第弐拾六話
世界の端っこで愛を囁いたこもの


「戦闘員、非戦闘員の区別なく第4層以下まで下がらせて!後退が終了したら第3層まで破棄!803区間までの全通路とパイプにベークライトを注入!急いで!」

「後退終了しています、ベークライト注入します」
マコトが復唱し、ミサトの指示に従う。

「シンジ君とアスカをエヴァに乗せて!」
ミサトが慌ただしく指示をだしていた。


「葛城君、何をしているのかね?」
冬月がミサトの行動に疑問を投げかけた。

「敵は本部占拠を目的としています。既に特科大隊の侵攻が強羅防衛線近くにまで来ている事が確認できています。本部施設は対人邀撃システムは用意されていません。侵攻を最小限に抑え、狭い所から侵攻してくる敵を迎え打つのが最善と判断しました」

冬月は驚愕した。
ここまでミサトが考えていたとは思わなかったのだった。

「解った、そちらは君に任せる」

その時、ロケット弾と榴弾がジオフロント上部を襲う。

『第八から十七までのレーダサイト沈黙』
『特科大隊、強羅防衛線より進行してきます』

『御殿場方面からも二個大隊が接近中』


「やはり、最後の敵は同じ人間だったな」
冬月が呟く。

「総員第一種戦闘配置」
ゲンドウが指示を出す。

「戦闘配置?相手は使徒じゃないのに、同じ人間なのに・・・」
マヤが呟く。

「向こうはそう思っちゃくれないさ」


「戦自約一個師団を投入か占拠は時間の問題だな。大袈裟な事だ・・・」
「冬月先生、後を頼みます」
ゲンドウは発令所を後にする。

「解っている、ユイ君によろしくな」
冬月はそう言うとゲンドウを一瞥もせず戦況を見守っていた。

「エヴァンゲリオン初号機、及び弐号機発進!!」
ミサトがエヴァの射出を命令した。

「シンジ君、アスカ、敵は殆ど無人兵器よ、取り敢ず潰しちゃって!」
「「はい」」
加持の報告が効いていたのか、戦自が投入したのは殆ど無人兵器ばかりであった。
エスケープする事もできず、壊されるのを覚悟で出して来たと言う事だ。

本部施設に侵入しようとしていた部隊は締め出しを食らっていた。
ミサトの作戦通り、侵入前に通常で入れる入り口は全てベークライトで塞がれていたのだ。

戦自はそれで侵攻不可能と引き上げた。
侵攻しているのはゼーレの部隊のみであった。

それも狭い入り口と通路と言えない様なところから入るしかなく、狙い撃ちにされていた。

シンジとアスカが、手当たり次第に無人兵器を破壊していった。

その為、ゼーレは早くも量産型エヴァを投入に踏み切った。


『アスカ!奴らはS2機関を搭載しているはずだから、再生できないぐらい粉々にするよ』
『解ってるわよ!任せておきなさいって!』

前回は3分程でアスカが一人で一度は倒した敵だ。
数が居ても、初号機、弐号機と完璧な今、敵ではなかった。


その頃、ターミナルドグマにはゲンドウとレイが居た。

「レイ、やはりここに居たか、約束の時だ、さぁ行こう」
レイは何も言わず、ゲンドウに付いていく。

リリスの前でゲンドウはレイに話しかけた。
「今、この時のためにお前は居たのだ。さぁATフィールドを解き放ちアダムを受け入れるのだ。そして私をユイの所に導いてくれ」

手袋を外したゲンドウの右手がレイの胸に埋まる。
徐々に下腹部へと移動されるゲンドウの右手。


それを見守る二人の人影があった。
一人はカヲル、そしてもう一人はリツコであった。


突然、拒絶され引きはがされるゲンドウの右手。
「レイ!何故だ?!」

「私は貴方の人形じゃない、私は貴方じゃないもの」
そう言いながらゲンドウに背を向けるレイ。

「ま、待ってくれレイ!頼む」
右手を押さえ蹲り、レイに懇願するゲンドウ。

「駄目、碇君が呼んでいる」
レイは浮かび上がり、リリスの中に吸収された。

「ただいま」
「おかえりなさい」

「レイィィィィ!」
叫ぶゲンドウ。

リリスの巨大な体が十字架から抜け落ち、七つ目の仮面が剥がれ徐々にレイの姿となっていく。
そして、巨大になるのではなく、元のレイの大きさへと収縮していった。

「貴方の希望は潰えましたね」
プラグスーツ姿のカヲルがゲンドウに声を掛けた。
その手にはレイのプラグスーツを持っている。

レイはそのプラグスーツを受け取ると身に付けた。

「貴様はフィフス!何故生きている!」
「それが僕の意志だからですよ」

「・・・行くわ」
レイがそう言うと、カヲルとレイは浮かび上がって行った。

がっくりと項垂れるゲンドウ。

「ふっ・・・無様ね」
リツコはそう呟くと踵を返しその場を去って行った。


「ターミナルドグマに高出力のエネルギーが発生!」
発令所でシゲルが叫んだ。

「何?使徒?」

「いえ、ヒト?こちらに向かってます」
「あれは、レイとフィフスの少年?」
映像に映る二人を見てミサトが呟いた。


地上では、強引に儀式を行おうとしたゼーレが量産型エヴァに陣形を取らせていた。

そこに、現れたレイとカヲル。
「綾波!カヲル君!」

「待たせてしまったねシンジ君」
そう言ってレイは初号機のエントリープラグに、カヲルは弐号機のエントリープラグに乗り込んだ。

「あんた邪魔すんじゃないわよ!」
アスカが照れ隠しにカヲルにそう言った。

重力をも遮断するATフィールドを張れる二人がエントリープラグに乗った事で上空に陣形を取っている量産型エヴァに攻撃を仕掛ける事が出来るようになった。

「5分でケリを付けるわよ!」
アスカがアンビリカブルケーブルを外し先行した。

シンジもそれに続く。

元々二人にボロボロにされていた量産型エヴァは、生身で強力なATフィールドを張れる二人を付けたエヴァに為す術はなかった。


今度こそ再生できないぐらい粉々された量産型エヴァ。
ゼーレの野望も潰えた瞬間だった。


『お疲れ様ぁ〜皆戻って来てぇ〜』
ミサトの脳天気な声が通信で入って来た。


量産型エヴァを殲滅したら、4人でそこから逃げようと計画していた4人は戸惑ったが、何かあっても、レイとカヲルが二人を護るから行ってみようと言う事になった。


居直って、シャワーを浴び発令所に戻った4人は拍手で迎え入れられた。

キョトンとする4人。

「お疲れ様、君達のお陰でサードインパクトは阻止されたよ」
そう切り出したのは加持だった。

「加持さん、生きていたんですね」
シンジは微笑んだ。
微笑んでいるミサトの横には苦笑いをしているリツコも居る。

シンジは思わず涙が込み上げて来た。
「みんな・・・みんな生きていてくれたんですね」
「・・・碇君」
レイがシンジにハンカチを差し出した。

「あ、ありがとう、綾波」
「・・・いい」
そう言って紅くなるレイ。


「それで君達はこれからどうするつもりなんだい?」
加持が唐突に尋ねた。

「僕達はここを離れます」
シンジが少し寂しそうな顔をしてそう言った。

「シンジ君、司令は今、治療中だけど、冬月副司令と共に拘束したわ。いずれ国連の査問委員会に掛けられる。NERVがどうなるか解らないけど、ここに居た方が安全じゃない?」

「いえ、ここに居ると綾波やカヲル君が狙われます。できれば僕達は死亡と言う事で処理して貰いたいんですが・・・」

「そう・・・」
ミサトが寂しそうに俯いた。

「まぁシンジ君ならそう言うだろうと思ってな、これは俺からのプレゼントだ。受け取ってくれ」
そう言うと加持はブリーフケースと、1枚の封筒をシンジに渡した。

「当面、生活していくには困らないと思う。まぁ困った事があったら連絡してくれ」
加持はそう言うと、後ろに下がった。

「シンジ君、アスカちゃん、レイちゃん、それにカヲル君、本当にありがとう。元気でね」
マヤが涙眼で言った。

「本当にありがとう」
「お陰で胸を張って生きていけるよ」
マコトとシゲルがそう言って握手を求めてきた。

ミサトに背中を押されてリツコが前に出る。

「貴方達には本当に悪い事をしたわ。謝っても許されないと思うけど、本当にごめんなさい。私は証人として国連に行って罪を償うわ」
リツコも涙眼でそう言った。

「それじゃぁ皆さん、お世話になりました」
シンジはペコリとお辞儀した。

「ミサト達も元気でね」
アスカは至って普通を装いそう言って手を振った。

「それじゃぁ私が自分達で移動できるところまで送ってあげるわねん」
そう言ったミサトに連れられ4人は発令所を後にした。


ミサトの車で連れられて来たのは、第三新東京市を出た所にある駅だった。
戦自もとっくに引き上げていたらしく、途中にはエヴァに壊された残骸しかなかった。

「よく簡単に戦自が引き上げましたね」
シンジが呟くように言った。

「加持君が流した情報が効いたらしいのよ。量産型エヴァがサードインパクトを起こすつもりだってね。半信半疑だった政府も実体を見て信用したのか様子を見るつもりになったのか、すぐ引き上げたわ」

「そうだったんですか」
「じゃぁ元気でね、落ちついたら連絡頂戴」
ミサトは既に涙眼であった。

「もっと引き留められるかと思って居たんですけどね」
「加持君がね、この混乱を利用しないと貴方達はNERVから離れられなくなるからって」

「加持さんが・・・それでこんなに準備が良かったんだ」
「アスカもレイも元気でね。カヲル君も3人を頼むわ」

「何言ってんのよ!あたしが3人を見てやるのよ!」
「そ、そうね、元気でねアスカ」
「ミサトもね」

「レイも幸せになってね」
「・・・葛城三佐も」
ミサトはそのレイの言葉に微笑んだ。
そして4人が列車に乗るまで見送って居た。


加持から渡された物は、当面の生活を行うには充分だった。
そして、手紙には、もし良ければ訪ねて行けばきっと面倒を見てくれると言う人の住所と連絡先が入って居た。
シンジ達は好意に甘える事にして、その連絡先に書かれている住所に向かった。




「ハァッ!」
明るい日差しの中、裸馬に乗って走っている赤っぽい金髪に青い眼の少女。

「アスカ、また乗ってるよ・・・アスカも手伝ってよ!!!」
シンジは馬に跨り走っているアスカに向かって叫んだ。

「アスカ君は肉体労働は男のするもんだって手伝う気はないようだよ」
カヲルがシンジを手伝いながら言った。

「・・・碇君、お昼」
レイが昼食の入ったバスケットを持ってやって来た。

ここは北海道の牧場。
シンジ達は加持に勧められた人に会い、ここに来る事になったのだ。

セカンドインパクトで地軸が移動してしまい、ここ北海道も今では九州ぐらいの気候となっていた。

ここでシンジ達は牧場を手伝いながら生活している。
殆どの肉体労働はシンジとカヲルが行い、アスカは何をしているのか解らない。

レイは屋内作業を手伝いながら、昼食時にはシンジのところに昼食を持ってくるのだ。
当然、シンジの横にピッタリと張り付いて一緒に食べている。

穏やかな時間の中、昼食を取る4人。
明るい日差しと牧草の匂いが清々しさを感じさせる。

「どう?カヲル君、こういう人間臭い生活って言うのは?」
「リリンの文化は、奥が深いねぇ。興味が尽きないよ」
そう言ってカヲルは微笑んだ。

「・・・碇君と一緒ならどこでも幸せだわ」
「その件については同意するねぇ」

「あんた達って本当、シンジさえ居ればいいのね」
アスカが呆れていた。

「いや、アスカ君も居ないより居た方が楽しいと感じるよ」
「なんですってぇ!あたしは、おまけじゃないわよ!」
そう言ってアスカはカヲルを追いかけ出した。

逃げるカヲル。
そんな二人を見て微笑んでいるシンジとレイ。
「カヲル君も余計な事、言わなければいいのに・・・」
「・・・あれはあの人なりのコミュニケーション」
「そうだったの?」
「・・・そうよ」

「僕はあんな派手にはできないなぁ」
「・・・碇君ならどうするの?」
「僕なら・・・」

そしてシンジはレイの耳に口を寄せ囁いた。
「綾波と一緒に居られて、僕は幸せだよ」

「・・・私も」
耳まで真っ赤になるレイだった。


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後書き

ここまで読んで頂きありがとうございました。
異世界ものを書きたかったのですが、結局、案が出ず逆行物になってしまいました。

私の中では「あやなみ」の様な異世界物を書いてみたいと思っていたのですが、私の乏しい創造力では、レイのキャラクターを活かした異世界が設定できませんでした。

要はレイは感情表現の見えにくい人外、シンジは人間と言う設定ですね。
そこで、今回はシンジは人間のまま、レイは使徒のままと言う設定でした。
後は思いつくままに綴っております。

そして、敢えてレイの心の動きは書いていません。
それを補足するために「手紙」と言う話を考えました。

二人目のレイに固執するのも良いのですが、三人目のレイとちゃんと向き合えるシンジを出して見たかったと言うのもあります。
なので、この話は最初から二人目が死ぬ事だけは決まっていました。

次ぎに、また何か思いついたら書き始めると思いますので感想等送って頂けると有りがたいです。

今後とも宜しくお願いします。



新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。