白日夢    Daydream Believer


(Y) You Can't Hurry Love


「また君に借りができたな」
ネルフ本部司令公務室で碇ゲンドウが電話をかけている。
『お安くしておきますよ』
「ふっ」
『やれやれ、返すつもりもないんでしょう? ところで例の計画ですが本部のエヴァの見事な活躍で資金集めが頓挫して、あの会社自体が解散に追い込まれそうです。日本政府もさすがにお手上げですね』
「問題にもならんな」
『では、シナリオ通りに』


(1)


 シンジとレイは並んで通学路を歩いている。使徒戦後のエヴァの修理も終わり訓練も順調なため、なるべく通学せよというのがネルフの指示だ。血なまぐさい使徒戦とごく普通の中学校生活の共存にシンジは違和感を感じるが、レイと一緒なら楽しいので反論せずに従っている。通学路の最後の交差点まで来ると鈴原とヒカリが待っていた。最近よく見られる光景だ。距離的にはわずかだが山の中腹にある学校到着まである程度時間がかかるので、ここからでも結構話ができる。挨拶をして4人で歩き始めた。
「相田は?」
最近よく休む相田ケンスケのことをシンジはたずねた。
「あいつは、昨日から新横須賀や。国連軍の何とか言うイージス艦がきとるらしいで」
「昨日はともかく進路指導の日に趣味で学校休むなんて。鈴原、友だちなら止めなさいよ」
「委員ちょぉー、そら無理やで。あいつの軍事オタクは筋金入りやからなあ」
「言われてみれば、そうかも」
「まあ今日は来る思う」
「それならいいけど。そういえば碇君、進路相談にきてくれる赤木さんってネルフの人なんでしょう?」
シンジとレイはネルフの研究の協力者で被験者と説明されている。もっとも、シンジもレイも一言も言ってないが、2人がネルフのロボットの操縦者というのはクラスでは公然の秘密だ。
「うん。実験の責任者だよ。ネルフで一番僕達の面倒を見てくれている。それと僕と綾波は相談の時間が近いのでもう一人来てくれるんだ」
「へぇー、ワシんとこ休みとれえへんて言うてたけどなあ。その赤木はんって暇なんか?」
「いや、そんなことないと思うよ」
「赤木博士はいつも忙しい」
そういえば『夢』の知識と随分様子が違う。シンジは不思議に思った。この時期の赤木リツコは、日重のJA対策、使徒の分析、ダミープラグの基礎実験で忙しいはずだ。
「鈴原、失礼なこと言っちゃだめよ」
「わかっとるって」

 進路指導の日は生徒は自習のため教室は騒然としている。相田ケンスケも予鈴の頃には到着した。シンジは席に着くと現実世界と『夢』の差を考え始めた。
 大きな被害を受けずに使徒を倒していること、それにミサトと同居していないのが『夢』との一番の違いだ。第5使徒戦で初号機は盾に使った予備の装甲版と強化した胸部装甲版の全てを失ったが、既に交換を終わっている。零号機はほとんど被害も無く、再調整と実戦向けの強化改造が始まった。第7使徒に間に合うから戦いにはかなり余裕ができるだろう。リツコと親しくなれたのは、心強い。父さんと敵対しない限りにおいてだけど。それにしてもリツコさん2人で来るって、やっぱり親友のミサトさんとだろうな。ミサトさん、もう仕事片付いたんだろうか。
 窓際が騒がしい。
「金髪だぞ!」
「ごっつい美人やでぇ!」
男子の歓声も聞こえる。やはり、リツコさんとミサトさんだろうな。無視すると後で突っ込まれると思いシンジも立ち上がった。
「なんや、こんな日に転校生か?」
「鈴原どうした?」
「おう碇、あれ見てみぃ。」
「え? あ〜!」
「シンジ君、私が担当よ!」
見上げたマヤがシンジを見つけ手を振っていた。可愛らしい私服を着たマヤは上から見下ろすと中学生に見えなくも無い。
「マ、マヤさん!」
「なんや、あの娘が碇の保護者代理?」

 進路指導の2日前のネルフ本部にミサトの声が響いた。
「えー、なんでリツコなのよぉ」
技術局一課主作業室のメインコンソールで仕事をしているマヤが不機嫌に睨むがミサトには効果がない。
「なぜって、シンジ君に頼まれたのよ。ミサトは忙しいと言ってシンジ君のレッスン断ったでしょう。だから頼めなかったんじゃない?」
「ああ、クラウゼビッツかぁ」
「でも意外ね。どうしてシンジ君たちの進路相談に行きたいの?」
「べっ、別に行きたいわけじゃないけど。レイはともかくさあ、男の子なら若い綺麗なお姉さんが行けば喜ぶかなってね」
「あら、そうなの。私じゃ、だめってことかな」
マヤは、あまりにクールなリツコの声を聞いて振り向いた。リツコの眉間には技術開発部で『前兆』と呼ばれる皺が出ている。葛城さん、気をつけて! ミサトの乱入を快く思っていなかったマヤも同情を禁じえない。
 リツコ・インパクト発動寸前です。前回の標的は戸籍・預金など全てのデータが消え行方不明になったって噂なんですよ! 
「リツコはレイのに出ればいいじゃない。シンジ君にはミサトお姉さんが」
三十路を気にしていたリツコは完全に切れている。
「マヤ、有休とって! 明後日シンジ君たちの学校へ私と一緒に行くのよ。今から服買いに行こう。プレゼントするわ」
「は、はい先輩」
降って湧いた幸運にマヤは大喜びした。

 シンジは真相を知らないが、ネルフではレイを除けばマヤと一緒にいることが一番多いので何となく納得した。エヴァに乗り始めて間もないシンジは多数の実験や搭乗訓練をこなしており、簡単なものはリツコ抜きでマヤが行うからだ。マヤとシンジは成績を受け取り各教科主任の個室で成績の評価と指導を受け最後に担任の部屋へ向かった。部屋の前の椅子でしばらく待つことになる。
「シンジ君、好成績じゃない。あんなに訓練で時間つぶされているのにね」
「そんなこと無いです」
かなり『夢』の助けもあるので、手放しで喜べないシンジは謙虚だ。
「そうかなあ、前の学校より良いくらいでしょう?」
「ええ、学校以外での勉強時間は増えたんじゃないかなあ。前はもっと無気力だった気がします」
「うん。確かにここきてから少しずつ明るくなってるわ。何か良いことあったのかな?」

 担任の評価も良く、付き添っているだけのマヤも何か誇らしい気持ちになれる指導結果であった。名簿の五十音順に指導が進行しているため、先に終了していたレイとリツコと合流してリツコの車に向かった。
「どうだったマヤ」
「はい先輩。シンジ君は成績優秀で、私も鼻高々でした」
「マヤさん、大げさですよ」
マヤから記録を受け取ったリツコは一瞥した。
「ふーん、確かに良い成績だわ。オールラウンダーね。よくがんばったわね、シンジ君」
「ありがとうございます、リツコさん」
「レイちゃんは、どうでした?」
「指示してある数学と英語はトップだけど、あとはほぼ平均ね」
「えっ、指示なんですか?」
「私が聞いたの。なにが必要なのか」
「そうなんだ。でもトップかぁ、すごいなあ綾波は。第壱中学は人数少ないけどレベル高いのになあ」
「そんなこと無い」
「レイ。そういう時は、お礼の方が似合うわよ」
「あ、ありがとう、碇君」
「うぁー、何か良い感じ、レイちゃんとシンジ君」
「そういえば、マヤは男子生徒に大人気だったわね」
「えー、そうなんですか?」
「今日の男子の人気はリツコさんとマヤさんが2分してました」
「女生徒は赤木博士派が多かったわ」
リツコは心の中で大きくガッツポーズをとった。


(2)


 上機嫌のリツコは昼食のため馴染みのイタリアレストランの個室を予約した。一番喜んだのはマヤである。優しく頼りになる上司のリツコをマヤは大好きなのだが、いままで休日に買い物に誘うことも出来ずにいた。店に着くとリツコは手際よく注文をしていく。よく考えられた選択で、レイの好みに合わないものは除かれており料理も美味しかった。
「リツコさん、美味しい店ですね」
「まあね」
「そんなあ、先輩。とても美味しいですよ」
「あら、マヤ。それならあなたの食べているパスタよりこちらのトマトソースの方がいいわよ。食べてみる?」
「はい」
「横に小さな皿があるでしょう」
「これですね」
「ええ。分けてあげる」
「は、はい」
しばらく手を止めて2人を見ていたシンジが気を取り直して自分の皿に注意を戻そうとしたとき、レイの視線に気がついた。
「綾波?」
「なんでもない」
気づいたリツコは助け舟を出すことにした。
「ほら、シンジ君たちもいろいろ食べたほうが楽しいわよ」
「あ、はい」
「わかりました」
少し硬かった子供達も参加して食事は大いに盛り上がった。

 食事の間に一度リツコはシンジと二人きりになった。その時シンジは軽い調子で二人きりで一度会いたいと伝えてきた。
「あら、デートの誘い?」
「ち、違います。相談したいことがあります」
「込み入った話なのかな?」
「少なくとも僕にとっては」
「場所は?」
「秘密が守れるならどこでも」
シンジの真剣な様子を見てリツコは場所を自分のマンションにして時間を指定した。


(3)


 リツコを訪ねるシンジは途中で花とお菓子を購入した。中学生とはいえ今回は(前回は夢かもしれないけど)給料をもらっているのでそれなりの挨拶がいると思ったのだ。
 シンジの相談事は第五使徒の後、頭をもたげてきた不安を相談するためである。最初は自分の消極性ゆえの考え方だと思ったが、そうとばかりは言えないところもある。セカンドチルドレン惣流アスカ登場までに誰かに相談したかった。相談相手はシンジなりに考え抜いてリツコにした。もっとも最終決定に今日の進路指導と昼食会が影響したのは否定できない。
 リツコは北西地区のブロックのマンションを借りていた。使徒の進路にはならない地区でいかにもリツコらしい選択だ。内線で保安装置を外しもらい最上階へ上がる。硬くなって挨拶するシンジを迎えたリツコはエプロンをつけていた。
「いらっしゃい。何か変かな、シンジ君?」
「いえ、別に。あの〜、これ」
リツコは笑って寸時の手土産を受け取った。
「あら、ありがとう。ありがたくご好意を戴くわ。食事用意するから食べてってよ」
「そんな、申し訳ないです」
「あら、レイちゃんと夕食の約束でもあるの? 何ならレイも呼んで良いわよ」
「え!?」
『夢』でのレイとリツコの関係はもっと冷たい感じだったのでシンジは驚いた。
「そんなに変かな」
「い、いえ。ではご馳走になります」
シンジはレイには遅くなるかもしれないといってあるのでリツコの好意に甘えることにした。それにリツコの料理に少し興味もあった。
 リツコの手料理は家庭的な和食でシンジにはとても美味しい。食事中の話題は学校のことが多く、リツコは学校でのレイの様子に興味があるらしかった。食事が終わるとリツコは果物を切り珈琲を淹れるとシンジの向かいに腰かけた。
「さあ、いいわよ」
「は、はい」
「緊張してちゃ相談になら無いわ」
「すみません」
「もう!」
「あはは、性分なんで」
「知ってるけどね。さあ」
「まず、レイと僕以外、ナンバーで言えば二人の間にもう一人チルドレンがいますね?」
「別に極秘じゃないわ。セカンドチルドレン惣流アスカ、ドイツ支部所属の弐号機パイロットよ」
「僕はサードチルドレンで予備ということですね」
「その通りよ。レイとアスカはもう10年も訓練を受け、エヴァも調整を受けてるわ」
「僕をはっきり予備と位置づけてもらえないでしょうか」
「良く分からないわ、シンジ君。あなたを軽んずる気はない。階級も……まあ給料計算の等級の意味しかないけど、抜群の功績で上がるはずよ。まあ嫌なら今は無理には引き止めないけど……」
「恐くて逃げたい気もしますが、そうじゃないんです」
「レイがいるからね」
「はい」
「あら、言うわね。でも、じゃあどうして?」
「それが妥当だと思うからです。レイの怪我で第3使徒、第4使徒戦は僕が戦いました。第5使徒は零号機は再起動直後で僕は初号機で手伝いました」
「ええ。立派な戦績じゃない」
「零号機は試作機でしょう。セカンドチルドレンの人が弐号機で、ファーストチルドレンのレイが初号機で戦う。これがシナリオで僕は余分なんですよ」
「シンジ君、それは卑下しすぎよ。もっと自信を持って良いと思うな」
「リツコさん、僕は10年前から予備だったんじゃありませんか? 実績を上げたから作戦部のミサトさん、いえ葛城一尉は僕を格上げして使おうとしてくれるかもしれません。軍人なら実戦使用された武器を当然優先しますからね。でも何か違う気がするんです」
「一応言っとくけどサードチルドレンは今では正規パイロットとして登録されている。ミサトの考えはあなたの言う通りだと思うわ。それと10年前は私はまだ学生だったし、ネルフという組織も無かった。だからその頃の事情を私は知らない。もう少し説明して」
「あ、はい。僕がパイロットとしての適性があるのは以前から分かっていたのではないかと、まず考えました」
「知識としては無いけれど同意するわ」
「先日、僕としては思い切った行動を取って副司令に父と母のことをお聞きしたのですが」
一瞬リツコの笑みが消えたのでシンジはやりすぎたかと思ったが表情はすぐに戻った。
「聞いてる。悪いけどパイロットの心身両面の管理をしてるのでね」
「父は、司令は、愛していた母の死で僕の顔を見たくなかったのか、危険なパイロットという仕事から僕を遠ざけるために予備にしていたのでしょうか?」
「私は知らない。でも司令があなたのお母様を愛してらしたというのは母から聞いたことがある。どちらも可能性としてはあり得るわね」
「でもレイ一人に危険を押し付け、これだけの組織と人類の命運をレイ一人にかけるのはリスクが高すぎます。僕は父が恐いです」 これは本当だ。 「でも無能とも思えないんですが……。子供の贔屓目でしょうか?」
リツコは笑い出した。
「司令に言ったら喜ぶかしら、ご子息が誉めていたって」
「真剣なんですけど」
「あはは。あ、悪かったわ。なかなか良くできた推論よ。科学的あるいは軍事的な理由があるってことね。で、それはなに?」
「それが分からないから来たんです」
「あら」
「それに話は戻りますが、使徒が来ちゃうと作戦部の指示が優先されるんじゃありませんか?」
「私の今のシンジ君に対する評価は最上級だから作戦部はシンジ君をエースとして使うわね」
「では評価を下げてください」
「あらあら。でも〜」
「シンクロ率は諸刃の剣と聞きました」
「それは私ね」
「ええ。それにレイが完治してから一緒に訓練を受けてみると僕の付け焼刃は明らかなんです。これはちょっと一緒にやらないと分からないかもしれません」
「指導教官たちのシンジ君への評価は高いわよ」
「はあ。努力はしています。確かに訓練1年生としての成績なら良いかもしれません。でも10年訓練を受けたわけではないのです。そのぉ〜、なんなら恐いという理由でも……。痛いのが恐いのは本当ですし」
「選んだ科学的データをつければ多分意見は通るわ。分析データにはそれを示すものもあるから」
「では!」
「本心を教えてちょうだい。これは譲れない」
「一つは先ほど言いかけた僕が選ばれなかった真の理由があると思うこと、もう一つは訓練の差をシンクロ率でカバーあるいは凌駕して使徒と戦うのに不安があるからです。レイの方が冷静に対処できると思います。もちろんレイが危険なら僕が出たいですが」
「なるほど。それで具体的には?」
「初号機の修理後の起動実験の……」
「それなら了解よ。どうせ実験予定はあったから」

 リツコの部屋からの帰り道、シンジは自問を繰り返した。夢のそのまた中の紅い海の夢のように、これで良いのかと。
 もちろん夢と違い実戦を積んだシンジなら……いやあれは夢で実際に僕が経験したわけじゃないんだよね。時間がたつに従って事実だと思えるんだけど……。
 シンジが夢より使徒戦を上手くやりとおせても何も得られない。他人の評価を気にしていても、その他人がいなくては無意味なのだ。それにレイと一緒に訓練をしていると ( 夢では基礎訓練はした記憶がない ) 現時点ではどう考えてもレイがエースなのは間違いない。まあアスカがくればややこしいけど、冷静さを考えれば同じことだ。
 もう一つは初号機の覚醒の問題だ。初号機が覚醒するとゼーレにより凍結され、一番危険な終盤でレイとアスカに多大な負担がかかる。シンジは今のままだとそれが早まると考えた。危険な終盤こそ三人で力をあわせなければいけない。
 最寄の駅の手前でシンジは歩みを止めた。レイがいる。
「碇君?」
レイがいつかの幻のような気がしてシンジは立ち尽くしていた。
「あ、綾波。どうしたの?」
「……」
迎えに来たのに決まってるではないか、シンジは自分の間抜けさを笑った。リツコとの話し合いは結果が全く見えなかったのでレイには詳しく話していない。それに今日は一人で地下地区の部屋に帰るつもりだった。もっともこれでは予定は変更だ。
「ごめん心配かけたかな。すぐに電話すればよかったね」
「別にかまわない」

 シンジとレイは徒歩で帰宅することにした。再開発地区のレイたちのアパートまでは4ブロックもなく1km強の距離だ。
 シンジは話し合いの結果をレイに告げた。
「そう。碇君はそれで良いの?」
シンジはレイに誤解されるのを恐れた。
「そのぉー、一緒に戦ったから分かるでしょう? 僕は強いわけではないんだ。エヴァとのシンクロ率の良さと誰かにもらった夢の知識のせいさ。でもミサトさんたち作戦部の軍事的知識のある人は実戦で使われて成果をあげた武器(僕のことね)を優先したがる。でも、エヴァは通常の武器とは違うと思うんだ。それで今日リツコさんに」
「それは聞いてる。でも本当に良いの?」
「いまはね。それにもちろん逃げる気はないんだよ。綾波は僕が守るからね」
「まあ!」
レイが立ち止まってしまったのでシンジは振り返った。
「綾波?」
「でも……」
「え?」
「この前のようなのは嫌」
「え〜っと」
「前の使徒戦のようなのは嫌」
泣いているレイにシンジは何の言葉もかけられなかった。こんな場合夢の知識は無力だ、何しろ夢のシンジは今のシンジよりおくてそうだったから。


 シンジの帰ったあとリツコは後片付けを終わるとタバコに火をつけた。
( 司令の本来の計画に思いのほか早く復帰できるわけね。シンジ君の推測はほぼ正しい。シンジ君のシンクロ率があれほど高くて彼があれほど見事に戦うのは予想外だったから、トラブルでもなければ初号機のパイロットをレイに戻すのは厄介に違いない。シンジ君があれほど意志強固ならミサトも折れざるを得まい。
 しかも彼は残って万一に備えて訓練を続けてくれると言う。まさに願ったり叶ったりだ。でもシンジ君にメリットはあるのか? 彼の言うメリットは確かにある。レイと一緒にいられるのだから。使徒が恐いというのも充分納得できる。文字通り痛い目にあったのだから )
 第5使徒戦後のシンジの状態はお世辞にも良好とはいえなかった。それでも使徒の照射エネルギーを考えれば初号機もシンジも打撃は予測より少なく既に復帰している。
( シンジ君の希望が通れば……、まあ必ず通るが、レイによる初号機の起動実験とシンジ君の零号機の起動実験をしてデータを集めダミープラグの開発を進めることになる。
 さて、この美味い話に裏があるのだろうか? シンジ君は本物だし、いかなる組織ともつながりは無い。この調査結果は信頼できる )
 それにリツコ自身もシンジを信用して良いと判断した。
「少なくても、父親よりは信頼できるわ」
そう声に出すとリツコは自分の吐いた煙を見つめた。






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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。