第拾八話
皆の戦い
シンジは加持のスイカ畑に来ていた。
「やぁシンジ君、何か話したい事でもできたかい?」
「いえ、もうすぐ使徒が来ます」
「それを伝えにきたのかい?」
「いえ、僕は今回エヴァに取り込まれるかも知れません、そうすると一月ぐらい会えなくなるので」
「お別れに来てくれたのか?」
「えぇ、前はこの後、加持さんに会う事はありませんでしたから」
「そうか、真摯に受け止めておくよ」
「加持さん?」
「何だい?」
「僕が話した事を報告してくれてなくて感謝しています。そして戻ってきたら、もっと詳しい事をお話したいと思います。だから死なないでください」
「あぁ努力するよ」
加持はそう言って微笑んだ。
そしてシンジは自室に戻った。
そろそろ使徒が来るはずだ。
(今回はここにいる・・・)
(だから、アスカや綾波より早く出動できる・・・)
(厄介なのは強力なビームとあの紙テープのような腕・・・)
(でも、どちらも直線的な動きだったはず・・・)
(そしてコアを覆う、殻のような物・・・)
シンジはゼルエルに対する対抗策を考えていた。
その時、警報が鳴り響いた。
(来たか・・・)
シンジは更衣室へと駆けて行った。
発令所は慌ただしかった。
「第拾四使徒を光学で捕らえました。」
メインモニターに使徒が映し出される。
ミサトが到着した。
「1撃で第17装甲板まで貫通!!」
日向が驚くべき報告をした。
「エヴァの地上迎撃は間に合わないわ、初号機をジオフロントに射出、弐号機を本部の防御に回して!」
「17枚もの装甲を一瞬にして・・・第伍使徒の加粒子砲並の破壊力ね」
リツコが呟く。
「初号機、弐号機ジオフロントに射出!」
「ジオフロント天井部破壊されました!!」
ジオフロントの天井が爆発して、そこから使徒が姿を現した。
『こんのぉ〜!!』
アスカがATフィールドを中和しつつありったけの銃器で使徒を牽制する。
弐号機に伸びる使徒の腕。
初号機が使徒の横から回り込み、使徒を掴んだ。
初号機が掴みかかったおかげで、使徒の腕は軌道をそれ弐号機を切り裂く事はなかった。
プログナイフでコアを突き刺すが、殻に覆われるコア。
「くっ!」
シンジは解っていた事とはいえ、歯噛みした。
その時、使徒の顔が光った。
「危ない!」そう思って、避けた初号機、その時に使徒の片腕を掴んでいたため、使徒の片腕がもげた。
もう片方の腕を伸ばし、初号機を攻める使徒。
その腕は紙のように薄く、新体操のリボンのように一直線に初号機に迫ってくる。
初号機は横に飛び、その直線的攻撃から逃れた。
それと共に援護射撃を行う零号機。
弐号機がソニックブレイブで使徒に斬りかかるが、硬い使徒に跳ね返される。
その時、初号機がもいだ片腕が再生した。
『くっ厄介ね、こいつは』
珍しくアスカも弱音を吐いた。
『アスカ!僕がなんとか使徒を押さえ込むから、零距離射撃で使徒のコアに打ち込んで!綾波はアスカを援護!』
『・・・了解』
『解ったわ、それぐらいしか方法はなさそうね』
アスカも了承した。
シンジは使徒の背後から一気に飛びかかり、使徒の背後に回り込んで使徒を羽交い絞めにした。
『アスカ!今だ!』
『解ってるわよ!』
弐号機が両手にパレットガンとバズーカを持って使徒に接近する、
それを援護する零号機。
弐号機が、使徒のコアに零距離射撃で全段打ち込んだ。
『うりゃぁ〜〜〜!!』
痙攣する使徒。
『アスカ!避けて!』
使徒の顔が光った。
『キャァァァッ!!』
咄嗟に弐号機は横っ飛びをしたが、左手を持って行かれた。
『アスカ!』
シンジはそのまま使徒を組み伏せると、プログナイフで使徒のコアを突いた。
マウントポジションで使徒の腕を足で押さえている。
零号機が近くに来て、使徒の顔に零距離射撃を行った。
『ありがとう、綾波』
これで暫く、光線は出せない。
弐号機の零距離射撃で使徒のコアにある殻はボロボロだった。
何度も何度も突き刺す初号機。
「パターン青消滅、使徒沈黙しました」
シゲルの報告に崩れ落ちる初号機。
『碇君!』
レイが叫ぶ。
『だ、大丈夫、ちょっと疲れただけだよ』
「ほっ」と胸をなで下ろすレイだった。
『アスカは?』
「今、救護班が回収したわ、特に問題なし、至って元気なようよ」
ミサトがアスカの状況を伝えた。
(今回は取り込まれずに済んだ・・・)
(でも、これでS2機関も取り込まれていない・・・)
(と言う事は凍結もないはず・・・)
シンジはかなり記憶と違ってきている現状に少し恐れを抱いていた。
エヴァの回収を終え、シンジはレイと一緒にアスカの病室に来ていた。
「もぉぅ大した事ないのに大袈裟なんだからぁ!」
アスカはご機嫌斜めだ。
弐号機だけが中破、そして自分だけが入院なのが気に入らないのだ。
「でも無事でよかった」
シンジは、本当にそう思っていた。
前回は弐号機は大破だったのだ。
しかもアスカはシンジに負けたと思い心を壊し始めていた。
「このあたしが、あれくらいで遣られるわけないでしょ!」
そんなアスカを見てシンジは微笑んだ。
「そうだね、あの使徒を倒せたのもアスカのお陰だし」
「何よそれ?嫌み?」
「嫌、本当だよ、最初、使徒のコアにプログナイフを突き刺した時は殻みたいなのに阻まれたんだ、でもアスカがその殻みたいなのを壊してくれていたから」
「そう?じゃぁ、今回は名誉の負傷って事で我慢してあげるわ。退院したらあんた美味しい物ご馳走しなさいよ!」
アスカはちょっと照れくさそうにそう言った。
「うん、解ったよ、何が食べたいか考えておいて」
そしてシンジ達は帰って行った。
帰り道、シンジはレイと話をしていた。
「綾波、ありがとう、おかげで取り込まれずに済んだよ」
「・・・役に立てたのね」
レイはどこか誇らしげだったが顔は紅潮していた。
「勿論だよ、取り込まれていたら一月ぐらい会えなかったからね、凄い嬉しいよ」
レイは眼を見開いた。
「・・・そう、そんなに長かったのね」
シンジは少し睨まれているような気がした。
(いや、確かに期間は言わなかったけど、そんな睨まなくても・・・)
ここに来てシンジは女の恐ろしさを知った。
「逆に言えば、一月ぐらい使徒は来ないから、一杯遊べるね」
「・・・そうね」
幾分レイのご機嫌が治ったようだ。
(よし、もう一息だ・・・)
「今度、どこか出かけてみようか?」
「・・・私は碇君と一緒に居られればそれでいい」
(む、失敗したか?・・・)
「解った、でも計画しちゃうからね」
「・・・構わないわ」
シンジはその時、レイが左手を右手で握りしめている事には気がつかなかった。
そう、あの指輪を付けた薬指をしっかりとレイは握りしめていたのだ。
そしてシンジとレイがお出かけしている。
シンジにとってもこの一月は未知との遭遇だ。
前は、この期間はエヴァの中に取り込まれていたため、思考が内へ内へと向かっていた。
しかし、今回はレイとの関係も良好、アスカもそれ程落ち込んでいない様子だった。
(結構、良い感じに進んでる・・・)
(僕が、少し前向きなだけで、こんな穏やかな時間を過ごせたんだ・・・)
シンジは今更ながら、前の自分が如何に何もしなかったかを感じた。
逃げちゃ駄目だとか言いつつ結局逃げて居た。
いや、止まっていたのだった。
芦ノ湖の遊覧船に乗ってシンジとレイは風に当っている。
「どうかな?」
「・・・風が気持ちいいわ」
「そう、良かった」
シンジはレイを連れ出して良かったと思っていた。
レイの腰に手を回し、寄り添う二人。
レイも腰に回されたシンジの手を握っていた。
レイは、この間買って貰った服を着ており、いつもの制服姿ではなかった。
それは、少しタイトなミニスカートとタンクトップのブラウス。
大人し目に見えるレイには、ちょっと活発すぎる印象の服だったが、それが妙にマッチしていた。
そして指には買って貰った指輪。
年齢に不釣り合いな指輪なのだが、その上品なデザインが違和感を無くしている。
「寒くない?」
「・・・えぇ」
遊覧船を降り、展望台から景色を眺めていた。
時間が経ち夕日に照らされる芦ノ湖。
綺麗なのだが、紅い世界を思い出させるこの色は、シンジはあまり好きではなかった。
「行こうか」
「・・・えぇ」
手を繋ぎ、帰路に着く二人。
レイも紅い色はあまり好きではない。
「どうだった?」
「・・・気持ちよかったわ」
「そう、又、来たいと思った?」
「・・・えぇ」
レイの幸せそうな笑顔を見て、微笑むシンジだった。
レイの家で食事をし、穏やかな時間が流れる二人。
最近では、お互い別な事をしている事が多い。
しかし、二人は引っ付いている。
レイが引っ付くのが好きなのだ。
例えば、ベッドに寄りかかりシンジが座っていると、その隣にピッタリと付いて本を読んでいたりする。
シンジがベッドに腰掛けていると、その膝の上に座ったりする。
シンジがテーブルに本を置いて呼んでいると、その背中に寄りかかって本を読んでいたりする。
兎も角、いつも引っ付いて居るのだった。
そして、今日は日曜日のため、シンジは夜になってNERVに帰る。
帰る前には、いつもの儀式が待っている。
長い抱擁と長い口吻。
いつまでも離れたくないと言う思いが二人シンクロする。
そしてシンジを見送るレイ。
何度も振り返るシンジ。
「また明日」
「・・・また」
あれ以来、レイは「さよなら」とは言わなくなった。
勿論、シンジにだけだが。
帰り道、時々にやけてしまうシンジ。
ベッドで指輪を見つめながらにやけるレイ。
そしてお互いがお互いを想う夜が更けて行く。
各々の部屋で各々を想う二人。
募る想いと、来る日を思う不安。
お互いがお互いの思いを抱いたまま眠りについた。
まだ、安らかに。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。