第八話
やっぱりアスカ来日
そしてシンジはヘリに乗っていた。
今回はレイとのいざこざがあったため、トウジやケンスケがシンジの所に遊びに来る事もなく、ミサトと二人で向かっている。
「ところでシンジ君、レイとはその後どうなの?」
「あぁミサトさん、その節はお世話になりました」
「別にいいのよん、それより、どうなのよっ」
「特に進展はないです。まぁまるっきり無視からは脱しましたけど、今のところそれだけです」
「そっかぁ、まぁシンちゃんはレイ一筋だけど、セカンドチルドレンも可愛いわよん」
そう言うとミサトはニヤリとした。
(アスカか・・・)
シンジは少し溜息をついた。
ミサトはそれを意にも介さず、外を眺めている。
「ほら、シンちゃん見えたわよ。太平洋艦隊だわ」
そう言ってミサトはヘリの窓から見える太平洋艦隊を指さした。
「しっかし、あんな老朽艦が良く浮いていられるものねー」
ミサトはおどけて見せている。
あまりレイと進展してないであろう事はミサトには解っていた。
以前の明るさが無いシンジに少しでも気分転換させようと今日は誘ったのだ。
何故か司令の命令もあったのだが、ミサトはこれ幸いと乗り気になっていた。
アスカの活発さが良い影響を与えてくれれば、などと僅かな期待も寄せていたのだった。
ヘリはオーバーザレインボーに着艦し、2人は空母に乗り移った。
「ヘロゥ、ミサト!元気してた?」
突然、少し上方にある甲板から声が掛かったので声のする方に目をやると、黄色いワンピースを着た赤っぽい金色の髪に青い瞳をした少女が、腰に手を当てて見下ろしていた。
(アスカ・・・)
シンジは、それまでどう接しようか考えていたのも忘れ、懐かしさに胸を焦がしていた。
(そうだ、最初の頃のアスカはこんなに元気だったんだ・・・)
「まあね、あなたも背、伸びたんじゃない?」
「そ、他の所もちゃあんと女らしくなってるわよ?」
そう言いながら胸を突き出すアスカ。
「紹介するわ、エヴァンゲリオン弐号機のパイロット、惣流・アスカ・ラングレーよ」
その時、甲板に突風が吹いて少女のワンピースの裾が捲れ上がった。
(ピンクだったのか・・・)
パンッ!
シンジは懐かしさのあまり、すっかりこのイベントを失念していた。
今回は余裕が有り、ちゃんと色まで確認したが・・・
「痛い・・・」
シンジは叩かれた頬を押さえて呟いた。
「見物料よ、安いものでしょ!」
アスカは顔を紅くしている。
(前は乱暴だなと思っただけだったけど、恥ずかしさを誤魔化してただけだったんだ・・・)
なかなか余裕で観察しているシンジだった。
「で、噂のサードチルドレンってどれ?」
どう見てもこの場にチルドレンらしき人物はシンジしか居ないのだが、敢えて聞くアスカ。
「この子よ」
「ふーん。なんか冴えないわね・・・」
シンジをしげしげと眺めながら言う。
(まぁ僕が格好良いとはお世辞にも言えないもんな・・・)
「・・・どうも」
シンジは、まだ頬を押さえながら、頭を下げた。
「ふんっ、アタシが来たからには、もうアンタには用はないわ!使徒は全部アタシが倒してあげる!」
「うん、期待してるよ」
ニッコリ笑ってそう言うシンジにアスカは不機嫌な顔となった。
アスカとしてみれば馬鹿にされている気がしたのだ。
(あれ?失敗したかな?・・・)
シンジは早くもアスカの機嫌を損ねたようだ。
そして船の操舵室に向かう一行。
提督とミサトの一騎打ちの後、加持が登場した。
「相変わらず凛々しいなぁ」
「加持先輩!!」
男の声に反応して、頬を紅くしながらそちらのほうに手を振ってみせるアスカ。
「よっ」
「うがっ!?」
素っ頓狂な声を挙げ、あからさまに「ゲッ」という顔をするミサト。
そして食堂へと向かう一行であった。
今回は4人なのでエレベータもそれ程窮屈ではなかった。
「何でアンタがここにいるのよ!」
「彼女の随伴でね。ドイツから出張さ」
4人しか乗っていないエレベーターの中、ミサトと加持はギリギリのポジションで向かい合っていた。
「迂闊だったわ。充分考えられる事態だったのに・・・ちょっと、触らないでよ!」
「仕方ないだろ?」
飄々としている加持。
4人でテーブルに腰掛けそれぞれ思い思いの物を飲んでいる。
「今、つきあってるやつ、いるの?」
「そんな事あんたに関係ないでしょ!」
素っ気なく言い放つミサト。
そんな中テーブルの下では加持の足がミサトの足へと伸び、人知れず攻防が繰り広げられている。
「つれないねえ」
そんな加持とミサトの訳あり気な関係を不審な目で見るアスカ。
「ところで、碇シンジ君、君は葛城と一緒に住んでいるんだって?」
「・・・えぇ」
ストローを口に銜えたまま上目使いで答えるシンジ。
「じゃぁ彼女の寝相の悪さは治ってる?」
「・・・さぁ?」
「な、な、な・・・何いってんのよ!」
顔を耳まで真っ赤にしながら、テーブルを叩くミサト。それを軽く流して加持はシンジに言葉を向けた。
「相変わらずのようだな、碇シンジ君」
「・・・よく解りません」
シンジは無難な回答で乗り切る事にした。
「俺が君の名前を知っている事は不思議には思わないかい?」
のらりくらりとしているシンジに加持が突っ込んで来た。
「えっ?だって彼女の随伴だってさっき言ってから、チルドレンの事は知ってるのかなと・・・」
「あはは、成る程、そりゃそうだ」
加持は引っかかる物があったが、その場は流した。
「・・・じゃ、また後でな」
そういって加持が席を立った後も、ミサトはぶつぶつと
「冗談じゃないわ、これは悪夢よ」
等と呟いていた。
そんなミサトをシンジは微笑んで見ていたりする。
艦外のデッキに立つ加持とアスカ。
「どうだ、碇シンジ君は」
手すりにもたれかかって煙草を銜えている加持。
「サイッテー!あんなのがサードチルドレンだなんて信じられない!」
海の方を見ながら、手すりを使って体を手で浮かせているアスカ。
「だが、彼のシンクロ率はいきなりの実戦で70%オーバーらしいぞ」
「嘘!」
険しい顔で爪を噛むアスカ。
「サードチルドレン!ちょっと付き合って」
その高飛車な声に見上げるシンジ。
エスカレーターの上には腰に手を当て見下ろすアスカの姿があった。
(アスカって本当はパンツ見せたいんじゃないのかな?・・・)
等と考えながらアスカに付いて行くシンジだった。
ヘリでタンカーに移った二人。
アスカは、そのタンカー中央部にある巨大なシートの一部分をめくって見せた。
その下からのぞいたのは、なみなみと液体のひたされたプールに浮かぶ、エヴァンゲリオン弐号機。
「紅いんだね、弐号機って」
「違うのはカラーリングだけじゃないわ」
そういいながら弐号機を上っていって、あっという間に胸の頂上の部分まで上り、仁王立ちするアスカ。
「所詮、零号機と初号機は開発過程のプロトタイプとテストタイプ。訓練なしの貴方なんかにいきなりシンクロするのが、そのいい証拠よ。けど、この弐号機は違うわ!」
手で弐号機を指し示しながら、活き活きとして話す彼女。
(やっぱりアスカは輝いているな・・・綾波もだけど・・・)
「これこそ実戦用に作られた、世界初の制式タイプ、本物のエヴァンゲリオンなのよ」
シンジはそんなアスカを微笑んで見ていた。
「何、笑ってんのよ、あんた、馬鹿にしてるの?!」
「い、いや、そんなつもりは全然ないよ、勇ましくて格好いいなぁって見惚れてただけだよ」
(パンツも見えてるんだけどね・・・)
「な、何を言ってるのよ、あんたは!」
そう言いながらアスカは顔を紅くしていた。
その時、激しい衝撃音と共に、艦内が大きく揺れる。
しかし、それにも関わらず体勢を崩さないアスカ。
「水中衝撃波!爆発が近いわ」
スーッと滑り降り、外に駆け出すアスカとそれを追うシンジ。
甲板にでた二人からは、次々と艦を吹き飛ばし、水柱をあげながら艦隊の外側から迫り来る巨大な何かが見えた。
「使徒」
「あれが?本物の?」
「葛城さんの所に戻る?」
シンジは解っていたが、一応聞いた。
案の定アスカは
「チャ〜ンスッ」
とニヤリ笑いを浮かべていた。
結局アスカに押し切られ、アスカのプラグスーツの予備を着せられエントリープラグに乗り込む事になったシンジ。
(ドイツ語できないって言っておきたいけど、アスカのドイツ語格好よかったんだよな・・・聞きたいから黙ってよ・・・)
等と考えているシンジの事など全く知らずエントリーを進めるアスカ。
「L.C.L Fullung. Anfang der Bewegung. Anfang des Nerven anschlusses. Ausoloses von links-Kleidung. Sinkio-start」
「格好いい・・・」
その途端鳴り響くエラー音。
「ちょっとあんた日本語で考えてるでしょ!ドイツ語で考えなさいよ!」
「そんなの無理だよ、英語すら危ういのに・・・」
「わかったわよ!もう!!思考言語切り替え、日本語を基本にフィックス」
途端にモニターが鮮明になり、外部の状況がなだれ込んでくる。
「エヴァンゲリオン弐号機、起動!」
その後は、前と同じ。
アスカが八艘飛びで何隻か戦艦を沈めたり、使徒に喰われて引っ張られたりして、ミサト作戦による零距離射撃により使徒殲滅。
しかし、シンジの服はオセローと共に沈んでしまい、そのままアスカのプラグスーツ姿で帰る羽目になってしまった。
(はぁ僕ってやっぱり馬鹿だなぁ・・・)
(プラグスーツは無理でも代えの着替えくらい持ってくればよかった・・・)
そんな事をしたら怪しまれる事に気付かず、シンジは自分の思慮の浅さを悔いるのだった。
それでも、アスカが、
「あんたの事はシンジって呼んであげるわ、あたしの事はアスカって呼びなさい!」
と言っていたので、まぁいいかと思うシンジだった。
翌日の学校では、案の定アスカが転入して来た。
始業のチャイムが鳴る。
教室のドアから担任教師がやってきて、開口一番
「今日は転校生を紹介します」
アスカは周囲のざわめきをよそにすました顔で黒板の前へ行くと、白チョークで流麗な筆記体の名前を書いた。そして振り返り、人当たりのよい笑顔で一言。
「惣流=アスカ=ラングレーです」
その金髪と青い目にざわめく教室内。
今回はトウジとケンスケが一緒に迎えに行っていないので、その二人も眼を爛々と輝かせていた。
それを不機嫌な顔で見ている委員長。
(はぁトウジの鈍感さは僕にも勝るよな・・・)
等と考えているシンジだった。
それとは別に、迎えにも行かなかったのに学校に出てきていないレイが気にかかるシンジ。
(きっとダミープラグの実験とかなんだろうなぁ・・・)
(頑張って止めさせるべきなんだろうか・・・)
(でも、どうやって?・・・)
(僕だけじゃ無理だし・・・)
(やってる内容は兎も角、チルドレンが要らなくなる技術だしなぁ・・・)
(本当、善悪なんてどっからどこまでか僕には判断つかないや・・・)
(でも、細かい所では兎も角、大きい所では、やっぱり父さんは間違ってると思う・・・)
(それも、もっと大局を見れば違ってくるのかなぁ・・・)
(人は皆、自分の思惑を持っている・・・)
(他人との思惑の兼ね合いの中、自分の流れを掴もうとする・・・)
(その力が強引だったり、周りの流れの力に逆らうと負けてしまう・・・)
(だから大局の流れに逆らわず、自分に取ってより良い流れへと動く・・・)
(母さんの言う全ては流れのままにって言うのはこう言うことなのかなぁ・・・)
(母さんにも逆らえない流れがあったって言う事か・・・)
(そうか、僕は綾波と言う船に乗って綾波と一緒に舵を取っていけば良いんだ・・・)
(でも今は綾波に乗船拒否されている状態だな・・・)
がっくりと項垂れるシンジ。
(はぁ・・・綾波ぃ・・・僕を君に乗せてくれぇ・・・)
そのまま声に出すと「不潔よぉ〜」っと聞こえてきそうな言葉で考えているシンジだった。
教壇では、いつものセカンドインパクトの話が始まっていた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。