第三話・使徒、再来
「奴め、いやに遅いな」
「よくわからないが、戦自が攻撃をやめたとたんに進行が停止したらしい」
「そうか・・・ならば問題ない」
ゲンドウはいやに遅いサキエルの進行を疑問に思ったが、冬月の説明によりなぜか納得した。
だが、サキエルはN2地雷の攻撃がなかったため進行をやめたわけではなく、カヲルの張ったATフィールドによって進行できていないのだ。
中和しようにも強力すぎて中和できないようだ。
しばらくは抵抗したものの、今はあきらめて、休憩中らしい
(ふふ、サキエル。君の出番はもう少し後だよ)
◆
『エントリープラグ固定完了』
『第一次神経接続開始』
『LCL注入開始』
号令とともに黄色い液体が注入されていく
(LCLか・・・一応反応を見せとかないと変だよな)
「何ですか・・・これ?水漏れ?」
「LCLという液体よ。肺に満たされれば自動的に酸素を供給してくれるわ」
(やっぱりこの味にだけは慣れないな・・・)
「血の味がする・・・気持ち悪い」
「我慢しなさい!男の子でしょ!!」
シンジの呟きにミサトの檄が飛ぶ
「(相変わらずうるさいな・・・)じゃああんたは飲んだことがあるのか!?ええ?」
「そ、それは・・・」
「じゃあ黙っててくれ」
「・・・無様ね・・・」
シンジの予想外の言葉にミサトは畏縮してしまい、友人からの追い討ちもかなりきいたようだ
『双方回線開きます』
『シンクロ率・・・え、嘘』
「どうしたのマヤ?」
『え、あ、はい。シンクロ率0%いえ、32%・・・65%・・・どんどん上昇していきます・・・99.89%で固定、エヴァ初号機起動しました』
「・・・すごい・・・」
◆
エントリープラグ内
(碇ユイ、お前は邪魔だ、しばらく眠っていてもらう。)
そういうと、碇ユイはATフィールドに包まれていった。
(さて、あとは初号機だけか・・・いたな、あれか・・・)
『・・・あなたは・・・誰?・・・』
そこには、長髪で紫眼、人間にしたら5歳前後であろう少女がいた。
『僕は碇シンジ、大丈夫だよ。あの女はいなくなったし、僕は君を傷つけるつもりはないから』
『・・・ホントに?・・・』
『うん、むしろ君に協力してほしいんだ。君、名前は?』
『・・・ない・・・』
『じゃあ僕がつけてあげようか?』
『・・・ホント!?』
少女は本当にうれしそうだった
『じゃあ・・・ミカでどうかな?ありきたりかもしれないけど。戦場・守護の天使にされているミカエルから取ったんだよ』
『・・・ミカ・・・うん私ミカ!』
『気に入ってもらえたみたいだね』
『うん。でも協力ってなにするの?』
『ただ君の力をかしてほしいんだ。外にいる家族を助けるためにね』
『わかった。シンジのためならいいよ。でも、ひとつだけお願いがあるの』
『何?いってごらん』
『私・・・外に出てみたい。ちゃんとシンジみたいに』
シンジは考えていた。あの世界でレイにやったようにすればできることはできる。しかし、リツコに調査されると簡単にバレてしまう。それだけは避けなければならない・・・・
『・・・わかった。何とかしてみるよ。そしたら一緒に住もうか?』
『うん!』
『じゃあちょっと協力お願いするよ。また後でね』
◆
・・・・・・・・エヴァ初号機起動しました』
「司令、かまいませんね?」
発令所ではミサトがゲンドウに許可を得ていた
「無論だ。使徒を倒さぬかぎり人類に未来はない」
「エヴァ初号機発進!」
◆
「エヴァ初号機リフトオフ」
「シンジ君まずは歩くことだけ考えて」
ミサトがシンジに声をかけるが、聞こえてないようだった
「これからだ・・・俺はすべてをやりなおす。あんな未来は認めない」
シンジは誰にも聞こえない声で呟いた
「ちょっときいてんの!!!」
「うるさい!いまさら歩くなどやっていて間に合うわけないだろう!」
そういうとシンジは回線を切った
「なんなのよあのガキは〜」
「シンジ君に命令権がない以上、何を言っても無駄よ」
そういわれると、ミサトはイスに座り抑えきれない怒りを飲み込んでいた
◆
(シンジ、くるよ)
カヲルが止めていたサキエルもATフィールドが解けたため再度進行をはじめていた
「ありがとう、ミカ。さあ、いこうか」
(うん!!)
ミカとの話が終わったとほぼ同時にサキエルがパイルで初号機を貫こうとしていた
そういうとシンジは飛翔し、サキエルの後ろに降り立った。そして、打撃を加えようとしたが、紅い八角形の壁にはじかれた。
「ATフィールド!?やはり使徒も持っていたのね・・・」
リツコがATフィールドの解析を始め発令所はさらにあわただしくなった
「なかなかやるようだな・・・だがこんなところでつまずくわけにはいかないんだよ」
そういうとシンジは同じくATフィールドを展開し中和、手でコアを掴み、握りつぶした。そして、魂と呼ばれるものはシンジの力により、ターミナルドグマへと向かって行った。
「これならトウジの妹も大丈夫だろう。にしても、こんなにサキエルって弱かったのか?初めて乗ったことになっているのに派手にやりすぎたかな・・・まあ次からは考えるとしよう」
◆
「「「「すごい」」」」
あまりの早業に発令所のメンバーはただ呆然するだけだった。ただ一人リツコは
(おかしいわ、いくらユイさんを求めても最初のシンクロといい、今の操縦といい説明できないことが多すぎる・・・後で聞いてみる必要があるわね)などと考えていた。そして、誰一人さっきまではいたはずのカヲルがいなくなっていることには気づいていなかった
『殲滅完了。帰還する』
シンジは一言通信を入れると、勝手に帰還し始めた。
「回収班よろしく」
しばらくしてからミサトが命令を下していた
(シンジ、もう帰っちゃうの?)
「ああ、でもまたすぐに会いに来るよ。約束を果たしにね」
(ホント!?)
「ああ、約束だからな、待っていられるか?」
(うん、大丈夫。でも早くね)
シンジとミカは会話を済ませると回収班によりケイジに収容された
◆
「いいのか碇?あの強さは異常だぞ、我々のシナリオとは少々違うのではないか?」
「問題ありませんよ冬月先生。シンジが予想以上にユイを求めていただけのことです。」
「しかし、エヴァは完全に彼の制御下にあったのだぞ」
「いずれにしても使徒は倒さねばなりません。約束の時まで我々は滅びるわけには行かない、多少の強さはどの道今後必要なものです。それに、どうあがいてもそのうちユイも目覚めるでしょう」
「ならばいいがな」
◆
ケイジ
エントリープラグからLCLが抜かれ、シンジが降りてきた。そこには自分の作戦ではないにしろ、使徒に勝利したことを称えようと笑みを浮かべているミサトと、先ほどの戦闘に疑問を懐き複雑な顔をしたリツコが立っていた
「すごいじゃないシンジ君、シンクロ率といいさっきの戦闘といい、セカンドチルドレンでさえあそこまではできないわ。まして今日はじめて乗ったのに!これは才能としか言いようがないわね」
ミサトは本当にうれしそうな顔をしていたが、もう少し怪しんでほしいものだ・・・
「シンジ君そのことで話したいことがあるの、後で私のところへ来てくれないかしら?」
「行ってもいいが、場所がわからない。あとシャワーとゲンドウとの話が先だ。LCLとかいうやつは血のにおいがするしな」
リツコは顔をしかめたが実際シンジの言うとおりなので了承するしかなかった
「・・・わかったわ。場所は案内させます。司令は今会議中だから終わり次第ということになるわね。先にシャワーを浴びたら私のところへきなさい。異常はないようだから検査はいらないわね」
「わかった」
短くそういうと案内され、更衣室へ向かっていった
◆
シンジ出撃直後・ターミナルドグマ
レイの分身達が浮かんでいる水槽(?)の前に鼻歌で第九歌いながら何かを待っているカヲルがいた。しばらくするとその何がやってきてレイの分身の一人の中へ入り容姿を変えていった。
「歌はいいね・・・そう思わないかい?サキエル」
カヲルの視線の先には完全に姿を変え、15、6歳ぐらいであろう蒼髪の少女が立っていた。
「・・・その波動はタブリスか。なぜお前がここにいる!お前はまだ目覚めていないはず。それになぜ私は生きている?」
「いきなり質問かいサキエル・・・君らしくていいけどね。理由は簡単だけど、後で話そう。ここは意外に危険なんでね。この服を着るといいよ」
そういうとどこからかだした病院の衣服をだしカヲルとサキエルは暗闇へと消えていった・・・
◆
更衣室
シンジはシャワーを浴び終わって、イスに座ろうとしていた。ちょうどそのときにカヲルが入ってきた
「やあ」(サキエルは回収したよ。今はジオフロントの森の中に隠れてる。彼女ならある程度は待たせても大丈夫だと思うよ。ただ、自分がどうしてこうなったのかの説明を求めているけどね)
「どこに行ってたんだ?」(ご苦労様。うまくいってよかったよ。失敗したらどうしようかと・・・(汗)サキエルには後で説明するとしよう)
「トイレに行くつもりが迷ってしまってね。まるで迷路だよここは」(この後どうするんだい?)
「そうか、情けないな」(ゲンドウとリツコさんと話す予定)
「じゃあ、行こうか」
そういうと二人は先ほどシンジが場所を教えてもらったリツコの執務室へ向かう
◆
リツコの執務室
「よくきてくれたわね。座って」
そういってシンジとカヲルをむかいいれた。更衣室のこともモニタリングしていたので、カヲルが来ることもわかっていたようだ
「いくつか質問をさせてもらいます。まずはじめて乗ったときエヴァの中はどんな感じだった?」
「別にこれといったことはないが・・・」
「そう、じゃあ質問を変えるわ。なぜATフィールドを張れたの?」
「ATフィールド??何だそれは?」
本当は知っているのだがさすがに言うわけにはいかなかった。隣ではシンジのとぼけた顔に必死で笑いをこらえているカヲルがいた
(・・・・その顔変すぎるよシンジ君・・・・)
(カヲル・・・頼むから少し黙っててくれ・・・)
「ATフィールドというのは使徒が使っていた紅い壁みたいなものよ。あなたは使徒のATフィールドを初号機のATフィールドで中和したの」
「じゃあ元から張れるものなんじゃないのか?」
「それが未解明なことが多くてね。まだ完全に使い方がわかっているわけではないのよ」
「俺はただあの壁を破ってやると思いながら殴っただけだが・・・」
(おそらくユイさんね・・・彼を守っているのか・・・)
「ありがとう質問は終わりよ」
「そうか」
そういうと、シンジとカヲルは席を立ち、執務室を出ようとした。だが聞き忘れていたことを思い出し、足を止めた
「何か?」
突然足をとめたシンジにリツコは声をかけた
「確か俺をサードチルドレンといったな。セカンドはいるのは聞いたがそのファーストとセカンドはどこにいる?俺が出なくてもよかったんじゃないか?」
当然の質問ね、と思ったリツコが机の中から紙束をシンジに渡し、答えた
「ファーストチルドレンは実験事故による怪我で入院中、セカンドチルドレンはドイツよ」
そう答えるとリツコは机に向かった
シンジに手渡されたのはチルドレンに関する資料だった
ファーストチルドレン・綾波レイ
生年月日不明・過去の経歴抹消済み
現在、零号機起動実験失敗時の怪我によりNERV病院に入院中
セカンドチルドレン・惣流=アスカ=ラングレー
生年月日 西暦2001年 12月4日・両親ともに他界。ドイツにて大学卒業
現在、NERVドイツ支部にて訓練中
「ありがとうございます」
そういうとシンジたちは執務室を後にした
◆
病院
「ここだな」
「そのようだね」
シンジとカヲルは綾波レイというネームプレートの入った病室の前にいた
今回はシンジの決断が速かったため、レイは呼び出されなかったのである
「コンコン」
シンジがドアをたたくと、中から‘どうぞ’という声がした
「碇君!!!」
ドアを開けると、いきなりレイがシンジに抱きついてきた。シンジは唖然としカヲルはやれやれという表情をしていた。(監視カメラはレイによって壊されたらしい)
レイはしばらく抱きついていると、シンジの隣に見慣れた生物を見つけた
「・・・タブリスなぜここにいるの・・・」
レイは明らかに邪魔者扱いでカヲルを見ている。そこでシンジはあの世界で、レイが行った後のことと、今後の行動、そして使徒達の扱いについてを話した
「・・・わかったわ・・・でもなんでタブリスなんかを・・・」
最後のほうはシンジにはよく聞こえなかったようだがそんな話をしているうちに『サードチルドレンは直ちに司令室に出頭しなさい』という放送が入ったので打ち切られた
「「「またね」」」と挨拶を交わすと、病室をでて、待っていた案内人に従いシンジは司令室へ。カヲルはサキエルを待たせている森へ向かった
◆
司令室
「サードチルドレンをつれてまいりました」
案内人、(つまりは諜報部の黒服の男)が言うと中から‘入れ’と声がしドアが開いた
そこにはゲンドウが手を組んで座っており、脇には冬月が立っていた。黒服の男は一礼をするとさっさと出て行った。張り詰めた空気の中ゲンドウが口を開いた
「何のようだ私は忙しい、用がなければ帰れ」
「(座ってるだけの癖によくいうよ)さっき言った条件の契約書二部を作ってもらおうか」
そういわれると冬月は一枚の紙を差し出した
「君がそういうと思ってね。もうすでに作ったのだよ。後は君がサインするだけになっている」
そこには確かにゲンドウのサインがされていた。
「あなたは?」
「私かね?すまない。申し送れたね。私は冬月コウゾウ。ここの副司令をしている」
シンジはそうですかというと契約書に目を通した
「とりあえずはこれでいいだろう。住居と報酬はどうなっている?」
「これだ。このカードで家の鍵と金の引き出しができるようにしてある」
再び冬月が一枚の地図とカードを渡した
「(本当にゲンドウは一言もしゃべらないな・・・冬月さんに任せきりじゃないか・・・)わかりました。」
そういうとシンジは契約書にサインし、司令室を出て行った
「・・・するのだ?完全に自我が確立しているぞ」
シンジが出て行った後おもむろに冬月が口を開いた
「しょせんは子供です。できているなら壊せばいいだけのこと」
「そうか」
そういうと司令室にいつもの沈黙がもどった
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。