第弐話
初陣


シンジはリツコとミサトからレクチャーを受けていた。
要約すれば、セカンドインパクトを起こした敵の警戒並びに殲滅がNERVと言う組織の存在理由らしい。

謎は未だ解明されていないが、25年前に起こされたセカンドインパクトが敵の攻撃により偶然起こったものではなく、起こされるべくして起こされたものだと言う事だ。

「南極に存在した古代遺跡。そこに誘致されていたアダムと呼ばれる物。その破壊が敵の目的だったと推測されるわ」
リツコは大型モニター映し出されている南極、及びその調査団の映像を指しながら説明を続ける。

「その時、調査団の機転により、アダムは生物で言うなら卵の状態に還元する事により、その場から待避させる事に成功。その時のエネルギーの放出と敵の攻撃の相乗効果により今の南極があるわ」

「えっ?じゃぁその還元を行わなければセカンドインパクトは起こらなかったと言う事ですか?」
「いえ、還元する時に放出されるエネルギーは計算されて宇宙空間に放出される予定だったの。でも敵の攻撃と重なって一部が地表に戻ってしまったのよ。もしそれを行わないで敵の攻撃が命中していたら、地球は跡形もなかったわ」

「それでアダムとかが、成長したから敵がまた攻めて来ると?」
「それもあるわ。でも南極の遺跡は『白き月』と呼ばれる物だったの。そしてここ第三新東京市にあるジオフロント。ここは『黒き月』と呼ばれているわ」

「じゃぁここにもアダム相当の物があると?」
「その通りよ、ここに眠る物はリリスと呼ばれているわ」

(なかなか切れるわね)
リツコはシンジの評価を改めていた。

「う〜ん」
シンジは唸った。

銀河連邦軍の制圧外星間からの攻撃は、星を丸ごと滅すると言うような物ではない。
多くは自分の領土を広げるための侵略だ。
しかし、この敵は地球と言う星を滅しようとしている。
いや、その『ある物』を滅するためには星が滅する事など厭わないと言うことか。
何故、そうする必要があるのか?
またそれ程のエネルギーが何故、ここにあるのか?
それらが解明されていない謎と言う事なのだろう。

「他にも赤き月とか青き月とかあるんですか?」
「へ?」
シンジの質問にリツコは無防備な間の抜けた顔をしてしまった。

「今のところ、そのような報告は受けていないわ。でもどうしてそう思ったの?」
「いや、二つなら片方が南極なら片方は北極近辺が妥当なんじゃないかと思って、それならこんな極東の島国にあるくらいだから大陸にもあるんじゃないかなって思っただけです」

「そう、でもねこの遺跡の作られた年代は計測不能なのよ」
「それって?」

「炭素から解析すると何億年も昔、でもそれならこんな地表にあるはずがない。そしてそんな大昔は大陸の形状すら今とは全く違う物だった」
「成る程・・・」

「でも25年も攻めて来なかったんでしょ?何故今更?」
「当然、ここのリリスは敵が攻めて来る前にアダムと同じ処置を施したの。でもね、また同じ処置をする事は色々な理由から出来ないのよ」

「それで、今度は護る方針になったと?」
「有り体に言えばそう言う事ね」

「それならそれで、25年もあったのだから地球を放棄すると言う方法も取れたのでは?」
「人だけの問題ならそうね、でも貴方の乗っていた特殊戦艦の技術、あれは、この古代遺跡を解析して出来た技術なのよ」
「未だ人類未到の技術が眠っている可能性があり、放棄する事は出来ないと言う事ですか」

漸くシンジも合点がいった。
どうも高々星一つのために仰々しい事だと思っていたのだった。
敵が攻めて来るなら敵の本拠地を圧倒的物量で制圧してしまえば良い。
星の消滅を敵が目指していて避けられないなら、早急に生命体を移住させるべきだ。
護るなら護るで兵力を集結させる必要がある。
しかし、そのどれも行わず、この小さな星を護ろうとしている。

そのため当初は、どうにも合点がいかなかったのだ。

「理解が早くて助かるわ」
リツコはちらりとミサトの方を向く。

ミサトにこの話をした時は、食って掛かられ、話が右往左往に横道に逸れ今の何倍の時間を費やしたのか解らないくらいだったのだ。

「でも、それなら敵の本拠地を制圧に出られない理由は?」
「本拠地が不明なのよ。本拠地があるのかどうかすらもね」

「え?」
「南極を攻撃したエネルギー。これはその時点で私達の知りうる科学では不可能だったの」

「そして、それをどこから発射したのかすら特定できなかったわ。ただそれは大気圏外からやって来た」

その人類未到の古代遺跡を葬り去ろうとしている敵は、その内容を知っている事になる。
そして、人類の科学力を凌駕する科学力を持っていると推察できる。
しかし、疑問だ。
それを葬り去るだけなら、その物がどのような状態であれ関係ないはずだ。
葬り去れる時に葬り去れば良い。
それは、その物がある状態にならないと敵も検知できないと言う事か?
そこまで考えてシンジはこれは自分の考える事では無いと、今は思考の縁から追い出した。

「大体現状は解りました。それで僕達はどうやって迎え撃つつもりなんですか?」

「やっと私の出番ね」
今まで黙っていたミサトが嬉しそうな顔をして口を開く。

「まず、この第三新東京市の真上には127個の静止衛星があるわ」
「127個?!」
シンジは驚いた。
通常、軍が保持している静止衛星は一つの星で20個ぐらいなのである。

哨戒用と迎撃用合わせてである。

「そっ!そのうち100個は迎撃用ね。まぁ貴方達が実戦に投入できるまでは、こっちを重点的に強化していたからなんだけどね」
つまり、戦艦が実戦に投入できるまでは、それで凌ごうとしていて、敵の戦力が解らない分、投入できるだけ投入したと言う事だった。

「そして戦艦が発進できるのが、貴方達が搭乗してから5分、エヴァの推進力で大気圏外に出るのに5分よ」
「戦艦のスクランブルが10分?!」
またしてもシンジは驚愕した。

普通、戦艦の発進準備は日単位で行われるのだ。
物資を摘まないスクランブル発進でも、その準備に半日は掛かる。
それを10分で大気圏外に出られると言うのだから戦艦の性能を抜きにしても信じられなかった。

「まぁ普段は、哨戒に大気圏外に出る事になるけど、その時は物資補給に2時間、主に食料だけどね。武器については補充は常にしてあるから」
もうシンジは驚きで声も出せないでいた。

つまり、長期間の遠征でないかぎり10分で飛び立てると言う事なのだ。
しかも準備は常にされていて、準備時間を考慮する必要は基本的にないと言う事だ。

「ありえない・・・」
そう呟くシンジをしてやったりと言う満面の笑みで見るミサト。

「私達は敵がここを目指してくると確信しているわ、だから遠征は今のところ予定されていません」
「スクランブルオンリーと言う事ですか?」

「そうじゃないわ、遠征しないだけで、当然哨戒には出ます」
「でも戦艦2隻だけじゃ、哨戒って言っても大した事が出来ないんじゃ?」

「勿論、旗艦は存在します。その時は貴方達の戦艦は護衛艦と言う形になるわね」
「旗艦もここにあるんですか?!」
またしても驚きを隠せないシンジだった。

こんな山の中で戦艦の発進すらできなと諦めていたシンジなのだ。
旗艦と言えば、発令所と同等の機能が備わっている大型船だ。

しかし、そんな物はここに来てから見ていない。
「旗艦はどこに停鑑しているのですか?」

「あら?貴方ももう中を見たはずよ」
意地悪くミサトは笑っていた。



『旗艦、MAGI発進準備!初号機、零号機同じく発進準備!』
ミサトの号令が発令所に響く。

『『了解!』』
シンジとレイからの通信が聞こえる。

『ケイジ内注水開始、第一ゲートオープン!湖面への進路初号機はルート7を零号機はルート8を使用』

『MAGI注水完了』
『初号機、零号機、湖面に出ます』
そして、ジオフロントピラミッド前にある湖面に初号機と零号機は出された。

『MAGI離脱システムオールグリーン!発進できます』

『旗艦発進後30秒後に零号機発進、その30秒後に初号機発進』
『『了解!』』

『旗艦MAGI発進!』
ミサトの声と共に、湖面に面していたピラミッドの一部が大きな音と共に発進した。

「あれが旗艦・・・ってむちゃくちゃだ!」
シンジは、外部映像に映るその様相を見てまたも驚愕した。

それはジオフロント内NERV本部の一部と思っていたピラミッドの丁度、発令所の部分をブリッジとした超大型船が浮かび上がって行ったのだ。

そう、つまり発令所が旗艦ブリッジそのものだったのだ。

『零号機、発進します』
レイが抑揚のない、それでいて鈴を鳴らすような声で告げる。

「くっ!見取れてる場合じゃないか」
シンジはコンソールを操作し、初号機を発進させる。

『初号機、発進します』
シンジがそう言った時には、ジオフロントの天井が大きく開き、旗艦が機首を上げている所だった。

これらの船はある一定の高さまで垂直離陸を行う事ができる。
海面に浮かんでいる場合、推進しながら離陸(水)を行うのだが、こういう場所での離陸も当然行えるように設計されているのだ。

そして、ある一定の高さで推進方向に機首を上げ、そのまま巡航に入るのだ。

小回りの利く戦艦は旗艦の両サイドまたは前後に編隊を組み巡航するのだが、今回は初の編隊飛行と言うことで、旗艦の後ろに二機とも追従する形で編隊を組んだ。

『MAGI第一宇宙速度まで後15秒』
強烈なGが掛かるため、発令所(ブリッジ)では全員椅子に座りベルトを着用している。

シンジ達の船は、一応ブリッジはあるが、一人しか乗っておらず、艦長席に座っている。
この後、大気圏外に出たら、エントリープラグに入り、軽い操舵確認を行う予定だ。

『MAGI大気圏離脱します』
『零号機、大気圏離脱します』
『初号機、大気圏離脱します』

強烈なGが嘘のように宇宙空間に出る3機。

『初めてにしては、なかなか良い編隊だったわよ』
ミサトがシンジを労った。

しかし、最初に航路を設定すれば、後は殆ど船自身が行うため、誉められる程の事でもないのだ。
127個あると言う静止衛星も鑑のコンピュータが計算してぶつからないように航路を選定してくれる。
これはミサト自身が緊張していたと言う事だろう。

『これより、零号機、初号機の連動訓練を行います。各艦長はエントリープラグに搭乗、模擬戦闘態勢へ移行してください』
『『了解!』』

シンジとレイは艦長席にある、特殊レバーを引く。
席ごと、スライドされていく2人。

停止した艦長席の横にはエントリープラグがある。

軍の制服であるコートを脱ぐとそこには身体にピッタリとフィットしたプラグスーツ姿の2人。
特殊戦艦の制服は、このために考慮されていた。
プラグスーツは身体にフィットしすぎており、その下には下着を着ける事も許されていない。
従って、人前でその姿で出るのは抵抗があるのだ。
しかし、このように素早くエントリープラグに乗るためには、いちいち着替えているわけにはいかない。
そこで、考案されたのが、この制服である。
見た目は銀河連邦軍の士官制服上着を長くし、膝下まで隠せるようにしたコートの様な形だが、その着脱は一瞬で行えるようになっている。
特殊戦艦の艦長はプラグスーツの上にこれを着る事ができるのだ。

勿論、制服の上にコートとして着ても構わない。
それ故に、このコートは銀河連邦軍の中では結構人気がる。

レイのプラグスーツ姿をシンジは士官学校時代に見た事があった。
偶々だったのだが、レイがコートを羽織らず手に持っていたからだ。

それはレイの肌と同じように真っ白なプラグスーツ。
シンジは今、その姿を思い出していた。

「エントリープラグ挿入」
「プラグ固定終了」
「第一次接触開始」
「LCL注入」
「主電源接続」
「全回路動力伝達」
「第2次コンタクト開始」
「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス!」
「A10神経接続異常なし」
「初期コンタクト全て異常なし」
「双方向回線開放」

『初号機コンタクト終了』
『零号機コンタクト終了』

『オッケ〜2人とも調子いいわよん』
ミサトがマヤのコンソールに映る初号機と零号機の状態を見て言った。

『それじゃぁ今から旗艦より無人戦闘機を発射します。2分後に折り返して来た戦闘機5機を敵と捉え迎撃システムの稼働訓練とします、よろし?』

『『了解』』

『では!無人戦闘機、発鑑!』
ミサトの号令と共に、無人戦闘機が旗艦より飛び立つ。

その無人戦闘機を無線操作しているのはシゲルとマコトだった。
シゲルが3機、マコトが2機を受け持っている。
2人ともシンジに一泡吹かせてやろうと内心では虎視眈々と悪戯心を燃やしていた。

『戦闘開始!』
『!!』

一瞬だった。
開始の号令と共に初号機の速射砲が一瞬で5機を打ち抜いたのだ。

『あれ?戦闘に入るのが早かったですか?』
シンジもあまりのあっけなさに自分がフライングしたのかと焦っていた。

『い、いえ、ちょっちこっちが油断してたみたいね』
しかし、それはシンジの才能と初号機の性能だったのだ。

まず一瞬で5門の速射砲を同時に撃てる事自体が、凄いのである。
レイでさえ、若干の時間差が生じる。
今回はレイが撃つ間もなくの事なのである。

そして反応速度の速さだ。
無人とはいえ、宇宙空間での戦闘機の速度は、軽くマッハを超えている。
それに瞬時に照準を合わせる事も並はずれた才能なのだ。
それに応える初号機の性能。
シンジと初号機の相性は、凄まじく良いと言う事だった。

『模擬訓練で初号機の性能を測るのは不可能みたいね』
リツコが溜息を吐く。

リツコとしては訓練に参加しデータが取れない事が何よりも悔しいのだ。
データが取れないなら訓練に参加する意味はリツコには無いからだ。

その時、艦内に警報が鳴り響く。

『何?』
『第6哨戒衛星が所属不明の機影を補足!』
シゲルが警報の原因を報告する。

『映像だせる?』
『今、出します!』
シゲルが慌ただしくコンソールを操作する。

メインモニターに映る機影。
それは銀河連邦軍の物で無いことは一目で解った。

禍々しい外観。
船なのか生物なのかの判断も着かない程だ。

『大きいわね』
『この旗艦と、粗、同程度と推測されます』
ミサトの呟きにマコトが返事をする。

ミサト自身は返事など求めていなかったのだが、ミサトに憧れているマコトにしてみれば当然の行為だった。

『近くの衛星から銀河連邦軍警告信号の発信』
『駄目です。警告信号は自動的に発信されています。目標は進路を変える様子はありません』

『そう、最寄りの迎撃衛星から威嚇射撃』
『第68迎撃衛星、威嚇射撃を行います』

メインモニターに映る機影の横を衛星が放ったレーザー光線が掠めるかと思った時、それはオレンジ色の光の壁に阻まれた。

『『ATフィールド!!』』
ミサトとリツコが同時に叫ぶ。

『なんですか?それ?』
シンジが聞いたことのない言葉に反応する。

『未だ解明されていない物のひとつよ。エヴァにも張れるはずだけど、その論理は実証されていないわ』
『バリヤーの様な物ですか?』

『そうね、何物にも侵略できない壁だわ』
『えっ?そんなのとどうやって戦うんです?』

『ATフィールドはATフィールドで中和できるはずなの』
『兎に角、こっちも出してみろって事ですか?』

『ごめんなさい、もっと訓練できる時間があれば良かったのだけど』
『了解』
リツコの済まなさそうな言葉に反してシンジの答えは簡潔な物だった。

『最寄りの射程距離内の迎撃衛星全てで最大出力射撃!』
ミサトが攻撃を決意した。

『『『了解』』』
オペレータ3人は訓練通り自分達の割り当ての衛星を操作する。

100個もある迎撃衛星を一人で操作するのは無理だ。
いざと言う時は3人で分担するよう日頃から訓練されていた。
それでも一人30個強である。
このオペレータ達の優秀さも凄い物であった。

一斉に放たれる最大出力射撃のため、映像が白一色で輝く。

しかし、その後には傷一つ付いていない機影が映し出された。

『ATフィールドが有る限り敵には近づけない』

『シンジ君!レイ!敵、機影に接近。ATフィールドの展開を試みて』
『『了解』』

どうやって発生させるかも解らないATフィールド。
いや、発生させられるのかも不明だった。
しかし、シンジとレイはそれぞれの思いを持って命令に従う。

『凄い!』
マコトが呟いた。

それは初号機と零号機の動きに対してだ。
2機の戦艦は横にスライドさせながら機首を敵に向けたまま移動を行っている。
それは、通常の戦艦では行えない動作だ。
それを成し得る機体の性能もさることながら、それを実戦できるパイロットは凄いのである。
特殊戦艦に乗れないパイロット。
それは特殊戦艦の起動さえままならないのだ。

そして、ずっとエヴァのためにNERVに居たレイとは違い、シンジは今日が初めてのエヴァの操縦である。
それがレイと同じ、いやレイ以上にエヴァを操っているのだ。

『これを才能と言うのかしらね』
リツコも驚愕していた。

間近で見る敵影は映像で見るより禍々しかった。
その表面は生き物のように蠢いている。

シンジは主砲を発射した。
音が聞こえてきそうな程オレンジ色の壁が顕著かし主砲を阻んだ。

シンジはそれと同じ物を思い浮かべる。
思考で操作しているエヴァ。
シンジは同じ物を思い浮かべる事で実現できるのではないかと考えたのだ。

そのため、それをはっきり認識するために主砲を撃ち確認した。

『・・・碇君』
その時レイから通信が入る。

映像にレイのプラグスーツ姿が映し出された。
その姿はくっきりとレイの身体のシルエットを写しだしている。
思わず赤面してしまうシンジ。

「綾波?」
『・・・あれは壁ではないわ』

「どういう事?」
『・・・あれは拒絶する心』

「そうか、そう言う事か」
これは特殊戦艦乗りにのみ通じる会話だったのかも知れない。

例えば主砲を撃てと考えるのでは主砲は発射されないのだ。
敵を強力な力で撃ち抜きたいと心で感じるのだ。
それは、「あいつを殴りたい」と言う感覚に似ている。

その時、敵の一点が光った。
『シンジ君!避けて!』

ミサトの怒号とも言える声が響く。

「うわぁ〜っ!」

シンジは叫んだが衝撃は来ない。

『初号機前面にATフィールド発生!』
『なんですって?!』
リツコが慌ててモニターを覗き込む。

『マヤ!データを取りこぼさないで!』
『はい!』

「これがATフィールド・・・綾波、ありがとう」
『・・・いい』
シンジがそう言うとレイが、ひとこと言って映っていた映像が消えた。

『一斉射を行います』
シンジがそう言うと初号機の全門から砲撃が行われる。

浮かび上がるオレンジの壁。
その壁を幾つかの砲撃が通り抜けていく。

『ATフィールドを中和しているの?』
『いえ、侵食しているのよ』
リツコの顔は嬉々としていた。

今までにないデータが次々と捉えられていたのだ。

『迎撃衛星の援護をお願いします』
あっけに取られていたブリッジにレイの静かな要請が響き渡る。
レイはとっくにシンジの援護射撃を行っていた。

『迎撃衛星の全出力射撃!』
『『『了解』』』

一斉に降りかかる迎撃衛星からの射撃。
今回は阻まれる事なく敵影に着弾する。

最後の足掻きか、縦横無尽に光線を発射する目標。
そのため何台かの迎撃衛星は撃破された。

盛大に爆発する敵影。

『目標消失しました』
シゲルの報告がブリッジに響く。

安堵の息を漏らすブリッジ。

『お疲れ様、シンジ君にレイ。今日の訓練は中止。ジオフロントに戻ります』
『『了解』』

こちらの被害は殆ど無い。
後に第一次直上空間会戦と呼ばれるこの戦いは圧勝に終った。

しかしシンジは違和感を持っていた。
本当にあれは敵だったのか?
最初に攻撃を仕掛けたのはこちらだ。

コミュニケーションが取れない星間の船だっただけではないのか?
シンジの頭にはそんな思いが渦巻いていた。
そしてレイも悲しそうな顔をしている事は誰も知らなかった。

エントリープラグから出るシンジ。
エアーシャワーによりLCLが落とされる。
水ではないため乾かす必要もない。

コートを羽織り艦長席に座りレバーを引くとブリッジに戻る。
後は帰還命令を打ち込むと殆どする事はない。
シンジは帰ったら書かなければならない報告書のため、今の戦いを反芻していた。



ジオフロントに戻り、執務室で報告書を書き終えたシンジはレイに話し掛けた。

自分の席を立ち上がりパーティションの上から顔を出して言う。
「どうしてATフィールドの事が解ったの?」

「・・・・・」
レイは黙っている。

「ごめん、聞かれたく無いことだったかな。兎に角助かったよ。ありがとう」
これがシンジの処世術だ。
自分が悪いと思って無くても取り敢ず謝る。

「・・・感じたの」
席に戻ろうとしたシンジにレイが振り返りもせずボソリと言う。

「え?」
「・・・あの子の寂しい気持ちを感じた」

「綾波?」
レイはそれには答えず、再び端末の操作を始めた。

(感じた?どう言う事だ?・・・それにあの子って・・・)



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。