第弐拾壱話
NERVの行方


『ただ今留守にしております。発信音の後にメッセージをどうぞ』
公衆電話から電話を掛けている加持。

「最後の仕事か・・・まるで血の赤だな」
NERVのIDカードを見ながら加持は呟いた。



ミサトが自分の執務室に居ると黒服達がやって来た。

「拉致されたって、副司令が?」
ミサトが呟くように尋ねる。

「今より2時間前です、西の第八管区を最後に消息を絶っています」
黒服が端的に答える。

「うちの署内じゃない、貴方達、諜報部は何やってたの?」
「身内に内報及び先導した者が居ます、その人物に裏をかかれました」

「諜報2課を煙に巻けるる奴・・・まさか!!」
「加持リョウジ、この事件の首謀者と目される人物です」
(加持君が副司令を?何かあった?・・・)

「で、私の所に来た訳ね」
「ご理解が早く助かります」

「作戦課長を疑うのは同じ職場の人間として心苦しいのですが、これも仕事ですので」
「彼と私の経歴を考えれば、当然の処置でしょうね」
そう言うとミサトは机の上に拳銃とIDカードを置いた。

「ご協力感謝します。お連れしろ」

「暗いとこは、まだ苦手ね・・・嫌な事ばかり思い出す」
ミサトは独房で、座っていた。



真っ暗な空間に只ひとつ存在するパイプ椅子に冬月が縛り付けられていた。

「お久しぶりです、キール議長、全く手荒な歓迎ですな」

どこへとも無く冬月が呼びかけた次の瞬間、冬月の正面にモノリスが浮かび上がった。

「非礼を詫びる必要はない、君とゆっくり話をする為には当然の処置だ」
「相変わらずですねぇ、私の都合は関係無しですか」

「議題としている問題は急務なんでね、やむなくの処置だ」
「解ってくれたまえ」
次々とモノリスが浮かび上がりそれぞれが述べる。

「委員会ではなくゼーレのお出ましとは・・・」
冬月も内心、驚いていた。

「我々は新たな神を作るつもりはないのだ」
「御協力願いますよ。冬月先生」

「先生か・・・」
冬月にはその敬称が、昔を思い出す切欠となった。
そう、京都で助教授を行っていて初めて碇ユイに逢った頃の事を冬月は思い出していた。

冬月が物思いに耽っているとモノリスから声がした。

「SCSの強さ、あれは何だね?」
「さぁ、私にもSCSの事は解りかねますが」

「使徒はエヴァでしか倒せない、しかしSCSは通常兵器で倒している」
「彼らは何者なのかね?」
「君達NERVは何度か彼らと会見しているらしいではないか」
モノリスが冬月に次々と質問を浴びせかける。

「確かに何度か会見しておりますが、それは使徒戦での指揮権についてや、SCSの使用した武器についての情報公開を求めてです」
冬月は白を切った。

「それで何か解ったのかね?」
「いえ、国連に報告されている以上の情報は得られませんでした」

「彼らの本拠地に出向いたのではないのかね?」
「いえ、洋上に浮かぶ船に案内されました」

「そちらについては我々も情報をなかなか掴めない、その事についての難易度は尋常では無いことは認めよう」

「しかし、君達は一体何を考えている?」
「特に六分儀ゲンドウ、信用にたる人物かな?」

その言葉を聞いた冬月は先程、思い出していて京都大学時代の事を再び思い出していた。
そう、六分儀ゲンドウに初めて会った頃の事を。

(そうだ・・・彼の第一印象は嫌な男だった。そしてあの時にはまだ季節、秋があったな)



「さて、行きますか」
加持は呟いた。

プシュッ

扉が開く。

「君か」
椅子に縛り付けられている冬月が呟く。

「ご無沙汰です。外の見張りには暫く眠ってもらいました」
「この行動は君の命取りになるぞ」
「真実に近づきたいだけです。僕の中のね」
そう言って加持は冬月を連れ出した。

「これ以上、何の真実を求めるつもりかね?」
冬月が加持に尋ねたが加持は無言だった。



「ご協力ありがとうございました」
「もういいの?」
ミサトが気怠そうに言う。

「はい、問題は解決致しました」
「そう、彼は?」

「存じません」
黒服は事務的に答えた。


「ただいまぁ」
マンションに戻ったミサトは加持の安否を気遣いテーブルに突っ伏している。

留守電に気付くミサト。

「葛城、俺だ、多分この話を聞いている時は君に多大な迷惑を掛けた後だと思う。すまない。りっちゃんにもすまないと謝っておいてくれ。後、迷惑ついでに俺の育てていた花がある、俺の代りに水をやってくれると嬉しい。場所はシンジ君が知っている。葛城、俺の事は心配する必要はない。迷わず進んでくれ。もし、もう一度逢える事があったら8年前に言えなかった言葉を言うよ、じゃぁ」

『午後零時2分です』
留守番電話の無機質な音声が流れる。

「あんの馬鹿っ!」
ミサトは電話機に当っていた。

「今更、何やってんのよ、馬鹿!」

ミサトは加持が死んだかも知れないと言う嫌な予感に身を震わせるのだった。



司令室でゲンドウは苛ついていた。

ゲンドウは零号機に魂が無い事は知らない。
故に、レイをサルベージするとフィフスが乗れなくなると思っているのだ。

しかし、ゼーレから送り込まれたフィフスのシンクロテストは起動する事を証明してしまったのだ。
従ってゲンドウの頭の中ではレイのサルベージが簡単には行えない事となってしまった。
「・・・くっゼーレめ」
ゲンドウは歯噛みした。


ゲンドウは独りセントラルドグマへ降りた。
参号機のコアや、ボロボロの素体は途中に捨てられている。

人工進化研究所第三分室。
そう書かれた扉の奥はゲンドウの聖地であった。

かつてはレイが育ち、そしてその奥にはダミープラグ開発のための装置がある。
そして、周りの水槽には今は何も入っていないが、かつてはレイの容姿をした者が数十体も浮かんで居たのだ。

今ではその欠片も無く、ただLCLが満たされているだけのプラント。

そして、大事に保存されている破壊されたコア。
それは初号機のコアだった。

人の身体程もある紅い玉。
しかし、今はその色もくすんでいるように見える。
1/3程が欠け、所々に罅まで入っている。

ゲンドウはそのコアを抱きしめ、そして撫でていた。
「・・・ユイ・・・」

暫くしてコアから身体を話すゲンドウ。

「・・・残された手段は少ない」
「・・・確証もない」
「・・・しかし、最後の時に必ず奴らは顔を出す」
「・・・それこそが証」
「・・・その時には・・・」

ゲンドウは何やら不穏な事を呟きながら、自らの右手を見ていた。
そこにあるのは、ゲンドウの右手と融合しているアダムの抜け殻。

しかし、生きているようにギョロッと眼を動かした。
その動きを見てゲンドウはニヤリと口を緩めていた。



その頃、冬月達は、計画を練っていた。

「フィフスが来た事で零号機のサルベージは実質不可能になりました」
「何故かね?」
リツコの説明に冬月が疑問を持つ。

元々魂のない零号機、そのサルベージはポーズでしかない。
フィフスが来たからと言って、その作業に支障があるとは思えなかったのだ。

「司令は、零号機に魂があるからフィフスが取り込まれずシンクロできると考えています」
「成る程、六分儀自信がサルベージが行えなくなったと思っているわけか」

「はい、私がそう報告したところ、否定はありませんでした」
「それは、有る意味好都合だったな」
冬月は、フィフスが来た事によって思わぬ産物があったと顔を綻ばせた。

「ゼーレがNERVとSCSが癒着しているのではないかと疑っていた」
「それは、先の誘拐時に?」
マコトが冬月の言葉に尋ねた。

「そうだ、ゼーレはNERVも六分儀も信用しておらん、フィフスは加持君に代わる鈴だろう」
「そう、そう言う事だったのね」
「私を助け出してくれたのは、加持君だ」
「!!」
冬月の言葉に相づちを打っていたミサトは少し眼を見開いた。

「加持君は今どこに?」
「それは私にも解らん」
「そうですか・・・」
ミサトは少し落胆するが、今はそう言う話では無いと構える。

「それで、職員達はどうすることに?」
「第壱拾七使徒が倒された後に、下級職員は一斉解雇、これは使徒が全て倒されたためNERVが縮小されると言う事にする」

「それで職員が納得するでしょうか?」
「前もって噂を流してもらう」
「噂ですか?」
「そう、既に使徒が17番目までで有る事は皆知っている。その後NERVがどうなるかも不安なところだろう」
「確かに色んな噂が飛び交っているのは確かですが・・・」
冬月の案に対し、マコトとシゲルが合の手を入れている。

「総務部に下級職員の次就職先を探させる。そのために希望調査でもさせれば、それで噂は本当だったとなるだろう」
「確かにそうですね、しかし、それを司令には?」

「六分儀には、何時でも辞めさせられる脅しだと伝える」
「なるほど・・・」

「中級、上級職員はどうされるんですか?」
「中級職員も同じだ、上級職員は臨機応変にだな」

「り、臨機応変にですか?」
「いきあたりばったりとも言うわね」
マヤとリツコが突っ込んだので冬月が眉間に皺を寄せた。

「中級、下級職員を対応すれば本部の人員は2割程になるだろう」
「それでも1000人ですね」

「5000人を一辺に動かすよりは何とかなる」
「確かに・・・」

「最終的に本部占拠が行われる段階では200人弱としたいと考えている」
「発令所とケージ作業員、それに諜報部ですか」
「あぁそんな物だな」

「後はSCSと相談だな」
冬月が幕を閉じた。

NERV職員達に対する骨格はできた。
後は、どう実現するかだが、詳細の計画を練るのはマコト達の仕事だろう。

ここに来て加持が居ないのは痛手だった。



NERV職員に対する骨格を持って、リツコ達はシンジ達に会いに来ていた。

冬月は、ゼーレが疑っているため、今回は残ると言って、来ているのは、リツコ、マヤ、シゲルの3人だった。

ミサトとマコトは加持がいない分、対人邀撃に向けた処置に暗躍していた。
既に眼はゼーレが画策するであろう本部占拠に向けられている。

リツコの話を聞いたシンジは、少し考えていた。
徐に口を開くと、

「では、フィフスは既に本部に居て、加持一尉は潜伏中、第壱拾七使徒殲滅後、速やかに中級、下級職員は解雇、それによりNERVは、本部占拠に来られる頃には200人弱の人員に職員を減らす。と言う事ですね?」

「えぇ、その通りよ」
リツコはそう言っただろうと言う顔で答える。

「まず、加持一尉ですね。彼は今、京都に居るようです」
「え?京都に潜伏していると言う事?」

「目的は解りません、ただ、碇家のガードが加持一尉を目撃し、それから監視を当てているようです」
「そう、全く何をしているのかしら」

「多分、僕が碇シンジ君と綾波レイさんが生きていると言ったので、確認しに行ったんでしょうね」
全く困ったもんだと言う顔してシンジが言い放った。

「フィフスの少年は、零号機にシンクロ出来たのですよね?」
「えぇ、貴方の言う通りだったわ、でもどう言う事なの?」
リツコはもやもやした物が込み上げて来そうだった。

「まず、何故シンクロできるか?これは彼も使徒の因子を植え付けられているからです。貴方達が綾波レイに施した事と粗、同じ事が彼にも行われています」
「そう、じゃぁ彼はダミープラグにも?」
「ええ、多分そうでしょう」
「もう一つ、何故、貴方達はチルドレンと名前が同じなの?しかも容姿が似かよっている。もしかして兄弟?か親戚なの?それともあの子達が貴方達のクローン?」
リツコは考えられる限りの仮定を述べる。

「名前は前にも言った通り、自分たちで付けた訳ではありません。容姿が似ているのは、元が同じだからでしょう」
「元って?」

「DNA提供者とでも言えばいいのかなぁ?」
「それって、親が同じって事?」

「綾波さんや、フィフスの少年に親は居ないでしょ?」
「貴方には居るってことね」
リツコが核心を付いて来た。

「ふっ、それはご想像にお任せします。それよりも、問題は第壱拾七使徒殲滅後、以下に速やかに5000人を200人弱まで減らすかですね。200人程度なら、何とかなりそうですしね」
「なんとかって?」

「事が終るまで、周りをベークライトで固め発令所に籠城するとかです」
「そう言う事・・・」

「後は加持一尉かな?邪魔しなければ良いんですが、邪魔するようなら殺します」
シンジが眼を細めて言った。

「邪魔って、京都に居ると何か邪魔なの?」
「彼は自分の行動で周りの人間が危険になる事を何とも思っていない。はっきり言っておきましょう。この世界の中で僕達は僕達の命を掛けても守ろうと思う人間が居ます。それが碇シンジ君であり、綾波レイさんで有ることを覚えておいてください。僕は前にお願いしましたよね?彼女達を詮索しないでくれと」

「そ、そうね確かに聞いたわ」
シンジの殺気の籠った雰囲気にリツコ達は怯え、マヤは震えてさえ居た。

「あなた方の考えは解りました。こちらも出来る限り協力しましょう。しかし加持一尉だけは、彼の行動如何によっては殺します。これだけは伝えておいて下さい」
「加持君とは私達も連絡は取れないわ」

「葛城三佐にですよ」
「あっそう言う事。解ったわ、必ず伝えます」
リツコはシンジの言いたい事が解り、了承した。



そしてシンジ達は京都に向かい、カヲルは渚カヲルに接触を行った。

ジオフロントの湖の畔に佇んで鼻歌を唄っている渚カヲル。
そこにカヲルが現れる。

「歌はいいねぇ、歌は心を潤してくれる。リリンの産み出した文化の極みだよ。そう感じないか、渚カヲル君」
鼻歌を唄っていた渚カヲルは、自分が気付かないうちに近付いた人に警戒態勢を取った。

「君は誰だい?」
「僕はカヲル、カヲル=アンガー、君は僕と同じだね」

「確かに同じ様に感じるねぇ」
「僕には君の事が大体解るけど、今君には友達が居ないみたいだねぇ」

「確かにそうだね、リリンはもっと友好的かと思っていたんだけど、ここには攻撃的なリリンばかりなようだねぇ」
「それは君がゼーレから送り込まれた事を皆知っているからさ」

「そうだったのか、でもそれは僕とは関係ないんだけどねぇ」
渚カヲルは驚いた風もなく、アルカイックスマイルも崩さないままそう答えた。

「もっとリリンと話たいんだけどねぇ」
そう言った渚カヲルのアルカイックスマイルは少し寂しそうだった。

「それで君は僕に何を話したいんだい?」
「少しは友好的なリリンを紹介しようと思ってね」
カヲルは少しニヤリとした笑いを浮かべると、アスカを呼んだ。

「彼女は僕にいきなり、鞄で攻撃してきたんだけどねぇ、彼女が友好的なのかい?」
それを聞いたカヲルは吹き出した。

「プッ・・・アハハ・・・それは洗礼と言う物だよ」
「そう言う物なのかい?」
「彼女なりの、コミュニケーションだと思えば良いと思うよ」
「そうなのかい?」
渚カヲルの視線の先にはアスカが佇んでいた。

「まぁそう言う事よ!同じパイロットだし仲良くしてあげるわ!」 アスカはカヲルに渚カヲルと話をしてくれと頼まれたのだった。

渚カヲル自体はこの時代のカヲルである。
今の時点で渚カヲルが何を思っているのか彼には手に取る様に解っていた。

渚カヲルは人との触れ合いに渇望していたのだ。
暗い研究所のプラントで一生の殆どを過ごしており、知識は与えられた物の、ここへ来て人と触れ合う事に期待を大きく膨らませていたのだった。

しかし、今回、碇シンジはいない。
彼を求めるリリンはここには存在していなかったのである。
アスカも逆行したとは言え渚カヲル自体には前回、会っていないのだ。
どう接して良いのかは解らないし、ゼーレから送られて来ているのは解っていたので、接触を避けていたのだった。

「それは嬉しいねぇ、それでどう仲良くしてくれるんだい?」
「取り敢ず、明日は、あたしの買物に付き合いなさい!こんな所にずっと居たら苔が生えちゃうわよ!」
「それは楽しそうだねぇ」
渚カヲルは本当に嬉しそうにそう言った。

「君には近いうちに会って貰いたい人物が何人か居るんだ。だけどゼーレに報告は無しだよ。勿論、僕のこともね」
「了解だよ、惣流さんを紹介して貰った事だし、それくらいは飲ませて貰うよ」

「あんたねぇ、あたしの事はアスカって呼びなさい!あんたの事はカヲルって呼ぶから!」
「了解だよ、アスカ」
「ぐっ慣れてるわね」
アスカはそのスムーズな呼び方い少し戸惑った。
思い浮かべていたのが、どもったシンジだったからなのだが。

「アスカ君?僕の事はなんて呼んでくれるのかな?」
カヲルは恐る恐る聞く。

「あんた銀カヲル!あの2人と一緒なんだから嬉しいでしょ!」
「や、やっぱりそうなのかい」
カヲルは遂に自分もそう呼ばれる時が来たのかとさめざめと涙を流した。

「あの2人って誰だい?」
「それは会ってのお楽しみよ!」
渚カヲルの問いにアスカはウィンクして答えるのだった。

「なんか急に楽しみが増えたねぇ、これは喜ぶべき事なのかい?」
「あったり前でしょ!このあたしが仲良くしてやるって言ったんだから!」

「貴方ともまた会えるのかな?」
「勿論だよ」

「なんかさっきまでの寂しさが嘘のようだねぇ」
「寂しかったのかい?」

「これがきっと寂しいって言う気持ちなんだろうと考えていたのさ」
「そしてこれが楽しい気持ちって言うのが解ったんだね?」

「本当に僕の事が何でも解るんだねぇ」
「当然でしょ!こいつは何ていったって銀カヲルなんだから!」
アスカはケタケタ笑っている。

銀カヲル決定かと、シクシクするカヲルだった。



その頃シンジ達は京都で加持の行動を探っていた。

シンジ達にしてみれば折角これで2人は京都で暮らせそうだったのに、加持が京都に行く事によりゼーレが京都に行く可能性ができてしまったのだ。

その事により2人が発見されると、今の状況では何をされるか解らない。
加持が全く2人の事とは違う用件で京都に来ているなら、それを早急に済ませ、京都から出させるつもりだった。

もし、加持がシンジの話を元に2人が京都に居るかもしれないと思い調べに来ているなら殺すつもりだった。
2人は詮索しないで欲しいと言ったのに、それを行う事はシンジに取って看過できる事ではなかった。
しかも、そのおかげで2人が危険い晒されるとあっては許せないのだった。


加持は、海岸にある墓地に居た。
一つの墓石に向かって佇む加持。
それは、ユイの墓に佇むゲンドウを彷彿とさせた。

墓石には、「加持」としか書かれていた無かった。


「墓参りですか?加持一尉」
「君達は・・・」
加持は振り返り銃を抜こうとしていた手を元に戻した。

「今回は正直やばいと思ってね、もうすぐそっちに行くかもしれないから俺の居場所を作っておいてくれって頼んでいたところさ」
「弟さんですか?」

「ああ、そうだ、セカンドインパクトの後、喰うや喰わずの生活の中、俺はこいつを助けてやれなかった」
「それが真実を知りたかった理由ですか?」

「ある時、ちょっとした切欠でセカンドインパクトが公表されている事実と違う事を知ったのさ、そしたらどうしても真実を知らずには居られなくなってね。俺達をこんなにした元凶を知りたくてしかたなかったのさ」
「京都には墓参りをするためだけに?」

「死ぬなら、こいつの傍が良いと思ってね」
「NERVはまだ貴方を必要としているようですが?」

「戻れば司令に殺されるよ、諜報部はまだ司令の手駒さ」
「成る程」
これが加持の真意かどうかはシンジには計れなかった。

「これからどうされるんですか?」
「ここに暫くいるさ、追手が来ないようなら、第三に戻るかも知れん。しかしその判断が間に合うかは解らん」

「僕は貴方を追ってゼーレが京都に入る事を看過できないんです」
「碇家があるからかい?」

「そう思って頂いて結構です」
その時、加持がハッとした顔をした。

「そうか、そう言う事か、俺としたことが迂闊だった。君達は俺を殺しに来たんだな」
「えぇそのつもりでした」

「はは、参った。これはとんでもない失敗をしてしまったな。それで俺を殺すのかい?」
「貴方のこれからの行動によります」

「しかし、俺にはもう行く所は無いんだよ」
「逃げるんですか?」

「逃げちゃ駄目かい?」
「貴方にしかできない、貴方なら出来る事があるはずです、自分で考え自分で決めてください。自分が今何をすべきか、後悔のないように」

加持は黙っていた。

「僕が昔、逃げていた時に、ある人に言われた言葉です」

「君達は戦闘機で来ているのかい?」
「えぇそうです」

「俺を第三に送ってくれるかい?」
「解りました。8年前に言えなかった言葉を言いに行くんですね」
シンジはそう言うとニッコリ微笑んだ。

「うっそんな事まで知っているのか」
加持は大粒の冷や汗を流した。



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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。