第拾壱話
料理と哲学


(進路相談・・・か・・・)
(ま、まずい・・・)

クラスの担任がホームルームで
「近いうちに進路相談の面接があるので、その事を親に伝えておくように」
と話していた。

(どうしよう、綾波は良いとして、アスカが・・・)

そしてシンジが考えた作戦は・・・
ホームルームが終わった時にシンジはアスカとレイを呼び止めて言った。

「今日、ミサトさんの家でご飯作ろうと思うんだけど、メニューが決まらなくてね。だからエヴァまで競争して一番の人のリクエストに応えようと思うんだけど・・・」

ここでNERVと言わなかったのは、NERV内でも急ぐためだ。

「なぁんで、あたしがそんな事しなくちゃいけないのよっ!」
「・・・わかったわ」
レイはそう言うと走って教室を出た。

「ま、待ちなさいよっ!ファーストッ!抜け駆けはずるいわよっ!」
アスカもレイを追い駆ける形で走って行った。

(綾波、ありがとう・・・)

レイにはホームルーム中に話しをしておいてアスカを挑発して貰ったのだ。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・アスカ早いなぁ・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・そうね」

アスカはシンジの料理は美味しいのだが、レイが何時も一緒のためどうしても野菜中心の料理に不満があった。
これ幸いにとハンバーグにビーフシチューにと注文してやろうと全力を出していたのだった。


シンジの目論見は成功し、更衣室で着替えている時に停電になった。
そして緊急時と言う事で3人は発令所で待機していた。

「ここに一番に着いたのは、あたしだから今日のメニューの権利はあたしね」
アスカは一番に発令所に着いたのは自分だからとメニューの権利を主張している。

シンジはそれで良いと思っていたのだが、発令所に連れて来たのは自分だとレイも主張していた。

「・・・貴方はケージに向かおうとしていたわ、緊急時は発令所と教えたのは私」

二人は睨み合っている。

「そんな喧嘩しなくても、二人の食べたい物を作るよ」
そんな二人にシンジは両方の食べたい物を作るよと場を収めようとしたのだが、二人の鋭い視線と

「「碇君(シンジ)は黙ってて!」」

という言葉に沈黙を余儀なくされた。

「は、はい・・・」

(作るのは僕なのになんで・・・)

シンジは理不尽だと思っていた。

『き、きゃ〜っ!!』
けたたましい車のブレーキ音と共に、女性の悲鳴が車のスピーカーから発令所に流れる。
『航空自衛隊の情報では、使徒が襲来しているそうです!』
続いてスピーカーから流れてきたのは、日向マコトのものだった。

「エヴァンゲリオン各機の手動による発進準備を急げ!チルドレンは搭乗準備!私も、行こう」
何故か作戦課長が発令所に来ないのでゲンドウが指揮を執った。


3人ともエヴァに乗り込み準備が完了した。

『各機発進!自力で拘束具除去!』
ゲンドウの命令が下った。

『油圧ロックボルト手動で開け!!』
ネルフ職員が油圧ロックボルトのパイプを切った。

「「「くうううっ!」」」
各機は自力で拘束具を除去した。

『ディーゼルエンジン始動、エヴァ射出準備』
十数機のディーゼルエンジンが始動し、エヴァがゆっくりと射出口に移動した。

『発進!!』
エヴァが上に上がり始めた。

エヴァに乗り込んだ3人は、横穴を這いながら地上に向かう竪穴に向かって動き出した。

「も〜、恰好悪い〜!」
「じゃあ、引き返す?」
「そんな事するわけ無いでしょ!!」
アスカはシンジの言葉を間髪入れずに否定した。

しばらく行くと、ようやく竪穴が見えてくる。

「待って!」

竪穴に出ようとしたアスカをシンジは止めた。

「なによ、シンジ」

「何か落ちてくる」
シンジは初号機の手を竪穴に出した。

ポタッ・・・

「っつぅ!!強酸性!上にいるね、作戦を考えよう」

「じゃぁ先行する人が使徒のATフィールドの中和、後ろの人がパレットガンで攻撃、一番下の人が落ちてくる人を受け止める。これでいい?」
アスカが急遽作戦を立てた。

「じゃあ僕が先行するよ」
「あたしが先行に決まってるでしょ!」

「危ないよ?」
「この間の借りも返したいから、あたしが行くわ!」
アスカが宣言する。

「じゃぁ綾波、悪いけど皆を受け止めてくれる?」
「・・・了解」

アスカは竪穴をよじ登り始め、シンジ達は、それに続いた。

ポタポタ・・・

竪穴の上部から液体が多量に落ちてきた。

アスカは弐号機を穴の下を向くようにすると両手両足を目一杯に広げて溶解液が下に落ちないようにし、ATフィールドを中和した。

「シンジ、お願い!」
「準備はいいよ。どいて!」

弐号機が身を躱すと同時にシンジはパレットガンを上に向けて発射し使徒を殲滅した。

ガシンッ!
同時に落ちてくる弐号機と初号機を零号機が受け止める。

作戦終了後、エヴァから降りた2人は丘の上の野原に寝転んで星空を見上げていた。

「電気・・・人口の光が無いと星がこんなに綺麗だなんて皮肉なもんだね・・・」
シンジが言う。
「でも、明かりが無いと人が住んでる感じがしないわ」
アスカが応える。

その時、停電が復旧したのか街に一斉に明かりが灯りだした。

「ほら、こっちの方が落ち着くもの」
「・・・人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきた」
レイが言った。

「哲学〜っ!」

「そして火を使い料理をするっと」
「よっ料理人!」

3人は笑っていた。
シンジはこの瞬間が永遠に続けば良いと思っていた。


そしてその夜は大宴会となってしまった。

発令所でメニューの事をアスカとレイが言い合っていたのを聞いていたマヤが、たまたま帰り道で会ったアスカに

「いいなぁアスカちゃんは、シンジ君の料理を何時も食べれて」

と言ったところ

「じゃぁこれから来ればいいじゃない」

とアスカが言ったため、その話がミサトやリツコに伝わり、結局オペレータ3人も加わって何故か加持も居て、総勢9人となってしまったのだ。

「じゃぁ取り合えず、さっと出来る中華物を作って、後はアスカのリクエストのハンバーグとか綾波リクエストのグラタンとか作りますので」

「いいよいいよ、こっちは酒飲んで待ってるから」
そう言うとシゲルは持ち込んだ銘酒を開けマコトと二人で飲み始めた。

そしてシンジがさっと作って出したチンジャオロースやエビチリを摘みに大人達は飲んでいるのだった。

「ほ〜んと美味しいですぅ、こんな早くこんな美味しくできるなんて凄いですぅ」
マヤは感激して食べている。

ハンバーグとグラタンを仕込んでいると、食べ物が無くなったらしく
「次まだぁ〜」
とミサトが騒いでいる。
仕込んでいる間に、レイに手伝って貰って焼いていた焼き魚を出した。
これは食べるのに時間が掛かるだろうとシンジが踏んだのである。

そして、摘みの材料が乏しくなってきたので、アスカに適当に買って来てと頼んだ。
アスカは加持を伴って買出しに行った。

(ふぅ・・・なんでこんな事になっちゃったんだろう?・・・)

シンジは汗だくで料理をしている。
レイは心持ち嬉しそうにシンジを手伝っていた。

アスカが帰って来たので、ハンバーグを出した。

「やぁっと出来たの?!待ってたのよぉ!」
と言ってアスカは食べ始めた。

宴会中の皆も
「これは美味い!」
とあっと言う間に一人一つずつハンバーグを取って行った。

シンジは苦笑しながら、アスカの買って来た材料を見ると肉しか入ってない。

(アスカァどうしろって言うんだよぉ・・・)

シンジはさめざめと涙を流し、レイに野菜を買って来てくれるように頼んだ。

レイが帰って来ると、レイのために作ったグラタンをレイに渡した。
レイは皆の所には行かず、シンジの横でそれを幸せそうに食べていた。

そして、レイが買って来た野菜でアスパラベーコンや豚キムチ等創作料理を作り出した。
シンジは大きな誤算をしていたのだった。

まず人数が9人になった事で普段の3倍ぐらい作れば良いと思っていたのだ。
しかし、中学生3人しかも二人は女の子の場合と30前後の大人の男3人とは根本的に食べる量が違うのだ。

更に酒が入り、食事時間と言う概念が無くなり止め処なく食べ続ける大人達。
しかも美味しいからどんどん食が進むのだ。

普段の5倍でも足らなかった。

まさしくシンジは料理の鉄人と化して作り続けたのであった。

そんなシンジをレイは甲斐々々しく手伝っていたのだが、今日は加持も居たのでアスカが突っ込んで来る事はなかった。

漸く落ち着いて、後片付けも粗終わり、ゴミも纏めたところで皆のところにレイと行くと皆、テーブルに突っ伏して寝ていた。
何故かアスカまでソファーで寝ている。

「ふぅ」っとシンジは溜息を付き言った。
「皆さんがこれくらいのお酒で潰れない事は知ってます。何を企んで居るんですか?」

「いやぁバレバレか、流石シンジ君だな」
加持が簡単に降参した。

「あぁぁ葛城さん、全然駄目じゃないですか」
マコトがミサトに言う。

「ゴミン、上手く行くと思ったんだけどなぁ」
「ミサトって本当に作戦課長?」
アスカが突っ込んだ。

「大体、ミサトさん普段の半分ぐらいしか飲んでないじゃないですか」
シンジも突っ込む。

「なんだ葛城のせいか、この作戦失敗は」
加持が言う。

「葛城さん何時も一体どれくらい飲んでるんですか?」
マヤが眼を丸くしていた。

「てへへ・・・」
「・・・無様ね」

「それじゃ、僕はこれで帰りますね、これ作っておきましたから皆さんはごゆっくり」
そう言うとシンジは最後の料理をテーブルの上に置いた。

「ごちそうさまシンジ君、本当美味しかったわ」
「気をつけて帰ってね」
「また、呼んでくれよ」
「シンちゃんお休みぃ、ちゃんとレイを送って行ってね」
皆口々に挨拶をした。

シンジが部屋を出ると当然の様にレイも付いて来た。

「送るよ、綾波」
コクンと頷くレイ。

「今日は大変な事になっちゃったね?」
「・・・そうね」

「綾波は楽しかった?」
「・・・楽しい?そう私は楽しかったのね」
シンジはニッコリと微笑んだ。

シンジは思い切ってレイと手を繋いだ。
レイは一瞬驚いた顔をしたが、俯いて歩き出した。

シンジは心の中で大きくガッツポーズをした。

(漸くここまで辿り付けた・・・)

その時、シンジはそう思っていた。

そしてレイのマンションの入り口。
名残惜しそうに手を離すレイにシンジは我慢できなかった。

「綾波っ!」

シンジはレイを抱きしめた。
一瞬硬直するレイ。
少しするとレイがシンジの背中に手を回して来た。

「・・・碇君・・・暖かい」
「綾波・・・」

暫く抱き合ってシンジが我に返った。

「ご、ごめん、急に抱きついたりして」
「・・・問題ないわ」

「じゃ、じゃぁまた明日」
「・・・えぇまた明日」

そしてシンジは帰って行った。

その夜シンジはベッドの中でにやけながら悶えていた。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。