第壱話
着任


時は銀河歴2025年、碇シンジは銀河連邦軍シリウス連隊特殊戦艦大隊に所属していた。
特殊戦艦とは、独りで操舵できる戦艦であり、その乗り手となるためには特殊な資質が必要とされた。
その操縦方法は、特異であり、エントリープラグと呼ばれるカプセルの中に入り、思考により操舵する。
単純な航海だけならブリッジと呼ばれる操舵室から行う事ができるのだが、鑑の全機能を使用するとなると、人一人のオペレートではどうにもならないのだ。

元々戦艦は30人から60人程で運営されていた。
人数に開きがあるのは、その大きさが多様なためだ。
特殊戦艦はその大きさは戦艦としては最小とは言え、本来なら30人程必要なオペレートを一人で行うと言う事だ。

しかし、その為に通常の戦艦艦長と同程度の階級を与えられている。
最低でも中尉なのだ。
所謂、小隊長クラスである。
戦闘機乗りと同じような物だ。

銀河連邦と言っても銀河系全てなわけではない。
精々1/10程度である。
従って銀河連邦軍と他星間軍との争いは絶えない。
科学の進歩も未だ銀河系を縦横無尽に行き来できるまでは進歩していなかった。

それでもワープ航法が開発され、それも進歩を続け今では数十光年なら数日で移動できるまでになっている。

そしてシンジは辞令を受け取り地球にやってきた。



碇シンジは地球の第三新東京市にある、とある駅を降りたところで佇んでいた。
半袖にジーパンだが、汗をかいている。

銀河歴2000年、地球は何物かの攻撃を受け南極を起点として死の海と化した。
その影響で地軸がずれ、経済は破綻し多くの被害者を出した。
俗に言うセカンドインパクトである。

そのため、日本は年中常夏の気候となってしまっていた。

本来、軍から軍への移動は軍用船で移動できるのだが、シリウス連隊から呼び出されたシンジは、長距離移動船に乗る必要があり、それは大型の基地でないと発着していなかったのだ。

「全く、辞令が出て無ければ来なかったのに・・・」
シンジはそう言うとポケットから一通の手紙を取り出した。

ワープ航法より物質テレポートの方が早い。
この時代でも紙に書かれた手紙は健在だったのだ。

『来い ゲンドウ』
とだけ書かれた手紙を見てシンジは溜息を吐く。


「寡黙なのは知ってるけど、手紙でもこれかい!」
とシンジは、その手紙を開いた時に一人突っ込んでいた。

「大体、どこに来いって言うんだよ?まさかシリウスから地球にこれだけで呼び出すつもりじゃないよな?」
そうぼやきながら一緒に着いたもう一通の手紙を開けて仰け反った。

そこには、水着姿で『ココに注目』とかキスマークとか付いた『私が迎えに行くから待っててねん(はぁと)』と書かれた写真と、待ち合わせ場所が書いた手紙が入っていたのだ。

(新手の風俗勧誘か?)

とシンジは思ったが、その待ち合わせ場所が地球である事に気が付いた。

「どっちにしろ、地球じゃ行けないって」
シンジはそう言って、その手紙を捨てようとしたが、何となく気になり机の引き出しにしまった。
わざわざシリウス星間まで地球での待ち合わせを寄越す事に違和感を覚えたのだ。

その翌日、辞令を言い渡される。
そして赴任先は、『銀河連邦軍地球防衛連隊特務機関NERV作戦課』と書かれていた。

特務機関NERVとは、元々研究機関であったのだが、今の特殊戦艦の基礎を作り、その特殊性から軍に所属しながらも軍の行動とは逸脱した活動を行っている機関であった。
そして、そこの司令はシンジの父親、碇ゲンドウだったのである。


ボーッとそんな回想をしながらふと顔を上げたシンジの眼に入ったのは、アスファルトの上で蜃気楼のように頼りなく立ち尽くし、シンジを見ている蒼銀の髪に紅い瞳の少女。

「えっ?君はまさか・・・」
そう言いながらシンジが立ち上がった時、バサバサバサッと言う音と共に一斉に鳥が飛び立った。

それに一瞬気を取られ、視線を元に戻した時には、少女は消えていた。

「まさかね・・・」
シンジはそう言って再びベンチに座り迎えを待った。

宇宙空間で生活する事が多いシンジに取って、暑いとは言え日差しと空気を堪能できる時間は貴重だったのだ。
気持ちよさそうに日向ぼっこを堪能するシンジの元にけたたましい車の音が聞こえて来る。

「なんだ?」
と顔を上げたシンジの目の前に青いスポーツカーが悲鳴のようなブレーキ音を響かせ、ドリフトで滑り込んできた。

「お待たせっ!!」
ドアが開き、そこから見えたのは、サングラスをかけて黒いチャイナスーツを着た女性。

サングラスを上げたその顔は・・・

「あっ!か、葛城さんですか?!」
「そうよん、碇シンジ君よね。よ・ろ・し・く」
そう言ってウィンクをするミサトにシンジは硬直している。

「あっらぁん?私があんまり美しいんで固まってる?」
「あっすみません。女の人にそんなにフレンドリーに話し掛けられた事がなかったもので」

「あら以外と純情なのね。まぁ乗って乗って」
シンジはミサトに促されるまま助手席に乗り込む。

実際、シンジがモテない訳では無かった。
シンジ自身が鈍感な上、とある事情であまり女性と接しなかったのだ。

そして、その後シンジは死線を彷徨う事となる。

「か、葛城さん、もう少しゆっくりと・・・」
「あらんミサトでいいわよん、それにシンジ君が乗ってるからかなりゆっくり走っているのよん」
ケタケタと笑うミサトにシンジは魔女を見た。

「でもシンジ君って若いわねぇ十代にしか見えないわよ」
「ワープ航法の影響です。僕は最初から戦艦乗り志望だったので16歳ぐらいから頻繁にワープ航法を行ってましたので」

1回2回のワープ航法で身体に影響はでない。
しかし、時間軸を無視した航法ではあるので、頻繁に使用するとやはり身体にも影響してくるのだった。
実際、シンジの場合、特殊戦艦に乗っている事も影響しているが、それは超極秘事項のためシンジ自身も知らされてはいなかった。

「そんな早くから乗ってたんだ。私もそうすればもう少し若い身体を保てたかもね」
そう言ってミサトはまたウィンクをする。

「着いたわ」
ミサトがそう言うと車はカートレインに入った。

「ちょっちカートレインで時間が掛かるけど、その間にこれでも読んでおいて」
それは『ようこそNERV江』と表題された分厚い資料。

「はぁ・・・」
シンジはそれを受け取るとパラパラと捲る。

(可愛いんだけど、ちょっち暗いわね)
ミサトはシンジを観察し、そんな印象を持っていた。

実際シンジはナイーブになっていた。
折角戦艦乗り、それも特殊戦艦に乗れたのに、ここに配属されたのだ。
普通、戦艦は海に面した基地に配置される。
高質量のため、星に停鑑している時は水に浮かせて置くためだ。

水がないところに降りられない訳ではないが、その質量を支える物を作るのは高価になるためだった。
そして、ここ第三新東京市は山の中である。
シンジは船を降ろされたんだと落ち込んでいたのだ。

「ジオフロント・・・」
急に開けた視界に映し出された景色を見てシンジが呟く。
その呟きは、絶望を伴っていた。

山の中、しかも地中に戦艦が飛び立てる施設があるとは思えなかったからだ。

「そう、地球再建の要、そして人類の砦となる所よ」
シンジの胸中など知らずミサトはミサトの思いを持ってその言葉を紡いだ。

「砦?」
シンジのその問いには答えず、ミサトはじっと窓から見える景色を見ていた。



シンジはミサトに連れられ司令室に来ていた。
薄暗く広すぎると思われる部屋の中央に執務机があり、そこにゲンドウは座っている。
その横には副司令である冬月コウゾウが立っていた。
意味もなくセフィロトの樹が描かれている部屋。
軍を預かる司令の部屋とは思えない部屋だった。

「葛城大尉、碇シンジ中尉を引率して参りました」
「ごくろうだったね」
冬月がミサトを労う。

「碇シンジ中尉、只今着任致しました」
シンジも敬礼して着任の報告を行う。

(全く葛城さんも司令室に来るなら着替えさせてくれればいいのに)

チャイナスーツのミサトに半袖にジーパンと言うラフな格好のシンジは、軍の着任報告とは思えない格好であった。

ゲンドウは机に肘を付き顔の前で手を組んでいる。
「・・・久しぶりだなシンジ」

「そうだね」
そのまま暫く沈黙が続く。
冬月もミサトも間が持てなくなってきていた。

「・・・詳しい事は葛城大尉に聞け。以上だ」
「碇・・・」
久しぶりの親子の対面とは思えないゲンドウの言葉に冬月は声を掛けるも、この男ならしかたないかと諦めた。

「では、碇シンジ中尉の案内を頼むよ葛城大尉」
「はっ了解致しました」
ミサトは冬月の言葉をこれ幸いと受け取り、退室する。
シンジも敬礼だけしてミサトの後に続いた。

「10年ぶりぐらいだろ?もう少し声を掛けてやれないのか?」
「・・・私は父親失格ですから」
そう言ってゲンドウはニヤリと唇を吊り上げる。

(全くこの男は・・・)
冬月もそれ以上の言葉を持たなかった。



司令室を出たミサトはシンジを連れて発令所に向かった。

「そっちからオペレータの青葉シゲル少尉、日向マコト少尉、伊吹マヤ少尉よ」
「よろしくぅ」
「よろしく」
「よろしくお願いします」

「こちらが、今日から作戦課に配属の碇シンジ中尉」
「宜しくお願いします」
シンジはペコリと頭を下げた。

「えぇ?中尉なんですか?」
マヤが眼を丸くし、信じられないと言う顔で尋ねる。

はっきり言ってマヤ自身も童顔で少尉と言われても信じられないのだが、自分の事は棚に上げているのだろう。

「申し訳ありません。一応戦艦に乗ってたので・・・」
シンジは済まなさそうに頭を掻きながら答えた。

「いや、謝る必要なんかないよ。見た目若いから吃驚しただけさ」
シゲルがマヤのフォローを兼ねて、態と軽くそう言う。

その時、プシュッと言う音と共に、発令所に金髪に白衣の女性が入ってきた。

「あらリツコ丁度良かった。紹介するわ。碇シンジ中尉よ」
「そう、私は技術一課E計画担当博士の赤木リツコ・・・よろしく・・・リツコと呼んでもらって良いわよ」
リツコはそう言うとニッコリと微笑んだが、値踏みするようにシンジを見詰めた。

「E計画?」
「いらっしゃい碇中尉。見せたい物があるの」
シンジの質問には答えずリツコはそう言うと踵を返した。

「見せたい物ですか?」
シンジは状況に付いていけず、ミサトの方を見るとミサトも頷いていたのでリツコに付いて行く事にした。

黙々と歩く3人。
いや、ミサトとリツコはコソコソと小さい声で何か話していたが、シンジには聞き取れなかった。

「着いたわ。ここよ」
一頻り重そうな扉の前でリツコは、そう言うと扉の横にある装置にカードを通し番号を打ち込んだ。

重々しく開く扉。
その扉から中に入ったシンジは驚愕する。

「こ、これは・・・」
そこには、300メートル四方はあろうかと言うプールに紫の戦艦とオレンジの戦艦が浮いていたのだ。

「紫の方が貴方の船。エヴァンゲリオン初号機よ」
「エヴァンゲリオン・・・」
リツコの説明に鸚鵡返しに呟くシンジ。

「僕がこれに乗るんですか?」
「そうよん」
シンジの問いに答えたのはミサトだった。

シンジは歓喜に震えていた。
もう戦艦には乗れないと思っていたのだ。

エヴァンゲリオンと言う戦艦に相応しくない名前であったが、そんな事はどうでも良い。
紫と言うカラーリングもどうかと思うが、その姿はシンジが今まで見たどの戦艦よりも洗練されていて、それでいて強さを感じられた。

「僕がこれに・・・」
シンジの眼は爛々と輝いている。

その時、シンジ達が入ってきた逆の扉が開き、一人の少女が入ってきた。
その髪は蒼銀、瞳の色はルビーのように深紅、身体は陶磁器の様に白かった。
そして、シンジがミサトを待っている時に見た少女その人であった。

「あっ、き、君は・・・」
「あっら〜ん、シンジ君、レイと知り合い?」
ミサトがからかいモードに突入する。

「いえ、知り合いと言う程では、士官学校で戦艦の訓練の時に・・・」
「あぁレイは戦艦の訓練に時々呼び出されるからね」
なぁんだと、心底つまらなそうに言うミサトだった。

「レイ!ちょっといらっしゃい!」
しかし、そこはミサト、次ぎなる作戦を打ち出す。

ミサトの声にレイは振り向くと、こちらに向かって歩いて来た。
背筋をピンと伸ばし、颯爽と歩くその姿はモデルと言われても疑わないだろう。

「・・・何でしょう葛城大尉」
抑揚のない、しかし鈴の鳴るような声でレイが言う。

(うっこの娘のこの態度、ちょっち苦手なのよね)
ミサトはレイの淡々とした態度が苦手だったのだ。

「こちらが今日着任した碇シンジ中尉。初号機の艦長よ」
「・・・碇」
レイはその名前に反応する。

「そっ、司令の息子さんよ」
ミサトが何でもないように説明するが、それはこの2人に取っては禁忌に触れる言葉だった。

「・・・そう」
レイは、それだけ言うと踵を返し戻ろうとする。
シンジも沈痛な顔をしていた。

「ちょ、ちょっち待ってレイ」
ミサトはそんなレイを引き留める。

「・・・何でしょう?」
「ふぅ・・・こちらが綾波レイ。エヴァンゲリオン零号機。そっちのオレンジ色の艦長よ」

「艦長?」
シンジは驚いた。
確かにレイは自分が士官学校時代に戦艦起動の手本を見せにやってきていた。
しかし、軍人には見えなかったのである。
そしてシンジはそんなレイの姿を忘れる事ができなかった。
その髪の色や瞳の色は、どこかの星の特色なんだろうと思ってその時は気にもしなかった。
シンジがあまり女性と近付かなかったのは、実はレイのせいだったのだ。
どの女性を見てもレイを忘れるに至らなかった。
鈍感で純情なシンジはそんな気持ちで女性と付合うのは不誠実だと思い、誰とも付合わなかったのである。

「・・・そうよ」
レイは、そう言うとシンジを睨付けている。

「あっ碇シンジです。これから宜しく」
レイに見取れていたシンジは慌ててそう言って頭をペコリと下げた。

その様子に今までの剣呑な雰囲気を崩しキョトンとするレイ。

「・・・綾波レイ」
レイはそれだけ言うと踵を返し自分の船の元へと行ってしまった。

「はぁ・・・ちょっち取っ付きにくいけど良い娘だから仲良くしてね」
ミサトは片手を顔の前にあげゴメンと片目を瞑りながらそう言った。

「ええ」
そう答えたシンジはレイの後ろ姿を眼で追っていた。



その夜、シンジは宴会に駆り出されていた。
居住区に案内され、「じゃぁ後で連絡するから」とミサトに言われ待っていたら連れ出されたのだ。

シンジはこういう飲み会は得意ではない。
人の顔色を伺うシンジは人の数が増え、本音と建て前が見事に交差する飲み会は精神的に疲れるのだ。

「碇中尉は、なんで戦艦乗りになったんだい?」
マコトが真っ赤な顔をしてシンジに詰め寄ってきた。

「えっ?船乗りって男の憧れじゃないっすか?」
「そっかぁそうだよなぁ大海原を駈ける戦艦。格好良いよなぁ・・・」
何故かマコトは遠い眼をしている。

「マコトォまた絡んでるなぁ」
今度は長髪のシゲルがやってくる。

「何ぃ、俺がいつ絡んだって言うんだよ!」
「今だよ今!」
そう言いながらもシゲルはマコトのコップにお酒を注いでいる。

「悪いねぇ中尉。こいつも実は船乗りになりたかったらしくてね」
「そうだったんですか」

「だけど、親に反対されてね、ほら、戦艦乗りってあんまり帰ってこないだろ?」
「あぁそうですね。同期にも結局親を説得できずに諦めた奴も居ましたよ」

「そうだろう?本当、子の心、親知らずって奴だよなぁ」
「それは逆だろ?」
マコトとシゲルの漫才はまだまだ続くようだ。

ミサトの方を見ると、ミサトがリツコをからかい、リツコはそれを歯牙にも掛けていないのだが、何故かマヤが憤慨している。
ミサトはそれをおもしろがって、益々リツコをからかっていた。

(だから宴会って苦手なんだよなぁ)
シンジは苦笑いをしながら2人の遣り取りに鋏まれていた。

しかし、今日のシンジは浮かれていた。
諦めかけていた戦艦に乗れると解り、しかも初恋の君とも呼べるレイに逢えたのだ。
歓迎会と言う言葉にレイも来るかも知れないと言う打算が働き、そして実際にレイも参加していた。
これはミサトが強引に連れてきたのだが、そんな事はシンジは知らない。

レイの方を見るとレイは一人でチビチビと何か飲みながら時折、食べ物に箸を付けていた。
お酒が廻って来たシンジの顔は綻んでいた。
しかし、鈍感の3乗×純情の3乗のシンジはレイに声を掛けるなんて行為にまでは及べ無かった。

そこに助け船ともお節介とも言えるミサトが介入してくる。
「あっらぁん、シンちゃんたら、折角レイを誘ってあげたんだから、ちょっとは話しなさい!」

ミサトに引きずられレイの隣に座らされるシンジ。
24歳とは思えない程、カチンコチンに固まっていた。

「あっ、ご、ごめんね、ミサトさんに無理矢理座らされて・・・め、迷惑だよね」
「・・・構わないわ」
オドオドと言うシンジをジト目で見ていたレイだが、そう答えた。

「ほ、本当?」
「・・・ええ」
レイはちびちびとウーロン茶を飲んでいる。

「ぼ、僕、なんか気に障る事したかな?」
「・・・どうして?」
お互い前を向いて話している。

「士官学校で君を見た時は、そんな眼をしていなかったのに、今日は僕を睨付けているように見えるから・・・」
レイは(ハッ)とした顔でシンジの方を向く。

シンジは相変わらず前を向いて自分のビールをちびちびと飲んでいた。

「・・・睨んでないわ」
「そう、なら良いんだ。君に嫌われたくないから・・・」

「・・・どうして?」
「そ、それは、その・・・僕は士官学校の時以来、君を忘れられなかったんだ」
シンジは真っ赤になって言う。
酒の力だったのだろう、その顔色からシンジがかなり酔っている事が伺える。

「・・・な、何を言うのよ」
レイがそう言った時、バタンと言う音がして振り向くとシンジはテーブルに突っ伏していた。



シンジは真っ暗な所で眼が醒めた。

「ここは何処だ?」
シンジが明かりを探してなんとかスイッチを着けると、そこは昼間案内された居住区にある自分の部屋だった。

「あれ?僕は・・・そっか酔い潰れたんだな・・・うっ!頭痛い」
シンジは冷蔵庫の中を見たが何も入っていない。

しかたなく水道から水をコップに汲みガブガブと飲んだ。

「ぷっはぁ〜」
時計を見るとまだ朝の4時前だった。

「もう一回寝よう」
そう呟いてベッドに入ったシンジは宴会での行動を思い出していた。

「あぁでも綾波に逢えるなんて思わなかったなぁ・・・」
シンジはにやけている。

「ちょっと無表情で冷たい感じがするけど、睨んでないって言ってたし・・・」
そこまで思い出してシンジは真っ赤になった。

「あっ!ぼ、僕は何を言ってしまったんだ!明日どんな顔をして逢えばいいんだ!」
シンジは唐突に自分の言葉を思い出してしまった。

「うぅぅ・・・何を初っ端から失敗しているんだよ!これじゃ明日から敬遠されるに決まってる。あぁ・・・僕って馬鹿だ」
シンジは枕を頭から被って唸って、そして眠りについてしまった。



翌朝目覚めたシンジは、制服を着ると心を引き締めた。

「昨夜の事は謝ろう、これからここで軍人として過ごしいかなければいけないんだ」
シンジは、自分に言い聞かせるように鏡に向かって言うと部屋を後にした。

昨日、教えられた作戦課の執務室に入ると、レイが既に来ている。

「おはよう」
シンジはまず、普通に挨拶する事から始めようと試みた。

「・・・おはよう」
レイはシンジの方を向くと暫く見詰めてからそう返す。

この間にシンジの計画は崩壊してしまった。
レイが返事を返すまでにシンジの頭の中では色々な想像が巡ってしまったのだ。

(あっやっぱり怒ってるのかな?睨んでるようには見えないけど・・・ど、どうしよう返事してくれないと先へ進めない、いや先に謝ってしまおうか・・・)
などと考えている所に返事が返ってきてしまったのだ。

それでホッとして、考えていた事が全て飛んでしまった。

レイは、キョトンと小首を傾げると、何やら書類を纏めて出て行ってしまった。

(あぁ・・・何やってんだ僕は・・・でも怒ってなかったよな?)
そう思い少し気が楽になったシンジだった。


「おっはよぉん、あら?シンちゃんだけ?」
そこへ脳天気なミサトが現れる。

「いや、綾波なら書類を持って出て行きましたよ」
「そう、じゃぁシンちゃんはその空いている机使って、レイと2人っきりだからってイタズラしちゃ駄目よ。私は自分の部屋に居るから何かあれば電話か直接来てねん」
ミサトは、そう言って部屋を出て行った。

(へ?綾波と2人っきり?)
シンジが周りを見渡すと、エリアは4つある。
真ん中を通路としてパーティションで区切られている形だ。

そぉっと見てみると、使われているのは確かに一つのようだ。

シンジは使われているらしきパーティションの向かいに入ると、椅子に座って端末の電源を入れた。

端末はカードを通すとログイン出来るようになっている。
つまり、どの端末を使っても自分のレベルと環境ででログインできるのだ。

「ふぅっ」
シンジは溜息を一つ吐くと、自分のスケジュール表を開く。
軍の士官は、大概のスケジュールはこれに表示されるのだ。
そして他人のスケジュールも機密に触れない限り見ることが出来る。

「綾波と2人っきりかぁ・・・」
シンジは自分のスケジュールを確認すると、次ぎにレイのスケジュールを確認した。



続きを読む
戻る


新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。