第九話
喧騒


姦しい。
女三人寄ればとよく言われるが、そうするとこの二人は一人で三人分であろう。
何せ、レイ、リツコ、ミサトの3人ではこれほど姦しくなる事はない。
そんな二人が言い合っている場で、その他の者達は辟易としていた。

戦闘が終わり、二号機の引渡しを受け、アンドロメダ星雲軍が去った後に、ミサトとアスカは通信上で凄まじい詰りあいを始めたのだ。
勿論、アンドロメダ星雲軍との手続きはリツコが恙無く終わらせた。

初号機のブリッジではレイが淡々と帰還行動を起こしており、シンジとリツコは何もする事がない上に、この場を離れる訳にもいかず騒音に晒されている。
メインモニターには勝気そうな金髪碧眼の少女が、艦長コートも羽織らず真っ赤なプラグスーツ姿のまま画面に映し出されていた。

シンジは「ん?」とそのスクリーンの隅に映し出された無精髭の男を見止めたが、こちらにミサトとリツコが乗っているのだから向こうに随伴者が居ても不思議はないと意識から外した。

ミサトはこちらの紹介もせず、未だアスカと言い合っている。
内容はアスカが胸を突き出して育ち盛りなのだからと言うのを勝ち誇ったようにこちらも胸を強調してお子ちゃま呼ばわりして遊んでいるのだ。
はっきり言ってシンジはこれから同僚となるはずのアスカに苦手意識を持ってしまった。

「加持ぃ〜っ!なんでアンタがそこに居んのよ!」
「いや、アスカの随伴でな。リッチャンも久しぶり」

よっと言う感じで片手を上げる加持と名乗った男にリツコも引きつりながら、片手を上げて応えている。
シンジは、この遣り取りの中、正確にミサト、リツコ、加持の人間関係を感じ取っていた。
人の顔色を伺うのは得意なのだ。

「・・・大気圏に突入します」

レイの鈴の鳴るような声で、騒音は止められた。
物理的に通信を遮断したのもあるが、明らかにこの作戦課長と二号機艦長は仕事中とは言えない所業であった。
それを思い出したのか、ミサトは照れを隠すように席に着きシートベルトを締めた。



初号機から降りたミサトは、アスカを待ち構え、降りて来たアスカを有無を言わせず引っ張って行った。
二号機の引き取りを命令されていたミサトに取って、アスカを司令室に連れて行くのが最優先事項だと言い含めて。

リツコは後から降りて来た加持から資料を受け取り、初号機と二号機の整備を指示している。
ミサトとしては加持と顔を遇わせたく無かったと言うところだろう。

「これから面白くなりそうだな」

加持は、そう呟くと手錠で繋がれたジェラルミンケースを抱え、その場から離れていく。
リツコはそんな加持を横目で見ながら、作業員に指示を出す。
その頭の中にはどんな未来が映っているのか。

「あっ、シンジ君?さっきの戦闘について聞きたい事があるから、後で私の部屋に来てくれるかしら?」

言葉こそ疑問形だが、その眼は雄弁に(逃がさないわよ)と語っている。

「解りました。報告書を提出してから伺います」
「そう、待ってるわ」

シンジの了解を得たリツコは事務的な口調で、そう述べると作業員への指示を再開している。
シンジはレイの方に向かいちょっと肩を竦めて歩き始めた。
レイもそれを待っていたように追随して行った。



司令室で着任の挨拶を終えたアスカは、ミサトに連れ回されていた。
発令所で主要オペレータ達との顔見せ、食堂や更衣室などを案内している。
本来であれば、執務室へ行きシンジ達と顔合わせをさせるべきなのだが、ミサトの策略かシンジ達を後回しにしていた。

「以後、葛城作戦課長の指揮下に入るように」

ゲンドウのその言葉がミサトを上機嫌にさせていたと言うのもあった。
鼻歌交じりにアスカを引き摺るミサト。
アスカも勝手が解らないため、渋々ミサトに付き合っていたが、そろそろ我慢の限界に達しようとしていた。

「ちょっとミサト!そんなどうでも良い所より、技術部長の所に連れて行ってよ」
「リツコの所?なんで?」

「初号機の兵装を管理しているのは技術部でしょ?初号機のあの攻撃は何だったのか聞きに行くのよ」
「あの攻撃?」

「あの敵を貫いた、火の鳥みたいな武器よ」
「何それ?」

「アンタ、乗ってたのに知らなかったの?」
「いや、乗ってたから知らなかったと言うか…エントリーしちゃうと電源が落ちるから…」

「それもそうね。でも初号機はここの物でしょ?作戦課のアンタがなんで知らないのよ?」
「タハハ…そ、そうねリツコのとこに言って聞きましょう」

アスカはミサトの行動に首を傾げつつも、自分の要望が通ったからまぁ良いかとミサトの後に付いて行った。



「やっほぉ〜リツコ…ゲッ」
「貴女はまた…ノックぐらいしなさいって何時も言ってるでしょっ!」

リツコの執務室に入ったミサトは、そこにシンジとレイが居るのを見て、リツコの言葉も耳に届いていなかった。

「ちょっとミサト、入り口で突っ立ってたら入れないじゃない!」

入り口で固まっているミサトを押しのけてアスカが入ってくる。

(コートも赤いんだ…)

アスカの艦長コートは二号機と同じく真っ赤であった。
アンタレス星団に於いて赤は特別な意味を持つ。
それ故にミサトのジャケットも赤であった。

ミサトの場合、自分で勝手に注文した赤であるが、アスカのそれは星団軍から与えられた栄誉ある色である。
アンタレス星団軍で赤を纏えるのは、優秀である証。
戦艦からプラグスーツ、艦長コートまで赤が許されているのは、アスカの弛まぬ努力の賜物であった。

「技術部長は?」
「私が技術部長の赤木リツコよ。リツコと呼んで貰って構わないわ。それで私に何の用かしら?」

「あの紫の戦艦が初号機よね?あの兵器は二号機にも積めるの?」
「あの兵器?」

「敵を殲滅した、あの火の鳥みたいな奴よ」
「あれは兵器ではないわ。今、丁度その話をシンジ君に聞いていたところよ。そう、貴女からは火の鳥に見えたのね」

そこで初めてアスカはシンジに眼を向けた。
女帝星団で育ったせいか、アスカは男に興味がなかった。
男ばかりか周りの人間に興味がない。
誰よりも優秀である事。それがアスカの全てであった。

「ふーん。アンタが初号機の艦長?なんか冴えないわね?」
「どうも…」

「ふんっ、アタシが来たからには、もうアンタには用はないわ!敵は全部アタシが倒してあげる!」
「そ、それは宜しく…」

シンジは鼻息の荒いアスカにすっかり萎縮してしまっていた。
アスカはそんなシンジにもう興味は無いとばかりにリツコの方に向き直り、話を元へと戻す。

「で、兵器じゃないってどう言う事?」
「簡単に言えば、あれはATフィールドで艦を覆って体当たりをしたそうよ」

「体当たりって、そんな事したら自分も危ないじゃない!それにATフィールドって何よ?!」
「アンドロメダ星雲軍も貴女の攻撃も敵に当たらなかったでしょ?あれがATフィールドよ」

「初号機は同じ物が使えるって言うの?」
「ATフィールドが使える特殊戦艦。それがエヴァンゲリオンよ」

「じゃぁ二号機にも使えるのね?」
「えぇ、使えるはずよ」

「解ったわ、ここにシミュレーションシステムはあるのよね?それで試せる?」
「無理よ、ATフィールドは実際に発生させないと計測出来ないの。シミュレーションシステムで訓練は出来ても実際に発生しているかは解らないわ」

当然だが、レイは兎も角シンジはエヴァを介してでしかATフィールドは張れない。
即ちエヴァを通していないシミュレーションシステムではATフィールドは発生しないのだ。
そこでATフィールドを発生させられたら機材が吹っ飛んでしまうと言う問題もある。

「ミサト!演習訓練の予定は?」
「えっ?えっと暫くは組んでないけど?」

ミサトは、暫くどころか訓練計画すら立てていなかった。
敵が攻めて来ている以上、常に臨戦態勢。緊急発進に備えた待機と言う事しか頭になかったのだ。

特殊戦艦は思考操縦である。
自らを天才と豪語するアスカは、使える=イマジネーションの問題だと結論付けた。
幸か不幸かアンタレス星団に特殊戦艦の部隊は無い。
アスカは今まで独学でエヴァの操縦を身に着けていたのである。
そのために誰かに聞くと言う行為が浮かばない。

この場合、シンジにどのようなイメージを持てば良いのか聞くのが当然なのだが、そんな選択肢はアスカには浮かばないのだ。
従って、まず遣って見ると言うのがアスカのスタンスなのである。

「アンタ仕事してるの?」
「だぁってぇ〜、エヴァは1機しかないし、もしもの時のために警戒態勢は維持しなければ行けないしぃ〜」

アスカのジト眼にミサトは口を尖らせながら、ブツブツと言訳めいたものを呟く。

「じゃぁアタシが来たからローテーションを組めるわね。訓練計画を立ててあげるから、承認しなさいよ。アタシの執務室は何処?」
「あ、こっちよ」

アスカは聞きたい事を聞くとリツコの執務室をさっさと引き上げて行った。

「これは、貴方達もこれから大変そうね」

リツコの言葉にシンジは苦笑いを、レイは無表情を返していた。




司令室では加持とゲンドウが対峙していた。
ミサトがアスカを連れて来た時とは違い重々しい空気が漂っている。

「本当に波乱に満ちた船旅でしたよ。まさか敵に宇宙に海原で出くわすとわね」

軽い口調で話しながら加持はジェラルミンケースを慣れた手つきで開錠していく。
ジェラルミンケースの中には、更にケースに入った胎児状の物が入っていた。

「やはりこれのせいですか?既にここまで復元されています。硬化ベークライトで固めてありますが、間違い無く生きています」

ゲンドウはじっとその中身を見詰める。
まるで、腹の探り合いをしているかのようだ。

「人類補完計画の要ですね」
「・・・最初の人間アダムだよ」

二号機の元は、南極のアダムと呼ばれる物であり、これは卵まで還元されていたその母体であった。
二号機とこれを引き離す事は、両方の崩壊を齎す可能性が高かったために、二号機と対で送られてきたのだ。

銀河連邦としてそれほど研究価値があるものでは無かったと言う事である。
この程度の生態動力は数多と存在するのだ。
多くの星は、その探求を行う事に意義を見出していない。
使えて支障がなければ良い。
つまり使い方が問題であり、その方法は特殊戦艦で実現されている。

これ以上の利益となる研究課題は無かったのである。
それよりも対にしておかないと崩壊する可能性があると言う不安定さが、研究者の研究意欲を削いだと言う事もあった。
研究者にしてみれば、こんな厄介なものよりもっと研究したい題材が転がっていたと言う事である。

「これで手駒は揃いましたか?」
「・・・いや、まだだ。しかし、8割方揃ったと言うところだろう」

「ご子息のお噂は、アンタレス星団まで流れて来ておりましたよ」
「・・・ふっ。あれは妻に似て優秀だ」

ニヤリと笑うゲンドウ。
まさか、こんな親馬鹿なセリフが出てくるとは思わなかった加持の顔も引き攣った。



まだ寝起きで朦朧とする頭の中、ビシッと制服に身を包んだレイを見てシンジは首を傾げた。

(今日、なんかあったっけ?)

珍しくレイが階級章まで付けているので、式典でもあったかと記憶を弄るが、思い当たる節はない。
それにも増して真っ白な仕官服に身を包んだレイは美しい。
蒼銀のショートヘヤーに真紅の瞳、艶のある唇。
そのスレンダーなスタイルに浮かび上がる滑らかな曲線。

思わずシンジはレイに抱き付いてしまった。

「ぁん・・・碇君遅れるわ」

ふと我に返ったシンジは赤面する。
相手はしっかりと制服を着込んでいるのに、自分はトランクス1枚。
なんとも滑稽であったが、シンジを見つめるレイの瞳は相変わらず優しい。
尤も、傍から見れば冷ややかに睨み付けているように見えるのだが、シンジにはその瞳に込められている感情が理解出来る。

「ごめん・・・それより何で階級章なんか付けてるの?いや、悪くはないんだけど、今まで付けてなかったから…」
「・・・あまり勝手な振る舞いをされたくないから」

レイは無知でも無垢でも無い。
どちらかと言えば、全てを知っていて尚且つ慈愛を持っていると言うところだ。
しかし、看過出来ないものも当然ある。
ミサトなどは、レイからしてみれば無害、取るに足らない存在だったが、アスカは少々厄介だと認識したらしい。

「勝手なって惣流さんの事?」
「・・・そうよ」

「それと階級章と関係があるの?」
「・・・行けば解るわ」

首を傾げながらシンジも身支度を始めた。



「おっそいわよ!アンタ達!」

シンジ達は、執務室に入った途端に大声の洗礼を受けた。
レイはアスカを一瞥すると、自らの席に座り端末を立ち上げる。
シンジはいつもと違うレイの行動を見ていた。

「ちょっと!アンタ達!無視してるんじゃないわよ!」
「・・・まだ就業時間前。貴方に遅いと言われる筋合いはないわ」

「ふん!それはスケジュールを見てから言うのね」

アスカは勝ち誇ったように腰に手を当て、胸を逸らしながらレイの行動を見ている。

朝、自らのスケジュールを確認するのは当然の行動なのだが、大体のスケジュールは把握している。
それは、突発的な物が入り込んでいないか、自分の記憶に間違いがないかを確認する程度の物であるはずだ。
しかし、レイがスケジュールを開くと、別なポップアップが開かれた。

スケジュールの変更が行われた時、急な指令が入った時にもポップアップが開かれるが、それはそのどちらでもない。
【稟議書】と書かれたそれをレイがクリックすると、添付されていたファイルが開かれる。
レイは一通りそれに眼を通し、一つ溜息を吐くと、【却下】と言うボタンを押した。

アスカは自分に都合の良いスケジュールを組み、ミサトに承認させたのだが、レイはミサトより階級が高いため、ミサトの権限でレイのスケジュールを改変する事は不可能だったのだ。
それが稟議書と言う形でレイのスケジュールに割り込まれたのだが、レイが却下した時点で全て白紙となってしまったのである。

「・・・スケジュールに変更はないわ」
「ど、ど、ど、どう言う事よぉ〜っ!」

アスカがレイを押し退けるようにしてレイの端末を覗き込む。

「・・・アンタレス星団軍では上官に対する態度は習わないようね」
「な、なんですってぇ〜っ!」

レイの冷やかな態度と言葉に真っ赤になったアスカだが、レイの階級章を見て青褪める。
アンタレス星団軍は階級に対する礼に特に厳しい。
それは、実力主義の成せるものであった。
階級を無碍にすることは、相手の実力を否定したに等しい行為と見なされる。

しかし、相手は銀河連邦の僻地軍の佐官。
実力など知れているだろう。
何より、こいつは初号機の副艦長とミサトが言っていたではないか。
そう安堵の息を漏らしかけた時にレイの言葉が放たれた。

「・・・どちらにしても、着任早々の貴方の行動を報告する義務が私にはあるわ」

これは、アスカの戦意を喪失させるに充分であった。
この失態を報告されれば、最悪戻される事も有り得る。
この女は自分の事を良く思っていない。
ある事ない事報告される可能性がある。
着任早々追い返されたなら、それがどんな場所であろうと、使い物にならないと評価された事になってしまう。

「そ、それはミサトがやった事よ!」
「・・・葛城大尉もアンタレス星団軍出身」

「あ、あんなのと一緒にしないでよ!」
「・・・言いたい事はそれだけ?」

レイは冷やかにアスカを見詰めている。
(綾波かなり怒ってるなぁ〜。よっぼど気に入らなかったんだなぁ)

シンジはレイの態度に珍しい物を見たと思っていた。
実は、レイは朝、自分の携帯端末でスケジュールを確認する習慣があった。
いつもシンジが起きる前に行っているので、シンジは知らない。

そこで稟議書の中身を見て憤慨していたのだ。
携帯端末では、正式に稟議を棄却する事は出来ない。
レイの琴線に触れたのは、そのローテーション割であった。
アスカは自分だけが、ATフィールドとやらを張れないのだから優先して演習を行う必要があるとミサトに詰め寄ったのである。

その結果、レイとシンジがローテーションで待機任務。アスカは演習参加となっていた。
これは、内情を知らないアスカの思い込みなのだが、ミサトは訓練計画を立てていない事を悟られないようにする事に必死で、アスカの出してきた計画を承認してしまったのだ。
そのスケジュールではレイとシンジが交互に詰める事になるため、シンジと会う事が出来なくなるのだ。
昔のレイならそれでも構わなかったのだが、今ではシンジと身体を重ねる事に一つの至福を見出しているレイには、それは看過出来なかった。

そもそも二人で居る時も、こんな待機態勢は取っていないし、非常召集が掛かれば数分で発進準備が出来るところにしか二人は居ないのだ。

演習を行いたいなら勝手にやれば良い。
自分を巻き込むな。いや、シンジと自分を巻き込むなと言うところである。

アスカはプルプルと震える拳を握り締め下を向いている。
舐めてかかり過ぎた。
漸くアスカの思考に怒り以外のものが浮かび始める。

しかし、どうにも納得が行かない。
人は第一印象で相手との態度を決める。
アスカはその自分の判断が間違っていたと言う事を認められないのだ。
相手が例え実力を伴わなくても上官と認識していたなら、こんな失態は行わない。

アスカの認識では、初号機との通信時の映像で少なくとも、その場で一番力を持っているのはリツコと見ていた。
ミサトは元より知っているから関係ない。
後は初号機艦長を押さえ込めば、自分の思い通りに動けると思っていた。
ミサトとふざけた遣り取りをしている中でもアスカは観察を怠ってはいなかった。

永遠に続くかと思われた沈黙を非常警報が引き裂いた。

「敵襲?」

アスカはこれ幸いとばかりに執務室から駆け出して行った。



『警戒中の巡洋艦【はるな】より入電。我、月面探索中にて巨大な飛行物体を発見、データ送る』

アナウンスが発令所に流れる。
オペレーター達はすでに配置についており、その執務を忠実に果たしている最中だ。

「受信データを照合。波長、パターン青。敵機と確認」

今日は傍らにパートナーを欠いている冬月は、淡々と命令を下す。

「総員、第一種戦闘配置」

「エントリープラグ挿入」
「プラグ固定終了」
「第一次接触開始」
「LCL注入」
「主電源接続」
「全回路動力伝達」
「第2次コンタクト開始」
「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス!」
「A10神経接続異常なし」
「初期コンタクト全て異常なし」
「双方向回線開放」

『初号機コンタクト終了』

「二号機は?アスカ?」
『何よ!発進準備は完了しているわよ!』

「じゃなくって、なんでエントリーしないの?!緊急発進よ!」
『何それ!そんなの聞いてないわよ!』

「いいから早くエントリーしなさい!」
『わ、解ったわよ!』

「二号機のエントリー宜しく」
「「「・・・・・」」」

ミサトの言葉にオペレータ3人の白い目が突き刺さる。
着任早々、ミサトとアスカはずっと二人で何かやっていたのだ。
アスカの聞いてない発言にミサトに非難の眼が集まるのは当然であった。

「エントリープラグ挿入」
「プラグ固定終了」
「第一次接触開始」
「LCL注入」
「主電源接続」
「全回路動力伝達」
「第2次コンタクト開始」
「思考形態はアンタレス星団共通語を基礎原則としてフィックス!」

『日本語で構わないわよ』

「大丈夫なの?アスカ?」
『そっちからの通信は日本語で入るんでしょ?それともそっちで私がアンタレス星団共通語で通信しても問題ないっての?』

「そ、それもそうね。タハハ」

笑って誤魔化すミサトだが、オペレータ達は黙々と作業を進めていた。
別にアンタレス星団共通語で通信してきても、ここのオペレータには問題ない。
MAGIもあるので同時翻訳もかなりな精度で可能だ。
しかし、そんな事はオペレータ達は突っ込まない。
今は緊急発進が最優先なのである。
それすら、ミサトの怠慢で大幅に遅れているのだ。

「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス!」
「A10神経接続異常なし」
「初期コンタクト全て異常なし」
「双方向回線開放」

『二号機コンタクト終了』

「エヴァ初号機、並びに二号機、スクランブル発進!」
ミサトは、そんな雰囲気に冷や汗を流しながら号令を発した。

『初号機発進します!』

水上で機首を上に向けた形で立ち上がり、飛び立つ初号機にアスカは眼を丸くした。

(全くミサトの馬鹿!ちゃんと教えろって言うのよね!)

『二号機発進します!』

初号機の行動を真似た形で真紅のエヴァが飛び立つ。

(な、何よ!あんな細い所を通り抜けろって言うの?!えぇぃっままよっ!)

アスカは、戦艦1機が漸く通れる程のジオフロント天井の射出口を難なく通り過ぎて行った初号機に追従する。
ちょっと船底を擦ったようだ。

「二号機パイロットはちょっと乱暴ですね」
「これが普通、いやアスカも優秀な方よ。シンジ君とレイが異常なの」

アンタレス星団出身と言う事でミサトを揶揄したマヤであったが、還ってきた言葉はかなり真っ当であった。

『初号機、第一宇宙速度突破!』
『二号機、第一宇宙速度突破!』

「現在までに得られた情報によると、今回の敵も銀河連邦軍警告信号は無視。進路を変更する気配無し。大きさは前回の物よりかなり小さく、エヴァと粗同程度の大きさよ。初号機と弐号機は交互に目標に対し波状攻撃、接近戦でいくわよ」

『『『了解』』』

「あ〜ぁ、地球でのデビュー戦だっていうのにどうして私一人にやらせてくれないのかしら。二人がかりなんて卑怯でやだな・・・趣味じゃない」

『アスカ?これは戦争なの。ルールのある試合とは違うのよ』

「はいはい。レディーファーストよ。援護してね」

ヒトデのような星型をした敵を発見したと思ったら二号機は一気に初号機の前に出た。
これでは援護も出来ない。

と、その時二号機の船首に巨大な薙刀のような物が出される。
その全長は二号機の全長の2/3程もある。
無重力空間でなければバランスを取るのも大変そうだ。

「あれは?」
「スマッシュホーク…とでも訳せばいいのかしら。アンタレス星団で取れる硬質金属を更に特殊合金としたダイヤモンドより硬い刃よ」

リツコの説明に何故か誇らしげなミサト。

『ふん!体当たりはあんたの専売特許じゃないのよ!んぬあぁぁぁっ!』

「ナイス、アスカ!」

『どう?戦いは常に無駄なく美しくよ!』

真っ二つに切り裂かれた敵を見て歓喜を上げるミサト。
二号機は敵を通り過ぎ、敵に背後を見せる形となっている。

うぞうぞと再生を始める敵。
瞬く間に、敵が二体となった。

「なぁ〜んて、インチキ!!」

『全速力で離脱!』

意味もない事を喚くミサトに対して、シンジはアスカに撤退を指示した。


続きを読む
前を読む
戻る


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。