第拾九話
シンジの決意


(僕は、この一月を有効に使わなければいけない・・・)
(それがきっと母さんが僕にくれた時間だと思う・・・)
(そして、何より、綾波に幸せになって欲しい・・・)
(父さんの道具として与えられた命、でもそれは間違ってると思う、それだけは・・・)
(サードインパクト・・・防いだ後の綾波が心配だ・・・)
(サードインパクトを起こして僕の望む世界にする・・・それじゃ父さんと同じだ・・・)
(何より、綾波を道具として使う事になってしまう・・・)
(やはり、そこは流れのままなのか・・・)
(違う、母さんも本当に流れのままならエヴァなんか作る必要はなかったはずだ・・・)
(量産型エヴァはサードインパクトを起こすためのもの・・・)
(でも、初号機は使徒と戦うためのもの・・・)
(明るい未来、そのためのはずだ・・・)
(母さんの望む明るい未来って何だったんだ・・・)
(使徒の襲来を退けた平和な世界じゃないのか?・・・)


そしてシンジは加持にセッティングして貰った。
盗聴器の類のない場所で、8人程が話を出来るエリア。
それと、8人のスケジュール調整。

今回は、弐号機も中破、零号機、初号機については小破であり、修理にもそれ程時間は取られない。
加えてサルベージ計画もないため、比較的オペレータ3人は夜なら空いていた。

加持のセッティングした、その日その場所には、シンジ、レイ、アスカ、加持、ミサト、マヤ、シゲル、マコトが居た。

「なによ!こんな所に呼び出して!下らない話だったらあたし帰るからね!」
アスカは相変わらず機嫌が悪い。

「先輩は来ないんですか?」
マヤがメンバー的にリツコが居ない事を不信がった。

「リツコさんに話すかどうかは、僕の話を聞いてから判断して下さい」
シンジが切り出した。

「まず、信じて貰えなくても構わないんですが、僕はサードインパクトが起った世界から飛ばされて来ました」

「ちょ、ちょっとあんた何言ってんのよ!」
アスカがいきなり話しの腰を折る。

「アスカ、聞く気が無いなら帰って貰って構わない。聞く気があるなら変に茶々を入れないでくれるかな」

普段なら憤慨するアスカだが、そのシンジの真剣な目と加持が真剣な事に引っ込む事にした。
「解ったわよ!さっさと話しなさいよ!」

「僕の経験した世界では、全ての使徒を倒した後、ゼーレの量産型エヴァにより初号機を依り代として行われました」

「なによそれ!使徒を倒した後にエヴァでサードインパクトを起こしたってどういう事よ!」
今度はミサトだった。

「ミサトさん、それを今から話すんです。少し黙って聞いて頂けますか?」
「わ、悪かったわ、続けて頂戴」
ミサトは自分もアスカと同じ事をしてしまったとバツが悪かった。

「サードインパクトと呼ばれる物は2つ種類があります。一つは使徒がアダムと接触して起ると言われているセカンドインパクトと同等の被害が起るであろう事。もう一つは人類補完計画です」
「人類補完計画ってなによ!」
アスカは黙っていられないようだ。

「アスカ」
今度は加持が黙らせてくれた。

「人類補完委員会、NERVの上位組織ですが、その実体はゼーレと呼ばれる世界経済を影で操る裏組織です。そして彼らが望む人類補完計画は全ての人を一旦LCLに還元し、全ての魂を一つにする事による補完です」
今度は、皆黙って聞いている。

シンジはそれを確認すると続けた。
「そして父さんは、その時にアダムとリリスを融合させサードインパクトを起こそうと考えています。これはリリスの力を利用し、初号機の中に取り込まれた母さんに会うためです」

「ちょっと待って、シンジ君、まずリリスって何?初号機の中のお母さんってどういう事?」
今度はマヤであった。

「リリスとは第弐使徒、ミサトさんと加持さんはターミナルドグマでその実体を見たんじゃないですか?アダムは加持さんが運んで来たからご存じでしょ?」
「「あれがリリス・・・」」
加持とミサトが同時に呟いてしまった。

「加持!あんたそんな物運んで来たの?」
「あ、あぁ仕事でな」
「仕事って何よ!」
「司令に頼まれたんだよ」

「そろそろ良いですか?」
シンジが二人が喧嘩を始めそうなので、話の続きを示唆した。

「え、えぇお願いするわ」

「僕が3歳ぐらいの時、母さんはエヴァの起動試験を行いました。その時母さんはエヴァに取り込まれたんです。アスカのお母さんもその後、同じ試験を行い魂の殆どがエヴァに取り込まれました。だから、アスカのお母さんは人形をアスカだと思っていたんだよ」

「何よそれ!ママは死んだのよ!」
「それは、魂が殆どエヴァに取り込まれた抜け殻だったんだ、今度エヴァに乗った時に感じてみればいい、アスカのお母さんはずっとアスカを見守っていたはずだよ」

「そ、そんな・・・」
アスカは俯いてしまった。

「今のエヴァのシンクロはコアに取り込まれた近親者の魂とパイロットがシンクロしています」
「そう、それがシンクロとチルドレンの秘密だったのね、そのための専用機・・・」
ミサトが呟いた。

「僕の辿った世界では、前回の使徒との戦闘で弐号機、零号機は大破、僕は初号機に取り込まれ、一月後にサルベージされました。僕はこの一月を有効に使いたいと思って、今日皆さんに集まって貰ったんです」

「そう、そう言う事だったの・・・」
ミサトが呟く。
しかし、加持はこの言葉に今までの話が前哨戦に過ぎない事を感じていた。
そして加持はシンジの次ぎの言葉をじっと待っていた。


「僕はこれから僕の知っている事を話します。それによってどう行動するかは皆さんに委ねます」
「ちょっと待ちなさいよ!サードインパクトを阻止するとかじゃないわけ?!」
アスカがシンジの言葉に疑問を投げかけた。

「僕にはサードインパクトと言うか人類補完計画が悪いものなのかどうか判断できないんだ。僕は他人の居る世界を望んだんだけど、LCLに溶けた人達は誰も個には戻らなかったんだよ」
「その方が人類にとって幸せだと言うの?」

「それは解りません。ただ、僕は単純にサードインパクトを止めるだけなら、その後の綾波が心配なんです」
「どういう事?」
ミサトが尋ねる。

「綾波はエヴァに乗るために作られた生命体、僕の母さんのDNAとリリスの因子により父さんに作られた存在なんです。だから初号機にもシンクロできる。そしてそのクローンはダミープラグの元」
マヤがビクッとした。
シンジは敢えてクローンと言う言い方をした。

「「「「何です(だ)って!!!」」」」
ミサト、アスカ、シゲル、マコトが一斉に叫んだ。

シンジはレイをしっかりと抱きしめている。
レイは俯いている。
前もってレイには話す事は言ってあったのだが、やはり辛いようだ。

「ごめん、綾波」
「・・・構わないわ」
小さな声でシンジとレイは遣り取りしていた。

「マヤさんはある程度知っていたみたいですね」
シンジは俯いているマヤを見てそう言った。

「マヤちゃん?」
ミサトがマヤに問いかける。

「ごめんなさい、でも、それでパイロットが必要なくなるって先輩に言われて・・・ごめんなさい」
マヤは罪悪感に苛まれていた様子だ。

「マヤさん、解ってますからそんなに自分を責めないでください。僕も解っていて何も止める手立ては行わなかった。それすら悪い事なのか判断できなかったんです」
シンジはそう言ってマヤを慰めた。


「さて、これくらいを基本知識として、先へ進みます」
「まだあるの?ってこれでも基本知識って・・・」
アスカが呆れた口調で言った。

「まず、僕は全てを知っている訳ではありません。サードインパクトで溶け合った時に近くに居た人と、リツコさんとミサトさんに聞いた事が全てです」
「わ、私とリツコ?」

「まず、加持さんが後一月ぐらいで死にました。その時ミサトさんに託した情報でミサトさんが独自に調べた事と、第壱拾六使徒が倒された後、リツコさんが父さんに裏切られたらしく、僕とミサトさんをセントラルドグマに連れて行って全て話してくれました」

「司令に裏切られたって・・・」
「父さんは自分の計画のため、他人は全て道具と思っているようです。そして今、父さんの計画を知っていて手伝っているのが、冬月副司令とリツコさんです」

「そうか、それでりっちゃんは呼べなかったんだな」
「そう言う事です。僕がこれだけ知っていると知ったリツコさんが取る行動は僕には予測が付きませんでしたので・・・」


「それで、続きはなんだい?」
「はい、使徒は後3体、正確には2体と一人です」

「一人?」
「最後の使徒はゼーレから送られてくる、僕らと同じチルドレンでした」
「なんですって!」

「その話の前に、次ぎの使徒は衛星軌道上から精神攻撃を行ってきます。前は零号機がロンギヌスの槍によって殲滅しました。多分今回もそうなるでしょう。この精神攻撃はトラウマを引き出すようで、前はアスカがこれで壊れて弐号機が起動できなくなりました」

「あたしが、精神攻撃ぐらいで、やられるわけないでしょ!」
「今なら大丈夫だと思うよ、でも前は大破したって言ったでしょ?そのために使徒に勝てなかったって落ち込んでる時にその攻撃を受けたからさ」

「そ、そう、弱ってる所に追い打ちだったのね、それなら理解できるわ」
アスカは取り敢ず不承不承ながら納得した。

「ロンギヌスの槍って何?」
ミサトが尋ねる。

「多分、ターミナルドグマで見たリリスに刺さっていたと思いますが、南極から引き上げてきた槍です」
「あ、あの紅いやつ?」
シンジは頷いた。

「そして、その次ぎは一次接触を行ってきます。これは零号機が自爆して倒しました。今回は自爆なんてしないでね綾波」
「・・・・・」
レイは、まだ俯いて黙っている。

「そして最後の使徒は僕が、初号機で握りつぶしました」

「なんか残りの使徒は大変じゃなさそうね?」
ミサトが言う。

「いえ、衛星軌道上の使徒なんて他に倒す方法がないし、接触を行う使徒なんかは零号機のATフィールドを簡単に貫いて来たんです。カヲル君・・・最後の使徒は、まさに結界とも呼べるような強力なATフィールドを張っていました」

「そ、そうなんだ、倒した所だけ聞いたから簡単に思ってしまったのね、ゴミン」
ミサトは両手を合わせて謝った。


シンジはここで大きく息を吸い込み言った。
「問題は、ここからです」

「使徒を全て倒した後、A-801が発令されNERVが戦自に攻め込まれます」
「どうして戦自が・・・」

「ゼーレがNERVがサードインパクトを画策していると流したためです」
「なるほど、そこにつけ込んでゼーレがサードインパクトを起こそうと言うのか」

「多分ゼーレは父さんに先を越されリリスとアダムによるサードインパクトを起こされる事を恐れたんだと思います」

「そして、戦自をエヴァが退けると量産型エヴァが投入されます。これはS2機関搭載でダミープラグで動いているようでした」
「後は、初号機が降臨されてサードインパクトが起こされました」


「シンジ君、俄に信じ難い話なんだけど、君はこれからどうしたいんだい?」
マコトが始めて口を開いた。

「僕は、今話しても理解してくれて無闇に父さんに報告しないだろう人を選んで話しました。父さんは母さんに会う事が全てなので何を話しても無駄だと思います」
「そして、後は皆さんが、考えてくれれば良いと思います。僕は綾波を護る事、それだけですが、あまりに非力です。戦自が攻めてくる事を知っていても何もできません。だから話しました」

「そうか、解ったよ、話してくれてありがとう」
マコトはそう言った。


「後、セカンドインパクトですが、これはゼーレの計画によるものでした。葛城博士に情報を与え、ロンギヌスの槍すらをも与えたのです。そしてアダムを卵に還元する事により放射されたエネルギー、これがセカンドインパクトの実体です」

「そ、それじゃ父は利用されったって言うの?使徒に殺されたんじゃなくて実験の結果だと・・・」
ミサトが唖然とした。
シンジは頷いた。


「一つだけ聞いていいかな?」
今度はシゲルが始めて口を開いた。

「どうぞ」
「シンジ君は何故レイちゃんをそんなに大事にしているんだい?」

「前の世界で、僕は綾波の事を何も解ってあげられなかったんです。水槽の中の沢山の綾波を見て、僕は綾波を避けてしまった。だけど、綾波だけが、僕を見ていてくれていたんです。皆、大変になって自分の事で精一杯になる中、綾波だけが見ていてくれたんです。なのに僕は綾波を恐れ、避けてしまった。ここに居る綾波がその綾波と違う事は解ってます。でも、人間と違う事に悩み、人と接触を断って父さんの道具としてだけ生きてきた事には変わりなかったんです。僕はそんな綾波をほっとけなかったし、どの綾波も僕にとっては綾波なんです」
それは、シンジの魂の慟哭だった。

「そうか、本当にシンジ君はレイちゃんを大事に思っているんだね」
その言葉に「はっ」とした表情をしたのはレイだった。


「問題はリツコね」
ミサトが呟いた。

「先輩・・・何故・・・」
マヤも呟いている。

「りっちゃんがこっちに付いてくれるとかなり助かるんだがなぁ・・・」
加持がぼやいた。

「リツコさんは父さんと・・・その・・・所謂、男と女の関係なんです」
「何ですって!!」
ミサトが叫んだ。

「リツコ・・・趣味を疑うわ・・・」
「先輩・・・」
マヤは涙眼になっている。

「それは確かにりっちゃんは呼べないな・・・」
加持も納得してしまった。


「僕としてはNERVは存続して貰って綾波の安全を確保したい所なんですが、使徒が倒された後の父さんの行動を考えるとそれは望み薄いんです。本当はリツコさんを巻き込んで、父さんと副司令とゼーレが自滅してくれれば一番いいんですが、そう都合良くは行かないでしょうし・・・」

「そっちの件は俺も考えて見るよ」
加持がにっこり笑った。

「僕が知っている情報は以上です。こういう機会を頻繁に持つと怪しまれると思いますので、こういうのは今回限りだと思ってください。話を聞いてくれてありがとうございました」
そう言ってシンジは頭をペコリと下げた。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。