第弐拾弐話



リツコが自分の席から電話で話している。

「そう、居なくなったのあの子」

「えぇ多分ね、猫にだって寿命はあるのよ」

「もう泣かないでおばあちゃん」

「うん、時間が出来たら一度帰るわ、母さんの墓前にももう3年も立ってないし」

「今度は私から電話するから」

「・・・じゃ・・・切るわよ」

ピッ

「そう、あの子が死んだの」
リツコは虚無感を感じていた。


ミサトが車中から電話で連絡を取っていた。
「後15分でそっちに付くわ、初号機を32番から地上に射出、弐号機、零号機もその後方に射出、バックアップに回して」

「使徒を肉眼で確認・・・か」
NERVへ向け車を高速で走らせているミサトが呟いた。


『初号機発進、地上直接迎撃位置へ』

『弐号機、発進準備』
『弐号機、第八ゲートへ、出撃位置決定次第発進せよ』

『零号機、発進準備』
『零号機、第七ゲートへ、出撃位置決定次第発進せよ』

『目標接近、強羅絶対防衛戦を通過』

ライフルを構え使徒を伺っている初号機。

『目標は大涌谷上空にて滞空、定点回転を続けて居ます』

「目標のATフィールドは依然健在」

プシュー

ミサトが到着した。

「何やってたの?」
リツコが責める様に言う。

「言訳はしないわ、状況は?」

「膠着状態が続いています」
「パターン青からオレンジへ周期的に変化しています」
シゲルとマコトから報告される。

「どういうこと?」
「MAGIは回答不能を提示しています」
マヤが答える。

「答えを導くにはデータ不足ですねぇ」
シゲルが補足する。

「ただあの形が固定形態でないことは確かだわ」
リツコが結論を述べた。

「先に手は出せないか・・・皆、暫く様子を見るわよ」

「・・・いえ、来る」 レイが呟く。

その呟きと同時に使徒が姿を変え、初号機へ襲いかかる。
避ける初号機。

「シンジ君!応戦して」
「駄目です間に合いません!」
マコトが叫ぶ。

初号機の咄嗟に張ったATフィールドを難なく突き破り初号機の持っていたライフルを破壊した使徒。

初号機は、辛くも使徒を避ける事ができた。

『皆、固まってATフィールドを張るんだ』
シンジが叫ぶ。
これがシンジが考えた作戦だった。
独りのATフィールドなら貫かれるが3人同時になら耐えられるかもしれないとの考えだった。

その声に反応し、レイとアスカが初号機に走り寄る。
しかし、零号機の動きが数瞬遅れた。

「目標、零号機と物理的接触」
『綾波!』
零号機に向かうシンジ。

「零号機のATフィールドは?」
シゲルの言葉にミサトが確認する。

「展開中、しかし使徒に侵食されています」
マヤが状況を説明する。

「使徒が積極的に一時的接触を試みているの?零号機と・・・」
リツコが誰にともなく呟く。

使徒の侵食に伴い、ミミズ腫れの様なものがレイに広がる。

「危険です、零号機の生体部品が犯されて行きます」

「アスカ、シンジ君!零号機の救出と援護!急いで!」
ミサトが指示を出す。

シンジは使徒の反対側に阻まれ、思うように零号機に近づけない。

「目標、更に侵食」
「危険ね、既に5%以上が生体融合されている」

『レイ、待ってなさい、今助けてあげるから・・・』
アスカがパレットガンを打ち込みつつ零号機に近付く。

その時、シンジを牽制していた使徒が、弐号機を勢いよく薙払った。
『キャァァァー!』

使徒に飛ばされるアスカ。
『アスカ!くそっ!』

シンジは、使徒を掴んで零号機から引っ張り出そうとしている。
初号機の手が侵食されていく。

そこにプログナイフを突き刺す初号機。
使徒から悲鳴がレイの声で上がる。

零号機の中では、侵食した使徒がレイと接触を試みていた。

「誰?私?EVAの中の私?・・いえ、私以外の誰かを感じる・・あ なた誰?使徒?・・私たちが使徒と呼んでるヒト・・」

「私と一つにならない?」
「いえ、私は私、あなたじゃないわ」

「そ、でもだめ、もう遅いわ・・・私の心をあなたにも分けてあげる・・この気持ち、あなたにも分けてあげる・・イタイでしょ?ほら、 心がイタイでしょ?」

「痛い・・いえ違うわ・・さびしい・・そう寂しいのね・・」
「サビシイ?・・分からないわ・・」

「一人が嫌なんでしょ?・・・私たちは沢山いるのに・・一人でいるのが嫌なんでしょ?それを『寂しい』と言うのよ」

「それはあなたの心よ。悲しみに満ち満ちているあなた自身の心よ」
「ハッ・・これは・・涙?泣いてるのは・・私?」

その時、レイは初号機と融合としようとしている使徒の反対側を見た。

「レイ!」
ミサトが叫ぶ。

使徒の反対側を掴んで引っ張っている初号機に侵食が広がる。

「シンジ!」
アスカが叫ぶ。

「シンジ君、プログナイフで応戦して!」
ミサトが指示を出す。

『・・・これは私の心、碇君と一緒になりたい・・』

零号機の背中から大きく何かが出てくる。

「ATフィールド反転、一気に侵食されます」
マヤが状況を報告する。

「使徒を押さえ込むつもり?」
リツコが驚愕の表情で呟く。

『駄目だ!綾波!!止めるんだ!』
シンジが叫ぶ。

一気に膨れあがる零号機のコア。

「フィールド限界、これ以上はコアが維持できません」

「レイ!機体を捨てて逃げて!」

『だめ・・私がいなくなったらATフィールドが消えてしまう・・だから・・ダメ!』
自爆装置を引くレイ。

『止めろ!!止めてくれ!綾波!!!』
シンジは叫び続けた。

『碇君、ありがとう、私は幸せだったわ』
シンジとの守秘回線を開きそう言ったレイは微笑んでいた。

『綾波!!綾波ぃぃぃい!!!』

「レイ!死ぬ気?」
ミサトが呟く。

「コアが潰れます、臨界突破!」

爆発する零号機。

呆然と見つめるアスカ。

『あ、綾波・・・どうして・・・何で・・・何でなんだぁぁぁぁあ!!』
叫びを上げるシンジ。
その慟哭に共鳴し初号機も咆吼した。

その悲しい咆吼はNERV発令所と第3新東京市に響き渡った。

「目標・・・消失」

「現時刻を以て・作戦を・終了します。第一種警戒態勢へ移行」
震えながら指示を出すミサト。

「了・解、状況・イエローへ・速やかに・移行」
驚きの中、たどたどしいながらも責務を全うしようとするマコト。

「零号機は?」
「エントリープラグの射出は確認されていません」
マヤの報告に肩を震わせるミサト。

「生存者の救出・・・急いで」
「もし居たらの話ね」
リツコが呟く。

ミサトが睨み返した時、リツコも俯いていた。

ゲンドウだけがニヤリと笑っていた。


「赤木博士」
現場回収に来ているリツコは作業員に呼ばれエントリープラグの残骸の場所に行った。

「この事は極秘とします。回収を急いで」
「・・・はい」
指示を出したリツコは、レイの屍が何かを護るように蹲っている事に不信感を抱きその中を見た。

そこには全身を炭化させているにも関わらず、レイの左手だけが原型を止めていた。
そして、その薬指には指輪が。

(人形のくせに・・・)
リツコは顔を歪めそれを抜き取ると、投げ捨てようとした。
しかし、思いとどまり、それを誰にも解らないように回収した。


数日後、自室で呆然としている、シンジの元へミサトがやって来た。
「シンジ君!」

そして病院へ行く、シンジ。

そこにレイは佇んで居た。
「綾波・・・」
シンジの声に振り返るレイ、しかし、その顔は以前の無表情だった。

「あの、綾波・・・ありがとう・・・僕を守ってくれて」
「・・・そう貴方を守ったの」

(やっぱり3人目なんだ・・・)

「うん、零号機を自爆させてね・・・送って行くよ」
「・・・そう」
そう言ってレイはシンジに着いて行った。

レイのマンションに着いたがシンジは中に入る気にはなれなかった。

「それじゃ、綾波、ここで」
「・・・えぇ解ったわ」

(やはり、記憶がないのか・・・)

シンジはNERVへと戻った。

そしてリツコに呼び出される。
指定された所にはやはりミサトも居た。

説明を行いながらセントラルドグマへと向かう3人。

そして、沢山のレイが浮かぶ水槽を見せられた。
破壊だと行ってレイの素体を壊し泣き崩れるリツコ。

「リツコさん、ありがとうございます」
「えっ?」
泣き崩れて居たリツコが何を言われたのか解らなかった。

「これで綾波を縛り付ける物が、一つ無くなりました」
「シンジ君・・・貴方・・・知っていたの?」
リツコは眼を見開いていた。
そう、これはシンジに見せてシンジが壊れる事を望んだ八つ当たりだったのだ、しかしシ ンジは礼を言っている。

「えぇ、リツコさん、これで父さんが貴方を簡単に捨てる事も解ったと思います。出来れば父さんなんかリツコさんの方から捨ててやって下さい」
「それが・・・それが出来てれば私はここには居なかったわ」
またも泣き崩れるリツコ。

「シンジ君・・・」
「ミサトさん、後は親友であるミサトさんにお任せします。リツコさんはまだ父さんに取って必要です。殺される事はありません。多分、独房で監禁でしょう」

「そう、解ったわ、ありがとう。シンジ君の事も話していいのかしら?」
「お任せします」
そう言ってシンジは立ち去ろうとした。

「シンジ君!待って!」
リツコが引き留めた。

「これを」
リツコはそう言って、レイの手から抜き取った指輪を渡した。

「これは・・・」
「レイは最後の力でそれを守ったのよ、左手だけが原型を止めていたわ」
リツコは顔を逸らし説明した。

「ありがとうございます」
シンジはそう言ってそれを受け取り、今度こそ立ち去って言った。

後にはミサトに肩を抱かれ、話を聞いているリツコが居た。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。