第四話 「こんなにも愛しい君に…」


夜中、ふと寝苦しさを感じて目を覚ますとリツコさんがベットの横に立っていた。

「起きなさい、シンジ君。」
「うぅ〜…はい。あれ?でもまだ午前三時じゃないですか。」

「あなたたちは丸一日眠っていたのよ。」
「!!あれから丸一日!二人して?」

驚いたなそんなに寝てたのか。

「そうよ声が大きいわ。静かにしなさいレイが起きるわよ。」
「あッと。」

急いで口をつぐみ綾波の様子を伺う。
少し寝苦しそうにベッドの脇で身をよじった後またスヤスヤと寝息を立て始めた。

「フゥー。」

危ない危ない。そっと息をついた。

「あなたに見せたいものがあるわ。着いてきて頂戴。」

何故だかその時見たリツコさんの表情は笑顔だったが、僕にはこの人が泣いているように感じた。

「僕だけなんですか?綾波は?」
「レイはいいのよ。後で時間を見計らって呼ぶから、ついていらっしゃい。」

未だにベッドの脇で眠っている綾波をこのままにしておくと風邪をひいてしまうと思ったのでリツコさんに手伝ってもらって僕の寝ていたベッドに起さないようにそっと綾波を寝かしつけた。
頬に涙の痕がある。随分と心配をかけてしまったみたいだ。
ゴメンネ綾波…
そう心の中で呟き、その綺麗な髪を優しく撫でた。

「その娘のこと、ずいぶん大切なようね」
「はい。この僕に生きる意味と生きることを教えてくれた娘ですし…それに好きな娘ですから。」
「そう…」


エレベーターに二人で乗り込んでから数分だいぶ下に降りたようだ
Nervにまだこんな地下があるなんて…

「何処に行くんですか?僕、Nervまだこんな下があるなんて知りませんでしたけど。」

「ええ、普段はあなた達が入って良い場所じゃなもの。」
それって、立ち入り禁止なんじゃ・・・

「大丈夫よ。今は私が許可しているもの。」
「そうですか。なら良いんですけど。」

チーン

「さあ、着いたわ降りましょう。」
「はい。」

どんどん奥へと進んでゆく途中、一つの部屋を見た。
そこはまるで、まるで…綾波の部屋みたいだった。

「どこかに似ている。そんな表情ね。」
「はい。ココはまるで・・・」

「綾波レイの部屋みたいだって思ったんでしょう?」
「?!・・・ええ。」

「彼女はココで産まれたのよ、いえ、創られたと言ったほうが正しいわね。」
「ツクラレタ?」

「あなたに見せたいものはこれじゃないの。ついていらっしゃい。」

更に進むと、エヴァの墓場があった。リツコさんはゴミ捨て場と言った。
そして、僕が見ている目の前で母さんが消えた場所でもあると…。消えた場所は恐らく僕の乗るあの…初号機

目的地に着いたようだ。

「ココよ・・・」

ピッ!
リツコさんがカードを通した。

ERROR!

「リツコ、あなたのカードじゃ入れないわよ。」

銃を片手に後ろからミサトさんが姿を現した。

「ミサトさん…」
「加持君の仕業ね…」

「私にも見せてもらうわよNervの隠しているものを」
「この子も一緒だけど良いのね?…」

「…良いわ。」

ミサトさんがカードを通しなおした。

OPEN

ピッ!と音が鳴り扉が開いた。

「この部屋は何なんですか?真っ暗で何も見えませんけど?」

中央にはオレンジ色の液体恐らくはLCLが入っている大きな試験管のようなものがある。
その上には巨大な幾つものチューブのようなものが見て取れた。

「今、見せてあげるわ。貴方はこの現実に耐えられるかしら?」

そう言うとリツコさんは携帯を操作し

「レイ。今すぐドグマに来なさい。面白いものが見れるわよ。」

といって電話を切った。


まだ完全に覚醒していない頭で呼び出し音の鳴っている携帯に出ると赤木博士からで今すぐドグマへ来いとのことだ。
ベッドから身を起しあたりを見回すとベッドで寝ていたはずの碇君の姿がない…どうやら彼の寝ていたベッドに寝ていたようだ何故か少し頬が熱くなった。
しかし、目が覚めて頭がはっきりしてきて思考が回りだしてようやく現状の把握が出来た。
何故か碇君の姿はこの病室に見当たらない。いつもより怜悧な声の赤木博士からの呼び出し嫌な予感がする。
何故だか解らないけれど嫌な感じがする。
その予感を必死に打ち消しながら私はドグマへと向かった。


「綾波を呼ぶんですか?」
「最高のタイミングで来て欲しいから。」

リツコさんは妖しく笑いながら何かのボタンを押した。
暗い部分が明るくなりやがてあるものを映し出した

「アヤナミレイ・・・」

呟いた瞬間、無数の綾波と同じ姿をした娘たちががこちらを見つめてくる。
これは、いったい?

何故?
何がドウナッテイルノカ?

「シンジ君、彼女たちはねスペアなのよ。今のレイが死んだ時の代用品なの。
それだけではないわダミープラグの元であり、あなたのお父さんにとっては奥さんの代わり貴方のお母さんの遺伝情報に第二使徒の遺伝情報を加えた人造使徒と言ったところね。
要するに貴方の大切な娘は化け物ってことよ。」

「リツコ!!」

「けど、私はそんな化け物風情にも負けた。碇ユイの面影を持つだけの化け物にさえ負けた…。だから殺(こわ)すの憎いから。」

はっきり言って僕は馬鹿だから細かくは理解できなかったけれどこの子たちがいると綾波が苦しむって言うのと僕が好きな娘が化け物呼ばわりされて馬鹿にされたってことだけは解った。

「リツコさん。取り合えず、混乱してて未だに良く理解してないんですけど、綾波のこと貶されているのだけは良くわかったんで1発殴らせてもらいますよ。」

僕はそう言ったと同時にリツコさんを思いっきり殴った。
殴った拍子にまだ完全に塞がっていないところに響いたみたいでちょっと、いや、かなり痛いや…

「ちょっ!シンジ君?!」

ミサトさんがかなり驚いているのが解る。
人を殴るのって気持ちの良いもんじゃないなやっぱり…それでもこんな僕にでも譲れないものがある。

「ミサトさん…女の人に手を上げたのはこれが初めてです。というか暴力を他人にぶつけたこと自体が初めてかな?
でもね、ミサトさん僕は謝りませんよ。好きな娘をコケにされて喜ぶ趣味はありませんから。」

僕に殴られて未だに床に座ったままのリツコさんをに振り返り

「ところでリツコさんこの娘たちを殺すにはどうすればいいんですか?」
「あなた自分が何を言っているのか解ってるの?」

リツコさんもかなり驚いているようだ。
今日は驚いた人の顔を良く見るなぁ。なんて心の隅で考えた。

「ええ、解ってますよ。この娘たちに罪はないけど僕の大切な綾波にとって彼女たちは鎖だ。
だから彼女たちには悪いけど消えてもらおうかなと。
で、どうすれば良いんですか?」


「あなたに殴られた時に落としたその手帳型の端末のボタンを押せば殺せるわ」
「そうですか、有難うございます。」

僕は端末を拾い上げLCLに浮かぶ無数の綾波と同じ姿をした娘たちに胸の中でゴメンネと語りかけた
ピッ!という音がしたと同時に彼女たちはボロボロと白痴のごとき笑い声を上げながら崩れていった。

「シンジ君・・・」

ミサトさんが心配そうに僕に近づいてきた

「ミサトさん。大丈夫ですよ。僕自身で決めて僕がやった事なんですから。」
「そう、強くなったわね。私なんかとは比べ物にならないくらい。逃げてばかりの私とは大違いだわ。」

「そんなことありません僕もミサトさんから逃げていた。
加持さん死んだんですよね?それで悲しんでるミサトさんから僕は逃げた。逃げ続けの生き方でしたけど今日から変えて生きます。
僕になら出来る僕にしか出来ないことやりながら。」



ピー
音が鳴りドアが開いた僕ら以外の誰かが入ってくる

「綾波…」

「なんで?何故碇君がココにいるの?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?私の換わりの私を見られた…
何故?なぜ?…ナゼ?…イヤァァァァァァァァァアァ!」

「綾波っ!」

綾波は恐怖をその小さくて細い体にに張り付かせガタガタ震え目を見開き半狂乱になっている。

「ザマぁ見ろだわ。あの人の心だけじゃなくその息子まで手に入れようと言うんですもの罰が当たったのよ。」
「リツコッ!」

ミサトさんがリツコさんに銃を向けている。

「ミサト、いっそ殺して頂戴。」
「アンタ!甘えんのもいい加減にしなさいよ!恥ずかしくないの?まだまだ子供の14歳のシンジ君が現実に向き合ってんのよ
それを何?アンタもアタシもシンジ君の2倍は生きてんのよ!
たかだか自分の半分しか生きていない子供に馬鹿にされて黙って死ぬわけ?ふざけんじゃないわよ!私はそんなの御免だわ。
アンタまだ生きてるんでしょ!だったらしっかり生きてそれから死になさい。」

「母さん…私…うっうわぁぁぁぁぁあ」

リツコさんは嗚咽をもらした。その間ミサトさんは自分も泣きながらリツコさんを抱きしめてあげている。




「リツコさん次こんな真似をしたら僕は貴方を殺します。」
「シンちゃん。それは…」

「ミサトさんは黙っていてください。」

この子はいつの間にこんな目をするようになったのだろう?これは男の目だ…
今は亡き私の愛した男もこんな目をすることがあった。

「わかったわ」
「ありがとうございます。」



「リツコさん貴方の苦しみも悲しみも僕には分かりません。だけど、それを僕たちにぶつけないで下さい。
それは、僕ら子供が良くやる八つ当たりと同じなんじゃないですか?
もし次、綾波を苦しめるようなことがあれば僕は貴方を殺します。」

「そう、あの人そっくりで自分の都合通りに行かないと他人を切る。エゴイストな子ね。」

落ち着きを取り戻したのか淡々と確認をするような口調のリツコさんに僕は

「そうですか。そっくりですか…親子だから似てくるのかもしれませんね。
けど、僕と父さんとではたった一つだけど決定的な違いがありますよ。」

そう、それはたった1つだけどとても重い1つ

「何かしら?」

リツコさんは僕への嘲笑と自分への嘲笑と目に涙を浮かべながら…

「それは、あの人の想う人は今は初号機(あの中に溶けていて)で触れることは届かない。けど、僕の大切な人は…

まだ震えてカチカチと歯を鳴らして部屋の隅で膝を抱えて怯えている綾波に近寄って僕は

大切な人はこうして傍にいて抱きしめてあげられる。」

強く強く優しく優しくそうっと大切な大切な綾波を抱きしめてあげた。
少しだけ震えが弱まった。
けど、まだ綾波の震えは止まらなくて
僕は馬鹿だから上手い言葉なんか浮かばない。
だったらありったけの想いを込めてキツク抱きしめながら

           だから

           せめて

   こんなにも愛しい君に精一杯の愛を込めて
     
      胸の中で未だに震えている綾波に

          「大好きだよ」
             
             と  

       その可愛い耳に優しく囁いた。





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