第拾参話
裸の付き合い


事件はその日起こった。
今日も、シンジはレイの家で、晩御飯を準備中、レイはシャワーを浴びていた。
そして、レイが裸で出てくる。

「あ、綾波!どうしたの?」
「・・・お湯が出ない」
「と、兎に角、タオルで拭いて、なんか着て」
コクンと頷くレイ。

震えているレイを見てどうしようかと悩むシンジ。
取り合えず温かい物を食べれば、ましになるだろうと、ご飯を先に済ます事にした。

「綾波、温かい物を食べればましになると思うから、取り合えず食べよう」
コクンと頷くレイ。
かなり寒いらしい。

食べている間にシンジは閃いた。

そして、食事が終わると着替えとタオルを持たせて、外へ出かける事にした。

「銭湯って言ってね、NERVにもある大浴場みたいなものさ」
「・・・入った事ないわ」
レイはまだ震えている。

「浅間山で温泉に入ったでしょ?温泉じゃないけど、あんな感じで屋内に大きなお風呂があるんだよ」
「・・・解ったわ」

そして目指す銭湯についた。

「あんまり時間が空いちゃうと湯冷めするから出る時は、合図して一緒にでようか」
「・・・どうすればいいの?」
「いや、僕がそろそろ出るって叫ぶから、大丈夫だよ」
「・・・解ったわ」

そしてレイの銭湯、初体験となった。
大きな風呂は気持ちいい、シンジはNERVで時々大浴場を使用していた。

街に銭湯がなければNERVに行くしかないかとも思っていたが、あるもんである。

そしてたっぷり、暖まった頃、シンジは声を掛けた。
「綾波い!そろそろ出るよ!」
「・・・了解」

(ここで了解はないんじゃない?・・・)

シンジは若干冷や汗を流した。

外で待っているとレイが出てきた。
レイにしては長く浸かっていたらしい、かなり顔が紅い。

「暖まった?」
「・・・えぇ」
「のぼせちゃった?」
「・・・そうかもしれない」
なんとなく、浴衣を着せたいなぁと思うシンジだった。

「昔は家にお風呂が付いている家なんて少なくて、皆、銭湯に通ってたらしいよ。それで、そう言うのを『裸の付き合い』って言ってたんだって」
「・・・そう」

「湯沸かし器は、明日NERVの生活課にでも言えば、すぐ直してくれると思うよ」
「・・・解ったわ」
「直らない様なら、ミサトさんの家で入れてもらってもいいし、NERVで入ってもいいし」
「・・・そうね」
そしてレイを家まで送って行き、いつもの儀式の後、シンジはNERVへ戻った。


今日はオートパイロットの実験と言うことだ。

「えぇ〜、また脱ぐのぉ?」
アスカが騒いでいる。

『ここから先は超クリーンルームですからね。シャワーを浴びて下着を換えるだけでは済まないのよ』
リツコは冷静に答える。

「なんでオートパイロットの実験で、こんなことしなきゃいけないのよぉ〜〜〜!」
『時間はただ流れているだけじゃないわ。EVAのテクノロジーも進歩しているのよ。新しいデータは常に必要なの』

「ほら、お望みの姿になったわよ、17回も垢を落とされてね」
『では3人共この部屋を抜けて、その姿のままエントリープラグに入って入ってちょうだい』
「えーーーー!」
アスカが悲鳴を上げた。

『大丈夫、映像モニターは切ってあるわ。プライバシーは保護してあるから』
「そう言う問題じゃ無いでしょ!気持ちの問題よ!」

『このテストは、プラグスーツの補助無しに、直接肉体からハーモニクスを行うのが趣旨なのよ』

『アスカ、命令よ』
「もーー、絶対見ないでよ!」
『判ってるわよ』

アスカとリツコが遣り合っている一方でシンジも考えていた。

(しかし、十四歳にもなれば裸見られると嫌だとか、NERVの人って思わないのかな・・・)
(綾波は例外としても・・・)
(もしかして綾波をベースに考えている?・・・)
(それか実験動物とでも思っているのかなぁ・・・)
(なんかむかついて来た・・・)
(たまには、一言、言っておくか・・・)

「これって、僕達は実験動物扱いですよね」
『どう言う事かしら?』
アスカを黙らせたと思ったらシンジが反論を始めたのでリツコは苛立って来た。

「十四歳にもなれば、異性と裸で居る事は恥ずかしいに決まってるじゃないですか、それをさも当たり前のように強制して、僕達の人権なんて無視って事ですよね?」
『だからモニタは切ってあるわ』
「貴方達も裸でここに並んだらどうです?」
普段、従順なシンジが怒っているので皆が黙ってしまった。
マヤなどは
(あ〜シンジ君怒らしちゃったぁあの美味しい料理、もう食べさせてもらえないかも)
なんて場違いな事を考えていたのだが、他のオペレータ二人も実は似た様な物だった。

『悪かったわ、じゃぁシンジ君だけ先に移動して頂戴、シミュレーションプラグに入ったのを確認したらアスカとレイに移動して貰うわ』
リツコが何とか妥協案を出した。

「はい」
シンジもそれに従った。

「馬鹿シンジも言う時は言うのね・・・」
アスカが珍しく感心していた。


『各パイロット、エントリー準備完了しました』
『テストスタート』
『テストスタートします。オートパイロット記憶開始。シミュレーションプラグを挿入』
『システムを模擬体と接続します』
『シミュレーションプラグ、MAGIの制御下に入ります』
『気分はどう?』

「・・・何か違うわ」
「感覚がおかしいのよ。右腕だけはっきりして、後はぼやけた感じ」

(綾波、派手に悲鳴あげてね・・・)

シンジはレイに前もって、「異常を感じたら派手に悲鳴を上げて」と頼んでいたのだ。

『レイ、右手を動かすイメージを描いてみて』
「・・・はい」
模擬体の右手が少し動いた。

『問題は無いようね。MAGIを通常に戻して』
リツコは試験の続行を告げた。

『また水漏れ?』
『いえ、侵食だそうです。この上の蛋白壁です。今のところテストに支障はありませんが・・・』
『では続けて。このテストはおいそれとは中止にするわけにはいかないわ。碇司令もうるさいし・・・』

『了解。シンクロ位置正常』
『シミュレーションプラグを模擬体経由でエヴァ本体と接続します』
『エヴァ零号機、コンタクト確認』
『ATフィールド、出力2ヨクトで発生します』
直後に非常警報が鳴り響いた。

シンジは緊張した。
『どうしたの!』
『シグマユニット、Aフロアーに汚染警報発令』
『第八十七蛋白壁が劣化、発熱しています。第六パイプにも異常発生』
『蛋白壁の侵食部が増殖しています。爆発的スピードです』
『実験中止!第六パイプを緊急閉鎖!』

「きゃぁ〜〜〜〜っ!!」
その時、レイの悲鳴が響いた。

『浸食部、さらに拡大!模擬体の下垂システムを、侵しています!』
『プラグの緊急射出!急いで!』

そしてシンジ達は地底湖に打ち出された。


シンジはレイのプラグに回線を開いた。

「大丈夫だった?」
「・・・えぇ」
「そう、よかった」
シンジは安堵の息を漏らした。

その時、アスカから回線が開かれた。
「もー、裸じゃどこにも出れないじゃないの!なんで誰も来ないのよ!」

「待つしかないよ」
「何呑気な事言ってるのよ!」

『R警報発令、R警報発令。ネルフ本部内部に緊急事態が発生しました。D級勤務者は、全員退避して下さい』

「どうなってるのよっ!もぅ〜〜〜何にも解んないじゃない!」
すると、シンジのプラグが動いた。

(えっ?こんな記憶ないよ・・・)

とか考えていると、ハッチが開かれレイが入って来た。

「あ、綾波ぃ・・・」
「・・・裸のお付き合い」

(違う、それは違う・・・こ、こっちもR警報だ・・・)

シンジは慌てていた。

またアスカが回線を繋げて来た。
裸なので画像は止めているおかげでレイが居る事は、ばれなかった。

「ちょっとぉ、やばいんじゃないの〜っ!」
アスカが騒いでいるが裸なので出ようとはしていない。

「僕達が必要なら迎えに来るよ、僕達は待ってるしかないよ」
「それはそうなんだけどぉ・・・」

回線が切れたのを確認してシンジはレイに向き合った。
が、レイが裸だったので、顔を逸らした。
「あ、綾波・・・どうしたの?」
「・・・後どれくらいこのままなの?」
「確か2時間ぐらいだったと思ったけど・・・」
「・・・そう」
そう言うとレイはシンジの腕に掴まった。

「あ、綾波ぃ・・・」
「・・・一人でプラグに居るのは退屈だわ」

「そ、それはそうだけど・・・」
シンジの頭の中ではR警報全開だった。

(うわぁ理性が・・・理性がぁ・・・)

シンジが葛藤している中、レイはシンジの手を自分の背中に回し、シンジ自身に抱きついた。

「あ、綾波?」
「・・・暖かい」
シンジはレイの背中に回った手に力がこもった。
「あっ」
いつもの溜めのないレイの声。

(バルタザール乗っ取られました、メルキオール乗っ取られました・・・)

シンジの自律自爆は近いらしい。

(カスパー頑張るんだ・・・)

『人工知能により、自律自爆が決議されました』
『自爆装置稼働は、三者一致の後、02秒で行われます。自爆範囲は、ジオイド深度−280、−140、0フロアです』
『特例582発動下の為、人工知能以外によりキャンセルは出来ません』

「いやぁ〜〜っ!シンジィ、なんとかしなさいよっ!」
「なんとかって言われても・・・」
「もぅ〜〜っ!役に立たないわねっ!」
アスカは騒いで平静を保っているようだ。

(僕のカスパーもやばいんだよぉ・・・)

レイは足まで絡めていた。

無言で耐えるシンジ。
実は既にレイは寝ている。
しかし、LCLで満たされているため寝息までは聞こえてこないのだった。

とは言ってもシンジも男の子である。
ちらちらとレイの方に視線をやって、時々胸や太腿等を確認している。

そうこうしているうちにレイが寝ている事に気が付いた。

(流石、LCLの中でこんな安らかに寝れるとは・・・)

流石に寝ている少女に対してはシンジも穏やかな気持ちになってしまう。

(これって小さい子供が親の布団に入り込むようなもんかな?・・・)

等と考えてしまっていた。
しかし、今度は寝ていると解って、まじまじとレイを見るシンジだった。

(綾波の胸ってピンクだ・・・)
(綾波の体ってシミとか黒子って全くないよな・・・)
(体毛も薄いし・・・)
(はぁ・・・すべすべで綺麗だなぁ・・・)
(うっまずい・・・)
(膨張しちゃ駄目だ・・・膨張しちゃ駄目だ・・・膨張しちゃ駄目だ・・・)
(あぁR警報が解除されないぃ・・・)

『人工知能により、自律自爆が解除されました』

「ふぅ・・・なんとかなったみたいね」
アスカも漸く安心できたようだ。

「そうだね」
「でもファーストってこう言う時も、静かねぇ」
「そ、そうだね、寝てるんじゃないかな?」

「ちょっとファースト!ファースト!」

(お願い、アスカ、起こさないで・・・)

「本当に寝ているみたいね」
そう言って、アスカは回線を切った。

「ふぅ・・・」
取り合えずばれなかった事に安堵の息を漏らすシンジだった。
しかし、シンジの警報はまだまだ解除されない。
結局、シンジ達が救出されたのは、それから1時間以上経ってからの事だった。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。