第参話
疑惑


シンジには友人と呼べる人間は殆どいなかった。
それは、ティーンエイジの頃から戦艦乗りになると決め、それも特殊戦艦志望だったためだ。

特殊戦艦は基本的に一人で操舵する。
故に他人に頼らず、戦艦の全てを掌握している必要があった。
そのため志望者の教育も全てを独りで出来る事が最重要視された方針となり、あまり他人との共同作業は無かったのだ。

唯一、共通課目である編隊行動や、基礎教練などで行われる程度だった。

元々人付き合いを苦手とするシンジは、それ以外で敢えて人と関わろうとしなかった。
それでも士官学校では、どうしても断れない飲み会などもあったが、偶に顔を出していた程度だった。
それですらシンジ目当ての女性士官学校生の策略だったのだが、鈍感x3乗のシンジにはそんな事には気付く事もなく、早く抜け出す事だけを常に目標にしていたのだった。

従ってシンジは人の誘い方を知らない。
先の戦闘について煮詰まっていたのだが、相談すべき相手を見つける事が出来なかった。
レイにはあれ以来、その事について聞いていない。
何故か聞いてはいけない様な気がするのだ。

本来であればミサトに相談すべきであろうが、シンジはミサトが苦手だった。
真剣に話しても茶化されて終る様な気がしてならないのだ。

オペレータ3人は論外だ。
何より年の近い童顔のマヤなど、どう接していいのか解らない。
シゲルやマコトに至っては、最初の飲み会でシンジは苦手意識を持ってしまっていた。

「悪い人達じゃないって言うのは解るんだけどなぁ・・・」

ゲンドウなどは尋ねる気にもならない。

「お前は命令に従っていればいい・・・とか言って終りだろうしな」



そして、行き着いた先はリツコの執務室だった。

「あら?珍しいお客さんね」
シンジがリツコの執務室に入るとリツコはそう言って微笑んだ。

「お忙しいところすみません。実はエヴァについてお尋ねしたいのですが」
「エヴァについて?」
リツコはこれは面白いと言う顔をして椅子を回転させシンジの方に向き直った。

「エヴァについてと言うより特殊戦艦についてかもしれません」
「そう、いいわよ、何かしら」

「まず、他の特殊戦艦でもATフィールドは発生させる事はできますか?」
「多分、無理ね、エヴァ以外の特殊戦艦は、その起動方法をコピーしたにすぎないわ。エヴァには、まだ解明されていないブラックボックスの様な技術が乗っているの」

「それが、エヴァたる所以ですか」
「そうよ」

「これは、エヴァに限らず特殊戦艦の操縦全てに言える事なんですが、考えても動かないんです」
「それは、どう言う事かしら?」

「つまり、今、僕達が歩いたとします」
そう言ってシンジは数歩歩いた。

「でも、これって考えただけじゃ動きませんよね?」
「そう?」
リツコにはシンジが何を言っているのか理解できなかった。

「簡単に言うとこれは歩く動作ですが、実際は右足を前にだして、バランスを取りながら地面に足を付き、そして左足を出します。足を出す動作についてももっと細かいですよね?」
「それで?」

「特殊戦艦でも同じ事が言えて、主砲を撃てと考えても主砲は発射されないんです」
「興味深いわ」
そこでリツコは身体を乗出した。

「これを僕達、特殊戦艦乗りは『心で操縦する』とか『魂で操縦する』と表現しています」
「魂で?」

「考えるんじゃなくって感じるとでも言いますか、そんな感じです」
「なんとなくだけど、言ってる事は理解できたわ」

「それで、ATフィールドなんですが、僕はあれを見て同じ物を考えれば張れるんじゃないかと思ったんですが、綾波が『拒絶する心』だって教えてくれたんです」
「レイが?」

「ええ、綾波は、ATフィールドを見た時に、その拒絶する心を感じたと言っていました。そして寂しい心も・・・」
「そう、そんな事を言っていたの・・・」
リツコは少し眼を細め何か別な事に思い当たった風に見えた。

「それで、2つ程疑問が湧いたんです」
「何かしら?」

「あれは、本当に敵だったのでしょうか?こちらが攻撃するまであれは攻撃してきませんでした。単にコミュニケーションの取れない星間からの漂流だったのでは無いのでしょうか?」
「その結論は今となっては出せないわ。唯言える事は敵は射程距離に入ったら一撃で地球を破壊できると言う事。そして、前回の敵が発砲したエネルギー体は、威力こそ段違いではあったけど、セカンドインパクトの時に観測されたそれに酷似していたわ」

「そうですか、現状では敵であった可能性が高く、既に敵と認識してしまったと言う事ですね」
「そうね」
軍人であるシンジはその思考については、理解していた。
そして、既に戻れない状況と成ってしまっている事も理解した。
次ぎから訪れる同一の物は、既にこちらを敵と認識して然るべきだ。
逆に言えば仇討ちとばかりに攻めてくる可能性もある。

「少なくとも、あの敵はエヴァや特殊戦艦と同じ操縦方法である可能性が高いですね」
「何故そう思うの?」

「感じるんです」
「そう、そう言う事・・・」

「もう一つは綾波ですが、彼女は何者ですか?」
「何者とは?」

「戦艦乗りのための軍事教育を受けているとは思えない。僕と年も変らない様に見えるけど、僕が教育を受けている時には既にお手本を見せる立場だった。そして心を感じたとはっきり言っている」
「そうね、彼女はエヴァに乗るために産まれて来たような存在ではあるわね。彼女の素性については最高機密になっていて、私もはっきりとは知らないの」
人付き合いが苦手なシンジは他人の顔色を伺う事に長けている。
この時シンジはリツコが嘘を言っていると感じた。

(話す相手を間違ったか・・・)



ジオフロントから出て夜道を散歩するシンジ。
偶には地下から出て外の空気を吸いたくなるのだ。
それでなくとも、戦艦に乗って宇宙に出ていると、狭い艦内で長く過ごす事になる。
地上に居るのに地下に住居がある事に些か不満も持っていた。

今日は、少し夜風に吹かれながら考え事をしたい気分だったのだ。

夜道を歩いていると公園らしき所を見つけた。
見た目、林道になっているため、中に入らないと公園かどうかも確認できない。
シンジは、そこに足を踏み入れた。
夜風に吹かれ木々の葉が擦れる音が聞こえてくる。
それに合わせて緑の匂いも漂ってきた。

「へぇ結構良い感じだな」
シンジは呟くと中へ足を進めた。

少し中に入ると、昼間は噴水でも出しているような広場があった。
周りにベンチが配置されている。

所々にアベックらしき二人連れが居るため、シンジはそれらの邪魔をしない所に腰かけた。

周りから緑の匂いのする風が心地よく当たる。
暫し、それら自然を堪能していたシンジの眼に、同じように独りでベンチに腰掛け空を見上げている人物が眼に入った。

暗いため、はっきりとは認識できないが、そのシルエットはシンジのよく知る人物と酷似している。
我知らず立ち上がり、その人物の近くに行きシンジは声を掛けてしまった。

「綾波?」
その声にシンジの方を向く顔は、蒼銀の髪に紅い瞳。

「・・・何?」
普通、こんな所であったら違う反応があると思うが、レイは端的に疑問符を出しただけだった。

「いや、こんな所で逢うなんて思ってなかったから・・・綾波は何をしていたの?」
「・・・星を見ていたわ」
その言葉に空を見上げるシンジ。

しかし、周りの街灯のせいか、シンジにはあまりはっきりとは星は見えなかった。

「周りが明るくてあんまりはっきりとは見えないね」
「・・・そうね、でも感じる」
レイはまた空を見上げている。

「何を?」
「・・・星を」

空を見上げるレイの顔は、街灯にほんのり蒼銀の髪が照らされ煌めいており、紅い瞳は吸い込まれそうに紅い。
肌が透き通る様に白いレイは、まわりの光を淡く反射させている。
その横顔はまるで妖精の様だった。
シンジは暫くそんなレイに見惚れていた。

「隣、座ってもいいかな?」
「・・・構わないわ」
レイは顔を振り向かせる事もなく、答える。

シンジはレイと同じく空を見上げた。

(やっぱり星を感じるなんて僕には無理かな・・・)

「綾波はよく、ここに来るの?」
「・・・ええ」
空を見上げた二人が空を見上げたまま話す。

「風が気持ちいいね」
「・・・そうね」

「僕、邪魔かな?」
「・・・邪魔じゃないわ」

「良かった」
「・・・どうして?」

「この間の飲み会の時、変な事を口走って嫌われたかなと思ってたから」
「・・・変な事?」

「そ、その、綾波を忘れられなかったって・・・」
「・・・それは変な事なの?」

「いや、綾波が気分を悪くしたかなと思って」
「・・・悪くはしてないわ」

「そう、良かった」
夜風のせいか、周りがアベックばかりのせいか、いつになくシンジにしては饒舌たった。

「綾波はいつからエヴァに乗っているの?」
「・・・ずっと」

「ずっとって?」
「・・・ずっとよ」

「エヴァって何なの?」
「・・・星の祈り」

「えっ?」
「・・・この太陽系第三惑星に辿り着いた星の祈り」

「それってどう言う・・・」
「・・・そろそろ行くわ」
シンジの言葉は途中で遮られた。

「あっ帰るなら送っていくよ」
「・・・そう」

そしてシンジはレイと共にジオフロントに戻った。

(星の祈り・・・)
(意味解んないよ・・・)
(それにずっとエヴァに乗ってたって・・・)

シンジはレイの言葉に思考のループに入ってしまい、会話のないままジオフロントに着いてしまった。

「・・・私、こっちだから」
「あっ今日はありがとう、また話して貰えるかな?」

レイはシンジを紅い瞳でじっと見つめる。
数秒にも数分にもシンジに感じられる沈黙が続く。

「・・・構わないわ」
「あ、ありがとう」

「・・・さよなら」
レイはそう言うと自分の居住区の方へ歩いて行く。

シンジはそんなレイの後ろ姿が見えなくなるまでレイを見送っていた。



シンジはケイジに居た。

オレンジと紫の戦艦が浮かぶ巨大なプール。
浮かんでいるのは水ではなくLCLと言われるエントリープラグ内に操縦時満たされる物と同じ物だ。
それは、液体でありながら、肺に酸素を供給でき、液体であるが故に衝撃の緩衝にもなると言う優れ物である。

(そう言えば、あまり気にしなかったけど何故、水じゃなくLCLに浮かべているんだろう?・・・)

肺に酸素を取り込めると言う事は、粒子は空気と変らないぐらい細かく軽い。
つまり浮力が少ないはずなのだ。

(確かに存在感はあるんだけどなぁ・・・)

シンジはレイの言った「感じる」と言う言葉を気にしていた。
エヴァの近くに居ると確かに存在を感じる。
しかし、それだけだった。

(綾波は何か特殊な能力を持っているのかもしれないな・・・)

奇しくもそれは正しく、そしてシンジもそれを持っていると言う事に今はまだ気付いていなかった。
地球以外の星では、色々な特殊能力を持った知的生命体が存在する。
ただ、余り有用とされる能力は皆無であった。
暑い砂漠の様な土地が星の殆どを占めるところでは身体に水分を蓄えられて、水を長く補給しなくても良いとか、身体の色を保護色に変えられるとかぐらいである。
光合成を行えるため、酸素ではなく二酸化炭素を呼吸すると言う変わり種も居る。

今のところ発見されている知的生命他は地球で言う人間と酷似した外見となっていた。
ただ、肌の色や髪の色、眼の色などが地球人では考えられない色である事があるくらいだ。

現状では星間のハーフも多数存在する。
その中では優性遺伝のせいか、特殊な能力を持った子供も産まれていた。

しかし、アニメに出てくる様な、凄まじい力ではない。
精々、直近の予知や透視、強烈な意志だけ感じ取れるテレパス等、所謂超能力と言われる類ではあるが、実用的な程、強力な力は今のところ報告されていない。
つまり、使いこなせる程ではないのだ。
予知にしても、起こってからそれがそうだったと解る程度であったり、意志を感じても誰の意志か解らなかったりなのだった。

それでも、そう言う力が存在すると解った時点でそれらの研究は盛んに行われている。

シンジは今でもレイが地球人だとは思っていない。
故に、そう言う能力があっても不思議ではないと思っていた。

「碇!碇だろ?!」
不意に後ろから呼びかけられ振り返るシンジ。

そこには眼鏡にそばかすか面皰が少々ある、作業服を着た20代前半の丸眼鏡を掛けた青年が立っていた。
訝しげに眼を細めるシンジ。

「俺だよ俺!ケンスケ!相田ケンスケだよ!」

シンジはその言葉にその青年の事を思い出した。
士官学校時代、親の反対により地球に戻り戦艦乗りを諦めた同級生だった。

やたらと軍事関連に詳しく、馴れ馴れしい上にカメラ好きで、いつも武器や戦艦や女の子をカメラに納めていた人物だ。
はっきり言ってシンジは得意ではなかった。
シンジの得意な人間と言うのは居ないのだが・・・

彼の策略で何度か飲み会に参加させられた事もあったのだ。

「やぁ、久しぶりだね」
「あぁあぁ、碇はちゃんと特殊戦艦乗りに成れたんだな」
ケンスケは羨ましそうにシンジを見ている。

ケンスケから見れば、シンジの着ているコートこそ尤も憧れていた物だったのだ。

「うん、お陰様でね」
「羨ましいよ、親はNERVの総司令、そしてエヴァに乗れるなんて」
ケンスケは本当に羨ましそうに言う。

「ケンスケは、ここで何してるの?」
「あぁ戦艦乗りに成れないならせめて整備でもと思ってな、一応整備班の班長なんだぜ。まぁ士官学校出で階級が高いだけだけどな」

「へぇ〜それはそれで有る意味夢が叶ったんじゃないの?」
「それはそうなんだけな、でもやっぱ乗りたかったよ」
そう言ってケンスケはエヴァの方を見上げる。

しかし、シンジは知っていた。
親の反対もあったのだが、ケンスケには資質が無かったのだ。
特殊戦艦をピクリとも起動できなった事がケンスケを帰郷させた最大の要因であった。

「ケンスケってエヴァに詳しい?」
「残念ながら、俺らがやるのは精々装甲と、弾薬の補充ぐらいさ。コアな部分は技術部の管轄になってて全然手が出せないんだ。でもな、装甲の下は見たら吃驚するぜ」

「えっ?」
「まるで生き物の筋肉繊維みたいなんだ」
ケンスケは何故かそこだけ声を小さくして言った。

「そんな事言ったらワープ航法装置なんて心臓そのものじゃない」
「それはそうなんだけどさ」

この世界で使われている装置と呼ばれる物。
それは、地球上に存在する金属で機械っぽい物ばかりではなかった。

星によっては、タンパク質で機械を生成している星もある。
見た目生物の様な兵器もゴロゴロと存在するのだ。

そして、話しに出てきたワープ航法装置だが、液体の中に保存されている心臓を拡大した様な見た目をしていた。
大きさは、その威力によりまちまちだが、大きい物では高さ10メートル幅3メートルに及ぶ物も存在する。

そして、ワープ航法を行う時には、正しく心臓の様に脈打つのだ。
つまり、地球上の科学で作られた物では無い。

シンジは、その辺りの機械に対し専門ではないため、いつ頃何処で発明されたかなどと言う事は知らない。
しかし、10代からワープ航法に慣れ親しんでいたシンジは、その装置を見る機会も多分に有ったのだ。

「おぉ〜い!ケンスケ!わしは帰るでぇ!」
遠くからケンスケを呼ぶ、関西弁混じりの声が聞こえた。

「おぉ!すぐ行く!じゃぁな碇、またな」
ケンスケはそう言うと、少し離れた所から呼んでいた人物の所へ走って行った。



シンジは自室でNERVについて考えていた。

(軍人なんだから黙って命令を聞いていれば問題ないんだけど・・・)

(NERVは少なくとも地球外の技術を研究しているって事だな・・・)
それはケンスケの言葉から明らかだった。
地球上では、そんな筋肉繊維に見える機械を作る技術は聞いた事はない。

(そしてエヴァは特殊戦艦の元か成果か解らないけど、その技術が使われている)
(つまり、白き月と黒き月に眠る遺跡の技術は地球外から持たらされた可能性が高い)
(そう言えば綾波はエヴァは星の祈りだって言っていたな・・・)
(綾波は何か知っているんだな・・・そしてリツコさんもそれを隠している)

(あれ?綾波はずっとエヴァに乗ってるって言っていた。エヴァっていつからあるんだ?)
(戦闘態勢が整う前に衛星を多量に配置したとミサトさんは言っていた・・・)
(それは綾波が戦闘に参加できるようになったのも最近と言う事・・・)

何かおかしい。
何処かで根本的な事を隠されている様な気分にシンジは陥ってしまった。

(これも組織に入って、組み込まれた弊害か・・・)

組織に入ると自分の位置に見合った情報しか渡されない。
それが大きい組織であればあるほど、顕著になる。
戦艦の艦長とは言え、結局一人で操縦するのである。
一介のパイロットとなんら変らない。

当然、与えられる情報も、その事に関わらない機密については流れて来ないのだ。
そして大きすぎる組織のもう一つの弊害がある。

そんな物を知る必要がないと思っている同僚だ。
如何に自分に都合の良い情報だけで楽をしようかと考えている輩が大きすぎる組織には五万と居るのだ。
そう言う輩からすれば、必要以上に情報を集める人間は、必要以上に仕事をしているように見える。
つまり目障りなのだ。
そして足を引っ張られる。

シンジもどちらかと言えば今まで必要以上の情報を得ようとは考えなかった。
シンジには必要なかったからだ。
唯一の例外はレイの事ぐらいである。
この件に関しては、シンジはいつもの無関心ではなく聞き耳を立てていた。
士官学校と言え学校であるが故、特別に来る美人の指導員ともなれば噂は絶えなかったのだ。

(でも綾波とこんな近くになるとは思わなかったな・・・)

シンジの思考もレイの方へと流れていた。
最近のシンジの物思いのパターンはいつもこの調子である。

エヴァについてNERVについて考えるのだが、気が付くとレイの事を考えているのだ。

夜になればレイの面影を思い浮かべ、朝からレイと同じ部屋で仕事をする。
そして今日は仕事の後でも逢って話しが出来た。
恋する男として、幸せな一日であったのだ。
最後に会った士官学校時代の同級生の事は敢えて記憶から外していたのだが、ふと思い出した様にシンジはダンボールの箱を開けた。

未だ、送り込んだ荷物の中に開けていない物も存在するのだ。
そして取り出したのは小さなパソコンであった。

それはシンジが士官学校時代にノート代りに使っていた端末で、大した物ではない。
シンジはそれを電源に繋げると立ち上げた。

もう古くなっていて、暫く電源も入れていなかったのでバッテリーも上がっていたのだ。
ゆっくりと立ち上がる端末。
ユーザ名とパスワードを聞いてくる画面が現れた。

シンジはそれに『shinji』と打ち込み、少し苦笑いを浮かべながらパスワードを打ち込んだ。
パスワードは『rei-ayanami』
シンジが当時、如何にレイを思っていたかが解る。

そして立ち上がったパソコンのとあるファイルを開く。
パソコンの画面一杯に表示されるレイの画像。

これはケンスケが隠し撮りしたものを譲ってもらった物だった。
ケンスケは女性士官学生の写真を多量に撮って販売していた。
そんなケンスケにシンジがレイの写真を欲しいと言った時にケンスケはとても驚いた。
シンジは普段、ケンスケの撮った写真に興味を示した事など無かったからである。

特殊戦艦艦長のコートを白くした物を身につけているレイ。

「あれ?」

今まで気付かなかったが、シンジは違和感を覚えた。
レイの年格好が今と寸分変らないのだ。

自分もワープ航法の影響で年よりかなり若く見える。
しかし、当時の写真と比べれば若干ではあるが成長している事が解る。

レイの場合、全くと言って良いほど変化がないのだ。

(ずっとエヴァに乗っている影響かな?)

その違和感は、少しの間を持って捨て去られた。

そしてシンジはその画像を2時間程眺めていたのだった。



司令室でゲンドウと冬月が話しをしていた。

パチッ

「遂に現れたな」
「・・・あぁこれからだ」

「シンジ君は勝てるかね」
「・・・そのためのレイだ」

パチッ

「全てを知ると我々は恨まれるな」
「・・・奴も組織の一員だ」

「それで済めばいいのだがな」
「・・・我々には時間がない」

パチッ

「そうだったな」
「・・・次ぎはすぐ来る」

「何か情報が入ったのか」
「・・・老人共の動きが活発になってきた」

パチッ

「俺も老人だがな」
「・・・まだまだ働いてもらいますよ。冬月先生」

「労ると言うことを知らんのか」
「・・・これで詰みですよ」

パチッ

「かかったな」

パチッ

「・・・問題ない」
ゲンドウは冬月に札を渡していた。

賭け将棋だったようだ。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。