第参話
四人目の適格者
エヴァ参号機を吊り下げた巨大な全翼機は低空飛行を強いられていた。
「エクタ64よりネオパン400へ」
「ネオパン400了解」
「前方に積乱雲を確認した。指示を請う」
「ネオパン400より、積乱雲の気圧状態は問題なし。航路変更せずに到着時間を遵守せよ」
「エクタ64了解」
全翼機は雷鳴の轟く積乱雲の中に吸い込まれるように入っていった。
リツコは第三新東京市立第一中学校に足を運んでいた。
颯爽と校舎に入って行くリツコ。
5分もしないうちに般若の顔で戻って来た。
「市立病院に行って頂戴!諜報部は何をやっているの全く・・・学校になんて出てないじゃない!」
鈴原トウジをパイロットとして勧誘に来たリツコは全く情報を流さない諜報部に憤慨していた。
彼をパイロットにするため当然、彼の妹の状況を諜報部は監視しているのだ。
なのに、彼が病院に居る事を報告しない。
全くもって杜撰な勤務態度である。
しかしこれにはミサトの常日頃の態度が関係しているとはリツコですら思い至らなかった。
階級が下の癖に作戦課長と言う肩書きを盾に、傍若無人に他の部署の人間を顎で使うミサト。
その被害は諜報部が一番受けていたのである。
そして、そのミサトと親友だと公言するリツコも、何かにつけ意趣返しの対象とされていたのであった。
市立病院でリツコは鈴原トウジと会っていた。
「鈴原君、私はNERV技術一課E計画担当博士の赤木リツコと言います。よろしく」
そう言ってリツコは名刺をトウジに差し出した。
それを受け取り呆然とするトウジ。
ここは、トウジの妹が入院している病室の前だ。
「で、そのNERVの博士がわしに何の用でっか?」
トウジはリツコが来た理由等、全く思い浮かばなかった。
「貴方の妹さん、何故、怪我したか知っているわよね?」
「はぁ、なんや化けもんみたいなんと味方のロボットみたいなんが戦こうて、その時、崩れた瓦礫の下敷きになったからやと・・・」
トウジは下唇を噛み締めていた。
「そうね、鈴原君、仇を討ちたくはないかしら?」
「えっどう言うこっちぇっしゃろ?」
「あのロボット、エヴァンゲリオンって言う厳密にはロボットではなく人造人間なのだけど、それのパイロットの適正が貴方にある事が解ったの」
「ほな、わいにあのロボットのパイロットになれっちゅう事ですか?」
「えぇ、簡単に言えばそうよ」
トウジは俯いて考えていた。
「せやけど、わいがおらんようなったらナツミが独りぼっちになってしまうんです」
「貴方がパイロットになれば妹さんもNERVの病院に移せるわ。NERVの医療技術は世界一よ」
ハッと顔を上げるトウジ。
今のままではナツミは歩けるようにはならないと言われている。
それどころか、まだまだ予断は許されないと言われていたのだ。
「少し考えさせてください」
「解ったわ、明日、同じ時間にもう一度聞きに来るのでそれまでに決めておいてくれるかしら?」
「解りました」
リツコはそのトウジの顔を満足気に眺めると、踵を返し去って行った。
「シンジ君、どうやらフォースチルドレンは鈴原トウジに決めたようだよ」
カヲルがコンソールを眺めながらシンジに話しかけた。
「まぁそうだろうね。今コアに準備できる一番早い手段だろうしね」
「シンジさん・・・その・・・鈴原君の妹さんを助ける事はできないんでしょうか?」
碇シンジがおずおずとシンジに聞いた。
「助ける事は出来る、だけどねシンジ、NERVは何としてもフォースチルドレンを選抜するんだよ。仮に彼女を助けたとする。次ぎはどうなると思う?」
「解らないです・・・」
碇シンジは俯いた。
「次ぎは洞木ヒカルさんがターゲットにされその家族に被害が及ぶんだよ」
「そ、そんな・・・」
「・・・洞木ヒカリ・・・委員長ね」
綾波レイが思い出すように呟いた。
「そう、コード707、第一中学校の2−Aは全員チルドレンの予備群だ。全員の家族を守る事なんて、とてもじゃないけどできないんだよ。それこそ一ヶ所に集めるとかでもしない限りね」
「・・・向こうは無差別なの」
レイが補足する。
「気持ちは解るけど、僕達は万能の神様じゃない。守りたい人達は居るけど、やはりどこかで線を引く必要があるんだよ」
シンジは辛そうに説明した。
「すみません、勝手な事を言って」
「いや、気持ちはよく解るからいいんだ。それに君の年でそんな事が割り切れたら驚きだよ。逆に安心したよ」
シンジは苦笑した。
いつもは明るいSCSの船内なのだが、暗い雰囲気が立ち込めた。
「ところでシンジ君、そろそろNERVに行かなければいけないんじゃないのかい?」
カヲルが自然に話題を変えた。
「明後日って事になっているね、多分起動実験を終え自分達に戦力が確保できたところで交渉しようと言う魂胆だと思う」
「また女装して行くのかい?」
「カヲル君・・・洒落になってないよ・・・」
シンジは深く溜息をついた。
「僕は気に入っていたんだけどねぇ」
カヲルは紅茶のカップを傾けながらシンジにアルカイックスマイルの攻撃をした。
「・・・私も気に入っているわ」
レイはシンジの方を見てニッコリと微笑んだ。
「レイまで・・・駄目だよ。幾ら天使の微笑みでも騙されないからね」
なにげにレイを誉めるシンジ。
「・・・な、何を言うのよ」
紅くなるレイ。未だにシンジに誉められるのには弱い。
「偶には汗でも流そうか」
シンジが提案した。
「いいねぇ何をするんだい?」
「テニスかな?」
そして屋内テニスコートに碇シンジ・綾波レイVSシンジ=アンガー・レイ=アンガーのダブルスが開催された。
「結局、僕は審判なのかい?」
カヲルが不満そうに呟く。
「あはは、後で僕とシングルマッチでもやろうよ」
「それは楽しみだねぇ、じゃぁ今は審判を勤めさせてもらうよ」
カヲルのご機嫌も治ったようだ。
碇シンジ・綾波レイチームは当然真剣そのものだが、碇シンジ以外はかなりの身体能力をもっている。
しかし、両シンジの目的は全く違うようで、ネットに出るのはいつも両レイだった。
スコートが捲れアンダースコートが見える度にニヤッとする両シンジ。
「うーん、シンジ君達はお互いのパートナーのお尻しか見てないんじゃないのかい?」
「カ、カヲル君、そう言う事は言わないのが礼儀ってものだよ」
焦るシンジ。
「おや、そうなのかい?それは失礼したねぇ」
気に留めた風もなく流すカヲル。
「・・・碇君は私のお尻が見たいの?」
「い、いや、そうじゃなくって、いや見たくないってわけじゃなくって、いや、見たいけど、いやそうじゃなくって・・・」
綾波レイの素直な言葉に、しどろもどろになる碇シンジ。
「・・・そう」
そう言ってアンダースコートを脱ぎ出す綾波レイ。
「あ、綾波ぃ〜〜〜」
慌ててそれを抑えに行く碇シンジ。
「・・・どうして?お尻ぐらい見たいなら何時でも見せてあげる」
「いや、綾波、そう言うことは外ではしない物なんだよ」
「・・・ここは外ではないわ」
「いや、知らない人に見られたら困るだろ?」
「・・・ここに知らない人は居ないわ」
碇シンジ敗北。
「・・・大胆」
レイは羨ましそうに呟いた。
「・・・シンジ君も見たい?」
上目遣いで聞くレイ。
こちらの方が確信犯だ。
「二人っきりの時にね」
「・・・解ったわ」
こちらのシンジも手慣れた物だった。
そして綾波レイのアンダースコートを上げる碇シンジと下ろそうとする綾波レイの格闘が暫く続いた。
周りの物達は微笑んで見ていたが、それははっきり言ってかなり危ない光景だった。
辺りの空気を押し上げNERV本部直通ゲートにハリアー型垂直離陸機が2機降り立つ。
そこから出てきたのは、白い詰襟の海軍士官の制服に似た気品ある制服を纏った二人。
一人は蒼銀の髪に紅眼の20代前半の気品ある女性。
一人は銀髪に紅眼の20代前半の精悍な男性。
敬礼で迎えるのは赤いジャケットに紫がかったセミロングの女性。
「お待ちしておりました。NERV作戦課長、葛城一尉です」
「お出迎えご苦労、SCS司令、シンジ=アンガー中将だ」
「・・・副司令、レイ=アンガー少将」
(レイ?・・・)
その特徴ある髪と眼に自分の知っている少女を思い浮かべるミサト。
(いや、ルシフェルとサブゼロの噂は私がNERVに入った時には既にあった・・・)
同一人物であるはずがないと自分の感じた物を否定するミサト。
「ご案内致します」
そう言ってミサトはゲートの中へと二人を案内した。
流石に国連特別独立軍の司令を迷わせる訳に行かないため、黒服が着いている。
二人はそのまま司令室へと通された。
セフィロトの樹が描かれている司令室。
部屋に居るのはゲンドウ、冬月、リツコ、ミサト、マコト、シゲル、マヤだ。
二人しか来ないところに数で威圧感を与えようと言う考えだろう。
一度、表で見ているミサト以外はレイの姿を見て一瞬眼を見開いた。
無駄に広いその部屋で、ゲンドウは自席についたままいつもの姿勢を崩さなかった。
一方シンジの方も言葉を発しない。
失礼な輩に自分から口を開く気はないのだ。
「いや、遠路はるばるご苦労様、私は副司令の冬月コウゾウ、こちらが司令の六分儀ゲンドウです」
「SCS司令のシンジ=アンガーだ、ここの司令は自己紹介も出来ない無能か」
「・・・副司令、レイ=アンガー」
「六分儀・・・」
「・・・・・」
「ふん、よかろう、そちらが無礼を持って対応するならこちらもそれなりに対応させて頂く」
シンジはそう言うと踵を返した。
「・・・待て」
ゲンドウが口を開いたが、シンジは待たない。
レイもそれに続く。
「いや、待って下さい、アンガー司令!」
冬月が慌てて止めに入った。
「六分儀、挨拶ぐらいしろ!」
「・・・NERV司令、六分儀だ」
それを聞いて、シンジはゲンドウに向き直った。
「無駄な時間を掛ける気はない。そちらの要望はなんだ」
シンジはゲンドウを見下し、述べた。
「・・・使徒殲滅の優先権とそちらの武器の情報提供だ」
「実績も無いのにか?まぁいいだろう、お前らが全滅しようが私の知った事ではない。優先権が欲しいなら持って行け、武器の情報提供だが、こちらの持っている武器は国連に提出してある。勝手に調べるんだな」
シンジはあっさりと要望を呑んだ
「そんなはずは無いわ、使徒に通常兵器は効かないのよ!」
リツコが口を挟んだ。
「誰だ?」
シンジはリツコを睨付けた。
「し、失礼致しました、私は技術一課E計画担当博士の赤木リツコです」
リツコは普段のミサトの様な行動を取ってしまったと、歯噛みした。
「因みに通常兵器は効かないとの事だが、何を持ってそう言う?実際に通常兵器で倒したのを見たのではないのか?」
「確かに見ましたが、通常兵器ではあのATフィールドは破れないはず、兵器に何か特別なコーティングがされているのではないかと推測したのですが・・・」
流石のリツコもゲンドウすら威圧している威圧感に押し潰されそうになっている。
「稚拙だな。お前らは使徒をどうやって倒すつもりなんだ?ATフィールドとやらを無効にして通常兵器で殲滅するのではないのか?」
「ATフィールドを無効にしたと言うの?!」
「本当に稚拙だな。ここまで教えてやる必要もないのだが、ここの作戦担当は無能らしいので、教えておいてやる」
「ちょっと私が無能ってどういう事よ!」
ミサトがまた感情に任せて暴言を吐こうとしている。
「ATフィールドとやらを張れる決戦兵器を使用したにも関わらず、それを破壊、パイロットまで死亡させておいて有能だとでも言うのか?」
「そ、それはパイロットが素人だったからっ・・・ひぃっ!」
シンジの眼は人を殺せるんじゃないかと言う程の殺気を放っていた。
「その素人を乗せたのは、誰だ?自分達の無能を棚に上げ、何も知らない14歳の子供を殺しておいて貴様は何をそんなに威張れるんだ?」
ミサトはもう動けない。
恐怖でガタガタ震えているだけで、シンジの方すら見られなかった。
「一つ教えておいてやる、この間の使徒は一度に複数のATフィールドを張れなかった。これが結論だ。勿論今後もそうだとは限らないがな」
その場に居た全員が唖然とした。
「だってUN軍や戦自は複数攻撃していたじゃない!」
殺気を外されたミサトはまたもや突っかかって行った。
「ここまで来ると無能を通り越して有害だな。UNや戦自の攻撃に使徒はATフィールドを張っていたのか?」
「「「「「あっ!」」」」」
「解ったか無能、お前は兵装ビルだけで倒せる相手に決戦兵器を破壊されパイロットまで殺したんだ。罪悪感があるならとっとと辞職しろ」
ミサトは唇を噛み締め、拳を握り締めブルブル震えていた。
オペレータ3人も沈痛な顔をしている。
こちらは罪悪感に苛まれているようだ。
「アンガー司令、その辺りで勘弁して貰えないだろうか」
助け船を出したのは冬月だった。
「そちらの要望は呑んだ、こちらの要請を言う。そちらがどう判断しようと、NERVで使徒殲滅が無理とこちらが判断したら指揮権を委譲して頂く」
「「「なっ!」」」
「ちょっと待ってくれたまえ、それは少し強引ではないかね」
冬月がなんとか譲歩して貰おうと切り口を掴もうとした。
「心配する事はない、私はそこにいる無礼者とは違う。ちゃんとそちらの言い分を聞いてから判断してやる」
「・・・・・」
ゲンドウは睨付けているのだが、シンジには堪えない。
「嫌なら、使徒殲滅の実績がないお前らに優先権は与えない」
「そ、それは・・・」
冬月も自分達の要望を聞き入れて貰っていたことを失念していた。
「・・・構わん」
「優先権は要らないと言うんだな」
シンジは解っていてからかった。
「・・・委譲の判断だ」
「ふん、では話は終りだな」
そう言ってシンジは踵を返した。
レイもそれに続く。
プシュッ
シンジとレイが退室し司令室の扉が閉まった。
「・・・殺せ!」
「「「「「「っ!!」」」」」
「六分儀それはまずいぞ」
「・・・今なら奴ら二人しかいない。司令と副司令を殺せばSCSなど問題ない」
「報復に来られたらどうするつもりだ」
「・・・ルシフェルとサブゼロを殺した組織に手を出す者が居るか?」
ゲンドウは自分の言っている矛盾に気が付かないようだ。
簡単に殺せないからそう思うだろうに自分なら簡単に殺せると思っているのだろうか・・・
電話を取り、指示を出すゲンドウ。
「・・・生きて外へ出すな。そうだ、奴らの搭乗機にも爆弾を仕掛けておけ、空域を出た辺りで爆発するようにな」
ニヤリと笑うゲンドウ。
冬月以外がゲンドウに見切りを付けた瞬間だった。
冬月以外が退室した後、冬月がゲンドウに言った。
「参号機の事は何も言われなかったな」
「・・・所詮餓鬼だ、何も解っておらん」
ゲンドウは根拠のない自信を持っていた。
「しかし、オペレータが居る時に抹殺命令はまずかったぞ」
「・・・問題ない、奴らは所詮駒だ。何もできはせん」
「そうだと良いのだがな」
「・・・問題ない」
突然鳴り響く警報。
「・・・始まったな」
ニヤリと笑うゲンドウ。
冬月が受話器を取り状況を確認する。
「何っ?!」
「六分儀、UN軍300機がNERVにN2爆雷の照準を合わせているそうだ」
「・・・何?」
「どうするつもりだ!お前の馬鹿な行動でNERVは今日で終りだぞ!」
直通ルートで発令所に出たゲンドウと冬月は唖然とする。
そこにはシンジとレイが居たのだ。
オペレータ達の様子がおかしい。
いつも喚いているミサトですら端でガクガクと震え大人しくしている。
「・・・何故貴様らがここに居る、ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
ゲンドウが下らない口上を述べる。
「馬鹿かお前は、ここは我々が占拠したんだ、お前らの規則等通じる訳がないだろ」
「「何っ!」」
「当然だろ、国連特別特務権限を持つ我々を攻撃したんだ」
シンジは嘲り笑った。
「・・・そんな事実はない」
「そうか?まぁそれは国連が決める事だ。お前らは私達が乗って来た機で今から国連の査問委員会まで急行だ」
シンジがそう言うとグレーの国連MPの腕章を着けた数人がゲンドウと冬月を拘束する。
「ま、待て、国連へは出頭する、今は待ってくれ」
冬月が慌てて言うが国連MPに引きずられて行った。
ゲンドウと冬月が通る道には、どうやったらこうなるのかと言うぐらいぐちゃぐちゃにされた黒服達が散乱していた。
ゲンドウと冬月がシンジ達が乗って来た機体に乗せられ喚いている映像は空域を出るまでメインモニターで映し出されていた。
その後、放心して気絶、尿まで漏らしていたのでシンジは見るに耐えないと映像を切らせた。
「さて、NERVオペレータの諸君、君達は命令ならなんでも従うのかな?」
シンジはゆっくりと尋ねた。
誰も顔を上げる者は居ない。
「一つだけお教えしておきましょう。間違った命令を下した者は罰せられます。しかしそれを実行した者は実行犯です。そこの処を良く理解して行動する事を期待していますよ」
シンジは場を一巡見回すとリツコに声を掛けた。
「司令と副司令が拘束された今、実質的な責任者は赤木博士ですか?」
「か、階級的には佐官が他にも居りますが、幹部職と言う意味では私が技術部、葛城一尉が作戦部の責任者となります」
「そうですか、では司令達が戻るまで頑張って皆さんの意識を教育してあげて下さい」
そしてシンジは立ち去ろうとした。
「ま、待って下さい、ここはどうなるんですか?」
「どうとは?」
発令所の全員がリツコとシンジの遣り取りに集中している。
ゲンドウと話をしていた時の口調とは違う柔らかい口調に皆、緊迫感を薄れさせてきていた。
「貴方達に占拠されたのだから貴方達の指揮下に入るのかと・・・」
「成る程、それも悪くないですねぇ・・・」
シンジは考えている様子だ。
5000人からいる軍事施設の発令所を占拠したと言うのに気負いがない。
「やっぱり辞めておきます。多分、奴らは人類補完委員会のコネで戻って来るでしょう。何か誤解があったとか言ってね」
シンジはシンジの方を見ているマヤに向かってウィンクをした。
マヤは顔を赤くして俯いてしまった。
「そうだ!」
シンジはポンッと手を叩いて言った。
「どうせ、あの髭の事だからセカンドインパクトの事実とか、使徒は何故攻めて来るかとか、エヴァとは何とか、人類補完計画ってなんぞやとかって全然説明してないんでしょ?」
「そ、それはS級の秘密で・・・・」
リツコが言葉を詰まらせた。
チッチッチとシンジは指を左右に振る。
「今は僕に占拠されているんだから、僕の自由」
そしてシンジはベラベラと喋り出した。
本当に、これがルシフェルと恐れられているSCSの司令なのかと疑われる程、饒舌に。
そして、皆が信用しないような事は、リツコに言ってMAGIから証拠を見せて貰う。
それがS級のプロテクトが掛かっている事は皆一目瞭然で、その証拠はMAGI自信が保持している物のため疑う余地がなかった。
シンジが話した事は、
セカンドインパクトが何故起ったか(当然ミサトが喚いたが力で黙らせた)
その前日に全ての資料を持って六分儀ゲンドウが引き上げた事
ゼーレと言う組織があり、そこが人類補完委員会で人類補完計画を進めている事
使徒とアダムの接触でサードインパクトが起るがそれは物理的な物である事
ゼーレが計画している人類補完計画
それに乗っかってゲンドウがやろうとしている事
エヴァのコアにはパイロットの近親者の魂がインストールされ初めてシンクロできる事
綾波レイの出生とダミープラグについて
使徒が攻めて来る理由
碇シンジが使徒襲来の当日呼ばれた理由
大凡、ゲンドウ、冬月、リツコが隠していた事は全て暴露してしまった。
「ところで、赤木博士、参号機のコアの準備はもう終了してしまいましたか?」
「え、えぇシンクロも確認したわ」
青くなってリツコは答えた。
「そうですか、では暫くは鈴原トウジ君に頑張って貰って使徒を殲滅するしかないですね」
シンジは事も無げに言った。
「あんた人の命をなんだと思っているのよ!」
ミサトが自分を省みず喚いた。
レイが凍るような視線でミサトを睨む。
「ひっ!」
「・・・貴方が何を言っているの」
「レイ」
シンジが諫めた。
諫められたはずなのにレイはシンジにピトッと引っ付いた。
諫めたはずなのにシンジはそんなレイの頭を撫でている。
「今話した事を行っていたのはNERVだと言う事をお忘れなく、それでは皆さんここは私の占拠を解放しますので、今まで通り職務に従事して下さい」
そう言ってシンジとレイは発令所を後にした。
「もう私は終りね・・・」
「先輩・・・」
項垂れるリツコにマヤが寄り添った。
「使徒はまだ来る。俺達は少なくても使徒は殲滅しなければ行けないんじゃないか?少なくとも俺はそのためにNERVに入った」
シゲルが珍しくまともな事を言った。
「そうだな、葛城さん、今あるもので頑張りましょう。これから悲劇を生まないようにすれば良いんです」
マコトがミサトを励ました。
良くも悪くも、このオペレータ3人は前向きなようだ。
「え、えぇ・・・」
さしものミサトも元気は出なかった。
シンジとレイは芦ノ湖周辺を歩いていた。
「・・・いいの?」
レイがシンジに尋ねる。
「何が?」
「・・・あんなに話してしまって」
「あぁその事か、いいんじゃないかな?レイは辛かったかも知れないけど、レイを綾波レイだと思っている人間はあそこには居ないし」
「・・・そうじゃない」
レイが珍しくシンジの言葉を遮った。
「ん?」
「・・・碇君は優しいから」
「ありがとう」
シンジはそう言ってレイを抱きしめた。
その時、周りの空気を押し上げ戦闘機が降りて来た。
無線誘導でシンジ達の帰る機体をカヲルが飛ばして来たのだ。
「帰ろうか」
「・・・もう少し」
レイがそう言って二人は暫く抱き合っていた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。