第八話
アスカ、来日
「ミル輸送ヘリ!こんなことでもなきゃ、一生乗る機会なんてなかったよ〜ほんと持つべきものは友達って感じだよトウジ・・・」
ここは、空母オーバーザレインボーでドイツから運ばれてきたエヴァ弐号機と、そのパイロットであるセカンドチルドレンを引き取りに向かう輸送ヘリの中。
客室の乗員はミサト・トウジ・ケンスケの3人。
日曜日だったが、トウジの家にケンスケが遊びに来ていた。
そこへミサトが迎えに来たのだった。
当然ケンスケは連れて行けと煩かったのだが、ミサトは簡単に了承したのだ。
「相田君だったっけ?、おはよう。とろこで、トウジ君。今日、一緒に着いて来て欲しいところがあるんだけど・・・」
「え?かまいまへんけど?・・・」
「うーん、相田君も一緒に来る?」
「え?いいんですか?」
「もちろん!」
「やった〜トウジ、行くぞ!!」
完全に舞上がったケンスケは、トウジを引きずるようにしてミサトについて歩き出していた。
そして今に至る。
「ああ、見えたわよ。ほら、太平洋艦隊だわ」
「おおう、空母が五、戦艦四、大艦隊だ。正にゴージャス!流石国連軍が誇る正規空母、オーバー・ザ・レインボー!」
ケンスケは更にテンションを上げている。
「あんな老朽艦が良く浮いていられるものねー」
「いやいや、セカンドインパクト前のビンテージ物じゃないっすかあ」
「おお、空母が5、戦艦が4・・・。太平洋艦隊の揃い踏みだ〜!」
その光景をケンスケが必死に写真に収める中、ヘリはオーバーザレインボーに着艦し、3人は空母に乗り移った。
「ヘロゥ、ミサト!元気してた?」
突然、少し上方にある甲板から声がかかっので声のする方に目をやると、黄色いワンピースを着た赤っぽい金色の髪に青い瞳をした少女が、腰に手を当てて見下ろしていた。
「まあね、あなたも背、伸びたんじゃない?」
「そ、他の所もちゃあんと女らしくなってるわよ?」
「紹介するわ、エヴァンゲリオン弐号機のパイロット、惣流・アスカ・ラングレーよ」
その時、甲板に突風が吹いて少女のワンピースの裾が捲れ上がった。
パンッ、パンッ!
「「何すんねん(るんだよっ)!」」
その平手打ちのためカメラのレンズに罅が入ったケンスケとトウジが叫んだ。
「見物料よ、安いものでしょ!」
「何やて!そんなもんぐらいわしかて見せたる」
そう言ってジャージを下ろしたトウジは下着も一緒に下ろした。
「キャー!エッチ!バカッ!変態!」
トウジは更に顔に手形を増やした。
ケンスケは涙目になってカメラのレンズを取り替えている。
「で、噂のフォースチルドレンってどれよ?!まさかこの変態じゃないでしょね!」
アスカは息を上げて一息に言った。
「そのまさかよ」
ミサトは頭を抱えながらトウジを指さした。
「んっもう。信じらんない!」
アスカはそう言うとドカドカと歩き出した。
何か言い忘れた様に振り返ると
「ふんっ、アタシが来たからには、もうアンタには用はないわ!使徒は全部アタシが倒してあげる!」
そう言ってまたドカドカと歩きだした。
ミサト達が操舵室に向かって居る時に、ハリアー型戦闘機が着艦した。
そこから降りて来たのは、銀髪に紅い眼のアルカイックスマイルを浮かべた美男子と銀髪に紅い眼の中世的美男子だった。
「僕が相手している間に頼むね」
「任せておいておくれ」
そう言ってシンジとカヲルは別れ、シンジはブリッジへ向かった。
「おやおや、ボーイスカウト引率のお姉さんかと思っていたが、それはどうやらこっちの勘違いだったようだな」
差し出された写真入り金地のNERV製ネームカードを眺めながら、皮肉な言い方で艦長は言った。
「ご理解いただけて、幸いですわ」
ミサトは平然とした顔で受けて流す。
「いやいや、私の方こそ、久しぶりに子供達のお守りが出来て幸せだよ」
丁々発止と艦長とミサトがやり合っている中、ケンスケはお構いなしに歓声を上げながら二台目のカメラでブリッジ内をひたすら撮影し続けている。
「この度はエヴァ弐号機の輸送援助、ありがとうございます。こちらが非常用電源ソケットの仕様書です」
そう言ってミサトは手に持っていたクリップでまとめられている紙の束を艦長に差し出した。
その言葉を聞いた途端、制帽の影の下で顔をしかめる艦長。
「はっ!だいたいこの海の上で、あの人形を動かす要請なぞ聞いちゃおらん!」
「万一の事態に対する備え、と理解していただけますか」
「その万一に備えて、我々太平洋艦隊が護衛しておる!いつから我々国連軍は宅配屋に転業したのかな?」
副長に意見を求める艦長。
「某組織が結成された後だと記憶しておりますが」
「玩具一つ運ぶのに、大層な護衛だよ。太平洋艦隊勢揃いだからな」
「エヴァの重要度を考えると足りないぐらいですが。では、この書類にサインを」
「まだだ」
ファイルを差し出したミサトは、その艦長の言葉にぴくぴくと眉を引きつらせた。
「エヴァ弐号機および同操縦者は、ドイツのネルフ第三支部より本艦隊が預かっている。君らの勝手は許さん」
「では、いつ引き渡しを?」
「新横須賀に陸揚げしてからになります」
副長も慇懃な物腰で、取り澄ました言い方をする。
「海の上は我々の管轄だ。黙って従ってもらおう」
「わかりました。ただし有事の際は、我々ネルフの指揮権が最優先であることをお忘れなく」
「相変わらず凛々しいなぁ」
「加持先輩!!」
男の声に反応して、そちらのほうに手を振ってみせるアスカ。
「よっ」
「うがっ!?」
ミサトがいやな予感をさせながら振り向いたドアの所には、彼女のよく見知った顔があった。
素っ頓狂な声を挙げ、あからさまに「ゲッ」という顔をするミサト。
「加持君!君をブリッジに招待した覚えはないぞ」
「それは失礼」
艦長の言葉を飄々とした態度ですり抜ける加持。
そこへもう一人、乱入者が登場した。
「提督、早々にNERVに引き渡した方が宜しいですよ」
「げっあんたは!!」
「君は・・・」
ミサトが再度、素っ頓狂な声を上げ、艦長は、彼がこの場に居る事が信じられないと言う顔をした。
トウジ、ケンスケは「誰だ?」と言う顔で見ているが、ケンスケはその階級の高さにすぐさま気が付き、羨望の眼差しで見ていた。
アスカは、眼を見開いて見ている。
そんなアスカをシンジは優しい眼差しで一督した。
「何故、君がここに・・・」
「ちょっと野暮用です。すぐ引き上げますので、お気になさらないで下さい」
太平洋艦隊に戦闘機で着艦しておきながら飄々と言うシンジ。
「あ、あんた何しに来たのよ!」
またミサトが階級も無視して突っかかる。
シンジはミサトを一督すると、静かに言う。
「この船に妖しい波動を感じましてね。処分しに来ました」
それを聞いた加持は「まずいっ!」と言う顔をして、その場を離れようとした。
「何処に行かれるんです?加持一尉」
シンジに声を掛けられ動けなくなった加持。
「い、いや、俺はさっき提督に出て行けと言われたんでね」
そう言ってその場を離れようとするが、シンジの視線に睨まれ動く事がままならない。
「まぁそう言わず、一緒にお茶でも如何ですか?」
シンジはニヤリとそう言った。
「い、いや、遠慮させて貰うよ」
「そうですか、残念です」
そこへ、カヲルが顔を出した。
「シンジ君、終ったよ」
「そう、じゃぁ帰ろうか」
加持はあからさまに「しまった」と言う顔をしている。
「では、お邪魔致しました、提督」
シンジはそう言って提督に敬礼した。
「あ、あぁ、ご苦労様」
提督もそれだけ言うと答礼した。
シンジとカヲルは、乗って来たハリアー型戦闘機の方に行き、飛び立って行った。
アスカは、その戦闘機をずっと眼で追っていた。
「で、では、これで失礼します。新横須賀までの輸送をよろしく」
敬礼をしながらミサトは艦長へとそういい、はしゃぐケンスケを押しやりながら下へ向かうエレベーターへと向かった。
後に残った艦長と副長は、何が起ったのだと言う顔をしながら会話した。
「まさかルシフェルとスマイルが顔を出すとはな」
「えぇ、冷や汗もんでしたね」
提督と副長は顔を見合わせて居た。
彼らの認識としてSCSは暗殺者集団と言う認識だったのだ。
そしてミサトに気を取られていたとは言え、その着艦すら報告がなかった事に戦慄を覚えていた。
「何でアンタがここにいるのよ!」
「彼女の随伴でね。ドイツから出張さ」
4人乗りのエレベータに5人乗っており、ミサトと加持はギリギリのポジションで向かい合っていた。
隅っこにエレベーターの外すら撮影するケンスケがいたり、つんとした顔で加持の後ろに陣取っているアスカがいたりしたが、そこのあたりは細かいことだろう。
「迂闊だったわ。充分考えられる事態だったのに・・・ちょっと、触らないでよ!」
「仕方ないだろ?」
5人は館内の士官食堂へと降りてきていた。
「でもあの2人は何をしに来たのかしら?」
「ミサトはん、さっきのは誰でっか?」
トウジは、居るだけで周りの人間の様子が変わった人物が不思議だった。
「あれはSCS、The Seven Cardinal Sinsの司令と参謀だよ」
ミサトが忌々しそうな顔をしているため加持が答えた。
裏の世界に足を突っ込んでいる加持は2人の恐ろしさは充分聞き及んでいた。
そして、先程の対峙で噂以上と判断していたのだった。
「へぇそんな偉い人やったんですかぁ。でも2人とも紅い眼で綾波みたいやったなぁ」
トウジは何気なく思った事を言ったのだが、ミサトは眉を顰めた。
「SCSって使徒を倒したって言うSCS?!」
アスカが首を突っ込んで来た。
またもミサトの琴線に触れる言葉だった。
「そうよ!」
不機嫌に答えるミサト。
「でも、この間の使徒はミサトの作戦で倒したんでしょ?」
アスカが「まずい」と思い慌てて煽てに入った。
「表向きはね」
ミサトもSCSが手を出していなかったら負けていた事を既にリツコから聞かされ知っていた。
「まぁあたしが来たからにはSCSの出番なんてないわよ!安心しなさいミサト!」
「期待しているわ、アスカ」
ミサトは本当に期待していた。
幼少から軍事訓練とエヴァの訓練を受けて来て、現状名実ともにトップのエヴァパイロットである。
これで漸くまともに使徒に対抗できるとミサトは考えていた。
艦外のデッキに立つ加持とアスカ。
「どうだ、鈴原トウジ君は」
手すりにもたれかかっている加持。
「サイッテー!あんな変態がフォースチルドレンだなんて信じられない!」
アスカは海の方を見ながら、手すりを使って体を手で浮かせている。
「そうだな、ファーストチルドレンとサードチルドレンが居なくなって急遽選抜されたようなもんだからな」
「ふん!ファーストは行方不明?サードなんて素人乗せるからエヴァを壊しちゃうのよ!あぁあ、そんな奴らのせいでチルドレンの評価が、がた落ちじゃない!」
チルドレンに選ばれる事をエリートだと思っているアスカには今のチルドレンの状況は看過出来る物ではなかった。
「しかし、サードチルドレンはいきなりの登場でシンクロ率69.69%だったらしいぞ」
「うぞ!」
険しい顔で爪を噛むアスカ。
アスカは一人で弐号機の所に来ていた。
流石にトウジを連れてくる気にはなれなかったらしい。
「やっぱり、あたしだけなのかな・・・」
アスカは弐号機を見上げると、ポツリと呟き溜息をついた。
アスカが物思いに耽っていると激しい衝撃音と共に、艦内が大きく揺れた。
「来たわね」
そう言うと全てを脱ぎ捨て、中学生とは思えぬプロポーションをさらけ出すアスカ。
アスカは手首のスイッチを押してプラグスーツを引き締めると、自分に対し呟いた。
「アスカ、いくわよ!」
加持は与えられている自室で電話をしていた。
「こんなところで使徒襲来とは、話が違いすぎませんか?」
『問題ない、その為の弐号機だ・・・パイロットも追加している。最悪の場合、例の物を持って、君だけでも脱出したまえ』
「......分かってます」
それきり電話は切れた。
加持が一つ溜め息を吐く。
懐からタバコを取り出すと口に咥えた。
「侵入された痕跡は無し、物を触られた痕跡はない、しかし・・・」
加持は、先程の2人が目指した物は間違いなく自分の荷物だと確信していた。
ブリッジは、修羅場と化し、艦長、副長の二人が指示を飛ばしていた。
『各艦、艦隊距離に注意の上、回避運動』
艦内アナウンスがブリッジに響く。
「状況報告はどうした!?」
『シンメリン、沈黙!タイタスランド、リカス、目標確認できません!』
「くそっ、何が起こっているんだ!?」
副長の言葉に帰ってきたのは徹底的に無惨な戦果。
思わず怒鳴る艦長。
そこへミサトが、ブリッジにトウジ、ケンスケを連れて登場した。
その顔はさっきの意趣返しとばかり、にや〜っとしている。
「ちわ〜っ、ネルフですが。見えない敵の情報と、的確な対処は如何っすか〜?」
「戦闘中だ!見学者の立ち入りは許可できない」
「これは私見ですが、どう見ても使徒の攻撃ですねぇ」
艦長はミサトの言葉を完全に無視した。
「全艦任意に迎撃」
「無駄なことを」
真顔に戻って呟くミサト。
戦艦全砲門から魚雷が一斉発射されるが、何発もの直撃を受けても意にも介さず進み、またしても空母を一つ真っ二つにして沈没させる使徒。
手すりに寄りかかって見物している加持が呟く。
「この程度じゃ、ATフィールドは破れない、か」
「しかし、なぜ使徒がここに・・・まさか!?」
ミサトはミサトで、思い当たることがあるようだった。
悠々と、まるで小馬鹿にするかのように泳ぎ回る海中の使徒へ洋上のフリゲイト艦からは立て続けにミサイルが飛ぶが、何度やっても大きな水柱の後にはまったくノーダメージの使徒の姿が現れる。
「なぜ沈まん!」
その様子を見ていた艦長は、ぐぅ、と歯ぎしりをした。
「ま、気長にやることです」
艦長同様歯ぎしりをする副長の後ろから、若い男の声。
「気長に出来るか!」
「ごもっとも」
男は肩をすくめた。
その時、操舵室に通信が入った。
『SCS司令、アンガー中将です。すぐさま指揮権をNERVに委譲する事をお勧めします』
「何故だ!」
艦長は苛々した顔で叫ぶ。
『放っておいてもNERVは特務権限で指揮権を取りますよ、早々に渡して被害はNERVに請求した方が得策と言うもの』
「む、むぅぅぅ」
『では、ご英断を期待しております、失礼致しました』
そう言って通信は切れた。
『オセローより入電。エヴァ弐号機、起動中』
「何だと!」
使徒の動きを静かに観察していたミサトも、トウジとケンスケもガラスに張り付いて艦上で動き出す弐号機を見守った。
「ナァイス!アスカ!」
ミサトは、弐号機と交信している艦長の手からマイクをもぎ取って叫んだ。
「いかん!起動中止だ、直ぐに戻せ!!」
マイクに向かって艦長が叫ぶが、後ろからミサトがそのマイクをひったくるとアスカに命令を出す。
「かまわないわ、アスカ!発進して!!」
再びマイクを奪い返す艦長。
「エヴァ及びパイロットは我々の管轄下だ!勝手は許さん!!」
急に大きな破壊音が、マイクの内外から響き渡った。使徒が弐号機のまだ乗っていたオセローを破砕したのだ。
「なんて無茶をする!」
艦長は驚愕と非難の叫びをあげた。
間一髪、タンカーを踏み台にして跳躍した弐号機はイージス艦の上に着地したのだ。
当然その質量と衝撃に耐えられず、巨大な波しぶきがイージス艦のまわりに起こる。
が、バランスを完璧に取り直した弐号機は、その手に持つ機体を覆い隠していたカバーをマント状にまとい、さらに跳んだ。
「アスカ、あと58秒しか保たないわ」
『わぁかってる!ミサト!非常用の外部電源を甲板に用意して!』
「わかったわ」
何かいいたそうにしている艦長を一瞥して、ミサトは応えた。
一隻、また一隻と確実に大損害を与えながら空母へと、まさに八艘跳びを行う弐号機の予備電源ケーブルを用意している空母甲板は、大慌てで人が蜘蛛の子を散らすように艦内に逃げ込んでいる。
使徒も弐号機の後を、まるでとどめを刺していくがごとく、踏み台にされた艦を貫きながら迫っている。
「予備電源出ました!リアクターと直結完了!飛行甲板退避!」
「エヴァ着艦準備よし!総員対ショック姿勢」
「デタラメだ!」
艦長は再び驚愕と非難の叫びをあげた。
『エヴァ弐号機、着艦しま〜す!』
アスカのやけに嬉しそうな声が、マイクを通してブリッジに響きわたる。
だが、もっと強烈な声がブリッジを貫いた。
「「あああっ、Su-27がぁっ!」」
着艦の衝撃で傾いた空母の甲板から海に落ちていく戦闘機。それを見たケンスケと艦長が同時に叫んだのだ。
「くぅ、これ以上の予算編成は無理なんだぞ!」
「なんてこった!こんな事なら全角度からデジタルカメラにおさめとけばよかった」
そんな艦内の喧噪とは別に、甲板ではソケットを取り付けて弐号機が準備万端整えていた。
『来る!』
アスカの呟きと共に、電源メータが無限大を現す8を表示する。
肩口からプログナイフを抜き水平に構えると、プログナイフの刃が淡い光を発した。
そこに第六使徒が突っ込んで来る。
『くぅうぅぅ......こんのぉぉぉぉ!!!!』
突っ込んで来る使徒にプログナイフを突き立て、使徒の口を切り開く弐号機。
強烈な突撃の影響で船体が大きく傾ぐ。
『つぇぇぇぇっい!』
弐号機は使徒の下から顎の辺りを十字に切り開く。
『どぉりゃぁぁぁぁあぁぁぁあっ!!!!』
怒声と共に露出した使徒のコアにプログナイフを突き立てた。
パキンと言う音と共に使徒は沈黙した。
『ミサト!これどうするの?』
使徒をあっさり倒した弐号機に呆然としていたミサトが我に返った。
使徒が船に乗りかかっているため船が傾いている。
「あっえぇっと、提督、何か引っ張って帰れる物ありますか?」
「あっあぁ、楔とワイヤーを用意させよう」
呆気にとられている2人の間抜けな会話だった。
ワイヤーに繋がれた楔を使徒に打ち付け、使徒を海に放しアスカは弐号機から降りて来た。
エントリープラグから出てくるアスカを加持、ミサト、トウジ、ケンスケが出迎えた。
「よっ流石だな!」
加持が声を掛ける。
速攻で倒してしまったため、逃げるタイミングを逃してしまったのだった。
「ありがとう加持さん、シャワーを浴びて着替えて来るわ」
そう静かに一言だけ言うとアスカは自室へ引き上げて行った。
その顔は、使徒に勝ったと言うのに余り明るいとは言い難い顔だった。
「勝ったのに、あまり嬉しそうじゃないわね」
ミサトはアスカの様子を怪訝に感じていた。
「ひゃぁしっかしイケ好かん女やと思っとったけど、言うだけはあるなぁ」
単純に感心するトウジだった。
「顔は良いのになぁ」
しきりにシャッターを押していたケンスケだった。
「オーバー・ザ・レインボーの提督はとうとう僕の忠告は受け入れなかったようだね」
「まぁその間もなくって感もなきにしもあらずだけどねぇ」
上空で待機していたシンジ達は、事の成り行きを見守っていたのだった。
「しかし、シンジ君、これはどういう事だろうねぇ」
「僕が乗ってない方が上手く操縦できるって言う事かな?」
シンジ自身、アスカなら使徒を倒す事も可能と考えていたが、あまりにもアスカは、あっさりと使徒を倒したのだった。
「そうなのかい?僕にはコアの位置を初めから知っていたように見えたけどねぇ」
「・・・・・」
そこから導き出される答えは一つだ。
しかしシンジはそれを認めたくなかった。
「確認しないといけないね」
沈痛な顔持ちでシンジは一言そう言った。
第壱中学校で始業のチャイムが鳴る。
教室のドアから担任教師がやってきて、開口一番
「今日は転校生を紹介します」
アスカは周囲のざわめきをよそにすました顔で黒板の前へ行くと、白チョークで流麗な筆記体の名前を書いた。
そして振り返り、人当たりのよい笑顔で一言。
「惣流=アスカ=ラングレーです!」
その金髪と青い目にざわめく教室の中、トウジとケンスケは転けていた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。