ついにイスラフェルとの復讐戦の日となった。
涼しげな風の吹く中、山には朝日が差し込んでいた。
もうすぐ夜明けだ。
朝日が差し込む中で町に住まう人たちは前日に避難体制を敷かれたため、町には誰一人としていない。
あるのはゼロエリアへと向かおうとしているイスラフェルだけ。
そして、もう一人。イスラフェルの攻撃範囲外の山際に身を隠して、偵察していた。
それはショウだ。
いつもどおりショウは黒ずくめのコートを羽織って、素顔を晒さないためにフードで覆い隠していた。
「いよいよリベンジマッチの始まりか。アスカとシンジのやつ、うまくいったかな?」
双眼鏡を手にして、木々の枝の上にのっかかりながらイスラフェルの様子を見ていた。
一度N2爆弾によって喰らってしまった傷はほぼ完治されていて、なんともなかったように動き回っていた。
「そろそろ、時間か。」
ショウは金色の懐中時計をコートの裏ポケットから取り出した。
直に七時を指そうとしていたころであった。
やがて、地面に響くような轟音が聞こえてきた。
リフトアップする際に放たれる音だ。
やがて、地上からエヴァ専用エレベーターレールが現れた。
次の瞬間にシンジの操縦する紫のボディをしたエヴァ初号機、アスカの操縦する深紅のボディをしたエヴァ弐号機が大空高く舞った。
「実際に見るのは初めてだな。さぁ、シンジにアスカ。お前たちの訓練の結果を見せてもらうぞ。」
今ここにアスカとシンジのイスラフェルリベンジマッチが始まった。











EVANGERION
Another Story
漆黒の騎士と白衣の天使

―第十三話―
--- As for me, your half of the body, you are my halves of the body ---
--- 私は貴女の半身、貴方は私の半身 ---











打ち上げられた状態でエヴァ初号機と弐号機は手首に装着させたコンパクトロッドを伸ばし、身体を回転させて勢いを利用してイスラフェルに投げつける。
それは直撃し、イスラフェルは一体では不利だと思ったのか、分裂した。
エヴァ両機は着地と同時にイスラフェルからの攻撃を受ける前に武器設置ビルからパレットライフルを手にとって、サイドから走りながらイスラフェルに狙いを定めて射撃する。
パレットライフルの弾数が切れるとともに次なる武器ポジトロン・ライフルを手にして、イスラフェルに放つ。
イスラフェルも流石に次から次へと攻撃を喰らってしまうために手も足も出ない状態で迎撃も思うようにできない。
ついにポジトロン・ライフルも弾がきれてしまい、これをチャンスと思ったイスラフェルは見逃さず光線をエヴァに向けて放った。
これにアスカとシンジは呼吸を合わせて、バック転でイスラフェルから放たれる光線をかわす。
イスラフェルから大きく離れたところで作戦通り、シールドの道路スイッチまでたどり着き、押した。
すると道路からせり上がってきたシールドにイスラフェルの光線を凌いでくれた。
シールドの背面に配備されたパレットライフルを手にとって、シールドの影に隠れながらイスラフェルに放つ。
放たれた弾は惜しくもかわされ、済んでのところでイスラフェルは跳躍した。
跳躍した先はシンジたちのいたシールドを真っ二つにした。
シンジもアスカもそれを見越してかわした。

「おお〜。訓練の甲斐もあってかアスカもシンジも呼吸がぴったりだ。シンジのやつ、アスカとうまくいったみたいだな。」
シンジとアスカの呼吸が合わないことからイスラフェル戦は不利かと思われたがそれは杞憂に終わることに済みそうだ。
シンジとアスカは呼吸を乱すことなく、イスラフェルに対等…いやそれ以上に戦っていることにショウは感心していた。
一コンマ秒たりとも許さないといった気迫がこっちまでに伝わるほどだ。
この戦いがNERV初の勝利になるのではないかと心の中で期待していた。

―NERV発令所―
「山岳部隊!目標に向けて援護射撃しろ!!跡一つ残らず木端微塵にしてやれ!」
日向マコトが雄雄しい声で指揮を執る。
まるで今までのストレスを発散するかのように。
彼の目にはどこか殺気立ったものがあった。
その原因は言わずもがな国連や政府から来た抗議文を寝る間も惜しんで処理に励んでいたのだ。
それも昨夜に終えたばかりだった。
その所為か目のしたには隈ができており、睡眠不足でストレスはピークに達していた。
その鬱憤を晴らすかのように燃えていた。
殺気立ったオーラにNERV所員はビビりまくっていた。
モニターにはイスラフェルにミサイルが多く放たれる様がデカデカと映っていた。
これに日向は嬉々とした歪んだ笑みを浮かべながら呪詛にも聞こえる台詞を放っていた。しかも、上司であり、司令官でもあるゲンドウにも冬月にも聞こえているにも構わず、年のいい大人に相応しくない台詞を連発していた。
「ふははははは!!いいぞ!いいぞ!使徒なんぞゴミじゃ!クソじゃ!そのままいてまえやぁあああ!!もっともっと喰らいやがれってんだ!!俺はこんなんじゃ気が晴れないぞ!貴様のせいで俺は国連にも政府にも休む暇もなく抗議文の処理にいそしんでいたんだぞ!しかも、つい昨夜終えたばかりだ!お陰で睡眠不足!ストレスは限界突破!胃潰瘍はできるわ!頭は痛いわ!貴様なんぞ地獄に落ちてしまえええええ!!」
これはもはや私怨としか言いようがない。
しかも関西弁になっている。
傍から見たらヤクザに見えたかもしれない。
日向の裏の人格の片鱗を見たNERV所員は引きまくっていた。
「日向さん。こ…怖いデスぅ…。」
「ひゅ…日向がキレたの…始めて見た。…つうか怖ぇ!」
日向と同じく同オペレーターである青葉シゲルと伊吹マヤは怯えていた。
後日、日向を見る目が変わり避けられるのは後の話であった。因みにイスラフェル戦での執った指揮は記憶が無くなっていた。
俺が何をしたんだ!?と頭を抱えて天に叫びまくっていたとかいなかったとか。
「…なぁ、冬月よ。日向に指揮を執らせてしまったのは間違いだったか?」
「今更聞くな。それを決めたのは碇だろうが。」
「…そうだな。」
ゲンドウも冬月も日向の変わりようにビビりまくっていた。

「……危うく巻き込まれるところだった。一歩遅かったら身体の一部は奪われていたかもしれない…。」
ショウはNERVからくる援護射撃の爆風と衝撃がショウの居る場まで及んでしまい、危ういところで防御魔法を己自身に掛けた。
傍から見ればそれは透き通った青のヴェールで包まれたような光の衣を身に纏っていた。
これを身に纏ったお陰で衝撃を退くことができた。
流石に急いでいた状況だったので詠唱破棄で魔法を発動させたのだ。
『聖なる光の鎧、其れは全ての障害を退ける、鎧に傷つけるものは皆無なり、聖光防壁(シャインガーディアン)』
本来ならこう詠唱するのだが省略して最後の文節だけを唱えたのだ。
詠唱破棄する代わりに威力が通常の三分の二にダウンするが、幸いにも耐えうることができた。
前もってこれを詠唱しなかったショウの失態であった。
「しかし、ここまですると流石に使徒も攻撃のしようがないな。…って現代の日本で町を粉々ってあり得ない…。」
そこまでしたら町一つ消滅するぞこれは…。
しかも、復興するのに予算はかなり掛かるのに…この先の日本の経済が崩壊しかねない。
だいいち、放射能汚染の心配もあるかもしれないのに大丈夫なんかい、と思っているショウだった。
NERVからの援護にイスラフェルが喰らう様に感心する。
イスラフェルはNERVからの総攻撃に迎撃を与える間もなく喰らい続けた。
攻撃が止むと同時にシンジとアスカはイスラフェルとの間合いに入った。

「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」
アスカとシンジの心が一つであるように動きも滑らかであった。
エヴァのコックピット内で音楽が絶え間なく流れ、それにあわせて攻撃を繰り返していた。
イスラフェルに対する撃破方法はエヴァ二体のシンクロ同時攻撃、これしかないのだ。
拳はイスラフェルの顎にジャストミートした。
一瞬隙ができたのを二人は見逃さず、同時に踵落としが決まった。
それがチャンスだった!!
作戦通りにイスラフェルを一体に戻すことができたのだ!
一体に戻ったイスラフェルを確認するとともにエヴァは空に舞った。
跳びあがったエヴァが太陽を背にして背にしてそれがシルエットになる。
勝利が見えてきた!
シンジとアスカもがそう思った。

しかし、これを見ていたショウは嫌な予感を感じていた。
…?何故だ?これといって悪い所はないが、嫌な予感がするのは何故だ?
勝利を目前にしておきながら嫌な感じが頭から拭いきれない。
何かがおかしい………。
シンジもアスカのコンビネーションも悪くないし、呼吸が乱れている様子もない。
エヴァに問題がないならば、答えは唯一つ。
イスラフェルのほうだ。
「…アスカとシンジは大丈夫だとすれば…イスラフェルしかいない…。」
ショウはすぐさま使徒のほうに目を移すとそこには・・・。
「……!!まずい!」
イスラフェルは既に気づいていたのだ。
アスカとシンジがどう攻撃を仕掛けてくるかを先読みしている!
イスラフェルはやられた振りを見せて、油断させていたのだ。
踵落としを喰らった後にはもう既に次への攻撃に備えていた。
イスラフェルの胸には圧縮された高エネルギーが収束しているのをショウは辛うじて確認できた。
上へと跳んだアスカとシンジには死角となって見えていない!
「ここのままでは諸にくらってしまう!あの使徒、侮れない!」
しかし、時既に遅し。
イスラフェルはもう既に攻撃態勢に入っていた。
イスラフェルは自分に向かってくるエヴァに対して光線を放ったのだ!
「――――――…っ!!」

シンジもショウと同じくして嫌な予感を察していた。
――?おかしい。さっきから自分の胸にあるこのぼやけた様な感じは一体?何かが嫌な予感がする。
しかし、このままでリズムを狂わせてしまったらせっかくの流れを乱してしまう恐れもあって、攻撃をやめる決断ができなかった。
さっきからもぞもぞしているイスラフェルに何かしら嫌な予感がこっちに伝わっていた。
屈んでいる様子に嫌な予感を感じていた。
緊張とともにシンジの鼓動がドッドッ…と強く打っている。
ここで攻撃を止める訳にはいかない。
シンジはアスカと呼吸を合わせて、コアにむけてフロントキックの態勢に入った。
地球の引力の法則に従い、降下とともに勢いを増していったそれはイスラフェルへと向かっていった。
しかし、それがまずかった。
空中では身動きが取れないのを逆手に利用して、イスラフェルが光線をこちらに放ったのだ!
「えっ!?」
「くっ!!アスカっ!!」
シンジは不安定な体勢でアスカの搭乗するエヴァ弐号機を手で咄嗟に突き放した。
それが幸いして、アスカは攻撃を免れたが・・・。

ドオオオオオオオオオオオオオン!!

轟音と閃光が辺りを揺るがせた。
「…シンジ?シンジーーーーーーーーーーーっ!!」
アスカはシンジに助けられ、シンジがやられてしまったことに叫んだ。
アスカを救うことをできた。
しかし、シンジは身代わりにイスラフェルからに攻撃をまともに受けてしまった。
爆炎が青い空を覆った。
晴れると攻撃を受けたエヴァ初号機が吹き飛んでいる様が見えた。
原形は留めてはいるもののかなりダメージがひどく、所々大破していた。

―発令所―
「シンジ君!!」
モニターにはイスラフェルの攻撃を初号機が受けてしまう様子がリアルタイムで送られていた。
それを見たミサトが悲鳴にも似た声で叫んだ。
本来なら作戦通りにシンジとアスカのツープラトンキックでコアをめがけて破壊して殲滅するはずだった。
しかし、それが裏目に出てしまい、空中では身動きが取れない状態を狙ってイスラフェルが攻撃を仕掛けてきたのだ。
次に移ったのは爆炎を突き抜けて吹き飛んでいるエヴァ初号機の姿だった
この様子に発令所にいたスタッフ全員が言葉を失った。
「シンジ君…。シンジ君!!」
「初号機パイロット生存!脈あり!パルスは若干乱れていますが、辛うじて生きています!」
伊吹マヤの言葉にミサトとリツコが現実に戻した。
「間違いないの!?」
「はい!エヴァ初号機の周りに微弱ながらATフィールドの反応が残っています!済んでのところで防いだのだと思われます!」
「なんて子なの…。あれを察していたというの?」
リツコはシンジの攻撃予測の能力の高さに改めて感心していた。
しかし、諸に受けてしまったのだ。
かなりのダメージを受けているはずだ。
「直に内臓電源の出力が切れてしまうわ!撤退させないとアスカとシンジ君は今度こそ危ないわ!!」
リツコが叫んだ。
モニターに移っているのは地に倒れて動かないエヴァ初号機、電源が切れてしまい糸が切れた人形のようにだらりとビルに凭れているエヴァ弐号機の様子が移っていた。
絶体絶命。
まさにふさわしい言葉だった。
「まだ、終わらないわ。」
リツコの考えを読んだようにミサトが言った。
「どういうこと?」
「レイがいるわ。そして………ノーバディも。」
「!?……彼が出てきてくれるとも限らないわ。」
「わからないわよ。………碇指令!」
モニターから碇指令の居る席に目を移すミサトは言った。
「……何だ?」
「零号機パイロットの出撃の命令の許可を願います!」
「貴様は…言っていることがわかっているのか?私の記憶に間違いがなければ、貴様は三尉のはずだが?」
「そんな悠長なことを言っている場合ではありません!許可を!」
もう一度、発言するミサトにゲンドウは黙した。
暫くの間、発令所全体に沈黙した。
それを破るようにメインモニターの隅っこに綾波の映像が流れてきた。
「碇指令。私からもお願いします。出撃許可を。」
これに発令所に居た者が驚きと戸惑いがみてとれた。
スタンバイした綾波自ら、出撃させて欲しいと願ってきたのだ。
決して誰とも話さなかった彼女が強い意志を露わにしたのだ。
これにゲンドウと冬月、リツコの瞳に驚きの色を隠せなかった。
「……っ!ならん!レイ!お前の機体はまだ実戦に耐えられん!出撃は許可できん!」
「パイロットを救出する為に出撃したいのです!」
綾波も頑なにしてゲンドウに口答えをした。
これにゲンドウはめまいがするような感覚に襲われた。
自分に従順なはずの彼女が言い返してきたことに言いようのないショックを受けていた。
「っ…!ならん…!」
「碇指令…。」
綾波は懇願するようにして見つめるがゲンドウは否定するようにそっぽを向いたままだった。
その時だった。
ショウからの通信が繋がり、声が発令所全体に響き渡る。
「レイ…。聞こえるか?」
「…!…ま……シャドウ?」
危うく彼の名を呼びそうになったところを辛うじて抑えてもう一つの名で答えた。
「そうだ。シャドウだ。…レイ、お前は何を恐れている?」
「……………。」
「彼らを救うことの何が悪い?…それともお前は反逆だとみなされるのが怖いのか?」
「!!」
「何も恐れる必要はないんだ。どうせなら何もやらない後悔より、何かをやってからの後悔のほうがいいと思わないか?」
「……………。」
「時にはルールを破る必要がある。正しい行いのためにはな。」
それからは、通信がブツッと切れてしまい、暫くの間沈黙した。
やがて、綾波は決意するように口を開いた。
「エヴァ零号機、出撃します!」
「ダメだ!レイ!」
ゲンドウが止めるようにして叫んだが、無視して出撃した。

エヴァ零号機がエレベータより地上に現れた。
イスラフェルも突然の登場に驚き戸惑うが、相手が一体であると知ったのか警戒は薄く襲い掛かってこなかった。
綾波は相手の出方を伺って、反撃のチャンスを待った。
そして、もう一体のエヴァがイスラフェルの後ろより現れた。
それはエヴァシャドウだった。
「レイ、通信は繋がっているな?」
「ええ。」
「俺が囮役をやる。お前はシンジとアスカのエヴァを専用のエレベーターに運んでやってくれるか。」
「わかったわ。」
ショウと綾波の初コンビネーションがここに始まった。
「スタート!」
綾波はまずシンジの搭乗するエヴァ初号機へと向かった。
シンジはかなりのダメージを受けている。
パイロットの命を優先とした上での判断だ。
ショウはインダクションレバーを引き、エヴァシャドウのウェポンラックからデザートイーグル50AEを取り出し、イスラフェルに対し攻撃を仕掛けた。
流石に攻撃をされてはイスラフェルもエヴァの救助を妨害しようにも手出しができない。
これは時間稼ぎなのだ。
ショウはこう考えていた。
綾波がシンジとアスカの乗るエヴァを救助、自分はイスラフェルを牽制する。
そして、綾波とともにシンクロ攻撃で撃破するつもりだ。
シンプルな作戦ではあるが、イスラフェルに対する攻略方法はこれしかないのだ。
ショウが銃でイスラフェルを牽制している間に綾波の乗るエヴァ零号機は町から少し出たところの山地に倒れているエヴァ初号機を担いでいた。
そして、最寄りのエヴァ専用エレベータケージに到着した。
「こちら、エヴァ零号機。エレベータゲート開いてください。」
―――了解した!エレベーター・F-5オープン!
返ってきた返事とともに道路からゲートが開き、そこからエヴァのリフトが上がってくる。
それに丁寧に扱うようにエヴァ初号機をリフトにセットする。
「初号機下ろしてください。」
―――了解!エレベーター、ダウン!
初号機はリフトに乗ってゆっくりと降りていった。
これでシンジは助かるだろう。
綾波はエヴァ初号機が下ろされるのを確認するとアスカの乗るエヴァ弐号機を回収しにむかった。
ショウはイスラフェル相手に何とか辛うじてではあるが、牽制していた。
「囮役も楽じゃないな。…!ちっ、弾切れか!」
ショウはデザートイーグルの弾が切れたことに舌打ちした。
弾切れとなったデザートイーグル50AEをウェポンラックに戻した。
肝心の武器がないとなると素手で戦うかもしくは先ほどのシンジとアスカの戦闘で放り出したロッドとパレットライフルを拾って戦うしかない。
綾波は今、アスカの救助に向かったばかりでシンクロ攻撃は不可能。
「となれば…。特攻しかないか。」
インダクションレバーを引いて、エヴァシャドウをイスラフェルに向かって疾走する。
これに驚いたイスラフェルは光線をこちらに向けて放った。
「それはもう利かん。」
余裕を込めた口調で言い切った。
エヴァシャドウは片手を前に突き出して、ATフィールドを展開した。
光線はそれに当たり爆発を起こし黒煙に覆われて視界が零になる。
それにも構わずシャドウは前へと駆けた。
黒煙を突き抜けてイスラフェルの目の前に突然と現れる。
これにイスラフェルは驚き戸惑った。
シャドウは攻撃を仕掛けることなくイスラフェルの肩を踏み台にし、飛び越えた。
飛び越えた先には先ほどアスカとシンジの投げた槍があった。
それを引き抜いてイスラフェルに突きつける。
イスラフェルもこのままではまずいと思ったのか二対に分裂した。
これを見越したショウはイスラフェル甲・乙の足元に向けて二つの槍を放った。
放たれた槍はイスラフェルの足に突き刺さり貫いた。
貫かれた先には地面に深く突き刺さっていた。
「これでは動けまい。」
これで身動きを封じた。
暫くの時間稼ぎになるだろう。
「レイ!そっちはもう終わったのか!?」
「ええ。」
綾波も先ほどアスカのエヴァを回収し、エレベーターに乗せたところだった。
ここからが本番であると綾波とショウは気を引き締めていった。
しかし、イスラフェルもこのままでは終われないといわんばかりに反撃を仕掛けてきた。
イスラフェルから光線が放たれたのだ。
それを察したショウはATフィールドを展開し、身を守る。
「危なかったな。レイ、大丈夫か?」
「ええ。」
ショウはレイを気にかける。
綾波が負傷していないことに少し安心した。
その時、後ろから迫り来る何かを感じたショウは咄嗟にエヴァシャドウを動かし、エヴァ零号機を抱えてその場から離脱した。
さっきまで居た場所にはエヴァシャドウが放った槍が地面に突き刺さっていた。
ショウは投げられたほうを見据えるとそこには槍がなくなって身動きが取れるようになったイスラフェルが居た。
先ほど貫いたところにはショウの投げた槍の貫かれた跡が残っていたが、それも見る見るうちに治っていった。
「自ら抜いたのか………しかし、なんて再生力だ。」
あの使徒は学習しているのだ。
どのように攻めるか、防ぐかを考えているのだ。
厄介な相手ではあるが、落ち着いて考えれば恐れることはないはずだ。
「レイ。」
「?」
「ここからは俺と呼吸を合わせて戦うんだ。いいか?」
「ええ。」
「よし。Music Startだ!」
合図とともにエヴァ零号機とエヴァシャドウのコックピット内に音楽が流れる。
エヴァ零号機の背後に伸びたアンビリカル・ケーブルをパージした。
これにより、エヴァ零号機は内臓電源に切り替わる。
音楽にあわせてショウと綾波がイスラフェルに向かっていく。

     I want you. No one can stop may passion. Blinded passion……

イスラフェルも一体では不利だと思ってか二体に分裂した。
これでフィフティーフィフティーだ。
「まずは使徒の背後に飛び移って後ろ回し蹴りだ!」
「ええ。」

   あなたの綺麗な瞳は今は何を映してるの?
    誰かを映すくらいなら私だけを見ていてほしい
     誰よりも輝いてた理屈抜きにそれを感じた
      相手がいるのを知りながらあなたのもとに近付いた……

エヴァシャドウとエヴァ零号機はイスラフェル甲・乙の嘗底をかわして、使徒の上を飛び越えて振り向きざまに後ろ回し蹴りを入れた。

    心の中に灯る炎が勢いを増していく…

次に綾波は武器ビルよりパレットライフルを取り出し、ショウは足元に捨てられた二つのパレットライフルを足で拾い上げて構えた。

   つないだ手と手を離さぬように握り締め
    溶かして壊して溺れていく甘い蜜の中で……

背後からの攻撃にイスラフェルは一瞬の隙を見せてしまい、それを見逃さなかったショウと綾波はすぐさま一斉に撃った。
ショウと綾波から放たれた銃弾の雨にイスラフェルは成す術もなく攻撃を受ける。

   どうか夢なら覚めないで夜明けが来てもこのままで
    あなたといるこの香り 永遠に感じていたい
     どうか夢なら覚めないで夜明けが来てもこのままで
      あなたといるこの香り 永遠に感じていたい……

やがて、パレットライフルが弾切れとなり、イスラフェルからの光線が放たれた。
「俺の後ろに回れ!」
それを察したショウはATフィールドを展開し、綾波の乗るエヴァ零号機を護るように庇う。

   どうか夢なら覚めないで夜明けが来てもこのままで
    あなたといるこの香り 永遠に感じていたい……

ATフィールドによって遮られた光線は爆発した。
それに伴い、黒煙が起こって視界が遮られる。

   あなたの姿まぶたに焼き付け永久に共に……

それを逆手に利用して、黒煙を突き抜けてエヴァ零号機とエヴァシャドウが拳を天に突き出す。
怯んだ隙を見逃さない二人はさらに攻撃を繰り返す。
がら空きになった胸を肘打ち、裏拳、飛び膝蹴りと連続攻撃を仕掛けた。

   激しく揺らして他の誰も邪魔させない
    優しく包んで夢に眠る幼き少女のように……

そして、最後にハイキックを蹴りだす。
これにイスラフェルは遠くに吹き飛んでいく。
次の瞬間、イスラフェルの甲と乙が再び融合し、コアが重なる。
「チャンスだ!いくよ!」
「ええ…!」
エヴァシャドウと零号機は同時に空中へと空高く舞っていった。

   あなたの綺麗な瞳は今何を映しているの?
    誰かを映すくらいなら私だけを見ていてほしい
     あなたがいない世界なんて今は考えられなくて
      あいつとのことは忘れて私の側に来てほしい……

イスラフェルもこのチャンスを待ってたといわんばかりに屈みながら胸にエネルギーを収束させていく。
これに綾波は一瞬動揺するが次のショウの言葉に冷静さを保つ。
「レイ。俺を信じろ。」
揺るがない瞳の奥に力強いものを感じた綾波は頷いた。

   つないだ体を離さないで抱きしめて
    溶かして壊して溺れていくいつまでも……

ショウはイスラフェルからこれがくる事を承知の上で実行したのだ。
何の考えなしで身動きの取れない空中に飛ぶはずがなかった。
ショウには考えがあった。
やがて、頂点に達し、ツープラトンキックの体勢に入る。
地球の引力の法則に従い、勢いを増していったそれはイスラフェル目掛けて急降下していく。
イスラフェルは収束したエネルギーを光線に換えて、それを放った。
光速で向かってくるそれにショウと綾波は呼吸を乱すことさえも怯えむことなく、そのままの態勢でむかっていった。
次第にそれは距離は縮まっていった。
距離が零になろうした時それは起こった。
「「ATフィールド最大出力!!」」
同時にエヴァ零号機とエヴァシャドウの足元にATフィールドが展開された。
それにぶつかると同時に爆ぜた。
しかし、勢いは完全に殺すことはできず、そのままイスラフェルに急降下していった。
エヴァ零号機とエヴァシャドウは爆炎を突き抜けた。

   激しく揺らして他の誰にも邪魔させない
    優しく包んで夢に眠る幼き少女のように……

イスラフェルもエネルギーを放ったためか身動きができず、ただじっとしてるしかできなかった。
やがて、エヴァ二体の足がコアに到達し、勢いあまって後ろへと向かっていった。
コアも耐え切れず、次第に罅が入っていった。
そして、爆ぜた。

ズガアアアアアアアアアアン!!

爆ぜる瞬間にエヴァシャドウはエヴァ零号機をお姫様抱っこ状態で抱えながら、爆発に巻き込まれる直前に離脱した。
そして、爆発した地点より離れた場所に着地した。

   I want you. No one can stop my passion. Blinded passion.

同じくして、音楽も終わりを迎えた。
イスラフェルに綾波とショウは勝利した。

―NERV発令所―
これまでの戦いを見ていたNERV職員は言葉を失っていた。
あまりにも洗練された、流れるような華麗なる動きでイスラフェルを倒したのだ。
例えるなら水。
水はどんなに叩いても切ってもそれは形をかえない。
水と水は混じる。
互いを拒絶することなく、ただ受け入れるのみ。
ショウと綾波の二つの心が一つに重なるように。
まさに二人には相応しいものだった。
しかも、一度もシンクロ訓練を受けても居ないはずのノーバディ(ショウ)と綾波の呼吸がうまく合わさっていることに驚きを感じていた。
もちろん、ゲンドウと冬月、リツコも驚きを隠せなかった。
「………ノーバディ。一体…何者だ。――何故、ああも呼吸を合わせられることができるのだ?」
無意識に呟いたゲンドウの言葉に誰も答える者はいなかった。
使徒に勝利したのに素直に喜ぶことができない各々だった。
リツコは忌々しそうに爪を齧りながら顔を歪めていた。

ショウと綾波は通信で会話をしていた。
コックピット内にある通信モニターに互いの顔が映っていた。
ショウは今回も単眼のバイザーを装着していた。
「うまく倒すことができたな。」
「…ええ。」
ショウと綾波のお互いの絶妙なコンビネーションで使徒を倒すことができたことに喜びを感じていた。
イスラフェルは砕け散り、エヴァシャドウは未だエヴァ零号機を抱えていた。
お互いは心を交わすように見つめ続けていた。
「俺ももう行かなければならない。」
「……もう行ってしまうの?」
「悪いな。NERVの奴からの面倒事に巻き込まれる訳にもいかないしな。俺は退散するよ。」
「……そう。」
綾波は残念そうな声で呟いた。
「まぁ、そんな残念そうな顔なんかするなって。仕方ないさ。」
残念そうに少し俯く綾波に明るく宥める。
「またな。」
「ええ。」
エヴァシャドウはゆっくりとエヴァ零号機を下ろして、ビルにもたれるようにした。
そして、エヴァシャドウは後ろを振り向き、歩むとともに霧のように霞んで消えた。
それを綾波は消える瞬間まで見送った。




                            ……………To be continued