第拾六話
ミサトの転機


第三使徒、サキエル戦。
初号機パイロット碇シンジを使途襲来当日呼び寄せ、初号機に搭乗させる。
初号機は修復不可能な程、崩壊。
パイロットは死体は発見されずも生存は絶望的。
SCSによる同時多方向攻撃により通常兵器で殲滅される。

第四使徒、シャムシェル戦。
急遽選抜したパイロットにより参号機にて使徒迎撃を行うも、戦闘域に民間人を発見。
エントリープラグに1名の民間人を乗せ撤退するも途中で電源切れ。
SCSによる同時多方向攻撃により通常兵器(但し弾頭は前回の物より硬い)で殲滅される。

第五使徒、ラミエル戦。
一度目の強行威力偵察により、撃退される参号機。
次いで、超長距離からの一点突破攻撃によって、撃破する。
NERVは否定するもSCSの介入の疑いあり。

第六使徒、ガギエル戦。
太平洋艦隊に運搬されてきた弐号機により殲滅。

第七使徒、イスラフェル戦。
水際迎撃を行うも、使徒分裂。
しかし、弐号機パイロットの迅速且つ適切な対応により殲滅。

第八使徒、サンダルフォン戦。
マグマ内部に沈降した弐号機が、捕獲作戦を決行。
使徒が羽化した事により殲滅作戦に移行。

第九使徒、マトリエル戦。
NERV内停電となるも手動にてエヴァ起動、出撃坑からのパレットガンの一斉射により殲滅。

第十使徒、サハクィエル戦。
衛星軌道上から落下してくる使徒を、エヴァ二体によって直接受け止め迎撃。
NERVは否定するもSCSの介入の疑いあり。

第十一使徒、イロウル戦。
NERV本部への進入は誤報と報告される。

「いかんなあ、これは」
「さよう、早すぎる!」
暗い部屋の中央でゲンドウがひとりスポットライトを浴びながら座っていた。
それを取り囲むように委員会の老人達が居る。

「使徒がネルフ本部へ侵入するなど予定外だよ」
「まして、セントラルドグマへの侵入を許すとはな」
「もし、アダムとの接触が起こればすべての計画が水泡と化したところだ」

口々にゲンドウをなじる会話が交わされる。

「委員会への報告は誤報、使徒侵入の事実はありません」
やっとゲンドウが重い口を開いた。

「では、六分儀!第11使徒侵入の事実はないというのだな?」
「はい」
平然と答えるゲンドウ

「気をつけてしゃべりたまえ六分儀くん!この席での偽証は死にあたいするぞ」
「お疑いでしたらMAGIのレコーダーを調べていただいても結構です。その事実は記録されていません」
既にMAGIの記録はリツコによって書き換えられていた。

「笑わせるな六分儀!事実の隠蔽はキミの十八番ではないか」

「タイムスケジュールは死海文書の記述どおりに進んでおります」
嘘だということは双方ともわかっていたがそれでもゲンドウは型どおりに答える。

「しかも、今の所使徒殲滅の功績を挙げているのはSCSと弐号機のみ、いささかエヴァの運用が疎かではないかね?」
「第伍使徒、第九使徒では参号機が殲滅しております」

「まあいい。今回のキミの罪と責任は問わない。だが、キミが新たなシナリオを創る必要はない」
「わかっております。すべてはゼーレのシナリオどおりに」
ゲンドウの返答と同時にホログラフの老人達は消えて照明がついた。



リツコはサルベージの準備で忙しい。
そこへいつものようにノックもせずにミサトが執務室へ入って来た。

プシュッ
「ノックぐらいしなさいっていつも言ってるでしょ!」
「ゴミンゴミン」
いつもの様に悪びれもせず、コーヒーを注ぐミサト。

「それより明日、何を着てく?」
リツコがデータを点検しながら話しかける。

「あ、結婚式ね。う〜ん、ピンクのスーツはキヨミのときに着ちゃったし、紺のドレスはコトコのとき着たばっかだし・・・」
コーヒーを飲んでいたミサトは眉間に皺を寄せた。

「オレンジのやつはどうしたの、最近着てないじゃない」
「あ〜、あれね。ちょっち訳ありで・・。」
言いにくそうに語尾を濁すミサト

「きついの?」
容赦のない言葉がリツコから発せられる。

「そうよ」
苦々しげに答えが返ってきた。

「あ〜あ、帰りに新調しようかな?出費がかさむな」
こう立て続けだとご祝儀もばかにならないわね」

「けっ、三十路(みそじ)前だとどいつもこいつも焦りやがって」
お祝い事だと言うことを完璧に忘れているミサトだった。

「お互い最後の一人にはなりたくないわよね」
データの確認をしながらリツコがフォローする。



翌日の披露宴会場に、ミサトとリツコは居た。
ミサトは結局、新調したようだ。

「こないわねリョウジくん」
「あのバカが、時間通りに来た事なんていっぺんもないわよ」
リツコの穏やかな言い方とは対照的にミサトは憤懣やるかたないといった感じであった。

「デートの時はでしょう。仕事の時は違ってたわよ」
「よ〜、お二人さん、今日はまた一段とお美しい、時間までに仕事抜けらんなくてさ」
やっと加持が到着した。

「いつも暇そうにプラプラしているくせに!どうでもいいけど何とかならないのその無精髭!」
ジト目で睨みつけるミサト

ネクタイはだらしなく、無精髭もそのままの加持だった。

「ほら、ネクタイが曲がってる」

ぶつぶつ言いながらも世話をやくミサト。

「おおっと、どうも」
「夫婦みたいよ、あなた達」
リツコが微笑んで言った。

「いいこと言うね、りっちゃん」
「だ〜れがこんなやつと」
口では文句を言いつつ、まんざらでもないミサトだった。



見渡す限り広大な平原に、墓標が一定の間隔で並んでいる。

―IKARI YUI 1977−2004―

ゲンドウは一人佇んでいた。

そこへ降り立つ2台の戦闘機。
中からはシンジとレイが降り立った。
レイを大人にした様な容姿。
それは取りも直さず、髪の毛の色と瞳の色を除けばユイにそっくりと言う事だ。

「・・・こんな所まで何をしに来た」
ゲンドウが2人を見て、不機嫌に言い放った。

「貴方とはなかなか話す機会を設けられませんのでね、無粋とは存じましたが、ここまで出向いてきたわけです」
シンジはゲンドウの威圧的な眼も気にせず言った。

「・・・何を話すと言うのだ」
存外に話す事など無いと言うゲンドウ。

「ここに碇シンジ君は眠らせないのですか?」

シンジとレイは墓前に手を合わせた。

「・・・まだ墓標に刻んでいないだけだ」
ゲンドウが言う。

「そうですか、ここには何も埋まってないと聞いています。貴方は何のために毎年こちらに?」
「人は思い出を忘れることによって生きていける。だが決して忘れてはならないこともある。ユイはそのかけがえのないことを教えてくれた。私はその確認をするためにここへ来ている」
墓前だからだろうか?
珍しくゲンドウは饒舌に思いを語った。

「本当に貴方はその教えを正しく思い出して確認していますか?」
「・・・お前に何が解る」
「ふんっ」とゲンドウは顔を逸らした。

「・・・人は生きてゆこうとするところにその存在があるわ」
レイのその言葉にゲンドウは「ハッ」としてレイを見た。

その言葉は在りし日のユイが言った言葉。
そしてその言葉を紡いだ者はユイにそっくりな声。
夕日のために茶色く見える髪の毛に影になっているため黒く見える瞳に、まるでユイに言われている錯覚を起こすゲンドウだった。

しかし、その表情は無表情。
在りし日のユイの様に自分に向かって微笑んではくれなかった。

「・・・群体であるリリンはその子孫を残す事が生きていく事。子供達を犠牲にして明るい未来は有り得ないわ」
レイがそう言った。

その言葉にゲンドウが「ハッ」と眼を見開いた時、ネルフ所属のVTOLが背後に降りてきた。

「・・・時間だ」
そう言うとゲンドウは独りVTOLに向かって歩いて行った。

「父さんは不器用なんだね」
飛び立つVTOLを見ながらシンジは呟いた。

「・・・そうね」
シンジに寄り添いレイも同意する。



「いまさら何を言ってんだか」
披露宴の後、ミサトとリツコと加持は3人だけで3次会に突入していた。

「ひどいなあ」
ミサトの暴言に苦笑いの加持。

「ちょっち、お手洗い」
「とか何とか言って逃げんなよ」

「い〜〜〜だ!」
ドレスアップした姿のまま、かわいく舌を出して席を離れるミサト。

「何年ぶりかな、3人で飲むなんて」
「ミサト、飲み過ぎじゃない。何だか、はしゃいでるけど」

「浮かれる自分を抑えようとして、また飲んでる。今日は逆か」
「やっぱり一緒に暮らしていた人が言うと重みが違うわね。」

「暮らしてたと言っても葛城がヒールとか履く前のことだからな」
「学生時代には想像できなかったわよね」

「俺もガキだったし、あれは暮らしって言うよりも共同生活だったな。おままごとだよ。現実は甘くないさ」
「それよりも加持君」

「おや、改まってなんだい?」
「ミサトの事なんだけど、お願いできないかしら?」

「例の件か・・・努力はしてみるよ」
「お願いするわ、私もサルベージの計画とかで忙しくて・・・」

「そうだ、これ猫の土産!」
「あら、ありがと。まめね〜」

「女性にはね。仕事はずぼらさ」
「どうだか、ミサトには?」

「一度敗戦してる。負ける戦はしない主義さ」
「勝算はあると思うけど」

「リッちゃんは?」
リツコの相手については加持も当初から情報を得ていた。

「自分の話はしない主義なの、おもしろくないもの」
グラスを運ぶリツコの表情が暗くなった。

「おそいなあ、葛城!化粧でも直しているのかな」
「京都へは何しに行って来たの」

「あれっ、松代だよ、その土産」
「とぼけても無駄。あまり深追いしても時間の無駄よ。これは友人としての忠告」

加持の行動は逐一監視されていた。
「真摯に聞いておくよ。でもどうせ時間を費やすならキミと」

「砂時計でも買ってきましょうか」
突然、ミサトが割り込んできた。

「やあ、お帰り」
にこやかに迎える加持。

「変わんないわね。そのお軽いとこ」
「いやあ、変わっているさ。生きるってことは変わるってことさ」

「ホメオスタシスとトランジスタシスね」
「何それ?」
リツコに問いかけるミサト

「今を維持しようとする力と変えようとする力、その矛盾する2つの性質を一緒に共有しているのが生き物なのよ」
「男と女だな」
加持は意味深な言い方をする。

「そろそろお暇するわ。仕事も残っているし」
リツコは気を利かせて帰ることにした。

「そ〜お」
「残念だな」

「じゃ、またね」
昔の恋人どうしを残してリツコは早々に退散した。



「加持君、ここ何処?」
「Dブロックのあたりだ」
ミサトは加持に背負われて夜の公園に来ていた。

安心して眠り込んでしまっていたようである。
懐かしい加持の匂い。

「わたし歩く」
夜風が気持ちいいのでミサトは歩くことにした。

「加持くん、わたし変わったかな?」
「綺麗になった」

「ごめんね、あのとき一方的に別れ話して。他に好きな人ができたって言ったのは、あれ嘘。バレてた?」
「いや」

「気づいたのよ、加持くんが私の父に似ているのに」
「・・・・・」
加持は黙って聞いていた。

「自分が男に・・・父親の姿を求めていた。それに気がついたとき・・・恐かった」
「加持くんと一緒にいることも、自分が女だということも、すべてが恐かった」

「父を憎んでいた私が、父とよく似た人を好きになる。すべてを吹っ切るつもりでネルフを選んだけど、でもそれも父のいた組織」
「結局、使徒に復讐することでみんなごまかしていたんだわ」

「葛城が選んだことだ。俺に謝ることじゃない」
「違うの!選んだわけじゃないの!ただ逃げてただけ。父親という呪縛から逃げ出しただけ!臆病者なのよ」

「ごめんね。ほんと酒の勢いで、いまさらこんな話」
「もういい」

「子供なのね」
「もういい」

「その上、こうやって、都合のいいときだけ男に縋ろうとする、狡い女なのよ!あの時だって!加持くんを利用してただけかもしれない。嫌になるわ」
「もういい、やめろ!」

「自分に絶望するわよ!」
「やめろ」
加持はミサトの唇を塞いだ。

それは8年ぶりの恋人達のキスであった。

「私は何かを憎まなければ生きていけないのかもしれない」
唇を離したミサトは、話し始めた。

「何を望むのか・・・ずっと考えていたわ、使徒を全て倒した後、私はどうしたいのか」
「答えは出たのか?」

ミサトは首を横に振る。

「何もないの、何もないのよ!」
まだ酔いが残っているのかミサトは叫んだ。

「じゃぁ探せばいいんじゃないか?」
「探す?」

「あぁNERVも辞めて、使徒の事もエヴァの事も忘れて、新しい人生を探すんだ」
「そんなの独りじゃ無理よ・・・」
ミサトが俯いて歩きだした。

「勿論、俺も手伝うさ」
「加持君・・・」
ミサトはそう言って振り返った。

そこには無精髭でだらしない色男が立っている。

「俺もね、真実を求めてたつもりが、求める物が無くなって途方に暮れてたところさ。これからは葛城の神秘でも求めようかと思ってね」
「バカッ」
そう言いながらもミサトは微笑んでいた。



そしてここはシンジ達の艇であった。
今回は、冬月、ミサト、リツコ、加持、マヤ、マコト、シゲル、アスカの8人が来ている。
日曜日と言ってもこれだけ主要メンバーが居なくて良いのかと言う面子だった。

シンジ達は、今回はジェットヘリを用意した。
流石にこの人数を戦闘機に乗せ運ぶのは憚られたのだ。

マヤ等は戦闘機に乗れると期待していたらしく、結構がっかりしていた。
そんなマヤにシンジは
「今度、乗せてあげますよ」
とフォローを入れるのだった。
その後ろで睨付けている紅い瞳に気付かずに。

ミサトも今日は、かなり穏やかな眼をしている。

「ミサトさん何かあった?」
シンジがアスカにこっそり尋ねた。

「どうやら加持さんとよりが戻ったみたい。またこっちにまで幸せを押しつけて大変なのよ」
アスカが鬱陶しそうに言う。

シンジは「そうか」と微笑んでいた。

会議の場所は前回と同じなのだが、広さ的にはまだ広いぐらいで何の問題もない。
今日はレイが皆にお茶とお茶菓子を用意していた。
何故かケーキの数は人数x2個あった。

「わぁ美味しいそうですぅ♪」
マヤが何をしに来たのか解っているのか、歓喜の声を上げていた。

仕方ないわねぇと言う眼で見ているミサトとリツコもケーキは物色している。

「・・・これはモンブラン、これはミルフィーユ、これは抹茶シフォン・・・」
レイが一つ一つ説明をしていた。

「迷っちゃいますぅ」
「こんなの早い物勝ちよ!」
マヤが悩んでいるとアスカがとっとと4つ程持ち去る。

「あっアスカちゃん、それ狙ってたのにぃ・・・」
「・・・後で同じ物を持ってくるわ」
マヤが悲しそうな表情で訴えているところにレイが言った。

「本当ですかぁ?じゃぁ、今はこっちを・・・」
マヤは眼を爛々と輝かせ、他のケーキを取った。

「平和だな・・・」
「そうだな・・・」
「女は甘い物に弱いのは今に始まった事じゃないさ」
マコト、シゲル、加持が中に入れず、ぼやいていた。

一通り落ち着いた頃を見計るとシンジは切り出した。
「さて、今日は錚々たるメンバーですが、どのようなお話でしょうか?」

「まず、ここに居る人間は君達の言うNERVを捨てると言う事に異論のない人間達だ」
冬月は一端そこで区切る。

「しかし、だからと言って他のNERV職員を見殺しにする訳にもいかない」
シンジ達は黙って聞いている。

「そこで君達と計画を練りたいと言うのが今日の我々の主旨だよ」

冬月はこの間の会談を活かし、今日は端的に目的を述べた。

シンジは暫く考えていた。

そしてゆっくりと口を開く。
「まず、使徒は倒す、サードインパクトは阻止すると受け取って宜しいのでしょうか?」
「あぁその通りだよ」
冬月に迷いはないようだ。

「我々の予期するこれから起こりえる事は、まず使徒が残り6体です。そしてその後ゼーレが何らかの形でNERV本部の占拠を試みるでしょう。そしてゼーレによる量産型エヴァによる儀式、つまり人類補完計画と言う名のサードインパクト実施と見ています」
「それは本当かね?」
冬月が驚愕の声を出し、加持は「ひゅ〜」と口笛ともならない音を出していた。

そこまで具体的に予測しているとは思っていなかったのだ。
そして、シンジが発令所で語った事実から、シンジの言葉はある程度確証の有る事なのだろうと、ここに居るNERVメンバーは感じていた。

「本当かと言われると先の話なので何とも言えません。単なる我々の予測でしか有り得ませんから」
「いや、それは確かにそうだが、君の事だから何か確証があるのではないのかね?」
冬月は元来の学者気質からその論拠を求める癖があった。

「そうですね、使徒の数は裏死海文書から、ゼーレの行動は色々な情報からですね」
「成る程・・・」
冬月ははぐらかされた気がしたが、追求するのを止めた。

「簡単な方法としては、本部のエヴァとMAGIを破壊してNERVを現状で解散すると言うのが、あなた方としては一番楽ですねぇ」
「しかし、それじゃぁ使徒とゼーレはどうするのかね?」
カヲルの言葉に冬月が難色を示す。

「僕達でなんとかする・・・って事になるのかな?」
「エヴァ無しで後6体は問題無いって言うの?」
シンジの言葉に反応したのはミサトだがいつもの様に怒鳴ってはいなかった。

それを確認したシンジは少し微笑んで答えた。
「なんとかなるとは思いますが問題は、そうなると何処に現れるかと言う事ですね」
「アダムかね」
冬月がシンジの言葉の意味を理解した。

「まぁ基本的には黒き月に向かうとは思うのですが、こればっかりは遣ってみないと解らないですね」
「黒き月って?」
シンジの言葉にアスカが珍しく尋ねた。

「第三新東京市のジオフロントの事だよ、因みに南極は白き月ね」
シンジがあっさりと答える。

「ちょっと待って!使徒はアダムやリリスじゃなくあの土地を目指していたって言うの?!」
リツコが信じられないと言う顔で聞いた。

「じゃぁ逆にアダムもリリスも無く、第四使徒と第伍使徒はなぜ第三新東京市を目指したのでしょう?」
「アダムもリリスも無くってどう言う事よ!」
今度はミサトだった。

「第三使徒が殲滅された後、ターミナルドグマのリリスは消えていた。それから加持一尉がオーバザレインボーで運ぶまでアダムはドイツにありましたね」
「加持ぃ〜あんたそんな事やってたの?!」
「いや、あの時は司令に頼まれてだな・・・落ち着け葛城・・・落ち着け・・・なっ」
加持がミサトの形相に恐れを抱いていた。

「そう、そうだったのね・・・」
リツコは、また自分の知らない事実に落胆していた。

「まぁこればっかりは使徒に直接聞かないと解りませんけどね」
シンジは少し肩を窄めてそう言った。

「それでは、使徒を全て殲滅するまでは、今まで通りNERVは使徒殲滅に当っていた方が無難と言うことかね」
「現状を維持すれば、使徒は第三新東京市に向かうのは確実ですね」

「後は何をすればいいのかね?」
「できれば序々にエヴァを破壊、人員削減とか経費節減とかでやはり序々に職員を解放かな?」

「序々にエヴァを破壊とは?」
「例えば、今度のサルベージを失敗に見せかけて破壊とかですね」

「それは難しいわ、サルベージは屋内で行われるわ。エヴァを爆破したら被害は想像もできないわね」
リツコが否定した。

「まぁそうでしょうね、例えばの話です」
シンジもそんな事は解ってるとばかりに言う。

「でも、そうなると零号機の破壊は最後に本部毎爆破とかになるなぁ」
シンジが眉間に皺を寄せながら言った。

「何か問題があるのかね?」
「いや、そうなると結局、六分儀司令はそれに縋ったままで眼が醒めないんだろうなと思いまして・・・」

このシンジの言葉には、皆驚いた。
ゲンドウについては皆、見限っていたのだ。
まさかシンジがゲンドウの事を案ずるなどとは思いもよらなかった。
何よりゲンドウはシンジ達を殺そうとしたのだ。

「君は六分儀をどうしようと言うのかね?」
「いや、どうしようとも思ってませんよ、ただ彼が主役なら、僕達は悲恋を邪魔する悪者ですからね」
そう言ってシンジは笑ったが、他の者達は笑えなかった。

「それってどういう意味なんですか?」
マヤが聞いた。

「彼は愛する妻と会いたいが為に他の物全てを利用しようとしている。僕だって全人類とレイを計りに掛ければレイを取るって事ですよ」
シンジのその言葉に皆、眼を見開いて驚いた。

ミサトは神妙な面持ちで加持を見ている。

マヤは眼をハート型にしている。
違う世界へ行ったようだ。

レイもほんのり顔を紅くしてシンジに擦り寄っていた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。