第拾壱話
援軍
「これは確かなの?」
「はい、金星の自転に合わせてATフィールドが観測されています」
リツコがマヤの報告を真剣に検討していた。
静止衛星のチェック時に僅かではあるが、ATフィールドを検知し、その詳細をマヤは調査しリツコに報告したのだ。
あまりにも微弱且つ短時間のため、警報は鳴っていない。
加えて言うなら、マヤでなければ見逃していた可能性が高かった。
リツコの検討課題は、この情報をどこに持っていくかだ。
一番簡単なのは司令部である。
ゲンドウか冬月に投げてしまえば、それなりの処置は講じるだろう。
しかし、それでは芸が無いと言うものだ。
今現在、作戦課はマコトが課長代理であるため、順当に考えればレイに報告すべきだが、それは司令部に報告する事にワンクッション置くだけとなる。
であれば、シンジかアスカとなるが、シンジは未知数だ。
アスカは解り易い。
多分、即効でエヴァの発進準備を行い平行してマコト辺りを焚き付けて迎撃に乗り出すだろう。
そして、ジョーカーと言えるのか、一番暴走してくれるのがミサトだ。
ミサトは、作戦課長の任を解かれ、アンタレス星団軍への帰還を言い渡されたが、どうやら向こうで受け入れを拒否されたらしい。
現在は、自室謹慎中である。
ミサトに情報を流せば、アスカと一緒に金星に行く可能性が高い。
戦闘になったらどうするかなどと後の事など考えずに行くだろう。
当然、シンジやレイには相談する事すらせず、寧ろ隠して行動するはずだ。
(さて、吉と出るか凶と出るか…)
ミサトの能力をリツコはそれ程低くは見て居なかった。
ただ、直情型であり、自分を無視される事を極端に恐れるミサトは、人を認められないのだ。
この辺りはアンタレス星団特有の文化なのか教育なのか、アスカにも同じ傾向がある。
自らの意識の中で他人は、皆無能、自分だけが有能なのである。
だから、人の意見を聴かない。人の話を聴かない。
人の功績は、自分ならもっと上手くやれたと思う。
後から評価して更に良い行動を考えるのは、簡単だ。
自分の失敗は、自分以外の原因とする。
そうすることにより、自分は有能だと信じ続ける事が出来るのだ。
だが、それ故に猪突猛進。
自分を信じ、成功しか思い浮かべない。
これは、軍隊指揮官に取って、有る意味諸刃の剣である。
命を掛けた戦いに、迷っている指揮官の言葉では統制が取れない。
例え間違った指示だとしても、それを自信満々に命令されれば、兵士は従うのだ。
「アスカ!行くわよ!」
「行くって、何処に?」
「勿論、演習よ」
リツコから情報を仕入れたミサトは、日向に泣き付き、なんとかアスカの演習を実現させた。
それも金星方面にだ。
何故か、許可が下りたそれにマコトは首を傾げつつも、ミサトに演習随行を許したのだ。
実は、これも裏からリツコの手が回されていたのである。
リツコとしては、ミサトに最後のチャンスを授けたぐらいの気持ちである。
ゲンドウも、どうせアンタレス星団は受け入れなかったのだから、精々役に立って貰おうと言うところだ。
大々的に調査を行うとなれば、様々な調整に対する時間とお金が掛かるのである。
演習中に偶々敵と遭遇、殲滅へ移行と言う事であれば、かなりな時間の節約となるのであった。
「日向さん、本当に良いんですか?」
「え?あぁ上層部の許可も取ったし、問題ないと思うよ」
「私は知りませんからね?」
『ちょっと、マヤちゃん、早く発進準備して頂戴よ!』
「・・・了解」
マコトとヒソヒソ話をしていたマヤだったが、通信でミサトから急かされたため、しょうがないとばかりに、発進準備に取り掛かる。
「緊急発進ではありませんので、通常ルートから射出をお願いします」
『はいはぁ〜い。解ってるって』
ふぅっと溜息を吐き、マコトを睨みながら、マヤは発進準備を始めた。
マコトは理不尽なマヤの視線に、冷や汗を流しながらオペレートを行っている。
「ケイジ内注水開始、第六ゲートオープン!湖面への進路、ルート5を使用」
『了解』
今度はアスカの復唱が返ってきた。
流石に、稼動に入ってからも邪魔をすると言う事は無いようだ。
発令所に居たら、下らない茶々の一つも入れただろうが、それをする本人が今は射出する側である。
「二号機、湖面着水を確認、ジオフロントオープン。発進許可」
『了解、二号機発進します』
緊急発進とは違う、ゆったりとした動作で二号機は発進して行く。
ジオフロントを出た二号機は、一気に加速して行った。
「二号機、第一宇宙速度まで、後10秒。9・8・7…」
マヤの可愛らしい声でカウントダウンが発令所内に響く。
「3・2・1…二号機、大気圏離脱しました。以後の通信は、緊急連絡または定期連絡となります。以上、健闘を祈ります」
『ありがとう。お土産買ってくるからねん』
ミサトのジョークにがっくりと項垂れるマヤ。
その目は「買ってこれるものなら買ってきてみろ!」と雄弁に語っていた。
「それで、性懲りも無くまた独断先行と言う訳ですか…」
「あら?随分ミサトも嫌われたものね」
リツコは、話の筋を通すつもりでシンジ達に説明に来ていた。
最初に来た時から随分変わったなと、リツコは感じていた。
「別に、毛嫌いしているわけではありませんよ。ただ、その付けをこちらに払わせないで欲しいだけです」
それは、そうだろう。
シンジとしては再三に渡り、ミサトの付けを払わされているのである。
シンジに言わせれば、二度と作れない零号機の損失だけでも、充分に軍法会議物であるのだ。
勝手が解らずに、レイを危険な目に合わせた事が悔やまれる。
自分がもっとしっかりしていればと、相変わらずの内罰的思考はあるものの、軍人としてそれなりの地位にあるシンジは、組織的人事についても一応の知識はあった。
その中でもミサトの処遇は、あまりにも甘い物だと思われていたのだ。
「ふふ、それもそうね。でも、今回は悪いけど作戦なのよ」
「リツコさんのですか?」
(相変わらず痛い所を突いてくるわね…)
「私は情報を渡しただけよ。作戦を立てたのは、司令」
「まぁ、その辺りは追求しません。それで僕にどうしろと?」
「察しが良いわね。もしもの時の保険よ」
「間を置いて出発しろと?そうなるとここの防御が疎かになりませんか?」
「それもあってね。大気圏外付近で待機して貰うのが妥当かと思うのだけど、どうかしら?」
「確かに、大気圏を出ていれば、エヴァなら金星まではすぐですが、それでも十分以上掛かりますよ?」
「援軍が来るまでの時間ぐらい稼げなければ、それこそお払い箱よ」
「最後のチャンスと言う事ですか…」
「お願い出来るかしら?」
「命令…じゃないんですか?」
「ふふ、私には、貴方に命令する権限はないわよ」
「綾波は?」
「あの娘は、貴方が艦長だと言うわね」
「確かに…解りました。十分後に発進します」
「助かるわ」
「行こう、綾波」
「・・・了解」
黒と白の艦長コートを翻し、部屋を後にする二人をリツコは微笑んで見ていた。
金星。
太陽を中心とした太陽系で二番目に太陽に近い星。
そして地球に尤も酷似した惑星と言われている。
灼熱の星と勘違いされているが、金星の地表はそれ程高温ではない。
それでも400度程度はあるのだが、それでもイメージされている灼熱地獄からは程遠いと言えるだろう。
「美の女神の名を持つ星だけど、どちらかといえば死の星ね」
ミサトの呟きに反応せず、アスカは計器による計測値に眼を凝らしていた。
スーパーローテーションと呼ばれる4日で金星を一周する強い風と、二酸化硫黄の雲とそこから降り注ぐ硫酸の雨に遮られ、金星の表面を観測するのは困難である。
「ちょっと厄介ね」
「あによ〜ちゃちゃっと降りて調べれば済むんじゃないの?」
「あんたねぇ〜硫酸の雨の中に飛び込めって言うの?」
「な、何よそれ!」
「仮にもあんたの所属してる星域内の惑星の事でしょ?そんな事も知らずに来たって言うの?」
「だ、だって私は作戦課で観測は仕事じゃないし…」
ミサトの言葉は、アスカのジト眼で遮られた。
アスカは観測のため、金星の基礎データをデーターベースから落としたに過ぎないのだが、自らが所属する星域、それも居住惑星の隣の惑星の話である。
その基礎データを知らないと言うのは、作戦課と言えど、あまりにお粗末と言わざるを得ない。
その時、ブリッジ内に警報が鳴り響いた。
「何?!どうしたの?アスカ!」
「高密度エネルギー接近!ミサト!どっかに掴まってて!避けるわよ!」
「どう言う事よ!」
「煩い!取り舵一杯!全速離脱!」
ブリッジからの操舵は、艦長であるアスカの技量のみに委ねられる。
エントリーしてしまえば思考操作なのだが、ここでは、マニュアル操作に等しい。
アスカは、全速離脱までのコマンドを打ち終えると、そのまま艦長席をスライドさせる。
アスカの移動と共に電源が落とされるブリッジ。
ミサトは、またも何も出来ないのかと歯噛みした。
その時、一つのコンソールが点灯する。
真っ暗なブリッジの中、ミサトはそのコンソールを覗き込んだ。
「あ、アスカ?」
「何よ」
「なんでエヴァでエントリーしてるのに繋がってるの?」
「初号機や零号機は知らないけど、二号機以降は、エントリー中も誰かがブリッジに居る事を考慮されているのよ」
「そ、そうだったの?リツコめ、仕事サボってたわね」
「あんた馬鹿ぁ?」
「な、何よ!」
「そんな事より、本部への連絡は任せるわよ!」
「わ、解ったわよ」
これは、アスカが未熟であったためにアンタレス星団軍に居た時に施された処置であったのだ。
戦術に長けた者を同乗させ、アスカの戦艦艦長としての技量を鍛えるための処置。
だからアスカは、ミサトを馬鹿にはしたが、その内容に触れようとはしなかった。
そもそも自軍の開発内容をおいそれと他軍に伝える事は無い。
それを以ってミサトを馬鹿にしたのだが、その内容を告げるにはアスカのプライドが邪魔をしたのである。
アスカに本部への連絡を託されたミサトであったが、未だ通信は行われていない。
ミサトの中では、現在色々な計算が成されていたのだ。
アスカの戦闘技術には疑う余地は無い。
問題はATフィールド。
アスカがATフィールドさえ中和出来たなら負ける事は無い。
「アスカ!ATフィールドは張れる?」
「そんな余裕ないわよ」
アスカの静かな言葉にコンソールに眼をやったミサトは、眼を見開いた。
そこには、古代生物アノマロカリスを想起させる物体が金星から姿を現していた。
「金星表層部にパターン青確認!」
「総員第一種戦闘配置!」
その頃、地球にあるNERV本部発令所は喧騒に包まれていた。
「なんてこと!計算より早いわ!初号機の現在位置は?!」
「はい!現在、大気圏を突破、慣性飛行で金星へ向かっています」
「シンジ君!」
『了解』
発令所の喧騒を傍受していたシンジは、リツコの言葉に壇上の髭面が頷いたのを確認すると、すかさずエントリーを行う。
「碇、間に合うのか?」
「・・・問題ない」
相変わらずの不敵なゲンドウの笑みに、冬月は溜息を漏らす以外に対策は無かった。
「くっ!なんなんよ!こいつは!」
「金星の高温に耐え、硫酸の雨を物ともせずに出てきた奴よ。通常兵器は効かないわね」
「だったらどうしろって言うのよ!」
「兎に角、避けながらATフィールドを張る練習ね」
「簡単に言ってくれる!」
「こればっかりは仕方ないわ」
アスカは体当たりと、熱エネルギーによる攻撃を避けながらATフィールドを張る努力を行うが、バリヤーみたいな物と認識しているアスカには上手く行かない。
しかもATフィールドの検証のために攻撃をギリギリでかわしているのだ。
「くっ!」
何度目かの体当たりをかわし損ね、敵の食指とも口とも付かない物に掠られ、二号機は吹き飛ばされる。
体制を立て直した時には、眼の前に敵が迫っていた。
闇雲に主砲を発射するアスカ。
それを物ともせず突っ込んでくる敵。
アスカもミサトも駄目だと思った時、敵の横腹に銀色の螺旋の光が突き刺さる。
真っ直ぐに向かって来ていた敵が、横に吹き飛んだ。
『あらあら、赤い流星も苦戦しているようじゃない?』
助かったと言う思いを打ち消すように、能天気な声がブリッジに流れる。
アスカの視界に捉えられたのは、銀色のエヴァを中心とした3機編成の特殊戦艦隊。
「あんた誰よ!」
助けられたお礼も言わず突っかかるミサト。
アスカは米神を押さえ頭を振った。
『葛城、いつからそんなに偉くなった?援護は要るか?二号機艦長』
『くっ!お、お願いします』
最初の能天気な口調から一転した軍事口調の主を、アスカは誰だか解っていた。
宇宙広しと言えども、銀色のスパイラルエネルギー弾を打ち込めるのは、エヴァ四号機の他に無い。
そして、それを指揮するのは、アイアンフォグと言う二つ名を持つ軍神。
アンタレス出身の少佐にアスカが逆らえるはずは無かった。
『了解だ。その要請、霧島マナが受け取った』
「ま、マナ少佐?!」
『直情思考に磨きが掛かってるな葛城。マユミどうだ?』
『凛々しいです。マナ少佐』
『そうじゃなくて、敵の状況を聞いているのだが?』
『我が主砲を以ってしても軌道を逸らしたのみ。顕著なダメージは見当たりませんわ』
『そいつは手厳しい。アンドロメダの情報も偽りでは無かったと言う事か。なんとかなるか?』
『流石に未知の敵と言うところです』
『構わん!最大戦力を叩き込む!ムサシとケイタは波状攻撃!時間を稼げ!』
『『『イエスマナ!』』』
言葉と共に左右に散る特殊戦艦二隻。
その迅速な行動にミサトもアスカもあっけに取られていた。
『何をしている二号機艦長惣流中尉!ボーッとしていたら敵の標的だぞ!』
『りょ、了解』
「ちょ、ちょっと!何勝手に指揮しているのよ!」
『葛城、少しは状況を把握しろ。私が私の部下を指揮して何がおかしい?』
「この敵はNERVの管轄よ!」
『我々は今日付けでNERVに出向だが?』
「だったら、あんたらが私の指揮下に入りなさい!」
『本気か?葛城大尉。少佐の私にお前の指揮下に入れと言うのだな?』
「当然でしょ!NERVに配属になるなら作戦課長である私の部下よ」
『と言っておりますが、如何致しましょうか?碇司令』
「なっ!」
『・・・葛城大尉は作戦課長の任を解いている。そして霧島少佐、本来なら着任報告を聞いてからだが、緊急時だ。現時刻を以って作戦課長を任命する』
『拝命致します。二号機艦長、艦長権限を以って葛城大尉との通信を遮断、以後私の指揮下に入るように』
『了解』
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
ブンと言う音と共にミサトの声が聞こえないかのように状況が進んで行く。
一方通行でも通信を全て切らなかったのはアスカの善意だ。
ブリッジの中はミサトの喚き声が充満していた。
『あれで本当にアンタレス出身なのか?』
『プライドの高さだけは、頷けるね』
『ムサシ!ケイタ!無駄話している暇は無いわよ』
『『イエスマナ』』
『マユミ、タイミングは任せるわ。何時もの通り二人と連携してやって頂戴』
『イエスマナ。でも後少しで初号機が到着します』
『どうせこちらの攻撃じゃ留めを刺せないのでしょう?刺せれば儲け、ダメージを与えられれば初号機も楽に留めを刺せるわよ』
『イエスマナ』
マナの言葉に微笑みを以って応じるマユミ。
こういうところが軍神と言わしめるところなのだろう。
功績ではなくあくまで敵の殲滅のための最善を尽くす。
二度目の銀色の螺旋が走った時に、オレンジ色の壁に阻まれる。
『あれがATフィールドって奴か』
『全く理不尽な壁だね』
「ふん、ATフィールドがある限り敵には傷一つ付けれないのよ」
何故かミサトが勝ち誇ったように呟いているのをアスカは諦めの眼差しで見ていた。
『タイミングはバッチリだったのにね』
『仕方ありませんわ。でも時間は稼げたようです』
忽然と現れる紫の戦艦。
『あれが初号機か…』
『こちら、銀河連邦軍地球防衛連隊特務機関NERV。エヴァンゲリオン初号機艦長碇シンジ。そちらは?』
『高速移動で無線を傍受していなかったのね。たった今、NERV作戦課長に任命された霧島マナちゃんよ。マナって呼んでね。宜しく』
『この状況で律儀な奴だな』
『並の神経じゃないのは確かだね』
『えっ?』
『お、お久しぶりです碇さん。エヴァンゲリオン四号機艦長山岸マユミです。覚えてらっしゃいますか?』
『えっ?山岸さん?エヴァの艦長になっていたんだ』
『はい、またご一緒出来て嬉しいです』
『ちょっとマユミ。嬉しいのは解るけど、今はそれどころじゃないでしょ?』
『あっ!そうでした。敵生態は、こちらの主砲を以ってしても傷一つ付ける事が出来ませんでした。高温の金星から硫酸の雨を物ともせず出てきた事から、その表皮自体も硬質なものと推測されます。またATフィールドに阻まれこちらの最大戦力も無効化されました』
『有難う山岸さん。でもエヴァならATフィールドは中和出来るはずだよ』
『それは、どのような物なのでしょうか?』
『拒絶する心』
『『拒絶する心?』』
シンジの言葉に反応したのは、マユミとアスカであった。
二号機と四号機の眼の前にオレンジの壁が浮かび上がる。
『『これがATフィールド…』』
マユミはシンジから教えられた事を実現出来た事を喜び、アスカは、自らのプライドが邪魔をして聞かなかった事に後悔していた。
『OK!エヴァ3機で敵のATフィールドを中和!もう一度最大戦力を叩き込むわよ!』
『『『イエスマナ!』』』
『『了解』』
『チッチッチ!惣流中尉、碇大尉、イエスマナよ』
『『い、いえす…まな』』
『なんか硬いけどまぁいいか。ムサシ!ケイタ!援護射撃!シンジ君とアスカも余力があれば援護して頂戴!』
『『『『『イエスマナ』』』』』
5人の声が揃ったところでマナはうんうんと満足気に頷いていた。
3人によるATフィールドの中和は通常攻撃すら敵生態にダメージを与える。
しかし、元々硬質のため、4号機の最大戦力ですら、敵の殲滅には達し得ない。
『シンジ君、留めを刺せる?』
『やってみます』
『じゃぁ、見せてくれる?蒼い火の鳥を』
『イ、イエスマナ』
その言葉と共に初号機が、蒼いATフィールドに包まれていく。
まるで、初号機から煙が上がっているように初号機を包んでいった。
そして、敵に向かい直進する初号機は正に蒼い火の鳥となって敵を突き抜けていく。
『ヒューッ!これは凄い』
『正しく火の鳥だね』
『碇さん…』
感嘆の息を吐く3人に対し、アスカは唇を噛締めていた。
『さっきのATフィールドはオレンジ、あれはまた違うものね』
そしてマナだけが、その本質を見極めていた。
『ミッション終了!NERVに行くわよ』
『『『イエスマナ』』』
『道中紹介してねシンジ君』
『えっ?』
『蒼銀の妖精さんよ♪』
『あっ!は、はい』
シンジの後ろの席でレイは、真っ赤になっているシンジとは対照的に相変わらずの無表情だった。
「霧島マナ少佐、他3名、NERVへの出向命令により着任致しました」
「・・・着任早々ご苦労だった」
その時、ゲンドウの端末が何かを知らせたのかニヤリと笑うゲンドウ。
マナは不気味なものを見たと顔を引き攣らせたが、マユミなどは怯えてこっそりとマナの後ろに隠れている。
「・・・丁度良い、全員を集めてくれ冬月」
「もう通ったのか?」
「・・・アンタレスの後押しがあったらしい」
「解った」
そして司令室にシンジ、レイ、アスカ、ミサトとリツコ、それに最上段オペレータの3人と何故か加持が集められた。
これだけの人数が入れると言うところに、司令室が無駄に広いと言う事が伺える。
「・・・霧島マナ少佐、本日付を以って中佐に昇進を言い渡す。改めて作戦部長を任ずる」
「はっ!」
「・・・碇シンジ大尉、本日付を以って少佐に昇進。山岸マユミ中尉、本日付を以って大尉に昇進。ムサシ=リー=ストラスバーグ中尉、本日付けを以って大尉に昇進。浅利ケイタ中尉、本日付を以って大尉に昇進を言い渡す」
一気に言い放ったゲンドウにシンジは突っ込む事も出来ず、上官や周りが敬礼しているため、それに習って敬礼を行った。
マユミやムサシ達も驚いていたが、そこは軍人である。
しっかり敬礼を行って応えていた。
「・・・次に、日向マコト少尉、本日付けを以って中尉に昇進を言い渡す、併せて作戦課長を任ずる
「はっ!」
マコトも戸惑いながらも、これだけの人数の中では、敬礼するのみだ。
「・・・伊吹マヤ少尉、本日付を以って中尉に昇進、技術部副部長を任ずる」
「えっ?私もですか?」
流石マヤと言うところだろうが、リツコが頷くのを確認すると赤くなりつつも敬礼を行った。
「・・・青葉シゲル少尉、本日付を以って中尉に昇進、筆頭司令部付きを任ずる」
「はっ!」
「・・・最後に葛城ミサト大尉。諜報部勤務を命ずる。作戦部の管轄は作戦課と戦艦部隊だ。作戦部は技術部、諜報部と連携を取り、敵生態、使徒の殲滅に全力を尽くしてくれ給え。以上だ」
司令室を出ると、何故かムサシとケイタはシンジが気に入ったのか、シンジの首を絞めながら引き摺っている。
その後ろを静かにレイとマユミが歩いていた。
銀と白の艦長コートが二人の清楚さを際立たせている。
ミサトは加持に肩を抱かれながら、その場を後にした。
マナは、項垂れてその場を後にする真っ赤な艦長コートを見て、先が思いやられるなと溜息を吐いていた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。