第六話
決戦、第3新東京市


NERV発令所ではミサトが指揮を取り、使徒の情報収集が行われていた。

「始めて」
ミサトが号令を掛ける。

1/1エヴァンゲリオン初号機バルーンダミーが、湖上の船の上に浮かぶ。
バルーンダミーが使徒に接近したと同時に加粒子砲によって消滅させられた。

「ダミー蒸発!」

「次」
線路上に独12式自走臼砲が走って来る。

独12式自走臼砲が誘導火砲を発射したが、肉眼ではっきりと確認できるほどのATフィールドに弾かれ、カウンターで消滅した。

「12式自走臼砲消滅!」

「これまでに採取したデーターによりますと目標は一定距離内の外敵を自動排除するものと思われます」
マコトが事務的に報告した。

「エリア進入と同時に加粒子砲で100%狙い撃ち・・・エヴァぁによる近接戦闘は危険過ぎるわね」
ミサトは相当不利な状況にいる事が分かり額に汗を浮かべた。

「ATフィールドは?」
「健在です。異相転移空間が肉眼で確認できるほど強力なものが展開されています」

独12式自走臼砲が誘導火砲を発射したビデオが再生された。

「爆撃、誘導火砲のような生半可な攻撃では、痛い目を見るだけですね。こりゃ」
「攻守ほぼパーペキ、まさに空中要塞ねぇ・・・で、問題のシールドは?」

「現在、目標は我々の直上、第三新東京市Oエリアに侵攻、直径17.5メートルの巨大シールドがジオフロント内のネルフ本部へ向かい、穿孔中です」

使徒とシールドの図解がディスプレイ上に映し出される。

「敵はここ、ネルフ本部へ直接攻撃を仕掛けるつもりですね」
「しゃらくさいわね。で、到達予想時刻は?」

「MAGIの試算では、明日午前0時6分54秒。その時刻には、全ての装甲防御を貫通してジオフロントに到達するものと、思われます」

時計を見るミサト。

「後10時間足らずか・・・参号機の状況は?」

ミサトはケイジに回線を繋いだ。

『胸部第3装甲まで見事に融解、でも機能中枢をやられなかったのは不幸中の幸いね。』
『後3秒照射されていたらアウトでした』
リツコの解説に続けてマヤが補足する。

『3時間後には換装作業終了予定よ。』

ミサトは大きく息を吐いた。

「参号機パイロットの容態は?」
「体には問題ありませんが、まだ眠っています。強制覚醒は心理パルスを不安定にするため、余り薦められません」

「・・・状況は芳しくないわねぇ〜」
ミサトはボールペンを額に当てた。

「如何します?白旗でも揚げますか?」
マコトが冗談を言った。

「ナイス・アイデア!・・でもその前にチョッチやってみたい事があるの」
「やってみたい事ですか・・・」
ミサトの顔には少し笑みが浮かんでいた。

今までのミサトの行動を顧みてマコトは嫌な汗が流れた。



司令室ではミサトが進言していた。

「目標のレンジ外、長々距離からの直接射撃かね」
冬月がミサトの案件の内容を確認する。

暗い部屋でミサトの作戦立案書を見ながら冬月は眉を顰めた。

「そうです。目標のATフィールドを中和せず、高エネルギー集束帯による一点突破しか方法はありません」
二人に対峙するはミサトの表情は、何故か自信に満ちている。

「MAGIはどういっている?」
「スーパーコンピューターMAGIによる解答は、賛成二、条件付き賛成が一でした」
「勝算は4.1%か」
「もっとも高い数値です」

「・・・反対する理由はない。存分にやりたまえ、葛城一尉」
いつもの姿勢で言い放つゲンドウ。

「はい」
勢いよく返事をすると、ミサトは敬礼し、司令室を後にした。



ネルフ名物の長いエスカレータを降りながらミサトとリツコが話していた。

「しかしまた、無茶な作戦立てたものね、葛城作戦課長さん」
「無茶とはまた失礼ね、残り九時間以内で実現可能。おまけにもっとも確実な作戦なのよ」
「これがねぇ」
リツコはその作戦立案書に記載されている作戦成功率に眉を顰めた。

ケイジに置かれているエヴァ専用ポジトロンライフル。

それを眺めながらリツコがミサトに尋ねた。
「4.1%がねぇ・・・あの使徒のATフィールドを撃ち抜くのに要する出力は最低1億8000万キロワット・・そんな出力、うちのポジトロンライフルじゃ持たないわよ。いったいどうする気?」

「決まってるじゃない。借りるのよ」 リツコへ振り向き、ミサトは自信満々に言い放った。

「借りるって、まさか?!」
「そ、戦自研のプロトタイプ」

また強引に徴発する気かとリツコは頭を抱えた。



戦略自衛隊研究所では、ミサトが研究所員に命令書を突きつけ横柄に徴発を実施していた。
「以上の理由により、この自走陽電子砲は本日15時より、特務機関ネルフが徴用いたします。あしからず」

「だがしかし、かといってそんな・・・」
あまりに突然なことにしどろもどろの責任者。
回りには白衣姿の研究員達が怒りの瞳でミサトを睨んでいた。

「可能な限り原形をとどめて返却するよう努めますので。では、ご協力感謝いたします」
そして後ろを向き、大声でいうミサト。
「いいわよ、日向君。持ってって」

言われたマコトは、無線で指示を出していた。
「精密機械だから、そ〜〜〜っとね」


「しかし、ATフィールドをも貫くエネルギー産出量は、最低1億8000万キロワット。それだけの大電力をどこから集めて来るんですか?」

「決まってるじゃない、日本中よ」
ミサトはマコトへ振り返りそういった。



第三新東京市の各所では停電の知らせが流れている。

「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えいたします。今夜午後11時30分より明日未明にかけて、全国で大規模な停電があります。みなさまのご協力をよろしくお願い致します。繰り返しお伝えいたします・・・」

ピンポンパンポン、という調子外れの音と共にテレビに映った映像を見て、ケンスケ達は互いの家族と思わず顔を見合わせた。

駅前の電光掲示板には停電のお知らせが流され、街中では政府広報車がメガホンを使って停電をしきりと知らせてまわっている



SCSのオペレータルームでは、3人がそれぞれ色々な監視や作業を行っていた。

「やっぱりヤシマ作戦のようだね」
シンジは自分の前にある端末で第三新東京市の様子を見ながらそう言った。

「・・・そうね」
レイの言葉は少ない。

「しかし、ミサトさん、よく髭を前にして切れなかったなぁ」
「シンジ君、それなんだけど、かなり特異なマインドコントロールが施されているようだねぇ」
カヲルがいつものアルカイックスマイルを歪ませてそう言った。

「何か解ったの?」
「これを見てくれるかい?」

そしてシンジはカヲルの表示したデータを眺めた。

「これは・・・」
シンジは声を無くした。

そこに映し出されていたのは、ミサトのドイツ時代ではなく14歳からのミサトの生活だった。
失語症のうちから施されていたマインドコントロール。

使徒は父親の仇。
使徒を倒すのはレゾンテートル。
自分以外の者がそれを行う事は自分を否定する事。
父のために自分は否定されてはならない。
使徒殲滅を邪魔するものは、敵。
使徒殲滅に協力するものは、味方。

と言う事が深層意識に染みこまされるプログラムがセカンドインパクト後、ミサトが発見されてから延々と本部に着任されるまで行われて来た事が記載されていた。

驚愕すべきはそのプログラムの内容だった。
付き合う人物まで緻密に計算されており、赤木リツコや加持リョウジと出会った事さえそのプログラムの中ではマインドコントロールに利用されていた。
薬物も大量に投与されており、味覚異常はこのためではないかと思わされた。

「ここまで凄いとは・・・」
「これは簡単には外せないねぇ」
カヲルも諦めたような口調で言った。

「多分、シンジ君の話を聞いても、自分の中でまた消化されて使徒が仇になっているんだろうねぇ。そしてそれを倒す事こそが彼女の存在意義。強烈な新たな存在意義を見出さない限りこれを外す事は不可能だろうねぇ。でなければ存在意義を失い精神が崩壊してしまうよ」

「まいったなぁ、アスカの方は?」
「アスカ君の方はそれ程でもないね、元々、背伸びをしている子供だったからエリート意識を植え付けて、期待に応えないと居場所がなくなるぐらいの操作しかされていなかったよ」

「そっか、後は元々の性格って事か・・・」
「性格の方だけど、元々勝ち気だったようだけど、ドイツで葛城一尉と居た時にかなり影響を受けたようだねぇ」

「ぐはっ!」
シンジは突っ伏した。

そんなシンジの頭をレイは優しく撫でていた。
こういうチャンスを最近のレイは逃さない。



NERV発令所ではミサトが嬉々として準備を進めていた。

「敵シールド、第7装甲板を突破」

「エネルギーシステムの様子は?」

無数に映し出されている小型モニターの画面では、居並ぶ架空送電鉄塔、森や街中を走る電源コードの束、巨大なドラム型のコンセントなどが動いており、それぞれ二十人以上の人がついている。

「ポジトロンライフルはどう?」
ミサトは作業場に繋げ、研究員の一人に聞いてみた。

「技術開発部第3課の意地にかけても、あと3時間で形にして見せますよ」
そして研究員の顔と入れ替わりに映し出されるライフル。

未だ組み立て中で、まるで形になっていない。

ミサトは微かに表情を曇らせると、顔も向けずにリツコへ聞いた。
「防御手段は?」

「これはもう、盾で防ぐしかないわね」
軽い操作により呼び出される盾の映像。

リツコがそれに解説を加える。
「原始的だけど有効な防御手段よ。こう見えてもSSTOのお下がり、超電磁コーティングされてる近代兵器だし」

「いくら保つ?」
「17秒よ。2課の保証書付き」

「結構。狙撃地点は?」
「目標との距離、地形、手頃な変電設備も考えると、やはりここですね」
マコトが双子山の地図を呼び出しながらそういった。

「確かにいけるわね。狙撃地点は双子山山頂。作戦開始時刻は明朝午前零時。以後、本作戦をヤシマ作戦と呼称します」

「了解」
マコトはそう答えると、また作業に没頭していく。

そうして腕組みをすると、誰にいうともなくミサトは呟いた。
「あとはトウジ君の方だけね」



プシュッ
リツコが自分の執務室に戻ると、そこには驚くべき人物が居た。

「あ、貴方は・・・」
リツコはそう言うとアングリと口を開けていた。

「こんにちは、赤木博士」
シンジはそう言うとニッコリと微笑んだ。

「ど、どうやって入ったの?・・・それより何をしに?」
「まぁどうやって入ったかは、企業秘密と言う事で、何をしに来たかと言うとこれを赤木博士に渡しに来ました」
微笑みながらそう言うとシンジは一枚のDVDディスクを渡した。

「これは?」
渡されたディスクを裏表眺めながらリツコは聞いた。

「赤木博士も知っているのか、知らなくても多少気が付いては、いるでしょう?葛城一尉の行動の異常性を」

「そ、そうね、時に暴走しているわね」
リツコは思い当たる節がありすぎると思ったが、取り敢ず言葉は濁した。

「赤木博士と葛城一尉は親友と伺っております。友達らしい判断を期待していますよ」
そう言うとシンジはリツコの部屋を退室していった。

「ちょ、ちょっと待って頂戴!」
リツコはすかさず追いかけたのだが、扉を開けた先にシンジの姿は既になかった。

自席に戻り、シンジから渡されたディスクを挿入し、中を見たリツコは驚愕した。
そこにはミサトに施されたマインドコントロールが克明に記載されていたのだ。

そして、そこにはリツコとミサトの出会いすら利用されていた事を知った。

「また考えなければいけない事がふえたわね・・・」
リツコは独り呟いた。


コンコン
プシュッ

「失礼します」
そこにマヤが両手から零れそうなくらい書類を抱えて入って来た。

「あらマヤ、もう終ったの?」
リツコはディスプレイに表示されているミサトのデータを素早く消しマヤに対峙した。

「はい、先輩!これが終了した分の書類です」
マヤはそう言うと、両手で抱えていた書類をリツコのディスクへ置いた。

その量の多さにリツコは溜息をつくも、マヤのお陰で楽になっている事実があるため微笑んで応えるのだった。
「ご苦労様、相変わらず仕事が速いわね」

「そんな、先輩直伝ですから・・・」
何故か顔を赤らめ自慢なのか謙遜なのか解らない言葉を発するマヤ。

「ありがとう、マヤ」
そんなマヤについつい微笑んで応えるリツコだった。

「ところで、マヤはどうするつもりなの?」
「どうするつもりって・・・」
マヤは何の事を言われたのか一瞬解らなかったが、それが今後の身の振り方を示していると解り口籠もった。

「私もね、どうすれば良いのか解らなくなってきてるのよ」
リツコはフッと小さく溜息を漏らすと煙草に火を付けた。

深く煙りを吸い込み、吐き出すリツコ。

「わ、私は先輩に着いていきます!」
真っ直ぐリツコを見つめキッパリと言い切ったマヤにリツコは眼を見開いた。

「ありがとう」
リツコはもう一度微笑んでマヤに礼を言った。

(この子のためにも私はもう選択を間違ってはいけない・・・)
リツコはそう考えるのだった。



双子山ではミサトとリツコに向き合ってトウジが立っている。

「本作戦における担当を通告します。トウジ君は参号機で砲手を担当」
ミサトが意気揚々と宣告する。

普通に考えれば、ライフルを固定し、エヴァに盾を持たせた方が応用が利くと思われるがミサトはそれを良しとしなかった。

「はい」
何の疑問も持たずトウジは返事をする。

「今回の作戦ではより精度の高いオペレーションが必要なの。陽電子は地球の自転、磁場、重力の影響を受け、直進しません。その誤差を修正するのを忘れないで。正確にコア一点のみを貫いてね」
リツコはそんな疑念を自分で振り払うようにしなくても良い説明までする。

リツコの説明にトウジが尋ねた。
「どないやるんでっか?」
「それは大丈夫、貴方はテキスト通りにやって、真ん中にマークが揃ったら撃てば良いのよ。後は機械がやってくれるわ」

「了解です」
トウジは何の疑問も持たず返事をした。

「もし1発目が外れたら、2発目を撃つには冷却や再充填等に合計20秒掛かるわ。その間、参号機の前に盾が立ちます」
どうやら盾はオペレータにより立たせる事とし、予め参号機の前に設置してあるようだ。

「時間よ、準備して」

「はい」
ミサトの指示に元気よく答えるトウジ。

仮設の更衣室でトウジが着替えている。

プラグスーツを着込むと、スイッチを押して余計な空気を排出し、体にフィットさせる。
「よっしゃ、今度こそやったるでぇ」
気合いを入れるトウジだった。

中央に、ミサトとリツコが立ち、2人の脇にマヤ、前に、マコトとシゲルが座っている。

《東京標準時00:00:00》

「作戦スタートです」
マコトがミサトに告げた。

「トウジ君、日本中のエネルギー貴方に預けるわ」

『任せとってください』
トウジが気合いたっぷりに答えた。

「第一次接続、第407区まで送電完了、続いて第408区から第803区までの送電を開始します」

マコトがレバーを起こすと、付近一帯を地鳴りのような音が包んだ。

「ヤシマ作戦スタート!!」
トウジの返事に気を良くしているミサトが作戦の開始を声高々に告げた。

「電圧上昇中、加圧水系へ」
「全冷却機出力最大へ」
「陽電子流入順調なり」
「温度安定依然問題無し」
「第2次接続!」
「全加速器運転開始、強制収束機作動!」

エネルギーを示すメーターが順調に上がっている。

「第三接続、完了」
「全電力、ポジトロンライフルへ」
「最終安全装置、解除」
「撃鉄、起こせ」

モニター上のライフルを示すマークの安全装置が『安』から『火』に変わり、撃鉄があがる。

参号機プラグ内のモニターも、マークが揃っていく。

「地球自転誤差修正、プラス0.0009」
「電圧、発射点へ上昇中。あと15秒」

緊張感が走る。

「10・・9・・・8・・・7・・」
マコトがカウントダウンを始める。

「6・・5・・4・・」

と、急に使徒の明るさが増した。
そのスリットに光が走り始める。

「目標に高エネルギー反応!」
「なんですって!」
マヤの悲鳴にも似たオペレートに、リツコも声を上げる。

一方、参号機のモニター内の赤いランプの真ん中のマークは揃っていった。

『撃てぇ!』
ミサトの叫びと同時にスイッチを押すトウジ。

参号機が引き金を引き、陽電子が打ち出されると同時に使徒の加粒子砲も発射され両方が交差し合い方向が反れる。

かなりの衝撃が走り陽電子は使徒の少し横のビル街に着弾しエネルギーの柱が出来ていた。
加粒子砲は山の中腹に激突し、爆風が周囲の木々を薙ぎ倒している。

(ミスった!!)
『第2射急いで!!』
ミサトが次ぎの指示を叫ぶ。

参号機は再度、弾を込めた。

『ヒューズ交換』
『再充填開始!!』

『目標内部に再び高エネルギー反応!!』

『銃身冷却開始』
『使徒加粒子砲を発射!!』

参号機の前に盾が現れた。

『発射まで15秒』
『発射まで10秒』

『盾消失します!』

『早すぎる!』
リツコが叫んだその時、使徒の加粒子砲が止んだ。

「・・5・・4・・3・・2・・1」

『発射!!』

トウジはスイッチを押し陽電子砲を発射させた。

使徒を貫き陽電子が上空へと上がっていく。

「パターン青消滅、使徒沈黙しました」

双子山では作戦の成功を喜ぶ作業員達で賑わっている。
ミサトも満足そうだ。
しかしリツコだけは、途中で止まった加粒子砲に疑問を抱いていた。



電気が戻った発令所のメインモニターにはシンジが映し出されていた。

「・・・なぜ攻撃した」
ゲンドウが太々しく言い放つ。

『0時に行われるNERVの作戦が失敗と判断したら指揮権の委譲を要請すると言ったはずですが?』
シンジは平然と述べた。

ゲンドウはメインモニターのシンジを睨付けているが、メインモニターを幾ら睨んでも意味が無い事に気がつかないのか・・・

「・・・作戦はまだ途中だった」

『1発目が外れた時点で作戦失敗でしょう?現に盾は2発目発射まで持ちませんでした。あのまま我々が攻撃していなければ、そちらの参号機のみならず主要人物まで消滅していたのではないですか?』

シンジ達は1発目が外れた時点でシンジの言う「投下型貫通兵器」を投下していたのだ。
それは強化タングステンで作られた巨大な槍状のロケット弾だった。
捕鯨銛の様な先端を持った10数メートルに及ぶ槍をロケット弾とし高度12000フィートから使徒に向け投下したのだ。
自由落下であれば50秒程度を要するそれは、ロケットの推進力を得て10秒程で使徒に到達した。
落下させている為、10秒程の間にも緻密な方向修正が行われていたが、それは上空から直接レイが行っていた。

即ち音速を超えた強度な硬質質量であり、ロケットの直進性のため回転しているそれは、ドリルの様に突き刺さり第伍使徒の強固なATフィールドをも貫いた。
加粒子砲が途中で止まったのは、使徒がこの攻撃にATフィールドを張ったためだったのだ。

カヲルやレイは完全に作戦が失敗してからと言っていたのだが、シンジが、それだとトウジやNERVの主要人物が死んでしまうと強行に実行したのだ。

実際、合同作戦としていたなら作戦上としてベストなタイミングであったのだが、それは結果論だ。

「・・・指揮権委譲の通達がなかった」
ゲンドウが忌々しそうに言い放った。

『そちらの電源が切れていたため通信が繋がりませんでしたからね』
「・・・ぐっ」

『まぁ今回は指揮権の委譲はなかった。使徒はNERVの攻撃で殲滅されたと言う事で報告してくれて構いませんよ』

「それは本当かね」
冬月が驚愕し、確認した。

『えぇ、それでは失礼します』
シンジはそう言うと通信を切った。

メインモニターには、上から槍の様な物に貫かれ、陽電子砲で風穴を空けられた無惨な使徒の姿が映し出されていた。

「六分儀、今回はSCSに救われたな」
「・・・あぁ」
忌々しそうに歯噛みするゲンドウだった。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。