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第拾伍話
約束


今日はミサトの家で夕食を作っている。

シンジとレイは最近、学校では浮いている。
レイは話しかけられれば一応、応えるのだが、元々言葉が少ないため、皆、間が持たないのだ。
加えて、シンジと居る事が多い。

シンジはたった1年程度と言えど精神的には上なため、どうしてもクラスメートとは折が合わない。
中学生ぐらいの1年の差は大きいのだ。
クラブでも1年上の先輩は絶対的な物がある。
中学2年の男子から見れば中学3年の女子は多分に艶っぽい。
当然、中学2年の女子から中学3年の男子は大人っぽく見える物だ。
男性に比べ成熟的に早い女性は元々同年代の男性は子供に見えてしかたないのだ。

そんな訳で、実はシンジはクラスの女子からは結構、人気がある。
元々中性的な顔立ちである上に、挙動の所々にそう言う所が見え隠れするためだ。

だが、アスカに取ってはそれは通じない。
何故ならアスカは自分は大学も出ており、他の皆は餓鬼だと思っている所があるからだ。
シンジに対しては、敵対心に近い物もあるため、簡単に認める訳にはいかないのだった。

しかし、シンジの料理と、たまに来てやっていってくれる掃除は捨て難い物があった。

そんな訳で、シンジを睨みながら料理を食べているアスカだった。

「あ、あの・・・アスカ?」
「何よ」

「なんで、そんな僕を睨むのかな?」
「別に睨んでなんかいないわよ!」

「そ、そう?なんか恐いんだけど何かあった?」
「別に何でもないわよ!最近、加持さんとミサトが縁りが戻ったみたいで幸せを押し付けようとするから機嫌が悪いだけよ!」

「そ、そうなんだ・・・」
シンジは冷や汗を流していた。

(別々に住んでいても、やっぱり駄目なのかなぁ・・・)

「あぁあ、あんたはファーストとべったりだし、あたしもどっかに良い人いないかなぁ」
アスカが投げ遣りに言い放った。

「この間、デートしたんじゃなかったっけ?」
「あんなの、あたしを連れている事を自慢したいだけの、ちょっと顔が良いだけの男なんて、こっちから願い下げだわ!」

「そ、そうだったんだ」
「・・・弐号機パイロットは男が欲しいの?」

(綾波ぃ・・・もう少し言い方が・・・)

「お、男って、そりゃ相手は男に決まってるけど、もうちょっと違う言い方できないの?!」
アスカは紅くなっている。

「・・・違う言い方?解らない」

「彼氏とか恋人とかよ!」
「・・・そう、そう言うのね」

「そ、そうよ!ほんとファーストって調子狂うわね」
「・・・何故?」

「何故って・・・あぁもういいわよ!」
レイはキョトンとしていた。


そして使徒がやって来た。

『目標は微速進行中、毎時2.5キロ』
「どうなってるの、富士の電波観測所は!」
「探知していません。直上にいきなり現われました」
「パターンはオレンジ、ATフィールドは反応無し」

「新種の使徒?」
「MAGIは判断を保留しています」
「こんな時に、碇司令はいないのよね・・・」

突然空中に現われた物体に対して、ミサトは慌ててエヴァのパイロット3人を呼び出すと、とりあえず出撃させた。

『目標のデータは送った通り、今はそれしか判らないわ。慎重に接近して反応を窺い、可能であれば市街地上空外への誘導を行う。先行する一機を残りが援護。よろしい?』
「任務は、あくまで偵察なんですね?」
ミサトからの指令を、シンジが再確認する。
『今の所はね・・・但し、使徒と判明し次第、即時殲滅よ』

「は~い、先鋒はシンジ君がいいと思いま~す!」
「・・・はあ?」

「そりゃあもう、こう言うのは成績優秀、勇猛果敢、シンクロ率ナンバーワンの殿方の仕事でしょ?それともシンちゃん、自信無いのかな~?」

「・・・判ったよ」

(うーーん、こいつは倒し方が解らないんだよなぁ・・・)
(やっぱり一度取り込まれるしかないか・・・)

シンジはそう考えながら、足元に注意しながら、恐る恐る上空の物体の後を追い始めた。
シンジは出撃位置が悪かったのか電源ケーブルの長さが足りなくなり、兵装ビルから別のケーブルを接続したりして遅れていた。

アスカは遅れている初号機が追いつきやすいように使徒を足止めすることにした。

『足止めだけでもしておくわっ!』

バシュッ、バシュッ、バシュッ

アスカが使徒にパレット・ライフルを撃ち込むと、使徒が消えた。

『きゃ~~~~~~っ!!』

「パターン青!弐号機の直下です!」

撃った直後に地面に黒い影が広がり、弐号機が足元からその影の中に沈み始める。

『加持さぁ~~ん!!シンジぃ~~~!!』

弐号機が使徒の影の中に飲み込まれようとしている。

シンジは影の中に飛び込んだ。

『碇君!』
レイが叫んだ、

『アスカっ!早くっ!』
『シンジぃ~~~!!』
弐号機は初号機を踏んづけて、近くのビルによじ登った。

『イヤぁぁぁ~~~~!!』

『アスカ、レイ、初号機を救出、急いで!!』

『碇君!!』
『シンジ!!』
レイは、初号機に向かって走り出し、アスカはビルの上から手を伸ばした。

『来ちゃ駄目だ!』 シンジが叫ぶ、

「シンジ君!」
ミサトが叫ぶ。

『綾波!アスカ!約束する。絶対戻ってくるから!』

モニターの中のアスカとレイが、はっとした顔になった。

レイはモニタに映るシンジの顔を見て、零号機の動きを止めてしまった。
それは自分に向かって微笑んでいたから。

そう言っているうちにも、すでに初号機は胸の位置まで影の中に沈み込んでいる。

「アンビリカルケーブルで引き上げて!」
呆然としていた本部内で、いち早く我に返ったリツコの言葉に、零号機が慌ててケーブルを巻き上げた。

『碇君・・・』
ケーブルは途中で切れて先は無くなっていた。

「・・・アスカ、レイ、後退するわ」

『なにバカな事言ってるのよ!!そんな事できるわけ無いでしょ!!』
『・・・まって、まだ初号機と碇君が!!』
レイとアスカは、それぞれに異を唱えた。

「命令よ、下がりなさい・・・」
ここで他のエヴァまで失うわけにはいかない。
作戦課長としての苦汁の判断だった。


発令所では、まだ弐号機と零号機の回収作業中であった。
シンジが取り込まれてからまだ15分と経っていない。

「影は?」
「動いてません。直径六百メートルを越えた所で停止したままです」

「内蔵電源に残された量はわずかだけど、シンジ君がやみくもにエヴァを動かさず生命維持モードで耐える事が出来れば、16時間は生きていられるわ」
逆に言えば、16時間以内に救出できなければ絶望だとも言える。


その頃、初号機ではシンジが悩んでいた。

(さてと、生命維持モードに切り替えると時間が掛かるな・・・)
(確か16時間ぐらいだっけ・・・)
(16時間待てば確実ってわけでもないしな・・・)
(どっちみち賭けには違いないし、それなら早い方がいいな・・・)

シンジは戦闘モードのまま切り替えなかった。
そして5分が経ち、内部電源が切れた。

(母さん・・・母さん・・・居るんでしょ?)
(僕はまだ死ねない、助けて・・・母さん・・・)

ドクン!

初号機の眼に光りが宿った。


発令所では未だ喧噪が続いていた。

「何ですって!?EVAの強制サルベージ!?」
ミサトがリツコと言い合っている。

「992個、現存するすべてのN2爆雷を使徒に投下、タイミングを合わせて残存するEVAのATフィールドで使徒の虚数回路に千分の1秒だけ干渉するわ。その瞬間に爆発を集中させて、使徒をディラックの海ごと破壊します」

「それじゃEVAの機体が!シンジ君はどうなるのよ!?」

「作戦はEVAの回収を最優先とします。たとえボディが大破しても構わないわ。この際、パイロットの生死は問いません」

パチンッ

ミサトの平手が飛んだ。

「碇司令やあなたが、そこまで初号機にこだわる理由は何?EVAって何なの?」
「あなたに渡した資料がすべてよ」

「嘘ね」
「ミサト・・・私を信じて」

アスカが見たこともないような恐ろしい形相でリツコを睨み付けていた。

「これがNERVの本性・・・」

その時、オペレータから連絡が入った。

「使徒に変化!!」
「何っ!?何が起こってるの!?」
リツコが叫んだ。

「すべてのメーターは振り切られています!」
マヤが叫ぶ。

「まさか、シンジ君が!?」
「そんな馬鹿な!」

使徒の影に亀裂が走り、血のように赤い液体が飛び散った。
空中に浮かぶ球体も震えだし、やがて割れ始めた。

ウゥゥウォォォォォォォォー------!

「EVA初号機!!」
球体を破って出てきたのは、初号機だった。

発令所の面々やアスカは恐怖に顔を引きつらせていた。

「アタシ・・・こんなものに乗ってるの?」
「なんてものを・・・なんてものを造ってしまったの、私達は・・・」
アスカとリツコの呆然とした呟きが聞こえた。

ウゥゥウォォォォォォォォー------!

空中の使徒を引き裂いて地上に降りた初号機が、その勢いで地上の影を粉砕した。
そして、血に染まった初号機は、その場で活動を停止した。

映像を呆然と見つめるリツコを、後ろからミサトが醒めた目で見ていた。

「エヴァがただの第壱使徒のコピーなんかじゃないことはわかる。でもネルフは使徒を全て倒した後、エヴァをどうするつもりなの?」
ミサトのつぶやきは誰にも聞こえず消えていった。


意識を失って医療室のベッドで寝ているシンジの寝顔を、脇に置いた椅子に座ったレイが飽きもせずに覗き込んでいた。

部屋にはシンジとレイの二人きりだ。

目が覚めたシンジは、覗き込んでいたレイと目が合った。
「・・・あ、綾波」

起きたシンジに抱きしめてもらっている姿を想像して呆けていたレイは、驚いて咄嗟に椅子に座りなおした。

「・・・今日は寝ていて、後は私達で処理するわ」

「うん、でももう大丈夫だよ・・・」
「・・・そう、良かったわね」

レイは、なぜか少し残念そうにしていた。

「・・・取れないや・・・血の匂い・・・」
シンジは、何気なく思った事を呟いてみた。

それを聞いたレイは、その匂いを嗅ぐふりをした。

クンクンと近付くレイの顔。

シンジが振り向くと、目の前にレイの顔が有った。

「綾波?」
「・・・怖かった」
そう言うとレイはシンジに抱きついた。

「うん、心配かけてごめん」
「・・・いい、約束守ってくれたから」
シンジの首筋に鼻を付けてすりすりしている。

「うん・・・」

シンジは困惑していた。

(本当なら「もう居なくならないから」とか言うべきなんだろうなぁ・・・)
(今回もかなり賭けだったしなぁ・・・)
(ゼルエル戦もあるし、迂闊な約束は出来ないよなぁ・・・)

そしてシンジはただ、レイの頭を撫でていた。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。