第拾壱話
揺れ動く進路


「・・・何を考えているの?」
ソファに横たわり、紅茶を飲みながら難しい顔をしているシンジにレイは話しかけた。

「いや、そろそろ進路相談の時期だなって思って」
「・・・進路相談?」
レイは小首を傾げた。

「何の事だい?」
カヲルも訳が解らないと言う顔で尋ねた。

「いや、中学校に行っていると、そろそろ進学するとか就職するとかの進路を親を交えて行う時期なんだよ」
「・・・あっ」
レイが思い出したように声を出した。

「それが何かあるのかい?」
カヲルがまだ意味が理解できないと言う顔をしている。

「・・・マトリエルが来るのね」
「それもそうなんだけどね」
シンジが苦笑した。

「何か心配事があるのかい?」
カヲルがシンジの様子を察して心配している。

「進路と言う意味では僕らの将来や、シンジ達の将来って未だ曖昧なままだと思ってね」
「確かに今の時点で確約はできないねぇ」
カヲルじゃ何となくシンジの言いたい事が理解でき、同意した。

「・・・今、出来る事は限られているわ」
「そうだね」

「・・・シンジ君が心配しているのはアスカね」
レイがちょっと頬を膨らませて言った。

「そんな膨れないでよ、まさか戻って来てるとは思わなかったからさ」
「・・・思わなかったから?」
レイが益々不機嫌そうな顔になる。

「きっと誰にも相談できなくって独りで色々考えていたんだろうなって思って」
「シンジ君の心は相変わらず繊細だね。やはり好意に値するよ」
カヲルが微笑みながらそう言った。

「・・・そうね」
レイも矛先を引っ込めたようだが、頬はまだ膨らんでいた。
しかし、シンジにピトッと張り付いた。
女心はやはり摩訶不思議であると感じるシンジだった。

そこに警報が鳴り響く。

「来たみたいだね」
「・・・そうね」
「今回は2人で行くかい?」

「そうだね、多分アスカが倒しちゃうとは思うけど、念のために2人で行ってくるよ」

そう言って、シンジとレイは戦闘機のコクピットに向かった。



アスカは第壱中学校でホームルームの最中だった。

クラスの担任が
「近いうちに進路相談の面接があるので、その事を親に伝えておくように」
と話していた。

(進路ねぇ・・・あたしはどうするのが良いのかなぁ・・・しまった!)

アスカはボンヤリと今後どうするか考えていたのだが、ある事を思い出した。

「ジャージッ!NERVに行くわよ!」
「解ってんがな、そんな急かすなや」
「いいから、さっさと来なさいっつぅの!」
アスカはトウジを引っ張ってNERVに急いだ。

そんな2人を委員長である洞木ヒカリは複雑な思いで見詰めていた。

「ま、待てって惣流、そんな急がんかって間にあうって・・・」
トウジはアスカのスピードに付いて行くのが精一杯で息が上がっている。

「もぅぅだらしないわね!」
リニアに乗り、漸く一息付いているトウジにアスカが言い放った。

「今日に限って、なんでそんな急ぐんや?」
「気分よ気分!それより、あんたヒカリとはどうなってんの?」
アスカは「しまった」と思い、話題を変える事により話しを逸らそうと思い立った。

「な、何でここで委員長の話が出て来んねん」
そう言いながらトウジは顔を赤くしている。

アスカは作戦成功とニヤリとした。
「ほんと、鈍感って言うか、奥手って言うか、あんたも男ならシャキッとしなさいよね!」
「わいの何処が鈍感やねん!」
トウジは謂われのない中傷に憤慨していた。


何時もより速くNERVのゲートに辿り着いたアスカとトウジ。
NERVのゲートはまだ動いていた。

NERV名物の長いエスカレータを降りている時に停電となった。

「なんや停電かいな、珍しいなぁ」
トウジは暢気に言っている。

(くっ!エレベータ内じゃなくって幸いと思うしかないか・・・)

「ジャージッ!発令所に行くわよ!」
「えっ何でや?」

「緊急時には発令所に直行する事になっているのよ!」
「そうなんか?でも単なる停電やろ?」

「ここが停電になる事自体、緊急なのよ!正副予備の三系統の電源が一辺に全部落ちるなんて有り得ないでしょ!」
「はぁそう言うもんかいのぉ」
「いいから、さっさと来なさい!」

アスカはズンズン進んで行ったが、結局人力では開けられない扉の前に突き当たった。

(くっ!結局これなのぉ・・・)

「ダクトを壊して進むわよ!」
「ゲッ!惣流って目的のためには手段を選ばんタイプやのぉ」
トウジの言葉にアスカは眉を顰めた。

「いいから前見るんじゃないわよ!」
シンジじゃあるまいしトウジがそんな事を聞く訳はない。

前に動くアスカのお尻が右に左に揺れるのを鼻の下を伸ばしてトウジは見ていた。

「アンタ何のためにエヴァに乗ってるの?」
狭いダクトを四つん這いで這いながらアスカがトウジに尋ねる。
それは、以前シンジが自分に尋ねた言葉。

「わいは、妹をNERVの病院に入れるためや」
アスカのお尻に見取れていたトウジは一瞬戸惑うも、声のトーンを落として答えた。

(このバカ、データ見てないのね・・・)

「あんた、ちゃんとデータ見た方が良いわよ」
「データって何や?」
「エヴァの事とかNERVの事とか」
「リツコはんにも言われたけど、わいは難しい事よう解らんのや」

(はぁ・・・救いようがないわね・・・)



リツコ、マヤらが発令所にたどり着いたのは、実験場を出発してから実に一時間半以上もの時間が過ぎた頃だった。

「タラップなんて前時代的な飾りだと思っていたけど、まさか使うことになるとはね」
「備えあれば憂いなし、ですよ」
「そうね・・・赤木博士、伊吹二尉他数名、只今到着しました」

漸くたどり着いた発令所では、ロウソクの火をデスクの上に灯し、ハンディスピーカーで遣り取りしているアンダーフロアのオペレーター達の姿があった。

ゲンドウ、冬月の両重鎮は、まったく動揺したところを見せずにいつものポジションで、いつものようにしている。

「御苦労。さっそくで悪いが、マギによるプログラム操作の痕跡の検知、並びに外部との接触回線の復旧を頼む。後者が最優先だ」
「はい」

冬月の出す命令。
この非常時に当の司令は、司令席に座り顔の前で手を組むポーズを堅持したままだ。
さっそく作業に取りかかるリツコ達だが、途端、発令所内の熱気に閉口した。

「暑い・・・」
「まずいわね。このままじゃ空気も淀むわ」

常夏の気候だけにうちわはどこでも必需品となっている。

近代科学の粋を凝らしたネルフ本部であってもその原始的な涼しさは魅力的であったらしく、リツコとマヤはそれぞれ手近にしまってあったうちわを取り、着衣を僅かはだけさせ、そこから風邪を送り込んでいた。

その2人の隣で、もうずっと先だってから作業を続けているシゲルなどは、オペレーターの制服を腕まくりして、前もはだけている。
額といわず顔中を汗が流れ落ち、コンソールパネルに雫となって落ちる。

マヤはそれを眉をひそめながら見て、それから上にいるゲンドウ、冬月の両名を見る。まったくと言っていいほどにその服装に乱れはない。

「さすがは司令と副司令。この暑さにも動じてませんね」

リツコも上を仰ぎ見た。

そして当の2人は、非常用に常備されているもの、あり合わせを使って、バケツの中に冷却剤と水を入れてその中に足をつっこんでいた。
下から見上げたときに彼等の足下など見えはしない。

「ぬるいな・・・」
「・・・ああ」

冬月とゲンドウがボソリと呟いていた。


『き、きゃ〜っ!!』

けたたましい車のブレーキ音と共に、女性の悲鳴が車のスピーカーから司令部に流れる。

『航空自衛隊の情報では、使徒が襲来しているそうです!』

続いてスピーカーから流れてきたのは、日向マコトのものだった。

「エヴァンゲリオン各機の手動による発進準備を急げ!私も、行こう」
「司令?!」

思わずリツコが声をあげる。
だが、それに答えたのは冬月だった。

「君たちは引き続き、マギによる回線の復旧作業に当たってくれたまえ」
「は、はい」

言葉と共に冬月に対し頷きを見せるリツコ。
リツコのみではなく、少なからずネルフスタッフは司令自らがそのような事を行うということに驚いていた。

「日向君、君もただちにエヴァンゲリオン各機の手動発進準備に取りかかってくれ」

『はい、了解しました!』

「スピーカーで喋るのはやめてくれたまえ。暑さが増す」



未だダクトを進んでいたアスカもそろそろ疲れてきていた。

「あんた、ぜぇ〜〜ったい前を見るんじゃないわよ」

「へいへい・・・」

トウジはさも興味なさそうに返事を返したがしっかり前を見ていた。

「見るなって言ってるのに、何見てんのよ?!」
「ええやないか、ちょっとぐらい減るもんやなし!」

「うるさいっ!!」
「わ、わ、蹴んな!蹴んなって〜!」

ガッシャンと言う音と共にダクトが壊れ二人が落ちたところはケイジだった。

「あら、貴方達」
リツコの横でマヤが嬉しそうな顔をしている。

「エヴァは?」
アスカは起き上がりながら尋ねた。

「既に準備は出来てるわよ」
「じゃぁ乗るわね!使徒が来てるんでしょ?」

「ええ、急いで頂戴」
リツコが指示した。

ケイジの上の方で何十人ものネルフ職員がロープを引っ張っていた。その中にはゲンドウの姿が見える。

アスカとトウジはプラグスーツにも着替えずエヴァに乗り込み準備が完了した。

『各機発進!自力で拘束具除去!』
ゲンドウが命令を下す。

『油圧ロックボルト手動で開け!!』
その声と共にネルフ職員が油圧ロックボルトのパイプを切った。

「くうううっ!」
弐号機と参号機は自力で拘束具を除去する。

『ディーゼルエンジン始動、エヴァ射出準備』
十数機のディーゼルエンジンが始動し、エヴァがゆっくりと射出口に移動した。

『発進!!』
声はすれども、射出装置は動かない。
エヴァ2機は自力で上がり始めた。

エヴァは、横穴を這いながら地上に向かう竪穴に向かって這っている。

「も〜、恰好悪い〜!」
「そない言うたかてしゃぁないやろが」

「そんな事あんたに言われなくったって解ってるわよ!!」
アスカはトウジの言葉を間髪入れずに否定した。

漸く竪穴が見えて来た所で弐号機が止まった。

「待って!」
「なんや?どないしたんや?」
トウジは怪訝そうに尋ねた。

「落ちてくる」
アスカは竪穴を凝視していた。

「何が落ちてくるっちゅうねん」
トウジがそう言った時、ポタッと液体のような物が落ちてきた。

「な、なんやあれは?」
「強酸性!上にいるね、作戦を考えるわ」
アスカはそれが何であるか確認し作戦を提案する。

「じゃぁ先行する人が使徒のATフィールドの中和、後ろの人がパレットガンで攻撃、これでいいわね?!」

「ほなわしが先行やな」
「あたしが先行に決まってるでしょ!」

「なんでや!?」
「あんたの方がATフィールドが弱いからよ!」
「ぐっ!わ、わかったわい」

アスカは竪穴をよじ登り始め、トウジがそれに続いた。

ポタポタ・・・

竪穴の上部から液体が多量に落ちてきる。

アスカは弐号機を穴の下を向くようにすると両手両足を目一杯に広げて溶解液が下に落ちないようにし、ATフィールドを中和した。

「ぐぅっ!さっさとやって!!」
「任せとかんかい!どけや惣流!!」

弐号機が身を躱すと同時にトウジはパレットガンを上に向けて発射し使徒を殲滅した。

落ちてくる弐号機を支えきれず、参号機共々下まで落ちる。

作戦終了後、エヴァから降りた2人は丘の上の野原に寝転んで星空を見上げていた。

「あぁ気持ち悪いわねぇ!プラグスーツぐらい着ればよかったわ!」
「そんな事言うたかて、そんな暇無かったんやさかいしゃぁないやろ?」
「はん!あんたは万年ジャージだから困らないでしょうけどね!」
「何やて!ジャージの何処が悪いっちゅうねん!」

(ヒカリは、なんでこんな奴がいいのかしら・・・)

そこに周りの空気を押し上げてハリアー型戦闘機が降りて来た。
アスカは平然としていたが、トウジは慌てまくっていた。

「な、な、なんや、なんや、何が来たっちゅうねん!」
「煩いわね!ちょっとは落ち着きなさい!」

そして戦闘機のコクピットから出てくるシンジとレイ。

「やぁ流石アスカだね、軽く使徒殲滅だったね」
「はん!あたしに掛かればこんなのチョロいわよ!」
シンジの言葉にアスカが返す。

そんなアスカにシンジとレイは微笑んでいた。

そしてアスカ達の横に寝転ぶシンジとシンジに寄り添うように座るレイ。
トウジは呆然としていた。

「電気・・・人口の光が無いと星がこんなに綺麗だなんて皮肉なもんだね」
「でも、明かりが無いと人が住んでる感じがしないわ」
アスカもなぞる。

その時、丁度、停電が復旧したのか街に一斉に明かりが灯りだした。

「ほら、こっちの方が落ち着くもの」
「・・・人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきた」
レイが言う。

「哲学〜!」
アスカがそう言うと3人は笑った。

やはりトウジは取り残されている。

「一体、なんやっちゅうねん」
ふて腐れていた。

「鈴原君はそうは思わないかい?」
シンジが声を掛けた。

「わいには難しい事はわかりまへんわ」
「・・・考えようとしないのね」
レイが冷たく言い放った。

「ぐっ!そんな事考えんでもエヴァは乗れま!」
「・・・心を開かなければ、EVAは動かないわ」

「あの人形に心があるっちゅんでっか?」
「・・・そ、エヴァには心があるわ」

「そんなアホな」
「・・・分かってるはずよ」

アスカはそのレイの言葉を懐かしい気持ちで聞いていた。

「よう解りまへんわ」
トウジはそう言うと仰向けに寝転がった。

「鈴原君はシンクロの秘密を知らされてないの?」
「この馬鹿は知ろうとしないのよ!ちゃんと見られるカード貰ってるのにね!」
トウジの代りにアスカが答える。

「そうか、別にそれならそれでいいさ、でも知った時に他の人を責めないでね。君は知る事を放棄しているんだから」
シンジは辛い表情をして言ったがトウジの方からその顔は見えなかった。
「何のこってす?」

「・・・エヴァの心の事」
レイが補足する。
「はぁ・・・なんや解らんけど、他人のせいにせんかったらええんですな?」
「・・・そうよ」


「それより、アスカ、話があるんだけど、僕達と一緒に来ない?」
「この状態であんた達に付いて行ったら、あんた達、誘拐犯にされちゃうわよ」

「確かに、そうだね。じゃぁゲートで待ってるよ」
「解った、シャワー浴びて着替えたら行くわ」
それを聞いたシンジ達は戦闘機に乗り込み、居なくなった。

「えらい惣流、あいつらと仲ええねんな?」
「あんたも、ちゃんと調べれば、仲良くしてくれわよ、知ろうとしないうちは駄目ね、きっと」

「ひゃぁ、やっぱ偉いさんは違うなぁ、別にあんな偉いさんと仲良うして貰わんでもわしはええわ」

(とことん救いようがないわね・・・)

醒めた眼でトウジを見るアスカだった。

程なくして、アスカとトウジはNERVの回収班により本部に入る事が出来た。



電源も復旧しエレベータの前でリツコとマヤが待っているとエレベータが開く。

そこには、非常口から出ようとしていたミサトとそれを下から支えていた加持が、急にエレベータが動き出したため、崩れて重なっていた。

「不潔ですぅ」
「・・・無様ね」
マヤとリツコの攻撃が炸裂していた。



アスカは一通り報告を済ますとシンジとの約束通り、ゲートに向かった。
悩んだあげく、シンジに呼ばれた事も話したが報告を受けたリツコは「行ってらっしゃい」と言っただけだった。

アスカはリツコならそう言うだろうとミサトではなく、リツコに報告したのだった。

アスカがゲートを出ると既にシンジ達は待っていた。

「じゃぁ行こうか」
シンジがそう言うと何故かレイがアスカを自分の戦闘機に乗る。
そんなレイをシンジは苦笑しながら見ていた。

そして飛び立つ戦闘機。



その頃、リツコの執務室には主要なメンバーが集まっていた。

冬月、リツコ、ミサト、加持、マヤ、マコト、シゲルの7人だった。

「流石に、ここに7人、入ると狭く感じるな」
加持は、コーヒーを入れながら呟いた。

「我慢して頂戴、盗聴されないのはこの部屋ぐらいなのよ」
リツコがこれから話す内容は聞かれる訳にはいかない事を暗に示す。

マヤがゴクリと生唾を飲んだ。
その音がやけに大きく感じ顔を赤くする。

「今日、集まって貰ったのは、これからの方針を決めるためなんだよ」
冬月がおっとりと切り出した。

「私はもうすぐ六分儀と共に南極に行く事になる、その前に葛城君、君が昇進して実質、ここの責任者となる予定だ」
「わ、私がですか?」
ミサトは突然の話に吃驚し眼を丸くしている。

「やったな葛城」
「おめでとうございます」
加持とマコトが賞賛の声を掛ける。

「問題は、その間に使徒が来ると言う事だ」
「「「「「えっ!?」」」」」

「これはゼーレのシナリオ、死海文書に記載されている事でね」
「今のエヴァとパイロットなら大丈夫です!」
ミサトが声高々に言った。

「その判断は葛城君に任せるよ、ただ、SCSと協力する事を選択技に入れて欲しい」
「えっ?何故でしょう?」
ミサトは眉間に皺を寄せ詰め寄った。

「君も知っている通り、彼らはかなりな裏事情を知っている。もしかすると我々より知っているのかもしれん。そしてゼーレやNERVの司令が行おうとしている事は看過できる事ではないと言う事だ」
「そ、それと使徒殲滅とは・・・」

「副司令も司令と懐を分つと?いや、司令どころかゼーレとも」
「そう言う事だよ3重スパイの加持君」
「「「「「えっ!?」」」」」

「おやおや、ここでそれを言いますか」
飄々としながらも、まいったなぁと言う感じの加持。

「貴方にも最高レベルのカードを上げたわ。私達も今後を決めなければいけない。より良い方向へ向かわせるためには貴方の力も必要と判断したのよ」
リツコが淡々と述べる。

「おやおや、4重になっちまうなぁ」
加持は頭をポリポリ掻いた。

「エヴァだけで使徒は倒せるかも知れん。だが、今後の事を考えてできるだけ戦力の低下は控えたい。その為には協力出来るところとは協力して使徒を倒すべきだと思うのだがね」
「・・・・・」
冬月の言葉にミサトは俯いて考えている。

リツコはそれを見て、いきなり喰って掛からないだけ症状は改善されていると感じていた。
ここに居る全員、ミサトのマインドコントロールについてはリツコから聞かされている。
そして、今回のミーティングはその回復状況の確認も兼ねていたのだ。

「そして、こちらの体勢が整ったらSCSを会談を持とうと考えている」
「SCSとですか?!」
ミサトが反応した。

「駄目かね?彼らと組めば、かなり事は有利に運ぶと考えられるのだがね」
「・・・・・」
ミサトはまた黙って俯いてしまった。

「ゼーレに対抗できる勢力と考えれば、正しい判断でしょうね。しかし彼らが協力してくれますかね?」
加持が感想を述べる。

「その為に、アスカの接触は黙認しているわ」
リツコがコーヒーを飲みながらそう言った。

「でも、彼らって元々、暗殺集団じゃないんですか?」
マヤが独自に調べたSCSの情報を元に言った。

「不明よ、でも、あの名前、変だと思わない?」
「名前ですか?」
マヤの疑問符と共に一同は考え込んだ。

「あっ!」
声を上げたのはシゲルだった。

「何?」
ミサトが眉間に皺を寄せシゲルを見ながら言う。

「いや、最初見た時は恐くてそんな事考えなかったんですが、アンガー副司令ってレイちゃんと同じ髪の色に眼の色で、レイ=アンガーって言うんですよね」
「えっそうなの?」
ミサトはファーストネームまで気にしてなかったようだ。

「それに司令はシンジ=アンガー・・・ファーストチルドレンにサードチルドレンと同じ名前・・・何故今まで気が付かなかったんだ」
マコトが呟く。

「多分、調べても何も出てこないだろう、と言うか俺も昔調べたが全く何も掴めなかった」
加持が自嘲ぎみに言った。

「ええ、MAGIで調べても何も出てこなかったわ」
リツコも調査結果に落胆しながら言った。

「でも同一人物では有り得ないわよ」
ミサトは、自分がNERVに入った時からその噂は聞き及んでいた事からそう言った。

「そうね、でも何かあるわ、全くの偶然にしてはおかしいもの」

「そう言う事で、SCSとの会談を目標に秘密裏に行動してもらいたいのだが、いいかね?」

「「「「はい」」」」
オペレータとリツコは返事をしたが、ミサトと加持は沈黙していた。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。