第弐拾話
時は流れ出した


『ただ今留守にしております。発信音の後にメッセージをどうぞ』
公衆電話から電話を掛けている加持。

「最後の仕事か・・・まるで血の赤だな」
NERVのIDカードを見ながら加持は呟いた。


シンジの預かり知らぬ所で、シンジの話を聞いた者達は動いていた。

加持は危なくなる前に内調の方から手を回し、ゼーレの動きを流した。
つまり、自分の仕事として報告したのだ。
人類補完委員会は量産型エヴァを13号機まで建造を計画している。
しかし、NERVには現在3機のエヴァが有るのみでその事実は知らされていない。
これらのエヴァは人類補完計画に使われる可能性が高い。
人類補完計画をサードインパクトと呼称している組織がある。
と言った内容の物である。
この事により日本政府が実際の時、どのように動くかは全くの賭けだった。

ミサトは、対人邀撃の準備をし、来るNERV占拠に備えた作戦を練っている。
相手は、対人戦のプロだ。
しかもNERV本部は非戦闘員の方が多い。
どうシミュレートしても、勝つ見込みはなかった。

オペレータ3人はミサト達と密接に連絡を取り合い、サポートしていた。

目下の所の最大の難問はミサトの親友であり加持とも同窓生であるリツコであった。


ミサトはシンジを尋ねた。

「シンジ君、少し聞きたい話があるんだけど」
「いいですよ、外に出ましょうか」
そう言ってミサトとシンジは加持のスイカ畑へと足を運んだ。

「全く、こんな所にこんな物を作っていたのね、あいつは」
ミサトは溜息混じりに言った。

「それで、話ってなんです?」
「リツコの事なんだけど、もう少し詳しく教えて貰えないかなって思って」
ミサトは素直にシンジに相談した。

「僕も、あんまり詳しくは知らないんです。ただ、最後はターミナルドグマでMAGIに自爆を命令したところカスパーに裏切られ、父さんに撃たれて死んだと言う事ぐらいですね」
「そ、そう・・・司令との馴初めみたいなのは知らない?」
「言い辛いんですが、どうやら父さんが強姦したみたいです」
「んなっ!」
ミサトが素っ頓狂な声をあげた。

「そ、それで、なんで男と女の関係になるわけ?!」
「そこは、ロジックじゃないのね・・・とか言って・・・」

「リツコなら有り得る・・・」
ミサトは頭を抱えた。

「結局、リツコさんも父さんに見て欲しかっただけだと思うんです」
「見て欲しい?」
「必要とされたい・・・と言う方が適切かな?」
「そう言う事・・・」

「お役に立てましたか?」
「あ、ええ、考えるネタは出来たわ、ありがとう」
「それじゃ、僕はこれで」
そう言うとシンジはその場を立ち去った。

後に残されたミサトは、スイカを叩きながら、考えていた。


シンジはシンジで残りの使徒の倒し方を考えていた。

(次ぎの使徒は、僕も出られると思うから、二人でATフィールドを張れば、精神攻撃防げるかな・・・)
(駄目そうなら、僕が前に出てアスカを庇うしかないかな・・・)
(前程、シンクロ率も落ちてないし、今のアスカなら耐えられるかもしれないし・・・)
(父さんが何時、槍を使えって言うかだな・・・)

(問題はその次ぎの使徒だな・・・)
(倒し方が全く解らない・・・)
(あの形状じゃコアは何処にあるのか解らないしなぁ・・・)
(リツコさんを味方につければダミープラグで零号機起動とかできるかな・・・)
(ダミープラグ使うなら初号機だろうしな・・・)
(父さんが初号機の自爆を認めるわけはないし・・・)
(こっちはまだ時間があるとはいえ、難問だなぁ・・・)

等と考えていた。

(でも、思った通り、皆、父さんには連絡しないで動いてくれている・・・)
(何か色々動いてくれてるみたいだし・・・)
(もっと早く話せば良かったかな・・・)


ミサトが執務室で考えていると、黒服達がやって来た。

「拉致されたって、副司令が?」
ミサトが呟くように尋ねる。

「今より2時間前です、西の第八管区を最後に消息を絶っています」
黒服が端的に答える。

「うちの署内じゃない、貴方達、諜報部は何やってたの?」
「身内に内報及び先導した者が居ます、その人物に裏をかかれました」

「諜報2課を煙に巻ける奴・・・まさか!!」
「加持リョウジ、この事件の首謀者と目される人物です」
(こんな時に何やってんのよ!あいつはぁ・・・)

「で、私の所に来た訳ね」
「ご理解が早く助かります」

「作戦課長を疑うのは同じ職場の人間として心苦しいのですが、これも仕事ですので」
「彼と私の経歴を考えれば、当然の処置でしょうね」
そう言うとミサトは机の上に拳銃とIDカードを置いた。

「ご協力感謝します。お連れしろ」

「暗いとこは、まだ苦手ね・・・嫌な事ばかり思い出す」
ミサトは独房で、座っていた。


「さて、行きますか」
加持は呟いた。

プシュッ

扉が開く。

「君か」
椅子に縛り付けられている冬月が呟く。

「ご無沙汰です。外の見張りには暫く眠ってもらいました」
「この行動は君の命取りになるぞ」
「真実に近づきたいだけです。僕の中のね」
そう言って加持は冬月を連れ出した。

「これからどうするつもりだね?」
冬月が加持に尋ねた。

「NERVとゼーレを敵に回したような物ですからね、暫く内調に身を隠します」
「そうか、しかしあそこにもゼーレの手の物が居るんじゃないのかね?」
「ええ、でも居る奴は大した事ないですよ」
そう言って加持は飄々としていた。

「ふっ流石と言うべきなのかね?」
加持はただ、苦笑しているだけだった。


「ご協力ありがとうございました」
「もういいの?」
ミサトが尋ねる。

「はい、問題は解決致しました」
「そう、彼は?」

「存じません」
黒服は事務的に答えた。


「ただいまぁ」
マンションに戻ったミサト、加持の安否を気遣いテーブルに突っ伏している。

留守電に気付くミサト。

「葛城、俺だ、多分この話を聞いている時は君に多大な迷惑を掛けた後だと思う。すまない。りっちゃんにもすまないと謝っておいてくれ。後、迷惑ついでに俺の育てていた花がある、俺の代りに水をやってくれると嬉しい。場所はシンジ君が知っている。葛城、俺の事は心配する必要はない。迷わず進んでくれ。もし、もう一度逢える事があったら8年前に言えなかった言葉を言うよ、じゃぁ」

『午後零時2分です』
留守番電話の無機質な音声が流れる。

「あんの馬鹿!生きてなかったら殺してやる!」
ミサトは電話機に当っていた。


「煩いわね!ちょっと静かにしてよ!」
アスカが部屋から出てきてミサトに食ってかかった。

「あ、アスカ、あんたはどうするか決めたの?」
「それを今、考えているのよ!だから静かにしてって言ってるでしょ!」
アスカの剣幕にミサトは違和感を感じた。

「何かあった?」
「別に何もないわよ!」

明らかに何かありましたと言う反応だ。

「その割には、怒り方が尋常じゃ無いように見えるけど?」
ミサトはビールを空けながら、わざと軽く言った。

沈黙が続く。
ミサトはアスカが話し出すのを待っていた。

暫くしてアスカが口を開いた。
「・・・今日、あいつを学校で問いつめたのよ・・・」
「あいつって?」
「馬鹿シンジよ!」

「そう、で、何を?」
「何で今まで黙ってたんだって」
アスカは悔しそうに唇を噛んでいる。

「何でだって?」
「こんな所に呼び出して、そう言う話を大声で喚き散らすからだって言われた」
「それって・・・」

「それってどういう事よ!って私が言ったら・・・」
「言ったら?」
「あいつの指さした方に、ヒカリや眼鏡やジャージが居て・・・」
「はぁ・・・それは、そんな所では話せないわねぇ」

「ああいう場で話してなければ、ミサトやリツコに問いつめただろって・・・」
「そう・・・」

「そんな事すら理解しないで、こんな行動を取るからだって・・・」
アスカは今にも泣き出しそうだ。

「アスカ・・・」
ミサトは掛ける言葉を失った。
確かにアスカならそう言う行動に出るで有ろう事は、容易に想像できる。


「あたし・・・あたし今までエヴァで一番になることしか考えてなかった、他の事なんて考えた事なかった・・・あいつの話を聞いた時も、もっと早く話してくれていればもっとエヴァを上手く操縦できたのにって思ってた・・・あたし・・・あたし、どうすれば良いの?!ミサト!」

アスカはとうとう泣き崩れてしまった。
ミサトはそんなアスカを抱きしめ頭を撫でてやるぐらいしか出来なかった。

「アスカ・・・私も似たような物よ」
ミサトがぽつりぽつりと話だした。

「使徒への復讐に駆られて、貴方達を駒の様に使っていた。そのくせ、貴方達の力、エヴァの力に頼って、まともな作戦と呼べるような物は無かったわ」

アスカはミサトに抱かれながらじっと聞いている。

「彼ね・・・前は私と一緒に暮らして居たそうよ、貴方が来てからもね」
「えっ?」

「でも、自分が居るとアスカを傷つけただけだったって言っていた」
「だから、出て行ったって言うの?」

「詳しい事は彼に聞かないと解らないわ、でもね、彼はアスカを見捨ててる訳じゃないと思うの」
「意味が解らないわよ!」

「シンジ君は独りで暮らしているのに、何日かおきに食事を作りに来てくれる。私達にずっと黙っておくこともできたわ。でも話してくれたの」

「私はね、アスカ、貴方達に信頼されていなかったのだと思う。でも、シンジ君は話してくれた。私は彼に応えなければいけないと思うの」

「加持の馬鹿もきっと死なない努力をしたと思うわ。貴方にはまだ時間はあるわ。ゆっくり考えてみなさい」
アスカは黙っていたが抱きしめているミサトにはアスカが頷いた事が解った。

自分も今はやらなければいけない事に追われて居るだけだとミサトは思っていた。


次の日、アスカはシンジを見つけると、ツカツカとシンジの方へ行った。

「な、何?アスカ」
シンジはまた怒鳴られるかと、オドオドしている。

「あんた、どうして最近、家にこないのよ!今日は家に来なさい!解った?!」
アスカは腰に手を当て、ビッとシンジを指さしそう言った。

「わ、解ったよ、アスカ、じゃぁ今日はアスカの家で食事にするね」
シンジはニッコリと笑い、そう言った。

「解れば良いのよ」
アスカはそう言って、ヒカリの元へ戻って行った。

横でレイが心配そうに見ている。
そんなレイにシンジは微笑んで言った。

「アスカも漸く、踏ん切りが付いたのかな」
「・・・そうなの?」

「多分ね」
「・・・そう、良かったわね」
レイは微笑んでアスカの方を見ているシンジを見て、ちょっと不満そうな顔をして席に着いて本を開いていた。

シンジはそんなレイの頭を撫でてご機嫌を取るのだった。
勿論レイも自分が不満だった事など忘れて、その心地よさに目を細めている。

その夜は、久しぶりにミサトの家でシンジが料理をしていた。
暫く来なかったため、その前の掃除にかなり時間を要したが、シンジはそれ程、苦ではないようだった。

いつもの様に、アスカがシンジに文句を言いながらも、パク付く料理。
レイもいつもの様に、我関せずと黙々と食べて居た。

食事も終り、一通り寛いで帰ろうとした時、アスカが言った。

「ありがとね、シンジ」
「え?」

「話してくれて」
「僕の自己満足だよ」
シンジはそう言って微笑んだ。
アスカも、もう何も言わなかった。

シンジとレイはいつもの様に、手を繋いで帰って行く。
それを、微笑ましく見送るアスカだった。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。