第拾話
温泉に行こう!
ミサトの家を出た翌日、シンジとミサトは言い合っていた。
「だから、そんな事気にしないでシンちゃんは戻ってくればいいのよ」
「でも、ミサトさん?これからチルドレンが増えたらどうするんですか?」
「えっ?」
ミサトはシンジの質問の意図が解らなかった。
「新しいチルドレンが来たら、またミサトさんが引き取るんですか?」
「それはちょっち無理ねぇ」
「そうすると、僕は新しいチルドレンに恨まれちゃいますよ」
「なんで恨まれるのよ!」
「若くて綺麗な作戦課長と、あのアスカと一緒に住んでるんですよ?次のチルドレンが男だったら確実に僕は殺されますね」
「そんな、若くて綺麗だなんて・・・」
ミサトはお世辞に弱いようだ。
「うーん、でもシンジ君、狙われているのよねぇ・・・」
「はぁ?」
「前にリツコが来たでしょ?それでシンジ君の料理が美味しいってのが評判になっててね」
「僕は家政婦じゃありませんよ?」
「それは解ってるけど、美味しいんだもん」
ミサトはクネクネしている。
「たまにはミサトさんの所にも作りに行きますよ」
「本当?!じゃぁ我慢するか」
なんか論点がずれている様な気がするが、なんとかシンジはミサトの家を出る事に成功した。
しかし、シンジは3日に空けずミサトの家に通う羽目になったのだった。
2日空けるとミサトの家はゴミだらけになるのだ。
かくしてシンジは、レイの家で食事を作る日とミサトの家で食事を作る日が3:1ぐらいの割合の生活となった。
そしてミサトの家に行く時はレイも伴って行く。
最初の頃こそアスカが「なんでファーストまで来るのよ!」と騒いでいたが、シンジが「だって一人で掃除までするの大変だし」と言ったので、アスカは渋々了承する羽目になった。
そして、今日はミサト宅で食事をしている日だった。
「えーーーーっ!!修学旅行に行っちゃダメーー?!」
明後日からの沖縄への修学旅行に備えて準備万端、そのために新調した水着もバッチリ入れた荷物を前にして、アスカはミサトの言葉に絶叫した。
それに対して、ミサトは「そう」とあっさり言うと、お茶をすする。
「どうして?!」
「戦闘待機だもの」
「そんなの聞いてないわよ!」
「今言ったわ」
「誰が決めたのよ!」
どうしても修学旅行に行きたいアスカは食い下がる。
「作戦担当のあたしが決めたの」
ミサトの方は、あくまでも冷静に再びお茶をすすった。
「ちょっと!あんた達もなんとか言いなさいよ!」
我関せずとしていたシンジとレイに援軍を求めるアスカ。
「・・・一週間前に赤木博士に聞いていたわ」
レイが言うとミサトが「やっぱ〜」と言う顔をした。
「ちょっとシンジ!あんたも聞いていたの?!」
「いや、僕は聞いてなかったけど、まぁそうかなとは思ってたから」
「何諦めてんのよ!飼い慣らされた男なんて最低ぇ〜っ!」
「ま、アスカ、丁度いい機会じゃない」
そう言ってミサトはアスカの成績が入ったフロッピーを取り出した。
「この際、遅れてる勉強を取り戻しなさい」
「ええぇ〜っ!?アタシだけぇ〜っ!?日本の減点式の試験には何の興味もないわっ!」
「だからこの機会に、アスカには漢字の書き取りをして貰います」
「んもう、さいってぇ〜っ!!」
「気持ちは分かるけど、こればっかりは仕方が無いわ。あなた達が修学旅行に行っている間に使徒の攻撃があるかもしれないでしょ?」
「いつもいつも待機!待機!待機!待機!!いつ来るかわかんない敵を相手に守ることばっかし!たまには敵の居場所を突き止めて攻めに行ったらどうなの!」
「それが出来ればやってるわよ・・・」
思わずミサトは苦笑をもらした。
そしてプールである。
アスカは修学旅行に行かない事の見返りに、このプールを3人だけで独占的に使わせてもらえるように提案して、ミサトから許可を得ていた。
シンジはアスカに熱膨張の言葉を植付けるべくノートパソコンを開いている。
そして、白い水着で水に浮かんでいるレイを見ていた。
(綾波って学校のプールじゃ端っこに座ってるだけなのに、ここだと気持ちよさそうだなぁ・・・)
(あの白い水着って自分で選んだのかなぁ・・・)
(結構透けているよな・・・)
(恥ずかしいとかはないんだろうけど・・・)
(ま、まずい、僕が熱膨張しちゃいそうだ・・・)
と視線を逸らしたところにアスカが居た。
不審そうな眼でシンジを見ているアスカ。
なんとなく、考えている事を知られた様で気まずい。
取り繕いながらも一応アスカの水着を褒め、熱膨張の単語もなんとか教える事ができた。
「見て見てシンジ!バックロールエントリー!」
バシャンと言う音を立ててアスカがプールに飛び込んだ。
「ふぅ」っと溜息をつき、レイの方に目をやるシンジ。
レイは丁度プールから上がるところだった。
身体にピッタリ張り付いた白い水着。
それはプールの水を吸って、かなり透けている。
プールから上がる際に上げられる片足。
食い込むお尻。
そしてプールから上がってこちらを向くレイ。
ゆっくりとこちらに近づいて来る。
近づいて来る。
来る。
透けた胸元がクッキリと見え、シンジは鼻血を出して倒れた。
ブリーフィングルームで使徒の説明を受けるシンジ達。
シンジは鼻にティッシュを詰めている。
皆、笑わないようにしているが、シンジの方を見ると笑ってしまう。
アスカは笑いが止まらないようだ。
そして一人だけ無表情なレイが言った。
「・・・私は?」
「レイは本部で待機よ、私達が居ない間に使徒が攻めてきたら大変だから」
「・・・了解」
シンジはここで考えていた作戦を遂行した。
「ミサトさん、その時って僕らはどうするんですか?」
「へ?」
「その使徒が本部に攻めて来た時です」
「そりゃ勿論、大急ぎで戻ってくるわよ」
「だったら1機だけ残すより、全機で行った方が安全じゃないですか?」
「うーーん」
ミサトは考えていた。
確かに戦力の逐次投入はよろしくない。
(おねがいミサトさん、綾波も温泉に連れて行って・・・)
シンジは祈った。
「そうね、使徒が現れたって連絡が入ってから戻っても間に合うでしょうし、全機出動します」
シンジは心の中でガッツポーズを取った。
そして、耐熱仕様のプラグスーツを着てアスカが騒いだり、それを見てレイが代わると言ってアスカが怒ったりしたが、出発となった。
「格好悪いけど、我慢してね」
アスカは弐号機に呟いていた。
そして浅間山で作戦が始まった。
「見て見てシンジ、ジャイアントストロングエントリー!」
そう言いながらマグマに入っていくアスカに、シンジは溜息をついた。
『限界深度オーバー』
『アスカ、どう?』
「まだ持ちそう。さっさと終わらせてシャワー浴びたい」
(プラグスーツと言うよりサウナスーツね)
アスカは呟いた。
『近くに良い温泉があるわ。終わったら行きましょう。もう少し頑張って』
ビシッ!
耐熱装備が軋み始め足に巻いて装備していたプログナイフが脱落してマグマの底へと消えて行く。
『エヴァ弐号機、プログナイフ、焼失』
『限界深度プラス200』
『葛城さん、もうこれ以上は!今度は人が乗っているんですよ!』
『この作戦の責任者は私です。続けて下さい』
その時、誰知れず初号機は、僅かに火口に近づくように膝を進めて態勢を整えた。
いや、レイだけはしっかりその様子を見ていた。
それとほぼ同時に弐号機のアスカから通信が入った。
「居た!」
『お互い対流に流されているから、接触のチャンスは一度しかないわよ』
「わかってる」
そう答える映像のアスカは、汗だくだった。
『目標接触まであと30』
「電磁柵展開、問題無し。目標、捕獲しました」
『ナイス、アスカ!』
仮設の発令所から、ミサトを含めて一斉に安堵の溜息が漏れた。
「あなたもホントは今回の作戦、怖かったんでしょ」
「当然よ。下手に使徒に手を出せば、あれの二の舞ですからね」
「そうね。セカンドインパクト・・・二度とごめんだわ」
リツコとミサトがもう成功した気になっている。
「アスカ!気を抜かないで!」
シンジがアスカに注意を促す。
「判ってるわよ。・・・前回と同じ間違いなんてしないわよ」
シンジの言葉にアスカは思いなおして弛みそうになった気を引き締めなおす。
レイは何か起こると確信して初号機の動きに注意していた。
使徒のサナギを捕獲した弐号機は、冷却パイプに引き上げられるように浮上を開始した。
ビーーーッ!
突然、仮設の発令所内に警報音が鳴り響いた。
『まずいわ、羽化をはじめたのよ!計算より早過ぎるわ』
「アスカ!ナイフを落とすよ!受け取って!」
ほとんど間を置かずに初号機は自分のプログナイフを火口に向かって投げ入れた。
『・・・捕獲中止、キャッチャーを破棄。作戦変更、使徒殲滅を最優先!』
シンジの行動に一瞬気を取られていたミサトだったが即座に作戦変更の指示を出した。
「きゃー早くきてぇ〜、きゃ〜来ないでぇ〜!」
そこに使徒が突っ込んできた。
「くっ、バラスト放出!」
状況判断と反射神経に優れたアスカは、バラストを切り離して軽くなった分だけ浮かび上がる事で使徒との衝突を回避した。
「まずいわね、見失うなんて・・・」
使徒はマグマの対流に乗って弐号機から離れて行き視界から消えた。
「来た!」
アスカは落ちてきたナイフを装備した。
それとほぼ同時に対流で回遊してきた使徒が、正面に姿を現した。
「こんのーーーーーー!」
使徒にナイフを突き立てたのだが使徒の皮膚を貫けない。
『高温高圧、これだけの極限状態に耐えているのよ。プログナイフじゃダメだわ』
「アスカ!熱膨張!!」
「!!」
シンジの言いたい事に気がついたアスカは、冷却パイプの一本を引き千切ると使徒の口へと突っ込んだ。
「冷却液の圧力を全て3番にまわして、早く!!」
内側と外側の圧力差で使徒の皮膚が微妙に歪んだところに、再度突き立てたナイフは内部に食い込み始め、使徒はそこからボロボロと崩れ落ちるように消えていった。
「碇君!」
レイが叫んだ。
しかし、使徒が最後の足掻きのように伸ばした手が、命綱でもある冷却パイプにかかり引き千切られていて、もはや弐号機の重さを支えられず徐々に切れ目が大きくなっていく。
「せっかくやったのに・・・やだな、ここまでなの・・・」
グンッ
絶望を感じた時、急に襟首を捕まれて引き上げられるような感覚にアスカは顔を上に向けた。
そこにはマグマの熱で表面が泡立ち塗装が溶け始めながらも、片手は冷却パイプを掴み、もう片方の手で弐号機の襟のあたりを掴んでいる初号機の姿があった。
「シンジ・・・。バカ、無理しちゃって・・・」
憎まれ口を叩きながらも、アスカは微笑んでいた。
「ごめんくださーい。ネルフの関係の人、いますか」
「あ、はーい」
シンジが出てみると、クール宅急便の宅配員がダンボールを一つ抱えて玄関で待っていた。
「宅急便です。ここにサインをお願いします」
サインするシンジ。
「毎度どうも」
(全く、加持さんも生き物をなんだと思っているんだろうな・・・)
そう思いながらダンボールを開け中からペンペンを出してあげる。
「お風呂、そこを左だよ」
「クェー」と一声、ペタペタと走り去る。
シンジはペンペンと温泉に浸かっている。
「シンジくぅん居るぅ?」
「はぁいいますよぉ」
ミサトが女湯から叫んでいるので応えた。
「ボディーシャンプー投げてくれるぅ?切れちゃったのぉ」
「はぁ〜い」
ポーンと投げた後、アスカが何か言って、ミサトがアスカの身体を何かしていたようだが取り敢ずシンジは温泉に浸かる事を楽しんで居た。
温泉から出ると宴会が始まっていた。
ミサトはかなり出来上がっている。
「ほら〜シンちゃんも、こんな美女に囲まれて温泉に来れるなんて、もう一生ないわよん」
などと言っている。
アスカもレイもほんのり紅い。
(やっぱ湯上りって艶っぽいよなぁ・・・)
見惚れているシンジにアスカが絡んで来た。
「なぁにファーストばっかり見ているのよ!このあたしのプロポーションじゃ気に入らないっての!」
なんか言動がおかしい、どうやらミサトに飲まされたようだ。
浴衣なのにいつもの大股開きに腰に手をやるポーズを取っている。
着慣れていない浴衣もかなりハダケて、胸がもう見えそうだ。
(み、見えてるってアスカ・・・)
ガクッと倒れて寝てしまうアスカ。
(助かった・・・)
と思っていると今度はレイが来た。
「碇君」
いつもの溜めがない。
「は、はい・・・」
眼がとろんとしてかなり艶っぽい、シナまで作っている。
こちらも浴衣が肌蹴まくっている。
「・・・どうして零号機も出動させたの?」
上目遣いで聞く事でもないと思うがレイが尋ねた。
胸を見ないように前を向いて言うシンジ。
「綾波も温泉に連れて来たかったんだ」
「・・・それだけ?」
横座りでシンジに体重を預け、上目遣いで聞くレイ。
「そ、それだけって・・・」
シンジが答えに困っているとスースーと言う寝息が聞こえてきた。
「あぁらシンちゃんたら、両手に華ねぇん」
よく見ると左手にはシンジに凭れ掛かって寝ているレイ、右側にはシンジの膝を枕にしているアスカが寝ていた。
「はぁ〜」っと溜息を着くシンジ。
しかし、その顔は幸せそうだった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。