第伍話
揺心
「これより起動実験を始める」
ゲンドウの声が静かにに響き、各オペレータが定められた手順を淡々とこなしていき実験が始まる。
周囲の緊張の中、何事もなく進行していく実験。
このまま、順調に進むかと思われたその時、事件は起こった。
「パルス逆流!!」
「中枢神経素子にも拒絶が始まっています!」
「コンタクト停止!」
リツコ博士の指示で各職員が、前もって指示されていた非常時の操作を急いで実施する。
零号機が大きく揺れ固定具を引き剥がす。
それは、あたかも釣上げられた魚が逃れようとするかのように。
「実験中止!」
「電源を落とせ!!」
「零号機内部電源に切り替わりました!」
零号機は、跳ねる魚の様に暴れる。
付近の壁にぶち当たり、実験場も壊滅的だ。
「完全停止まで30秒」
「恐れていた事態が起こってしまったの!」
そして更に追い討ちを掛けるように事態は深刻な局面を迎える。
「オートイジェクション作動!!」
「いかん!!」
それまで無表情に事態を眺めていたゲンドウが、慌てた顔を見せる。
「硬化ベークライトを!」
リツコの指示で硬化ベークライトが零号機に吹き付けられた。
飛び出したエントリープラグを零号機の暴走で潰さないためだ。
まるで後方射撃を行ったように零号機の艇尾から勢いよく射出されるエントリープラグ。
硬化ベークライトが凝固を始め、零号機の動きが鈍くなり始めた。
エントリープラグは、天井に突き当たり、それでも射出の燃料噴射で天井に張り付いている。
やがて、燃料が切れ落下するエントリープラグ。
「レイ!!」
ゲンドウが実験室に飛び出した。
ゲンドウはエントリープラグに駆け寄ると、急いでハッチを開けようとする。
「ぐおっ!」
余りの熱さに手を離し、同時に眼鏡を落とすゲンドウ。
その時、零号機の動きが止まった。
「くそっ!」
ゲンドウは、掌が焼けるのも厭わず無理やりハッチを抉じ開けた。
「レイ!」
エントリープラグの中のシートに横たわるレイに向かって叫ぶゲンドウ。
レイはうっすらと目を開け美しく透き通る赤い瞳でゲンドウを見つめる。
「大丈夫か!?レイ!」
レイはゆっくりと頷いた。
「そうか・・・」
ほっと、安堵の笑みを漏らすゲンドウ。
高温のLCLによって眼鏡のレンズが割れフレームが歪んだ。
レイのその姿は未だ中学生ぐらいだ。
ゲンドウも40代になった所と言う風体である。
零号機も戦艦と言うよりは、大型のカプセルと言った方が良い程、装甲は何も装備されていなかった。
司令室で独り、いつものポーズで10年前の起動実験の失敗を思い出していたゲンドウ。
「フッ・・・10年か・・・」
ゲンドウの呟きを聞く者は、この場には居なかった。
レイはNERVの室内プールで浮かんでいた。
時間が空いた時、レイはよくここで浮かんでいる。
泳ぐのではなく、ただ水に浮かんでいると言う感覚がレイは好きだった。
白いワンピースの水着は、レイの白い肌によく似合っているが、それ故にかなりセクシーである。
蒼銀の髪に跳ねる水飛沫、透き通る様な白い肌を伝わる水玉。
全てを見透かしてしまいそうな紅い瞳。
淡々としているが鈴の転がるような声を奏でる薄い唇。
細い首筋から張り過ぎもせず、なだらかな曲線を描く肩と鎖骨。
小振りながらも形の良さを主張している胸。
内蔵が入っている事を疑ってしまいそうな細い腰。
女性ならではの曲線で膨らむ腰。
その付け根から真っ直ぐに伸びる長い足。
そして、キュッと引き締まった足首。
見た目ティーンエイジのその容姿は人間であれば人生で一番輝いて見える時と言っても過言ではないだろう。
普段はこのプールを使う職員は殆ど居ない。
従ってレイのこの見れば溜息が出そうな姿を見た事のある職員も皆無だった。
しかし、今日はその姿を堪能している人物が居た。
「綾波って、人魚みたいだなぁ、いや、水の妖精って感じかな?」
シンジである。
前回の戦闘から、シンジとレイは急速に親密度を増していた。
何よりレイからシンジに話し掛ける事があるのだ。
他人から話し掛けられれば受け答えは今までも行っていた。
しかし、レイから他人に話し掛ける事は皆無だったのである。
ゲンドウやリツコでさえもレイから積極的に話し掛けられた事はない。
そして、退院して職場に復帰したシンジにレイ自ら
「・・・プールに泳ぎに行くけど一緒に来る?」
と誘われたのだ。
シンジはNERVの施設内にプールがある事を知らなかった。
いや、NERVに来て一月程絶つが、半分は病院に居たし、仕事中に施設をうろうろする訳にもいかず、ケイジと発令所と自分達の執務室以外は殆ど食堂しか行った事が無かったのである。
レイに見惚れていると、レイが水から上がって来る。
殆ど裸に見えるレイの姿に顔を紅潮させながらシンジはレイにタオルを渡した。
「・・・泳がないの?」
「あっ僕泳げないんだ。水のある星にあんまり居なくって練習する気もなかったから」
「・・・そう」
レイはシンジを暫く見詰めた後、そう言うとシンジの隣に腰掛けた。
「でも地球程、綺麗な水が豊富にある星も珍しいよね」
「・・・この星は祝福を受けているわ」
銀河連邦に所属する星の中でも表面の2/3が水面等と言う星は滅多にない。
それどころか、氷であったり、地下水しかない星の方が多い。
水の代りにアルコールを主飲料としている星もあるくらいだ。
中には地球には無い様なドロッとした液体を主飲料にしている星もある。
「祝福って?」
「・・・人間が言う神々の祝福」
レイの言葉は短い。
はぐらかしている訳では無いのだが、伝える言葉が見あたらないのだ。
レイが語彙数が少ないと言う訳では決してない。
それどころかレイは、何かの説明をするときはかなり饒舌である。
しかし、人との会話には慣れていなかった。
何かを尋ねられると本質を答えようとする。
つまり修飾がないために解答が言葉少なになってしまうのだ。
シンジは今のレイの答えを問いつめると、深くなりそうだと思い話題を変える事にした。
折角レイと二人っきりでプールに居るのだ。
シンジとしては束の間の休息気分を味わいたかった。
「その水着、自分で選んだの?」
「・・・店員さんが奨めてくれたわ」
「よく似合ってるよ」
「・・・な、何を言うのよ」
顔を紅潮させるレイ。
他人とあまり接せず、世間一般的な雑談と言う物に縁のないレイは褒められる事に慣れていなかった。
制服とプラグスーツ姿のレイしか見たことの無いシンジに取っては、レイの水着姿は新鮮だった。
(綾波の私服姿って見た事ないな・・・)
実はシンジも私服など余り着る事は無いのだが、それでも一応休日などはジーパンを履いたりしている。
「綾波?今度、休みの日にでも街に遊びに行かない?」
「・・・遊びに?」
レイは外に遊びに行くと言う感覚がない。
精々散歩に行く程度だ。
「うん、買物にでも行かないかなって思って」
「・・・買物と遊びは違うわ」
「う〜ん、何て言うかなぁ遊びがてらの買物って言うのかな?特にあれを買いに行くとかって決めるんじゃなくて、見に行って気に入った物があれば買うって言うか・・・」
シンジは何でこんな事を説明しているのだろうと少し可笑しくなり、笑いながらそう答えた。
レイは暫くシンジをじっと見詰め
「・・・構わないわ」
と答える。
「じゃぁ次ぎの休みに行こう」
「・・・えぇ」
既に実戦配備されている兵士達が実機を使った訓練を行う事は滅多にない。
実機を動かすのは、結構お金が掛かるからだ。
実戦配備された兵士は、有事以外は出来るだけ何時でも即時対応出来る様に準備していることが仕事なのだ。
しかし、NERVの敵は延々と戦闘を仕掛けてくると言う物ではなかった。
突然現れるのだが、その間隔は戦争を仕掛けていると言うには、かなり間が空いてる。
従って、NERVの職員達は結構ゆったりとした時間配分で作業が行われていた。
それはシンジ達にも言える事で、士官であるために書類関係の雑務はある物の、普段は結構暇とも言えた。
従って、休日に買物に出掛ける等と言う平和な時代にしか行えない様な事も行えるのであった。
シンジは朝から、3回目のシャワーを浴びている。
今日はレイと街に買物に行く約束をした日だ。
約束をした日から、夜シンジは妄想に耽りあまり寝ていない。
つまり寝不足なのだ。
「シャキッとしなきゃ」
漸く、服を着出すシンジ。
居住区は、独身男性、独身女性、家族持ちとエリアが別れている。
レイは何とも思わないが、シンジは独身女性の居住区に行くのは気が引けた。
そこで、シンジは外で待ち合わせをする事にしたのだ。
地軸がずれたため、第三新東京市は何時も暑い。
シンジはTシャツにジーパン、それに半袖の薄手のシャツを纏って約束の場所に向かった。
そして、NERVの出口で見知った容姿と出会う。
「あ、綾波?」
「・・・何?」
離れている場所からと言え同じ施設内から待ち合わせに行くのだ。
当然、同じ時間に施設を出る事になる。
シンジは自分の間抜けさを呪った。
「あ、綾波?これから僕と買物に行くんだよね?」
「・・・そうよ」
「な、なんで制服なのかな?」
「・・・プラグスーツの方が良かった?」
「い、いや、それも良いけどってそうじゃなくって何で私服じゃないの?」
「・・・持ってないもの」
顎が落ちるシンジ。
「よし!まず綾波の私服を買いに行こう」
「・・・必要ないわ」
「必要無い物を買うから遊びなんだよ」
「・・・解ったわ」
そう息巻いていたシンジだが、いざ女性物のコーナーに着くと何をどうして良いのか解らず困惑してしまっていた。
「あっ、綾波はどんな服が好きかな?」
「・・・解らない」
「いや、動きやすい方が良いとか、ふわっとした方が良いとか、ヒラヒラしたのが良いとか、ないかな?」
シンジの言葉に小首を傾げて考えるレイ。
その仕草はとても可愛い。
厳つい軍服に身を包んだ絶世の美女が行うその仕草にシンジは脳天を直撃される。
「・・・碇君と同じでいいわ」
「えっ?同じって?」
レイはシンジの服装を指さす。
シンジはそれを動きやすい軽装だと解釈し、ジーンズショップに場所を移した。
ジーンズショップで奨められたのは、ローライズの少し変った刺繍の入ったジーパンに、薄いブルーのシャツ。
他にも数点奨められ、シンジはそれら全てを購入した。
そして最初に奨められた物にレイを着替えさせ、着替えた制服を袋に入れて貰う。
残りの物は、配達して貰う事にした。
レイの履いていた靴はローファーっぽい靴だったので、ジーパンでもおかしくは無かった。
シンジはレイが着替えている間に、少し変った鍔の付いている帽子を買っておいた。
どう見てもレイは日差しに強いとは思えなかったのだ。
店を出ようとした時に何かが眼に止まったのか立ち止まるレイ。
「どうしたの?」
「・・・何でもないわ」
シンジはレイの見ていた物を見る。
それは、銀で細工されたペンダントだった。
何かの文様に見えるそれは、シンジには以外だった。
「これ、気に入ったの?」
「・・・気に入った?解らないわ」
「すみません、これも下さい」
店員にそう告げるシンジ。
それは智天使ケルビムを象り、象徴的にしたもので、羽ねが巻き付いているようにも幾重にも重ねって居るように見える不思議な作りだった。
今、買ったそれをレイの首に掛けるシンジ。
レイはそれを手に取り暫し見つめる。
「やっぱり気に入ったんだ」
「・・・解らない。気になる形」
二人は昼間の公園を歩いている。
ジーンズ姿の二人は、そこらに居る若いカップルにしか見えない。
シンジの買った帽子のおかげでレイの髪も瞳もそれ程目立たなかった。
「疲れた?」
「・・・大丈夫」
シンジはレイの言葉にニッコリと微笑む。
道行く人々が振り返って行くのだが、それはレイが綺麗だからだと思うシンジ。
実際は美男美女のカップルに皆、羨望の眼差しを向けているのだが、そこは鈍感なシンジには知る故もない。
レイに至っては、普段からその特異な容姿に向けられる視線として慣れていたため特に頓着していない。
二人は遅い昼食を取り、公園をブラブラとしたりと休日のデートを楽しんだ。
「碇、シンジ君とレイはかなり親しくなっているようだぞ?」
「・・・問題ない」
冬月の言葉にゲンドウはいつもの返事をする。
幾何学模様を思わせるセフィロトの樹が描かれている司令室に、いつもの様に二人は居た。
「この間も、二人仲良く話しながら食堂で食事しているところを見かけたぞ」
「・・・食堂で食事をするのは当然だ」
冬月はゲンドウを焦らせようとして楽しんでいた。
傍目からはいつもと変らないゲンドウだが、その狼狽ぶりは冬月には手に取る様に解っていた。
長い付き合いである。
「それはそうだな、しかし、『仲良く』食事していたぞ」
冬月は再度「仲良く」と言う所を強調して言う。
「・・・同じ部屋で仕事をしているのだ。多少は話しもする」
「シンジ君はお前の息子だろ?レイはユイ君に似ているからな」
「・・・シンジはユイの顔すら覚えていない」
「そうか?潜在意識に残っていると言う事も考えられるぞ」
「・・・ふっ下らん」
明らかにゲンドウは狼狽えていた。
「そう言えば、この間レイを食事に誘って断られたそうだな」
「・・・偶々レイに先約があっただけだ」
「爺は用済みって所だな」
「・・・俺はまだオジサマだ」
自分で言うかと少し押され気味になった冬月。
「ふん、俺が50の時に爺呼ばわりしたのは誰だ?」
「・・・知らんな」
反撃するも不敵にニヤリと笑うゲンドウ。
今回の駆け引きは辛くもゲンドウの逃げ切りだったようだ。
突然、NERV施設内に非常警報が鳴り響く。
「状況は?!」
ミサトが発令所に駆け込むや否やマコトに状況説明を催促した。
発令所内は急に鳴り響いた警報のため状況解析に忙しい状況だ。
それでもマコトは、憧れのミサトに出来るだけ情報を克明に説明しようと、短い時間で集めた情報を整理し説明する。
「突然、監視衛星の視認範囲に現れました。攻撃は行われていません。現在、銀河連邦軍警告信号の発信が行われていますが、目標は沈黙を保っています」
「ふん、無視ってことね、上等じゃない、シンジ君とレイは?」
「既にエントリー完了、スクランブル発進準備整っています!」
貴方が一番遅いのよと言わんばかりにマヤが報告する。
そんなマヤを睨付けようとミサトがマヤの方を見ると、まるでマヤをガードするようにリツコが白衣のポケットに手を突っ込みミサトを見ていたため怯んでしまった。
「いきなり現れた目標に対し、何も調査せずエヴァを発進させる気?」
リツコの冷ややかな指摘がミサトを射る。
「あんな奇妙な形、敵以外にないでしょ!」
ミサトの言う通りそれはピラミッドを上下に重ねた様な四錐体である。
幾何学的な正八面体のそれは、およそ船とは呼べなかった。
「敵だろうが、何だろうが攻撃手段も不明な物にいきなりエヴァをぶつけるつもりなのかと聞いているのよ」
「それを調べにエヴァを出撃させるんでしょ!」
ミサトは遅れて来た事と、自分の行動を指摘されたことでムキになっていた。
「エヴァンゲリオン零号機、並びに初号機、スクランブル発進!」
そしてリツコの言も聴かずスクランブル発進を実行した。
『『了解』』
シンジとレイは静かに命令に対する返答を行う。
「エヴァンゲリオンスクランブル発進、初号機ゲートオープン」
「零号機ゲートオープン」
『初号機発進します』
『零号機発進します』
「目標内部に高エネルギー反応を確認、収束中です」
「何ですって!」
映像に映る目標のスリットが光を帯びて煌めいていく。
「まさかっ・・・加粒子砲!?」
リツコの呟きに振り返るミサト。
「あんな所から何を狙うって言うの?・・・いけない!避けてシンジ君!レイ!」
ミサトが何かを思いついたのか回避行動を指示した。
しかし、最大船速でジオフロントの狭いスクランブル用射出口を出た戦艦は簡単に進路を変える事は出来ない。
『きゃぁ〜〜〜っ!』
『綾波!!』
敵の加粒子砲は、オレンジの戦艦を襲った。
最大船速で容易に進路を変える事ができないはずの紫の戦艦が零号機と敵の発する加粒子の間に入る。
『ぐわぁ〜っ!』
「シンジ君!」
ATフィールドでなんとか敵の加粒子を防ぐ初号機。
零号機はレイが気絶しているのか、ゆっくりと下降を始める。
艦長が不足の事態に陥った時に働くオートリターンシステムだ。
ジオフロントに大きく回収口が開く。
「一次撤退!シンジ君も戻って!」
『ぐっ・・・了解』
敵の加粒子をATフィールドで防ぎながら初号機も回収口に下降していった。
初号機が回収口に入った途端、敵の加粒子砲も途絶える。
「エヴァを狙ってると言うの?・・・」
「都市部迎撃システム作動!住民をシェルターに避難!急いで!」
ミサトの指示で第三新東京市全域に警報が鳴り響いた。
第三新東京市、それは迎撃都市でもあった。
敵襲に備え、普段は地上に存在するビル群が地下に沈ませる事ができる。
住民避難用のシェルターも完備されていた。
この事により、殻に閉じこもった亀のように地表への攻撃による被害を最小限に抑える事が出来る都市なのだ。
「何故、連続的に攻撃して来ないのでしょうか?」
マヤが尤もな疑問を口にする。
「何かを探しているのかもしれない」
「何かって?」
リツコの呟きにミサトが反応したが、リツコはそれには答えなかった。
「綾波!」
シンジは鑑を降りると、救護班により強制排出されたエントリープラグから担ぎ出されるレイに駆寄った。
「・・・碇君」
「綾波!大丈夫?!」
レイはシンジの手を握り力無く頷いた。
「後は我々に」
救護班の人間が、シンジに対し静かに言うとシンジも頷き道をあけた。
レイに着いて行きたいシンジだったが、軍人としての勤めがある。
シンジは踵を返すと発令所に向かった。
発令所にシンジが入ると、そこでは慌ただしく目標の解析が行われていた。
「駄目です!迎撃衛星が攻撃を行うためにエネルギーを溜めた途端、目標の加粒子砲の餌食です!」
「稀に撃てても、強固なATフィールドで傷ひとつ付ける事は出来ないか・・・」
ミサトはシンジが入って来た事も気付かず、敵の解析と攻略に頭が一杯の様子だった。
「葛城大尉」
「あっシンジ君、ご苦労様、今、作戦を考えているから、指示があるまで待機していて」
シンジはそのミサトの言葉に苛立ちを覚えた。
発進前のリツコとの遣り取りは、シンジ達にも聞こえていた。
リツコの助言を無視し、強行に発進させた結果、レイは病院に入る羽目になっている。
しかし、そのレイの事を心配するでもなく、自分に対する態度もおざなりだ。
発令所の面々はシンジの怒りを感じているのか、心配そうにシンジを見る者も居る。
「葛城大尉!」
「あによ、今忙しいから後にして」
「僕達は貴女の駒じゃない!」
シンジはそれだけ言うと発令所を後にした。
ぽかんとするミサト。
「あに、怒ってんのよ。こっちは忙しいって言うのに」
「ミサトさん、レイちゃんは今、病室に居るんですよ?」
マヤがミサトに言う。
「それがどうしたって言うのよ、戦場に出たら怪我するかも知れないのは当たり前でしょ!これだから技術屋って困るのよ」
ミサトのその言葉に発令所の全員がミサトに白い眼を向ける。
「ミサト、レイは貴女のせいで病院に行く羽目になったのよ」
「あによ!私が悪いって言うの?!」
「ミサト?私の助言を聴かず強行にスクランブル決行。その結果、敵の狙い撃ちに遭いエヴァ零号機は中破、シンジ君の機転がなければ零号機は失われていたかもしれないわ。そして零号機艦長は危篤状態で病院に収容。貴女に責任は無いと言うの?」
「当たり前でしょ!作戦指揮は私の権限よ!リツコと言えど口を挟む権利は無いわ!」
「碇、これはまずいのではないか?」
「・・・あぁ」
「葛城大尉」
「何でしょうか?!」
リツコの言葉にテンションが上がっているミサトは上司である冬月にさえ食ってかかりそうな勢いで返事をする。
「減棒6ヶ月、独房に禁固3日間だ!後の指揮は日向少尉が取り賜え」
「な、何故です!?」
「君の指揮により、貴重なエヴァを中破、更に艦長を重体に追い込んだにも拘わらず敵にはかすり傷一つ付けていない。当然の責任だろう」
「くっ・・・」
ミサトは悔しげに唇を噛み締める。
「葛城大尉を拘束しろ」
冬月の命令と共に黒服達がミサトを拘束をし、連行して行く。
「・・・葛城大尉、我々にはリセットボタンは無い。これはゲームでは無いのだ。失った物を補充するには金も時間も掛かる。失った人間は戻らない。その責任が君にはあるのだ」
ゲンドウの言葉は重くミサトにのし掛ったが、発令所の面々にもその言葉は重かった。
そして、シンジが残したセリフを皆、思い出すのだった。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。