第弐話
綾波遭遇


シンジは病院のベッドで目が覚めた。
「・・・あれ?病院?・・・」

(何があったんだっけ?・・・)
(そうか使徒と戦って・・・)
(結局勝ったんだっけ?・・・)

シンジが回想する。


『シンジ君、まず歩くことを考えて』
リツコが始めて動かすシンジに対し動作を指示する。

「・・・はい」
(最初だからな、まず歩く・・・っと)
「歩く、歩く・・・」

『『『おぉ〜〜〜』』』
初号機が歩き出すと発令所で歓声が上がった。

(よしよし、まずATフィールドを出させないとな・・・)

どうやってATフィールドを出させようかシンジが考えているとミサトが叫んだ。
『シンジ君、止まって!』
「へっ?」
考えながらシンジは歩き続けていて使徒とは目と鼻の先まで来ていたのだった。
歩いてる途中のポーズで止まる初号機。

『シンジ君、避けて!』
ミサトの叫びとともに初号機の左腕が掴み挙げられた。

「ぐっ・・・い、痛い・・・」
久々のフィードバックとシンクロの高さが災いして、かなり痛い。

『シンジ君、落ち着いて!貴方の腕じゃないのよ』
「そ、そんな事言ったって・・・ぐぅっ」
『リツコ!なんとかならないの?これじゃ戦えないわ!』
ミサトが喚く。
『マヤ、フィードバックを一桁落として』
『はい』
発令所が喧噪としている中、シンジは痛さが限界に達していた。

「こんのぉっ!痛いんだよ!」
シンジは叫ぶと、左腕を掴んでいる使徒の腕を掴み、強引に引き寄せた。
右手で左手を庇うように引き寄せたため偶然、右の肘が使徒にヒットした。

使徒は初号機の左腕を離した代りに初号機の頭を掴まれてない方の手で掴み、バイルを打ち込む。
「ぐはっ!」
『シンジ君!』
シンジは力任せに使徒を蹴り上げた。
吹き飛ぶ使徒。

『シンジ君、その調子よ!使徒を追いつめて!』
ミサトが初号機の反撃に嬉々として追撃を求める。
が、初号機は動かない。
シンジは使徒に突かれた右目を押さえ「ふぅ・・ふぅ・・」と言っている。
『パイロットのアドレナリンが急上昇してます!』
マヤが報告する。
『シンジ君?』

「うぉぉぉぉお〜〜っ!痛いだろぅがぁ〜〜〜っ!!」
ミサトの声が聞こえたのか聞こえなかったのか初号機は使徒に向かって走り出した。
その時!

金属がぶつかりあう様な音と共に使徒の前にオレンジ色の壁が現れ初号機の行く手を阻んだ。

『ATフィールド!』
『ATフィールドが有る限り使徒には近づけない』

「うぉぉ〜〜〜っ!!邪魔なんだよっ!!」
シンジは叫びながらATフィールドを侵食していく。

『ATフィールドを破壊しているの?』
『いえ、侵食しているのよ』

「うぉぉ〜〜〜っ!!」
シンジは使徒のATフィールドを無効化すると、使徒に滅多やたらと殴りかかった。
数発がコアにヒットし、コアに罅が入る。
初号機にゴムのように纏わり付く使徒。

『自爆する気?!』
ミサトの声と共に使徒が爆発した。

映像の回復と共に初号機の立ち尽くす姿が映される。
『パターン青消滅、使徒消滅しました』
『初号機健在です』
一瞬発令所に安堵の息が漏れたが、その報告と共に大きな音と共に倒れ込む初号機。

『シンジ君!』


「碇・・・これは・・・」
「・・・・・」
「初号機ではなく、シンジ君の暴走とはな・・・」
「・・・問題ない、今は使徒が倒せればそれで良い」
ゲンドウと冬月は顔を顰めていた。


(そうだった、あそこで気を失っちゃったんだった・・・)
(それより病院って事は・・・)
(綾波と逢えるかも・・・)

シンジは、慌てて廊下に飛び出した。

(そうそう上手く行かないか・・・)
(このまま病室に行くと怪しまれるよな・・・)
(と言うか弁解のしようがないし・・・)
(ここで通るのを見かけたらそのままついて行ったとか言えるのに・・・)

シンジはボンヤリと窓の外を眺めながら考えていた。
ジオフロント内のNERVの病院では、月も星も見えない。
その時、ガラガラッとストレッチャーを押す音が聞こえた。

(綾波?)
シンジが振り返ると、そこには待ち望んだレイが横たわるストレッチャーが押されこちらに向かっていた。
じっと見詰めるシンジ。
レイもシンジの方を見ている。
交差する視線。

(あ、綾波だ・・・い、生きてる・・・う、嬉しい・・・え、えっと・・・)

シンジは眼を潤ませていた。
そして通り過ぎるストレッチャーを追い求める様に右手を挙げたが、声は出なかった。
10メートル程先で止まるストレッチャー。
その脇にはゲンドウがいる。
ゲンドウはシンジには一瞥もせず、レイに一言二言、話しかけると去って行った。
それを見ていたシンジは我知らずレイの病室へと足を運んでしまう。
レイの病室の前で佇むシンジ。

(入って、何を話すんだ?・・・)
(解らない、でも、でも、逢いたい、顔を見たい、声を聞きたい・・・)

シンジは扉をノックしてしまった。
しかし、レイが返事をするわけもない。

「ごめん、入るよ」
シンジはそう言うと扉の中に入った。

横たわっているレイ。

(寝ているのかな?・・・)

「・・・誰?」
レイは顔も向けずに尋ねた。

「あっ、あの・・・ぼ、僕はシンジ、碇シンジ」
漸くシンジは言葉を発した。

「・・・碇?」
レイはその言葉にだけ反応した。

シンジは涙を流していた。

(綾波の声だ・・・)

「そう、碇司令は僕の父だよ」
「・・・そう」
あからさまに怪訝なレイの反応。
しかし、シンジだからこそ解る程度の反応だった。

(あぁまずいよ、綾波怒ってるよ・・・)
(このままじゃ嫌われる・・・どうしよう・・・)

「あ、あのさ、僕は司令と親子だけど、3年も会ってなかったし、父さんは僕を嫌ってるから・・・」
シンジはレイがゲンドウを取られると思って怒ったと思い、取り繕うとした。
そこで漸くレイはシンジの方を向いた。

「・・・何泣いているの?」
レイに指摘され、シンジは始めて自分が涙を流している事に気がついた。

「こ、これは・・う、嬉し涙だよ」
「・・・嬉し涙?」
「そ、そう、ケージで君はすごい重傷に見えたから、だけど今は大分元気そうだったから・・・」
シンジは思わず「嬉し涙」と言ってしまい、その理由を取り繕った。

「名前、教えてくれるかな?」
シンジはこれ以上突っ込まれないように、話題を変えようとした。

レイはシンジを一瞥した後
「・・・綾波・・レイ」
と答えると、興味が無くなったように顔を天井に向けた。

「じゃ、じゃぁ、今日は帰るね、お邪魔して悪かったね、それじゃまた」
シンジはそう言いながら扉の方に行ったが、レイは感心がないようだった。

(はぁ・・・先は長そうだな・・・)

シンジが扉を閉める時、小さな声が聞こえた。
「・・・さよなら」

シンジにはそれが、自分を寄せ付けないATフィールドの様に感じられた。

病室に戻り、ベッドに横になりながらシンジはこれからの事を考えていた。

(まずは、話をしてもらうようにしないとな・・・)
(前は、何か話さなくっちゃって焦ってたんだよな・・・今も変わらないか・・・)
(取り敢ず、暇があればお見舞いに行こうかな・・・)
(ミサトさんにからかわれるだろうけど・・・)
(あぁ、早く綾波の笑顔がみたいなぁ・・・)

等と考えているうちに、眠ってしまった。


翌日、シンジの眼が醒めて暫くするとミサトがやってきた。
「シンちゃ〜ん、調子はどうかなぁ?」
「あっミサトさん、そんなに悪くはないです」
「それは、結構、じゃぁ住むところの手続きとかに行きましょ!」
そう言ってシンジは連れ出されてしまった。

(あぁ綾波のところに顔だしておきたいなぁ・・・)
(そうだ!)

シンジは服を着ながら考えて、閃いた。
「ミサトさん、昨日ケージで見た女の子、ここに入院してますよね?」
「あっらぁ〜ん、シンジ君もう目を付けたのね、いいわ紹介してあげる」

(よしっ!)
シンジは心の中でガッツポーズを決めた。

「レイ、入るわよん」
ミサトはレイの病室の扉をノックもせずに開けた。

「シンジ君、彼女が綾波レイ、ファーストチルドレンよ」
「レイ、こちらがサードチルドレンの碇シンジ君、仲良くしてね」
ミサトが二人を紹介した。

「よ、よろしく・・・」
シンジは挨拶したがレイはシンジを一瞥しただけだった。
しかし、シンジは慈しむような眼でレイを見ていた。

「ま、まぁちょっと変わってるけど、良い子だから・・・あはは」
ミサトは場の雰囲気に耐えきれず、フォローしたが無駄だった。

「じゃ、レイまたね」
ミサトは早々に引き上げようとした。
「あ、綾波さん、またお見舞いに来ていいかな?」
シンジは勇気を振り絞って聞いてみた。

(断られたらどうしよう・・・お願い、良いって言って・・・綾波・・・)

レイはシンジをじっと見ていたが、一言
「・・・構わないわ」
と言った。

シンジは全身の力が抜ける思いだったが本日二回目のガッツポーズを心の中で決めた。

(よかったぁ〜・・・)

病室を出ると案の定ミサトがからかって来た。
「シンちゃん、やるわねぇ〜、あのレイをナンパするとは」
「ドキドキもんでした」
「あ、あっそう・・・」
レイが断ったらフォローしてやろうとは考えていたミサトだったのだが、照れずに言うシンジに毒気を抜かれてしまった。

実はシンジは既に心ここにあらずだったのだった。

(よし、これでお見舞いに行く障害はなくなった・・・)
(次ぎは、どうやって話をして貰うかだな・・・)
(僕から話しているだけだじゃ駄目なんだ・・・)
(綾波から話してくれるようにしないと・・・)
(でも綾波は自分が人じゃないと思ってるから接してこようとしないんだよな・・・)
(うーん、これは難問だぞぉ・・・)

等と考えていたため、エレベータでゲンドウが居たのも気付かず、ミサトと同居する事にも曖昧に決まってしまった。
サードチルドレン了承の話も生返事で承諾してしまったのでミサトが怪訝な顔をした。

「本当にいいの?シンジ君」
「えっ何がですか?」
「サードチルドレンとなって今後もエヴァに乗り続けてくれるって言う話、そんな簡単に返事しちゃっていいの?」
「あぁえぇ構いませんよ、どうせ父さんの事だから嫌だって言っても駄目だろうし、帰る場所ももうないだろうし、全ては流れのままにですよ」
そう言ってシンジはニッコリ笑った。

(なにより、ここに居ないと綾波と接点がなくなっちゃうし・・・)

シンジのその言葉にミサトは、人の言う事に素直に従うのか、悟っているのか判断がつかなかった。
冬月辺りが聞いていたら、眉を顰めただろうが、そんな事はミサトは知らない。

そして、帰りのコンビニで食材を買い込むシンジにミサトが突っ込んだり、高台で街にビルが生えてくるのを見たりしてミサトのマンションにたどり付いた。

例によって「ただいま」の儀式を済ませ、中に入ったシンジは驚愕する。

(こ、こんな酷かったっけ?・・・)

シンジは取り敢ずミサトを風呂に放り込み掃除をする作戦に出た。
そして命の洗濯のお風呂に入り寝床についたところでミサトがやって来た。

「一つ言い忘れたんだけど、貴方は人に誉められる立派な事をしたのよ。誇りに思っていいわ。おやすみなさい」
ミサトはそのままそっと襖を閉めた。

(誉められるか・・・僕は綾波さえ居てくれればいいんだけど・・・)

そして、その夜もレイ攻略法を悶々と考えながら眠りにつくシンジだった。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。