第四話
独房は嫌だ!
シンジとレイは、レイがミサトの家に来てから一緒に学校に行っている。
ミサトがリツコと交渉し、少なくともレイの怪我が完治するまでは同居と言う事で話しは付いたようだ。
朝、ミサトがまだ寝ていると電話が鳴った。
シンジとレイは既に学校に行ってしまっている。
布団から顔も出さずに、ミサトは手探りで電話の受話器を掴み、そのまま布団の中に持って行くと漸く出た。
「はい、もしもし・・・何だ、リツコか」
『どう、カレとレイとはうまくいってる?』
「彼?ああ、シンジ君ね。転校して二週間、相変わらずレイにべったりよ。ただ、未だに、誰からも電話、かかってこないのよね」
『電話?』
「必須アイテムだから、随分前に電話、渡したんだけどね・・・それ以外の連絡方法とっているのかも知れないけど、あたしは朝シンジ君より遅いからわからないのよ」
『例えば、手紙?』
「さあ、部屋はプライバシーだからあれこれ探したことはないけど・・・それよりも深刻な問題があるのよね」
『何?』
「実は・・・レイが肉が嫌いだからってずぅっと肉無しの生活なのよぉ!」
『・・・・・』
「時々、シンジ君が別口でちょっと作ってくれるんだけど、やっぱりたまにはガバッと分厚い肉とか食べたいじゃない?」
『自業自得ね、私の反対を押し切ってレイを引き取ったのは貴方よ』
「それは解ってるけどさぁ〜・・・」
『じゃぁ我慢するのね』
「リツコォ〜今度パーッと焼き肉でも食べに行きましょうよぉ」
『はいはい考えておくわ、じゃぁ、夕方の出頭までゆっくり眠っていなさい』
「貴方も一度うちに来ない?シンジ君の料理は、一流レストランでもやっていける位よ」
少しミサトの声がおどけてみせる。
『女のくせに料理が出来ない方が、珍しいと思うけど』
「あら、そういうリツコはどうなのよ」
『勿論、出来るわよ』
「嫌な女ね」
『どういたしまして・・・・じゃ、せいぜい休みなさい、貴方の家に行くのは考えておくわ』
「どうもご丁寧に。それじゃ」
ピッと言う音がしてミサトは、切れたことを確認するとまた静かに眠りについた。
シンジとレイは学校に来ていた。
シンジとレイが初めて一緒に登校した時は、結構騒がれたが、シンジは一応NERVの関係で、今レイは怪我してるから自分を面倒見てくれている人が一緒に面倒を見てくれているからだと説明し、なんとか沈静化した。
それでも、普段他人と話す事など無いレイがシンジとは話すので話題は絶えなかった。
そして今日、登校し教室に入ると委員長がケンスケに何やら詰め寄ってた。
「プリント持って行ってくれた?」
「あ、あぁなんか鈴原、家にも居なくってさぁ」
と言いながらケンスケはプリントを机の中に押しやっていた。
「もぅ・・・鈴原と友達でしょ?ちゃんと届けてよね」
ガラリとドアが開き、ジャージの少年(トウジ)が入ってくる。
「鈴原・・・」
ケンスケはこれ幸いとトウジに声を掛けた。
「よう」
「やっぱ、えらいへっとるのう」
トウジは机に足を掛け、外の方を見ながら、そんなことを言った。
ケンスケは、呑気に言う。
「疎開だよ、疎開。今さら何を・・・みんな転校しちゃったよ、街中であれだけ派手な戦闘やられちゃあ・・・な」
「よろこんどんのはお前だけやろな。ナマのドンパチ見られるよってに」
「まぁね・・・トウジはなんで休んで居たんだよ」
「妹の奴がな・・・こないだのドンパチで怪我してしもうてん。うちはおとんもおじいも研究所勤めやさかい、わいが見てたらなあいつ一人になってしまうねん」
「そうだったのか・・・」
「しっかし、あのロボットのパイロットほんまヘボやのお、味方が暴れてどないするっちゅうねん」
「トウジ・・・その事なんだけどちょっとな」
「なんや?」
「トウジが休んでる間に転校生が来たんだよ」
「転校生?それがどないしたっちゅうねん」
「おかしいと思わないか?この時期にだぜ?俺はあいつがパイロットじゃないかと睨んでるんだ」
「ほんまか?!」
トウジが勢いよく立ち上がり椅子が倒れた。
「ま、まだ決定した訳じゃないよ、でもかなり確率高いと見ているんだ」
授業中、メールが来た。
『碇君があのロボットのパイロットって言うのはホント?Y/N』
振り向いたら、後ろの方の席の女の子が小さく手を振っていた。
(なんで今更、こんなの来るかなぁ・・・そうかケンスケだな)
『ロボットって何?』
迷わず返信する。
『とぼけないで。知ってるんだから』
思わず溜め息。
『知らない、もう聞いてきても返信しないから』
その後もしつこく何通か来たがシンジは無視していた。
予測通り休み時間になるとトウジが来た。
「転校生、ちょっと付き合えや」
「ふぅ解った、ちょっと待ってて」
そう言うとシンジは、レイに小さく声を掛けた。
「何かあったら、校門のところで待っててくれる?」
「・・・わかったわ」
レイは何の事か解らなかったが、それぐらい構わないと思い返事をした。
「いいよ、行こうか」
シンジがそう言うとトウジとケンスケに校庭に連れて行かれた。
校庭に出るとトウジが振り返らずに言った。
「すまんな転校生。わしはお前を殴らなあかん。殴らなあかんのじゃ」
シンジはトウジと対峙する前に走りだした。
振り返ったトウジはシンジが走って逃げて行った事に気が付いた。
「あっ待てコラッ!またんかい転校生!」
校庭ではシンジとトウジの追いかけっこが続いている。
「何で逃げるんじゃい!またんかい!」
シンジは逃げ回っている時にレイが校門の方に行くのが見えた。
そして、シンジはレイと共にNERVの車に乗り込み、トウジは黒服に押し止められた。
「・・・何だったの?」
レイが怪訝そうな顔をして聞いた。
「いや、彼は妹さんがこの間、使徒が来た時に怪我してね、それをエヴァが暴れたせいだと思って、僕を殴りに来たんだよ」
「・・・違う、何故貴方は非常召集があることを知っていたの?」
「えっ?」
「・・・貴方は何かあったらと言ったわ、何か有る事を知っていた」
「い、いや、それは校庭で逃げ切れなかったら、外に出ようと思っていたからだよ、まさか非常召集があるなんて知らなかったよ・・・あはは」
(やっば〜、ここで疑われたら今までの苦労が水の泡になっちゃうよぉ・・・)
シンジは大量に冷や汗を流した。
レイは暫くシンジを見ていたが
「・・・そう」
と一言、言って追求してこなかった。
(ホッ、取り敢ず信じてくれたのかな?・・・)
「・・・あの時は避難警報は出ていたわ、怪我したのは貴方のせいじゃない」
「えっ?あぁそうかもしれないけど、彼はそれじゃ治まらないんだよ、でも殴られるのは嫌だからね、逃げ回ってただけだよ」
「・・・そう」
「もしかして、僕の事心配してくれたの?」
「・・・そうかもしれない」
「ありがとう」
シンジはレイの方を向いてニッコリ微笑んだ。
レイは少し頬を染め
「・・・いい」
と俯き加減に呟いた。
(おぉぉお、なんか綾波が大分、僕の事を意識してくれるようになったなぁ・・・)
(とすると、この後、上手くやらないと独房3日なんて時間がもったいない・・・)
(恐らく、トウジ達は間違いなく出てくるから・・・)
(うーん、何か良い方法ないかなぁ・・・)
(あの鞭が結構、厄介なんだよなぁ・・・)
シンジはシャムシェル戦を如何にミサトの命令を実施したふりをして乗り切るかを考えていた。
そんなシンジをレイは疑惑の眼で見ていた。
敵ではない、しかし何か知っているとレイは感じていた。
そして、発令所では使徒迎撃の準備が進められていた。
「司令のいぬ間に、第4の使徒襲来。意外と早かったわね」
「前は15年のブランク。今回はたったの3週間ですからね」
「こっちの都合はおかまいなしか。女性に嫌われるタイプね」
ミサトと日向マコトの会話の間にもディスプレイ上では上陸済みの使徒が森の奥を進み、木々が次々に倒壊している。やがて湖の側を通過し、湖面に波が起こる。
山間部からの迎撃が行われているが、使徒はミサイルを難なく跳ね返して侵攻している。
「税金の無駄遣いだな」
冬月が呟く。
「・・シンジ君は?」
「ケージに到着しました。搭乗の準備をしています」
「・・・そう」
そして、なんら有効な事が出来ずに、戦自は退散する事になった。
「委員会からエヴァンゲリオンの出撃要請がきています」
「煩いわね、言われなくても出すわよ!シンジ君、出撃、いいわね」
ミサトのがシンジに確認するがシンジから返事が無い。
シンジはまだシャムシェルの攻略方法を思いついていなかったのだ。
「シンジ君?シンジ君?」
ミサトがシンジを呼び出す。
『・・・あっはい』
「ぼーっとしてないでよ!エヴァンゲリオン初号機発進!」
シンジが反応したのでミサトが初号機の発進を命令した。
強烈なGを受け地上へと射出される初号機。
「シンジ君、使徒のATフィールドを中和しつつ、パレットガンの一斉射。いいわね?」
『・・・了解』
言われた通りATフィールドを中和しつつ、パレットガンの一斉射を行うシンジ。
「馬鹿っ!煙で前が見えない!」
ミサトが怒鳴ってる。
使徒が鞭を振るいパレットガンが真っ二つにされ、なんとか避けた初号機。
「シンジ君、新しいパレットガンを今出すわ!!」
『・・・了解』
使徒を牽制しつつ新しいパレットガンを取りに向かう初号機。
(ここで下手をすると、投げ飛ばされてトウジ達のところに行っちゃうからな・・・)
シンジは慎重にパレットガンを取りに向かった。
漸く、パレットガンを手にしたシンジに、ミサトが命令を下す。
「シンジ君、もう一度、使徒のATフィールドを中和しつつ、パレットガンの一斉射」
『えっでも効いてないみたいですけど?』
「いいから言われた通りやりなさい!」
ミサトが何の根拠もなく、効果のない作戦をもう一度実行させる。
(しかたない、鞭を避けて偶然懐に入れた事にするか・・・)
そうシンジは決めると、次ぎの使徒の一振りで使徒の懐に入った。
使徒の足らしき一本を掴みコアに零距離射撃でパレットガンを打ち込む。
蠢く使徒。
「いける!」
ミサトが思った時、使徒の鞭が初号機の背中に突き刺さった。
『ぐわぁぁぁぁ〜!』
「シンジ君!」
発令所は為す術なく、戦闘の行方を見ている。
発令所の傍らには、誰知れずレイも同じように拳を握りしめ、呻くシンジを見ていた。
(ぐぅ結局刺されるのか、でもここで引いたら負ける・・・)
シンジは全弾打ち尽くすと、ウェポンラックからプログナイフを取り出した。
それを一気に使徒のコアに突き刺す。
両手でプログナイフを持ってしまったため、浮いている使徒に刺さりきらない。
シンジはそのまま駆けだした。
「シンジ君!」
「アンビリカブルケーブル切断、内部電源に切り替わりました」
「活動限界まで、あと4分53秒」
使徒を押す様な感じで走る初号機。
行き着いた先は、トウジ達が出て来ている山だった。
パレットガンの零距離射撃で脆くなっていたのか、山の斜面に押さえつけられた使徒は、あっさりコアを破壊され活動を停止した。
「パターン青消失、使徒沈黙しました」
「パイロットの救出、急いで」
ミサトが指示を出す。
『ミサトさん、使徒の近くに誰かいます』
「なんですってぇ!」
それはトウジとケンスケだった。
(ふぅ・・・なんとか命令違反はしてないよな・・・)
シンジはそのまま気絶してしまった。
「・・・またこの天井か」
シンジは病院で目覚めた。
視線を感じ横を見るとレイが見ていた。
「綾波・・・居てくれたんだ」
シンジは起きあがろうとして背中が引きつり痛みを感じた。
「うっ!」
「・・・まだ安静にしていて。フィードバックの後遺症が残っているわ」
「そっか、刺されたんだったな」
レイはシンジのシーツを掛け直してくれた。
「あっありがとう・・・」
「・・・今日はここで泊まって行くといいわ」
「そっか、あの二人は大丈夫だった?」
「・・・あの二人?」
レイは怪訝な顔をした。
そこにミサトとリツコが入って来た。
「シンちゃん大丈夫?」
「はい、ちょっと背中が痛みますけど・・・」
(よかった、独房はなさそうだな・・・)
「そう、単なるフィードバックによる痛みだから、歩けるようなら今日帰ってもいいわよ」
リツコが検査結果を見ながらそう告げた。
「本当ですか?じゃ、じゃぁ帰ります!」
そう言うとシンジは起きあがろうとして、さっきの痛みが走ったが我慢して起きあがった。
「あらあら、無理しちゃって、よっぽどレイと離れたくないのねん」
ミサトがシンジが痛そうな顔をしながら起きあがろうとしているのを見てからかう。
「そりゃそうですよ、ミサトさんの家、1日空けるとゴミの山になるから」
シンジも反撃した。
「ぐっ、い、一日ぐらいでならないわよ!」
言葉に詰まりながら弁解するミサト。
「・・・無様ね」
「それより、あの二人はどうなりました?」
「あの二人?」
ミサトは一瞬何の事か解らなかった。
「私がきつくお仕置きをして、保安部に引き渡したわ、外傷は無し」
リツコが代りに答えた。
「それは良かった」
シンジはホッと胸をなで下ろした。
「・・・何故あの二人を心配するの?彼らは勝手にシェルターを抜け出した。しかもジャージは前の戦闘を責め、貴方に殴りかかったわ」
「それは、クラスメートだからだよ」
「どういう事?シンジ君」
リツコはレイが珍しく興味を持ったので内容を知りたくなって尋ねた。
「いや、あのジャージの方、鈴原トウジって言うんですけど、彼の妹さんがこの間の戦闘で怪我したらしいんです。それでエヴァのパイロットがもっと上手く動いていたら怪我しなかったはずだって・・・」
「そうだったの・・・」
リツコはその鈴原と言う名前に見覚えがあり、少し顔を歪めた。
「まぁ眼鏡の方がミリタリーオタクなんで、そそのかされて出てきたんだと思いますけどね」
シンジは、なにげに真相を語った。
「そうそう、シンジ君、家に帰ってもいいけど、暫くは学校休んで安静にしてなさい。3日ぐらい」
「はい、解りました」
(うーん刺されたのは痛かったけど、かなり思い通りに進んだな・・・)
シンジは満足だった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。