第拾七話
遺恨


「幸せは〜、歩いて来ない、だぁから歩いて行くんだよぉ〜」

プレセベ星団の、とある惑星では、特殊戦艦に4本脚を生やした形をした戦艦が、大地を踏みしめて歩いていた。
歩いていると言うより、跳んでいると言った移動方法である。

『こら〜っ!マリ!乱暴に扱うな!まだ試作中なんだぞ!』
「解ってます。解ってますって。プラグスーツも試作だから胸がきついし」

『それは、すまないと思っている』
「良いって良いって、やっと乗せてくれたからね」

NERVから送られたエヴァの祖体に、この星では地上戦闘用の装備を試作していた。
パイロットは、真希波・マリ・イラストリアス。エヴァ伍号機の専属パイロットだ。
プレセベ星団内で、何故こんな地球の、しかもかなり古い歌を知っているのか、甚だ疑問であるが。

地上戦闘用と言っても、そもそもが巨大な戦艦である。
人型には程遠い、山椒魚を思わせる概観であった。
要は、キャタピラ付きの四本脚が戦艦に着いている状態で、平地であればキャタピラによる移動、凹凸が有る地形では、跳ぶようにして移動出来ると言うものだ。

巨大な戦艦を支えているため、着地した際には、かなり地面に減り込む形となる。
ただ、水の無い所にも着陸出来るようになった事は、一つの成果であろう。
また、地上を移動出来ると言う事は、地上の調査に一々降りる必要がないと言うことと、着陸した位置から離れた場所にも、態々降りて移動する必要がなくなると言うことだ。

『な、なんだ!お前は!』
『エヴァ伍号機は、現時点を以って私が徴収します。私の名前は葛城ミサト。エヴァ伍号機のパイロットは直ちに帰還し、私を乗せて地球へ行くのよ!』

「はぁ?何を言ってるのかにゃ?」

『いいから私の命令を聞きなさい!』

「意味が全く解らないにゃ」

ミサトは、プレセベ星団内で伍号機が配置された事を聞きつけ、その演習中に奪取することを計画したのだ。
何を考えているのか、そのままエヴァで地球へ行くつもりだったらしい。
そんな状態で地球へ行って何をしようとしているのか、全く思考内容が不明なミサトであった。

しかし、被害を考えない白兵戦に於いてのみ、ミサトは優秀であった。
敵も味方も全て殲滅と言う作戦なら、間違いなくミサトがトップを飾るであろう。
従って、後先を考えない単独での侵入と、見える者は全て敵と言う状況は、ミサトの最も得意とする状況であった。

『ま、マリ!逃げろ!、こいつは頭がいかれている!NNN爆弾を使うつもりだ!』

「NNNって、この星が無くなっちゃうよ?何処に逃げろって?」

『地球にだ!NERVを頼れ!』
『ま、待ちなさい!地球に行くなら私を乗せて行きなさい!』

マリの通信機には、警報と銃弾の音が響いている。
そして遠く離れた仮設発令所の方で、天まで届く火柱が上がった。

「まじ?」

マリが慌てて最大ジャンプを行い、その勢いで飛行に入った。
四本脚の跳躍をカタパルト代わりに使ったのだ。
その直後、地面が大きく揺れ、仮説発令所の方がら、まるで津波のように地面が畝って来ていた。

「にゃ、にゃんだ?本気でNNNを使うつもり?」

ここは、演習用の星であり、大きさは月の3倍程度の小さな惑星であった。
それは、重力の関係で試験のために選ばれたに過ぎない。
従って、生物は存在しないが、それでも惑星一つを破壊するとなると、回りの惑星への影響が大きい。

ミサトは、それを脅迫材料とし、エヴァをジャックしようと考えていたようだが、失敗した時には自身も巻き込まれる事を考えなかったのだろうか?
発令所が、プレセベ星団の司令部へ逃げろと言わなかったのには理由がある。

プレセベ星団に於いてエヴァなど辺境の惑星、それも銀河連邦での新参者が開発した戦力であり、価値を見出していないと言うのが大きい。
それを、研究用にと請け負ったのが、先にマリに命令していた士官であり、彼もまたプレセベ星団内では異端であったのだ。
マリについても、極秘に適正検査を実施し、やっと見つけた適格者であるため、士官学校も出ていない。

つまり、プレセベ星団司令部に救助を求めた場合、エヴァは没収、マリは良くて懲戒免職、下手をすると資格もなく特殊戦艦を操舵したとして罰せられる可能性もあったのだ。
プレセベ星団には、地球で言う懲役に準ずるものとして、奴隷制度もあった。
自分が見つけて、本人も乗り気だったとは言え、エヴァに乗らなければそんなことにはならない。

そのため、「逃げろ」と言う言葉となったのである。
ミサトに対峙した発令所の人間は、その狂気が本物であることを感じとっていた。
本来なら笑って済ませるであろうNNN爆弾についても、こっそり検索した端末から、盗難された事実も出てきていた。

「う〜、やばいにゃぁ。地球で受け入れて貰えるかにゃぁ」

マリは最大船速で大気圏を脱出すると、宇宙航路から一番効率の良いワープ経路を計算させていた。

「うひゃぁ〜2週間?食料持つかなぁ」

エヴァだけの移動であれば、かなり速い。
それでも41光年は、一気に移動出来る距離ではなかった。
マリは、飛び出して来た惑星に紅い亀裂が入るのを見ると、ワープ航法の指示を急いでコンソールに打ち込んだ。



「…冬月、これを見てみろ」
「ん?なんだ?」

突然ゲンドウから声を掛けられ、珍しくゲンドウが自分のコンソールを指差している。
この男が、自分のコンソールを見せる事など全くと言って良いほどない。
珍しい事も有るものだと、冬月はゲンドウのコンソールを覗き込み、眉間に皺を寄せる事となった。

「葛城君が凶悪指名手配?」
「…あぁ。惑星を一つ消滅させたらしいな」

「しかし、この報告書では、生きている方が不思議だぞ?」
「…だが、実行犯である事は揺ぎ無い。ならば脱出手段を持っていたと考えるのも当然だ」

「確かにな。それより、そこから伍号機が離脱したとあるな」
「…あぁタイムレコーダでは、地球に向かう指示が出ていたと言うことだ」

「それでプレセベ星団から引渡し要請か?」
「…あぁ」

「そうか、面倒だな」
「…冬月がそう言うなら、こちらで保護することにしよう」

「な、何を言っているのだ?碇」
「…引渡しが面倒なのでしょう?先生」

「この狸が」
「…これで戦力の増強にもなる」

「今更ながら、本当に何でも利用する奴だな」
「…立ってるものは親でも使えと言います」

「それで私をいつも立たせているのかね」
「…問題ない」

全く、この男はと冬月は思ったが、それ以降は口を噤んだ。
いくら言っても堪えないことが解っているからだ。

「予定では、2週間後か」
「…あぁ、通達を頼む」

これだけで通じるのだから阿吽の呼吸と言うところだろうが、見ていてむさ苦しいことこの上なかった。



シンジが、朝目覚めると、シンジの腕を枕に、右にはレイ、左にはマユミが寝ている。
朝のまどろみの中、シンジはこの両腕に掛かる重さと、素肌に纏わり付く体温が心地よかった。
規則的な呼吸により上下する胸が、シンジの身体に柔らかい膨らみを押し付ける。

いつもは、二人ともシンジより早く目覚めるため、今日は休日だったなとシンジは思い出す。
平日は、二人が起き出すことによりシンジが目覚める事の方が多いのだ。
シンジが束の間の幸せを感じていると、けたたましく呼び鈴が鳴らされた。<ヴぇ>
「いいよ、僕が出るから二人とも寝てて」

しつこく鳴る呼び鈴に、目を覚まされた二人は、シンジにそう言われ、シンジがベッドを出た後、抱き合って寝ている。
いつから、こんなに仲良くなったのだろう?とシンジは「ふっ」と苦笑を漏らし、ガウンを着てリビングに行き、インターフォンを押す。
セキュリティーの高いこのマンションでは、まずマンションの入り口でインターフォンを押す事になるため、カメラで相手を確認する事となるのだ。

「ま、マナ?」
「おっはよぉ〜ん。まだ寝てたかな?」

そこに映っていたのは、白い大きな帽子に白いサマードレスのマナであった。
肩や、脚を惜しげもなく出しているその姿は、高校生、いや、中学生とも見ようによっては見える。
シンジが、玄関を開け、招き居れた時には、マナに抱きつかれ口付け洗礼を受けたが、シンジもそれを受け入れて、農耕なディープキスとなっている。

「まだ、顔も洗ってないよ」
「良いの、良いの。久しぶりの休日だしね」

えへっと目尻を垂らして笑うマナに、なんか犯罪を犯しているような気分になるほど、マナは幼く見えていた。
これが、軍神と呼ばれる特殊戦艦の指揮官だとは、この姿を見たら誰も思わないだろう。

「本日、私、霧島マナはシンジ君の為に0600に起き、この服を着て参りました。どう?似合うかしら?」
そこで、勢い良くクルリと回るマナ。
シンジには、しっかりと翻したスカートの中の白い物が見えてしまっていた。

「う、うん、良く似合っているよ。ちょっと反則なくらい若く見える」
「あぁ〜っ!ひっどぉ〜ぃ」

口ではそう言っているが、シンジの腕にしがみ付いて、シンジの家のリビングへと入っていった。

「あっ!マナさんでしたか。おはぉぅござぃます」

欠伸を噛み殺しながら、マユミが挨拶をする。
マユミは、バスローブ1枚を着て置き出してきていた。
その下には、何も着ていないのだが、それはシンジも同じだ。

「すみません、チョット、シャワー浴びさせて貰いますね」
「あぁ、気にしないで」

マナは、シンジの出してくれた冷たいお茶を飲みながらパタパタと手を振る。
そこへ、レイが髪の毛がボサボサの状態で出て来た。
レイは、リビングを見回して、シンジを見つけると、「…シャワーに入る」と言って、全裸のままリビングを横切って浴室へと入って行った。

「い、いつも、あぁなの?」
「あ、綾波は低血圧みたいで、寝起きはあんな感じです」

乾いた笑いを浮かべるシンジとマナ。
だが、ここは作戦指揮官の本領発揮である。
マユミとレイがシャワーに入ったのだから、ここは暫く二人っきりと、さっとシンジの隣に座るとシンジに抱き付いた。

「ま、マナ?綾波はすぐ出てくるよ?」
「裸で?」

「ま、マユミも居るから一応バスローブぐらいは着てくると思いますけど」
「私が居るからじゃないんだな?」

「まだ寝惚けてるから、きっとマユミが着ろと言うかなって」
「成る程」

ニヤリと笑ったマナにシンジは押し倒されていた。
シンジは、相変わらずであるが、これが碇家の休日のスタンダードとなっていた。
この後は、4人で組んず解れずとなるか、そのまま3人で食事をして出掛けるとか、まぁ組んず解れずが多いのだが。

「マナさん、今日はまた珍しい格好ですね」
「いいだろ?似合わなければマユミに遣ろうと思っていたのだがな。ちょっと地球の服と言うものを買ってみた」

「はい、とっても良く似合ってますよ」
「マユミも今度一緒に買いに行くか?」

マユミの着ているのも地球の服である。
柔らかい素材のクリーム色のロングスカートに、白いブラウスと言う質素な出で立ち。
縁なしの少し大きめの眼鏡をしているマユミは、黒のストレートのロングヘアーと相まってとても物静かでお淑やかに見えた。

レイは、シンジに買ってもらったジーパンとTシャツと言うラフな格好で、これはこれでシンプル故にレイの物静かな感じを際立たせている。
シンジは、黒いハーフパンツにTシャツと言うラフな格好だ。
高層マンションの最上階であるこの部屋は、窓を開けても下の喧騒は聞こえてこず、涼しい風が入ってくる。

「どうだ?マユミ?ちょっと着てみるか?」

そう言ってマナは急に、脱ぎだす。
マユミも「はい、では、お言葉に甘えて」と言って脱ぎだす。

シンジが目の前に居るのに、平気で下着姿になるマナとマユミ。
マナの場合は、その扇情的な下着もシンジに見せたかったと言うのもあるのだろうが、マユミの場合は上官に合わせているのか、それでも顔を赤くしている。
レイは、何時もの如く我関せずと言う感じだが、シンジの横はしっかり確保して凭れ掛かっている。

4人の休日は、ここで穏やかに、または賑やかに過ぎていくことが多く、それをマナもマユミもかなり気に入っていた。
ムサシとケイタの休日は、それなりに地球の女の子を軟派して謳歌しているらしい。
アスカだけは、休日もNERVの訓練施設で、筋トレを行っている。



警報が鳴り響くNERV内。
しかし、それは第一種戦闘配置ではないため、マナは、発令所へ向かった。
発令所のメインモニタには、ゼブラ模様の球体が映し出されている。

「どうなってるの?」
「パターンはオレンジ、ATフィールドは反応無し。突然現れました」

「新種の使徒?」
「MAGIは判断を保留しています」

「警告信号は?」
「継続的に発信してますが、反応は有りません」

「目標は微速進行中、毎時2.5キロ」
「随分と悠長ね。こちらを待っているのか、それとも別ななにかを待っているのか」

マナは、胸の下で腕を組み、「う〜ん」と唸っていた。

「スクランブル発信準備。全員に発信準備状態で待機させておいて」
「イエスマナ!」

マコトも漸くこれに慣れてきたようだ。

「さてと、敵さんが微速侵攻中に解析出来るだけしておきましょうか」
「それが…」

マナの言葉にマヤが言い辛そうに言葉を濁す。

「どうした?」
「先輩が来ないと解りませんが、一部の計器の数値がおかしいんです」

「どう言うふうにだ?」
「例えば、光の反射率ですが、どちらかと言うと反射と言うより発光に近いんです」

「ふむ、興味深いな。目に見えているのが、通常の形とは言えないと言うことか」
「ただ、宇宙空間であるために、この辺りはなんとも…」

そこへリツコが発令所に入って来た。

「あら?珍しいわね。貴女が発令所に居るなんて」
「あぁ、まだATフィールドが検知されていないからな」

「それで、第一種戦闘配置じゃないのね?」
「そう言うことだ」

リツコも第一種戦闘配置でないため、それ程慌てて発令所に来なかったのだ。
ただ、メインモニタ一杯に映る球体を見て、これは使徒以外にないだろうとは思う。
しかし、計器の観測結果を見て解析するのは、リツコの仕事だ。

リツコはマヤに状況を聞きながら、キーボードを操作し、色々な視点からデータを解析する。
そのリツコも少々頭を捻っていた。

「確かに変ね」
「何がだ?」

「あそこに質量を計測出来ないのよ。なんと言うか影?のような存在ね」
「影か…」

「威嚇射撃を!」
「イエスマナ!」

マコトがマナの命令を忠実に実行した途端、警報が鳴り響く。
しかし、今の今までモニタに映っていたゼブラ模様の球体は、忽然とその姿を消した。

「パターン青!」
「何処?」

「第1021衛星!威嚇射撃を実施した衛星の直近です!」
「映して!」

「あれは、何?」

そこには、衛星が徐々に黒い影に飲み込まれていく姿が映し出されている。
衛星が、全て飲み込まれた後、そこに、ゼブラ模様の球体が再度出現した。

「厄介な。解析を急げ!」
「緊急発進しないの?」

「得体が知れなさ過ぎる。最悪、戦艦があの黒い物に取り込まれる恐れがある」
「確かにね」

何時になく、マナの顔に緊張が走っていた。
それを横目に、リツコは解析を急ぐ。



現在、使徒は静止している状態であった。
静止衛星と同じ軌道に乗っている状態と言うことである。
マナ達は、リツコの解析結果を聞くために、ブリーフィングルームに集まっていた。

「使徒の本体は、影のように見える、監視衛星を飲み込んだ黒いシミです」
「では、あのゼブラ模様のの球体は?」

「あれこそが使徒の影のようなものです」
「どうしてそんな常識では考えられない現象が起こるのですか?」

「まだ仮説の域を出ませんが、シミのように見える直径680メートル、厚さ3ナノメートルの影、その極薄の空間を内向きのATフィールドで支えている。結果として内部はディラックの海と呼ばれる虚数空間が形成されていると思われます」
「それはどういうことなんですか?」

「つまり異次元か別の宇宙かわからないけど、こちらとは別の法則の世界とつながっている可能性が高いわ」
「ブラックホールとホワイトホールのようなものか?」

「そう考えて貰って問題ないわ」
「対策は?」

最後のマナの解釈で、一同は沈黙する。
ここに集まっているのは、戦艦の艦長達と、技術部の職員達だ。
戦艦の艦長達は、特に発言していない。

マナが、スクランブルを発令しなかったのは、このためだ。
物理的な相手というより、事象を相手にするに等しい。
積乱雲に向かって攻撃するようなものだ。

「これが自然現象だったら、はっきり言ってお手上げね」
「自然現象でなければ?」

「エネルギー量の問題。使徒の持つエネルギー量がどのくらいか解らないけど、992個、現存するすべてのNN爆雷を虚数空間に放り込む。タイミングを合わせてエヴァのATフィールドで虚数回路に千分の1秒だけ干渉。その瞬間に爆発を集中させて、使徒をディラックの海ごと破壊」
「使徒が、その爆発に耐えれなければ勝ちか」

その時、館内警報が鳴り響く。マナはすかさず、インターフォンでマコトに確認した。

「何が起こった?!」
「未確認戦艦が突如現れました!使徒と交戦中です!」

「なんだと!スクランブル発信準備!監視衛星から援護しておけ!」
「「「「「イエス!マナ!」」」」」

艦長達の行動は、早い。シンジを筆頭に、艦長コートを翻し、走って部屋を出て行く。

「以後の状況を逐次四号機に!」

マナもインターフォンに向かい、そう言うと駆け出していた。



「にゃ、にゃんだぁ?」

マリは漸く最後のワープ航法から出てくると、目の前に巨大なゼブラ模様の球体が存在した。
兎に角、地球に連絡だと、通信機の周波数を合わせているところへ、異変が起きた。

「にゃにゃ、やばっ!引き寄せられてる?」

戦艦が推進方向と違う方向へと吸い寄せられるように、黒い空間へと移動させられていたのだ。
逆方向への推進力を得るための噴射を、使徒は攻撃と捉えたのかも知れない。
急激に吸い寄せられる力が強まった。

「やばす!エントリーしないと持たない!」

マリは、艦長席をスライドさせ、プラグへとエントリーした。

『こちら、銀河連邦軍地球防衛連隊特務機関NERV。貴艦の所属を連絡されたし。』
「あぁやっと繋がったにゃぁ。こちらプレセペ星団連合軍特殊戦艦研究開発所所属、真希波・マリ・イラストリアス」

「「「にゃ?」」」と発令所の殆どが頭に?マークを浮かべたが、マコトは実に忠実に職務をこなしていた。

『そちらが遭遇しているのは、敵生態です!なんとか離脱して下さい!あと少しで此方の援軍が到着します!』
「了解したにゃ!でも通常モードじゃ、やばそう」



「良いか?今回の敵は実態と呼べる物が無い。従ってATフィールドが張れるシンジ君とアスカが先に発進、その後紫電、雷電。殿を四号機が務める!」
「「「「イエス。マナ」」」」

「充分注意しろよ!スクランブル発進!」
「初号機発進します!」
「弐号機発進します!」

マナの号令に逐次発進していく。
大気圏外に出た時には、黒い影からのがれようとしている、緑の特殊戦艦が見えた。

「あれは!」



「こうなったら、奥の手、裏モード発動!ビーストモード!」

マリがプラグ内で立ち上がってそう叫ぶと、プラグ内が一気に赤く染まる。

『ちょっと!貴女!限界深度を超えてるわよ!』
「うぅ〜体中が痛い。でもそれが良い」

発令所に響くリツコの叫びと、通信から聞こえるマリの言葉に、またしても皆?マークを頭に浮かべる。

「碇、彼女は、その、所謂Mと言うやつかね」
「…先生。私にそんな事を聞かないで下さい」



「何だ?あれは?」

宇宙空間で、五号機を間近に見ている者達は、その戦艦の居様な光景に固唾を飲んでいた。
遠めに見ると針の様な物が戦艦から無数に突き出している。
実際は、直径1メートル程の原子炉の制御棒のような物が、戦艦の表面全てに飛び出しているのだ。

そして、それら一本一本から赤い煙のようなものが出ている。
まるで、中の熱を放射しているようにも見える。
そのため、黒いシミと赤い煙が拮抗している、異様な空間となっていた。

『シンジ君!』
「あれはATフィールドです。過剰に放出している!中の人が危険です!」

初号機は、編隊から離脱して一気に五号機が取り込まれそうになっている反対側へと移動する。

『どうするつもり?』
「裏から打ち抜きます!」

『いいわ!やってみて』
「イエス、マナ!」

そうシンジが応答すると、初号機が周りに蒼白い煙のような物に包まれていく。
シンジは、五号機の座標を綿密に確認し、そのすれすれを通るように調整し、一気に黒いシミに突っ込んで行った。
五号機の方から見ていたものは、不思議な光景を目にしていた。

いきなり、蒼い光が現れ、五号機に牽引策を引っ掛け、五号機を黒いシミから引っ張りだしたのだ。
それと共に、離れた位置に見えていたゼブラ模様の球体に亀裂が走り、赤い光を放って爆発した。

『ぱ、パターン青、消滅しました。』

「そう、作戦終了。引き上げるわよ」
「「「「イエス、マナ」」」」

「シンジ君?その子、引っ張って帰ってね?」
「イエス、マナ」



シンジが助けた時、マリは既に意識朦朧としており、地球に着いた時は失神していた。
エントリープラグから、救出され、担架で運ばれるマリがシンジを見て、「止めてくれ」と言った。

「君が助けてくれたんだね」
「皆でだよ」

マリは、シンジを引き寄せ抱きつく。

「君、良い匂いがする。」
「な、何するのさ?」

力尽きたのか、マリは簡単に離れ、担架に身体を預けた。

「私の故郷では、命を助けてくれた人には、全てを捧げないといけないんだ」
「いや、気にしなくて良いからね」

担架で運ばれるマリを見ながら、シンジは冷たい視線を感じていた。
振り向くと、マナとマユミ、それにレイまでが冷たい目で見ているように感じる。

「まぁ、星々の風習は大事にしないとな。シンジ君」
「そうですね。シンジさん、頑張って下さいね」

「…碇君、身体に気をつけて」
「な、何を言ってるのさ!」



「全く、科学者泣かせだわ。なんで虚数空間が裏から破られるのよ?シンジ君の存在自体が謎になってきたわ」

某執務室では、金髪の美女が一心不乱にデータを集めていた。


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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。