがとう、綾波)
シンジの中のレイの言葉に苦笑を漏らすレイ(シンジ)。

経験がそうさせるのか、レイの存在がそうさせるのか、今のレイ(シンジ)は来る未来の割に平然としていた。



三度目とは言え、緊張の中、進められる発進準備。
レイ(シンジ)は眼を閉じ、集中していた。

最悪は自らのATフィールドで防ぐしかない。
それが、レイ(シンジ)の結論だからである。

「エヴァ初号機、発進!」
ミサトの号令が発令所内に響き渡る。

地上に打ち上げられる初号機を見ている発令所内に悲鳴とも取れる報告が響いた。

「使徒内部に高エネルギー反応を確認、収束中です!」
「何ですって!」
シゲルの報告に驚愕の反応しか示さないミサト。

「まさかっ・・・加粒子砲!?」
そんな呟きを発したのは雛壇に居るリツコだった。

『ロックボルトを解放して下さい!』
同時にレイ(シンジ)の声が発令所内に届く。

「「マヤ(ちゃん)!」」
「ダメッ!レイ君避けて!」

レイ(シンジ)の意図を素早く理解し、指示を出す雛壇の人間達とは反対にミサトは、希望とも言える叫声を発するのみであった。

レイ(シンジ)の声に素早く反応したのは、マヤであった。
雛壇からの指示の前に既にマヤはロックボルトの解除コマンドを打っていたのだ。

これが14歳のシンジの言葉であったらマヤも反応できなかったであろう。
しかし、今のレイ(シンジ)は自分達と同じ階級であり、しかもNERV歴で言えば先輩とも言える。
それ以外の理由もあり、マヤの判断基準としては今やレイ(シンジ)の言葉はミサトより優先度が高い。
リツコとどちらが高いかと問われれば微妙であったが。

シゲルは自らの判断で射出口前の遮蔽壁を起動する。
一瞬で溶かされる遮蔽壁。
しかし、その一瞬が初号機を護った。

使徒の加粒子砲が遮蔽壁を貫いた時には、そこに初号機の姿は無かった。
またも一瞬で溶かされる固定台。

「エヴァ、アンビリカルケーブル切断、内部電源に切り替わりました!活動限界まで、あと4分53秒!」
唖然とするミサト達にマヤの報告が告げられる。

射出終了前にロックボルトを解除された初号機は、射出と共にその勢いのまま空中に放り出されたのだ。
その勢いでアンビリカルケーブルは切断、幸か不幸か初号機はその抵抗で地上に引き戻される。

訓練の賜か、そんな状況でも地上に難なく着地する初号機。
一瞬、初号機を見失ったのか加粒子砲の砲撃を止めていた使徒が、再度、攻撃を行おうとした。

「再び、使徒内部に高エネルギー反応を確認、収束中です!」
「回収口を開いて!レイ君!一時退却よ!」

『了解』

使徒の加粒子砲を避けながら、初号機は頭から回収口に飛び込んだ。



「始めて」
ミサトの号令が発令所に響いている。

1/1エヴァンゲリオン初号機バルーンダミーが、湖上の船の上に姿を見せた。
バルーンダミーが使徒に接近したと同時に加粒子砲によって消滅させられる。

「ダミー蒸発!」
「次!」
マコトとのコンビでミサトは使徒の特性調査を行っていた。

あの後、使徒はNERV本部直上でドリルにより掘削を始めたのだ。

線路上を独12式自走臼砲がトンネルからその姿を出し走って来る。

独12式自走臼砲が誘導火砲を発射したが、肉眼ではっきりと確認できるほどのATフィールドに弾かれ、カウンターで消滅する。

「12式自走臼砲消滅!」



「これまでに採取したデーターによりますと目標は一定距離内の外敵を自動排除するものと思われます」
マコトがバインダーに綴じられた資料を閲覧しながらミサトに報告を行っている。

実際、ミサトは横で見ていたのだからわざわざ報告する必要もないのだが、これはミサトが作戦を考えるためマコトに纏めて貰った物を再確認しているのだ。

「エリア進入と同時に加粒子砲で100%狙い撃ち・・・エヴァによる近接戦闘は危険過ぎるわね」

マコトの報告と自分の勘を交えて攻略法を練るミサト。

「ATフィールドは?」
「健在です。相転移空間が肉眼で確認できるほど強力なものが展開されています」

独12式自走臼砲が誘導火砲を発射したビデオが再生された。

「爆撃、誘導火砲のような生半可な攻撃では、痛い目を見るだけですね。こりゃ」
「攻守ほぼパーペキ、まさに空中要塞ねぇ・・・で、問題のシールドは?」

「現在、目標は我々の直上、第三新東京市Oエリアに侵攻、直径17.5メートルの巨大シールドがジオフロント内のネルフ本部へ向かい、穿孔中です」

使徒とシールドの図解がディスプレイ上に映し出される。

「敵はここ、ネルフ本部へ直接攻撃を仕掛けるつもりですね」
「しゃらくさいわね。で、到達予想時刻は?」

「明日午前0時6分54秒。その時刻には、全ての装甲防御を貫通してジオフロントに到達するものと、思われます」

時計を見るミサト。

「後10時間足らずか・・・」
ミサトはボールペンを額に当てた。

「如何します?白旗でも揚げますか?」
マコトが場を和ませようとしたのか冗談を言ったが反応したのはミサトだけだった。

「ナイスアイデア!・・・でもその前にチョッチやってみたい事があるの」
「やってみたい事ですか・・・」

ミサトの顔にはニヤリとした笑みが浮かんでいた。



「目標のレンジ外、超長距離からの直接射撃かね」
「そうです。目標のATフィールドを中和せず、高エネルギー集束帯による一点突破しか方法はありません」
司令室で、ミサトはゲンドウに直訴していた。

ミサトの持ってきた作戦立案書に目を通し最初に声を出したのは冬月である。

ゲンドウと冬月の二人に対峙するミサト。
その表情も流石に厳しいものとなっていた。

冬月はゲンドウの横に立ち、ナオコとユイは横の自席で端末を操作している。

「MAGIはどういっている?」
「スーパーコンピューターMAGIによる解答は、賛成二、条件付き賛成が一でした」

「勝算は8.7%か」
「もっとも高い数値です」

「あの使徒のATフィールドを撃ち抜くのに要する出力は最低1億8000万キロワット・・そんな出力、うちのポジトロンライフルじゃ持たないわね。いったいどうする気?」
反論の様な質問を打ち出したのはナオコであった。

「戦自研のプロトタイプの借用を考えています」

「その最低1億8000万キロワットの大電力は、どこから集めて来る気かしら?」
今度はユイである。

ナオコとユイは自分の端末を叩き、ミサトの作戦を吟味していたのだ。

「日本中からです」
ナオコとユイの質問に答えたミサトは自信満々であった。

「・・・反対する理由はない。しかし、これは作戦課の総意か?葛城一尉」
「はい!・・・い、いえ私の独断です」
ゲンドウの言葉の最初の方を聞き認められた物と元気よく返事した物の、その内容に肯定する訳には行かなかった。

ミサトは傲慢で自己中心的だが、根は悪人ではない。
上司に平気で嘘が付ける程の図太さは持ち合わせて居なかったのだ。
しかもここで作戦課の総意だと言って推し進めるメリットは無い。
それより後から聞いてないと言われるデメリットの方が大きい。
それくらいはミサトにも瞬時に理解できる。

ある意味、それを見越して先に司令の承認を取り付けようとした所がある。
司令の承認さえ降りれば司令が認めた作戦として強行に推し進める事が出来るからだ。

「・・・綾波二尉と赤木リツコ博士を呼べ」
ゲンドウはインターフォンに向かい静かに告げる。

ミサトに取って重々しい沈黙の時間が流れた。

さて、なぜMAGIが勝算8.7%と言う10回に1回の成功も危うい作戦に賛成したのか?
これは聞き方の問題である。
その答えはミサトの「最も高い数値です」と言う物言いに集約される。

つまり、他に提示した作戦の成功率が更に低い上に、「この中でどの作戦が適しているか」と言う質問形式だったのである。
即ち、他の可能性を除外した選択であるため、MAGIはこの作戦を選択したのだ。
決してこの作戦に賛成した訳ではない。

【賛成】と言う言葉はミサトの方便である。

因みにレイが居らず何故前回と成功率が同じかと言うと、それは初弾による殲滅の確率であるからだ。
条件付きの条件が使徒の攻撃を防ぐ手段の確立であり、それは使徒が先に撃って来る事を示唆しているのだが、ミサトはそこまで考えない。
そして残りの91.3%は使徒の射程外からの狙撃は出来ないと言う判断であり、即ち使徒の射程外とはこちらの射撃とて射程外と言う事である。

当たり前の事だが、こちらから撃てれば、使徒も撃てると言う事だ。
つまり8.7%とは使徒に気付かれず先制攻撃が出来る可能性であったのだ。

パイロットの生還率など計算すらされていない。
人類存亡を賭けるには、余りにも分の悪い賭けである。



「どうかね?」
作戦立案書を読んでいたレイ(シンジ)に冬月が答えを促した。

リツコはそれを見て呆れた顔をしている。

「真っ向勝負としては、まぁまぁな勝率ですね」
「ではこの作戦で「真っ向勝負ではです」」
冬月の言葉をレイ(シンジ)は遮った。

自分の言葉を曲解して、この作戦を承認しそうであったからである。

ゲンドウは、机に肘を付き、顔の前で手を組んだ姿勢でじっとしている。
ナオコとユイはリツコと顔を合わせ、リツコは肩を竦めた。

「どう言う事かね?」
「少なくとも残りの91.3%は射程外では無いと言う判断でしょう」

「これは、調査した結果、使徒が反応しない距離を確認したのよ!」
「それは、使徒がその対象を脅威と感じなかっただけでしょ?」

「解りやすく説明してくれんかね?」
「つまり、今射程外と考えている所でも、使徒に脅威を与えるエネルギーを感知させたら反応してくるとMAGIが判断したのが、残りの91.3%と言う事です」

「そんなの遣って見なくちゃ解らないでしょ!」
「遣って見なくちゃ解らないならMAGIに計算させる必要はありませんよ」
興奮しているミサトに対し、レイ(シンジ)は、あくまで冷静穏和に接する。

ミサトはレイ(シンジ)を睨みつけていた。

「リツコさん、使徒の加粒子砲でしたっけ?あれでジオフロントの装甲は耐えられますか?」
「ジオフロントの装甲も一撃で全層貫ける威力よ」
リツコはレイ(シンジ)の質問に間髪入れずに答える。

「つまり、使徒は下方にあの加粒子砲を撃てない。これって究極の射程外じゃないですか?」
「え?」
ミサトの方に笑みを浮かべながら言ったレイ(シンジ)の言葉にミサトは一瞬呆けてしまった。

「ナオコさん、僕が双子山辺りから使徒を牽制。ATフィールドが途切れた時、又は加粒子砲のエネルギーを溜めている時に下方から狙撃で、勝率と必要な電力を計算して見てください」
「ちょっと待ってね、5分で出来るわ」

ミサトに取って重々しい静寂が再び訪れた。

他の者達は、あまり気にならない様子である。
ユイとレイ(シンジ)は微笑みすら浮かべていた。

しかし、ミサトに取ってはゲンドウの視線が辛い。
長い沈黙の後、ナオコがふぅっと小さく息を吐き出し口を開いた。

「勝率は87.3%、電力については、うちのポジトロンライフルで充分よ。勿論MAGIは全会一致で賛成」
ナオコの言葉にミサトは眼を見開く。

「えぇっと、これって【ヤシマ作戦】ですか・・・じゃぁ【ヤシマ作戦(改)】って事で」
レイ(シンジ)がミサトの出した作戦立案書を見ながらそこに書かれている表題を読み、そう言った。

「かっこ改って・・・」
ミサトはその言葉に毒気を抜かれる。

「超長距離じゃないけど、射程外からの狙撃に違いは無いですから」
そう言ってレイ(シンジ)はニッコリとミサトに微笑んだ。

「・・・反対する理由は無い。存分にやりたまえ、葛城一尉」
「は、はいっ!」
ゲンドウの言葉にミサトは驚きながらも何とか返事をした。



「しかしまた、無茶な作戦立てたものね、葛城作戦課長さん」
NERV名物の長いエスカレータを降りながらリツコがミサトに話しかけた。

「悪かったわよぉ〜」
「まぁ僕達が居なかったから相談できなかったんですよね?ミサトさん」
後ろからレイ(シンジ)が声を掛ける。

「え?えぇまぁ・・・」
ミサトにしてみれば難攻不落の要塞に対する起死回生の名案だったのだ。

戦自の陽電子砲と言う強烈であろう武器を使用し、日本中から電力を徴収し、使徒を倒す。
それは、派手で尚且つそこまでしなければ勝てない敵に、自分の立案した作戦で勝つ。
ミサトにとってあまりにも甘美な誘惑であった。

それ故に、レイ(シンジ)に相談すると言う事すら忘れ、いや、敢えて避け、直訴したのである。
そこにはレイ(シンジ)から受けていた話の中にあった可能性。
それが見事に実現してしまった事に対しての嫉妬にも似た感情が存在していた。

つまり、そこには自分の存在意義を明確にする作戦が必要だったのだ。

しかし、シンジの出した改案は、現存する武器で賄え、勝率も10倍。
浮かれていた自分が滑稽に思えてしかたなかった。

「ところで、下方からどうやってポジトロンライフルを撃つの?」
ミサトが唯一と言っていい疑問を口にする。

「勿論、零号機よ」
その答えを返したのはレイ(シンジ)ではなく金髪の友人であった。



第一中学校の屋上ではトウジ、ケンスケと他十数名の、シンジのクラスメート達が屯していた。

「えらい遅いな。もう避難せなあかん時間やで」
「パパのデータからチョロまかしてみたんだ。この時間に間違いないよ」
「せやけど、出てけーへんなぁ」
トウジとケンスケが話している横でシンジはソワソワとしている。

シンジに取ってエヴァは何時でも見ようと思えば見れたので、ここまでして見る必要は無い。
しかし、悪友の関西弁混じりの熱い男に「ここで応援せな何時応戦するっちゅうんや」と言われ渋々付いてきたのだ。

その時、一斉に鳥が飛び立つ音に思わず驚く一同。
山がスライドして、発進口が見えてくる。

「山が動きよる」
「エヴァンゲリオンだ!」

発進口から姿を現す、エヴァ初号機。 夕日をバックに進むエヴァを、一同は声援を送りながら見送った。

盛大に声援している中学生達。
その脇にはオドオドとしているシンジが居た。

(シンジィ!お前もか)
レイ(シンジ)は思わず額に手を当てたが、エヴァがそれを忠実に再現した。

(あぁ兄さん怒ってるよぉ〜)
シンジは悪友に唆されてここまで来た事を後悔した。

その姿はレイ(シンジ)が怒ってるとシンジ主観で感じる仕種であったからだ。
実際はレイ(シンジ)は怒っているのではなく、元々自分であるために自己嫌悪に陥るのだ。
つまりシンジに対し説教の様な物を行う直前にレイ(シンジ)は何時もこの姿勢を無意識に取ってしまうのである。
それ故に、シンジに取ってはレイ(シンジ)の説教が始まる前兆としてこの姿勢を認識しているのだ。
即ち怒っている時と。

そこで初号機は軽く左手を皆の方に振ると、外部スピーカから声を流す。

『応援ありがとう、でも危ないから早くシェルターに入るように』

その叱責にすら湧き上がる生徒達。
レイ(シンジ)は再び目眩を覚えた。



初号機はカーボンロッド(実際には投槍用のため先端が尖っているので少し違う)を5本程持って双子山で待機していた。

作戦開始時間はヤシマ作戦とは違い20時である。
特に変電設備の準備等必要ないために早まっているのだ。

そして零号機は既に射撃位置に待機している。
ポジトロンライフルはエヴァ用の装備のため、エヴァで撃たせるなら何の改良も要らない。
今回は、少し出力を上げるために本部から電力線を引いている。
零号機の起動時にはレイ(シンジ)もエントリープラグに搭乗し待機しながら、その様相を眺めていた。

移動している時に攻撃を受けたなら、即、初号機を発進させ、直接攻撃を行うためだ。
使徒が、ジオフロント内を移動する零号機に気を取られるなら、その隙に近接戦闘に持ち込む事を視野に入れた作戦であった。

その予想は杞憂に終り、初号機が出撃する事はなかった。

零号機は発令所からの操作により、お世辞にもスムーズな動きとは言えないまでも、電源ケーブルで繋がれているポジトロンライフルを抱え所定の位置まで難なく移動したのだ。

既に零号機は照準も合わせ、後は電力を供給し、発射ボタンを押すだけとなっている。
ここで発射してしまわないのは、使徒のコアがシールドの延長線上に無い場合、次の攻撃が行えないためである。

初号機は息を殺す様に双子山で片膝を着いた姿勢で第伍使徒を見ていた。



《東京標準時20:00:00》

「作戦スタートです」
マコトがミサトに告げる。

「ヤシマ作戦(改)スタート!!」
ミサトが作戦の開始を告げる声が発令所内に響く。

予め予定されたオペレートを忠実にこなすオペレータ達。

号令と共にレイ(シンジ)はカーボンロッド(投槍用)を使徒に向かって投げた。

『目標に高エネルギー反応!』

「そう来たか」
レイ(シンジ)は、そう呟くと、すぐさまもう一本を投げる。

同時に残ったカーボンロッド(投槍用)を抱えるとアンビリカルケーブルをパージし走り出した。

『ポジトロンライフル発射!!』
ミサトの号令と共に発射される電子砲。

初号機からもそれが使徒を突き抜けるのが見えた。
使徒はいきなりの下方からの攻撃に意表を突かれたのか、加粒子砲は不発に終った。
しかし、レイ(シンジ)はここで気を抜かない。

初号機が投げたカーボンロッド(投槍用)がATフィールドに阻まれたからだ。
すぐさま持っているカーボンロッド(投槍用)を使徒に向かって投げる。
そして、再び、残ったカーボンロッド(投槍用)を抱えて走り出した。

使徒殲滅の宣言を聞かない限り、アンビリカルケーブルをパージした初号機は素早く電源ビルから再接続をしておく必要がある。

シールドを破壊され姿勢を傾かせる使徒。

『第二射急いで!』

一発目で開けた穴から使徒を撃てるかMAGIに計算させるリツコ。

『そのまま行けるわ!』

『第二射、発射!』
焦っていたのかミサトは使徒の状況を聞かないまま第二射発射の号令を掛けてしまった。

その為、第二射はATフィールドに阻まれる。
使徒が傾いた為か、初号機に向かっては加粒子砲は発射されない。

『初号機、アンビリカルケーブル接続しました!』
レイ(シンジ)は電源を接続すると、残ったカーボンロッド(投槍用)を使徒に投げつける。

『目標に再び高エネルギー反応!』

(まずい!)
直感でレイ(シンジ)はそう感じた。

斜めになった体勢で使徒はそのまま加粒子砲を撃とうとしている。
それは空中ではなく間違いなく地下に向かってであろう。

近くの手頃なビルから初号機はカーボンロッドを装備すると、使徒に向かって飛びかかった。
カーボンロッドに殴打される使徒。

加速する為の機関を破壊されたのか使徒の加粒子砲は不発に終る。
初号機が使徒と近接している今、ポジトロンライフルを撃つ事は出来ない。

壮絶にカーボンロッドで使徒を滅多叩きにする初号機に発令所は唖然としたいた。

(まだパターン青は消えないのかなぁ)
叩いている当の本人は結構、暢気であったりする。

『あのぅ〜まだパターン青は消えてないんですか?』
既に原型を止めておらず抵抗もしてこない使徒をカーボンロッドで突きながらレイ(シンジ)からの通信が発令所に入った。

「あっパターン青、消滅。使徒、沈黙しています」
思い出した様にシゲルが報告する。

「もしかして、その報告が無いから攻撃を続けていたの?」

『えっ?当然じゃないですか?』

発令所内の白い眼がシゲルに集中した。
冷や汗を流すシゲル。



第三新東京市では高級と言われる某ホテル最上階のレストランでレイ(シンジ)とシゲル、マヤが食事をしていた。

マヤがいち早くレイ(シンジ)の言葉に応えてくれたため、今回は加粒子砲の餌食にならなかったのだ。
そのお礼として、レイ(シンジ)はマヤに食事を奢る約束をしていた。

そしてシゲルが、休憩所で落ち込んでいたので、一緒に誘ったのである。
パターン青の報告が遅れた事がかなりショックだったらしい。
その内容に僅かながらレイ(シンジ)も責任を感じたのだ。

ワイングラスを傾け乾杯する3人。

「本当、有り難う御座いました」
「ううん、それが私の仕事だもん」

「俺もあの時、遮蔽壁を出したんだぜ」
「えぇ、助かりました。二人は僕の命の恩人です」

ニコニコと微笑むレイ(シンジ)に頬を染めながら、(二人っきりならよかったのに)と思うマヤと(レイ!お前は良い奴だ!)と心の中で涙を流して喜んでいるシゲル。

発令所には一人取り残され、さめざめと涙を流して本来ミサトのやるべき報告書を書いているマコトの姿があった。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。