第拾参話
現実
「アタシを…罰せ無いのですか?」
「あん?何でだ?」
戦闘終了後、特に咎められる事もなく、労いの言葉が掛けられ解散となった後、アスカはマナの執務室に赴いていた。
「独断先行…」
「そう思うのか?私の指示は波状攻撃だった。ケイタとムサシに感謝するんだな」
「・・・・・」
「反省しているなら次に活かせ。この話はこれで終わりだ。下がれ」
「・・・失礼します」
「あぁ、ちょっと待て」
退室しかけたアスカをマナは呼び止めた。
「何でしょうか?」
「まだ当分は全戦力を以って迎撃に当たるが、前回にて四号機でも留めを指せる事が実証された。従って何れは2チームに分ける事も有り得るし同時侵攻も視野に入れる必要が有る。その際アスカはシンジ君のチームとなる可能性もある」
そこまで言ってマナはアスカの顔を見たが、予想通り苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「解っていると思うが、その時はシンジ君の指揮下に入る。今のうちに蟠りを無くしておくのだな」
「・・・善処致します」
アスカの退室後、マナはニヤリと唇を吊り上げていた。
「碇、葛城君が転属願いを出して来たぞ」
「・・・M44・プレセペ星団か」
「あぁ、かに座の六号機が目当てだろう」
「・・・あの男の入れ知恵か」
「艦長も決ってないエヴァ、その指揮官になろうと言うのだろうな」
「・・・アンタレスに打診だ。向こうが良いと言うなら構わん」
「言うか?」
「・・・かに座では、指揮官に成れるはずもない」
「成る程な、それなら逆に承諾する可能性もあるか」
「・・・今からなら六号機配置と入れ違いだ」
「そんな事も計算出来ないのか」
「・・・そう言う事だ」
かに座は太陽系から41光年離れている。
比較的近いと言える距離だが、当然ワープ航法を行わなければ辿り着く事は出来ない。
従って通常の通信で入る情報は無く、ミサトの見たのもデータベースに貯えらた情報のため、何時の情報か解らないものだ。
当然だが、総司令であるゲンドウの元にはワープ通信により、鮮度の高い情報が渡されている。
これは諜報活動により得るものではなく、純粋にエヴァの技術のための情報交換である。
そして、ミサトの転属願いが受け入れられ転属が決定するのが、早くて一月後、その後緊急性のない配属のため現地までの移動に約一月、現地到着は2〜3ヶ月後と言うのが通常だ。
つまり、ミサトの移動中に既にロールアウトされている六号機の配属は決ってしまうだろう。
狙うならロールアウト前の機体と言う事で加持も話をしていたのだが、ミサトの直情思考では既にロールアウトされ艦長決定を待つのみの六号機が一番手っ取り早く見えたのだ。
「へっへ〜ん」
「あら、随分ご機嫌ね」
リツコの執務室に性懲りも無くミサトは油を売りに来ていた。
「リツコとも短い付き合いだったわね」
「アンタレスに帰るの?」
「あんな所に帰らないわよ!かに座に転属願いを出したわ」
「そう、受け入れられれば良いわね」
「受け入れられないはず無いでしょ」
「あら、随分な自信ね」
リツコにはミサトの考えが手の取るように解っていた。
ロールアウトした六号機。
エヴァの指揮経験がある自分が転属願いを出せば、向こうはすぐにでも欲しがるとでも思っているのだろう。
しかし、艦長も決って居ないのだから、その指揮官など探しても居ない。
そもそも、向こうにだって戦術指揮官は存在するのだ。
特殊戦艦一機のための指揮官など欲する理由が無い。
「こればっかりはリツコにも教えられないわね。諜報部の極秘情報だから」
「そう、私も営倉になんて入りたくないから聞かない事にするわ」
「で、でもちょっとは気にならない?」
「止めてよ、無理やり私を巻き込むのは」
「ま、巻き込んだりしないわよ。ちょっち興味あるかな?なんて」
「ないわ」
一刀両断のリツコの回答に唇を尖がらせるミサト。
「そう、まぁいいわ。きっとそのうち吃驚するから」
(貴女のその短絡思考に既に吃驚よ)
ミサトの言葉にリツコは口には出さないが溜息を吐いていた。
「あっら〜ん、これはこれは赤い流星殿じゃありませんか?」
ミサトは偶々遭遇したアスカにおどけた声を掛けた。
「何よ?」
「いやね、前回は新参者の四号機に美味しい所を持って行かれたんだって?残念だったわねぇ」
「何が言いたいの?」
「噂に聞こえた赤い流星さんも大した事は無かったって事ね」
「なんですってぇ!」
今まさにミサトに掴みかかろうとしたアスカだったが、その振り上げた手を誰かに掴まれた。
「ちょっ!何すんの、離しなさいよ!」
「葛城さん、貴女は何をしているのですか?」
アスカの腕を掴んでいたのは、シンジであった。
その表情は無表情だが、静かな怒りを纏っている。
シンジの手を振り解こうとしたアスカだったが、その雰囲気に圧倒され、次の行動に出る事は叶わなかった。
「これはこれは、親の七光りの初号機艦長様。そう言えば前回は出番無しだったそうね」
「作戦部長の作戦指揮による行動です。僕もアスカもね」
「くっ、アタシの指揮には従わなかったくせに」
「貴女のは作戦指揮と呼べる物では無かった。ご自分の無能を棚に上げて、我々を中傷するのは止めて頂きたい」
「何よ偉そうに。ふん、今に吠え面かかせてあげるから覚えてなさい!」
ミサトは捨て台詞を吐き、ドカドカと大股でその場を去っていく。
「あんな人間に暴力で訴えては駄目だよ。惣流さん」
「・・・そう、そうね。助かったわ」
アスカはミサトの去っていく姿を見て、自分も踵を返した。
「あ、有難う」
去り際で、シンジの方を向いても居なかったが、アスカは、そう一言口にすると再び歩き出した。
シンジは狐に摘まれたような顔をしている。
それをアスカが見ていたら、また怒ったのだろうが、去っていくアスカが振り返る事は無かった。
「・・・行きましょ」
「そうだね」
シンジの隣には、何時の間にかレイが寄り添っていた。
飛ぶ鳥後を濁さずどころか、至る所に迷惑を振りまいているミサト。
ミサトの転属は、その1週間後に承認された。
そして転属準備と称してミサトは休暇を取ったため、その後NERVでミサトを見た者は居ない。
配属も決っていないのに転属前の準備休暇を取ると共にプレセペ星団への移動を開始したためだ。
本来、そのような長距離移動は軍に務める者として申請するのが当然なのだが、ミサトはそんな事はしていない。
辞令も降りて居ないのだが、向こうに行けばなんとかなると思っているのだろう。
この辺りは、ゲンドウと冬月が言っていた計算が出来ないのではなく、自らの都合の良い計算しか出来ないと言う事だ。
ミサトの事であるから強引な手段を使い一月程でカニ座に到着するだろう。
そこで、エヴァを抑える心算なのだ。
確かに向こうに着くのはかなり早まる。
しかし、ここが都合の良い計算なのである。
プレセペ星団連合軍はNERVとは規模が違う。
NERVはゲンドウがトップであるが、プレセペ星団連合軍内で比較すれば軍としては精々中隊程度の規模だ。
つまり、ミサトがいくら頑張ってもエヴァの配置に携わる人間どころか、自分の配属を決定する人間にすら直接話を行う事は不可能に近いのだ。
更にミサトは、住居の解約もせず行ったものだから、その一月後、NERV総務に苦情が舞い込む事になった。
解約の手続きをしようにも本人が居らず、結局冬月が副官と言う地位を以って業者に承認して貰ったのだが、その解約にも一波乱有った。
部屋の中が腐りきっていたのだ。
生ゴミまで片付けずに放置されていたため、クリーニング代に多大な請求が来たが、それは銀河連邦軍を通してミサトの給与から引き落とす事が出来た。
遠い地でミサトが喚いているだろうが、自業自得である。
また、プレセペ星団での配属先が決った時、ゲンドウと冬月は大いに笑い転げた。
銀河連邦軍プレセペ星団連合軍第77師団普通科連隊第三中隊第二小隊副小隊長。
それがミサトの異動先であった。
普通科連隊のナンバー中隊のナンバー小隊。
つまり、歩兵の中の歩兵の副小隊長である。
大尉と言う階級からは、聊か低い役職であるが、そこは口を出すべきところではない。
少なくとも小隊長はミサトより序列が上なのであろう。
そして何よりも戦艦とは縁も所縁も無い部署である。
エヴァなど目にする事も無いだろう。
精々輸送艦に乗る程度だ。
ミサトは着任と同時に転属願いを書き続けて居るらしい。
色々な伝説を残してNERVを去ったミサト。
以後、彼女は軍人としてNERVに戻る事は無かった。
「マコト、そんなに落ち込むなって」
「あぁなんで僕も連れて行ってくれなかったのですか葛城さん!」
「不潔ですぅ」
シゲルとマコトとマヤは居酒屋で飲んで居た。
珍しくメインオペレータ3人が揃って早く上がれたのだ。
虎視眈々とマヤを狙っているシゲルは、マコトを炊きつけ、マコトを慰めると言う理由を付けて3人で飲みに出たのである。
ある程度マコトを酔わせ先に帰らせるか、自分がマヤを送って行く事にして解散するのがシゲルの作戦である。
その為、マコトを慰める振りをして、必要以上に酒を注いでいた。
「でもなんでそんなに葛城さんが良いんですか?」
「そ、それは、その…」
「やっぱり、あの胸ですか?」
「まぁまぁマヤちゃん。人を好きになるって言うのは理屈じゃないんだよ。なっマコト」
「う、うん、でも、そう言われるとなんでだったんだろうな?」
「そうだな。胸の大きさなら赤木博士も結構な物だしな」
「なんか格好良かったんだよな。赤いジャケットで颯爽と歩いていてさ。一目惚れだったのかなぁ」
「でも仕事はしないし、ズボラでしたよ?いっつも先輩の邪魔をしてたし、事務処理なんて殆ど日向さんがやっていたじゃないですか」
「しかし、シンジ君は凄いな。着任した時は中尉だったのに、あっと言う間に少佐だもんな」
「あの操縦技術は凄いよ。俺じゃぁ例え特殊戦艦に乗れていたとしても、あんな操縦は想像も出来ないよ」
「マナさんと一緒に来たムサシ君とケイタ君も大した物ですよ。アンタレスでその名を轟かせた赤い流星と比べて遜色ないのですから」
「それだけシンジ君が飛び抜けて居るって事だろうな」
「でも特殊戦艦の艦長は皆若く見えますね。私とそう変わらないはずなのに、どうも年下に見えちゃいますぅ」
「マヤちゃんだって充分若く見えるよ」
「それって私がお子ちゃまって事ですか?!」
「い、いや、そう言う意味じゃないよ。何時までも初々しいって言うか…」
褒めたつもりが逆に睨みつけられ、たじたじになるシゲル。
全く女心は難しいと改めて認識していた。
「白鳥座の軍神か」
「なんか凄い人達が集まって来てますね」
「銀河の辺境のこの太陽系での戦闘が、銀河連邦で注目を浴び出しているからな」
「でも、その中心である地球は、未だ外宇宙に目を向けて居ないのが現状だよ」
「私もNERVに入る前は、銀河連邦軍なんて雲の上の話でしたよ」
「一般民間人には想像も付かないかも知れないな」
「そう考えると葛城さんって宇宙人だったのかな?」
「葛城さんは純粋な地球人ですよ。どちらかと言うとマナさんとかマユミさんが宇宙人ですね。マナさんが純粋にアンタレス星域出身で、マユミさんがベガ星域出身です」
「へぇそうだったんだ」
「NERVってそう言う意味じゃ、銀河連邦軍なのに地球人ばっかりだよね」
「結構技術部には居ますよ?」
「そうなの?」
「比較的解り易いのは、髪の毛がオレンジの人とかグリーンの人ですね」
「あれって染めてるんじゃないの?」
「違いますよ?まぁ染めてる人も居るようですが、眉毛の色で解ります」
「あぁ成る程、じゃぁレイちゃんは?」
「レイちゃんは、階級も上ですので見れませんから解らないです」
「見れないって?」
「NERV発足前の経歴は白紙なんです」
「そっか、まぁ人のプライベートを覗くのは良くないしな」
シゲルは、レイの話しはこれで終わりとばかりに切り上げた。
「やっぱ地球とは違うわね」
民間機を乗り継ぎ、一月掛けプレセペ星団に到着したミサトは、その地球とは全く違う街並みを見て呟いた。
プレセペ星団の中心であるここは、自然環境が豊かに残った星であった。
地球上では絶滅した、白亜期に栄えたような巨大な植物が生茂っている。
その中に一際巨大な建造物が、植物の間を縫うように生えている。
地上は殆ど自然のままで、交通機関は空中に存在する。
透明な交通機関の通路らしきものは、光を湾曲させはするものの、地上に降り注ぐ光を遮る事は無い。
ミサトは、中央指令塔と呼ばれる銀河連邦軍プレセペ星団連合軍中央管制所がある場所へと向かった。
「ちょっとどう言う事よ!」
「ですから、そのような連絡は受けておりませんので、まず辞令をご確認下さいと申し上げております」
ミサトは、中央指令塔の受付で喚いていた。
自分はプレセペ星団連合軍への転属願いを受理されたので、移動期間を短縮するために自腹で来た。
既に辞令が出ているはずだから、司令官に挨拶しに来たと言っているのだが、一介の隊員の転属の度に司令官直々に会う事は無い。
「アタシはNERVから来たのよ!司令官だって会うに決ってるでしょ!」
ミサトとしては、それは銀河連邦軍内でも要職であるはずであった。
リツコから聞かされた話では、敵に負ける事は太陽系はおろか銀河系ですら脅威になると聞かされていたためだ。
「そちらの応接室の端末をお使い下さって構いませんので、まず辞令をご確認下さい」
受付嬢もアポイントも取られて居ない者を司令官に面会させる訳には行かない。
偶々空いている応接室に、プレゼン用か銀河連邦軍の末端端末が有る事を思い出し機転を利かせた。
「ふん!後で謝っても許してあげないわよ!」
ミサトは、ドカドカと指定された応接室に入り、端末に自分のカードを通した。
端末を立ち上げ、ミサトのIDでログインされた端末は、ミサトの辞令を映し出す。
「ど、どう言う事よ〜っ!」
応接室からの喚き声に、受付嬢は耳を両手で押さえる。
端末に表示された辞令の配属先は、銀河連邦軍プレセペ星団連合軍第77師団普通科連隊第三中隊第二小隊副小隊長。
移動日は一月後、ここから更にワープ航法による移動を行わなければならない星であった。
ドカドカと応接室から出てきたミサトは再び受付嬢に突っ掛かる。
「辞令は何かの間違いよ!アタシはエヴァの指揮官として着任したの!」
「エヴァ?」
「特殊戦艦の更に特殊な奴よ!」
「申し訳ありませんが、辞令を見せて頂けますか?」
「いいわよ!付いてらっしゃい」
応接室に入ると、ミサトはまだ端末を立ち上げたままで、ディスプレイには辞令が映し出されている。
セキュリティもなにも有った物では無い。
受付嬢が何やら操作すると、文字が地球では見た事もない文字で表示された。
ミサトも一応はアンタレスに居た事もあるため、それがこの星域で使われている文字に変換した事は解った。
「これは、正式な辞令ですね」
「当たり前でしょ!」
間違いだと言ったり、全く支離滅裂な言動である。
「でしたら、77師団の方で受け入れが行われると思いますので、こちらでは如何様にも出来ませんが」
「ど、どうしてよ!」
「ここでの受け入れは中央管制所勤務となった者だけですので。仮に特殊戦艦部隊と言う事であれば、やはりここではなく、戦略宇宙軍か防衛宇宙軍になります」
「そ、それは何処にあるのよ!」
「各、居住可能惑星に存在します。プレセペ星団連合軍には約1000の居住可能惑星が有ります」
「エ、エヴァは何処に配属されるの?」
「さぁ、私どもではエヴァと言う物をまず存じ上げませんし、特殊戦艦の配置までは」
「いいから調べなさい!」
「それは出来ません。私は、ここの受付で、そのようなデータにアクセスする権限は御座いません」
「じゃぁ何処に行けば解るのよ!」
「さぁ?それよりも、77師団に行かれた方が宜しいのでは?どちらにしても受け入れ先に行かない事には、何の手続きも出来ませんよ?」
「解ったわよ!」
ミサトは礼も言わず、受付嬢を睨み付けると、ドカドカと去って行った。
受付嬢はニヤリと笑うと、受付に戻り何処かに連絡を取る。
「はい、連絡が来ていた通りの人物が来ました。予定通りの対応を致しましたので第77師団に向かうと思われます」
受話器を置いた受付嬢の前には、ディスプレイにミサトの顔と、色々な情報が映し出されていた。
これはアンタレスからもたらされた情報である。
配属先もアンタレスの意向があり、その対応も通達されていた。
アンタレスもミサト一人に星団全体の品位を落とされる事を懸念したのだ。
勿論、アンタレスに打診したのはゲンドウである。
「でも以外だったわ」
「何がだい?」
珍しくリツコの執務室で加持がコーヒーを振舞われている。
何かにつけて情報を取得しようとする加持をリツコは敬遠していたが、ミサトが居なくなったために少し緊張感が解れたのかも知れない。
「貴方がミサトを唆してNERVから離れされるとは思わなかったわ」
「おぃおぃ、人聞きの悪い事を言わないでくれよ。俺は拘る必要は無いだろって言っただけさ」
相変わらず飄々とした態度でその真意を見せない。
(何を考えているか知らないけど、ミサトが居なくなったのは負担が減った事に変わりは無いわね)
「そう?」
考えている事とは裏腹にリツコは加持にニッコリと微笑む。
流石の加持も、屈託のないリツコの笑顔に少し見惚れてしまった。
とその時、ブンと言う音と共に周りの電源が落ち、非常灯が点灯する。
「あら?停電?」
リツコは非常灯の明かりの中、インターフォンを押して発令所と連絡を取った。
それを加持は唖然とした表情で見ている。
その表情でリツコは概ね何が起こったのかを理解した。
「マヤ?何が起こったの?」
「はい、外部からの電源が正副予備を含め落とされました。第三新東京市全体が停電状態です」
「そう、じゃぁ旗艦動力に切り替えて、後、青葉君に至急諜報部と警備部を総動員させて事の対処に当たらせるように言って頂戴」
「はい、了解しました」
マヤの返事と共に明かりが元に戻る。
「ど、どう言う事だい?リっちゃん」
「どう言う事って?」
「いや、停電なのにインターフォンが通じたり、すぐ回復したり」
「あら、そんな事?MAGIは旗艦なのよ?外部電源がなくても機能するわ」
その答えに加持は、青褪めた顔をしている。
「あんまりオイタは控えるのね。そのうち本当の首が飛ぶわよ」
「…あぁ、肝に命じておくよ。コーヒーご馳走様」
そう言って加持はリツコの執務室を後にした。
「アリバイ工作は終ったってところね」
リツコはニヤリと微笑むと、端末に向かった。
マナは、自分の執務室で端末と睨めっこしている時に停電が起こった。
しかし、慌てる事なくインターフォンにて連絡を取る。
インターフォンに応答したのは、日向であった。
「何があったの?」
「はい、外部からの電源が正副予備を含め落とされました。第三新東京市全体が停電状態です」
「そう、でもインターフォンが使えると言う事は、それ程緊迫していないと言う事かな?」
「その通りです。今赤木博士から旗艦動力に切り替えるように指示がありました」
その応答と共に、執務室の明かりが元通りになる。
「じゃぁ後は諜報部か警備部の仕事ね」
「はい、それも今赤木博士からの指示でマコト…青葉中尉が指示を出しているところです」
「そう、私の出る幕はないわね。それじゃ何かあったら連絡頂戴」
「了解しました」
「ノンノン、何度言えば解るのかな?」
「あっ…イ、イエスマナ」
「宜しい、それじゃ後宜しく」
「はい!」
インターフォンを切り、マナは微笑む。
「まぁ現場より事務員に近いから仕方ないか」
そう呟くくとマナは再び端末に向かった。
発令所の一番高い所で何をするでもなく、前を見詰める二人。
「やはり、ブレーカーは落ちたと言うよりは落とされたと考えるべきだな」
「…所詮、人間の敵は人間、ということか」
二人がそんな話をしている間に、インターフォンからの指示で旗艦動力に切り替え元の状態にすぐさま復旧する発令所。
二人にもインターフォンの声は聞こえている。
「彼女達は優秀だな」
「・・・あぁ」
「しかし、ここを停電にしてどうするつもりだ?」
「・・・復旧ルートから内部構成でも割り出そうとしたのでしょうが、所詮宇宙に眼を向けられない奴らです」
「旗艦のなんたるかも解ってないか…」
「・・・ここを攻め込んでも旗艦が発進してしまえば意味が無いこともです」
「地上の職員を見捨てるのか?」
「・・・その時はそうなるでしょう」
「まぁ突然にと言うこともないだろうがな」
「・・・そう、遠くない未来でもあります」
「こうしてみると、葛城君は邪魔にしかなってなかったのではないかと思えるよ」
「・・・あぁ」
「我々も不要ではないのか?」
「・・・ふっ、問題ない」
「本気で言ってるのか?その席にシンジ君が座るのはそう遠くない未来だと思うぞ」
「・・・冬月、裏切るのか?」
「俺は単なる宮仕えさ、上が挿げ変わろうが大した意味はない」
「・・・冬月、後を頼む」
「待て、何処へ行くつもりだ?」
「・・・自分の部屋ですよ」
「お前の魂胆は解っているぞ」
「・・・先生、ご一緒しますか?」
「お前は都合が悪くなると俺の事を先生と呼ぶ」
「・・・良い羊羹が手に入ってますよ」
「渋いお茶も頼むぞ」
「・・・良い抹茶が有ります」
むさくるしい男二人が発令所から音も無く消えていく。
NERVは以外と平和であった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。