第壱話
シンジ襲来
『本日12時30分、東海地方を中心とした、関東地方全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は速やかに指定のシェルターに避難して下さい』
人一人居ない駅のホームでは無機質な機械的なアナウンスが流れている。
澄み渡った青空の上に、銀色に輝く戦闘機が一筋の白線を描いていた。
少年は、ショーウィンドウに映る自分を見ていた。
顔を見て、服のズレを直し、後ろ姿もチェックしていた。
「う〜ん。まぁまぁかな♪」
少年は黒い超ミニのチャイナスーツにサングラスを掛けている。
そう、これから現れるであろう葛城ミサトと寸分変わらぬ服装の少年、それは誰が見ても絶世の美少女だった。
そして、何故か左手には20世紀末にどこぞのクラブでボディコン姉ちゃんが持って居たような真っ白の羽扇。
更に髪も茶色っぽいショートカットで化粧までしており、まさしく碇ユイに生き写しだった。
そして少年は、あたかもそこに何かが現れる事を知っていたように一点を見つめている。
程なくアスファルトの上に、蜃気楼のように頼りなく立ち尽くす、中学校の制服らしい物を纏った蒼銀の髪に紅い瞳の少女が現れた。
少年とその少女が見つめ合っていると、突然、炸裂音が響き渡る。
しかし、少年は眼を逸らそうとはしない。
自分の全身全霊の慈しみを込めた眼でじっと見つめている。
やがて陽炎の様に消えていく少女。
それを確認した少年は、優しく微笑んでいた。
巨大な生物によって撃墜された戦闘機の残骸がシンジを襲うかに思えたとき、青いスポーツカーが悲鳴のようなブレーキ音を響かせ、少年と爆風の間にドリフトで滑り込んできた。
「お待たせっ!!」
ドアが開き、そこから見えたのは、サングラスをかけて黒いチャイナスーツを着た妙齢の女性・・・が顎を落とし固まった。
それは自分と同じ格好をしていたからか、はたまた少年と思っていたのが絶世の美少女だったからか。
「葛城さんですよね?」
少年がそう言ったが、その女性は固まったままだ。
いや、固まっていると言うより眼がパーンダウンとパーンアップを繰り返している。
周りで起る炸裂音に、漸く我を取り戻したその女性は少年に言った。
「と、兎に角乗って頂戴!」
「はい」
ニッコリと返事をすると少年はそのスポーツカーに乗り込んだ。
いきなりバックでスピンターンを決め、走り出した所に巨大生物の足が踏締める。
後数秒、彼女が固まっていたら二人とも踏み潰されていただろう。
高速でスポーツカーを走らせながら女性は少年の方をチラチラと盗み見ている。
「えぇっと葛城さんですよね?」
少年はその視線を気にせずニコニコと微笑みながら尋ねた。
「えっ?え、えぇそうよ、あ、貴方、碇シンジ君・・・よ・・ね?」
「はい、そうです宜しくお願いします」
シンジはサングラスを取りとても明るくニコニコとしながら、そう言った。
(ぐっ・・・か、可愛い・・・)
「そ、そう・・・私は葛城ミサト、ミサトでいいわ、ところで何でチャイナスーツなの?」
「えっ?似合いませんか?一張羅だったのになぁ・・・」
そう言いながらちょっとガッカリと言った顔をするシンジ。
「い、いや、似合ってるわよ・・・と、とても・・・」
「そうですか?嬉しい♪」
シンジは両手を前で組み、キャピッと言う感じで喜んだ。
(ぐっ・・・か、可愛い過ぎる・・・)
「い、いや、そうじゃなくって、あ、貴方、男の子よね?」
ミサトが冷や汗を流しながら尋ねる。
「はい♪」
それがどうかしたの?と言う感じで答えるシンジにミサトは頭痛を覚えた。
「それよりミサトさん、お揃いですね♪趣味が合いますね♪」
「そ、そうね・・・」
ニコニコと話すシンジの言葉に更に頭痛が増してくるミサトだった。
「資料と違う」だの「可愛過ぎる」だの「私はショタじゃないわ、ユリでもないのよ」だのブツブツ呟きながら一心不乱に運転していたミサトはN2爆雷に巻き込まれる事もなくカートレインに着いていた。
カートレインでもミサトは、ハンドルに突っ伏して「私のシナリオが」とか「年上の色っぽいお姉さん作戦が」とかブツブツと言っている。
シンジはそんなミサトをニコニコと見ているだけだった。
その頃、発令所では指揮権がNERVに譲渡されている所だった。
「碇君、総司令部からの通達だよ。只今より本作戦の指揮権は君に移った。お手並み拝見させてもらおう」
「我々国連軍の所有兵器が目標に対し無効であった事は認めよう。だが碇君!! 君なら勝てるのかね?」
悔しさに歯噛みする軍人達の言葉に、ゲンドウは言葉少なに告げた。
「そのためのNERVです」
右手で直したサングラスの奥の目は、不敵な自信に満ち溢れていた。
「UNもご退散か・・・どうする?碇」
ゲンドウの側近であり、補佐役の副司令、冬月コウゾウがゲンドウに耳打ちする。
「初号機を起動させる」
事も無げに言うゲンドウ。
「パイロットが居ないぞ?」
「・・・問題ない・・・たった今予備が届いた」
(息子を予備呼ばわりか・・・ユイ君が聞いたら何と言うかな・・・)
冬月は、相変わらずのゲンドウの態度に一抹の嫌悪を感じていた。
ゲンドウは、予め用意していた返答で冬月を沈黙させると、自分の端末に表示されたシンジの入館記録を見て、一人の世界に沈んでいった。
この先に起るとんでもないイレギュラー等、微塵も思い浮かべるべくもなく。
一方、なんとか気を取り直したミサトがシンジをケイジへと案内していたが、例によって迷っていた。
「おっかしいなぁ・・・確かこの道だったんだけど・・・」
もう同じ所を4回も通っているのだが、そんな事には触れずシンジはニコニコとミサトの後を歩いている。
「ごめんねぇシンちゃん、私もまだここ慣れてなくってさぁ・・・」
言訳にもならない言訳をしながらミサトは頭を掻きながら歩いている。
「いえ、お気になさらずに♪」
しかし、シンジは相変わらずニコニコしていた。
それにいたたまれなくなったミサトはリツコを呼び出す決意をしたのだった。
二人がエレベータに辿り着くと同時に、近未来的な造りに似つかわしくない到着音を響かせ、エレベーターの扉が開いた。
チンッ
エレベーターの中からハイレグの水着の上に白衣を着た金髪に黒眉の女性が出て来る。
「あ、あらリツコ・・・」
見慣れた親友を見たミサトだったが、その姿には唖然とした。
「何やってたの葛城一尉。こっちは人手もなければ、時間もないのよ」
「ゴミン」
ミサトは悪びれもせず片手を顔の前に出して言う。
リツコの顔がシンジを向く。
「この子が例の・・・男の子・・・よ・・・ね?」
驚いた顔でシンジを見るリツコ。
(レイに似ている・・・いえ、ユイさんにそっくりなのね)
驚きの表情が少し険しい物に変化した。
「そぉっ、マルドゥックの報告書によるサードチルドレン・・・」
腕を組みながらミサトが言った。
「何でミサトと同じ格好なの?」
リツコがミサトにだかシンジにだか不明な問いかけを行う。
「偶々、お揃いだったんです。姉妹みたいでしょ♪」
シンジは事も無げにニコニコと答えた。
ミサトとリツコは引き攣っている。
(資料と違うなんてレベルじゃないわよ、諜報部は何をやっていたの?・・・)
(それとも内気で内罰的な性格が女装による別人格を形成したとでも言うのかしら?・・・)
リツコはなんとか現状を自分の理解の範疇に入れようと必死だった。
「そ、そうね・・・私は技術一課E計画担当博士の赤木リツコ・・・よろしく・・・リツコと呼んでもらって良いわよ」
リツコが冷や汗を流しながらそう言うと、シンジがニッコリと微笑んで答える。
「碇シンジです。よろしくお願いします」
シンジはペコリと頭を下げた。
((か、可愛い・・・))
その笑顔に紅潮してしまい、暫く固まってしまう二人だった。
「うーん僕もリツコさんぐらい大胆な格好にした方が良かったかなぁ?」
自分の服をチェックしなが呟くシンジ。
「じゅ、充分大胆だと思うわ」
なんとかリツコは言葉を紡いだ。
衝撃醒めやらぬも、そこそこ再起動を果たしたリツコがシンジに言う。
「い、いらっしゃいシンジ君、お父さんに会わせる前に見せたい物があるの・・・」
「見せたい物ですか?」
人差し指を顎に当て、チョコンと首を傾げるシンジ。
((か、可愛い過ぎる・・・))
またしてもトリップしてしまう二人だった。
『繰り返す。総員第一種戦闘配置。対地迎撃戦用意』
「ですって」
「コレは一大事ね」
「で、初号機はどうなの?」
「B型装備のまま、現在冷却中」
「それホントに動くのぉ。まだ一度も動いた事無いんでしょ?」
「起動確率は、0.000000001%。オーナインシステムとは、よく言ったものだわ」
「それって、動かないって事?」
「あら失礼ね、0ではなくってよ」
「数字の上ではね。まぁ、どの道、『動きませんでした』では、もう済まされないわ」
シンジを視界から外し、なんとかそれらしい会話で取り繕うミサトとリツコ。
そんな二人の遣り取りを、シンジはやはりニコニコして聞いていた。
道行く途中、零号機が突き破り腕だけが露出しているのが眼に入った。
シンジはそれを見た時だけ、ほんの一瞬眉を顰めたが、それに気が付く者は居なかった。
「着いたわ。ここよ」
「真っ暗で何も見えないですよぉ?」
リツコの声と共に、シンジが反応する。
パチッ
シンジの言葉と共にケージに明かりが灯った。
急に明るくなったため、シンジは眩しそうに眼を細めている。
「カブト?」
それはカブトムシを指したのか戦国時代の兜を指したのかは不明だ。
シンジはエヴァを見ると先程と同じ様に人差し指を顎に当て、小首を傾げて呟いた。
(((((か、可愛い・・・)))))
ミサトとリツコを含め、周りに居る作業員までが固まった。
しかし、この作業員達は真っ暗な中で、いったい何をしていたのだろうか・・・
「コ、コホンッ・・・人の造り出した究極の汎用人型決戦兵器。人造人間エヴァンゲリオン。その初号機。建造は極秘裏に行われた。我々人類の最後の切り札よ」
またしても再起動をなんとか果たしたリツコが、漸くセリフを口にした。
「へぇ〜〜〜人造人間ですかぁ大きいですねぇ♪」
シンジはニコニコしている。
「久しぶりだな、シンジ」
そこへ登場したゲンドウ。
一同、上を向くも暫く沈黙が続く。
「シ、シンジは何処だ?!」
ゲンドウは思い描いていた14歳の息子が見あたらず、それでも威圧的に声を発した。
「ここ、ここ、ここだよ♪ゲンドウさん♪」
シンジはピョンピョンと跳ねながら真っ白な羽扇を振り答える。
跳ねる時には足を曲げ、羽扇を持ってない方の手でミニの裾を押さえている。
なんとなく、チアガールを彷彿とさせていた。
((ゲ、ゲンドウさん?・・・))
ミサトとリツコは呆気にとられた。
「ユ・・・ユイ・・・」
思わずゲンドウは呟いてしまった。
その言葉を聞き漏らさなかったリツコの顔は酷く歪む。
その顔を見てしまったゲンドウは焦ってシナリオ通りの言葉を発してしまった。
「フッ・・・しゅ・・出撃」
どもっている。
「出撃!?零号機は凍結中でしょ!?まさか、初号機を使うつもりっ!?」
ミサトがここぞとばかりにセリフを捲し立てた。
「他に方法はないわ」
「だってパイロットがいないわよ?」
「さっき着いたわ」
「・・・マジなの?」
周りにいた全員がシンジに視線を向ける。
「碇シンジ君。あなたが乗るのよ」
そう言ってシンジの方を向いたリツコの顔は引き攣っていた。
シンジは羽扇でパタパタ扇ぎながらニコニコしていたからだ。
「待ってください司令!綾波レイでさえエヴァとシンクロするのに七ヶ月もかかったんです!今来たばかりのシンジ君にはとても無理です!」
「座っていればいいわ。それ以上は望みません」
シンジから眼を逸らし、セリフを述べるリツコ。
客観的に見て自分が滑稽に思えてしかたなかった。
「僕が乗るの?」
シンジはまたしても例の格好、人差し指を顎に当て小首を傾げて聞いた。
在りし日のユイに瓜二つのシンジがそこにいる。
しかも、その息子は自分を恐れ、毛嫌いしているはずがそんな素振りも見せず自分に微笑んでいる。
これは、求めていたユイそのものでは無いのか?
もしかしたら人類補完計画など必要なく、自分の求めていた物はそこにあったのでは無いのか?
ゲンドウは酷く困惑し「そうだ」の一言を言えないでいた。
シンジはそれをニコニコして見ている。
「冬月っレイを起こせ!」
『使えるのかね?』
「死んでいるわけではない」
「し、司令?」
リツコがあまりにあっさりレイを呼び出した事に焦った。
『碇?・・・』
「・・・なんだ」
『レイは午前中にロストしただろ?まだ見つかっていないぞ』
「・・・ぐっ」
そうであった。
今日の午前中、レイを病院からロストしていたのだが、使徒襲来によりゲンドウ直属の諜報部でしか捜索していなかったのだ。
実はゲンドウは零号機起動試験の前日にレイを抱こうとしたのだが、拒否されたのだ。
そして零号機起動試験を失敗させ楔を打ち付け、再度、実行しようとしていた。
しかし、ゲンドウが火傷をしてまでエントリープラグのハッチを開けたのにも関わらず、レイは絶対拒絶の眼をゲンドウに向けたのだった。
そして、今日の午前中にレイは書き置きを置いて病院から消えいたのであった。
従って、ゲンドウは3人目に移行した方が良いと思い、あまり強く捜索を言い渡さなかったのである。
実際、この時間軸では未だ起っていないが、レイはダミープラグの実験等で食事に誘われた後、ゲンドウに抱かれていたのだ。
故に、レイが消えてしまった事は、ゲンドウ、冬月、リツコと捜索している諜報部しか知らない事であった。
そんな遣り取りすらもシンジはニコニコと眺めているだけだった。
「シンジ君それでいいの?何をしにここまで来たの?逃げちゃ駄目よ!シンジ君、お父さんから、何よりも自分からっ!」
状況がよく解っていないミサトがシンジに詰め寄る。
いや、セリフだけ聞いていれば、確かに進行上おかしくはないのかも知れない。
しかし、シンジはニコニコと応対しているのだ。
「え?よく解らないけど、僕、何かから逃げました?」
「そ、そうね・・・」
確かにゲンドウに向かってニコニコしている。
これで父親から逃げていると言うのも変な話だ。
ニコニコと微笑んでいるシンジにミサトは自分が何を言っているのか困惑してきた。
シンジを説得するようなセリフを言う自分が滑稽に思えてきていたのだった。
その時ケイジが轟音と共に激しく振動した。
「ちっ、奴めここに気付いたか。」
ゲンドウは舌打ちする。
鉄骨が落ちて来る。
しかし、シンジは微動だにしなかった。
落ちてくる鉄骨、拘束具を引きちぎり、それを払う初号機の右手。
「そ、そんな有り得ないわ、エントリープラグも挿入していないのに・・・」
リツコは自分の理解範疇を超えた現象に驚愕している。
「守ったと言うの?シンジ君を・・・いける」
ミサトはその内容など気にせず、戦闘が行える事を感のみで感じて歓喜していた。
「シンジ君・・・。私達はあなたを必要としているわ。今ここには、エヴァを動かせる可能性があるのは貴方しか居ないの」
やはり、一番状況を把握して、臨機応変に最善の策を取れるのはリツコしか居なかったようだ。
「乗るなら早くしろ、乗らないなら・・・」
ゲンドウは「帰れ」とは言えず言葉に詰まった。
「これに、乗れば良いんですか?」
そんなゲンドウを歯牙にもかけずシンジはニコニコしながらリツコに聞いた。
「え、えぇ乗ってくれるかしら?」
「別に構いませんよ」
シンジは事も無げにニコニコと答えた。
「え?あ、よ、よく言ってくれたわ、じゃ、じゃぁこっちに来てちょうだい」
(今までの苦労は何だったのよ・・・)
と溜息をつきながらリツコは説明を始めるためにエントリープラグへシンジを連れ立った。
あまりにあっさり引き受けるシンジに疑問を感じる暇もないまま。
それを見たミサトは発令所に駆けていく。
ゲンドウだけは、呆然と惚けていた。
発令所では起動シーケンスが進んでいる。
「エントリープラグ挿入」
「プラグ固定終了」
「第一次接触開始」
「LCL注入」
「水責め?」
シンジは妖艶な笑いを浮かべて言った。
その顔に発令所の男達はゾクッとするものを感じていた。
「大丈夫。それはLCLと言って、肺がLCLで満たされれば直接血液に酸素を取り込んでくれます。すぐに慣れるわ」
リツコの説明を聞きシンジは口の空気を吐き出し顔をしかめる。
「きぼじ悪い・・・」
「我慢なさいっ!男の子でしょっ!」
「「「「「えっえぇ〜〜〜〜っ!!」」」」」
ミサトの言葉に発令所の男達はどよめいた。
「ミサトさんセクハラです」
シンジは泣きそうな顔をして訴えた。
発令所に居る面々の白い眼がミサトに突き刺さる。
「ゴ、ゴミン」
ミサトもいたたまれなくなって思わず謝ってしまった。
「碇、これはどう言う事だ?」
モニターに映るシンジの姿を見て冬月がゲンドウを問いつめている。
LCLにユラユラと揺れているチャイナドレスの裾にほんのり顔を赤らめている冬月だ。
「・・・も、問題ない」
ゲンドウも顔を赤らめながら、いつもの言葉で答える。
「しかし、ユイ君に瓜二つだな・・・」
「・・・冬月先生、私は間違っていたのでしょうか?」
弱気になっているゲンドウ。
そんなゲンドウを見てシンジは、ほくそ笑んでいた。
そんな中、起動シーケンスは着々と進行していく。
「主電源接続」
「全回路動力伝達」
「第2次コンタクト開始」
「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス!」
「A10神経接続異常なし」
「初期コンタクト全て異常なし」
「双方向回線開きます」
そこまで言って、オペレーターの報告が途切れていることに気付いたリツコ。
「どうしたの?マヤ、続けなさい」
呆然と目の前のモニタを見つめていたショートカットで黒髪の女性は、リツコの声に我に返った。
「あっ・・・はい、あの・・・」
「?」
「シンクロ率・・・69.69%」
「そんな・・・訓練もプラグスーツもなしに、イキナリ・・・あ、有り得ないわ」
リツコはモニター計測器をみて驚く。
「すごいわ!シンクロ誤差0.3%以内よ!」
(でもシックスナイン、シックスナインって・・・)
「ハーモニクス、全て正常位置。暴走、ありません!」
マヤが報告する。
「碇・・・これはシナリオにはないぞ」
「・・・予想以上にシンジが母親を求めているだけだ」
「それであの格好なのか?」
「・・・問題ない」
ゲンドウはそれよりも自分の中の感情と計画が鬩ぎ合っていてそれどころではなかった。
「いけるわ」
リツコは、ミサトの方を振り向く。
「エヴァンゲリオン初号機!発進準備!!」
ミサトの号令が響く。
『第一ロックボルト解除!』
『解除確認!アンビリカルブリッジ移動開始!』
『第2ロックボルト解除!』
『第一拘束具を除去!』
『同じく第2拘束具を除去!』
『1番から15番までの安全装置を解除!』
『内部電源充電完了!』
『外部電源用コンセント異常なし!』
「EVA初号機射出口へ!」
ミサトの号令と共に射出口へ移動していく初号機。
『5番ゲートスタンバイ!』
「進路クリア!オールグリーン!」
「発進準備完了!」
技術部最高責任者であるリツコの最終確認が出される。
「了解!」
NERV総司令であるゲンドウの方を向き確認するミサト。
「かまいませんね?」
「・・・・・」
「碇?・・・」
返事をしないゲンドウに冬月が促す。
「・・・も、勿論だ。使徒を倒さぬ限り我々に未来は無い」
いつものポーズで言うゲンドウ。
しかし、明らかに冷や汗を流しているのが冬月には解った。
「エヴァンゲリオン初号機発進!!」
ミサトの勇ましい声と共に射出口固定台ごと地上に打ち上げられる初号機。
「キャッ!」
その凄まじいスピードによるGの為に小さく悲鳴をあげるシンジ。
「射出口の移動速度はもう少し緩やかにするべきだな」
「・・・あぁ」
冬月とゲンドウは訳の解らない事を相談していた。
激しい衝撃とともに、シンジの体は地表へと押し出される。
地上に出るエヴァンゲリオン初号機。
目前に見える使徒。その姿は地下のNERV発令所にも送られる。
「シンジ君。準備はいいわね?」
「はい♪」
ニコニコと元気よく答えるシンジに発令所の緊迫感が薄れる。
それと共に罪悪感が込み上がる、事情を知っている上層部の面々。
(何も知らなかったこんな可愛い娘を戦場に出していいのか?・・・)
それがオペレータ全員の総意であった。
因みに、可愛い娘ではなく可愛い男の子なのだが・・・
『目標は、最終防衛ラインに侵入しました』
シゲルの報告にモニターに映る第三新東京市街へと侵入する使徒の姿が見えた。
「最終安全装置、解除!エヴァンゲリオン初号機、リフト・オフ!!」
意気揚々としたミサトの号令。
しかし、その号令は発令所に居る全員に悲痛な楔を打ち付けた。
「シンジ君。死なないで」
号令の後にミサトが呟くが、その声が耳に入ったマヤは(偽善者!)と感じていた。
盲目的にミサトを敬愛していた日向マコトでさえ、モニターに映るシンジに傾倒していた。
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新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。
拙著は当該作品を元に作成した代物です。