第拾七話
ダミープラグなんて要らない!


またもシンジは自室で物思いに耽っていた。

(あの時は確かにダミープラグが起動した・・・)
(でも、その後、初号機は綾波もダミープラグも受け付けなくなっていた・・・)
(僕がダミープラグを忌み嫌ったからか?・・・)

(あの時、父さんが僕を出て行かせたのはダミープラグが起動したからだ・・・)
(と言う事はダミープラグが正常に動作すると今回も僕は追い出される可能性がある・・・)
(それは、嫌だ・・・)
(でもダミープラグが完成すれば、誰もエヴァに乗る必要はなくなる・・・)
(これが、綾波がエヴァに乗るために産まれてきたと言う理由か・・・)

(僕はどうすればいいんだ・・・)


翌日はレイのところに居た。
リツコも松代へ行っている為、実験がなかったのだ。

ミサトの家は加持が泊まりに行くとのことで、アスカから絶対来ないようにと言われていた。

シンジとレイは久しぶりに二人で食事をする事ができた。

レイは微かな微笑みを湛えて食事をしていた。
シンジもそんなレイを見ながら微笑みながら食事をしている。

根本的にこの二人は会話が少ない。
しかし、穏やかな時間が流れ、二人はこの静寂が嫌いではなかった。

食事が終って、お茶を飲んで寛いで居る時にシンジが話し出した。

「綾波?」
「・・・何?」

「綾波は、このまま使徒が全て倒されて、サードインパクトも起きず、平和になったら何がしたい?」
「・・・・・」
何故か、レイは紅くなって俯いている。

「あ、あれ?悪い事聞いちゃったかな?」
シンジは慌てたが、レイは首を横にフルフルと振った。

(父さんの計画のために居たから考えてなかったのかな?・・・)
(もう無に還りたいとは言わないと思うけど・・・)

「・・・碇君の・・・」
「え?」
声が小さすぎて聞こえなかった。
レイはもじもじしている様に見える。

「・・・碇君の・・お嫁・さん」
「はいぃい?」
シンジは仰け反ってしまった。

「・・・駄目?」

(綾波ぃ〜その眼を潤ませて上目使いは反則だってぇ・・・)

シンジに逃れる術はなかった。
「も、勿論、それは僕も嬉しいけど、それって結構先の話じゃない?」
なんとか取り繕った。

「・・・後4年で碇君は18歳だわ」
「た、確かに日本の法律では18歳で結婚はできるね」
シンジは冷や汗を流していた。

「でも、結婚したって、何かできるじゃない?趣味とか勉強とか」
「・・・考えておくわ」

「そ、そうだね」
突然、普段の調子に戻ったレイにシンジは困惑していた。

「そうだ!今度、二人で買物に行こう」
「・・・買物?」

「うん、駄目かな?」
「・・・駄目じゃない」
レイはほんのり紅くなって俯いた。

そんなレイをシンジは我慢できずに抱き寄せた。
一瞬「はっ」とするも身を委ねるレイだった。

シンジとレイの甘い時間は過ぎていく。


翌日、松代で事故が起こった。

『松代で爆発事故発生、被害不明』

「救助及び第3部隊をすべて派遣、戦自が介入する前に全て処理しろ」
冬月が指示を出した。
「了解」

「事故現場に正体不明の移動物体を確認」
「パターンオレンジ、使徒とは識別できません」

「第1種戦闘配置」
ゲンドウが直接指示を出した。

『総員第1種戦闘配置』
『地対地戦用意』

「野辺山にて目標の移動物体の光学で確認」
メインモニターに参号機が映し出され、発令所にざわめきが起こった。

「やはりこれか・・」
冬月は呟いた。

「活動停止信号を発信、エントリープラグを強制射出」
ゲンドウが指示を出した。

「駄目です。停止信号、及びプラグ排出コード認識しません」
マヤが報告する。
「パイロットは?」
「呼吸、心拍の反応はありますが・・・恐らく・・・」

「厄介だな・・」
「エヴァンゲリオン参号機は現時刻を以て破棄、目標を第拾参使徒と識別する」

「しかし!」
「予定通り、野辺山で戦線を展開、目標を撃破せよ」
オペレータが何か言おうとしたが、ゲンドウが高圧的な命令で黙らせた。

シンジは今回、この遣り取りを冷静に聞く事ができた。

(そうか、父さんはちゃんと試していたんだ・・・)
(停止信号もプラグの射出も・・・)
(やっぱり僕は子供だったんだ・・・)
(いや、それ以前に状況を何も把握してなかった・・・)
(理解しようとすらしてなかったんだ・・・)
(今回は僕の手で止めてあげるよ・・・トウジ)
(ダミープラグは使わせない・・・)

「目標を確認」
『・・・これが目標ですか?』
シンジは静かに確認した。

「ああ、そうだ」
答えるゲンドウ。

『まさか使徒に乗っ取られたの?』
アスカが呟く。

『・・・誰か乗っているのか』
『あんたまだ知らないの?!キャアア!!!』
『アスカ!!』

弐号機が参号機に攻撃され、ビルを突き破り山に激突した。
「弐号機、目標により攻撃を受けました」
「弐号機中破、セカンドチルドレンは脱出しました」

参号機は弐号機に一瞥をくれた後、道を進んだ。

「レイ、目標はそちらへ向かった。近接戦闘は避け、攻撃しろ、初号機を向かわせる」
『・・・了解』

シンジは走っていた。

『・・・乗っているわ・・・彼』
レイが呟く。

『ハッ!・・ウッ!』
参号機が突然、視界から消え、激痛が走った。
零号機が参号機に押さえ込まれたのだ。

それを蹴り上げる初号機。

零号機は参号機の拘束から解放された。
『・・・碇君』
『綾波!!大丈夫?!』
『・・・問題ないわ』

『援護して!』
『・・・解ったわ』

シンジは参号機に攻撃を仕掛けた。

伸びる参号機の腕をシンジは物ともせず、引きちぎった。

そして、格闘の末、参号機の首を折る、初号機。
参号機は、だらりと力を無くした。
シンジは尚も攻撃を続ける様に、参号機の半分飛び出しているエントリープラグを覆っている粘菌質のものを引きはがす。

同時にプラグを抜き出し、それを地面に置くと参号機そのものを遠くに投げ、参号機の方に行く。
そして、参号機の原型を止めているパーツ全てを破壊し尽くした。

「パターン青、消失、使徒消滅しました」
シゲルの言葉を聞き、漸くシンジは攻撃を止めた。

ゲンドウは特に何も言わなかった。

(やっぱり父さんもトウジを殺そうと思っていたわけじゃなかったんだ・・・)
(僕が攻撃しなかったからダミープラグを使ったんだ・・・)
(父さんに取っては使徒殲滅が優先・・・)
(それだけの事だったんだ・・・)
(でも、今後、僕が何か反抗的な態度を見せるとダミープラグが起動されると言うリスクが出来たな・・・)

シンジはそう考えた。

今回は拘束もされず、そのまま、更衣室でシャワーを浴び、着替えたシンジ。
更衣室を出るとレイが待っていた。

「送って行くよ」
シンジはニッコリと微笑んだ。
レイはコクンと頷く。

(リツコさんが怪我しているから暫くは実験がないかな・・・)
(たしか、前は入院していて次ぎの使徒まで3日ぐらい余裕があったはず・・・)

そう考え、シンジはその日はレイの部屋に泊まり、次ぎの日に約束した買物に行く事にした。


朝、眼が醒めると、何時もと違う雰囲気。
左手が重い。
シンジが動かない左手の方を見ると蒼銀の髪が眼に飛び込んで来た。

(そっか昨夜は泊まったんだった・・・)
(少しの間、寂しい想いさせちゃうかも知れないと思ってつい・・・)
(綾波に寂しさを教えたのは僕だ・・・)
(これも自己満足だな・・・)

シンジはレイの髪を撫でながら、考えていた。

「フミッ?」と顔を上げるレイ。

「ごめん、起こしちゃったね、おはよう」
シンジはそう言ってニッコリ微笑んだ。

レイは微笑むと顔を再びシンジの胸におしつけてスリスリした。

(これって、手でやるのが面倒なだけじゃ・・・可愛いけど・・・)

シンジはやはり女心は解らないと思いながらも、それは嫌ではなかった。

軽く朝食を取り、シンジ達は買物に出かけた。

シンジは世間話の様になにげなく切り出した。

「次ぎの使徒は、すぐ来るんだ、3日後ぐらいに」
「・・・そう」

「僕は、もしかしたら、エヴァに取り込まれるかもしれない」
レイは眼を見開いた。

「もし、取り込まれてもリツコさんがサルベージしてくれるから心配しないで」
「・・・解ったわ」
レイは安堵の息を漏らし、そう答えた。

「後、次ぎの使徒は強いから無理しないで、前は零号機は先の使徒戦で片腕無くしていてN2爆弾を持って特攻したんだ」
「・・・・・」

「お願いだから無茶しないでね」
「・・・碇君も」

「はは、そうだね、前は取り込まれたけど、今回は取り込まれないように頑張って見るつもりだよ」
「・・・そう」
レイは微笑んでそう言った。

そして、普段レイ一人では買わない様な、普段着や部屋着を二人で買った。

二人で歩いて居て、シンジは漸く目的の貴金属店を見つけた。

「綾波、ちょっと見てみよう」
シンジはそう言うと貴金属店に入って行った。

年齢が若いせいもあり、店員は見ているだけで説明をしには来なかった。
レイと二人で眺めていると、シンジの思惑通り、レイが見つめている物があった。

それは、レイの眼と同じ紅い色をした石をあしらった指輪だった。
18金台の上にルビーが上品に並ぶ指輪。

シンジはそれを見せて貰う事にした。

店員を呼び、それを出して貰う。

店員から差し出されたそれをレイは恐る恐る取ると、自分の指に嵌めた。
値段からして中学生が買える値段ではない。

しかし、初々しいカップルに店員も顔を綻ばせ、見ていた。

「気に入った?」
シンジがレイに尋ねる。

コクンと頷くレイ。

「これ下さい」
シンジの言葉に店員は、我が耳を疑った。

「はい?で、でもこれ高いですよ?」
シンジはNERVのカードを出し、店員は再び驚いて、手続きをする為に奥に入って行った。

「・・・いいの?」
「うん、婚約指輪みたいなものさ」
「・・・嬉しい・・・碇君」
レイは涙を眼に溜めている。

「あ、綾波、こ、こんなとこで泣かないでよ」
シンジは狼狽えた。

直しに若干、時間が掛かるとの事で、出来上がるまで二人でうろうろして居た。

取りに行った帰り、レイは、それを大事そうに胸に抱えたまま家に帰った。
シンジはそれを見て、「買ってあげてよかった」と思うのだった。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。