第拾弐話
真価
「う〜〜〜ん」
茶髪のショートヘアに少し垂れ眼な愛らしい顔が、モニターを凝視して唸っている。
歳の頃なら十代後半と言っても通じるであろう。
しかし、その眉間に寄せた皺と真剣な眼差し、着ている制服は真紅の士官コート。
その肩章は、中佐である事を示している。
ディスプレイに映るのは今までの戦闘記録。
その傍らでは、シンジやレイの経歴。
マナは、今回引き連れて来た3人とのフォーメーションを検討中であった。
マナから見た碇シンジの評価は高い。
そもそもマユミを見出し四号機の艦長にしたのはマナであったのだ。
マナの人を見る眼は、かなり長けていると言えるだろう。
シンジは、戦果もさることながら状況判断が、マナの価値観と合っていた。
これは、戦術を立てる上でかなり重要だ。
価値観の違う兵士に自分の戦術を遂行させるためには、それなりの説得が必要となる。
もしくは絶対的権力による強行命令。
しかし、いざと言う時にこれらは意味を成さなくなる。
簡単な例では、指揮官と通信が途絶えた時の自己判断などである。
それよりも、切羽詰った時に取る行動の方が厄介なのだが、どちらにしても、マナに取ってこれは朗報に違いなかった。
綾波レイについては、判断を保留した。
確定するだけの情報がなく、現状はシンジが艦長でレイが副艦長であるためだ。
この関係に於いてレイの存在に不安は無い。
ならば、上官であるシンジに一任しておけば良いとマナは結論付けたのだ。
「強すぎる…」
マナは編隊構成を考えていた。
編隊を取る上で、各々の技量は均衡していた方がバランスが取れる。
少々の差であれば、合わせれば済む。
しかし、マナの眼からみてシンジの力、初号機の力は逸脱していた。
マユミも機体の力としては、ムサシやケイタより上なのだが、その性格とマナが同乗する事が多いため、後方からの支援及び、最後の切り札として今までやってきた。
だが、シンジの力を後方に置くには、その力は魅力的過ぎる。
かと言ってフォワードにすると、ムサシやケイタでは付いて行けないだろう。
そこに以ってアスカの存在である。
アスカ程の技量ならムサシやケイタでも充分チームとして均衡が取れる。
当然、独断専行や、自分勝手な行動を取るだろうが、それでもムサシやケイタがフォロー出来るレベルだ。
逆に言えば、アスカはそれ程までに技量が逸脱しているわけではないと言う事である。
マナが思考に耽っていると、プシューッと言う音と共に扉が開いた。
そこに立っているのは、赤いジャケットにセミロングの女性。
「なんだ葛城、何か用か?」
ミサトは一瞬呆けた顔をすると苦虫を噛み潰したような顔をして退出していく。
そう、ここは、元ミサトの執務室だったのだ。
本来、部長職以上にしか個室の執務室は与えられないのだが、作戦部長が不在であったためミサトが勝手に使っていたのである。
そして、現在の作戦部長は、霧島マナ。
正規のこの部屋の使用者であった。
フンとマナは鼻を鳴らすと、再び思考に耽って行く。
マナに取ってミサトなど眼中にないのであった。
「そうだ!良い事思いついたっと!」
マナはポンと手を叩くと、端末の電源を切り、執務室を飛び出して行った。
「ノックぐらいしなさいと何度言えば解るのかしら?」
昨夜、ミサトは異動を言い渡されたのにも関らず、自分の荷物の整理も行わないまま、自棄酒に出掛けたのだ。
そして二日酔いの朦朧とした頭で出勤し、いつものように自分の執務室に向かったのである。
そして、そこに居る先客の容姿を確認し、一気に眼が醒めたのであった。
流石にそこでマナに突っ掛かるわけには行かず、鬱憤をぶちまけにリツコの執務室へ大股で遣って来たのだ。
そしてノックもせずに入ったところで、リツコの洗礼を受けたのである。
「ちょっと聞いてよ!リツコ!」
「私は忙しいの、貴女の愚痴を聞いている暇はないわ」
しかし、ミサトはリツコの厭味もものともせず、捲し立てる。
「あの餓鬼ときたら、もうアタシの執務室に我が物顔で居座ってるのよ!」
「あの餓鬼?」
「鋼鉄娘よ!」
「鋼鉄娘?」
「鋼鉄のマナ!貧乳のいけ好かない餓鬼よ!」
「貴女ねぇ…彼女は辞令を受けた作戦部長よ?そもそも部長が空席だからって貴女が勝手に使ってただけでしょ?元々、貴女の執務室じゃないのよ?」
「ぐっ…そりはそうだけど…」
「それより、貴女は新しい勤務場所に行かなくて良いのかしら?何課になるのか知らないけど、諜報部は時間に煩いわよ?」
「だ〜ぃじょぶ、だいじょぶ。諜報部なんて大した仕事ないんだから」
貴女よりは遥かに忙しいわよとリツコは心の中で呟いた。
この鬱陶しい友人を追い払うには、適当な餌を与えるのが一番だが、作戦部を外されたミサトに有効な餌は、リツコには思い浮かばなかった。
「大体、アタシが作戦部から居なくなって困るのはNERVだって言うの」
我が物顔で、コーヒーを淹れているミサトを視界の端に追いやり、リツコは端末を操作する。
別段いつもの事なのでミサトは気にした風も無いが、リツコは諜報部に連絡を入れていたのだ。
程なくして、諜報部の精鋭に両脇を固められミサトは退室していった。
「・・・まぁどうでも良いけど、命拾いしたわねミサト」
リツコの呟きを聞き止める者は居ない。
ミサトの居なくなった執務室ではリツコが打つキーボードの音だけが響いていた。
「おりょ?」
意気込み勇んでパイロットルームに入って来たマナは、蛻の殻だったために素頓狂な声を上げた。
下顎に、人差し指を当て、少し上を見ていたマナは、ポンと手を打つと執務室を後にした時と同様に飛び出して行った。
マナが目指したのは、食堂であった。
そう、既に昼食時。
NERV職員でごった返す食堂の一角、士官用の扉をマナは開くと、そこに目当ての人物達が居た。
士官用と言っても、結構な人数が居る。
特に食事に違いがあるわけではなく、単に、生徒用と教職員用に別れているような物だ。
出入りの業者等も利用するため、隔離されているに過ぎない。
一応、目当ての人物達を見つけたマナだったが、軽く溜息を吐くと、自分も適当に食事をトレイに乗せ、会計を済ましてアスカの前に座った。
ムサシとケイタとマユミは、シンジとレイの席に陣取っている。
別に除者とかにする人間達では無いため、多分アスカの方が入らなかったのだろうと当りを付けた。
「どうした?皆とは一緒に食べないのか?」
「馴れ合う気が無いだけです」
流石のアスカもマナに突っ掛かるような事はしない。
「そうか。奴らが嫌いか?」
マナの言葉にアスカは、下唇を噛み締める。
「嫌いな人間とチームを組む事は戦場に於いて珍しい事では無いぞ」
「解っています」
「なら良い。午後一でミーティングを行う。エスケープするなよ」
「・・・了解しました。失礼します」
アスカは、そう言うと半分も食べて居ないトレイを持ってその場を後にした。
マナは、また一つ溜息を吐くと、食べ掛けのトレイを持ってシンジ達の席へと移動した。
「シンジくぅん。アスカを虐めちゃ駄目じゃなぁい?」
「ぼ、僕がですか?」
「だぁってシンジ君がここで一番階級が上だもの」
「いや、食事中に階級は関係ないでしょ?」
「うむ確かにシンジの責任だな」
「なっ!ムサシ、僕を売るつもり?」
「いやいや、これは正当な判断だ。なぁケイタ」
「僕達は誘ったからね」
「いや、だってあからさまに敵意の篭った目で睨まれるから…」
「それを何とかしようとするのが上官と言うものだ」
「僕にどうしろって言うのさ」
「円滑なチームワーク。これこそが貴様の急務だ」
「それが上官に言う言葉?」
「食事中に階級は関係ないと言ったのは貴様だ」
「ムサシぃ〜っ」
「はっ!何でありましょうか?マナ中佐殿!」
「マナちゃんの楽しみを取らない!」
バコッと言う音とともに、ムサシが蹲る。
横には丁度ムサシの頭の形に凹んだトレイがマナの手に握り締められていた。
それも縦に。
「楽しみって…」とシンジが冷や汗を流していたのは、お約束だ。
「まぁどっちにしても午後一でミーティングを行うわ。今のままじゃフォーメーションも定まらないからね」
「ミーティングですか?」
「そう、色々とね聞いておきたい事とかあるわけよ。お解り?」
バチンと音がしそうなウィンクを受けシンジが冷や汗を流し、ムサシとケイタがニヤニヤしていたのもお約束である。
その状況でもレイは、我関せずと黙々と食事を摂っていたのも何時もの事である。
マユミは、ニコニコと成り行きを見守っている。
あまり狭くないミーティングルーム。
マナを入れ、7人を収容したその部屋は、マナ以外唸っている。
まずマナは、シンジがここへ来てからの戦闘記録をプロジェクターに映し出した。
戦力と関係ないところは飛ばしたが、それでもミサトの声などは入っている。
各エヴァ搭載のレコーダでは、単一の視点でしか見えないため、どうしても発令所で保存された物になったためだ。
その後、今後の戦術として各自の考えをフリートークとし、コンセンサスを取ろうとしたのだ。
そのため、今は全員、言葉を思案中と言うところだろう。
最初に手を上げたのはレイだった。
「はい、綾波君どうぞ」
「・・・フォーメーションの検討と言う事ですが、具体的に予測される戦況はどのような物でしょうか?」
鈴の鳴るような声にムサシとケイタは顔を赤らめている。
アスカは、そんな事も解らないのかと言う眼で見ていた。
「うむ、そうだな、アスカ?どう考える?」
「そんなの、敵が攻めて来るんだから迎撃に決ってるじゃない…と思います」
血気盛んに喚こうとするが、マナの冷たい視線に尻すぼみとなるアスカ。
「・・・今の所、敵生態は一体での襲撃しか行われておりません。しかし、前回はこちらから襲撃しました。また、今後も一体ずつの来襲である保障は有りません」
「確かにそうだな」
アスカの回答に対し、アスカの方を一瞥もせずにレイは言い放ち、またマナも肯定した。
自分が思慮浅はかだと言われた気がして、喚き出しそうだったが、マナの視線に制される。
「で、シンジ君は、どう考えるのかな?」
アスカの時とは全く違う猫撫で声でシンジに意見を求めるマナ。
その顔はチェシャ猫のようだが、何故かアスカが震えている。
「やっぱり、今迄通りスクランブルが主だと思います。まず敵生態の基地らしきものは確認されておりません。また、何故か解りませんが急に発見される事が多いのも理由です。後は、人数が増えた事でローテーションによる迎撃体制を考えるべきでしょう。それと全戦力を以って当たる時の迎撃体制ですね」
マナは、その答えにうんうんと満足そうに頷く。
「中々、優等生的な回答ね。ただ今の戦力では、分ける事は不可能」
「なんでよ!…ですか?」
「まず、殲滅実績がシンジ君しかないわ。ATフィールドについては前回マユミもアスカも張れる事は確認出来たけど、殲滅となるとね?マユミは殲滅出来る?」
「はっきり言って自信は無いです。前回、不意打ちで主砲を放ったにも係らず敵生態は進路を変えただけでしたし、碇さん達がATフィールドを中和してくれていたにも係らず殲滅に至りませんでした」
アスカはふんと鼻で息を吐き出している。
自分が助けて貰った事を忘れているのか、認められないのか。
「流石に冷静な観察眼ね。よって暫くは全戦力による迎撃体制を主体とします。当面その方向でフォーメーションを検討して頂戴」
「そうなると、俺らが先方だな」
「アタシがやるわ!」
「成る程、アスカは先方で構わないのだな」
「ふん!後衛なんて出る前に殲滅してやるわよ!」
「解った。では、アスカを先方にムサシとケイタが補助、マユミとシンジ君が後衛と言う事で良いかしら」
「僕は構いませんよ」
「私も異論は有りません」
「レイちゃんは?」
「・・・艦長に従います」
「OK、じゃぁ次のスクランブルは、アスカ、ムサシ、ケイタで先発、時間差でマユミ、シンジ君と言う順で発進、フォーメーションは当然1(ワン)・2(ツー)・2(ツー)の五機編成ね」
「ふん、あんた達、ちゃんと付いてきなさいよ」
「アスカ」
「何よ!…ですか?」
「貴女が一番階級が低い事を理解しているかしら?階級を蔑ろにするなら外れて貰うわよ」
「くっ…す、すみません…でした」
「でも良かったんですか?」
「何が?」
編成が決った事でミーティングは終了したが、シンジは皆が出て行くのを待ってマナに話し掛けた。
マナは、机の上に腰掛けると足を組みミニスカートから剥き出しになった膝に肘を付き、頬杖を付いた形で上目遣いにシンジを見上げた。
レイはシンジを待って残っている。
「惣流さんの事ですけど」
「階級の低い者が先陣なのは当然じゃない?」
「ですが、彼女は独断先行の傾向があります」
「確かにね。でも彼女を後衛に出来る?」
「真打は最後に出る物だとか言えば」
「それはそれで、何時までもあの調子よ?」
「じゃぁ今回の件は自分から先陣になると言わせるために?」
「ご名答。まぁアンタレスでは皆あんな感じよ。自分が戦果を挙げたいから先陣に成りたがるわ」
「それでまた独断先行されて部隊が危険になったら…」
「後衛から独断先行されるよりましよ。ムサシとケイタはそんなに柔じゃないしね」
組み替えた足の付け根に白い物が覗く。
普段は長いコートのためにそんな物は見えないが、一段高い机の上に腰掛けて、今はコートの前も肌蹴ているため、丸見えに近い。
「な、何かな?レイちゃん」
マナはここに来て漸く紅い瞳がじっと自分を見詰めている事に気が付いた。
無表情なレイにじっと見詰められると、流石のマナも気後れしてしまう。
「・・・下着にしては分厚い」
「あぁ、これはスパッツみたいなものよ」
そう言って、マナはスカートを捲り挙げた。
「なっ!マナさん!」
「別に見られても構わない物よ」
マナは見られても構わないと言うが、それはレオタードのような物でピッタリと体の線に張り付いており、シンジとしては眼のやり場に困る事に変わりはない。
「・・・そう、騙して男を誘惑しているのね」
「騙してないし、誘惑もしてないわよ。マナちゃんの脚線美を見えなくするのは全宇宙の損失よ。サービスサービス」
「・・・コートは長いわ」
「あまり安売りしてもありがた味が無くなるからね」
「・・・そう言うもの?」
「そう言うものよ」
何故か納得したレイにシンジは理不尽な圧迫を感じていた。
マナは何が楽しいのかニヤニヤしている。
実は、レイは下着をあまり付けない。
プラグスーツは下着を付けないし、NERVに来る時は粗プラグスーツの上に艦長コートを羽織っているためだ。
『霧島作戦部長、至急、発令所へお越し下さい。繰り返します、霧島作戦部長、至急、発令所へお越し下さい』
聞き覚えのある声で館内放送が流れた。
「ありゃ?また何か見つけたかな?何時でもスクランブル出来るように伝えておいて」
「了解」
「チッチッチ、何度言えば解るかなぁ」
「い、イエスマナ」
シンジの言葉にニッコリと微笑むとマナは発令所へ向かった。
「お〜い!ちょい、待ってくれぇ!」
男がそう叫び、なおかつ駆けつけてくるのに、エレベーターは無情にもそのドアを閉じようとしていた。
ドアとドアの隙間にわずか手を差し込み、エレベーターのドアの安全機構を利用して、男は、なんとかミサトの乗るエレベーターに間に合うことが出来た。
「こんちこれまた、御機嫌斜めだね」
ドアに手をかけたまま、加持は涼しい顔でそうミサトに言う。
「あんたの顔、見たからよ」
「つれないねぇ」
「それより、あんた一体いつまでここにいるつもり?」
顔をムッとしかめて、ほとんど言いがかり的な内容と口調でくってかかるミサト。
「辞令がまた出るまで…だな」
さらりと加持は受け流す。
「そうツンケンするなよ、お互い疲れるだけだろ?」
「ふん…勝手でしょ」
ぷい、とそっぽを向き、思い出したようにミサトは言い放った。
「いつまでもドア押さえてないで、さっさと乗ってよ」
「へいへい、お許しを得ましたからね」
そういって加持が手を離すなり、ドアが閉まって行く。
『霧島作戦部長、至急、発令所へお越し下さい。繰り返します、霧島作戦部長、至急、発令所へお越し下さい』
その館内放送を聴きミサトは唇を噛締めていた。
本来であれば、この呼び出しを受けるのは自分だったはず。
ミサトは現状の階を確認すると、一番近い階のボタンを押す。
「何処へ行くつもりだ?葛城」
「決ってるでしょ!発令所よ!」
「何をしに?諜報部所属のお前は、発令所に入る権限は無いぞ?」
「有事の際は、諜報部と作戦部は連携を取らなければいけないでしょ!」
「それは違うな」
「何がよ!」
「お前が作戦課長の時、諜報部の人間を発令所に呼んだ事があるのか?諜報部は常に情報を提供する部署で、有事だからと言って作戦には関係ないぞ」
「くっ・・・」
「それよりも、葛城、何故NERVに拘る?俺の仕入れた情報に寄ればエヴァは六号機までロールアウトしているぞ?何号機まで建造中か解らないが、近々ロールアウトする機体もあるんじゃないのか?」
「だから何よ!」
「霧島マナは四号機と共にNERVにやって来た」
「はっ!」
「加持!それ何処で調べられる?」
「ちっとは諜報部の仕事をまともにやれよ。諜報部のデータベースにそれぐらい入ってるだろ」
ミサトの瞳に危ないものが宿る。
単なる親切心で加持が情報を与えたのか、或いは…。
「蜘蛛と言うか海栗と言うか、どうやって推進力を得ているのかしら」
「全くの不明よ」
発令所のメインスクリーンには、複数の細い足とも触覚とも付かない長い物を生やし、眼のような物が存在する物体が映し出されていた。
マナの呟きにリツコが答えているが、さしたる情報もないままである。
「速度はそれ程でもありませんが、真っ直ぐこちらに向かっています」
マヤが今迄の進路から予測される進路を映し出す。
「第一種戦闘配置発令、スクランブルによる迎撃を行う。エヴァを含む特殊戦艦は全艦発進準備!5分後に弐号機、紫電、雷電を発進、その2分後に初号機、四号機を発進」
紫電とはケイタの特殊戦艦、雷電はムサシの特殊戦艦の名前である。
「日向、戦艦接触前まで、可能な限りの攻撃を。その情報は逐一四号機に。スクランブルの邪魔はさせないで」
「はい、マナ部長は?」
「勿論、四号機で出る」
「ここからでも指揮は出来ますが?」
「タイムラグが有り過ぎる、私は戦術指揮官だ」
「はっ!」
赤いコートを翻し、マナは発令所を後にする。
その遅滞ない指示と行動にリツコは、流石ねと呟いていた。
「先手必勝ぉ〜っ!」
アスカがスマッシュホークで一直線に敵生態に突っ込んでいく。
しかし、オレンジ色の壁に阻まれ、敵生態に触れる事さえ出来ないで居た。
「アスカ、戻れ。体制を立て直す」
「くっ…了解」
そしてアスカを先頭に3角形を描く陣営で対峙。
「スクランブル中に発令所から行われた攻撃により、敵生態は溶解液を飛ばしてくる。赤木博士によると、ATフィールドでコーティングされているそうだ」
「これよりエヴァ3機により敵生態のATフィールドを中和。アスカ、ムサシ、ケイタで波状攻撃を開始する。深追いはするな。敵の攻撃が避けられる距離を保て。初号機は援護射撃、以上だ。作戦開始」
「「「イエスマナ」」」
「マユミ、主砲の準備だ」
「イエスマナ」
「でも、主砲でも留めがさせるとは思えませんが…」
「敵生態と同じ事をやってみてくれ」
「え?」
「主砲をATフィールドでコーティングだ」
「はっ!了解です。流石マナさん。眼の付け所が違いますね」
「無駄口を叩くな。後で虐めるぞ?」
ニヤリとしたマナの顔に、背筋に悪寒が走ったマユミは急いで艦長席をスライドさせた。
(碇さん、マユミもお役に立てそうです)
マユミはゆっくりと眼を開くとシンクロを開始した。
「ちっ、こんなんじゃ埒があかないわよ!」
先ほどから、敵生態に着弾はしているのだが、致命傷とは成り得ていない。
着弾していると言う事はATフィールドの中和は行われている。
アスカは再度スマッシュホークを装填した。
「「アスカ!」」
いち早くアスカの行動を察知したムサシとケイタは、止めようとするが、アスカは聞く耳を持たない。
しかし、今度は、敵生態に接近したために弐号機に溶解液の塊が迫る。
「くっ、そんな物で止められると思ってるの!」
スマッシュホークに直撃した溶解液は霧散するが、スマッシュホークも無傷ではなかった。
半分以上が崩れ去る。
「戻れ、アスカ」
「くっ…了解」
静かなマナの命令に、アスカも従わざるを得なかった。
アスカの後退と同時に銀色の螺旋の光が敵生態を打ち抜く。
「「ヒューッ!」」
その威力にムサシとケイタは、今までと同じ安堵感を得、アスカはまた敗北感を味わった。
「今回はシンジの出番が無かったな」
「マユミさん、凄いね。どうやったの?」
「あっ、はい。マナさんからの提案で、主砲をATフィールドでコーティングしました」
「そんな事が出来るなんて凄いね」
シンジの言葉にマユミは嬉しそうに微笑む。
「よしっ!ミッション終了。帰還する」
「「「「イエスマナ」」」」
「ふぅっ、取敢えずこれで2交代制は取れるけど、そんなことしたらマユミが怒るわね」
マナは、艦長席で嬉しそうにしているマユミを盗み見て呟いていた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。