第拾四話
命日


(機体交換テスト・・・やっぱり零号機は暴走するのかな?・・・)

零号機のエントリープラグを前にして、シンジは考えていた。

初号機の機体の中で、レイの頭の中には様々な考えが流れ込んできていた。

「 山、重い山。時間をかけて変わるもの
空、青い空。目に見えない物。太陽、一つしかない物。
水、気持ちのいい事、碇君。
花、同じ物がいっぱい、いらない物もいっぱい。
空、赤い、赤い空。赤い色。赤い色は嫌い。
流れる水。血。血の臭い。血を流さない女。
赤い土から作られた人間。男と女から作られた人間。
街。人の造り出した物。エヴァ。人の造りし物。
人は何。神様が作り出した物。人は人が作り出した物。
私にあるものは、命、心の入れ物。エントリープラグ。それは魂の座。
これは誰。これは私。私は何。私は自分。この物体が自分。自分を造っている形。
目に見える私。でも私が私ではない感じ。とても変。
体が解けていく感じ。私がわからなくなる。私の形が消えていく
私ではない人の感じがする。誰かいるの?
碇君。
この人知っている、葛城三佐、赤木博士、みんな、クラスメイト、二号機パイロット、碇指令。
あなた誰、あなた誰、あなた誰」

自分の記憶に無い人間の顔が、シンジの記憶が流れ込んできているように感じさせる。

『どう?レイ、初めて乗った初号機は?』
「碇君の匂いがする・・・」

『誤差±0.03、ハーモニクスは正常です』
『レイと初号機の互換性に問題点は検出されず。では、テスト終了。レイ、上がっていいわよ』
「・・・はい」

『被験者は?』
『若干の緊張は見られますが、神経パターンに問題無し』
『初めての零号機、他のエヴァですもの・・・無理ないわね』

「バカね〜、そんなの気にせずに気楽にやればいいのに」
『それが出来ない子なのよシンジ君は』

「知ってるわ、だからバカなのよ」

「ところで、あの2人の機体交換テスト、私は参加しなくていいの?」

『どうせアスカは、弐号機以外に乗る気は無いんでしょ?』
「まあ、そりゃあそうだわ」

『エントリースタートしました。LCL電荷、第一次接続開始』
『どう?シンジ君、零号機のエントリープラグは』
「なんだか変な気分です」

『違和感があるのかしら?』
「いえ、ただ綾波の匂いがする・・・」

「なーにが匂いよ、変態じゃないの?」
『どう?』
『やはり、初号機ほどのシンクロ率は出ないわね』

『ハーモニクス、全て正常位置』
『これで、あの計画、遂行できるわね』

(そうか、これがダミーシステムのテストだったんだ!・・・)

『・・・A10神経接続開始』
『ハーモニクスレベル+20』

(そうだ、これだ・・・頭の中に直接入ってくる・・・)
(綾波のようで、どこか違う・・・)
(そうか、一人目だね?・・・)
(そうか、そう言うことか・・・)

そう気がついた時、シンジの意識が遠退きはじめる。
シンジは意識を失い、その途端に零号機が暴走を始めた。

『全回路遮断、電源カット』
『エヴァ、予備電源に切り替わりました』

その間も零号機は頭を抱えるように暴走を続ける。

『シンジ君は?』
『回路断線、モニター出来ません』
『零号機がシンジ君を拒絶!?』
『ダメです、オートイジェクション、作動しません!』
『また同じなの?あの時と・・・シンジ君を取り込むつもり!?』

『レイ、さがって!』
零号機が発令所に向かって拳を繰り出したが、壁と強化ガラスによって辛うじて遮られた。

『零号機、活動停止しました』
『パイロットの救出急いで!』
ミサトは即座に指示を出した。
(まさか、レイを殺そうとしたの?零号機が・・・)
ミサトは拳の前に居たレイを見てそう考えた。

(零号機が殴りたかったのは、私ね・・・間違いなく)
リツコの考えは的を得たものだった。

「はっ」
シンジは目覚めて辺りを見まわした。

「綾波・・・」
レイがベッドに寄り掛かって寝ている。
ずっと看ていてくれたのだろう。

シンジは優しく、髪を剥くようにレイの頭を撫でた。

(ダミープラグも殆ど完成が近づいている・・・か・・・)

シンジは本当に流れのままに身を任せていていいのが疑問を感じていた。


数日後、シンクロテストの後、シンジとレイはエレベータに乗って居た。

「明日、父さんに会わなきゃならないんだ・・・何、話せば良いと思う?」
「・・・どうして私にそんな事聞くの?」

「いつか、父さんが綾波と楽しそうに話してるの見たから・・・」
シンジは明日の墓参りに向けて少しナーヴァスになっているようだ。

「ごめん、あのさ、掃除の時、雑巾しぼってたろ?あれって、なんかお母さんって感じがした・・・」
「お母さん?」
「うん・・・なんか、お母さんの絞り方って感じがした。案外、綾波って主婦とかが似合ってたりして・・・」
シンジからは見えなかったが、レイの頬は紅く染まっていた。

「・・・何を言うのよ」


翌日、シンジは墓参りに出かけた。
レイはNERVに呼び出されている。

「三年ぶりだな、二人でここに来るのは」
「僕は、あの時逃げ出して、その後は来ていない。ここに母さんが眠っているってピンと来ないんだ。顔も覚えていないのに・・・」

(毎日のようにシンクロしているけどね・・・)

「人は想い出を忘れる事で生きていける、だが決して忘れてはならない事もある。ユイはそのかけがえの無い物を教えてくれた。私はその確認をするためにここに来ている」

(かけがえの無いものねぇ・・・)

「写真とか無いの?」
「残ってはいない。この墓もタダの飾りだ。遺体も無い」

(LCLに溶けてエヴァに取り込まれたからねぇ・・・)

「全ては心の中に・・・。今はそれで良い」
「父さん、明るい未来って来るの?」

「!・・・シンジ」
「僕の微かな記憶に母さんがそう言いながらエヴァに乗った事が残っている」
「・・・そうか」

「今、思えば、エヴァが動く事で明るい未来を僕に見せようとしたなら、エヴァが動いている今は、母さんに取って明るい未来なのかな?」

「・・・今はエヴァに乗っていればいい」
そう言ってゲンドウは黙った。
シンジもそこから話さなかった。

「・・・時間だ、先に帰る」
そう言いって振りかえると、降りてきたネルフの飛行艇に乗り込んで行った。


シンジは自室でチェロを弾きながら物思いに耽っていた。

(父さんに怪しまれたかな?・・・)
(何か知ってると話した訳じゃないし、3歳ぐらいの事が記憶にあってもおかしくはないよな・・・)
(かけがえの無い物か・・・)
(結局残っているのってエヴァだけじゃないか・・・)
(父さんは一体何がしたいんだ・・・)
(母さんに会ってもそれは一瞬なのに・・・)
(永遠になるとでも思っているのだろうか?・・・)
(それで利用されている人達は数知れない・・・)
(だからと言って、仮に僕が計画を潰せたとしても、それが本当に正しいのか僕には解らない・・・)

(僕は嫌だったけど、他の人はあの紅い海が幸せだったのかも知れない・・・)
(だって誰も戻って来なかったもの・・・)
(何より父さんがそんな事を考えなければ、僕は綾波に逢う事すら出来なかった・・・)
(母さんは僕に何をさせたかったのだろう・・・)
(そうだ、母さんが聞いた時、僕は綾波のために生きると言った・・・)
(僕も結局父さんと同じか・・・)
(人類の滅亡と綾波なら綾波を取ってしまう・・・)

そう考えていると、玄関のチャイムが鳴った。

「綾波・・・」
そこにはレイが立っていた。
普段はレイはNERVのシンジの部屋に尋ねて来る事はない。
NERVに来ている時はシンジが送って帰るためだ。

「実験は終わったの?」
コクンと頷くレイ。

「ま、まぁ入れば?」
再びコクンと頷き中に入った。

「・・・これは何?」
レイはシンジのチェロを指して聞いた。

「あぁ、子供の頃少し齧っててね、チェロだよ」
「・・・チェロ?」
「うん、何故か母さんの命日には弾くようになっちゃって・・・習慣かな」
「・・・そう」

「聴いてみる?」
「・・・いいの?」
そして、返事はせずニッコリ笑ってシンジは弾き出した。
レイは眼を閉じて聴いている。

やがて、弾き終わり、シンジが口を開いた。
「まぁこんな物だよ、長くやってるわりに、滅多にやらないから上手くならなくって・・・」
シンジは照れ隠しに言い訳をした。

「・・・暖かい感じがした」
「そう?ありがとう」
そう言ってシンジは微笑んだ。

「送って行くよ、食事は?」
「・・・司令と・・・食べた」
「そう、解った」
レイはどこか済まなさそうに言ったがシンジは気にした様子はなかった。


シンジとレイは手を繋ぎ、いつもの様にレイのマンションに向かっていた。

「今日、父さんと話したんだ」
レイは黙って聞いている。

「父さんに僕の知っている事は話せなかったけど、なんとなく父さんの気持ちが解ったんだ」
「・・・気持ち?」

「うん、父さんは全てを犠牲にして、あらゆる物を利用して母さんに会う事だけを望んでいる」
「・・・・・」

「だけどね、きっと僕も全人類の滅亡と綾波のどっちかを選ばなければいけないとしたら、きっと綾波を選ぶと思うんだ」
「(ハッ)」
レイの眼が見開いた。

「僕は、きっと誰かが綾波を殺したら、そいつに復讐を誓うと思うし、綾波が何か計画したとしたら例えそれが人類滅亡を行うものでも協力すると思うんだ」
レイにはそれが誰を指しているのか解った。

「だから、僕は誰も止める事ができない、流れに身を任すしかできないんだ」
「・・・・・」

「僕って最低だね」
レイはシンジの手を握る力を強めた。

「・・・碇君は優しいわ」
レイは何か言わなければいけないと思い紡いだ言葉だった。

「ありがとう・・・」
そのままシンジとレイは黙ったまま、レイのマンションに辿り着いた。

「それじゃ、綾波、また明日」
シンジがそう言った時、レイはシンジに抱きついた。
いつもより強く。
そしてシンジの唇を求めた。
いつもより強く、長く、そして慈しむように。

長い抱擁と口吻の後、レイはシンジを部屋の中へいざなった。
それが何を意味するか、鈍いシンジにも解った。


レイはシャワーを浴びている。
シンジは久しぶりに右手を開いたり閉じたりしていた。

シャワーから出てきたレイは一糸纏わぬ姿だった。
抱きつきシンジの唇に吸い付くレイ。

シンジも抗わなかった。
レイを抱きしめ、ベッドに横たわらせる。

レイの顔、耳から首筋へとキスを移して行き、その間に自分のシャツを脱ぐ。
紅潮し、シンジに身を任せるレイ。

「ぁっ」
時々小さな喘ぎが漏れる。

シンジは右手でレイの左の乳房を優しく揉みながら、右の乳首を舌で転がす。
シンジの頭を手で押さえるレイ。

いつの間にかズボンとトランクスをも脱ぎ去り、左手はレイの頭を撫でている。
唇はレイの胸やお腹にキスの洗礼を浴びせており、右手は太腿を撫でている。
シンジの右手がレイの内腿を撫で、股間に差し掛かる。

「くぅっ」
小さな喘ぎをもらし、若干、仰け反るレイ。

シンジはレイの股間に顔を埋め、キスの洗礼を浴びせる。

「ぅぅっ」
シンジの頭を掴み、小さな喘ぎ声を出しながら顔を左右に激しく振るレイ。

そしてシンジの顔が、レイの顔の所まで戻って来た。
レイの股の間に体を入れたシンジ。

「つっ!」
レイが小さく呻く。
ギシギシと等間隔に軋むベッド。
その間隔が早くなり、シンジの呻き声と共に止まった。

暫く放心する二人。

「ありがとう、綾波」
シンジが一言、呟いた。

レイはもう一度シンジを強く抱きしめた。

(母さんの命日に初体験か・・・一生忘れないな)

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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。