最終話
「選択した未来」

◆―――第三新東京市、葛城ミサトの場合



葛城ミサトが紅い視界から開放されると、そこには満天の太陽があった。

「・・・え!?」

さっきまでネルフ本部で指揮をとり、正体不明の物体が良く判らない事をやってエヴァシリーズを滅ぼした。

そこまでは覚えている、だがその後の自分の選択が繋がらない。

「・・・・・・夢?」

だがそれを夢とするなら、どこからが夢でどこまでが夢の終わりだと判断するのかミサトには判らなかった。

仕方なく辺りを見渡してみると、そこは廃墟のように変貌を遂げた第三新東京市だった。

戦略自衛隊の攻撃でビルが瓦解し、家が壊れ、山が抉られた無残な姿を晒していた。

やはりあの戦いは起こった事、そう納得して別の方向に視線を向けると紅い湖があった。

「・・・??」

第三新東京市の市街の真ん中、しかも真ん丸の紅い湖などいつ出来たのだろう?

透明度が高いので何となくそこを覗き込んでみると、そこにネルフ本部があった。

「・・・・・・へ?」

土も草も木も無い。だが変わりに見慣れたピラミッド型のネルフ本部と戦略自衛隊の壊れた戦車に胸部をくり貫かれたエヴァが沈んでいた。

人工物だけがそこに在り、天然の動植物は一つも無い。

手でその液体に触れてみると、懐かしいような知っているような不思議な感触を覚える。

次の瞬間、ミサトの頭の中に一つの言葉が浮かんできた。



『LCLの海』



「これ・・・人間?元は人の形をだった原初の海!?」

何故そんな事を知っているか不思議に思わない自分を不思議に思いながらミサトはジオフロントを眺めていた。

89%が埋まっていた地下の巨大空洞は完全な円形に戻ってそこに在り、中に”人”を満たしていた。

しばらくミサトはそれを眺めていた。



◆―――第壱中学、鈴原トウジの場合



目を開けると太陽光が目を焼いて、一瞬顔を歪めるがすぐに起き上がって自分の身体に手を当てる。

「何や・・・プラグスーツやないか」

着慣れた漆黒のプラグスーツを着ている自分。

自分の記憶が正しければ、何か紅いものを見たような記憶がある。それ以前は参号機のエントリープラグの中で第15使徒アラエルと戦っていた筈だった。

「わし・・・どうしてこないな所におるんやろ?」

そこはトウジが昼食の時に何度も利用した第壱中学の屋上。見間違え様のない風景がそこにある。

ここで寝っ転がっていても進展がないと考えたトウジは、手を地面において立ち上がろうとする。



グニャ



「ん?」

そこでようやくトウジは自分の横に誰かが寝かされている事に気が付いた。

上半身を起こして辺りを見渡していた為、どうも見逃してしまったらしい。

「・・・誰や?」

隣に倒れている人にゆっくりと視線を向けてトウジはそこで固まってしまう。

かなり長い間、会っていなかったが見間違える筈が無い。

思わず相手の胸に手を当てて、心臓の鼓動を確認すると。今度は自分の頬をおもいっきりつねる。

「あたたたた!!・・・いたい、じゃあ夢やないんやな」

確かな現実を確認してトウジは隣で寝ている人に声をかける。

「おい・・・起きんかい・・・起きんかい”ナツミ”!!」

それは鈴原トウジの妹、鈴原ナツミだった。

屋上の向こうで赤黒い球体が屋根を突き破り体育館を破壊していた。



◆―――第三新東京市、日向マコトの場合



目を覚ますと隣に戦車があった。

「うわあ!!」

思わず飛びのいてしまったが、戦車は動く気配を見せずにただそこにいる。

銃撃戦を展開していたマコトは目の前の戦車が砲撃してくるのではないかと危機感を募っていたが、10秒経っても20秒経っても何も起こらないので、操縦席に這い上がり中を確認する。

「・・・誰かいますか?」

誰もいない。

どうやら完全にもぬけの空だった。とりあえず安心して戦車から地面に飛び降りる。

マコトが周りを見てみると、ここは第三新東京市のビルの一つに見えた。

窓ガラスが粉砕され、見る影も無いが兵装はマコトの管轄だったので覚えがある。

「何があったんだ?」

気が付けばここにいる自分。

訳も判らず辺りを見渡してみると、遠くに見慣れた赤いジャケットを羽織った人影が見付かった。

「葛城さん!?葛城さーーん!!」

呼びながら人影に向かって走っていく。

この数十秒後、マコトはジオフロントをその目で見る。



◆―――コンフォート17、惣流・アスカ・ラングレーの場合



紅い

赤い

あかい

アカイ



「いやあああああああ!!!!」

自分の悲鳴を自分の耳で聞きながら、アスカは絶叫をあげ続けた。

人が死ぬ。

母が死ぬ。

加地が死ぬ。

皆死ぬ。

死の恐怖が自分に襲い掛かるのを自覚しながら、冷静な部分がここがどこか告げていた。

ミサトの家、自称保護者で偽善者の家、ただ眠る場所。

「え・・・う・・・」

気が付けば涙を流す自分を止められなかった。

何もかもから逃げたかった筈なのに、それでも自分がなくなるのが恐ろしかった。

自分は中途半端だ、偉くも世界一でも何でもない。

それが判ってしまい、またアスカは泣きつづける。

「どうしたの?アスカちゃん?」

声が後からするとおもったら、後から抱き締められていた。

偽善者!!

自分の中で声がする。

保護者なんて思わない。

加地を奪った事が許せない。

許してなどやるものか。

アスカは後から抱き締めてくるミサトを跳ね除けようと力を込めるが、しばらく動かしていなかった筋肉に力がこもらない。

「大丈夫よアスカちゃん」

「う・・・うるさ、いわね!!あっち、行って、よ!!」

泣き声でしっかりとした口調にならない。

ミサトに罵声を浴びせられない自分を悔しく思いながら、また力を込めようとするがやはり入らない。

口だけ、まさに今の自分はそれだけだ。

「アタシ、の事なんて。どうで、もいいんでしょ!!」

「そんな事無いわ」

頭がおかしくなりそうだった。

何故こんなにミサトは優しいのだ?

偽善者が何故こんなにも温かい?

何故こんなにもこの声を聴くと自分が落ち着く!?

「アスカちゃんが哀しいと、”ママ”も哀しいわ」

「・・・・・・え?」

思わずぎこちない動きでアスカは後ろを振り向く。



ゴンッ!



「「いったーー」」

近距離にいた、お互いの額がぶつかり合い鈍い音を立てる。

「あいたたた」

左手を額に当てながら、アスカは自分を抱き締めていた人物に目を向ける。

「痛いわ、アスカちゃん」

「・・・・・・」

「あら、どうしたの?鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして?」

いつもなら、そんなことわざ知らないわよ!と反論するが目の前の人物を視界に入れた瞬間言葉が全て吹き飛んだ。

辛うじて空けたままの口から掠れた声を引きずり出す。

「・・・・・・ママ!?」

「今更何言ってるの?それにしてもしばらく見ない間に大きくなったわね」

首を吊った事など無かったかのようにアスカの母、惣流・キョウコ・ツェペリンはぶつけたアスカの頭を撫でる。

アスカの記憶の中にある母の姿そのままで。

「何だか記憶が曖昧で、何がどうなってるのかしら」

「本当に・・・本当にママなの!?」

「もう、いつからそんなに疑り深い子になっちゃったの?アスカちゃん」

例え見た目が14歳に成長した姿であろうとも、母の中ではアスカは今だに幼子だった。

撫でながら、またキョウコはアスカの身体を抱き締める。

「安心して、ママはここにいるわ」

「ママ・・・ママ・・・ママぁ・・・」

さっきまでの泣き声とは別種の泣き声がコンフォート17に木霊する。

近くの道路に赤黒い球体がひび割れて置いてあった。



◆―――共同墓地



碇ゲンドウが気が付くとセカンドインパクトで犠牲になった共同墓地の前に立っていた。

「レイ・・・はっ!!」

後にはターミナルドグマでの配置そのままに冬月が立っている。

「こ、ここは・・・碇、何が起こったんだ?」

冬月の疑問に当然ながらゲンドウは答えられない。ゲンドウ自身も何が起こったのか判らなかった。

強烈な紅さが自分の中に入ってきたと思ったら、ここにいる。

さっきまでリリスと同化したレイを、呆然と見上げていた筈。

何が起こったのか、それが一番知りたい事実だがよく判らない。

「判りませんよ冬月先生」

「むう、何がどうなったのだ?」

辺りを見渡すと、自分達以外に人影は無いように思えた。

だが上を見上げたときに、その考えは吹き飛ぶ。

「い、碇!!」

まず先に気がついたのは冬月だった。真上から一直線に自分達めがけて落ちてくる紅い球体。

「上だ!避けろ!!!」

「上?・・・ぬお!?」

言い終わる前に冬月はゲンドウを突き飛ばしながら前方にジャンプしていた。

初老とは思えない俊敏な動きで、ゲンドウごと紅い球体を避ける。



ドゴンッ!!



そこにあった『YUI IKARI』の墓を踏み潰して球体は着弾する。

辺りに砂埃が吹き荒れて、二人のスーツに絡み付いていく。

突然の危険にしばらく二人は呆然としていたが、砂埃が晴れて紅い球体の正体に気がつく。

「これは・・・エヴァのコアではないか?」

冬月はまだ紅く光り輝くそれを見ながら、言うが。ゲンドウはまだショックが抜け切ってないのか返答は無い。

「・・・何故、これが私たちの所に?」

冬月がそう言うと、まるで返事をするようにコアに突然ヒビが入る。



ピシ

ピキッ

ピシ



紅い光がどんどん小さくなり、人と同じぐらいの大きさまで縮むとそこで光の減少は一時止まる。

光が生きているようにコアの中からゲンドウ達の方に向かって進んできて、コアの外殻部まで移動するとそこから手が生えた。

右手が生え。

左手が生え。

右足が生え。

腰が生え。

胴体が生え。

頭が生え。

残った左足がコアの中から抜かれる。

光り輝く人影は、少しずつその光を弱まらせていき。遂にはそれが誰なのか判断できる所まで収まっていく。

ゲンドウと冬月は目の前の光景を一秒とも目を背けずに見入っていた。

最初は興味からだったが、人影の輪郭がハッキリしていくとそれは驚愕へと変わる。

光が収まってそこにいた人物。

「ユ、ユイ!」

「ユイ君!!」

10年前、エヴァ初号機に飲み込まれた姿そのままで碇ユイがそこにいた。

光が全て収まると、ユイはゆっくりと地面に倒れていく。

「ユ、ユユユ。ユイ!!」

「しっかりするんだユイ君!!」

慌てふためきながらも、二人は急いでユイを介抱する。

碇ユイがコアの中から出てきて数十秒後、ゆっくりと目が開く。

「・・・・・・あなた・・・冬月先生」

ゲンドウ、そして冬月が求めてやまなかった確かな存在がそこにある。

嬉しさのあまり、ゲンドウは普段の威圧的な態度を忘れ涙を流す。

「ユイ・・・本当にユイなんだな!!」

夫婦の感動の対面。そうなると信じていたゲンドウは、ユイの次の言葉でしばし固まる。



「紅い・・・世界・・・ゲンドウさん。シンジは・・・あの子はどうしたんですか?」



ユイの後ろで光を失ったコアは呆気に取られるゲンドウと冬月を見守っていた。



◆―――世界



2016年3月18日。

後に『約束の日』と語られるこの日、サードインパクトが発生した。

この日、いなくなった人間は十数億。

キール・ローレンツ、赤木リツコ、伊吹マヤ、青葉シゲル、相田ケンスケの名がその中に列挙される。

15年前のセカンドインパクトとあわせると、人類全体の三分の二が消えた。

残された人々は原因究明に乗り出そうとしたが、それを考えた所で思考が止まる。

『知っている』

まるで頭の中に情報だけが残っている。不思議な感覚に首を傾げたが、皆、口をそろえてこう言った。



「生まれた場所に還って行った」



人類最強の兵器エヴァは初号機からエヴァシリーズまで全て、内燃機関となるS2機関全てが抜かれた状態で元ジオフロントの中で発見された。

LCLの中に浮かぶその姿は、死体にも見える異様さをかもし出していたが、とりあえず実害はないと判断される。



ゼーレが推し進めていた人類補完計画。

功労者、葛城ミサトの手によって免れたと思い込んでいる人々は、いなくなった人々の悲しみを代弁するように行動を開始する。

だが主犯格であるゼーレの要人達が揃って消えてしまったため、人々の関心は『碇ゲンドウ』と『冬月コウゾウ』の二人に向けられる。

だが消えた人数と責任者の数があまりにも違いすぎたので、日本政府はネルフから取り上げた指揮権で生涯飼い殺しで命令に従う事を条件に、ほとんど無実扱いで二人を釈放した。

松代の第二発令所やアメリカ、ドイツ支部こそ残ってはいるが。実質ネルフは壊滅したに等しいので人々は何とか納得する。

『後を振り向くより、前を向いて今をどうにかしましょう』と言う、第二新東京市の首相の言葉で自分たちを慰めたのも納得する原因の一つだと思われた。

ネルフの消滅。

ゼーレの消失。

消えた人類。

あまりにも人的被害は甚大だが、世界はそれでも平和だった。

対使徒戦の割を食っていた第三新東京市を除く、他の地域では人がいなくなった以外に変化は無い。

世界は今日も変わらず動いている。



◆―――南極、球形巨大空洞直上



紅い海から突き出ている数百本の塩の柱の内、一本の頂上に二つの人影があった。

少年少女、男女一組が学生服姿で座っており。

背中を合わせて、下に置いた手を組んでいた。



『カヲル君が・・・言ったんだ、「君たちには未来が必要だ」って・・・』



『だから人の世界を壊さなかったのね』



『うん・・・生まれた場所に還りたい人は還ればいい。そうでない人だってきっといる、あの時、僕はそう思ったんだ。僕の身勝手さで人の形を失わせてしまったから・・・』



『人が嫌いなのね』



『でも好きなんだ、それは変わらない気持ちだと思う』



『優しいのね』



『そんな事無いよ、好きって気持ちの下に壊したいぐらい憎い気持ちだってある』



『私もよ』





『会いたくて殺したくて愛しくて苛ついて見守りたくて悲しいんだ』



『どうして?』



『判ろうとしないから・・・かな?トウジは正義の味方みたいにやってるつもりでネルフとエヴァの見えない側面を知ろうともしなかった。アスカは周りからどれだけ認められてるか判ろうとしないで自分の殻に閉じこもってた、自分が手に入れたがってたものはすぐ隣に合ったのに』



『その言葉、”前”の私が言ったことね』



『ミサトさんと加持さんは自分の為に周り全てを犠牲にして、リツコさんは周りを見ながら無視した。結局、皆同じなんだ。皆未来を手に入れる為に何かを犠牲にした』



『でもそれは人が生きる為には必要なこと』



『うん、でも知らないのと知ろうとするのと知るのとでは似てるけど全然違うんだ。今のトウジとアスカが判りやすいよ、あの二人は知ろうともしないで与えられた幸福、自分で手に入れた訳でもない偽りの自由を削ることしか出来ないんだ』



『自分がどれだけ恵まれているか、自分がどんな思いを踏みにじってここにいるか、知ろうとしないのね』



『幸せだからね、捨てた不幸を掘り起こしたくないんだよ』



『碇君のお陰なのに、考えもしない』



『そうだね、きっと皆馬鹿なんだよ。無くなったと思っていた幸せが戻ってきてそれが永遠だって信じてる』



『・・・教えなくていいの?』



『それも”未来”なんだ、カヲル君が人に与えたかった・・・ね』



碇シンジと綾波レイは、背中をつけて座って塩の柱の上で話し込んでいた。

シンジは漆黒の衣装から学生服姿に戻っており、レイもリリスの巨体から人間サイズまで縮んで学生服にその身を包んでいる。



『綾波・・・ずっと一緒だったんだね』



『今の私は碇君が知るどの”綾波レイ”とも違う、でも碇君と一緒にいた、これからもずっと』



『・・・ありがとう』



『問題ないわ』



『ううん、でも言う。ありがとう・・・ありがとう綾波』



『・・・今は前の世界で私はリリスで在って良かったと思えるの』



『どうして?』



『碇君に拒絶されたのは怖かった、でも碇君と共にあるにはアダムかリリスでしか出来なかったから・・・』



『僕はもう何でもないよ、アダムでもリリスでもリリンですらない』



『判ってるわ、碇君はただの碇君。私が碇君を思う限り碇君の形は崩れない』



『僕が綾波を思うのと同じように?』



『そうよ。私達は今、自分で自分の形を保っているのと同時にお互いで支え合ってるの。私が碇君の形を、碇君が私の形を創っている』



『死が二人を別つまで・・・か、何だか結婚したみたいだね』



『な、何を言うのよ』



『照れてるね、昔は判らなかった・・・でも今は判る、アダムが・・・カヲル君が混じったからかな?』



『・・・碇君の素直な心よ、気持ちいいわ』



『ふふ・・・・・・こんなに穏やかな気持ちは凄く久しぶりだな』



言葉がそこで途切れたが、今はお互いがいればそれ以上は必要なかった。

どれだけ時間が経ったか判らない。

一日か一週間か一ヶ月か、それとも一分か。

レイが口を開く。



『これから・・・どうするの?』



『可能性という未来は今の人達に渡したから僕はもう関わりたくないんだ』



『・・・そうね、碇君は優しすぎるから。きっとあの人達の悪意に耐えられない』



『そうだね。だから未来だけ託して僕は消えようと思ってるんだ』



『地球にいる限り、人の世界から逃れる事は出来ないわ』



『知恵の実・・・か。どんなに遠くに逃げても人は求め続ける』



『私達が使徒だから?』



『違うよ、僕たちがこの世界を救えると思い込んでいるからだよ』



『思い込む?』



『使徒のエネルギー源、S2機関。南極をこんな姿にしてもその力は単純なエネルギー源としては捨てられない宝物』



『エヴァシリーズのS2機関は全て碇君が使ってなくなってしまった』



『他のエヴァも中にいた人を出したから、もう起動しない。新しく作るにも材料と機材は合っても時間がかかる』



『もう、S2機関は作れない?』



『作れはする、でも時間がかかるから僕等のS2機関を狙う、判りやすいでしょ?』



『それが人、人の運命なのね』



『だからここじゃないどこかに行こうと思うんだ、綾波も一緒だから新婚旅行だね』



『な、何を言うのよ』



『別にS2機関ぐらい、今の僕と綾波なら楽に作り出せるけどさ。その次は?その次は?強すぎる力は軋轢しか生まないんだ。最後には恐怖で僕らを殺そうとするよ』



『人は闇を恐れ、光を作り出す事で恐怖を退けた』



『そして異質を排斥し、自分達だけの世界を作り出した』



『私達はいてはいけない存在なのね・・・』



『カヲル君の願いでもあるんだ、人の未来は人が自分達で作り出さなきゃ』



『どこに行くの?』



『この宇宙の外・・・綾波となら地獄でも天国になるよ』



『生きているから』



『そうだね』



『・・・・・・・・・・・・』



『・・・・・・・・・・・・』



◆―――南極



使徒は全て殲滅された。

だが南極で発生しつづける正体不明のエネルギーに、国連はすぐさま調査チームを結成する。

白羽の矢が立ったのは、”元”ネルフと情報封鎖が原因でサード・インパクトを誘発してしまった戦略自衛隊の合同チームだった。

表向きは『度重なる戦闘により経験が豊富な為、危険があった場合対処が可能』となっているが、誰もそれを信じてはいない。

有体に言えば『危険そうだからお前ら行って来い、世界情勢の変化の原因を忘れたとは言わさんぞ』と、矢面に立たせて様子を見させるだけだった。

文句はあっても、だれもそれに反論はしない。

総責任者は”英雄”葛城ミサト、彼女は自分から志願した。

サブに日向マコトを従えて、その下に碇ゲンドウ、碇ユイ、冬月コウゾウの名が連なる。





「有視界に反応なし、本当にここなんですか葛城さん?」

「あちらさんも私達の失策を狙っての事じゃない?全く、英雄をだしに使うとはいい度胸ね」

十数隻から成り立つ、調査チーム。先頭の護衛艦の中でマコトはミサトと話し合っていた。

その後では、ユイが国連から送られて来た情報に目を通しながら冬月と話し込んでいる。

「突然のサルベージ、理解に苦しむ事ばっかりだわ」

「セカンドチルドレン、フォースチルドレンは親族と共に新しい生活に戻ってますから、判らなくてもいい事もあるんじゃないですか?」

「そうね。父が死んだ場所だから、ちょっと気が立っているのかもしれないわ」

「あ・・・・・・、その。すいません」

「気にしないで日向君、もう吹っ切れてるから」

ミサトがマコトに笑いかけた所で、護衛艦のセンサーに突然反応が現れる。

「正体不明の高エネルギー反応!!あの時、ジオフロント直上に現れたものと同質です」

「いよいよね・・・方角は?」

「左舷11時、距離2000!?何でこんな接近するまで反応しなかったんだ!?」

マコトの計器を読み上げる声に苛立ちが入る。

「針路変更、左舷11時」

「了解!・・・え!?相対距離1800、1400、1000、速い!!目標、急速接近中!!」

「ちっ!対砲撃戦用意!」

突然向かってくる正体不明の物体に、ミサトは即座に攻撃に移ろうとするが後からやんわりとした声がそれを阻む。

「ちょっと待って葛城さん。判り合えるかもしれないのよ?いきなり攻撃は愚策だわ」

「何よ五月蝿いわね!アンタは私の命令系統に組み込まれてるんだから邪魔しないで」

ユイの忠告をミサトはあっさりと跳ね除けて、正面を睨みつける。

その方角から光の球体が二つ、人の視力でも見えるほど急速に接近していた。

「700、500、250」

「全砲門一斉掃射!!」



ドゴンッ!

ドゴンッ!

ドゴンッ!

ドゴンッ!



静かな南極の海に弾幕と砲弾が吹き荒れる。

光の球体は着弾より早く、ミサトのいる護衛艦に衝突しミサトの前方でミサイル同士が衝突した爆風が生まれる。

「そ、総員対ショック姿勢!衝撃に備えてぇ!!」




































































『全てにさようなら』

『永遠にさよなら』











































「え?」

「高エネルギー反応・・・消失しました」



◆―――・・・・・・



世界を滅ぼした人間がいた。

時間の壁を超えた人間がいた。

人を愛した人間がいた。

人を憎んだ人間がいた。

人を救おうと思った人間がいた。

傷つけられた人間がいた。

人を嫌いになりきれない人間がいた。

親友を殺した人間がいた。

人間ではなくなった人間がいた。

それはたった一人の少年。

だが誰もその少年のことを知らない。

憶測は出来ても、”知る”者は誰一人としていなかった。



『急に消えた碇君は十数億の人間を殺した殺人鬼にさせられるわ』



『どうでもいいよ・・・人は好きだけど嫌い。多分、希望は持っても期待はしてないんだ』



『真実を教えれば、碇君は英雄にだってなれたわ』



『英雄になんてなりたくない、僕は綾波にとって特別であればそれでいいんだ。今だから良く判る』



『私も碇君にとって特別であればいい』



『あの世界は滅ぶかな?』



『それも人の未来だわ、もう私達が考える事じゃない』



『そうだね・・・どこに行こうか?』



『碇君がいる所・・・』



『綾波と一緒なら・・・』



漆黒しかない移動用のディラックの海の中でシンジはレイと抱き合いながら新しい出口を作り出した。

多次元構造を貫いて、宇宙の存在そのものを超える時空の穴。

この宇宙では無い、全く別の宇宙。

前はシンジが望んだ過去へ移動することが出来た。

だが今回は指針を決めていない、どこにでるかは見当もつかない。

しかしどこであろうと、手の中に感じるレイの感触があればどうでも良かった。

例え地獄でもそこは天国へと変わる。

自分たちがいた世界の行く末などどうでもいい。



『綾波、繋がった僕が考えた未来の可能性・・・・・・カヲル君が求めた”未来”の行き着く先。聞いてくれる?』



『構わないわ』



『未来は不確か、でも確率が高いのが一つだけあるんだ』



『碇君が考える未来ね』



『多分、この先の未来でもある。可能性だけど、そうなるよきっと。南極で最後に関わって予想が確信に変わったんだ』



『それで?』



『うん・・・・・・・・・・・・』



『碇君?』





































































『葛城ミサトがS2機関で地球を滅ぼすんだ』



『そう。どうでもいいわ』



『そうだね、人はどんな体験をしても結局終わりに向かって歩いてる。遅いか早いかの違いだけかもしれない』



それは不確かな未来。

ありえる未来。

だが起こさない事も出来る未来。

それは人の業が辿り着く執着。

人の世界は方法と経緯を変えただけで最終的にはどこかで終わる。