Re:birth-福音再び-
〜第四話 鳴らない電話〜
日曜日。ミサトは部屋で観察日誌を眺めていた。 顔を合わすのは訓練の時だけなので、内容は諜報部からの報告書に訓練時の様子を書き加えた程度だった。
「いつまでもこんな内容じゃ、そのうち怒られちゃうわね……。どうにか出来ないもんかしら。 でも一緒に暮らしてるならまだしも、隣とはいえ別の家に住んでるんだからそうそうお邪魔できないし。困ったわ」
ミサトがどうしようか本気で悩んでいると、家のチャイムが鳴った。 こんな時間にここまでやってくる人物に心当たりがなかったので、少し警戒してミサトはドアを開けた。
「はぁい、どちら様……ってシンジ君じゃない。それにリツコまでどうしたの?」
ミサトは来たのがシンジたちと知って警戒を解いた。
「実は、この間僕とレイが一緒に住むことになったときにリツコさんが力を貸してくれたんですよ」
「それで、今晩はお礼にって夕食をご馳走してもらうことになったのよ」
「せっかくだから葛城一尉も一緒にどうかと思って呼びに来たの」
「ワオ、行く行く。シンジ君の料理一回食べてみたかったのよね」
ミサトは遠慮なくその話に飛びついた。頭の中には既に観察日誌の事はなく、シンジの料理でいっぱいになっていた。
「うわぁ〜、これがシンジ君たちの部屋?」
シンジたちが住む部屋に入ったミサトは思わず感嘆の声を上げてしまった。同じ間取りのはずがシンジたちの部屋が妙に広く感じたのだ。
「綺麗にしてるわね、誰かと違って」
「誰かって誰よ」
「さぁ、誰かしらね。誰も貴女だなんて言ってないわよ?」
「うぐっ……」
ミサトがムッとして聞き返すが、やぶ蛇だった。ミサトが口でリツコに勝てる日は……おそらく来ないだろう。 そんな二人を見てシンジは呆れた声を出す
「人の家に来てまで言い合いしないでくださいよ……」
「あら、ごめんなさいね」
「うっ、ごみ〜ん」
「適当に時間を潰しててください。これから作るんで少し時間がかかりますから」
そういってシンジはエプロンをつけてキッチンに戻っていく。リツコとミサトはリビングで待つことにした。
「それにしても、いい部屋よね」
「そうね、点数をつけるとしたら80点ってところね」
「そう? 私は100点だけど……。リツコの、残りの20点は?」
「これが自分の家じゃないってことよ」
リビングにあるソファに座ったミサトとリツコは大きく息を吐いて全身の力を抜いた。 思えばこんなに気を抜いたのはどれぐらいぶりだろうか、とリツコは心の中で一人ごちた。
少ししてレイが着替えを終えてリビングに姿を見せた。 スリムなジーンズとレースを使った白を基調にしたトップスが細身な彼女によく似合っている。
「あら、レイ。何処に行ってたの?」
「……私服に着替えていました」
「よく似合っているわね。自分で選んだの?」
「いえ、お店の人に選んでもらいました……」
褒められて頬を染めるレイ。面と向かってこういうことを言われるのはあまり慣れていない彼女の反応は初々しい。 シンジと暮らすようになった彼女は、以前に比べて驚くほど感情が豊かになっている。
数十分後、キッチンから肉の焼ける良い匂いと香辛料の独特な匂いが漂ってきた。 そのどちらもがなんとも食欲を誘う。
「お待たせしました。出来たのでこちらへどうぞ」
「ん〜、すっごく良い匂い!」
「本当ね。一体何をご馳走してくれるのかしら」
ミサトとリツコは匂いに期待を膨らませ、レイは期待と不安が綯交ぜになった表情で食事の並ぶテーブルについた。 テーブルには、ご飯と数種類のカレー、赤い色をした鶏の足や、三角錐の揚げ物、サラダなどが並んでいた。
「すご〜い、これ全部シンジ君が作ったの!?」
「これは驚いたわ……。これは、ひょっとしてタンドーリチキンかしら?」
「正解です。今日はインド料理に挑戦してみました。 実は初めて作ったんで美味しいかどうか不安ですが……」
食べたこともない料理を想像だけで作るというとんでもない冒険に出るシンジだった。 一応調べて香辛料の分量は把握していたが、初めて作る料理だ。それでも不安になる。 しかもそれを客に出すとは思い切ったことをする。
「初めてでここまで形になるなんて……。シンジ君将来は料理人になれるわね」
「ありがとうございます。チキンは昨日から香辛料たっぷりのヨーグルトにつけてあります。 揚げ物はインド風のコロッケのようなものでベジタブルサモサといいます。 サラダは、アルーチャットって読むのかな? ジャガイモを使ってますね。 最後に、カレーですが……。超激辛のカシミールカレーと辛口のコルマカレーを作ってみました。 三つ目のは避難用の甘口です」
「インド……、見るからに辛そうだわ」
「初めてで加減がわからないから凄いことになってるかもね……」
目を逸らしながらシンジポツリと呟いた。 3人とも聞き逃さなかったようだが、やがてミサトが香りに負けてタンドーリチキンに手を伸ばした。
シンジはニコニコとしながら、後の二人は様子を伺うようにミサトを見つめている。 もぐもぐと咀嚼しているミサトは、飲み込んでしばらくしてから叫んだ。
「辛ぁ〜〜〜い!! でも美味しい! これはいけるわ」
それを聞いたリツコも皿に取って口に運ぶ。レイは既に食べていた。 それを見て満足したたシンジも食べ始める。
料理は概ね好評だった。カシミールカレーが辛過ぎたこと以外は……。 カシミールカレーはシンジの中で永遠に封印されることになった。
ミサトとリツコが自分の家に帰った後、二人はリビングのソファで時間がゆっくりと過ぎていくのを楽しんでいた。
その後、ミサトが観察日誌の内容を充実させるような話をしていないことを思い出したのは翌日の朝だった。 まさに、後の祭りである。
***翌日***
シンジとレイがナツミの病院へお見舞いに行った翌週。 遅れてやってきたトウジは満面の笑みを浮かべていた。 実に機嫌よさげである。そのことにクラス中が驚愕の視線を送る。
「なんや、人の顔じろじろ見て。何かついとるんか?」
それでも笑顔。事情を知らないクラスメート達にとってそれは不気味なものであった。 そして、急に真顔になったトウジはシンジに近づいてくる。
「碇、ちょっと話がある……」
「えぇっと、鈴原……だよね。昼休みでいいかな? すぐに授業始まっちゃうし」
「あぁ、かまへん。そいじゃまた後でな」
そういって自分の席に座るトウジ。その顔は一転して何か思い悩むようなものになった。 トウジの奇行にクラス中が首を傾げていた。そのトウジにケンスケが近づいて声をかけた。
「よっ、トウジ。すごく嬉しそうだったけどどうかしたのか?」
「ん? おう、ケンスケか。まぁ、な。ええことがあったんは確かや……」
「えらく歯切れが悪いじゃないか、それでいいコトって?」
「おう、ナツミ……妹の怪我がようなったらしいんじゃ。それですぐにでも退院できる言うとったわ」
トウジは本当に嬉しそうな表情で話している。
「良かったじゃないか。でも、妹さんの怪我、結構酷いんじゃなかったのか?」
「……せやからな、ちょっとそれが気になっとんねん。わいかてそこまでアホとちゃう」
ケンスケの指摘にトウジはなんとも複雑な表情になる。
「でもさ、治ったんならそれで良いんじゃないか?」
「まぁ、そうなんやけどな。そやケンスケ、お前も昼休み付き合え」
「ん? まぁいいけど、何かあるのか?」
「せやから、それを聞きにいくんじゃ」
そして、昼休みの屋上に、シンジと向き合うようにしているトウジとケンスケの姿。 トウジはどう切り出していいものか迷っていた。 突然、妹を治したのはお前か、と言ってもとぼけられるとどうしようもないと考えたからだった。
「話って何かな」
「あぁ……。碇、この間妹がお前のせいで怪我したいうたやろ」
結局、色々考えても埒があかないので言うだけ言うことにした。
「昨日な、妹の見舞いに病院に行ったんや。そしたら、いきなし妹の怪我がようなってたんや。 何やあったんか聞いたら、ロボットのパイロットが見舞いに来たっちゅうたんや。 それでみょうちくりんなぬいぐるみもくれたってな」
「……」
トウジの話を聞いても何も言わないシンジ。 何の話なのかを見極めることにしたようだ。
「そいでな、怒られたわ。その前にパイロットを一発殴ったっちゅうことも言ってある。 そいで、ロボットがおらなんだら怪我どころじゃなかったてな、怒られてもうた」
トウジは沈んだ面持ちで続ける。
「ほんますまんかった! 頭冷やして考えたら妹のいうとおりや。 碇、俺を殴ってくれ! これでチャラにしよや」
「……(やっぱりそれなのか?)」
「こういう恥ずかしいヤツなんだよ、一思いに一発殴ってやってくれよ」
ケンスケはシンジが躊躇していると思い込んでそう言った。 シンジはそれに首を横に振る。
「……やっぱやめとくよ」
「なんでやっ!」
「代わりにさ、これからもよろしくってことでチャラにしようよ。 こっち来たばっかで話し相手もあんまりいないしさ」
トウジは、その言葉を聞いて笑顔を見せる。
「よっしゃ、碇がそういうんやったらしゃあないな。これからは俺のこと名前で呼んだってや!」
「解ったよトウジ。僕のこともシンジでいいよ」
「おう、よろしゅうな。シンジ」
「あ、俺のことも名前で呼んでくれよ。俺も名前で呼びたいからさ」
「よろしく、ケンスケ」
三馬鹿トリオが時を越えて再結成された感動の瞬間だった。
「せや、もう一つ聞いておきたいことがあってん」
「何?」
「ちょっと耳かしや――妹がな、怪我はお前に治してもらった言うねん。それもほんまなんか?」
「それは……」
ナツミの怪我を癒したことを指摘されてシンジは口篭った。しかし、それはトウジに指摘、追及される前に救いが訪れた。 ただし、内容は救いではなく破滅の使者の来訪を告げるものだった……。
「碇君、非常招集。……行きましょう」
「解った。それじゃあ二人とも、悪いけど僕は行かなきゃ。それについてはまた今度」
「おう、すまんな、変な話してもて」
「頑張ってくれよ!」
呼びに来たレイとともに走り出すシンジ。すぐに校舎から出てNERVの車に乗り込んだ。
「ほんまにあいつらがこの町を救ったんやな……」
「くぅ〜っ! 羨ましいぜ、ロボットのパイロットだなんて!」
二人が校舎を後にするのを見た後、それぞれの感想を口にした瞬間。 けたたましいサイレンの音があたりに響き渡った。
『――ただいま、東海地方を中心とした関東中部全域に特別非常事態宣言が出されました。速やかに指定のシェルターへ避難してください。 ……繰り返します。住民の皆さんは速やかに指定のシェルターへ避難してください――』
屋上でその放送を聞いた二人は急いで教室へ荷物をとりに戻った。
『目標を光学で補則! 領海内に侵入しました』
「総員、第一種戦闘用意!」
オペレーターの報告にミサトは高らかに宣言した。
『第三新東京市、戦闘形態へ移行します。兵装ビル、現在対空迎撃システム48%稼動中』
「シンジ君、準備はいい?」
『All right. いつでもいけます』
シンジはプラグスーツを着てエントリープラグの中で待機している。 既に起動してスタンバイ状態だ。
「それにしても、碇司令の留守中に使徒襲来か……。思ったよりも早かったわね」
「前は15年のブランク、今度は3週間ですからね」
「こっちの都合はお構い無しってことね。女性に嫌われるタイプだわ」
マコトの言葉に軽口で答えるミサト。そんなことを言っている間にも状況は刻一刻と変化している。 モニターの向こうでは町中やロープウェイなど至る所に取り付けられたミサイルが使徒に向けて発射されている 使徒はそれを意にも介していない様だ。
「税金の無駄遣いだな」
それを見ていた冬月はそうもらしていた。
「葛城一尉、委員会からエヴァンゲリオン出動要請が来ています!」
「言われなくても出撃させるわよ。全くうるさいんだから」
「ちっ、まただよ!」
「なにがや」
第334地下避難所。トウジやケンスケを含む第二中の面々は特別非常事態宣言を受けてこのシェルターに避難してきていた。 ケンスケはもっていたデジタルビデオカメラを見せながら続けた。
「見ろよ、ほら。また文字ばっかし、ぼくら民間人には何も見せてくれないんだ。こんなビッグイベントだってのに……」
「お前ほんまに好っきゃなあ、こう言うの」
「うう〜〜! 一度でいいから見てみたい。今度はいつ敵が来るかわかんないし」
トウジは手渡されたカメラの映像――といってもリアルタイムのテレビの映像、特別非常事態宣言が出されたことを映すそれを見ながら呆れた声を出す。 その隣で唸りながらケンスケが悶えていた。そして、ケンスケは何か思いついたような表情になって口を開いた。
「トウジ、内緒で外でようぜ」
「ハァ!? アホかい! 外出たら死ぬやないか!!」
「バカ、声が大きい」
ケンスケは自分の口に人差し指を当てる、通称しーっのポーズでトウジをなだめる。
「ここに居たってわかりゃしないさ」
「お前はほんまに自分の欲望に正直なやっちゃな。けど、ワイは行かんで」
「えぇ、何でだよ」
「ここで外に出たら、それで怪我でもしたら、妹に合わす顔ないわ。どうしても行くんなら一人で行きや、黙っといたるさかい」
「ちぇっ、解ったよ。……委員長、俺ちょっとトイレね」
「もう、先に済ましておきなさいよ……」
委員長のヒトミにそう告げてケンスケは出て行った。トウジはこの時、解ったの意味を取り違えていた……。
「いい、シンジ君。敵A.T.フィールドを中和しつつライフルの一斉射。訓練の時と同じように、大丈夫ね? それから、弾はそのマガジンに入っている分だけタングステン弾になってるわ。時間がなくてそれ以上は用意できなかったの」
『了解』
「エヴァ初号機、発進!」
号令とともに初号機が火花とともに射出されていく。
地上に出ると、すぐにシンジは行動を開始した。
「たぶん効かないんだろうけど……」
呟きながらも言われたとおりにパレットライフルを一斉射するシンジ。フィールドは中和済みなので弾丸はシャムシェルに直撃した。 しかし、表面に当たっても弾かれて他所に跳んだりするだけでシンジの予想通りだった。
『くあぁ……貫通力重視の弾丸を弾くなんてナンセンスだわっ!』
前史が劣化ウラン弾を使っても効果がなかったのだから貫通力で劣るタングステンでは効果がないことは判っていた。 それでも、使ってみないことには効果は実証はできないのだった。
初号機を敵とみなしたのか、シャムシェルは左右に突き出た器官から発光する鞭のようなものを作り出していた。 そして、それがくねったかと思うと一瞬の内に初号機のいた場所を薙ぎ払っていた。間一髪で回避に成功したものの、パレットライフルは真っ二つになり使い物にならなくなっていた。
『な、パレットライフルが真っ二つに!?』
『高速で動く鞭かしらね、何でできているのかしら……』
「他に武器はありませんか?」
『試作型のソニックグレイブ……の柄だけならあるわね』
「出せますか?」
『言っちゃ悪いけどただの頑丈な棒よ? まぁいいわ、すぐに出すわね』
何かに使えるかと念のため入れておいたものなのだが、実際に使うことになってリツコは少し複雑な表情になる。 初号機が後退する先にあるビルからそれが飛び出した。
「よし、これならもしかして」
シンジはキャッチした柄の握りを確かめるように何度か持ち替えて試している。 シャムシェルは初号機に向けて光鞭―リツコ曰く―を繰り出してくる。勘を頼りにそれを手にした柄で迎撃するが、当たったところから切り飛ばされてしまった。 バランスを崩してしまった初号機の足首をシャムシェルがもう片方の光鞭で掴み、引っ張り上げてそのまま投げ飛ばす。
「うわあああああああ!?」
『初号機、アンビリカルケーブル断線! 内部電源に切り替わりました!』
『なんてこと!?』
実に50メートルはあろうかというエヴァが宙を舞う姿は圧巻。その投げられた時にアンビリカルケーブルが断線、それでも勢いは衰えずそのまま山肌に叩きつけられた。
「ケンスケ、お前こんなところで何しとんねん!」
「トウジ、見てみろよ。あれに碇が乗ってるんだぜ」
ケンスケは探しに来たトウジに悪びれた様子も見せず戦っている初号機を指し示した。 そこでは、鬼のような顔をした紫色の巨人が光る鞭のようなものを振り回す異形の怪獣を相手に戦いを繰り広げていた。
「すごいよ、苦労してきた甲斐があった!」
興奮した様子で語るケンスケ。だがトウジは敵の異様な外見の気色悪さが先にたっていてそんなことに気が回らなかった。
「それより、ケンスケ! 巻き込まれんうちにとっとと戻るで!」
「何言ってるんだよ、こんなすごいもの二度と見られないかもしれないんだぜ?」
トウジはケンスケを連れ戻そうとするが、もはや目の前のことしか頭にない彼はそんなことお構いなしだ。
「あれ……」
そして、二人の視界の中は、コンマ秒刻みで、巨大な人の形をしたものが、迫ってきて……それでいっぱいになった。
『シンジ君、活動限界まで後4分40秒よ。早く倒さないとやばいわ』
山肌に叩きつけられた衝撃で息が詰まる。倒れた地面から起き上がろうとしたそのとき、指の隙間に蹲る人影が見えた。
「ケンスケとトウジ!? 何でここに!」
『シンジ君のクラスメート?』
『何故こんなところに!?』
真っ青になった二人の顔がエヴァの内部モニターと本部のスクリーンとに映し出される。それはシェルターに非難しているはずの民間人。 しかも、外に出ているだけでなく戦闘中のエヴァのすぐ近くにいるのだ。その事実にさすがのミサトとリツコも驚愕の声を上げる。
『……ッ! シンジ君、起きて!』
「くっ……!」
既にシャムシェルは目前に迫っていた。振り下ろされる光鞭をシンジは必死の形相で掴み取った。
『初号機、接触面に融解』
掴んでいる手が凄まじいスパークと共に焼け焦げる音がする。
「何ではよ逃げへんのや……」
「俺たちがいるから自由に動けないんだ……」
初号機のそばの二人は、目の前で起きていることの恐怖で涙を流しながら半ば呆然と会話していた。
『初号機、活動限界まであと3分50秒』
『シンジ君、何とか立ち上がって一次撤退よ』
「そんな事言われても……。(やっぱりこれしかないか)」
シンジは手元でエントリープラグの排出命令を出した。
『シンジ君!? 何をするつもり?』
「そこの二人、来い。早く乗れ!」
「……行こう、トウジ」
「クッ、結局邪魔してしもうた」
二人は言われるがままに背中から飛び出したエントリープラグに向かって走る。 慌てたのは指令所にいるミサトたちだ。
『ま、待ちなさい。許可のない一般人をエントリープラグに乗せられると思ってるの!?』
しかし、既にトウジたちはエントリープラグの中に飛び込んでいた。
「ぶわぁ、何やこれ水やないか!」
「うわあっカメラが……ガボゴボ」
「静かにしてくれ。できるだけ何も考えないで」
中に満たされているLCL、突然のことに取り乱している二人にシンジは声をかけて黙らせる。
『神経系統に異常発生!』
『異物を二つも挿入したからよ、神経パルスにノイズが混じってるんだわ!』
マヤの報告にリツコが説明を付け加える。不謹慎だが、これも一つのデータだ。
『バカッ、勝手になんてことすんのよ! ちゃんと私の指示を仰ぎなさい! 他にいくらでも方法があるでしょう!?』
「置いていくわけにも行かないでしょう、がぁ!!」
ミサトはシンジの行動を見て怒鳴りつけた。シンジも負けじと反論しながら光鞭を掴んだまま足に力を込めていく。 そして、手を離しながら思い切り蹴り出してシャムシェルを吹き飛ばした。
『今よ、後退して! 回収ルートは34番、山の東側へ後退するのよ』
「了解!」
そういいつつもシンジは脇に落ちているグレイブの柄を掴み、思い切りシャムシェルに投げつけた。
『な、なぁにやってんのよ!』
投げた槍は音の壁を突き破る音を上げつつシャムシェルを串刺しにして背後のビルに縫い付けた。
「このほうが逃げやすいでしょう(よし、上手く行った)」
『……ぱ、パターン青消失。目標沈黙しました』
『『はぁ!?』』
突然の、そして意外なシゲルの報告にミサトとリツコは異口同音に聞き返した。
『しょ、初号機の投げた柄がちょうど目標胸部のコアを貫通しています』
「なんだか、逃げる必要なくなったみたいですね」
『え、えぇ、そうね。とにかくお疲れ様。……予定通り34番ルートから戻ってちょうだい』
「あ……、時間切れです」
シンジがそういった瞬間、初号機は活動限界を向かえて地面に崩れ落ちた。それを見たリツコは一言、そう漏らした。
『無様ね……』
続くよ〜。