第九話
瞬間、心重ねた?


「Guten Morgen、シンジ!」
「・・・お、おはよう、アスカ」
目立つアスカから声を掛けられ注目を集めてしまうシンジ。
はっきり言ってシンジはこう言う視線は苦手だった。

「で、いるんでしょ?ここに」
「誰が?」

「アンタ馬鹿ぁ?ファーストに決まってるじゃない。どこにいんのよっ!」
「・・・綾波なら、そこに」
シンジは、歩道橋の降りたところのベンチに座って本を読んでいるレイを指さす。

歩道橋のエスカレーターを止めて話しているアスカ。
後ろには行列ができていた。
登校中なので、周囲の好奇の目がものすごい数になっている。
そんな事は気にもせず、レイの元へ駆け寄ると何故か段となっている所に上って仁王立ちで、腰に手をあててアスカはレイに言う。

「貴方がファーストチルドレンね、あたしセカンドチルドレンの惣流=アスカ=ラングレー!仲良くしましょ!」
とても高圧的で仲良くしようとしているとは思えない。

「・・・どうして?」
レイは読書を邪魔されたからか不機嫌そうに言う。
尤も不機嫌だと解るのは、この場にはシンジしかいないのだが。

「その方が都合が良いからよ!」

レイはアスカを一瞥すると、投げ捨てる様に言い放った。
「・・・命令があればそうするわ」
そしてシンジの方を一瞥してレイは立ち上がると歩いて行った。

「変わった娘ねぇ」
アスカは唖然としている。

シンジは、そんなレイを見て

(綾波って光りに当たると髪が蒼く輝いて、眼がルビーの様に紅くて・・・はぁ綺麗だ・・・)

と溜息をついていた。

実はレイはシンジを待っていたのだが、アスカと仲良く話して居るのを見て少し機嫌が悪かったのだった。
しかし、シンジにそんな事が解るはずも無かった。

アスカはアスカでレイばかり気にしているシンジが気に入らなかった。

そんな三角関係が築き上げられそうになっている学校生活の中、非常召集が掛かった。


『先の戦闘によって第三新東京市の迎撃システムは大きなダメージを受け、現在までの復旧率は36%。実戦における稼働率はゼロと思っていいわ』
ウィングキャリアーで運ばれているシンジ達にミサトが説明をする。

『今回は上陸直後の目標をこの水際で一気に叩く!初号機と弐号機は交互に目標に対し波状攻撃、接近戦でいくわよ』
「「「はい(!)」」」

「あ〜ぁ、日本でのデビュー戦だっていうのにどうして私一人にやらせてくれないのかしら」
アスカはエントリープラグの中でぶうたれている。

ウィングキャリーからエヴァが三機ともテイクオフし、地響きをたてて着陸した。
即座にネルフの補給部隊により専用電源にケーブルが接続される。
今回は零号機も損傷がなかったため三機で出撃となった。

「三人がかりなんて、卑怯でやだな・・・趣味じゃない」
『私たちには選ぶ余裕なんてないのよ、生き残るための手段をね』
そんなアスカをミサトは諌めた。

「・・・来る」
レイが呟いた。

「レディーファーストよ。援護してね」
そう言って、弐号機は使徒に向かって駆け出した。

(綾波だってレディーなのに・・・)

等と暢気な事を考えながら援護に回る初号機。

「・・・零号機、援護に回ります」
レイは静かに言うと、援護に回った。


初号機と零号機がパレットライフルで足を止めていると、弐号機はそのまま一気に跳躍して、ビルを踏み台に使徒の所まで一息で移動した。

「んぬあぁぁぁっ!」

弐号機はそのままスマッシュホークで使徒を両断した。

『ナイス、アスカ!』
ミサトが褒める。

「どう?戦いは常に無駄なく美しくよ!」

「気を抜かないで!アスカ!」
「あんた、なに言ってんのよ!何か文句あるって言うの!」

「綾波!左側をお願い!」
「・・・了解」

シンジは右側の使徒にパレットガンで牽制しレイは左側にパレットガンを打ち込んだ。

モニターの中の使徒は、二つに分断されたにも関わらず二体に分かれて再生していた。

「何よ、コレ〜っ!?」
『なぁ〜んて、インチキ!!』
ミサトが指揮も忘れ叫んでいる。

「このおおっ!」
すぐにアスカは体勢を立て直し再び使徒へと襲い掛かる。
シンジも間をおかずアスカが相手をしていない方の使徒へ攻撃を開始する。

「何よぉ〜っこいつら切りないわよ!」
アスカが叫んでいる。

シンジは悩んでいた。

(ここで負けるとアスカとユニゾン訓練か・・・)
(今なら綾波とも有り得るな・・・)
(でも、そうするとアスカが・・・)
(しかたない・・・)

シンジは、アスカの攻撃に合わせて使徒を攻撃するようにした。
そうすると驚異的な再生を行っていた使徒の再生が、遅延するようになってきた。

「アスカ!同じところを傷つけると再生が遅れるみたいだ」
「だから何?!」
「同時にコアを攻撃しよう」
「わかったわ、あたしが、号令を掛けるからね」
「了解」

「ドライ!・・・ツヴァイ!・・・アイン!・・・ゲーヘン!」
アスカの号令と共にコアにプログナイフを突き立てるシンジ。

作戦は見事成功し、使徒は爆発した。
爆発により飛ばされた弐号機と初号機は前回と同じ様に頭から刺さっていたが、今回は零号機により回収された。

「もぅ!あんたのせいで折角のデビュー戦が台無しだわ!」
「・・・ごめん」
やはりシンジは謝る運命にあるようだ。

そしてそんなシンジをじっと見る紅い瞳が有る事をシンジは気付いていなかった。


シンジがマンションに着くとミサトの部屋の前からシンジの部屋の前まで荷物で一杯だった。

(あれ?ユニゾン訓練はないはずなのに・・・)

シンジが考えるとアスカが出てきた。
「あら?あんたまだ居たの?今日であんたはお払い箱よ!ミサトはあたしと住むって!まぁどっちが優秀か考えれば解る事よねぇ」

(やっぱりアスカはここに住むのか・・・これは、このまま出て行った方が良いかもしれないな・・・)

「解ったよ」
シンジはそう言うとスポーツバッグに当面必要そうな物を詰め込み出て行った。

シンジはバッグを一つ持って、宛もなく彷徨っていた。

(いざとなればNERVに行けばいいけど、まだ行く気になれないな・・・)

そう思って公園のベンチに腰掛けてボーッとしていた。
夜風が頬に気持ちいい。

(NERVに住むと料理しなくても食堂に行けばいいから楽かもしれない・・・)
(綾波も僕とは別口でよくNERVに行くから逢う機会増えるかな?・・・)
(駄目か・・・どうせセントラルドグマに行ってるんだもんな・・・)

そこで電話が鳴った。
案の定ミサトからだった。

『ちょっとシンジ君?言わなかったのは悪かったけど出て行く事はないでしょ!』
「いや、でもアスカが・・・」
『アスカがなんて言ったか知らないけど、シンちゃんは私の家族なんだから、出て行く事はないのよ!』
後ろでアスカが「男女7歳にして同衾せずでしょ!」とか騒いでいるのが聞こえる。

「でもミサトさん、僕はアスカとは一緒に住めませんよ」
『なんでよ!レイとは一緒に住んでたじゃない」
また後ろで「え〜馬鹿シンジの癖に!」とか騒いでいる。

「僕はアスカが怖いんですよ、いつも怒ってるし・・・」
『シンちゃん・・・アスカは優しい娘よ?』
「解りますけど、僕には何か含むところがあるみたいだし・・・」
『同じチルドレンなんだから仲良くして貰いたいんだけど・・・』
「一緒に住まない方が仲良くできますよ」
『そんな・・・じゃぁこれからどうするつもりなの?』
「NERVに行って、寝るところがなければ更衣室ででも寝ますよ、明日にでも生活課に行けばなんとかなるでしょう」
『シンちゃん・・・』
「ミサトさんが気にする事ないですよ」
『今日のところは、解ったわ、明日また話をしましょ。風邪引かないように、早くNERVに行くのよ』
「はい、それじゃ」
そう言って電話を切った。

ふぅっと溜息をついた時に目の前に制服を着た女の子の足が見えた。
徐々に顔を上げて行くとそこに立って見詰めて居る紅い瞳。

「あ、綾波・・・何時から居たの?」
「・・・一緒に住めませんよから」
「あ、あは、聞いてたの?」
「・・・聞こえた」
「そ、そう・・・」
シンジは思いも寄らない出来事に気が動転していた。

「・・・行くところが無いの?」
「うん、まぁNERVに行けば寝るところぐらいなんとかなると思うから・・・」
「・・・そう」
そう言ったレイは立ち去ろうともせず立ったままじっとシンジを見つめて居た。

「あ、綾波、座ったら?」
コクンと頷き、シンジの隣にレイは腰掛けた。

(何か話さなきゃ・・・いや、何かじゃ駄目だ、また失敗する・・・)
(え〜っと・・・)

とシンジの思考が止まっているところにレイが話し出した。

「・・・使徒が分裂する事を知っていたのね」
「あっ・・・うん、まぁね」
「・・・同じ倒し方だったの?」
「前ってことだよね?いや、前は一回負けてね、アスカとユニゾンの訓練をする事になったんだ」
「・・・ユニゾン?」
「うん、ユニゾンによる二点同時加重攻撃、今回は零号機も健在だから綾波とやる事になったかも知れないけどね」
「・・・今回は?」
「うん、前はヤシマ作戦の時、綾波が盾で盾が持たなくて、零号機がかなり溶けて今回の出撃に修理は間に合ってなかったんだ」
「・・・そう」

(これでいい、綾波が聞いて来る事に答えればいいんだ・・・)

シンジは穏やかな会話が心地良かった。

「・・・前は一緒に住んだの?」
「ん?アスカと?」
コクンとレイは頷いた。

「そうだよ、それでアスカはいつも僕に怒っていてね・・・」
「・・・だから怖いの?」
「いや、アスカはプライドが高くて自分を出せないんだ、本当は自分を認めて欲しい、見て欲しいだけなんだ、だけどそれを高飛車な態度で誤魔化しているんだ」
「・・・それが怖いの?」
「僕は、どういう態度を取っていいのか解らないんだよ、僕が慰めたり、庇ったりするとアスカは『あんたなんかに』って怒るし、構わないと当然怒るし・・・」
「・・・何をしても怒るのね」
シンジは苦笑した。

「・・・私とも一緒に住んだの?」
「前って事だよね?」
コクンとレイは頷いた。

「いや、あれは今回、僕が強引に進めたんだ」
「・・・命令したのは葛城一尉」
「ミサトさんを連れて行けば、そうなるのは解っていたからね」
「・・・そう」

「・・・変えたのはそれだけ?」
「うんと、じゃぁ今回来て変えた事を順を追って言うね?

僕が呼び出された時、ケージに綾波が連れてこられたけど、今回はその前にエヴァ乗る事を承諾した。
でも結局、綾波は連れてこられてしまったけどね。
第参使徒は初号機の暴走で倒したけど、暴走させずに倒した。
綾波のお見舞いに頻繁に行くようにした。
綾波はミサトさんの家で住むようになった。
第四使徒戦の前にトウジに殴られたけど、今回は逃げ回った。
第四使徒戦でトウジとケンスケがシェルターを抜け出して、そこに初号機が飛んで行ったためエントリープラグに二人を入れ使徒を倒したけど、今回は先に使徒を倒した。
その際、ミサトさんの撤退命令を無視したため独房に3日入れられたけど、今回それはなかった。
第伍使徒戦で僕が砲手、綾波が盾だったけど、逆にして貰った。
JAは押さえて止めていたけど、今回はATフィールドで足と手を切った。
第六使徒は・・・何もしてないな。
第七使徒は、一度負けてユニゾンで倒したけど、今回は勝った。
ユニゾン訓練のためアスカと一緒に住む事になったけど、今回は訓練もないので逃げ出して来た。

今のところこれぐらいだよ」

レイは黙っていた。

(何考えているのかな・・・)

そこでシンジはレイが食材らしき中身の買い物袋を下げてている事に気が付いた。

「綾波、料理始めたの?」
コクンと頷くレイ。

「・・・でも碇君みたいに美味しくできない」
「そりゃ、最初からは無理だよ、僕だって最初は食べられる物じゃなかったからね」
そう言ってシンジは笑った。

「よかったら、これから綾波の家で作ろうか?」
「・・・いいの?」
「僕も食べさせて貰うけどね」
そう言ってシンジはニッコリ微笑んだ。

「・・・問題ないわ」
暗くてレイが紅くなっている事にシンジは気付かなかった。

レイの家で食事を作り、二人で食べ、お茶まで飲んでシンジは寛いでいた。

レイの家は前ほど酷くはなく、窓にはビニールでなくカーテンが付いていた。
部屋もある程度掃除されているようだ。
そして食事が出来るくらいの小さなテーブルが増えていた。
床にも2〜3畳のカーペットが敷かれており、そこに座る事が出来た。

「それじゃ、僕はNERVに行くね」
「・・・解ったわ」
なんとなく、名残おしそうには感じたのだが、ここでレイのマンションに居座る訳にも行かないので、シンジはNERVに行く事にした。

「あ、あの、綾波?」
「・・・何?」
「また料理をしに来ても良いかな?」
「・・・構わないわ」
「良かった。それじゃ、またね」
シンジは微笑んで言った。

「・・・また」

そして、その夜シンジはNERVに行くと、たまたま会ったリツコが独身用の宿泊施設を用意してくれてそこで寝ることになった。

奇しくもそこは、カヲルと一緒に泊まった部屋だった。

(カヲル君、僕は生きているよ・・・)

そして、シンジは今日のレイを思い出しながら幸せに眠りについた。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。